DRAW:２３２ 失われし力、星霜を重ね　作：人喰い

(232)





───声が、聞こえた。

誰かが私を呼ぶ声。

鈴華？

斬波くん？

古宮くん？

ヒュペリオン？

和泉？

それとも───



別に良いや。誰でも。

人が気持ちよく寝てるって言うのに、叩いたり叫んだり。
文句のひとつでも言ってやらなきゃ、気が済まないわ。


起きなきゃ───あれ？

身体が、勝手に動く。

違う。そっちじゃ、ない。

そっちは出口じゃない。

身体が───黒く染まる。


違う！！そっちじゃ、ない！！








＊　＊　＊　





《神星樹内部》
『王冠の間』〜『美の間』




結維「───」


仰向けで眠っていた結維の身体が僅かに動いた。


星奈「…おき……た…？」

傍には星奈が、大粒の涙を流し目を丸くしていた。
ほどなくして、

結維「───ぁ」

声と共に結維の左腕が上がる。

決闘盤と一体化した───醜く、異形な、左腕が。

星奈「───？」

そしてその手は、

鈴華「…っ…？」

傍でしゃがみ込む星奈の首元に狙いを定め───

鈴華「───ッ！！待って！！！」

数メートル先で見守っていた鈴華は異変に気付き、叫ぶ。

───直後。

鈴華「……っ…！！！」


鮮血が飛び散った。


星奈「───ぇ」

星奈は目の前の光景を目の当たりにし、喉を振るわす。
星奈の首元を狙い伸ばされた左手は、その間に割って入った1人の男の胸に突き刺さっていたのだ。
その男は結維の左腕を掴むと、ゆっくりと自分の身体から引き抜いてゆく───


「…よせ───ユイ…ッ…！」


声の主は、実体化した結維の精霊───『マスター・ヒュペリオン』。

ヒュペリオン「…ユイ！！しっかりしろ！！お前は魅せてやらねばならない！！この幼き少女に！！！お前のデュエルを！！」

結維「───」

ヒュペリオン「スズカとの約束はどうなる！！お前がここで倒れたら……イズミを助けることもできないのだぞ！！！」

結維「───」

結維は確かに目を覚ました。しかし一言も喋らない。
その虚な瞳はただただ虚空を見つめていた。

瑞希「…無駄だよ。常人が体内に精霊を宿せる数はせいぜい2〜3体まで。
その許容量の100倍は超える精霊を無理矢理押し込まれたいずみんと意識を共有してるんだ。もう今までの彼女には戻れない」

ヒュペリオン「貴様ァァ…！！！」

結維「───」

結維は依然として一言も喋らない。
しかし───

結維「───っ」

結維の目が力強く見開かれる。

ヒュペリオン「……！？」

刹那。




結維「わたしのターン」





一言。


結維「ドロー」



二言目には、右手の人差し指と中指が既にデッキの上にかけられていた。



瑞希「……っ…！？」

瑞希も含むその場の全員が、その光景に驚きを隠せない。

瑞希「───闘争本能…」

瑞希は小さく呟き、目を細める。

瑞希「…あの子は今……本能だけで身体を動かしている───」





◉TURN:０６◉

ターンプレイヤー:結維

◉スタンバイフェイズ◉



【決闘ルール】
２対１
新マスタールール(2017.3.25〜2020.3.31適用)＊EXデッキから特殊召喚する際はEXモンスターゾーン及びリンクモンスターのリンク先に特殊召喚しなければならない。

【ライフポイント】
結維＆鈴華:共有8000
星奈:8000

【フィールド・墓地・除外】
共有

【ターン進行】
星奈→結維→星奈→鈴華→星奈→…



結維＆鈴華【LP 2600】
(モンスター)
『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』[ATK 2500]
(魔法)(罠)
なし
伏せ:0
手札:(結維:4(鈴華:3
墓地:ライトパルサー、ダークフレア、カオスウィッチ、ガイザー、カオスミラージュ、ジルドラス、ノーレラス、アークブレイブ、カオスデーモン、カオスルーラー、リンゴブルム、ドロドロゴン、混沌空間、混沌変幻
除外:ワナビー！、コラプ、ワイバー、混沌領域


星奈【LP 6200】
(モンスター)
『セイクリッド・プレアデス』[ATK 2500](X素材:2)
(魔法)(罠)
『星守の騎士団』(永続)
『セイクリッドの星痕』(永続)
伏せ:3
手札:2
墓地:カドケウス、デネブ、アルタイル、リュラ、シリウス、シャム、デルタテロス、トライヴェール、天架け、ティンクル、
除外:トレミス、アルテア、アルタイル、デネブx2、シェラタン


鈴華「…デュエルを…再開するつもりなの…！？」

鈴華は思わず問いかける。

鈴華「お願い結維さん目を覚まして…！！あなたのデュエルは───」

結維「───私は」

が、声は届かない。結維は引いたカードを確認する間も無く手札の1枚のカードに指をかけた。


結維「───『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』の効果を発動」


(1)：１ターンに１度、手札から光属性モンスター１体を墓地へ送り、
自分の墓地のレベル５以上の闇属性モンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはＳ素材にできない。


結維「手札の『命の代行者 ネプチューン』を捨て、墓地の『邪竜星ーガイザー』を───」

復活───といったところで、女神の白杖をどこからともなく現れた鎖が縛り付ける。

鈴華「…！」

見ると、結維の側でしゃがみ込んでいた星奈は対面の定位置に戻っており、伏せカードをオープンさせていた。

星奈「とらっぷかーど───『デモンズチェーン』」

永続罠
フィールドの効果モンスター１体を対象としてこのカードを発動できる。
(1)：このカードが魔法＆罠ゾーンに存在する限り、
その表側表示モンスターは攻撃できず、効果は無効化される。
そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。


星奈「…おねーさん。まだ寝ぼけてるみたい。
───あたしが目を覚ましてあげる」

結維「───」

混沌の女神の効果無効も束の間、結維はすかさず次の手を打って出る。
───本能の導くままに。

結維「墓地のネプチューンをゲームから除外───」

墓地の代行者を除外した。
それはつまり、結維のエースモンスターである太陽神を呼び出すという事だとこの場の誰もが察した。しかし───


鈴華「なに……あれ…っ…？」

鈴華は驚きの声を上げる。
結維の掲げたカードからは、いつか感じた温かな光とは正反対の───ドス黒い邪気が溢れ出ていた。

ヒュペリオン「───ッ」

それだけじゃない。

ヒュペリオン「…が…ッふ…ァ…ッッ…！？」

実体化した結維の精霊───ヒュペリオンが先程結維から受けた傷を抑えうめき声を上げた。

ヒュペリオン「がああああぁあああぁああぁぁああああッッ！！！」

やがて悲痛の叫びを上げたかと思うと、ヒュペリオンの身体は黒く染まっていき、結維の掲げるカードの中に吸い込まれてゆく───



結維「───出番よ。
『マジェスティ・ヒュペリオン』───」



一瞬、暗転。

晴れると、結維の後方には、黒い太陽。
そしてそれを背に悠々と構える、黒き太陽神の姿があった。

『マジェスティ・ヒュペリオン』[ATK 2100]☆8


瑞希「───わお…♪」

鈴華「黒い……ヒュペリオン……！？
あんなカード、見たことありませんわ……！」

星奈「…それが、おねーさんの、精霊……っ！」

結維「───除外されたネプチューンの効果」


《命
いのち
の代行者
だいこうしゃ
ネプチューン/The Agent of Life - Neptune》 †
効果モンスター
星１/光属性/天使族/攻 0/守 600
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：このカードを手札から捨てて発動できる。
自分の手札・墓地から「命の代行者 ネプチューン」以外の「代行者」モンスター１体を選んで特殊召喚する。
フィールドまたは墓地に「天空の聖域」が存在する場合、
特殊召喚するモンスターを「ヒュペリオン」モンスター１体にできる。
相手ターン終了時まで、お互いにこの効果で特殊召喚したモンスターをリリースできない。
(2)：このカードが除外された場合に発動できる。
デッキから「天空の聖域」１枚を手札に加える。


結維「『天空の聖域』を手札に加え───発動」

《天空
てんくう
の聖域
せいいき
/The Sanctuary in the Sky》 †
フィールド魔法
(1)：このカードがフィールドゾーンに存在する限り、
天使族モンスターの戦闘で発生するそのコントローラーへの戦闘ダメージは０になる。


結維「───『死の代行者 ウラヌス』を特殊召喚」[ATK 2200]☆5


《死
し
の代行者
だいこうしゃ
ウラヌス/The Agent of Entropy - Uranus》 †
チューナー・効果モンスター
星５/闇属性/天使族/攻2200/守1200
(1)：フィールドに「天空の聖域」が存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
(2)：１ターンに１度、自分メインフェイズに発動できる。
デッキから「代行者」モンスター１体を墓地へ送る。
このカードのレベルは、そのモンスターのレベルと同じになる。


結維「効果発動───デッキから『神秘の代行者 アース』を墓地へ送り、自身のレベルを2に───…」

『死の代行者 ウラヌス』☆5→☆2

結維「更に魔法カード発動───『天空の歌声』」

《天空
てんくう
の歌声
うたごえ
/The Chorus in the Sky》 †
通常魔法
このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
(1)：１０００ＬＰを払い、自分の墓地の天使族モンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加える。
その後、フィールドまたは墓地に「天空の聖域」が存在する場合、
除外されている自分のカードの中から、
「天空の聖域」またはそのカード名が記されたカード１枚を選んで手札に加える事ができる。


結維「私はライフを1000払い、【LP 2600→1600】墓地のアースと除外されているネプチューンを───」

星奈「───待って！」

流れるような展開にここで星奈が待ったをかける。

星奈「カウンター罠はつどぉ！！『神聖なる因子』っ！！

《神星
しんせい
なる因子
いんし
/Stellarnova Alpha》 †
カウンター罠
(1)：モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、
自分フィールドの表側表示の「テラナイト」モンスター１体を墓地へ送って発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
その後、自分はデッキから１枚ドローする。

星奈「場のウヌクを墓地へ送って、その効果を無効にするよっ！！」

結維「───」

鈴華「…！まだそんな強力なカウンター札を持っていたなんて…！」

星奈「それだけじゃないよ！
更にあたしは1枚ドロー！」[手札 3]

鈴華「…！結維さん…！」

心配げに結維を見やるが、依然として結維の瞳は虚空を見つめたまま、ただカードを切り続ける。
目の前の敵を破壊するために。

結維「───マジェスティ…ヒュペリオンの効果、発動……ッ…」


《マジェスティ・ヒュペリオン/Majesty Hyperion》 †
効果モンスター
星８/闇属性/天使族/攻2100/守2700
このカード名の(1)の方法による特殊召喚は１ターンに１度しかできない。
(1)：このカードは自分の手札・フィールド・墓地の「代行者」モンスター１体を除外し、手札・墓地から特殊召喚できる。
(2)：自分の天使族モンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは相手も受ける。
(3)：１ターンに１度、自分の手札・墓地から天使族モンスター１体を除外し、
自分または相手の墓地のカード１枚を対象として発動できる。
そのカードを除外する。
フィールドまたは墓地に「天空の聖域」が存在する場合、この効果は１ターンに２度まで使用できる。


結維「墓地のアースを除外して……相手の墓地から、『星因士 シャム』を除外する───」

ヒュペリオンが左手をかざすと、超能力の様な力で星奈の墓地からシャムが引き摺り出される。
残りライフが少ないこの状況で、脅威となる存在だと本能で感じ取ったのだろう。しかし制裁が下されようとした、その時───

星奈「忘れてないよねっ！あたしにはまだこのカードがあるってこと！
この瞬間っ！！『ダブル・フッキング』はつどぉ！」


《ダブル・フッキング》 †
永続罠
このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
(1)：手札を１枚捨て、自分の墓地のモンスターを２体まで対象としてこのカードを発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
対象のモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。
このカードがフィールドから離れた時に対象のモンスターは破壊される。


星奈「手札のシェラタンを捨てて、アルタイルとシャムを復活させるよっ！！」

すんでのところで釣り針にかかった星因子たちが星奈の場に舞い戻る。

『星因士 シャム』[DEF 1800]☆4

『星因士 アルタイル』[DEF 1300]☆4

それだけではない。星因子たちはそれぞれ、特殊召喚成功時に発動できる効果を持っているのだ。

星奈「アルタイルとシャムの効果っ！！はっつどーぉ！！」

チェーン①『星因士 シャム』
相手に1000ダメージ。

チェーン②『星因士 アルタイル』
墓地の『星輝士 デルタテロス』を守備表示で特殊召喚。

星奈「デルタテロスを特殊召喚！」

『星輝士デルタテロス』[DEF 2100]

星奈「そして1000のダメージ───受けてもらうよっ！！」

言って放たれた一矢は二手に分かれ、結維と鈴華それぞれに向かってゆく。

結維「───」

はずだった。

鈴華「───！」

が、瞬間。

星奈「……！」

二手に分かれるより先に前に踏み込んだ結維がその全てを受ける形となった。

結維「───ッ」【LP 1600→600】


鈴華「結維さん！！！！」

叫ぶ鈴華の声も届かない。
しかし、なぜ。

なぜ、結維は───


結維「……」

疲弊した様子すら見せない。
虚な、生気を失った瞳。

けれど、確かに。


その中に結維は居る。


彼女は結維だ。
桜庭結維。

“強さ”と───“優しさ”を持った人。


星奈「───この程度じゃ、ないよね」

ゆらり、と、星奈は身体を揺らす。

星奈「……この程度じゃ止まってくれないことなんてわかってる。
もっと見せてよ……おねーさんの“でゅえる”を！！
もっと……！もっとあたしを楽しませてよっ！！」




結維「───」




声が───聞こえる。


鈴華が、

斬波くんが、

古宮くんが、

ヒュペリオンが、

和泉が、


星奈が、


そして───大勢の精霊が私を呼ぶ声。



───こっちだ。


───こっちで、合ってる。





───。






結維「───おまたせ」




結維「私のデュエル、魅せてあげる」














◉◉◉遊戯王 Ph.X◉◉◉
───DRAW:２３２───
《失われし力、星霜を重ね》















鈴華「───…！」

星奈「───目ぇ覚めたみたいだね。おはよう、メガネのおねーさん」


結維「おかげさまで。…ヒュペリオン、ごめんなさい……傷、痛むわよね」

ヒュペリオン「…この程度、問題ない」

結維「……鈴華も、ごめ───」

鈴華「謝るの禁止！！ですわ！！」

結維「───！」

鈴華「今最優先でやることは？」

結維「───このデュエル、勝つわよ。鈴華」

そう言って結維は真っ直ぐ星奈と向き合う。
そのどこか楽しそうな表情に、鈴華も自然と表情が緩む。

鈴華「…だけど…、なぜ───」

なぜ、結維は目覚めることができたのか。
その疑問が、鈴華、そして瑞希を悩ませていた。

瑞希「───ありえない…。完全に意識を取り戻した…？いずみんとのシンクロが切れたとでもいうの…？それとも───」


そこで、




「───第一ステップは完了、ってとこカナ？」





───声。



結維「───！」

聞き覚えのある、声だ。
結維たちの背後から、近づいてくる。



「ハァイ♪エブリバディ───遅くなってゴメンね」



腰まで届くウェーブがかった金髪に、イギリス国旗のキャップ棒を斜めに被ったスタイルの良い女性。
その女性の名は───



鈴華「───メアリーさん！！」



メアリー=ベイクウェル。【霊獣】デッキを操る、WDCSイギリス代表の実力者だ。


瑞希「…金髪のおねーさん。久しぶり。
───何をしたの？」

メアリー「和泉ちゃんと精霊とのリンクを一時的に断ち切ったのよ」

瑞希「…どうやって？」

メアリー「イージーよ。
シルバさんの指示でね───あちこち駆けずり回って、精霊を貯蔵してるタンクから繋がる管に栓をしていったの。あと2人の力も借りてね」

瑞希「……。おねーさん、どうやってここまで来たの？
精霊エネルギーが近づいてきた方には決闘機兵を向かわせたハズなんだけどな」

メアリー「…そうだと思った♪だからワタシのかわいいかわいい精霊ちゃん達とは今は別行動！お陰でほとんど敵と遭遇しないでここまで来れちゃったワ！」

瑞希「……！」

鈴華「…ほとんど動向がわからなかったのはそういう事でしたのね…」

メアリー「ただ、危険な役回りをみんなに押し付ける事になっちゃったのは本意じゃないけどネ…。それに関しては本当にゴメン」

メアリーは周囲を見渡し、状況を確認する。

伍召焔の1人───星奈と傷だらけで闘う結維、鈴華。

伍召焔の1人───瑞希の生み出した水泡により身動きの取れない戒と栗須。


メアリー「……本当に、ゴメンね」


メアリーは皆を護るべき立場でありながら、現在進行形で子供達を危険な目に合わせてしまっている自分の不甲斐なさに拳を固く握る。
しかしそれを責める人間は居ないだろう。
だからこそメアリーは悔やんでも悔やみ切れないのだ。


結維「…メアリー、さん」

メアリー「………？」

結維「…ありがとう。あなたのおかげで、希望が繋がった」

メアリー「───っ…！」

結維の言葉に年甲斐もなく泣きそうになるがそれをグッと堪え、

メアリー「…当然。みんな無事に帰るんだからネ…！！」

明るく笑って見せた。

瑞希「……」

一方瑞希は、流れが変わった事に苛立ちを隠せない様子で、メアリーを睨む。

瑞希「……私の起動させた氷結界の三龍はおねーさんの精霊達と仲良く追いかけっこしてるって訳ね……なるほど、おねーさんを一番に警戒すべきだったよ」

メアリー「……そりゃどうも」

瑞希「…そして同じくらい───人間界で指示を出してる人間が厄介だ」

メアリー「…！」

メアリーの表情の変化に瑞希は不敵に笑う。そしてそこで戒と栗須を閉じ込めていた水泡が音を立てて割れる。

戒「───ッ」

栗須「か……は…！た、助かった…！」

2人の解放に安堵するも束の間───


瑞希「───私が命ずる」

天に向け、瑞希は声を上げた。

瑞希「グングニールとブリューナクは管に栓をした精霊を───！
トリシューラは、人間界に降り立ち、YAGAMIのビルを氷漬けにせよ───！！」


メアリー「…ッ…！」

瑞希「……私達が誇る最強の決闘機兵に指示を出した。
随分と引っ掻き回されたけど、それもここまでよ…！！」

瑞希は怒り収まらぬ形相でメアリーを指差し、

瑞希「おねーさんは私が直接───始末するわ」

挑戦状を叩きつけると、「付いてきて」と一言。星奈の傍を抜け《美の間》へと続くエレベーターへと足を踏み入れる。

メアリー「…！」

メアリーは言われるままにその後を追い駆けてゆく。

星奈「…ねーね…！」

星奈は振り返り、瑞希を呼ぶ。

瑞希「なぁに？」

先程までの荒々しい雰囲気を一瞬で切り替え、瑞希は優しい声で返す。
それが幼い星奈にも少し不安に聞こえ、

星奈「…だいじょーぶ…だよね…？
負けない、よね…？
ねーね、勝つよね？」

不安な気持ちを、言葉にして吐き出す。
それに対して瑞希は、

瑞希「…当たり前じゃん！
だから星奈も勝ってね！2人で勝って、マイン様に報告しよ？」

いつものように、朗らかに、笑う。
その笑顔に嘘偽りは無い。

星奈「───うん！約束だよ！」

星奈の中の不安感は、いつの間にか消え去っていた。


メアリー「───結維ちゃん！鈴華ちゃん！」

エレベーターに乗る手前、メアリーも振り返り、2人に声をかける。

メアリー「───信じてる」

そして一言そう言って、エレベーターへと入っていった。



メアリーと瑞希の2人をそれぞれ見送り、残された者たちは向き直る。

直後、デュエルは再開された。


結維「───鈴華！！」

鈴華「───ええ！！」

気合充分声を上げ、復活した結維の一手目───

鈴華「レベル８・天使族モンスターの『カオスゴッデス-混沌の女神-』に───」

結維「───レベル２となった『死の代行者 ウラヌス』をチューニング！！」

鈴華の精霊である混沌の女神と、結維のモンスターである代行者が宙を舞い、星となって列を成す───


結維「───失われし力…！星霜を重ね…ッ太陽神の光が満ちる刻───天空の聖域は甦る！！！シンクロ召喚！！」


そして結維の掲げたカード『太陽神 ヒュペリオン・アル・メギド』のカードが書き変わり、新たなカードへと進化を遂げた。



結維「出番よ───恒星を掌握せし太陽神！！
『マスターフレア・ヒュペリオン』ッ！！！」



現れたるは、紅蓮の翼をはためかせし太陽神。

『マスターフレア・ヒュペリオン』[ATK 3200]


鈴華「…カオス・ゴッデスの光を受けて……結維さんのカードが進化しましたわ…！これもきっと、精霊が集まるこの地だから出来たことに違いありませんわ…！」

星奈「すごい…！すごいよおねーさん…！！───だけど！！」

星奈の場で、星の騎士が剣を掲げる。

星奈「まだ！！あたしはプレアデスの効果、使ってないっ！！
プレアデスの効果はつどぉ！！」


(1)：１ターンに１度、このカードのＸ素材を１つ取り除き、
フィールドのカード１枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。
この効果は相手ターンでも発動できる。


星奈「まだ太陽さんが出てくるには早いんだから…っ！！顔出し早々悪いけど、EXデッキに帰ってもらうよ！！」

結維「…もちろん忘れてなんかないわ…！プレアデスの存在を…！」

結維は拳を握り、高く突き上げる。

結維「この瞬間！！マスターフレアの効果発動っ！！」

星奈「…！」

結維「相手がカードの効果を発動した時───手札・墓地の天使族を除外する事でフィールドのカード1枚を除外する！！」


チェーン①『セイクリッド・プレアデス』
対象のカード『マスターフレア・ヒュペリオン』を手札に戻す。

チェーン②『マスターフレア・ヒュペリオン』
コスト:『死の代行者 ウラヌス』墓地→除外
対象のカード『星輝士 デルタテロス』を除外する。


結維「デルタテロスを除外させてもらうわ！」

放たれた光球は星奈の場の星輝士を貫き、爆風が立ち込める。
と同時に星の騎士が放った衝撃波が太陽神を討ち、太陽神は天へと帰ってしまった。が、しかし、

結維「───まだ！！！」

叫び、同時に墓地から一筋の光が漏れる。

結維「墓地の『百檎龍-リンゴブルム』の効果発動！！」


(2)：自分のＳモンスターのＳ召喚に成功したターンの自分メインフェイズに、
墓地のこのカードを除外して発動できる。
自分フィールドに「百檎トークン」（幻竜族・光・星２・攻／守１００）１体を特殊召喚する。
自分はこのトークンをＳ素材とする場合、このトークンをチューナーとして扱う事ができる。


星奈「…！」

鈴華のターンで1度は除外し効果を使ったが、罠カード『混沌変幻』により墓地へ戻っていたカードの効果発動に、星奈は焦りを見せる。

結維「墓地のリンゴブルムを除外して、『百檎トークン』を特殊召喚！！」

『百檎トークン』[DEF 100]☆2
＊シンクロ素材とする場合チューナーとして扱う事ができる。



結維「レベル８ッ『マジェスティ・ヒュペリオン』に───」

鈴華「レベル２っ！『百檎トークン』をチューニング！！」

前に。ただ、前に。

結維「───シンクロ召喚ッ！！
再び出番よ…！！『マスターフレア・ヒュペリオン』！！」


『マスターフレア・ヒュペリオン』[ATK 3200]


結維「…陽はまた登る───私達が諦めない限り、何度でもね」


星奈「…あれだけ止めたのに…っ…！まだ……まだ動けるなんて……っ…！」

結維「まだまだこんなもんじゃないわ！！
アル・メギドから受け継がれた……マスターフレアの効果！！」


(1)：「代行者」モンスター１体または「天空の聖域」のカード名が記されたモンスター１体を
手札・デッキ・ＥＸデッキから墓地へ送って発動できる。
エンドフェイズまで、このカードはそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。


結維「デッキから墓地へ送るのは───『マスター・ヒュペリオン』！！
よってマスターフレアはこのターン、マスター・ヒュペリオンの効果を得る！！」

星奈「…！！」

結維「───『マスター・ヒュペリオン』の効果発動ッ！！」


(2)：１ターンに１度、自分の墓地から天使族・光属性モンスター１体を除外し、
フィールドのカード１枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
フィールドに「天空の聖域」が存在する場合、この効果は１ターンに２度まで使用できる。


結維「私の墓地に光属性・天使族モンスターは2体───！！
その2体の魂を力に変えて───解き…ッ放てッ！！」

コスト:『マスター・ヒュペリオン』墓地→除外
対象:『セイクリッド・プレアデス』

コスト:『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』墓地→除外
対象:『ダブル・フッキング』


太陽神は右手を天へと掲げた。
すると結維と鈴華、2人の精霊の力が地の底より立ち昇り、太陽神の周囲を旋回する。


結維＆鈴華「「いっっっっけぇぇぇぇえぇぇ！！！」」


そして掲げた右手を振り下ろすと、2人の想いを重ねた2つのエネルギーが星奈の盤面へと降り注いだ。

星奈「───！」

途轍もない衝撃に星奈の小さい身体は吹き飛ばされそうになるも、背後に三角形の盾を生み出す事でなんとか踏み留まった。が、

星奈「…『ダブル・フッキング』が場を離れたことで、復活させたシャムとアルタイルも破壊される……！」

星奈の場に残った2体も地に沈み、これにより、星奈を守るモンスターは1体もいなくなった。そこで、

星奈「───ねえ、おねーさん」

星奈から、2人に。

星奈「……墓地のカード、見せてもらってもいい？」

何気ない、問いかけ。

結維「───ええ」

鈴華「───もちろん」

2人は快く応じる。


星奈「───…」


時に目をキラキラさせながら、時にうんうんと頷きながら、時に頭を捻りながら、デュエルディスクから投影された結維たちの墓地に眠るカードのテキストをひとしきり確認し終えた星奈は、




星奈「…そっかぁ……」


一言。



星奈「───あたしの負けかぁ」




涙交じりに、呟いた。




結維「───…っ」

直後に結維と鈴華の足元から、白黒２色の帯が立ち昇る。


結維「………墓地の『混沌魔龍 カオス・ルーラー』の効果、発動───」


(2)：このカード以外の光・闇属性モンスターを１体ずつ、自分の手札・墓地から除外して発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。


結維「墓地の『ライトパルサー・ドラゴン』と『ダークフレア・ドラゴン』を除外して───墓地のこのカードを特殊召喚」



『混沌魔龍 カオス・ルーラー』[ATK 3000]



結維「───バトルフェイズ」


◉バトルフェイズ◉

結維たちの場には2体のエース級モンスター。


『マスターフレア・ヒュペリオン』[ATK 3200]
『混沌魔龍 カオス・ルーラー』[ATK 3000]


対する星奈の場にモンスターはおらず、伏せカードも全て使い果たした。そしてそのライフは───

星奈【LP 6200】


星奈「───メガネのおねーさん。くるくる頭のおねーさん」

結維「なぁに？」

鈴華「なにかしら？」


星奈「───楽しかったよ！ありがとう！」


満点の笑顔で、星奈は言った。



結維「───」

結維は拳を固く握る。
目の前の純粋な少女すらをも利用し、破壊を行う《終焉の焔》という組織に対する怒りからだ。

利用されていたとはいえ、少女は───星奈は、多くの人を傷つけた。その罪は消えない。償わなければならない。

彼女にはもっと違う人生があったのではないか。
彼女の家庭がもっと暖かなものだったのなら。
彼女が人生の窮地に立たされた時、手を差し伸べたのが違う人物だったのなら。

そして同時に───

結維「………」

自分が和泉から分離し、ひとり彷徨っていた頃、自分に差し伸べられた手が───《終焉の焔》のものだったのなら。


自分は星奈と同じ道を辿ってしまったのではないか。


一瞬、そんな事を考えたが、胸の奥にぎゅっとしまい───

結維「───こちらこそ、楽しかったわ」

最後にそう言って、結維は攻撃の宣言をした。






『マスターフレア・ヒュペリオン』
[ATK 3200]
『混沌魔龍 カオス・ルーラー』
[ATK 3000]
───ATTACK───
星奈【LP 6200】









星奈「───ごめんね、ねーね」






負けちゃった。




約束───守れなかった。



ごめんね。






星奈「───っ…」【LP 6200→3200→0】





◉Winner◉
結維＆鈴華








To Be Continued…