DRAW:１８０ 最悪の再会　作：人喰い

(180)





〜〜〜1ヶ月前〜〜〜


〜黒髭中学校・図書室〜


【Side 和泉】



瑞希「ーーーー聞いたよー、いずみん！
彼、WDCSに出るんだってー！？」

和泉「…“彼”、って…市瀬くんの事ですか？ 瑞希先輩」

瑞希「そうそう！ 市瀬火群くん！」

和泉「はい、市瀬くんなら無事権利取れたみたいですよ。
…というか先輩、なんでその事を？」

瑞希「えっとね、いずみんの学年の古宮って子が叫びまくってて、噂になってるよ」

和泉「…あっははは……古宮くんが発端か……」

瑞希「まさかこの学校から３人も権利獲得者が出るなんてねーっ！ あたしも出れば良かったかなー」

和泉「先輩も決闘、するんですか？」

瑞希「まぁねー。これでも結構自信あるんだ！
…けど、最近は部活も忙しくてあんまりできてないんだけどさ」

和泉「なるほど。バレー部、でしたよね。
……すごいなぁ…、素直に憧れます…」

瑞希「…へ？ 憧れるって、どこに？」

和泉「私、眼鏡で地味だし…、先輩みたいに胸も無いし……！ 運動なんて全然ダメで…、おまけに同性の友達もいないし……っ！」

瑞希「そんなに卑屈にならんでも！」

和泉「ーーーーだから、先輩みたいに裏表の無い強い人に、憧れちゃうんですよ」

瑞希「………」


瑞希（……違う…。あたしは…いずみんや周りのみんなが思うような強い人間なんかじゃーーーーー）


和泉「……瑞希先輩？ ボーッとして、どうしたんですか？」

瑞希「…っ…！ え、いや、なんでもないよ！」

和泉「……そう、ですか」



ｷ-ﾝｺ-ﾝｶ-ﾝｺ-ﾝ…



瑞希「…！ いけないっもうこんな時間か！
あたし日直の仕事が残ってたんだった！
……それじゃ、いずみん！ またね！」

和泉「…えっ！ あ！ はいっ！」







〜〜〜〜〜


……………


………





和泉「…っ…！」

和泉（なんで急に夏休み前の事思い出したんだろう……）

和泉（それにこの胸のざわめきーーーーー）




〜決闘機兵ファクトリー・屋上〜





火群「ーーーーッ！！」


火群が屋上の扉を開けると、そこではネロと雫の決闘の最中だったーーーーー

しかし両者無言で佇み、様子がおかしい。



和泉「ーーーーーえ……っ…？」


火群の背におぶさっていた和泉は、雫と対峙する黒ローブの少女『ネロ』ーーーー否、『柏木 瑞希』の存在に気づき、思わず声を上げて火群の背中から降りる。

火群「……和泉……っ…！」

火群の呼びかけは届かず、和泉は足を引きずって進んで行く。


和泉「……瑞希……せんぱ…い……？」

火群「……っ……！！」


和泉はゆっくりと進むが、１メートル弱進んだところで、防護フィールドにぶつかる形で歩を止めた。


和泉「……っ…！
先輩……っ……！！ 瑞希先輩……っ…ですよね……！？」

見えない壁に手を付き、和泉は必至に壁の向こうの瑞希に語りかける。

それに気づいた瑞希は悲壮な表情を浮かべ、口を開く。


瑞希「ーーーー精霊反応を感じたからもしかして、と思ったけど……いずみんも来てたんだ」


ーーーーいずみん。
彼女は確かにそう呼んだ。


和泉「………っっ！！」

和泉の事をそう呼ぶのは瑞希しかいない。

和泉「…どう………して……？」

状況に混乱した和泉はその場に膝を付き、涙が数滴、頰をつたい流れ落ちる。

瑞希「………ごめんね。嘘ついて」


和泉「……っ…ぅぅ……っ…！
黒髭中学に入ったのも……っ…！ 反帝アリーナに居たのも…っ…！ 全部………そういう事だったんですか……っ…！？」

瑞希は和泉の言葉に一瞬俯き、答える。


瑞希「……そうだね。改めて言わせてもらうけどーーーーあたしは終焉の焔・上層“伍召焔”の儀式担当。
ーーー《明鏡止水-ｶﾚｲﾄﾞｽｺ-ﾌﾟ-》ーーー
ーーーー『柏木瑞希』。
いずみん達の先輩でーーーー雫、あんたの姉の柏木瑞希だよ」


和泉「……っ…！！！」

火群「…っ…こんなのって…、ありかよ……ッ…！」




雫「………」

瑞希と対峙する雫は未だ、顔を伏せたまま動かない。

和泉「……っ…！ ………雫ちゃん…っ！」

火群「……柏木さんッ！！」


火群たちの呼びかけで、雫は僅かに肩を揺らし反応を見せる。

雫「……っ……！」

そして直後、雫の両目から大粒の涙が零れ落ち、床に弾けた。



雫「ーーーーおねぇ……ちゃ…ん……っ……！」
















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１８０ーーー
《最悪の再会》















〜〜〜７年前〜〜〜


〜ペトラ村〜



瑞希(8歳)「ーーーーシズク！ こっちこっち！」

雫(6歳)「……待ってよぉ！ おねぇちゃんっ！」

瑞希は雫を先導するように、草木の茂る道を駆けていく。

雫「…おね…ぇちゃん！ 早い…っ…！ 早いよ…っ！」

雫の数メートル先を走る瑞希は振り返り、ヨロヨロと走る雫に気づくと、慌てて立ち止まった。

瑞希「あははは……ごめんね、シズク……つい…」

瑞希は長い黒髪を揺らして申し訳なさそうに駆け寄る。

雫「…はぁ…はぁ…っ…！ ひどいよおねぇちゃん……っ…！」

この頃から目元までスッポリと覆う前髪も乱れ、息を切らす雫は、手を膝に付いて息を整える。

瑞希「ちょっと休んでから行こっか！」

雫「…うん……っ…！」


おてんばな姉だったが、雫が辛い時はいつも自分の身を顧みず助けてくれ、勇気をくれた。
雫はそんな瑞希に憧れを抱き、いつしか姉のような強い存在になりたいと、そのように思っていた。


雫「…本当にこの奥にあるの…っ？ “秘密の小屋”がーーーーー」

瑞希「あるある！ 絶対あるよ！
昨日、パパとママが二人でこの奥に入っていくの、確かに見たもん！」

二人は秘密の小屋に眠る精霊のカードの存在を聞いて、それを一目見ようと好奇心のままに行動していた。
両親が入っていったという木々の間を潜り、草木をかき分けて進んでいくとーーーー二人の目の前には一軒のボロ小屋がーーーーー


雫「…！ ほぁぁぁ…っ…！」

瑞希「ねっ！？ 言った通りでしょっ！
ここに精霊のカードが……！」

瑞希が歩を更に進めると……


ｶﾞﾀｯｯ‼︎

雫「…ひぃっ！！」

物音は、小屋の中から聞こえてきた。


雫「…お、おね…おねぇちゃん…！ それ以上近づくのはやめといた方がーーーー」

あわあわと怯える雫に対し、瑞希はニッと悪戯に笑う。

瑞希「なーに言ってんの！ せっかくここまで来たんだから、精霊のカード拝んでこーよ！」

雫「……で、でも…っ…！」

渋る雫を見て、瑞希は少し考えてから何か思いついたように、

瑞希「………よしわかった！ 私が先に行って様子を見てくるから、雫はここで待ってて！」

そう言って瑞希は右手でピースを突き出す。

雫「……う、うん…っ…！ わかった…っ！
………すぐに戻ってきてね…っ……おねぇちゃん…っ…！」

雫は僅かに不安を覚えながらも、その場にしゃがみ込んで瑞希の後ろ姿を見送った。


瑞希「んじゃ、いってくるっ！」



ーーーーそれが、元気な瑞希の姿を見る最後になるなど、この時の雫は知るはずもなく。




それから３分程経った。


雫「………おねぇちゃん…遅いな…。
すぐ戻って来てねって言ったのに……」


心配になり、立ち上がりかけたその時。


無情にも、終焉の焔は灯る。


雫「……っ…っ！？」

１つ、２つ、３つと、黒き人魂のようなものが辺りの木々に灯り、燃え上がる。


雫「…え……っ…？ え…っ……！？ なんで……燃えてーーーーー」

混乱して立ち竦む雫だったが、ごうごうと燃え移っていく焔を前に、ふと姉の姿が頭をよぎり、小屋へと入る決心をする。


雫「…い、いかなきゃ……おねぇちゃんが……！」


震える足で懸命に歩いて行くが、その直後。

上空から小屋に向けて、螺旋を纏う熱光線が放たれた。


雫「……え…？」

雫が空を見上げた一瞬。熱光線は小屋に直撃し、小屋は粉々に砕け散る。


雫「…！！！」

木屑が舞い散り、芝は燃え盛る。
陽炎の合間に雫の目に映ったのはーーーー裸で倒れ伏す両親。

雫「…っ！！ パパ…ママ…！！？ なんで……っ！？
ーーーー！！」

そして、黒焔に包まれ宙に浮くーーーー瑞希の姿。


雫「…おねぇちゃんっ！！」

雫は叫ぶ。瑞希もそれに気づき、声を上げる。


瑞希「ーーーシズクッッッ！！！」


力の限り、


瑞希「ーーーー助けてっっっ！！！」


叫ぶ。


瑞希「ーーーーー助けてよぉっっっ！！！



それは、瑞希が雫に助けを求めた最初で最後の瞬間であり、雫はそれに応えようと思った。

雫「…おねぇーーーーー」



刹那。


“それ”が雫の視界に入った。



炎に包まれた翼を広げ、漆黒の闇より雫を睨むーーーー巨影。



ネヘモス『グギィィガァァアァアアァァッッ！！！』


悪魔の様なその生物の咆哮と共に、周囲に爆発が起きる。

雫「……ひぃぁっ！！」

大地も大きく振動し、雫はバランスを崩し尻餅をついてしまう。

雫「…きゃ……っ…！」

そして追い討ちをかけるように、悪魔の影から近づいてくる、一つの人影。



？？「ーーーー墓地より蘇り、我以外の全てを焼き払う終焉の焔ーーーーー」


炎の中から、男性の声。


雫「…こ……今度はなに……っ……！？」


その人物は漆黒のローブに身を包んでおり、フードを深くかぶっているため顔は認識できない。

男は瑞希の目の前で足を止めると、再び口を開く。



マイン「ーーーー我等は“終焉の焔”。この地に眠る精霊のカードを回収させてもらう」


雫「……っ…！ や……やめーーーー」


男が右手を突き出すと、闇に潜む悪魔から炎の矢が放たれる。

雫「……ひぅ…っ…っ！！」


炎の矢は雫の目の前の地面に突き刺さった。わざと外したのだ。


マイン「…次は心臓を貫く」


雫「……ひ……っ…ぃ…っ…！」


まるで感情のこもっていない鋭利な言葉に、雫は恐怖のあまり失禁してしまう。


雫「……ぁ……ぁぁ……ぅ…ぁ…っ…！」

その時雫は悟った。
ここで、死ぬ運命なのだと。



雫「……ぁぁ…あぁああ……っ…！」





雫は絶叫し、炎に包まれゆく家族を背に、駆け出した。



雫「あああああぁあああぁああぁああああああぁぁああぁあ」



そこからの記憶は定かではない。



村から離れた道の途中で倒れていたところを、たまたま通りかかった孤児院の院長に拾われ、孤児院で暮らすことになったーーーーー





……………


………



〜〜〜〜〜







雫「……おねぇ……ちゃん……っ…。
…どうして…生きて……っ……？
なんで………“終焉の焔”にいるの……っ……？
それに……和泉さん達の先輩って……っ…？？」


雫は喉の奥から絞り出すように声を出し、疑問をぶつける。


瑞希「……悪いけど、答える訳にはいかない」

雫「……っ…！」

瑞希「あたしは、“終焉の焔”の『ネロ』として、アンタたちを諦めさせなきゃいけないのーーーーー決闘でね……っ！！」


雫「…そん…な…っ…」

瑞希「ーーーーさぁ、シズクッ！ まだあんたの効果処理の途中でしょ…っ！ 決闘、再開よーーーー！」



雫「……！」


雫（……なんで………っ…なんでおねぇちゃんと戦わなきゃいけないの……？）




雫（…わかんない…………全然意味がわかんないよーーーーーー）




















To Be Continued…






《次回予告》




「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１８１《鏡合わせ》






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙