DRAW:１２ 二人を繋ぐ救命曲線　作：人喰い

ーーー始めまして！ 市瀬…火群さん！

ーーー始めまして、桜庭和泉さん。

ーーー“火群くん”って呼んでもいいかな？

ーーーいいけど、『ほむら』って変な名前だから、みんなにからかわれるし……あまり好きじゃないんだよね。

ーーー変…かなぁ…？ なんかさ、燃え上がれ〜って感じでカッコいい名前だと思うけどなぁ。

ーーーえ…？ そ、そんな……ありがとう。きみの、『和泉』って名前もとっても素敵だよ。

ーーーありがとうね！ これで私たちはもう、『友達』だねっ！


そう、『友達』。
この時、いたずらっぽく笑う少女の口先から軽々しくも口にされたその２文字は、当時の“僕”には、心に勇気をくれる、とても暖かく大きいもので、今の“俺”には、心に重くのしかかる、冷たい鉛のような言葉だった。

どうせ壊れてしまう関係なら、最初からない方が幸せに過ごせただろうに。

“僕”は本当に愚か者だ。






遊戯王 Ph.X DRAW:１２
《二人を繋ぐ救命曲線》






ー黒髭中学・B棟２階〜３階踊り場ー

火群「始めまして、桜庭和泉さん」

和泉「始めまして、市瀬火群さん！」

どうしてこんなことになってしまったのだろう。
和泉は俺のことを覚えておらず、おまけに右腕まで失って。

ニクス「………」

ニクスは相変わらず黙ったままだ。
和泉の腕の事は自分にも比があると、気に病んでいるのだろうか。
本当は、俺がただ未熟だっただけだというのに。

和泉「この、和服の女の人は…？」

和泉は、一向に喋ろうとしないニクスに視線を移し、まるで夫の浮気を疑うような口振りで尋ねた。

ニクス「私は……、ニクスだ。市瀬、にくす」

苦しそうに、喉から声を絞り出すようにニクスは答える。
『市瀬にくす』で通したのは、表向きは姉弟で通っていた方が、何かと都合がいいとニクスは思ったからだろう。

和泉「市瀬……って事は、お二人は御家族なんですね」

和泉は、若干ホッとしたように言う。
そんな反応をされると、まるで俺に気があるのではないかと思ってしまうじゃないか。

火群「ああ……そういう事になるかな」

胸が、釘を打ち付けられたみたいに、ズキズキと痛い。
きっと、嘘を憑いたからだ。

和泉「それにしても二人とも、珍しい名前だね。私は好きだなぁ。小説のキャラクターみたいな名前で」

火群「…ありがとう」

一つ一つ、言葉を繋ぐ事すら苦しい。
苦しかったが、先ほどからの疑問を、俺はここで問わない訳にはいかなかった。
あるはずの右腕が、無い事についてだ。

火群「ところで、桜庭さん。その腕はーーー」

突然。
本当に突然だった。
俺が和泉の右腕があったらしき箇所を指差した瞬間。


和泉『黙れっっっ！！！』


俺の目の前でほんの１秒前まで笑っていた和泉が、顔を伏せ声を荒げた。
そして再び上げた顔は、怒りと憎悪に満ちた表情で、吸い込まれるような漆黒の瞳が、薄紅縁の眼鏡越しにこちらを見据えている。

火群「…い……ずみ…？」

俺は何が起きたのかを咄嗟に理解できず、戸惑いを隠せなかった。

和泉『……“桜庭和泉が腕を切断するハメになったのはお前の所為だろ”！ お前が桜庭和泉をここまで苦しめたんだ！ 絶対に許さない！』

叫びながら、目の前の少女は立ったまま片手で頭を抱え、何やら呻き声を上げる。
ちょっと待てどういうことだ？
この言い方だと、まるで、“俺の目の前で荒れ狂っていた少女が、桜庭和泉ではないような”ーーー

ニクス「火群っ！」

そこで何かを察したように、ニクスが俺に呼びかける。

ニクス「この女……人間ではない！」

火群「はあ！？ 和泉が！？」

ニクス「そうは言っていない。“今、私たちの目の前で呻いているこの女”が、人間ではないと言ったんだ」

火群「それってつまり……？」

ニクス「この女は……桜庭和泉に憑依しているデュエルモンスターズの精霊だ！」

火群「何ッ！？」

そこで少女は頭を抱えたまま静まり、左手で眼鏡を外し、ゆっくりと左腕と、以前は右腕が繋がっていたであろう右肩を下ろし、言った。
漆黒の瞳を、ギラギラと黒めかせて。


？？？『私としたことが、取り乱してしまったようね。会いたかったわーーーガルドニクス』


ニクス「……やはり、貴様か…！！」

火群「ニクス、知り合いなのか…？」

俺はそっとニクスに尋ねる。

ニクス「ああ、会うのは実に６０１年と２３７日ぶりか………」

俺は思わず息を飲む。


ニクス「私こそ会いたかったぞーーー『ダーク・フェアリー・チアガール』ッ！！」


ダーク・フェアリー・チアガール？
デュエルモンスターズのカードなんだろうが、聞いた事ない名前だな……この約２年のうちに出たカードか…？
だが、今の俺には、そんなこともどうでもいい。

Dチア『リン♪ リン♪ リーン♫』

チアガールは怪しげに笑う。
和泉の顔で、口先を吊り上げ、死体を見るような目で俺たちを交互に見て、空虚な声のトーンで笑う。
正直言って、気持ち悪い。
先ほどから、感情を表に出さないように抑えてはいたが、流石にもう、和泉の身体で、顔で、声で、好き勝手言われるのは嫌だ。
なんかこう、ムカムカする。
きっとこれは、認めたくはないが、嫉妬心に近いモノなのだろう。
とにかく、俺はこいつを許さない。
誰であろうと、許さない。
何であろうと、許さない。

あの娘を束縛するものは、絶対に許さない！




ーーー和泉。君は、誰よりも自由に生きるんだーーー




火群「……て…いけよ」

Dチア「リン♫ なんだ？ 市瀬火群」


火群「和泉から出ていけって言ってんだよッ！」


Dチア『何…？』

火群「それに何だよ！ いい歳こいて『リン♫』だあ？ 可愛いとでも思ってんのかっ！」

Dチア『貴様…！』

ニクス「火群のスイッチが入ったな……こうなっては、私にもなかなか手に負えん」

火群「お前がニクスの知り合いだろうが、デュエルモンスターズの精霊だろうが、関係ねぇ……関係ねぇ！」

Dチア『…リン♫ まるで子供の我儘だな。可愛いよ市瀬火群……八つ裂きにしたいくらいは』

火群「だったらやってみな！ ただしお前に使ってもらう刃物は……これだ」

俺は、右手に持っていたデッキから、左手でカードを１枚引き、それを裏向きでチアガールに見せて、言う。

火群「お前も、デュエルモンスターズの精霊なら、当然デュエルはできるよなーーー俺とデュエルしろよ。俺が勝ったら、お前は和泉から出ていってもらうぜ」

ニクス「バカ火群っ…！」


ここで感情に任せて、考えも無しにこの《狂気な凶器(クレイジーレイジ)》・ダーク・フェアリー・チアガールにデュエルを挑んだことを、俺は後に後悔する事になる。


Dチア『……リン♫ いい度胸だ、そのデュエル受けて立つわ。精霊会に手を出して、五体満足でいられると思うなよ…！ 市瀬火群！』


ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ー〜ーTo Be Continuedー〜ー〜ー〜ー



《次回予告》

ニクス「想いが重なり、力がぶつかる。
火群、今のお前は１人ではない！
私が隣にいる限り、もうお前に大切なものを傷つけさせたりはしない！

次回、『遊戯王 Ph.X』
DRAW:１３ 二人を繋ぐ未来からの死者

お前のドローで、今度こそ大切なものを救ってみせろ！」


☆３月１０日(日)更新予定☆



＊今週のおまけはお休みです。