DRAW:６９ 迫る脅威　作：人喰い

(69)




〜森林エリア〜


激しい爆発により発生した煙が立ち込める中、黒き長髪をなびかせただ一人立ち尽くすマイン。


マイン「………」

煙が晴れ行く中、少女の腕らしきものがマインの視界に入るや否や、マインはそこまで移動し、その腕を取って持ち上げた。

マイン「……っ？」

だが、明らかに軽い。
少女一人の体重とは思えない“それ”はそれも当然で。マインが手に取った少女のものらしき左腕は、肘から先が繋がっておらず、断絶面からはバチバチと火花を散らしていた。

マイン「ーーー義手…だと…！？」

やがて煙が晴れるが、少女の姿はどこにもなかった。

マイン「…ククク…！！ 逃したか。
だが左腕を失った今、太陽神には戦えるだけの力は残っていまい」

マインは首にぶら下げている、ガラス張りのランタンのようなものを手に取ると、

マイン「それに今の決闘と、すでに終わった各地での決闘で、“焔”は十分に灯った」

そう言って静かに笑う。

マイン「クク…！ だが少し、力を使いすぎたか…。まぁいい」

今度はマントの内側から通信機のようなものを取り出し、慣れた手つきでそれを操作すると、複数の同端末へ向け発信する。



マイン「ーーー『マインの意思』に従え。
焔は灯った。計画を開始する」









〜〜〜




結維「………はぁ…っはぁ…っ！！ なんとか…逃げ切れた…！？」


結維（…けど、身体が…、もう持たない…っ！ ）

結維「早く、セントラルホールに向かわないと…！」

結維（……！！ 奥に人影が……っ、誰…？ 敵……っ？
だとしたら…、今度こそ終わるの…？ こんな……とこ、ろ…で…ッ！）



ドサッ

















遊戯王 Ph.X DRAW:６９
《迫る脅威》















火群side
〜救護室〜


火群「和泉！ 柏木さん！」

案内された救護室の扉を開けると、やや広めの室内に和泉と柏木さんはいた。


和泉「…火群くん！？」

雫「…火群さん！」

雫（…また会えたのはよかったですけど、『和泉』『柏木さん』ですか…。そっか、そうですよね…）

和泉「あ、明石さんが連れて来て下さったんですね…！」

爽香「爽香ちゃん頑張りました〜っ」

戒「ーーーこの様子だと、ここにはまだ終焉の焔は現れていないようだな」

雫「……（終焉の焔…！！）
あ、あの…っ、私、柏木 雫っていいます。よ、よろしくお願いします」

戒「……斬波 戒だ。よろしく頼む」

和泉「ねぇ火群くん、私は雫ちゃんに今起こってることを大体聞いたんだけど、火群くん達が知ってる情報も今のうちに整理しておかない？」

火群「そうだな。だけどあまり時間もないだろうから、手短にいくぞ」





〜〜〜





和泉「…結維ちゃんが敵のボスと…！？」

火群「…ああ。俺は結維さんから早く和泉たちのところに行けって言われて来たんだ」

和泉「…そうだったんだ…」

火群「…その男は『マイン』って名乗っていた」

千愛（『マイン』……っ、なるほどね）

戒「…俺が倒したドロワという奴は、自分たちは『マインの意思』で動く駒に過ぎない、と言っていた」

火群「…『マインの意思』……俺が倒した三本の火柱の一人、マンティスもその言葉を口にしてた」

爽香「…その『マイン』って人がボスなら、幹部のみなさんはそのボスの『意思』によって行動してるってことだよね！ なんだか一般企業と変わんないね！」

戒「ややこしくなるから黙っていてくれ」

爽香「やんひどいっ！」

和泉「…でもさ、今の状況って割とチャンスじゃないかな…？ だって3人いる幹部のうち2人はもう倒しちゃったんでしょ？ 後は大きな敵は幹部1人にボス1人だけってことだよね」

火群「確かに！」

雫「…いえ、それはおそらく違います、和泉さん」

戒「どういう事だ？」

雫「三本の火柱は終焉の焔の幹部という位置付けではなくーーー終焉の焔の上層部を支える、文字通りの『柱』でしかないんです」

火群「ーーー！」

和泉「…むむ」

戒「…なるほど、な。まだ強大な敵が多数いるとするとこちらの状況は悪い。戦える決闘者が何人残っているかもわからんしな」

火群「外部から援軍を呼ぶってのはできないのか…？

戒「デュエルポリスから援軍を要請するにしても、通信機器はロッカーの中に置いて来てしまっている。まずはセントラルホールに入らねばならないな」

火群「そっか、予選会場へは指定されたもの以外持ち込み禁止だったもんな…」

和泉「…あ、あのー」

火群「どした？ 和泉」

和泉「私、観客だったから携帯あるけど……」

火群「あ…」

雫「そういえばそうでしたね…」

戒「……是非貸していただきたい。構わないか？」

和泉「大丈夫です！ お使いください！」

戒「…助かるが、別に敬語じゃなくていい。俺もそこの馬鹿と同じく、君と同い年だ」

火群「おいさりげにディスんな、泣くぞ」

和泉「わ、わかった。斬波くん。
…あと火群くん本当に泣いちゃうからやめてあげて…」

火群「な、泣かねぇって！」

雫「はわわ…っ火群さん泣かないで下さい…っ」

火群「だーかーらぁー！」

和泉「わっ、火群くん落ち着いて〜っ！」



戒「…ったく、騒がしい奴らだ…」

爽香「………とかなんとかかんとか言いつつ、本当は混ざりたい戒選手なのであったーーー」

戒「…うるさい黙れ」

爽香「やんさっきより冷たい！ 氷点下！」




〜〜〜


戒「上に繋ぐのが少々面倒だったが、あと30分もしないうちに一番近くの支部から援軍が来るだろう」

雫「…助かります…っ」

爽香「はいはーい！ 爽香ちゃん発言いいですか！？」

戒「…つまらん事だったら縄で縛って口を塞ぐぞ」

爽香「えぇ…！？///」

火群「……（縄で縛って…口塞いで…か）」

和泉「火群くん黙って」

火群「まだ何も言ってないけど！？」

雫「…はわわ…っ、あ、明石さん、発言どうぞ…？」

爽香「え、えっとね、ちょっと気になったんだけどさ、予選中は厳重な警備で予選会場へは参加者以外立ち入り禁止なのね」

和泉「あ、そういえば入り口のとこに怖そうな警備員の人達がたくさんいたかも…」

爽香「三本の火柱のうち二人は正式な大会参加者だから問題ないとして、正式な参加者じゃないって言ってたボスさんは一体どこからやってきたの？」

雫「…そ、それは…」


ニクス「それは私が答えよう」


戒「！！？」

爽香「きゃぁ！？ いきなり金髪ポニテ巨乳美女！？」

雫「はわわ…っ！ どこから現れたんですか！？」

火群「おいニクスっ、出てきても大丈夫なのか？」

ニクス「…緊急時だ、隠れている必要もないだろう」


千愛「リン♫ じゃあ私も同席させてもらおうかしら」


戒「！！？？」

和泉「ちょ、ちょっと！ 千愛ちゃんまで！」

爽香「ひゃぁ！お次はなんだか幸の薄そうな貧乳堕天使！？ どーなってんのよーっ！」

雫「はわわわっ、明石さん、胸のことを言うのは流石に失礼ですよ…っ！」

千愛「…やっぱり消えてていいかしら」

火群「……（いや、貧乳はテキスト外の重要なステータスだ。何も悪いことじゃないぞ）」

和泉「火群くん黙って」

火群「だからまだ何も言ってないけど！？」





〜〜〜



戒「…空間に穴を開け、そこから現れただと…！？」


ニクス「そうだ。雫は見ていたからわかるな」

雫「え…っ！？ （いきなり呼び捨て…！？）あ、はい、急に周りの黒い“もや”が濃くなったと思ったら、空間に亀裂ができて……」

爽香「敵さんはワープできるってこと！？ それってやばくない！？」

千愛「…おまけに私達精霊の場所を追うことができるなら、今この場に現れてもおかしくないんじゃない？」

ニクス「そうなったら、この場にいる全員で迎え撃つしかあるまい」

火群「……！」



ーーー

結維「やめて！ あんたじゃ“絶対にこの男には勝てない”！！」

ーーー


火群（結維さんの言っていたあれは一体どう言うことなんだ…？）

千愛「どうしたの？ 市瀬火群。浮かない顔して」

火群「…いや、なんでもない。
それよりチアガール、聞きたいことがあったんだ」

千愛「？ なにかしら」

火群「ーーー『精霊会』のことなんだけど」

千愛「…！！」

ニクス「…確か、精霊王に認められた精霊決闘者の精鋭の事だったな」

千愛「…えぇ、そうよ」

火群「『終焉の焔』がカードの精霊を狙っているって聞いてその事を思い出したんだけど、何か知らないかな？」


千愛「……丁度いいわ。私もその事を話しておかなきゃって思ってたから」

火群「…っ？」

千愛「…ええ、よく知ってるわ。だって『マイン』は『精霊会』の決闘者だったから」


火群「！！ あいつのこと知ってんのか！？」

ニクス「空間に穴を開けるなど人間技ではないと思っていたが、精霊だと言うなら納得だ」

千愛「正確には半分人間で半分精霊、ね。私が『精霊会』にいた頃、マインはずっと『精霊会』においてトップの実力を持つ精霊決闘者だったの」

火群「……そうだったのか…」

千愛「けど、彼は力をつける度に、更なる力を求めてその“力への欲求”はどんどん増すばかりで、ついには精霊会の精霊全員を敵に回した内乱まで起こしたわ」

雫「はわわ…っ、それで結果はどうなったんですか…？」

千愛「結果、マインは精霊王に敗れ、精霊の力のほとんどを奪われて別の世界に追放されたって聞いたわ。それが今から12年前の話。
でも追放されたのが、まさか人間界だったとわね…」

火群「だが力は何故だか復活していると…」

千愛「私もそこがわからないの。もしかしたら、精霊王の力が弱まってきているのかもね…」

戒「…精霊のカードを集めているのは、精霊会への復讐のつもりなのだろうか」

千愛「おそらくそうね。最終的には、自分が唯一勝てなかった精霊王を、奪った精霊の力全てをもって倒すつもりだと思う」

爽香「…ってか、そんな危険人物を平和な世界に飛ばすって…何考えてんのよ！精霊王ってのは！」

千愛「…精霊王の御考えは私にもわからないわ…」

和泉「千愛ちゃんが『元』精霊会のよしみで精霊王さんとお話しすることってできないの…？」

千愛「無理よ。私は和泉ちゃんの側を離れないために、精霊会を裏切る形で人間界に居る道を選んだ訳だから…ね。今更顔を合わせる許可なんて降りないと思うわ」

和泉「…そっか…、せめて敵のボスを倒した精霊王さんの協力が得られればって思ったんだけど」

戒「王にも神にも、頼ってはいられない、か」

ニクス「…どうやらこの事態は、私達で早急になんとかするしかないようだな」

火群「俺たちで倒すぞ……『終焉の焔』を！！」








＊




〜山岳エリア〜








栗須「…ぐぁあああぁあああっっっ！！」【LP 1600→0】


星奈「手ごたえなーい、つまんなーい！ ナンパするならもっと実力つけてからにしてよねー☆」

栗須「…くっそ…！ なんだこの幼女…っ！ エクシーズ召喚だと…？ そんなもんがあるなんて聞いてないぜ……」

星奈「…ってかやっば！ もうこんな時間！ 急がなきゃマイン様に叱られちゃう！ じゃーねーっ☆」


栗須「…ぐ…っ！ 身体が…うご、かねぇ…！ くっそぉ…っっ！！」








星奈（今の馬鹿っぽい奴から確かに精霊反応を感じたんだけど、あいつ精霊のカードなんて持ってなかった…。どーしてだろ。
まーいっか☆どうせ大したことなかったし！）





To Be Continued…




《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:７０ 光と影、右と左