DRAW:５１ ほつれた糸　作：人喰い

『ーーー火群くんはさ、自分の中にもう一人……別の自分がいるかも、って思ったこと、ある？』
















遊戯王 Ph.X DRAW:５１
《ほつれた糸》
















ニクス「…火群の奴も人使いが荒いな。家を飛び出す直前に、半泣きで「和泉を空から探してくれ」などとよく言えたもんだ」


ニクスはぼやきながら民家の屋根から屋根へとアクロバティックに飛び回り、和泉を探し回っていた。


ニクス「…しかも人間の姿になってから数十分は元の精霊体には戻れないというのに……」


ニクス「…お、いたいた。この姿では少し驚かれるかもしれないが、まぁいいかーーー」











＊＊＊






火群「ーーー戒ッ…！」



走る道の先に立ちふさがった、傷だらけの警官服を身に纏った白髪の少年ーーー戒の名を俺は呼ぶ。



戒「………探したぞ、市瀬火群」



火群「…なんでお前がここに…！？ それに、俺を探してたって…？」


戒「…お前に話があってここまで来た。心して聞け」


火群「……？」



戒「2年前の春、お前が黒髭公園にて焼き尽くした過去ーーー“あの少女”の事だ」



火群「ーーー！？」



和泉の、事かーーー？
そういえば、戒は俺と和泉の事……それから、ニクスの力の事まで知っていた。
次、デュエルで俺が勝ったら教えてもらう約束なんてしてたけど、何かまだ話せない事情があるだけなんだと思っていたんだけどなーーー




戒「“あの少女”は公園での事件………いや、事故と呼んだ方がいいか。それ以来、その時の怪我と精神的ショックの所為かずっと病院に入院していた」



火群「…？」



そんな話、聞いてねえぞーーー？



戒「ーーーだがつい先日、目を覚まし、姿を消したんだ。突然にな」



火群「…」



つい、先日？


目を、覚ました？



おいおいおい。






戒が言っているのは、一体誰のことなんだ。






火群「…おい戒ッ！」


訳のわからない不信感と不安感に押しつぶされそうになり、俺は堪らず声を上げる。


戒「……どうした」



火群「…確認だけどよ、戒。…その少女っての、姿を消す前に容姿は見ているか…？」



戒「……？ ああ、俺はその現場に居合わせていたから姿は確認している。顔はよく見えなかったが黒髪で眼鏡をかけていて、それでいて“左腕”のないーーー
そう、名前は、『桜庭ーーー」









＊＊＊








ニクス「ーーーおいっ和泉！」



和泉を見つけたニクスは、声をかけながら急ぎ足で和泉に近づき、和泉の“左手首”を掴んだ。

はずだった。



ニクス「ーーー？」



ここで違和感。


ニクスがなんとなくいつもの感じで左手首だと思って掴んだ和泉のカーディガンの袖口はくしゃりと潰れ、それに引っ張られる風になった和泉が足を止める。

いや、


ニクス（和泉ーーーなのか？）



ニクスがそんな不信感を抱いた直後、和泉は振り返る。



和泉「………」



そして刹那。




和泉には普通なら“存在するはずで存在しないはずの右腕”が大きく振りかぶられ、ニクスの左肩へと掌打を繰り出す。





ニクス「ーーーッッ！！！」




その衝撃によってニクスの身体は元いた位置から3メートル程吹き飛び、コンクリートの壁に思い切り叩きつけられる。



ニクス「…か……ッはッッ……ッ！！
い…ずみ……！？」



ニクスが力無くその場に膝をつき目線を上げるや否や、和泉は一気にニクスとの間の距離を詰めしゃがみ込む。


丸いラインの肩まで届く黒髪。
前髪は目の上で揃えてあり、薄紅色の縁の眼鏡のレンズからは瑠璃色の瞳が覗かせる。
その容姿も、雰囲気も、紛れも無く和泉なのに。

なのに。

先程から立ち込める謎の不信感がニクスに問わせた。



ニクス「ーーーお前は、…ッ誰だ………？」






和泉「私は、『桜庭ーーー」












＊＊＊














『桜庭ーーー結維』













＊＊＊






火群「……ユイ…？ それが、その女の子の名前なのか…！？」



戒「…？ なぜお前が驚く。 まさかあの少女の事も忘れてしまっていたのか？」



火群「…いや違う…っ、話すよ。『和泉』の事、全部」




俺は、4月に『和泉』と再会したこと、その時に戦ったダーク・フェアリー・チア・ガールのこと、和泉は黒髭町に来る前は別の町で中学に通っていて、今年の4月からの約2カ月はずっと黒髭町で学校に通いながら千愛とともに暮らしているということ。

俺は全て話した。






戒「…和泉……か。お前の言っている話が本当なら、早いところ『和泉』と言う少女を見つけないと、マズイことになるぞ」


火群「…え…っ？」


戒「…『和泉』と容姿が似ている『結維』は、今現在この黒髭町にいて、デュエルポリスに追われている。
ここまで言えば、後はわかるな…？」



火群「…和泉も、危ないって事か…！？」



戒「…急ぐぞ！ 市瀬！」



火群「…っああ！」




そして俺たちは和泉を、それから結維という娘を探して走り出した。





火群「ーーーってか、なんで『結維』って娘はデュエルポリスに追われているんだ？」


戒「…彼女は一見、片腕が無いただの不幸な少女だ。だが逃げる時に、人間離れした右腕の腕力とデュエルの強さによって、油断していた警官等3人を重症へ追いやったんだ」


火群「デュエル、だって…？」


戒「その事からデュエルポリスに危険視され、追われる事になったのが2日前だ」


火群「それで、デュエルポリスである戒にも捜索の依頼が来てたって訳か…」



戒「…その通りだ」


戒（最も、他にも理由はありそうだがな）


火群「…お前の父親は、関係してないのか…？」


戒「…ああ」


火群（…？ 凄く、寂しそうな眼……）


火群「…悪い、なんか、聞いちゃいけない事だったか」


戒「…いや、別に構わん」



火群「そうか…。ーーーっ？」


戒「…どうした？ 市瀬」



ふと俺は腰につけたデッキケースの中から熱を感じ、足を止めてデッキを取り出す。


火群「…これは……？」


デッキから熱を発していたのは『炎王神獣 ガルドニクス』のカードだった。
だんだんと、その熱が弱くなっていくのを感じた俺は、先ほどから渦巻く不安感で息が詰まりそうになる。


火群「…ニクス……？」


戒「……？」



俺がニクスの名を呼んだ、その時だった。

少し離れた場所から、爆発音が聞こえたのだ。



火群「…！？」


戒「………っ！」



俺たちは煙の上がっている場所へ向かった。



ニクスのカードから発せられる熱がさらに小さくなっていくのを感じて俺は足を速める。

そうだ。何忘れてんだ。
ニクスは俺のために、精霊体じゃなく人の姿のままで和泉を探しているんだ。
危険な目にあっていてもおかしくはない…！


俺たちがたどり着いた場所には、左肩を押さえうずくまるニクスと、その様子を全くの無表情で眺める1人の少女の姿があった。


丸いラインの肩まで届く黒髪。
前髪は目の上で揃えてあり、薄紅色の縁の眼鏡のレンズからは瑠璃色の瞳が覗かせる。

その姿はーーー間違いなく。


火群「…和泉！」



なのに。



彼女には、和泉にあるはずで無いはずの『右腕』が存在していた。
代わりに左腕を欠いて。


俺に気づいた少女は、表情を崩さぬまま右手を俺に向け近づいてくる。

そして直後、ニクスの叫びが俺の耳を劈く。







ニクス「ーーー逃げろっっっ！！！ 火群ぁああぁあああ！！！」







呆然と立ち尽くしていた俺はハッとし、今目の前の状況を再確認する。



ーーー目の前の少女は、和泉では無い。


ーーー結維だ。


ーーー和泉じゃない。


ーーーだけど。


ーーーだからって。



結維「………」


結維は火群との距離をさらに詰めていく。
その距離は、約2メートルーーー




火群「…ニクス、悪いな」



ニクス「…ほ……むら…ッ！！」







火群「ーーー俺は、逃げない」






ニクス「………っ…！！」



結維「………」


火群の目の前まできた結維は火群の左腕の関節部分に右掌を当てると、
ドンッ！
と、強力な衝撃波を放つ。



火群「ーーーッッ！！！」



叫びが声にならない。そんな痛みだ。




ニクス「火群ぁーーーッッ！！！」



戒「……ッッ市瀬！」



戒が決闘盤を構え俺の前に出ようと踏み出すが、俺は朦朧とする意識の中で右腕一本で戒を制止する。




火群「…逃げられるわけ、ねぇよなーーー」




結維「………！」




火群「……俺とデュエルだ。
君が何者なのかは知らないよ。
たとえ和泉と同じ姿で、過去に俺が傷つけたのだとしても………今、俺の大切な人を傷つけた事に変わりはない！」



ニクス「…火群……っ！」




結維「ーーーほ、むら……くん…？」




結維が先ほどから耳にしていたであろう『火群』という名前に反応し、初めて口を開いた。
やはりこの少女は和泉と何らかの関係があるのか、それを知るためにも俺たちは戦わなければならない。


結維「……っ！」


火群「…デュエルディスク、セット！ イン！」



俺の右腕は紅蓮に包まれ、不死鳥を模した真紅の決闘盤を生成する。



ニクス（…！ 火群のヤツ、いつの間に私無しでも決闘盤を…！
これも成長ーーーか）


戒「……！」


火群「………」


そういえば、1つ引っかかっていたことがあった。
左腕の無い結維は、どうやってデュエルをしていたんだ…？



結維「………」


結維は下を向いて黙り込んだかと思うと、唸り声をあげた。


結維「……ウ…ウゥゥァア……っ！！」



その直後、



火群「！！？」


ニクス「…！！」


戒「……ッ！？」



結維「ァアアァアアアぁァァアア！！」





結維の左肩から、腕が出現した。





その左腕は決闘盤と一体となっており、腕の関節部分から続く痛々しい火傷の跡が決闘盤の形状を成している。


何より、あの火傷の跡が目に付く。

俺の目と、心に、焼き付いている。




火群「……ハァ…！ ハァ…！」


息が、苦しい。


そんな俺を待ってくれるはずもなく、無情にも結維は口を開く。






結維「ーーー私は『桜庭 結維(さくらば ゆい)』。
桜庭和泉の中に眠っていた〝右腕の意思〟。
私が求めるのはーーー」






何者にも屈しない、強さ。
















To Be Continued…





〜おまけ〜



. . 人人人.人人人.人人人.人人人.
＜教えて！ スッキーせんせー！＞
. . Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y



◉このコーナーは、読者のみんな(少数)から寄せられた質問(多分無い)に、『美 好先生(以下スッキー先生)』が一刀両断！ 快刀乱麻の回答をしていくコーナーだ！
質問が無い場合は、キャラ紹介や自問自答をしていく痛々しいコーナーになるから気をつけな！(ドン☆)
＊質問をいただいた時点で、本SSに載せる事を承諾したものと見做します。あらかじめご了承ください。
匿名希望の場合は言ってくださいね！



質問待ってるぜ！






《次回予告》



思いは交わり、闘いは加速するーーー！




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:５２ 二枚の羽




「ーーー俺が、終わらせなきゃ」