DRAW:２１３ 神鳥の来寇　作：人喰い

(213)



神星樹突入前ーーーー


〜YAGAMI本社ビル・カードラボ〜

鈴音「…カードの解析、終わったわよ。古宮くん」

鈴音に声をかけられ、部屋の外に横付けられた長椅子に腰掛けていた栗須は顔を上げる。

栗須「…本当ですか！？ それで、結果はーーーー」

鈴音「ええ。普通に決闘で使う分には異常は無いわ」

栗須「…よかったっス……」

神星樹突入までの空いた時間。
数日前の戒との決闘以降栗須の手元にある、僅かに電気を帯びた『ダーク・シムルグ』のカード。それをラボにて解析してもらっていた栗須は、異常が無いと聞いてひとまず安堵する。

栗須「…ところで、西蓮寺のママさん。解析を手伝ってくれてるのはめっちゃありがたいんスけど、YAGAMIの社員じゃ無いのに、機密情報で溢れたところ行き来していいんスか…？」

鈴音「大雑把そうな割に案外細かい事言うのね。古宮くん」

栗須「余計なお世話っスよ！」

鈴音「…まぁ、それは置いといて。
私の勤め先はYAGAMIとはちょっとした縁があってね。この辺を出入りする為の許可証も、ちゃんと発行してもらっているわ」

それに、と鈴音は続ける。

鈴音「…あのカードが帯びている電撃には、私の個人的興味もあったの」

栗須「…と、言いますと？」

首を傾げる栗須に、鈴音は若干声を低くして言う。

鈴音「……私を襲った正体不明の電磁波と、関係があるんじゃないか…って思って調べてみたんだけど、特に関連性は見受けられなかったわ」

栗須「…それは残念…っスね……」

鈴音「…ま、私の事はいいのよ。別に。
それよりも、古宮くんにとっての朗報が、もう一つあるわ」

そう言って白衣のポケットから取り出されたのは、およそ十数枚のカードの束だった。

栗須「！ これは……！？」

それを受け取った栗須は興奮を抑えきれず、はち切れんばかりに目を丸くしながらカード達に目を通していく。
その様子を見ながら、鈴音は嬉しそうにこう告げた。

鈴音「そのカード達は、あなたのデッキを強化するために、このラボで開発していたのよ」

栗須「…俺の…デッキを…？」

鈴音「……ええ。なんでも、シルバさんが色々手を回してくれてたみたいで」

栗須「…シルバさんが……！？」

鈴音「本当は貴方達の合宿のうちに間に合わせる予定だったらしいのだけれど、ホラ、予定外の襲撃があったじゃない？
それでちょっと遅くなっちゃったけど、シルバさんからのプレゼントよ」

受け取ったカードの中に、電気を帯びたダーク・シムルグのカードもある事を確認。そしてカードをまとめるとそれをデッキケースの中にしまい、深々と頭を下げた。

栗須「ありがとうございます！！」

鈴音「…お礼ならシルバさんに言って頂戴ね」

照れ臭そうに顔を背けつつ、「あ、そうそう」、と、思い出したように話を続ける鈴音。

鈴音「…そのカード達の開発には、ダーク・シムルグを纏ってる電気エネルギーの力も利用させてもらったの。
その工程で発覚したのだけれど、あの電気エネルギーは精れーーーーー」

話しながらふと目線を戻すと、栗須は雄叫びを上げながらエレベーターホールの方まで走って行ってしまっていた。

鈴音「あっ！！ちょっと！？
廊下は走らなぁい！！
ーーーーったく……」

鈴音はため息をつきながら白衣のポケットへ乱雑に手を突っ込むと、若干不貞腐れた様に大股でエレベーターホールへと歩いて行った。

鈴音「…鈴華もそうだけど、あれくらいの年頃はみんな元気ねぇ……」















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:２１３ーーー
《栗須の成長》















〜生命の樹 内部・知恵の間〜

【Side 栗須】


栗須【LP 8000】

機兵【LP 8000】



栗須「ーーーーー俺の先攻！！」[手札 5]

初めて回す新しいデッキ。
５枚の初手を眺めながら、必死に思考する。

栗須（…クソ…ッ…まだ手が震えやがる…！！
けど……、俺はーーーー）

栗須「…何もせずにくたばってたまるかよッッ！！」

力強く叫び、栗須は１体のモンスターを召喚させる。

栗須「ーーーー俺は…ッ、『雛神鳥 シムルグ』を召喚ッッ！！」


《雛神鳥
すうしんちょう
シムルグ》 †
効果モンスター
星１/風属性/鳥獣族/攻 0/守1600
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚に成功した時に発動できる。
このターン、自分は通常召喚に加えて１度だけ、
自分メインフェイズに「シムルグ」モンスター１体を召喚できる。
(2)：このカードが墓地に存在し、相手の魔法＆罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。
このカードを守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は鳥獣族モンスターしか特殊召喚できない。


現れたのは、黄緑色の羽毛に包まれた愛らしい姿の雛鳥。データに無いモンスターの登場に、機兵は目を光らせる。すぐにデータの収集を行うつもりの様だ。

『雛神鳥シムルグ』[ATK 0]

機兵「ピピ……ピ……」

しかし栗須もデータの収集を黙って待ってるほど馬鹿ではない。

栗須「…ッ！ 雛神鳥が召喚に成功した時！ 効果発動！！
俺はこのターン、通常召喚に加えて、『シムルグ』モンスター１体を召喚できる…！！
ーーーー続けていくぜぇ！！『招神鳥シムルグ』を召喚！！」[ATK 1000]

《招神鳥
しょうしんちょう
シムルグ》 †
効果モンスター
星２/風属性/鳥獣族/攻1000/守1000
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚に成功した時に発動できる。
デッキから「招神鳥シムルグ」以外の「シムルグ」カード１枚を手札に加える。
(2)：このカードが墓地に存在し、相手の魔法＆罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。
このカードを守備表示で特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は鳥獣族モンスターしか特殊召喚できない。


栗須「招神鳥の効果！！ 召喚成功時、デッキから『シムルグ』カード１枚を手札に加える…！！
俺は『神鳥の霊峰 エルブルズ』を手札に加え、発動！！」


《神鳥
シムルグ
の霊峰
れいほう
エルブルズ》 †
フィールド魔法
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：フィールドの鳥獣族・風属性モンスターの攻撃力・守備力は３００アップする。
(2)：手札のレベル５以上の鳥獣族・風属性モンスター１体を相手に見せて発動できる。
このターン、自分は鳥獣族モンスターを召喚する場合に必要なリリースを１体少なくできる。
(3)：自分フィールドに鳥獣族・風属性モンスターが存在する場合に発動できる。
鳥獣族モンスター１体を召喚する。


突風が吹き荒れ、エメラルドグリーンの薄羽が辺りに舞い落ちる。

栗須「…エルブルズが場にある限り、場の鳥獣族・風属性モンスターの攻守は３００アップする！！」

『招神鳥シムルグ』[ATK 1000→1300]

『雛神鳥シムルグ』[ATK 0→300]

更に、と、栗須は畳み掛ける。

栗須「ーーーー手札から、レベル５以上の風属性・鳥獣族モンスター『神鳥シムルグ』を公開し…ッエルブルズの効果発動！！
このターン、鳥獣族モンスターをアドバンス召喚するために必要なリリースがは１体分少なくなる！！」

機兵「……！ ダガ、オマエ ハ モウ召喚権ヲ使イ切ッターーーー」

機兵の言う通り、雛神鳥により得た召喚権も使い切っており、一見意味のない行動の様に見える。
しかしフィールドを舞う風はより勢いを増し栗須を後押しするーーーーー


栗須「…ハッ！ 高性能決闘マシーンが聞いて呆れるぜ！
ーーーーエルブルズの更なる効果！！」

機兵「……ッ…！」

栗須「ーーー俺の場に風属性・鳥獣族モンスターが存在する場合、１ターンに１度、手札の鳥獣族モンスター１体を召喚できる！！」

栗須の手元に風が集まり始め、やがてその“力”は、手札の神鳥へと宿り光り輝くーーーー

栗須「ーーーー巻き起これ…ッ！！ 嵐ッ！！
雛神鳥シムルグをリリースしーーーーーアドバンス召喚！！」

神鳥のカードを高く掲げ、流れる様な動作で決闘盤へと置いた。

栗須「ーーーー現れろ！！
『神鳥シムルグ』ッッ！！」[ATK 2700→3000]


《神鳥
しんちょう
シムルグ/Simorgh, Bird of Divinity》 †
効果モンスター
星７/風属性/鳥獣族/攻2700/守1000
このカードは特殊召喚できない。
このカードをアドバンス召喚する場合、
リリースするモンスターは風属性モンスターでなければならない。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いのプレイヤーはお互いのエンドフェイズ毎に１０００ポイントダメージを受ける。
この時、それぞれのプレイヤーが受けるダメージは
魔法・罠カードをコントロールしている数×５００ポイント少なくなる。


栗須を支え続けてきた“相棒”。
その巨大な神鳥の来寇と共に、一帯を強烈な疾風が縦横無尽に吹き荒び、荒れ狂う。

栗須「…俺にはわかるぜ……、シムルグ……。
お前も…！俺も…！
まだまだ強くなれる…ッ…！！
まだまだ高く飛べる…ッッ！！」

デッキから伝わる鼓動を確かに感じながら、栗須は呟く。

栗須「……怖くねぇ…ッ闘うんだ…ッ！！
カードを１枚伏せてターンエンド！！」[手札 1]

そしてターン終了時、神鳥は翼を大きく広げーーーー

栗須「ーーーーこのエンドフェイズ時、神鳥シムルグの効果発動ッ！！
互いのプレイヤーに１０００ポイントのダメージを与える！！
〝ゴッドトルネード〟！！」

死の風がフィールドを駆け巡り、両者に襲いかかる。
しかし栗須の場の伏せカード、そして『神鳥の霊峰エルブルズ』のカードが盾となったことで栗須には届かず、機兵にのみ直撃することとなった。

機兵「……ガッ…！」【LP 8000→7000】

栗須「…ハッ！ この時、魔法・罠をコントロールしてる数x５００、受けるダメージは減るのさ…！！
…つっても、そんなのはお得意の“データ”って奴でお見通しだろうがよ」

皮肉げに言いつつ、栗須のターンは終了。
迎える決闘機兵のターン。


◉TURN:０２◉


機兵「ーーーー私ノ ターンッ！！」[手札 6]

勢い良く引きつつ、スタンバイフェイズ。栗須はここぞとばかりに、揚々と伏せカードを発動させる。

栗須「ーーーーこの瞬間…！！ 永続罠発動ッ！！
『魔封じの芳香』ッッ！！」


《魔封
まふう
じの芳香
ほうこう
/Anti-Spell Fragrance》 †
永続罠
(1)：このカードが魔法＆罠ゾーンに存在する限り、
お互いに魔法カードはセットしなければ発動できず、
セットしたプレイヤーから見て次の自分ターンが来るまで発動できない。


発動と共に不思議な香りが風に乗ってフィールドを覆い尽くしていくーーーー
これにより、互いに魔法カードを発動するためには一度セットし、次のターンまで発動ができない。１ターンのテンポロスを押し付ける形となった。

機兵「……」

しかし機兵は動じる様子など見せず、栗須のその行動すら予めプログラムされていたかの様に機械的に、一枚のカードをノータイムで発動させた。

機兵「ーーーー手札カラ、罠カード『タイフーン』ヲ発動ッ！！

《タイフーン/Typhoon》 †
通常罠
相手フィールドに魔法・罠カードが２枚以上存在し、
自分フィールドに魔法・罠カードが存在しない場合、
このカードの発動は手札からもできる。
(1)：フィールドの表側表示の魔法・罠カード１枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。


栗須「……！？ 手札から罠カードだと…ッ！？」

驚く栗須の場に、竜巻が迫るーーーー

機兵「……コノ カードは、相手の場に魔法・罠カードが２枚以上アル場合、手札カラ発動デキル…！！
ソシテ ソノ効果はーーーー表側表示の魔法・罠カード１枚を破壊スル！！」

竜巻は栗須の場の魔封じの芳香を捉え貫いた。
衝撃に耐える栗須。魔封じの芳香の発動を予め予測されていた事、そしてあっさりと対策されてしまった事で、焦りを隠せぬ表情。
その隙を付くように、機兵は畳み掛ける。

機兵「…休ム暇ナド与エルモノカ…！！
私は『レプティレス・ナージャ』を召喚！！」[ATK 0]

《レプティレス・ナージャ/Reptilianne Naga》
効果モンスター
星１/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0
このカードは戦闘では破壊されない。
このカードがモンスターと戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、
そのモンスターの攻撃力を０にする。
また、自分のエンドフェイズ時、
フィールド上に表側守備表示で存在するこのカードを表側攻撃表示にする。


栗須「…攻撃力０のモンスター…！」

以前までの栗須なら舐めてかかっていたところだが、今は違う。秘めたる効果を警戒し、身構える。

機兵「更二！！ 手札の『レプティレス・ヒュドラ』の効果を発動ッ！！」


《レプティレス・ヒュドラ》 †
チューナー・効果モンスター
星２/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0
このカード名の(1)(2)の効果は１ターンに１度、いずれか１つしか使用できない。
(1)：このカードが手札に存在し、自分フィールドのモンスターが爬虫類族モンスターのみの場合、
相手フィールドの表側表示モンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力を０にし、このカードを特殊召喚する。
その後、自分はそのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。
(2)：このカードがＳ素材として墓地へ送られた場合、
フィールドの表側表示モンスターを２体まで対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力を０にする。


機兵「…コノ効果ニヨリ、オマエの場ノ『招神鳥シムルグ』の攻撃力を０にし、手札ヨリ特殊召喚！！」[ATK 0]

『招神鳥シムルグ』[ATK 1000→0]

栗須「…ッ…また攻撃力０のモンスター…！
それに俺のモンスターまで攻撃力が0に…！？」

しかしなぜ、攻撃力の低い招神鳥の方を弱体化させたのか、と栗須は考えるが、すぐにその答えも分かることとなる。

機兵「ーーーーソノ後、弱体化サセタ招神鳥シムルグの元々の攻撃力分のダメージを、私ハ受ケル」【LP7000→6000】

栗須「……！ 何もノーリスクで弱体化が行える訳じゃ無いってことか…！」


機兵「……マダ終ワリデハナイ…ッッ！！
私はレベル１の『レプティレス・ナージャ』に、レベル２の『レプティレス・ヒュドラ』をチューニングッッ！！」


栗須「……！！」

宣言と共に現れた光の輪を見て栗須は一歩後ずさる。


機兵「ーーーーシンクロ召喚ッ！ 現レヨ…ッ『霞鳥 クラウソラス』ッッ！！」[ATK 0]


《霞鳥
かちょう
クラウソラス/Mist Bird Clausolas》 †
シンクロ・効果モンスター
星３/風属性/鳥獣族/攻 0/守2300
チューナー＋チューナー以外のモンスター１体以上
１ターンに１度、相手フィールド上に表側表示で存在する
モンスター１体を選択して発動できる。
ターン終了時まで選択したモンスターの攻撃力を０にし、その効果を無効にする。


栗須「…っ……シンクロモンスター…ッ…！！
実際に見るのは、戒のヤローとのデュエルん時以来か…ッ…」

思い返しながら、またも攻撃力０のモンスターを攻撃表示で展開して来たことを不気味に感じ、栗須は警戒を強める。

機兵「ーーーーこのカードこそ…私ノ分身デアリ……私ノ生まれた意味……ッ…！！」

言いながら機兵は、不敵に笑う。
表情は読み取れないが、黒焔を吹かしながら小さく頭を揺らすその姿が栗須には笑っているように見えたのだ。

機兵「…お前の場の『神鳥の霊峰エルブルズ』の効果ニヨリ、風属性・鳥獣族モンスターである『霞鳥クラウソラス』の攻守は３００ずつアップするッッ！！」

『霞鳥クラウソラス』[ATK 0→300]
[DEF 2300→2600]

栗須「…！！ 何…っ…！！」

機兵「……断絶の刃ヲ受けるがイイッッ！！」

叫び、機兵は右手を突き出した。

機兵「クラウソラスのモンスター効果！！
神鳥シムルグの効果をターン終了時マデ無効化し、攻撃力を０にスルッッ！！」

放たれた鎌鼬を受けたシムルグは力無くその場に横たわってしまう。

『神鳥シムルグ』[ATK 3000→0]

栗須「…ッ…シムルグッッ！！」


機兵「ーーーー更ニ！！
私ハ手札カラ装備魔法『霞の霊剣ークラウソラス』を『霞鳥クラウソラス』に装備！！」


《霞の霊剣ークラウソラス》＊Ph.X Original Cards
装備魔法
「クラウソラス」モンスターにのみ装備可能。
①装備モンスターの攻撃力は、その元々の守備力分アップする。
②装備モンスターの攻撃で攻撃力０のモンスターを破壊した場合に発動できる。装備モンスターは続けて攻撃できる。この効果は１ターンに２度まで使用できる。


おもむろに発動されたのは装備魔法、『霞の霊剣ークラウソラス』。その剣を咥えた霞鳥は霊気に包まれ、その攻撃力を上昇させるーーーー


『霞鳥クラウソラス』[ATK 300→2600]


栗須「……！！」

慄く栗須に、霞鳥は進撃する。

機兵「ーーーーバトル…！！
クラウソラスで招神鳥ヲ攻撃！！」

『霞鳥クラウソラス』
[ATK 2600]
ーーーVSーーー
[ATK 0]
『招神鳥シムルグ』

霊剣により強化された霞鳥の一閃は一瞬で招神鳥を斬り裂き、直接攻撃と同じだけの超過ダメージが栗須の身体を痛めつける。

栗須「ぎぁぁああっっ！！！」【LP 8000→5400]

しかしこれだけでは終わらない。霞の剣は次なるターゲットへと狙いを定めた。

機兵「ーーーー『霞の霊剣ークラウソラス』の効果！！
攻撃力０のモンスターを戦闘で破壊シタ場合…！ 装備モンスターは２度、続けて攻撃スル事がデキルッ！！」

栗須「……ッッ！！ なんだと…ッ！？」

機兵「神鳥シムルグを攻撃！！」


『霞鳥クラウソラス』
[ATK 2600]
ーーーVSーーー
[ATK 0]
『神鳥シムルグ』

風の如く舞う剣は続けて神鳥までも斬りつけ、先程と同等の痛みが再び栗須を襲う。

栗須「ぎぐ…ッッぁぁっぁああぁっっっっ！！！」【LP 5400→2800】

痛みを必死に堪えながらなんとか立ち、迫り来る霞鳥を栗須は睨む。

『霞鳥クラウソラス』[ATK 2600]

栗須の専売特許である風の力をいいように操り疾走してくる霞鳥。
間もなくして、霊気を帯びた剣による剣舞が直接栗須を斬り刻んだ。


栗須「ーーーーーぃぎぅぁぁああああぁあああッッッ！！！」【LP 2800→200】


息もつかせぬ連続攻撃。
それにより栗須のライフは風前の灯ーーーーそのダメージ全てを現実の痛みとして受けた栗須は、うつ伏せに倒れこんでしまう。


栗須「……ッ…！」

機兵「……私はカードを２枚伏せ、ターンエンド。
モットモ…、コレハ闇の決闘ーーーーアレダケのダメージを受ケレバ、これ以上の続行は不可能ダト思うがナ……」[手札 0]


栗須「…く…ッッ………！」

機兵の言う通り、身体が動かない。

これほどだとは思わなかった。

火群たちはこんな過酷な状況で戦ってきたのか。

栗須「…らしくねーこと、するもんじゃねーなァ……」

そんな想いが巡る中、栗須は己の情けなさに思わず涙を流す。


栗須「……結局………ッ…俺はーーーーー」


何一つ、成長していない。

明日人や火群に追いつけないままのーーーーーダメなヤツなんだ。




栗須「…………いやーーーーー」



違う。


違ぇ違ぇ違ぇ違ぇ違ぇ！！


栗須「……ッ……」

何のためにここに来た？

わざわざ死ぬために来たのか？

違うだろ。

守らなきゃなんねーんだ。

栗須「…ッ……俺たちのーーーーー」


ーーーーー日常を。


栗須「…俺に……ッッ…力を……ッッ戦う為の力をくれ…ッッ！！！ くれよォ！！！！」


負け続けても、這いずってでも、何度でも立ち上がる。


栗須「“あいつら”みたいになれるーーーー力をッッ！！！」











『ーーーーー面白い』










ふと聞こえた、男の声。



栗須「……っ…！？ 誰だ……ッ…！？」

呼びかけると、どこからか返事が返ってきた。



『ーーーーワタシは『シムルグ』。キミのカードの精霊だ』



『シムルグ』ーーーーそう名乗る声は、栗須のデッキの中より発せられていた。
栗須は突っ伏したままなんとか動く右手をデッキの方へ。すると暖かい何かが、体の中に流れ込んでくる様な不思議な感覚が栗須を包むーーーー


栗須「…！！ 本当に…ッ…シムルグなのか……！？ それに、精霊ってーーーー」

シムルグ『詳しい話は後だ。栗須。
……キミの“意思は、しかと受け取った。
チカラを貸そうーーーーー闘うぞ』

栗須「……でも…ッ、ーーーーー！？」

身体が動かない。そう言いかけたところで、異変に気付く。

栗須「ーーーーー軽い…」

先程のダメージが嘘だったかの様に、全身が、軽い。

機兵「……馬鹿ナ…ッ……アレホドノ攻撃を受けテ、立ち上がるダト……ッ…！？
ソレニこの反応ハーーーー精霊カ…ッ…！！」

ゆっくりと立ち上がり、栗須は不思議そうに自身の体をペタペタと触り確かめる。

栗須「…薄っすらと黄緑色に発光してら……もしかしてコレが……っ、火群達が言ってた『具象化-ﾄﾗﾝｽ-』ってヤツか！？」

精霊と心を通わせ、一時的に同化することによって身体能力を向上させた状態ーーーー『具象化-ﾄﾗﾝｽ-』。
栗須もまさか自分がそれだけのことをできるほど成長していたとは思っておらず、思わず心を躍らす。

シムルグ『…具象化……この世界だとその様に呼ぶのだなーーーーまぁいい。ワタシと具象化した事でキミの身体能力は大幅に底上げされた。
ーーーー決闘続行だ」

栗須はデッキに眠るシムルグに無言の笑顔で答え、デッキの上に指を乗せた。

栗須「いくぜいくぜいくぜいくぜぇっっっ！！！」


◉TURN:０３◉


栗須「ーーーー俺のターンだッッ！！！」[手札 2]

勢い良くカードを引き抜き、横目で確認。

栗須「…！ このカードなら……！！
『招神鳥シムルグ』を召喚！！」[ATK 1000→1300]

機兵「……またそのカードか…！ シカシ残念ダガそのカードのデータはすでにダウンロード済み……ッ！ 足掻くだけ無駄ダ…！！」

栗須「…やってみなきゃわかんねーぜ…！！
『招神鳥シムルグ』の効果！！デッキから『シムルグ』カードを手札に加える！
俺が手札に加えるのは、魔法カード『神鳥の来寇』ッッ！！
ーーーーそして発動ッ！！」


《神鳥
シムルグ
の来寇
らいこう
》 †
通常魔法
このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
(1)：手札から鳥獣族モンスター１体を捨てて発動できる。
デッキから「シムルグ」モンスター２体を手札に加える（同じ属性は１体まで）。
(2)：墓地のこのカードを除外して発動できる。
手札の鳥獣族モンスター１体を相手に見せる。
このターン、そのモンスター及び自分の手札の同名モンスターのレベルを１つ下げる。


カードの発動と共に辺りを疾風が駆け巡り、暗雲が栗須の頭上で影を落とす。

栗須「俺は手札から鳥獣族モンスター『死神鳥シムルグ』を墓地へ送り、デッキから２体の属性が異なるシムルグを手札に加える！！！
俺が手札に加えるのはーーーーー」


片方は、影絲の呪縛により一度は深淵に堕ちた“闇”の力ーーーー鋭く鋭利な漆黒の翼。

栗須「ーーーー『ダークネス・シムルグ』！！！
そしてーーーー」

もう片方は、痛みも、迷いも、躊躇いも、全て吹き飛ばす“風”の力ーーーー希望に満ちた翡翠の翼。


栗須「ーーーーー『烈風の覇者 シムルグ』！！！！」[手札 2]


栗須は２枚のカードを手札に加え、それと同時に、黒と白、２色の烈風がフィールドを覆い尽くした。

機兵「……ッッ…！！」

機兵は思わず身を固めるが、その中で栗須はただ高笑いを響かせる。


栗須「ーーーーはァっっはっはァ！！！
高性能決闘マシーン様よぉ…！ おめーには特等席で見せてやるよ…！！」

機兵「……！！」


栗須「俺のーーーーいや、俺たちのデュエルをなァ！！！」



それは心の底から決闘を楽しむ者の笑い声だった。





To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:２１４ 烈風の覇者






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙