DRAW:１８４ -YAGAMI-　作：人喰い

(184)







〜積木町・ネットカフェ〜



【Side 火群】


爽香「ーーーー２人ともお帰りぃぃぃ！！」


２０８番の扉を開けると泣きそうな顔の爽香が、小声で叫びながら俺たち二人を迎え入れる。


和泉「…た、ただいま帰りました…」

火群「……し、失礼します」


爽香「…もう……！ 和泉ちゃん、心配したんだからぁ…っ…！
無事でよかったけど」

和泉「…ぅぅ……すみません…」

爽香「……びっくりしちゃった。
和泉ちゃんってば、大人しそうに見えて、意外と行動的なんだから。
……これは誰かがちゃんと見てあげなきゃだね〜…」

爽香は横目で俺を見ながらニヤつく。俺はなんとなく気恥ずかしくなって目を逸らした。

和泉「…！ こ、これから気をつけますからっ！」

爽香「…ホントぉ〜？」

和泉「ほ、ほんとですってっ！」


火群「…ははは…、じゃあ確かに送り届けたんで、俺は病院に戻るよ」

そう言って踵を返したその時。

和泉「…ま、待って…」

消え入りそうな声と共に服の裾が引っ張られる。

火群「…ん、どした？ 和泉ーーーー」

首だけで振り返ると、和泉は顔を伏せて俺の服の裾を必死に掴んでいる。


和泉「……朝まで居ることを…、と、と特別に、許可してあげてもいいよ…？ 火群くん」

顔を伏せたまま言う和泉の声は微かに震えていて、それがどういう事なのかは俺にも分かった。

火群「……っ…」

彼女はいつも気丈に振る舞っているが、普通の女の子なんだ。
凶悪な奴等に襲われかけて。
傷ついた友達の姿を目の当たりにして。
慕っていた先輩が敵だという事実に直面してーーーー
平気なはず……無いじゃないか。




火群「…和泉…っーーーーー」

声をかけようとしたが、和泉はそれを遮る。

和泉「何も言わないで…っ！
……あ…ぅ…、ごめん…。
……今はただ……ここに居てーーーーー」


緊張の糸が切れたかの様に足を崩す和泉を見て、俺はその場に無言で座り込む。

火群「……」


そして眠りについた和泉に毛布をかけてやると、目を瞑った。











爽香（………え……、何これ……居づら……っ！）






ーーーーー


ーーーー


ーーー




＊＊＊




〜積木町総合病院・病室〜





戒「ーーーーーッッ…！！！」


戒は目を覚まし、勢いよく身体を起こすと周囲を確認する。


戒（……なんだ…？ 今……確かに近くに誰かがいた様なーーーーー）

辺りには誰もいない。

戒（身体の痛みも消えている……ッ……！？ どういうことだ……！？）

身体を起こした際に１枚のカードがひらひらと宙を舞い、床に落ちた。

戒「……っ…」

戒はそれを拾い上げ確認する。


戒「…ッ…！
……『女神の加護』ーーーーー」














◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１８４ーーー
《-YAGAMI-》














ーーーー翌朝。



〜積木町・ネットカフェ〜



和泉「……すー…すー…っ…」


火群「……」

和泉「…っ…！(……ぁ……わたし、いつのまにか寝ちゃってたんだ…)

寝ぼけ眼を擦りながら顔を上げると、すぐ目の前には火群の姿。


和泉「…っ！！？ ぅぉぅ！！？」

和泉は両手を上げて飛び起きる。

火群「…！？ びっくりしたぁ……っ…急に大きい声出すなよっ！」

和泉「う、うっさい黙って！」

寝起きを見られた恥ずかしさのあまり和泉は火群に背を向け、脈絡の無い罵倒を交えつつ手櫛で髪を整える。

和泉（…っていうか昨日シャワーも浴びてなかったし……っ…！！ 最悪……っっ）

火群「ぅ……。
…お、おはよう。和泉」

和泉「………おはよ、火群くん」

背を向けたままムスッとした口調で答える。

和泉「…ていうか、なんで火群くん…病院に戻ってないの…？」

火群「…え……、と…、それは和泉がーーーーー」

火群がそこまで言ったところで、和泉はふとなにかを思い出したように肩をビクッと揺らす。

和泉「……ぁ…」

そして昨晩の記憶が、より鮮明に蘇ってくる。



ーーーー


ーーーーー




和泉「何も言わないで…っ！
……あ…ぅ…、ごめん…。
……今はただ……ここに居てーーーーー」




ーーーーー


ーーーー


和泉「〜〜〜っっっ……！！////」

急にその時の自分を思い出したためか、沸騰したヤカンの如く真っ赤になる和泉。

和泉「……ここでの事は忘れて！？ いい！？」

火群「…は、はい…っ！」

反射的に返事をする火群。


和泉「……でさ…、私が寝てる間…、変なコトしてないよね…？」

火群「…！！！！ っし、しししてないって！」

和泉「…怪しすぎるから肯定って事でいい？」

火群「ほ、本当にしてないってば！」

和泉「……じーーーー…っ」

疑惑の眼差しを向けられる火群に、どこからか現れたニクスと千愛が助け船を出す。

ニクス「…火群の言っていることは本当だぞ。和泉」

千愛「……ええ、私たちずっと見てたしね」

和泉「…そ、そうなんだ…っ。
疑ってごめんね…、火群くん」

火群「……ほっ…」


ニクス「…ただーーーーー」

和泉「ただ？」

火群「……っ！」


ニクス「ほっぺに触れようとした回数、3回」

和泉「…！！」

千愛「…綺麗な生足に触れようとした回数、5回」

和泉「…！？」

ニクス「…ショートパンツに手をかけようとした回数、14回」

和泉「……！！？」

千愛「…可愛いお尻に触れようとした回数、6回」

和泉「…！？///」

ニクス「………ペチャパイに触ろうとした回数、12回」

和泉「っっ！！？？///
（わざわざペチャパイって言う必要あった！？)」

千愛「…………神聖なる足の付け根を触ろうとした回数、38回」

和泉「ズバ抜けて多いっ！！////」

ニクス「…そして、自慰行為を試みた回数、11回ーーーーー」


和泉「……………」



千愛「…全部私たちが止めておいたわ」


火群「……あ…ははは…」


和泉「…さっきの謝罪は撤回」



その後、ひ弱なパンチの嵐が火群を襲ったのは言うまでも無いーーーー









ーーーーその頃の明石 爽香。



〜シャワールーム〜



爽香「…ふんふふ〜ん♪ ふっふふっふふ〜ん♬」


爽香「………えっ！？ 私の出番これだけ！？
しかもセリフだけじゃ全くサービスシーンにもならないじゃん！！
ちょ…っ待っtーーーーー」










＊＊＊




【Side 火群】



ーーーーー時刻は昼過ぎ。


メアリーさんに呼ばれた俺は、急ぎYAGAMIの本社ビルへと足を運んでいた。


〜YAGAMI本社ビル〜





火群「ーーーーーあの時、以来か…」


約2週間前、精霊王に召集された俺達は、この場所で精霊を持つ決闘者達との交流戦を行なっていた。

火群「……」

そしてその夜、黒焔による襲撃があったが、なんとかそれらを撃退する事ができたのだったーーーーー


火群「…けど、メアリーさん。なんで俺だけ呼び出されたんですか？」

メアリー「実は、ある人からのご指名でねーーーーー」

火群「ある人……？」


進んでいくと、厳格そうなスーツ姿の男性と話すシルバさんの姿があった。



シルバ「ーーーーーむ、来たな。メアリー=ベイクウェルに、…市瀬 火群」



火群「……！」


メアリー「お疲れ様です。シルバさん。
ーーーーー八神社長」


火群「……！！」

この人がーーーーYAGAMIの社長……！！


八神「ーーーベイクウェル君、久しいな」


思わず息を飲む。
それもそのはず、彼の放つ威圧感は常人のそれではなく、そして何より視界に入るーーーー不自然に垂れ下がった両袖には覚えがあった。


火群「ーーーーっ…！」


……あの袖の中にーーーー腕は存在しない……っ…！

その光景に和泉や結維の姿を重ね、胸が痛む。



八神「ーーーーーそして君が、市瀬火群か」

火群「…！」

まるで感情の感じない無表情で、社長は俺を見据える。


火群「……はい」


八神「…ワタシは『八神 コウ』ーーーーー。
君のことはシルバから聞いている」


火群「……！！」


八神「未知なる召喚法ーーーー〝ライズ召喚〟の使い手にして……不死鳥のカードの持ち主…。一度会いたいと思っていた」

火群「……ありがとう、ございます」

どこかぎこちないお礼の言葉に続けて、先程からの疑問が思わず口から漏れる。

火群「……その……“腕”はーーーーー」

そのあまりに無礼な質問に、社長は表情一つ変えずに答えた。

八神「……これか…？ これはーーーー“代償”だ」

火群「……っ…！」


八神「……しかし、日常に不便があるわけでは無いーーーーー」

火群「……！？」


そして次の瞬間、目を疑う光景を目の当たりにする。


火群「ーーーー！」


社長の着ているスーツの右袖と左袖が一瞬にして膨らみ、袖口から機械の腕が現れた。


八神「…何を驚いている…？
君だって同じ事が出来るはずだ」

火群「……！！」

その言葉を聞き、ハッとして背後のニクスと目を合わせる。


火群「ーーーー精霊の…、力……！！」


決闘盤を生成したり、身体能力を向上させたり以外に、こんな事もできるのか……！


八神「…そう、精霊の力を借り、その力をこの身に宿したのだ。
我々はこの現象をーーーーー《具象化-ﾄﾗﾝｽ-》と呼んでいる」


火群「《具象化》……っ…！！」


メアリー「しかも社長は…、複数の精霊と同時に《具象化》している…。これは、簡単にできることじゃ無い」

シルバ「……膨大な集中力と、豊かな想像力が無ければ、成し得ない技だ」


八神「…あんまり褒めないでくれ。照れるのでな」

火群「……一度に２体の精霊と心を合わせなきゃいけないのか……、凄すぎる……っ…！」


八神「…おや、２体だけとは言っていないぞ？」

火群「ーーーー！！」


その言葉に驚いたのも束の間、社長の背後から途轍もない霊気と共にーーーーー精霊が姿を現わす。


数は全部で１０体。
どれも、精霊らしさの感じない、機械の様な見た目をしていたーーーーー



八神「…紹介しよう。
ーーーーーこれらは『クリフォート』と呼ばれる存在だ」


火群「…クリ…フォート…！」

ずっと感じてた威圧感は、この精霊達のものだったのか……！


八神「…ワタシは両腕だけでなく、頚椎、鎖骨、背骨、右肺、膵臓、右大腿骨、左脛骨が、使い物にならないレベルまで損傷しているーーーー」

火群「！！！」

八神「ーーーーそしてそれら全てを、１０機の『クリフォート』と《具象化》する事で補っているという訳だ」

数秒姿を見せたクリフォート達は、すぐに社長の体内に吸い込まれるように入っていく。


火群「……っ…！」

衝撃的な事実に空いた口が塞がらない。


八神「……少し、無駄話がすぎたかな。
ーーーー場所を移して、本題に入るとしよう」


火群「…！」





八神「我々が産み出してしまったーーーーー『煉獄の悪魔』の話だ」








To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１８５ -Qliphort-






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙