DRAW:１７３ 絶望の淵　作：人喰い

(173)



〜決闘機兵ファクトリー・1F階段前〜


鈴華「……はぁ…っ…！ はぁ……っ！」

右側通路から走ってきた鈴華は、地下のフロアへと向かうべく階段を駆け下りていく。

鈴華「…合宿での走り込み…、無駄じゃありませんでしたわね…っ…！」

合宿での出来事を振り返るも束の間、走る鈴華の背後に、星が煌めいた。


鈴華「……っ…！？」


薄暗い通路の中、背後で瞬いた光に反射的に振り返るーーーー




星奈「ーーーーーっみぃーつけたっっ！！☆」


鈴華「…！！！（……嘘……っ！？ こんなに早く追って来るなんてーーーーっ）」


振り返った瞬間、星奈の周囲を漂う光球が鈴華の足元に降り注ぐ。

鈴華「…っ！！」

その攻撃によって階段は崩れ、鈴華は前方にバランスを崩して転がり落ちてしまう。


鈴華「…うっ！！ ……がっ……ッぎぁ…ッ！」


苦痛の声を上げながらも、鈴華はなんとか立ち上がり、再び走り出す。

鈴華「…ッ…っはァ…ッ…！ はぁ……っっ！」

そして前のめりになりながらもフロアの扉を開き、その先で振り返り立ち止まった。


星奈「………！！」

鈴華を追って飛行して来た星奈が扉を潜ったその瞬間、扉は固く閉ざされる。

そして扉を越えた一室には、10数名の決闘者達が待ち構えていたーーーー。




男性「…自ら大変な役を買って出てくれてありがとう。鈴華ちゃん。
そしてよく頑張ったーーーー後は僕らに任せるんだ」

鈴華「…はぁ……っ…はぁ…っ…っ…！
お願い……しますわ…っ…！」


星奈「………」

星奈はムッとした表情で周囲を見渡す。

星奈「……ここにも“でゅえるろいど”は無いのかぁー」

鈴華「…残念でしたわね…！ ここは行き止まり…っ…！ ここに閉じ込められたあなたは決闘機兵の元へは行けませんわ…っ！」

鈴華は星奈に指差して言ってみせるが、星奈は残念がるどころか、けたけたと笑う。

星奈「……残念…？ ううん、むしろあたしにとってはラッキーだよ…っ！」

奥に猟奇的な何かを秘めたーーー無邪気な笑顔で。


星奈「ーーーーだってここでなら思いっきり暴れても、“でゅえるろいど”を壊さずに済むからね…っっ！☆」
















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーDRAW:１７３ーー
《絶望の淵》















＊＊＊



鈴華「………え……っ……？」


５分後。

星奈に挑んだ１３人が、全滅した。


星奈「……っ☆」


闇の決闘空間が解かれるとそこには、鮮血が飛び散り、決闘者達は星奈の前に倒れ伏し、まさに地獄絵図と化していた。


男性「………鈴…華……ちゃ…ん……ッ…ッ！
逃げ……ろ…ッッ……！」

頭から血を流し倒れる男は最後の力を振り絞り、鈴華に逃げるよう促す。

鈴華「…ぁ…ぁぁ………っ…！」

鈴華は未だ信じられないその光景に、思わず涙をこぼし震える足で後ずさる。

鈴華（……ダメだ……っ…勝てない……っ…！ 殺される……っ！！）


星奈「……きゃはは…っ！ 精霊いっぱい手に入ったーっ☆
マイン様褒めてくれるかなっ♫」

星奈は無邪気にはしゃぐ。
しかし子供の様な素振りも、血痕の広がるこの状況ではただただ不気味にしか映らず、更に恐怖心を煽っていく。

鈴華「………っ……！」


だがそんな時、鈴華の脳内に蘇ったのは、２年前の記憶ーーーー


鈴華「……（なんで……、こんな時に………）」




〜〜〜〜〜



【Side 鈴華】


ーーー２年前。



鈴華「……」

私は当時１２歳。
今の様に茶髪のツインアップロールではなく、肩下まで伸ばした黒髪ストレートだった。


鈴音「…元気ないわね、鈴華。学校で何かあった？」

鈴華「………男子がわたしのこと、『陰キャ』って馬鹿にしたの」

鈴音「うんうん」

鈴華「それでムカついたから決闘でボコボコにしてやったらその男子が泣きだしちゃって」

鈴音「あらら」

鈴華「…私が悪いって事になった。……最悪。
…もう学校行きたくない……」

鈴音「…因みに、どんな勝ち方したの？」

鈴華「…………先攻ファンカスノーレ」

鈴音「……。
ま、まあ、それはいいとして、学校にはちゃんと行かなきゃダメよ。
…学費が勿体無いでしょ」

鈴華「…急にリアルなお金の話！？
……ぅぅ…、それ言われると何も言い返せない……。けど、また学校で嫌な思いするのも嫌なの…」

鈴音「…で、“逃げ”って道を選んだわけ」

鈴華「……うん。だってその方が……楽だって思ったから」

鈴音「…あのねぇ、鈴華。人生そう上手くはいかないものよ。
時には困難に立ち向かわなきゃいけない時だってあるわ」

鈴華「……自信ないよ…。人と話すのも苦手だし…」

鈴音「………じゃあ私が、鈴華にとっておきの魔法をかけてあげる」

鈴華「…魔法……っ…？」



そして１時間後。
私の後頭部には２つのロールが巻かれていた。

鈴華「…わぁ…！ ママとお揃い…っ！」

嬉しそうにはしゃぐ私を見て、ママも自分の事の様に喜んでいたのを、今もよく覚えてる。

鈴華「お嬢様になったみたい…っ…！
……ですわっ！ なんてね…っ」

鈴音「いいじゃない。私もこの町に来るまでは『ですわ』なんてよく言ってたけど、案外自信が付くものよ」

鈴華「…えーっ、流石に恥ずかしいよ」

鈴音「…ちょ、ちょっとぉ！ それじゃ昔の私が、まるで恥ずかしい奴みたいじゃないっ！」

鈴華「そ、そうは言ってないって！」

鈴音「…もう…っ、誰に似たのか……」


鈴華「………ママ、ありがとう。私、学校この髪型で行ってみる。なんか、少し自信ついた気がする」

鈴音「…そう、良かった」

鈴華「……それで、ママ。髪型……毎朝セットして欲しいんだけど……いい？」

鈴音「…もちろんよ。
鈴華のためだったら何でもするわ」

鈴華「…ありがとうママぁ…っ！」


私にとって“強さ”の象徴はいつもママで、そのママに近づく事で少しでも強くなれる………そんな風に思った。



鈴音「……私はあなたに対して全力を尽くす。
だから鈴華もいつか…、“誰か”の為に全力を尽くせる、……そんな人間になるのよーーーーー」





〜〜〜〜〜





鈴華「……」


星奈「……美味しそうな頭のおねーちゃんは精霊持ってないんだっけ」


鈴華（……私……まだ…）


星奈「ならおねーちゃんと遊ぶ意味なんてないんだけどーーーー」


鈴華（……全力………尽くして無い……っっ…！！）


星奈「ーーーーま、いっか☆
…おねーちゃんもあたしの『夜空の一部(ｺﾚｸｼｮﾝ)』にしてあげる…っ！！」



声は震え、顔は涙でぐちゃぐちゃだが、鈴華はそれでも、精一杯笑ってみせる。



鈴華「ーーーーー望む……ところですわ…っっ！！！」




鈴華【LP 8000】

星奈【LP 8000】


鈴華（…勝てないかもしれない…！ 死んじゃうかもしれない…っ…！）


鈴華（怖くて恐くて堪らないけど…っ…、
それでも………それでも私は……っっ！！）



「「ーーーー決闘！！！」」



鈴華（ーーーー逃げた事を一生後悔したまま……生きたくないっっ！！！）








…………

………………




〜決闘機兵ファクトリー・２F通路〜



地下への階段が崩れていた為、雫は上の階の班と合流する事になっていた。

雫「…はぁ…はぁ……っ！ 急がないと…っ…！」


しかし、息を切らし走る雫の後方から、蒼き影がーーーー

雫「…！！ もう追ってきて……！？」

ーーーー雫の横を抜けて通り過ぎて行った。


雫「……っ…！！ どういう……事ですか…！？」

通り過ぎた黒ローブの少女は浮遊したまま物凄いスピードで進んで行き、あっという間に姿が見えなくなってしまう。

雫「…精霊を持たない決闘者に構っている暇は無いという事でしょうかーーーー」

雫「……と、とにかく私も急いで追わないと…っ…！！」







＊＊＊




通路を抜けた先、決闘機兵の性能チェックをするための決闘場。


雫「………！！！」


あちこちに倒れる、決闘者達。


雫「……そん……な…っ…！」


計８人。全員が血を流し気を失っている。
他の人物は見当たらない。


雫「ーーーなんで……っ…！！ なんでですか……っ…！！
……なんでまた、こんな思いをしなきゃいけないんですか……っ！！」

雫は誰にというわけでもなく、叫ぶ。

雫「……ぅぅ……うぅ…っ…！」

雫（……けど、今の私には……、この人たちを助けられるかもしれない……っ…！）

涙を堪えながら、爽香に救護班を呼ぶよう連絡し、倒れる決闘者達を部屋の端の方まで移動させる。

雫「…はぁ……はぁ…っ…！ まだみんな息はある…っ…！
あ…っ…、止血…しないと…！！」


止血をする為に、ハンカチを取り出すが、持ち合わせの１枚だけでは８人分は到底足りない。

雫「……こうなったら……っ！」

雫はハンカチを、そして着ている服の裾を破っていく。

雫「……まだ、足りない…！」

スカートの裾も破って使う事で、なんとか８人分の処置に当てることができた。

雫「…これで……大丈夫…っ…！ けどあくまでも応急処置…っ…！
救護班が到着するまで、待っていてくださいね……っ……！ 私は、みなさんの分まで、闘ってきます……っ…！」


闘う決意と共に、雫は再び走り出す。


雫「ーーーーもう…、私の故郷が終焉の焔に焼かれたあの時と……っ…！
同じ想いはしたくありません……っ！！」







To Be Continued…






《次回予告》




「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１７４《私の中の白と黒》






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙