DRAW:１７ 二人で紡ぐ僕らの物語　作：人喰い

友達なんていらない。

そう思う“俺”と。

友達が欲しい。

そう言う“僕”。

その二者が、いつも自分の中で淀み渦巻き鬩ぎ合い、自分を掻き立てる。
欲しいのに、手にいれたら壊してしまう。そんなどうしようもない感情に、押しつぶされそうになるのだ。
逃げないと決めたあの日から、大切なものを失った途端に、何もかもから逃げたくなった。現実から目を背けたくなった。
人とーーー関わりたくなくなった。
それでも、俺と同じ思いをするやつが増えることはもっと嫌だから、倉川明日人ーークラースとは、前までと変わらぬ関係を通している。“生死を共にする仲間”なんて洒落た関係だと俺は口にするが、実際のところは、“親友”と呼べるほどの仲だと、俺は思っている。クラースが俺のことをどのように思っているのかは、わからないけど。

考えれば考えるほど、自分の中に新たな不安が無数に生まれ、息が詰まりそうになる。
俺は一体、何がしたいのだろう。
自分以外の誰かの為に。
自分以外の誰かに合わせ。

ーーー“自分”は一体、何処へ消えてしまったのだろう。









遊戯王 Ph.X DRAW:１７
《二人で紡ぐ僕らの物語》









ーーー……ら……んっ！


ーーー…むら……く…んっ！



和泉「ーーー火群くんっ！！」


火群「ーーーっっ！！」

ガバッ！

和泉の呼びかけで俺は目を覚まし、勢いよく身体を起こす。


和泉「…！！ 良かった……火群くん…！」


火群「……痛っ…！ そうか、俺は……和泉に憑依したチアガールとデュエルしてて………って、和泉！？ お前、大丈夫なのか！？」

安堵の表情で正座して俺を見つめる和泉を見て、俺はつい、昔の感覚で話をしてしまう。
この和泉とこの俺は、今日初めて出会ったばかりの“知り合い”程度の関係だというのに。

火群「…あ……えと、大丈夫ですか…？ 和泉さん」

ここで言い直してももう遅かっただろうが、それでも俺はなんとなく、言い直した。
すると、和泉は一瞬キョトンとしたかと思うと、昔と変わらぬ笑顔で応じた。けたけたと笑いながら。


和泉「……あはははっ！ 君は面白いね、火群くん！ 全然タメ口でも構わないよ♬」

無邪気に笑う和泉。
二年前、最初に彼女と知り合った時にも、同じような事を言われた気がする。
俺はその笑顔に対して、「あ、ああ」などと、二年前と同じように素っ気ない風に応えるのがやっとで、更に、そんな昔の事を思い出していると喉が震え、自然と泣きそうになる。
それでも俺は感情を必死に抑え、改めて事実を再確認する。

２年前ーーー２００５年の春から、同じ年の秋までの、俺と和泉が過ごした約１年を、和泉は覚えていない。

その１年は、俺たちにとっては物凄く大切な１年だったというのに。


ニクス（………火群）


そこで、頭の中に聞き慣れた声が響く。ニクスの声だ。今は精霊体に戻ってる。
そういえば、俺が倒れた時、ニクスが俺のデュエルを引き継ぐって言って………和泉が無事って事は、勝ったのか？

火群（……ニクス。お前ーー）

ニクス（安心しろ。私はちゃんと勝利した。《狂気な凶器》ダーク・フェアリー・チア・ガールは、もう和泉の中にはいない）

火群（…そっか、良かった。……え、えと、ニクス）

ニクス（なんだ？ 火群）

火群（あ…ありが……と…う、な）

ニクス（…声が小さくて聞こえないな）

火群（イラッ☆ べ、別にお前の助けとかいらなかったし！）

ニクス（もう少し素直になったらどうだ？ ほぅら、素直に私のおっ○いが吸いたいと言ってみろ）

火群（貴女のおっ○いが吸いたいです）

ニクス（そこは素直なのかっ！？）


和泉「ふ〜ん。火群くんは大きいのが好きなんだ？」


火群「ファッ！？」

会話が聞かれてた…だと？
いやでもあれ？ ニクスは精霊体だし、俺たち心の中で会話してたよな…？
ってことはまさか……。

ニクス（そういえば火群。言い忘れていたが和泉はデュエルモンスターズの精霊が見えるらしい。勿論、簡易テレパシーでの会話も筒抜けだ）

火群「それを先に言ってくれよっっ！ ……って、ああ…っその、和泉。誤解だ。“僕”はお前くらい小ぶりの方が好み……」

和泉「……っ！ だ、誰が断崖絶壁の永久貧乳よーっ！！」

火群「何もそこまでは言ってないよ！？」

和泉「ふ〜んだ。火群くんのばか」

和泉は可愛らしく頬を膨らませて、半泣きになって俺を罵倒する。言いながら、正座していた足が痺れたのか、足を崩す。
そしてすぐに表情を元に戻し、和泉は話し始める。

和泉「……でもビックリしたな〜。ニクスさんがカードの精霊だったなんて」

火群「…姉弟なんて嘘憑いてごめん」

和泉「いいっていいって！ あのばはああ言うしかなかっただろうし！」


そんな風に明るく和泉は言う。
ちょうどその時だ。


？？『妬けるわね。お二人さん』


突如、和泉の後ろから声が響いた。俺には聞き覚えのない、女性の声だ。
ここからでは和泉の身体が影になってその姿までは確認できない。

和泉「もう！ 千愛ちゃんも冷やかさないでよ！」

その後ろの女性に対し、和泉は当たり前のように言葉を返す。
すると後ろの女性は笑った。とてつもなく、聞き覚えのある口調で。


？？『リン♫』


リン♫ ……だあ？ どっかで聞いたことがあるような寒い笑い声だな……。
……って、あっ！！

火群「お前、ダーク・フェアリー・チア・ガールかっ！？ なんでまた和泉の中に！？ ってかニクス！ もう和泉の中にチアガールはいないんじゃなかったのかよ！」

俺はついつい大声で叫んでしまう。

和泉「ほ、火群くん！？」

突然俺が叫んだものだから、和泉もビックリしているようだ。

ニクス『落ち着け火群。私は、“《狂気な凶器》ダーク・フェアリー・チア・ガールは、もう和泉の中には居ない”と言ったんだぞ？』


千愛『その通りよ市瀬火群…勘違いしないで。私の名前はーーー闇口千愛。《狂気な凶器》ダーク・フェアリー・チア・ガールはもう死んだのよ』


『闇口千愛』と名乗った彼女は、穏やかな口調でそう言い、和泉の影からゆっくりと現れる。
漆黒の髪にファー付きドレス。背中には煌黒の翼。
真紅の澄んだ瞳が、じっと俺を見つめている。

火群「闇口、千愛…か。よろしく…な」


俺はこの時点ですでに、彼女の事を許してしまっていた。
こういう風に、すぐに人を許してしまうのが、おれの悪い癖なのかもしれない。
ダーク・フェアリー・チア・ガールもとい闇口千愛は、俺をデュエルで殺そうとした相手だと言うのに。
ーーーいや、自分の事だったから許せたのか。
闇口千愛は、和泉に対して直接的な危害は一切加えなかった。それは、闇口千愛が和泉の事を大事に思っていたからだ。そして、今まで和泉を護ってきてくれた存在は、俺ではなくこいつなんだ。
俺は闇口千愛とのデュエルに、戦う前から負けていたんだ。
そんな敗北感だけが、胸に重くのしかかる。

火群「………あ」

そこで俺は、今一番大事な事を思い出した。

火群「…和泉。その、今聞いていいのかわからないけど……お前、その腕ーー」

和泉「あぁ…えと」

千愛『それについては私が答えるわ。和泉ちゃんもよく聞いて欲しい』

『和泉ちゃんも』…？ それって、和泉自身もよく知らないって事か……？

ニクス『………』



千愛『今から、一ヶ月ほど前の事よ。和泉ちゃんは、私に言ったの。自分の腕を、断裁し分離して欲しいとーーー』



〜〜〜


和泉「千愛ちゃんお願い。貴女にしかできない事なの。私の右腕を斬って頂戴」

某県某区某所。
和泉ちゃんは、人気の少ない路地裏に、私ーーー闇口千愛を呼び出して、そう言った。


和泉「今朝目を覚ましたら腕の火傷の跡が肩口まで広がってて、その火傷の跡から、『憎い…。憎い…』、『殺せ…。殺せ…』って、聞こえるの。このままだと、私の腕が私の大切なものを全部奪っていっちゃう気がする。私、もう大切なものを失いたくないから、そのためにも、お願い。千愛ちゃん」


千愛「くっ……わかったわ。できるだけ、痛くないようにするからね……っ」


彼女の目は、至って真剣だった。どれだけ辛いのかが、肌に直接伝わってくる。
だからこそ、断れなかったのだ。

そしてーーー



ヒュンっ！！

ズシャァッ！！



私は、手持ちのステッキの先端部分を魔法で伸ばし尖らせ………断裁した。

大切な人を苦しめた、大切な人の右腕を。


和泉「ーーーッッッ！！！」


彼女は声にならない叫び声を上げてそのまま地に伏し、血に伏したのだ。
そして私はすぐに魔法で彼女の傷口を凍らせ止血し、彼女を自宅へ運んだ。

彼女が目覚めたのは、２日後の夜。

彼女は目を覚ますと、火群に関する記憶だけを、綺麗に無くしていたーーー


〜〜〜



火群「……っ！ 俺に関する記憶だけを……！？」

ニクス『その火傷の跡が、二年前から今までの二人を縛り付け、繋ぎとめていた存在だというのなら……皮肉だな』

和泉「…………」

和泉も驚きを隠せないようで、つい先ほどまでの笑顔が抜け落ちている。
でも、どれもこれも、俺の所為なんだよな。
闇口の言った通り、和泉が腕を切断するハメになったのは、俺の所為だ。
それは、変えようのない事実ーーー

だけど。

だからこそ。

俺が今、やらなくてはならない事はーーー



火群「………和泉。突然で悪いんだけど、一緒に来てくれ。ーーー黒髭公園跡地に」


俺自身の手で、俺が一度燃やしたあの過去に決着を付けるんだ。






☆黒髭町・黒髭公園跡地☆


ここは、俺と和泉の全ての始まりが終わり、全ての終わりが始まった場所。
今となってはもう、かつてあった自然の二文字は、空白の二文字で埋め尽くされていた。
樹々は焼け落ち、遊具は跡形もなく撤去されていた。
今や空き地となったこの敷地には、近々建物が建設されるらしいので、工事が始まる前にもう一度来ようとは、前から思っていた。

俺はこの場所で和泉に出会い、この場所で和泉を傷付けた。

ここで全ての過去に決着を付け、俺は新たに未来へ踏み出す。

俺はもう振り返らない！
振り返ったって、そこに道など無い事を知ったから。

俺は和泉の瞳をしっかりと両目で見据えて、言った。

ずっと言いたかった。でも、面と向かっては言えなかったことーーー

















火群「ごめん」
















和泉「いいよ♫」












◆

翌日ーーー
２００７年４／２３(金)


☆黒髭中学・２-１☆


担任「……えー、突然ですが今日は、転入生を紹介します」

ざわ…ざわ…。

男子生徒A「えっ！？ マジかよー。男？ 女？」

男子生徒B「見かけない女子がさっき職員室前で話してたから、きっと転入生ってその娘だぜ！」

男子生徒C「マジか！ なあ、その娘可愛かった！？」




担任「……静かに。では、紹介します。入って」

先生が扉の方を向きながら、その奥に居るであろう転入生に声を掛ける。


ガララッ！

俺は、扉を開けて入って来た人物を見て、優しく、笑いかけた。
すると向こうも、俺を見てにっこり笑う。
そこには、俺と彼女の、二人だけの空間ができつつあった。
俺はそれがたまらなく嬉しくて。
思わず、泣きそうになった。
でも泣かない。
俺は、強くなるんだ。
大切な『友達』を、今度はちゃんと護ってやれるくらいに。



和泉「皆さん始めまして！ 桜花学園から来ました、『桜庭 和泉(さくらば いずみ)』ですっ！ よろしくお願いしますっ！」




彼女が自己紹介を終えると、全開に開いた教室の窓から、無数の桜が舞い込んできた。







遊戯王 Ph.X 〜序章〜
《群れをなす桜火》


ーTHE・ENDー






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遊戯王 Ph.X 〜第一章〜
《Dreams come true》






《次回予告》

ニクス「私たちは高みを目指す。願いを叶える為に。


次回、『遊戯王 Ph.X』
DRAW:１８ 誓いを立ててフラグを立てて」
☆４／２１(日) 更新予定☆