DRAW:５４ それぞれの想い　作：人喰い

＊＊＊警告＊＊＊
本SSは、あくまでデュエルを題材としたSSです。それを踏まえた上で、ご閲覧ください。








火群「和泉…っ、和泉……っっ！」




和泉と結維の一件があってからと言うものの、俺は家で和泉の事を考えるたび、ベットの上で一人悶々とした気持ちで毛虫のように身体をよじらせていた。


火群「…はぁ…ぁっ、はぁ……っ！ 和泉ぃ…」


そんな風に和泉の名前を呼びながら身をよじらせていると、俺の『ナチュル・バンブーシュート』が攻撃表示となる。[攻 2000]

これがデュエル開始の合図だ。

俺は本能に導かれるままに右手を『ナチュル・バンブーシュート』に添え、表示形式を交互に変更した。
守備表示、攻撃表示、守備表示、攻撃表示、と。
そうしていくうちに目を閉じると、鮮明な和泉の立体映像が頭の中に流れ込んでくる。
今の俺の思考回路は如何なる場合もタイミングを逃さない強制効果だ。
そして今こそ、己の快楽の為だけに、この『ナチュル・バンブーシュート』一本で和泉のライフを削り取って見せるぜ…っ！


火群「…ん…っはぁ…っっ！」


目先の花園に目が眩み、思わず声が漏れてしまう。
落ち着いて、ゆっくりといこう。
俺の『ナイト・ショット』で、和泉の伏せてあった『禁じられた聖衣』を優しくめくりあげ墓地へ送ると、その奥にはーーー


火群「…和泉…っっ！」


少し薄めではあるが、自然なままのーーー『ナチュルの森』が広がっていた。


火群「…はぁ…っ…はぁ…っっ！ はぁ…あ…！」


俺の表示形式を変え続けていた『ナチュル・バンブーシュート』が熱く脈打つのを右手で感じ、最終的に攻撃表示で止めた。
そして和泉の『ナチュルの森』を掻き分け、場の『ナチュル・ビーンズ』へと攻撃した。
今の俺は野獣と化した、さしずめ『ナチュル・ビースト』と言ったところだろう。何も怖いものなどなかった。

だがこの時俺は気づいていなかった。
己のライフが残り500しか残っていないという事にーーーーー


和泉『…ほ、むら……くん。 あんまりがっついちゃやだよ…っ。『ナチュル・ビーンズ』を攻撃したプレイヤーは500ポイントのダメージを受けるって知ってる…でしょ…っ？』


俺の『ナチュル・バンブーシュート』の頭の先が、和泉の『ナチュル・ビーンズ』に僅かに触れた瞬間ーーー



火群「…っ！ しまっ…っ、……うっ……っ！！」【LP 500→0】



俺のライフは０になりーーー果てた。







火群「………ふぅ…」





最近はあのように、毎朝イメージの中で和泉と変則的なデュエルをしているが、一回も勝てたことがない。
だが和泉とのデュエルを終えると不思議とスッキリとした気持ちで目覚められるんだ。

身体を起こし、カーテンを開けようとカーテンの方を向いたその瞬間。

火群「………？」

すると何かがおかしい。
まだ寝ぼけているのか。

もうすでにカーテンは空いていた。
そしてカーテンと、1メートル程空いたガラスの扉の奥のベランダに、見覚えのある女子が呆然と立ち尽くしていた。
背丈は俺と同じくらい。痩せ細った身体で、肩に丁度かかるくらいの丸いラインのショートヘア。前髪はピンで止めていて、少し幼さの残る赤縁の眼鏡の奥の瞳をまん丸くしてこちらを見ていた。
そして何より目を引くのは、彼女の左っ側。
彼女には左腕が存在していなかった。


そこでようやく俺は完璧に目を覚まし、彼女に問う。


火群「……あの、結維さん？ なぜここに？」


結維「…ひぇ…、あの」


彼女ーーー桜庭結維は慌てたように俺の顔を見たり床の方に目をそらしたりしながら口をモゴモゴさせる。可愛い。


結維「…昨日の晩に、和泉が熱出しちゃって…。でも学校は休みたくないから、代わりに学校に行ってくれって頼まれて……ほら、私達、外見ほとんど一緒でしょ」


火群「…和泉が熱！？ …そうだったのか。今日は学校が終わったらお見舞いに行ってやらないと」


この時の俺は何故かウキウキだった。


結維「…来なくていい」


だが結維の返しは冷たい。


火群「う……、でもなんでまたベランダから…？」


結維「…えっと、インターホンを何度も鳴らしたんだけど誰も出なくて…マンションの壁を登ってきたんだけど、その…」


そこで結維は再び口をモゴつかせたかと思うと、


結維「まさかデッキの〝1人回し〟をしてたなんて思わなくて……邪魔をしてごめんなさい」


顔を真っ赤にしながらそう言った。


最悪だ、なんて日だ。


そんな今日は夏休み前最後の登校日。
















遊戯王 Ph.X DRAW:５４
《それぞれの想い》
















火群「…そういえば、敬語はやめたんすか」


急いで支度を済ませた俺は結維と共に歩く通学路で問う。
結維は俺と初めて会った時、俺に対しては主に敬語だったのに、会うのが二度目な今日にいきなり敬語じゃなくなっていたので純粋に気になったのだ。


結維「…ええ、まぁ。和泉が学校で敬語だと不自然って言うから、その練習」


火群「…そ、そうなんだ」


少しだけ、俺に対して心を開いてくれたのかもなんて淡い期待を抱いていたが、そんな幻想は儚く砕け散った。


火群「………」


結維「………」


そしてこの沈黙である。
ザッ、ザッ、と学校で指定されている白スニーカーが一定のリズムで地を蹴る音だけがむなしく響く通学路で、横に並んで歩く俺たちはただ何も話さずに歩いていた。
何か話そうとは思うのだが、結維の顔を横目で見るたび、今朝の和泉の無防備な身体、あどけない表情、荒々しい息使いのイメージが頭をちらつき、何故か胸の鼓動が止まない。
落ち着け、彼女は和泉では無い。

すると少しして、ふと何かを思い出したように結維は口を開いた。



結維「ところで、ソロデュエリストさん」


火群「…その呼び方はやめてくれないか」


そんな不名誉なソロプレイヤーで定着してほしくはない。



結維「和泉に告白しないの？」


火群「ふぉぇぇ！？」


結維の口からなんとなく発せられた言葉は、完全に不意打ちだった。


結維「…なに変な声出してんのよ……好きなんでしょ。和泉の事」


いくらなんでもド直球すぎるだろ。
もうすでに俺の脳内は冷静ではなかった。
だが、平静を装うしかない。まだ間に合う！まだ助かる！


火群「ーーーなんのことかな？ 結維さん」


結維「いやだって、さっきベットの上で和泉の名前呼びながら、その、1人……デュエ…ル、してるの私見たし」


弁解の余地はなかった。


結維「大丈夫よ…安心して？ 和泉には言わないから。だから電信柱に頭を打ち付けるのはやめて、器物破損よ」


火群「くれぐれも頼んます……」


和泉の事は好きだ。
でも、告白だなんて、思いを伝えるだなんて。
俺は、そんなことできる立場じゃない。


火群「……あ、そういえば、結維さんって…デュエルポリスから狙われてるんじゃなかったっけ？ 大丈夫なのか？」

結維「…えぇ、この間、デュエルポリスの『斬波』って人が私のところに来てね。“ポリスの人間を傷つけたのは桜庭結維を取り巻いていた闇の力”って事で、上手く見逃して貰える事になったの」

火群「…戒が…！？」

結維「…最初は勿論拒んだのだけど、彼は何か思い詰めたような表情をしてて、結局なんだかんだ押し切られちゃったって訳」

火群「…そっか……。でもこれで、和泉も狙われる事はないんだよな……よかった…」

結維「そうね」






そんなこんなで学校に到着。






先生「…そんな訳で、くれぐれも事故や不祥事を起こさないように、充実した学園生活を送ってくださいね。君たちはまだ中学2年生なんですから。それでは、解散」


担任の『宮本 真和(みやもと まさかず)』先生の間の抜けた挨拶が終わると、ガタガタと椅子を引く音と、生徒たちの話し声で教室内が一段と騒がしくなる。



明日人「…火群ー、今日はカードショップ行くのか？」


火群「おう、行くぜ。予選も近いし、デッキの調整をしたいんだ」

結維「…私も相手になるわ。この間の決着、まだ付いてないし」

明日人「……桜庭さんもいつのまにか権利取ってるんだもんなぁ…驚いたわ（…ってかこの人、こんなキャラだったか…？ それになんか、他にも違和感が…)」


栗須「ちょぉぉおおっとまったぁああ！ この俺を忘れてもらっちゃぁ困るぜ！」

明日人「…なんだお前、生きてたのか」

栗須「んだとクラース！！ まずはお前を俺の強化されたデッキの餌食にしてやるぜ！」

明日人「はいはい、どうせいつものシムルグだろ。なんでも知ってんだよ俺は」

火群「……じゃあ決まりだな！ 俺、持って帰る荷物の整理とかあるから先に下行っててくれていいぜ」

明日人「…わかった。じゃあ行きましょうか桜庭さん」

結維「あ…うん(……この人達が和泉の話していた『倉川 明日人』くんと『古宮 栗須』くんね…)」


栗須「お、れ、も、だっ！！」


結維（っていうか分かっちゃいたけど周りに男しかいないこのグループ……この場合私は『姫』って事になるのよね…）





〜〜〜2分後〜〜〜





火群「………ふぅ。やっぱり荷物はギリギリまで溜め込んでおくもんじゃねぇなぁ」

火群「…お、いたいた」


明日人達を見つけ、足を少し早めかけたその時ーーー



？？「…火群っ」


後ろから呼び止められた。



火群「…ニクス！？」



俺を呼び止めたのは、俺の持つ『炎王神獣ガルドニクス』のカードに宿る精霊『ニクス』だった。


火群「…お前そういや昨日の晩に調べ物があるって行って出て行ったきりだったな」


ニクス「…すまない、時間がないんだ。手短に話すぞ」


火群「…お、おう（…どうしたんだ？ ニクスのやつ……)」


ニクス『…この間の、権利戦での『東雲 竜貴(しののめ りゅうき)』とのデュエルで、奴の持つカードの精霊『ドラグニティーアームズーレヴァテイン』が言っていたことだ』


火群「……っ！ あの時か…！」


ニクス「…お前に話すかどうか今の今まで迷っていたが、そうも言ってられなくなってな」


火群「…？」


ニクス「…今年のWDCSの主催者ーーー『YAGAMI』は、全国の強力な力を持つデュエリストを集めて“何か”を企んでいる」

火群「！？ 何かって…まさか、カードの精霊が目的なのか…！？」

ニクス「恐らくな。レヴァテインからは、精霊を持つデュエリスト同士、力を合わせ『YAGAMI』の野望を阻止しようと言われたんだ」

火群「もちろん！ 俺たちの力でやってやろうぜ！」

ニクス「………だが、当然『YAGAMI』と正面衝突となれば危険も伴う。それが、今までお前に話すか迷っていた理由でもあるからな」

火群「…危険だろうがなんだろうが、俺は何としてでもWDCSで優勝して、叶えたい願いがあるんだ。その邪魔をするやつがいるってんなら、主催者だろうが蹴散らしてやるさ」

ニクス「…こんな話をしておいてなんだが、くれぐれも無茶だけはしないでくれ。お前は私の大切なパートナーだ。いなくなっては困る」

火群「ニクス………ありがとう」

ニクス「…お前が素直に礼を言うなんてな。いいんだぞ、またあの時みたいに甘えても」


火群「わーーっ！ その話はずるいって！」


ニクス「…ふふっ……はははっ！ やっぱりお前にちゃんと話して良かったよ。
改めてよろしく頼むぞ、火群」


火群「こちらこそよろしくな。ニクス」


ニクスと話していると、不思議と落ち着く。
なんでだろうな。すごくあったかくて、まるでずっと昔から一緒にいたような、妙な安心感があるんだーーー




ニクス「…時間を取らせてすまなかったな。私はもう少し調べることがあるから、早く仲間たちのところへ行ってやれ」


火群「…わかった！ じゃあ、またな！」


ニクス「…ああ」




〜〜〜



結維「……遅い」


ニクスとの会話を終えてからすぐ走って来たのだが、どうやら結維はご立腹のようだった。


火群「…ごめんなさい」


栗須「まぁ火群の事だからどーせトイレでよからぬことでもしてたんだろ？」


明日人「…なんでそうなるんだよ！ あながち間違いじゃなさそうだが、女子がいるのにそんな話をすんじゃねぇ！」


結維「…？ なんの話…？（もう朝に済ませてたから、それは無いと思うけど…）」


火群「…てめぇら……」


俺は怒りを通り越し呆れ果て、ため息を吐いた。
するとその後ろから声をかけられた。



好「ーーー見つけたよ。市瀬」


火群「げっ…！ スッキー先生……！」


家庭科担当の『美 好(メイ ハオ)』先生だ。
その名の通り中国人なのだが、日本語はペラペラでデュエルの腕はかなりのものだ。
俺もよく放課後に稽古を付けてもらっている。



好「…なんの挨拶も無しに行くつもりとはいい度胸だねぇ…。仕込みが足りないみたいだ。こっちきな」


火群「…ひぃぃいい！」



明日人「…南無三」


栗須「…ご愁傷様〜…」



俺は怯えながらも先生の間合いまで踏み入れると、


好「ほい」


という先生の声と共に頭に手を置かれた。



火群「…えっ？」


好「ほれほれ」


続けざまにそう言いながら俺の頭をわしゃわしゃと撫で回す。

なにが、起こったっていうんだ。
あのドSなスッキー先生が『頭ナデナデ』だと…？
そんな事を考えているとだんだんよくわかんなくなって頭がぐわんぐわんしてきた。
ん…？ ぐわんぐわん…？



明日人「ちょっと先生！ 回しすぎっすよ！ 火群のやつ白目剥いてますって！」


栗須「いいぞいいぞー、やれやれー」



火群「……ゔぇぇ…」



やっぱり先生はいつもの先生だった。
あと栗須は後でぜってーワンキルしてやる。



好「…あっはっは！ 悪いな、市瀬」


火群「…うぅ…」


先生は無邪気に笑ったかと思うと、少しの間をおいて真面目な顔で言った。



好「……WDCS、絶対に後悔すんなよ」



ーーー夢と希望を、捨てんな。



最後に一言そう言って、スッキー先生は校舎に戻って行った。




火群「…夢、希望……か…」


明日人「………」


栗須「………」


結維「…」


ここにいる4人全員が、それぞれ目的を持ってWDCSの権利を獲得し、本戦へと臨んでいる。本戦へ進んだら、また敵同士だ。


だけど俺は負けるつもりはない。
和泉の、為にも。
俺自身、強くなるためにも。










ーーー世界一の決闘者を決める決闘の祭典ーーー『World Duel ChampionShips in JAPAN』

決戦の火蓋は、間も無く切って落とされる。















To Be Continued…






〜おまけ〜



. . 人人人.人人人.人人人.人人人.
＜教えて！ スッキーせんせー！＞
. . Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y


◉このコーナーは、読者のみんな(少数)から寄せられた質問(多分無い)に、『美 好先生(以下スッキー先生)』が一刀両断！ 快刀乱麻の回答をしていくコーナーだ！
質問が無い場合は、キャラ紹介や自問自答をしていく痛々しいコーナーになるから気をつけな！(ドン☆)
＊質問をいただいた時点で、本SSに載せる事を承諾したものと見做します。あらかじめご了承ください。
匿名希望の場合は言ってくださいね！



質問待ってるぜ！！(切実)







《次回予告》


闘えーーー己の願いの為に。


次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:５５ 開戦！ WDCS予選