DRAW１８２ Past Reflect　作：人喰い

(182)



〜決闘機兵ファクトリー・屋上〜



雫「ーーーーーッッ……」【LP 0】



霊剣に斬りつけられ、雫の視界がゆっくりと地面に近づいていく。


和泉「……っっ…！！！」

千愛「……っ…！」

ニクス『………』


火群「ーーー柏木さんっっっ！！！」


大量の涙が宙を舞って弾けるーーーーー



雫「………瑞希……おねぇ………っ……ちゃんーーーーー」




ーーーーー瞬間、雫の足元に炎が奔った。



瑞希「………っ…！
…君も、久しぶりだねーーーー」


倒れる寸前の雫の身体が抱きかかえられる。


瑞希「ーーーー市瀬火群くん」




火群「……っ……」


和泉「…！
…最後の攻撃で雫ちゃんの持っていた防護フィールドのスイッチが壊れたんだ……っ…！
防護フィールドが無くなってる…！」



足にニクスの不死鳥の力を纏った火群は、気を失ってしまった雫を優しくその場に寝かせると、瑞希を見つめ口を開いた。


火群「…先輩…！！」



火群「……柏木さん、最後まで先輩のこと呼んでた……ッ…！
こんな事になっても…ッ…姉であるあんたの事が大好きだったんだよ…っ！！

瑞希「………」


火群「…もう少し……、妹の言葉に耳を傾けてあげても良かったんじゃないか…っ…！？」

瑞希「…わかんないかなー。あたしは７年前のあの時から終焉の焔の人間で、あたしたちの邪魔をするなら誰であろうと容赦はしないーーーーーただ戦って倒す。それだけだよ」

呆れたような口調で瑞希は言う。


火群「……けど…っ…！それならなんで今の決闘は闇の決闘じゃなかったんだよ…！！
なんで『諦めさせる』なんて言い方したんだよ…！！
最後の一撃の時に『この戦いから身を引きな』って言った意味はなんだ！？」


火群は力の限り、疑問を吐き出す。



火群「ーーーー全部…、大好きな妹に…傷ついて欲しくないからじゃないのかッ！？」



瑞希「ーーーーっ……っ…！」


瑞希は顔を伏せ、拳をぐっと握り締め、


瑞希「………こうするしか……無かったんだよ…っ……」


小さく震えた声でそう呟くと、耳に手を当て、叫ぶ。




瑞希「ーーーーー星奈ッッ！！！」




直後、地鳴り。


ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ……‼︎‼︎



火群「……っ…！！」



和泉「…え……っ…何……っ…！？」

千愛「……ッ……！！ 下から来るわっ！！」



ﾄﾞｺﾞｵｫｵｵｵｫｵｵｵｯｯ‼︎‼︎


轟音と共に屋上中央の床下から、星の形をした無数の光弾が床を突き破る形で放たれた。




瑞希（…そう……こうするしかーーーーー）






〜７年前〜



〜〜〜〜〜


……………


…………



ｷﾞｼ……ｷﾞｼ………ｯ



瑞希「……？」


小屋の奥へと入り込んだあたしは、信じられない光景を目の当たりにする。


瑞希「……っ……っ……！！」


床に描かれ、淡い光を放つ魔法陣。


女性「……あ”……ッ………ぁ”…あ”…ッ……ッ……！」


そこに仰向けで倒れ苦痛の声を漏らす女性と、


男性「……ふっ……ふ…っ……っ…ふ…ッ………！」


その女性の上に覆い被さり腰を振る男性。


瑞希「……ひ……っ………！」


服も着ずに獣のように身体を重ねるその男女が自分たちの両親であることは、すぐわかった。


母「………あ”……ッ…あ”……ッッ…ぃ”……っ…っ…ぁ”……ッ…！！」

母は口元を抑えながら目を瞑り、されるがままに身体を揺らす。

父「……ぅ……っ…はっ…はっっはっはっ…」

父は急に腰を振る速度を上げ、

父「はっ…ぁ……っ……そろそろだーーーーー」

そう宣言すると、


父「ーーーーっっっ！！！」


腰を突き出したままビクビクと身体を震わせ、吐息を漏らす。
その時、


瑞希「……何……してるの………っ…！？」


思わずあたしの口から出た疑問の言葉に、父の背中がピタリと止まる。
そして振り返り、呆然と立ち尽くしていたあたしをその目で捉えた。


父「……瑞希………？」


瑞希「…っ…！！！」


父の目に生気は無く、廃人のような目であたしをじっと見つめる。


瑞希「……はぁ……っ…はぁ…っ……！」


怖い、怖い、怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い。

なんでなんでなんでなんで？
意味がわからない。


優しかったいつものパパは……どこにいったの…？


父「………ッ…」


父は身体をあたしの方へ向けながら、ゆっくりと立ち上がった。
どこからかズボッと抜けた、足の付け根にぶら下がる“それ”が半透明な液体を垂らしながらゆらゆらと揺れる。
息を荒げる母の股からは白い液体が溢れ出していた。


瑞希「…ッ…ひぃ……ッ…！」


慄くあたしなど気にも止めず、父はあたしに近付いてくる。

父「……瑞希ィ……良かったなァ……」

瑞希「……っ…！？」

父「…家族が、増えるぞ…」

瑞希「……え……っ…？」


父「…弟か妹が二人とーーーーーママがもう一人だ」


瑞希「………！？」

どういう……こと…？


その瞬間、母の身体が青白い光に包まれ、宙に浮いた。

瑞希「…！！！」


父「……パパが長年研究してきた実験がようやくうまくいってね…。ママには次のステップに行く為の実験台になってもらったんだ」

瑞希「…なに……それ…ッ……！？」

父は少し間を置き、首にかけた鏡を握りしめ言った。


父「ーーーーこの村に古くから伝わる“幻影術”…。
人間の肉体と魂を強制分離させ、１人の生贄で２つの存在となることができる……禁断の秘術の１つだ」


瑞希「……っ……！？」

理解が、追いつかない。

ママが……いけにえ…？

“いけにえ”って……？


父「…更に精霊の力を借りることで描き出したこの魔法陣の中で、ママのお腹の中に赤ちゃんの種をたっぷり注いだーーーーーつまりだ」

父は母の腹部を指差す。

父「ーーーママのお腹の中には精霊の力を宿した赤ちゃんがいるってことさ」

瑞希「……！！？ パパ………何を………言っているの………！？」


父は淡々と述べ続ける。

父「瑞希や雫もこの魔法陣の中で受精したんだぞ…っ…はは…っ…！」

瑞希「…！！」

父「…更にだ。その赤ちゃんごとママの映し身を現出させる事ができたなら……っ…！
とんでもない大発見だ……っ…！！」

瑞希「……マ…、ママは……どうなっちゃったの……？ 生きてる……よね……？」



父「ーーーー残念だが、今のママは死んでしまうことになる」



瑞希「……え……っ……？」


ママが………死ぬ……？

なのになんでパパは悲しそうじゃないの…？


なんでこんなにもーーーーー嬉しそうなの？



父「……フフヒ……ヒヒ……ッ…」

怖い、この人が怖い。

父「さぁ……瑞希ィ…ッ」

誰か……っ…！ 誰か……！！

父「新しいママ、新しい家族と一緒に…」


ダメ……足が…っ……動かない…！！



父「新しい人生をーーーーー」



瑞希「ーーーーーいやぁぁあああぁぁあああぁぁあああぁぁああっっっっ！！！」









叫び声を上げたその時、あたしの身体を黒い焔のようなものが覆った。



瑞希「！？」


父「……ッ……！？ 誰dーーーーー」


父が頭上を見上げたその瞬間。




一瞬の出来事だった。



上空からの何者かの攻撃によって、小屋が、消し飛んだ。


瑞希「ーーーーッッ！！」


黒焔に包まれて宙に浮くあたしには傷一つ無かったが、父と母はその場に倒れ伏し辺りの芝はチリチリと燃えていた。

それだけじゃない。周りの木々も黒焔に燃え、村全体が炎に包まれていた。


瑞希「……なに……これ……！？」

状況に混乱する中、数メートル離れた先から、一声。



雫「…おねぇちゃんっ！！」

……そうだ。雫。

瑞希「…っ…！」

すぐ戻ってきてって言われてたのに…、きっと一人で心細かったに違いない…。

瑞希「……っ……」

早くお姉ちゃんが行って安心させてあげなきゃいけない。

瑞希「……シ…ズーーー』

頭でそう思っていても、この短時間のうちに色々な事がありすぎて、あたしの思考回路は自分で制御できないぐらいにいっぱいいっぱいだった。


瑞希「ーーーシズクッッッ！！！」


あたしは力の限り、


瑞希「ーーーー助けてっっっ！！！」


叫んだ。


瑞希「ーーーーー助けてよぉっっっ！！！




ダメ、逃げて。

あたしを助けようとしないで。



瑞希「……ッ…！」


本当に言いたい事が、なんで口から出ないの……！！？？



雫「…おねぇーーーーー」


そして間も無くして、空から何かが近づいてくる。

炎に包まれた翼を広げ、漆黒の闇より雫を睨むーーーー巨影。



ネヘモス『グギィィガァァアァアアァァッッ！！！』


悪魔の様なその生物の咆哮と共に、周囲に爆発が起きる。

雫「……ひぃぁっ！！」

大地も大きく振動し、雫はバランスを崩し尻餅をついてしまう。

雫「…きゃ……っ…！」

そして追い討ちをかけるように、悪魔の影から歩いてくる、一つの人影。



？？「ーーーー墓地より蘇り、我以外の全てを焼き払う終焉の焔ーーーーー」


炎の中から、男性の声。


瑞希「……っ……誰……っ…？」


その人物は漆黒のローブに身を包んでおり、フードを深くかぶっているため顔は認識できない。

男はあたしの目の前で足を止めると、再び口を開く。



マイン「ーーーー我等は“終焉の焔”。この地に眠る精霊のカードを回収させてもらう」


雫「……っ…！ や……やめーーーー」


男が右手を突き出すと、闇に潜む悪魔から炎の矢が放たれる。

雫「……ひぅ…っ…っ！！」


炎の矢は雫の目の前の地面に突き刺さった。わざと外したのだ。


マイン「…次は心臓を貫く」


雫「……ひ……っ…ぃ…っ…！」


まるで感情のこもっていない鋭利な言葉に、雫は恐怖のあまり失禁してしまう。


雫「……ぁ……ぁぁ……ぅ…ぁ…っ…！」


助けに行かなきゃ……！！

でもーーーー


瑞希「……っ…！」

この焔の中じゃ身動きが取れない…！！


雫「……ぁぁ…あぁああ……っ…！」


しかし黒ローブの男からの追撃は無く、雫は絶叫し、駆け出した。



雫「あああああぁあああぁああぁああああああぁぁああぁあ」




瑞希「……シズク……ッ…！」


いや。
これで良かったんだ。
どういうことかわからないけど、シズクは逃げる事が出来た。

そう……これでーーーー


あたしはこの後、どうなるんだろう。

やっぱり……殺されるのかな。

優しかったパパも、おかしくなって。

優しかったママも、実験で死んじゃって。

こんな下らない世界に生きていたところで、しょうがない。

それにパパの話が本当なら、あたしはどうやら普通の人間ではないらしい。

ならいっそ、こんなバケモノ……死んでしまった方がーーーー

そんな事を考えていると、


マイン「……おい、娘」


黒ローブの方からあたしに声をかけてくる。


マイン「………この村の連中は女子供を実験台にクソくだらない実験を繰り返していたそうだ」


瑞希「…え……っ……？」

マイン「お前も真実を目の当たりにしただろ…？ 醜い人間の、正体をーーーー」

瑞希「……！」

先程のおかしくなった父の姿を思い出し、身震いする。

瑞希「……あ……あなたは……あたしを助けてくれたの…？」


マイン「……ああ」

瑞希「…！」


男はフードを脱ぎ、在ろう事かあたしに手を差し伸べた。


マイン「ーーーー俺の元に来い」


今のあたしには、何も無い。
雫さえ無事ならそれでいいと思ってた。


マイン「ーーーー精霊を宿したお前の力が必要なんだ」


けど、思えばこの時からあたしの心はパパと同じように。



マイン「ーーーー共に下らない世界を壊そうーーーー」



すでにおかしくなっていたのかもしれない。







◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１８２ーーー
《Past Reflected》







…………


……………



〜〜〜〜〜



瑞希（雫……もう復讐の為に戦う必要はない……っ…だから戦いのない場所で……どうか平和に暮らしてーーーーー）



ーーーー



千愛「………っ…星の形の弾……ッ…！！」

和泉「…この攻撃は……っ…！」


火群「地下にいたクレイジー幼女か…ッ！！」



先の攻撃によって空いた直径２メートル程の穴から、肩に届くぐらいの金髪を二つ結びにした少女が、ふわっと飛ぶように現れる。


星奈「ーーーーだぁれがクレイジー幼女よっ！！
あたしは『常盤 星奈(ときわ せな)』っ！！
ちゃんと覚えてよね！！」


星奈の登場に合わせて、瑞希も長い黒髪をバサバサと揺らしながら飛び上がる。



火群「……待て…ッッ！！」

火群も足に力を込め、ジャンプしようとするがーーーー


星奈「ーーーーきゃはははっっ！☆
待てと言われて待つおバカなんていないよっ！！
ばぁーっかっ！！」

ひゅん、と星奈の背後から放たれた無数の光弾によって阻まれてしまう。


火群「……く…ッ…！！ ち…くしょう…ッッ……！！」


瑞希「………っ…」


星奈「……きゃは☆
じゃぁね〜っ！！ ばいばーいっ！！」


瑞希と星奈はかなりの速度で飛んでいき、攻撃が止む頃には完全に見失ってしまった。


火群「……くっ……そ……ッ……！！」


火群は拳に悔しさを乗せ、地面に思いっきり叩き込んだ。


火群「…なんで何もできねぇんだよ……ッ…俺は……ッ…！！」








To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１８３ 闘いの跡






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙