DRAW:２３４ 氷結界の三龍　作：人喰い

(234)




〜神星樹内部・基礎の間←→美の間〜




「───会いに来たよ。お姉ちゃん」


話を、しよう。


彼女───柏木 雫(かしわぎ しずく)はそう言って機兵と対峙する。

しかし視線はその先の、機兵を通してこちらを見ているであろう瑞希へと向いている。


雫「あのね聞いて、お姉ちゃん───」

言いかけたところで、機兵の放つ“それ”に雫は思わず目を閉じ後ずさる。

雫「…っ…！すごい冷気……っ…！」

だが、雫の呼びかけに反応する形で、機兵は攻撃の意思を示した。

機兵「───」

それは、機兵の向こうの瑞希の動揺を意味していた。

雫「…わかったよ。お姉ちゃん」

なぜ瑞希は終焉の焔に入ったのか。
なぜ自分に何も言わずに組織に協力するのか。

その行動は、本当に自らの“意思”で決めたことなのか。

聞きたいこと、言いたいことは、山程ある。
けれど今は───


雫「───機兵さん。あなたを倒して、先に進ませてもらいます」







＊＊＊





〜神星樹内部・美の間〜



瑞希「───『氷結界の龍 グングニール』の効果！！」

《氷結界
ひょうけっかい
の龍
りゅう
グングニール/Gungnir, Dragon of the Ice Barrier》 †
シンクロ・効果モンスター
星７/水属性/ドラゴン族/攻2500/守1700
チューナー＋チューナー以外の水属性モンスター１体以上
(1)：１ターンに１度、手札を２枚まで墓地へ捨て、
捨てた数だけ相手フィールドのカードを対象として発動できる。
そのカードを破壊する。


メアリー「…雫ちゃんとお話しなくて良かったのー？」


瑞希「おねーサンには関係ないよ！！
私は手札の『影霊衣の巫女 エリアル』を捨て───あなたの場に残った最後のカード……『精霊獣 アペライオ』を破壊する！！」

宣言を受けて氷龍はフィールドに無数の巨大な氷柱を発生させる。

メアリー「───ッ！」

氷柱に貫かれた精霊獣は霧散し、メアリーの場はガラ空きとなるも───

メアリー「…あっはは」

今の一撃を見て何を感じてか、メアリーは笑う。

瑞希「…何がおかしいのかな〜…？
金髪おねーサンの場はガラ空き、手札もゼロ、墓地にも大したカードは無いし、除外が大事なデッキなのに除外されてる霊獣もゼロ！」

メアリー「……」

瑞希「そんな状況で笑ってられるなんて───」

メアリー「───それはアナタも同じ、デショ？」

瑞希「……っ…？」

メアリー「アナタも手札を全て使い切った。墓地の反魂術の効果も、フィールドにモンスターがいる限りは使えない……次のドロー1枚で大した展開できないのは、オタガイサマ…じゃない？」

瑞希「…ははは、おねーサンの見立てでは、まだ五分のつもりなんだ」

メアリー「…ふふ、五分以上はあると思ってるけど？」

含みのある言い回しで応じるメアリーに瑞希は不信感を抱き、

瑞希「……まだ何か企んでるね」

思わず口にする。

メアリー「…♪」

メアリーは無言でニッと笑って見せる。

この時点で2人は、互いに勝利の目は自分にあると確信していた。
一見、盤面を支配し、かつ返された際の後ろ盾もある瑞希の方に分があるように見えるが───


メアリー「───アナタとワタシの勝利条件は、決定的に違うってコト」


瑞希「…っ？」

瑞希はメアリーの言葉の意味を一瞬考え、

瑞希「───！」

何かに気付いた様に目を見開く。しかしそれはまだ確信ではない。

メアリー「…アナタはワタシのライフをゼロにすれば勝ちかもしれないけど、ワタシの勝利条件は別にある───」

瑞希「───わかった。もう喋んなくていいよ」

メアリー「…あらら？最後まで聞かなくてよかったのカナ？」

瑞希「これ以上、おねーサンの時間稼ぎに付き合うつもりないしね」

苛立ちを隠しきれない様子の瑞希。
メアリーは呆れた様子で、

メアリー「そっか、そりゃザンネン」

あくまでも軽い調子で返すメアリーに瑞希はそれ以上取り合わず、

瑞希「……ターンエンド」

ターンの終了を宣言。

メアリーの目的は増援が来るまでの時間稼ぎだ。
その為に安い挑発で自らのリソース全てをかけてこちらのリソースを奪い、無理矢理持久戦へと持ち込ませた。
瑞希にとっては非常に腹立たしい事態であった。

瑞希「…けど、ひとつ忘れてない？」

しかし、メアリーの腹の内が瑞希にも見えていなかったように、逆もまた───




瑞希「───こっちの勝利条件は、もう一つあるってコト」







＊＊＊





───雫が機兵と対峙したのと同時刻。


〜神星樹内部・峻厳の間←→慈悲の間〜


「───どうやら敵さんも本気出してきたみたいだな…」

メアリーと瑞希の闘う美の間の丁度真上に位置するこの道の中央。凍りついた木の幹で覆われた巨大な管の前で、小太りの少年───『倉川 明日人(くらかわ あすと)』はひとり呟いた。


氷機兵「───」


視線の先には、氷を纏った決闘機兵。

明日人「この樹にこれ以上、手出しはさせねェ…」

言って明日人は決闘盤を構える。同時に機兵も決闘盤を構え、決闘モードを起動させた。


明日人【LP 8000】

氷機兵【LP 8000】


「「───決闘！！」」





＊＊＊



───同じ頃。


〜人間界・YAGAMI本社前〜


火群たちが神星樹の中で激闘を繰り広げている間、人間界は既に朝を迎えていた。
神星樹と繋がっているYAGAMI本社ビルの前では、次々と迫り来る機兵を相手取る二人の決闘者───

「───コジロー！ 敵の数、だいぶ減ってきたんじゃねぇか！？」

一人は、青龍の刺繍が施された空手用の白い胴着を身に纏った少年───『東雲 竜貴(しののめ りゅうき)』。

「…その様ですね、竜貴殿。
しかしあの“からくり”───決闘機兵と言いましたか…、量産機にしては一体一体がなかなか手強い…！」

もう一人は、長くきめ細やかな青髪ポニーテールに中性的な顔立ち、侍の様な風貌の少年───ではなく少女(竜貴は男だと思っている)。『時枝 小次郎(ときえだ こじろう)』。


竜貴「ああ、 けど修行にはもってこいだな！」

小次郎「そんなこと言ってる場合ですか！」

呑気なやり取りを挟みながらも二人は機兵を一機、また一機と倒してゆく。そんな時だった。

───霜が、降りる。

竜貴「───！」

小次郎「───…っ…！」

異変を感じた二人はすぐさま辺りを見渡す。

竜貴「…真夏だってのにこの寒さ……一体どうなって───」

小次郎「上です！竜貴殿！！」

小次郎の視線の先に竜貴も視線を合わせた。そしてそこに待っていたのは───

竜貴「…！？なんだありゃあ…！？」

小次郎「…氷を纏った───決闘機兵…！」

二人が今まで相手にしてきたものとは違う明らかに異質な、全身を氷の鎧で固めた決闘機兵が、宙に浮きながらYAGAMI本社ビルの前で手をかざしている。

竜貴「…アイツいつの間に…！？何をするつもりだ！？」

小次郎「……恐らくはビルへの攻撃…！しかしなぜ今になって───」

竜貴「なんだって良い！止めるぞ！コジロー！」

小次郎「はい！竜貴殿！」

二人は勢いよく地面を蹴って飛び上がる。
精霊の力を使いこなす二人の身体能力は大幅に上がっていた。

竜貴「───りゃぁぁああぁあッッ！！」

氷機兵の目前まで迫った竜貴が精霊の力を込めた拳を叩き込まんとした、その時───

竜貴「……ッが…！！」

竜貴の拳が届くより先に、竜貴の腹部に“なにか”が叩き込まれた。

小次郎「竜貴殿！！」

見えない“それ”は、小次郎にも襲いかかる。

小次郎「…くっ…！！」

腰に挿していた日本刀型の決闘盤で間一髪それを防ぐも、衝撃に耐えきれずビルの方へ吹き飛ばされてしまう。

小次郎「───がぁぁッッ！！」

窓ガラスを突き破りオフィスの中を転がる小次郎。

小次郎「…ッ…が……はァ…ッ…は…ぁッ…！」

なんとか受け身は取れていたが、至る所に刺さったガラスの破片からは痛々しいまでに鮮血が溢れ出ていた。

小次郎「…マズイ…ッ…！ この建物にも、まだ人が残ってる……！早く避難させないと…！」

急ぎ、割れた窓から空を見上げると、氷の機兵はこの地点では邪魔が入ると察知してか更に上空へと高度を上げてゆく。

小次郎「……っ…！竜貴殿！！」

一方竜貴は地上でなんとか受け身を取り、再び飛びあがろうとしていた。

小次郎「───竜貴殿！！あちらの機兵は任せます！！僕はこの建物に残った方々の避難を！！」

竜貴「…ああ！あいつは俺が、止めて…みせる！！」

竜貴はそう言うと、力強く大地を蹴り上げ、跳躍する。
だが、当然、それだけでは遙か上空まで飛んでいった機兵には届くはずもない。

竜貴「…頼んだぜ───“レヴァテイン”！！」

しかしそこで、竜貴の持つデッキが燦然と輝き、光の粒子が竜貴の元へ集まってゆく───

竜貴「───《具象化(トランス)》！！」

自身の所持する精霊───『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』の加護を受け、巨大な朱色の翼を得た竜貴は、華麗に宙を舞い機兵を追う。

竜貴「見えた───ッ」

機兵の姿を捉え、速度を上げる。

氷機兵「───」

機兵も接近してくる敵の存在を察知し、先程ふたりを攻撃した“何か”を構えた。

竜貴「二度も…喰らうかよッ！！」

対する竜貴は翼を翻し旋回する事で攻撃を回避した───が、

竜貴「───ッ！」

直前の攻撃が来た方向とは真逆の方向からの一撃に、竜貴は再び吹き飛ばされてしまう。

竜貴「…ち…ッッ…クショウ！！」

しかしなんとか空中で体制を立て直し、再び機兵との距離を詰める。

竜貴「……なんだよ…あれ…！」

見ると機兵は巨大な氷柱を3本発生させ、YAGAMI本社ビルへと攻撃を仕掛けようとしていた。

竜貴「…あのビルにはまだ人が残ってんだぞ…！シルバさんに、コジローも…！」

竜貴は更に速度を上げ、ビルと機兵の間に割って入る。
防げる算段など無い。ただ、身体は勝手に動いてしまう。


竜貴「───ぁ」


直後、衝突。
水蒸気爆発が巻き起こる。


竜貴「───！」

死をも覚悟した竜貴はゆっくりと目を開く。

竜貴「…！！」

竜貴の眼前には、巨大な影。
その背中は、よく知っている。

竜貴「アスカロン───なのか…？」

龍霊山にて竜貴が目覚めさせた精霊のカード『ドラグニティナイト-アスカロン』。
神槍が竜へと姿を変えたその雄々しく美しい聖龍は竜貴の言葉に応じるが如く激しい雄叫びを上げた。

アスカロン『ガァァアアアァアァアアア！！！』

氷機兵「───！」

咆哮を受け、機兵は僅かに後退する。
そして機兵の背後に姿を眩ませていた存在が、今姿を現す───

竜貴「…！あいつか…！さっき俺たちを攻撃したのは…！！」

現れたのは、全身に氷を纏った、三つ首の龍───

氷機兵「───我ガ名ハ『トリシューラ』。貴様ノ名ヲ聞こう」

氷龍を従えし機兵は名乗りを上げ、決闘盤を構えた。

竜貴「…やっと戦う気になりやがったか───いいぜ、教えてやる」

対する竜貴も決闘盤を構え、デュエルモードへと移行させる。


竜貴「俺の名前は『東雲 竜貴』───青龍抜闘術の後継者だ！！」


竜貴【LP 8000】

トリシューラ【LP 8000】


「「───デュエル！！！」」





＊＊＊




場面は再びメアリーと瑞希が交戦中の『神星樹内部・美の間』へと移り───


瑞希「───神星樹(こっち)で邪魔してる子と、人間界(あっち)で邪魔してる連中───1人残らず始末する。そうすればあたしらの勝ちだ」

メアリー「……！」

瑞希「…上の階に残った星奈も、絶対、勝ってここに降りてくる」

メアリー「カンタンに言ってくれるじゃん…！ワタシのターン！ドロー！」[手札 1]

メアリーはドローしたカードを横目で確認。そして表情を変えぬまま、

メアリー「…ターンエンド」

何もせずにターンを終了。

◉TURN:０４◉

その様子を見て瑞希は僅かに頬を吊り上げ、

瑞希「勿論、おねーさんが大した時間も稼げずここで私に負けても、同じ事だよ！
私のターン！！」[手札 1]

瑞希は引いたカードを確認すると、

瑞希「───バトル」

フェイズの移行を宣言。

◉バトルフェイズ◉

瑞希「受けてみなよ…！闇のゲームの“痛み”を！！」

メアリー「…いくらでもくらってあげるわよ！それであの子たちが傷付かずに済むのなら！！」

瑞希「……っ…！うるさい……っての…！───『氷結界の龍 グングニール』の攻撃！！〝氷結霊槍-グングニル〟！！！」

宣言と共に放たれた氷の槍は回転しながらメアリーの元へと飛んでゆく───

『氷結界の龍 グングニール』
[ATK 2500]
ーーーATTACKーーー
[LP 8000]
『メアリー=ベイクウェル』

メアリーを守るものは何一つない。グングニルの名を冠する氷の槍はメアリーの腹部へと深く突き刺さった。

メアリー「───ッ」【LP 8000→5500】

闇のゲームにより実体を伴ったそれは、メアリーにリアルな“痛み”を与える。

メアリー「…がッッ……ふァ…がほ…ッッ…！！」

口元から溢れる血液がカードにかからない様に下を向くメアリー。ボタボタと垂れた血が辺りの冷気により凍りつく。
しかしすぐにメアリーは顔を上げ、

メアリー「まだまだ…！」

調子の良い笑顔で笑ってみせる。
瑞希はその様子が酷く気に入らない様子で、

瑞希「…ターン、エンド」

ターンの終了を宣言。
同じ盤面で再びメアリーにターンが返ってくる。

◉TURN:０５◉

メアリー「…ハハ、もう終わり？」

気丈に振る舞っているものの、今のダメージに加えて氷点下のこのフィールドによりメアリーの体力は確実に削られていた。
瑞希もそれがわかっているから尚の事イラついている。

瑞希「なんで…この寒さの中、そこまでの傷を負いながら───」

なんで、他人の為にそこまで身体を張れるのか。

───否。そんな事を問う必要は無い。
瑞希はそれを知っているからだ。

知っているからこそ、得体の知れない怒りが込み上げてくるのだ。

メアリー「なんでって───信じてるからだよ」

瑞希「───」

メアリー「たとえアナタが！アナタの操る決闘機兵が！アナタの従える氷結界の三龍が！どれだけ強くても！！
───あの子たちは負けないよ」


そう信じてるから、安心して戦える。

瑞希「───…っ……」

そしてそれは、瑞希も同じだ。

星奈が勝つと、機兵が勝つと、信じてここにいる。

同じなのだ。
負けられない。負けるわけにはいかない。


メアリー「ワタシの…ターン！！」


ふたりが決意を固める一方で、機兵が交戦中の三箇所では巨大な氷柱が立ち昇っていた。



＊＊＊


───氷機兵と雫が交戦する、美の間と基礎の間を繋ぐ螺旋階段───


氷機兵「レベル４『氷結界の照魔師』に、レベル２となった『氷結界の霜精』をチューニング！！」


◉◉◉☆４+☆２=☆６◉◉◉


＊＊＊


───氷機兵と明日人が交戦する、慈悲の間と峻厳の間を繋ぐ通路───


氷機兵「レベル４『氷結界の照魔師』に、レベル３となった『氷結界の霜精』をチューニング！！」


◉◉◉☆４+☆３=☆７◉◉◉


＊＊＊


───氷機兵と竜貴が交戦する人間界のYAGAMI本社ビル上空───


氷機兵「レベル４の『氷結界の照魔師』と『氷結界の依巫』に、レベル１『氷結界の霜精』をチューニング！！」


◉◉◉☆４+☆４+☆１=☆９◉◉◉


＊＊＊





「「「───シンクロ召喚！！！」」」









◉◉◉遊戯王 Ph.X◉◉◉
───DRAW:２３４───
　　《氷結界の三龍》









To Be Continued…