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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第64話:At a Crossload

第64話:At a Crossload 作:

5年前。
あの頃の私は、まさか自分がオスカー・ヴラッドウッドに忠誠を誓うなど、夢にも思っていなかった。

記憶の始まりは、冷たい光の中にあった。
その部屋の壁と床は継ぎ目なく続く合金で覆われ、室内を満たす光は、暖かさを持たない均質な白色。
人間の感性を拒絶し、厳密な機能美だけを追求した、フレースヴェルグ・サイバネティクスの指令中枢だった。

「来たねェ、ジェン・ズーシャ君」

私の正面には、無造作な金茶色の髪に、彫りの深い鼻の高い男が立っていた。
その男の名は「アルン・グレムスルー」。
私が所属していた「フレースヴェルグ・サイバネティクス」のCEOだ。

キャラクターデザイン:ttps://imgur.com/a/eEjqDIG
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


部屋の奥、壁一面を占める半透明の巨大モニターには、青白い光が星雲のように淀みなく渦巻き、
中央にただ『Mimir』という文字が浮かんでいる。
その圧倒的な静謐さは、この指令中枢を支配する高次の知性を、揺るぎなく主張していた。

彼の視線は、私という存在を、任務遂行のための最適な要素としてのみ評価していた。
グレムスルーは、独特の抑揚を持つ声で私に告げた。

「ニーズヘッグの社長が変わってしばらく経った。
奴は保守的な前任者とは違い、積極的な改革を推し進めている。
この好機を逃す道理はない。これは、ニーズヘッグに攻め込む絶好のチャンスだよォ」

グレムスルーは、無機質な合金の壁に背を預け、わずかに顎を上げた。
私は後ろ手を組み、立ったまま次の言葉を待つ。

「我々はかねてよりニーズヘッグに近づくためにアプローチをかけていたが、前社長のゲイル・ヴラッドウッドは保守的が故、頑として門戸を開こうとはしなかった。
ほとほとつまらない男だったが、だからこそ隙がなかったというのかねェ」

グレムスルーは壁から静かに離れ、冷たい空間の中を、ゆっくりと私に向かって歩み寄った。

「しかし、あの息子は違うよねェ。奴は積極的な改革派だ。
先代と違い、外部との接触を恐れない。
だが所詮は若造だ。そこにこそニーズヘッグに付け入る隙があるのだよォ」

グレムスルーは口の端をわずかに吊り上げた。

「ニーズヘッグが、ある案件を期にノースウィンド社と業務提携することになったそうだよォ。
この企業は、表向きでは我々と何の関係もないが、我がフレースヴェルグ・サイバネティクスが裏から手を回している企業だ」

グレムスルーは私の目前で足を止めると、右手を伸ばして私の肩を強く掴んだ。

「君はノースウィンド社の社員としてニーズヘッグに潜入し、内側から彼らのコアシステムにアクセスせよ。
君の任務は3つ。
第1に、事前に用意させたマルウェア『ヨルムンガンド』をサーバー中枢に起動させること。
第2に、極秘プロジェクトの全データを完全にミラーリングし、
第3に、そのシステムに我々の恒久的なアクセスコードを埋め込むことだ」

グレムスルーはそう言うと、部屋の中央の巨大モニターの前に立つ。

「これは、Mimir(ミーミル)のお告げ…絶対の"預言"だよォ。いいね?」

私はその言葉に、たった一言で返す。

「承知しました」

「よろしい。任務遂行、それだけが君の存在理由なのだよォ」

グレムスルーは満足げに頷く。
私は命令コードを脳内に格納し、冷たい床を一歩踏み出し、扉へと向かってその場を後にした。

感情はノイズだ。
それは、幼少期から刷り込まれた絶対の教えだった。
父は優秀な技術者で、私に愛情の代わりに、徹底した論理を叩き込んだ。
彼にとって感情とは、最高の効率と完璧な成果を追求するシステムに、予測不能なエラーをもたらすノイズにすぎないようだ。

その背景からか、学生時代にアルン・グレムスルーに見込まれ、私はフレースヴェルグのエージェントとして行動するようになった。
十数年のあいだ彼に仕え、裏の任務をこなしてきた。
ある時は、ライバル企業のメインサーバーに侵入し、数年後に実行される遅延起動型ルートキットを仕込んだ。
時には、組織を邪魔する政府高官の過去の過ちを徹底的に調査し、その情報を公表して失脚させた。

それは全て、フレースヴェルグの利益のためだ。
私の生きる理由はそこにしかない。
所詮、私はメソッドの一つに過ぎない。
目的を与えられれば、そのために動く。
その生き方に、なんら違和感を抱くことなどなかった。



ノースウィンド社の社員としてニーズヘッグに潜入してから、数ヶ月が経過していた。
私は与えられたプロジェクト内で、コアシステムへアクセスできる確固たるポジションを築き上げていた。

私は、プロジェクトチームの同僚であるニーズヘッグ社員と共に、厳重なセキュリティを通過し、地下深くにあるサーバルームへと入室した。
冷気が全身を包み込む。壁一面の黒いサーバーラックからは、青白いインジケーターの光が規則的に瞬いていた。

同僚はデータ更新作業のため、端末の前に立ち、私に背を向けていた。

私は背後の扉が閉まるのを確認すると、一気に間合いを詰めた。
同僚が振り返る間もなく、私の右手の側面が、彼の頸椎の正確な一点を打ち抜いた。
鈍い打撃音が響き、同僚は音もなくその場に崩れ落ちた。
意識喪失は確実だった。

私はその同僚の社員証でアクセス権を確保し、作業端末の一つにアクセスする。
掌に握ったマルウェア『ヨルムンガンド』を格納したUSBデバイスを、端末のポートに差し込む。
画面のアクセスログは一瞬緑色に点滅し、システムがデバイスを正常に認識したことを示した。

成功を確信した、その直後だった。

端末の画面全体が、一瞬にして激しい赤色の警告に塗り替えられた。
同時に、耳を貫くような高周波の電子音が鳴り響き、USBデバイス本体から鋭い金属の焦げる臭いが立ち上った。
白い煙が噴き出したかと思うと、デバイスは内部で鈍い音を立てて破裂し、物理的に破壊された。

私は破壊されたUSBの残骸を見つめ、現状を分析しようとした。

その瞬間、背後の重厚な電子ロックが解除される低い音が響き渡った。
サーバルームの扉が静かに開き、光源を背にした人影が立っていた。
現れたのは、ニーズヘッグの副社長、ルーカス・ヴラッドウッドだった。

「やっぱり鼠が紛れ込んでたみたいだね」
彼はポケットに手を突っ込み、笑みを浮かべていた。
まるで全てが想定通りであるかのように。

そしてその背後から、コツコツという足音と共に、
社長「オスカー・ヴラッドウッド」も姿を見せた。

その瞬間、まるで空気が凍り付いたように感じた。
まさか、社長自ら現れるとは考えもしなかった。
私は、全てを察知した。
これは罠だ。

「その端末はダミーだよ。
不正なUSBを検知したら、高電圧を返す仕掛けが入ってる」

ルーカスは笑みを深め、こちらを一瞥した。

任務の失敗は許されない。
導き出された結論は一つ。

目の前の二人を排除し、事態を打開することだ。

私は、床を蹴り、無防備なルーカス目掛け、予測不可能な軌道で一気に跳躍した。
しかしその瞬間、乾いた機械音と共に赤い光が部屋を包む。

「強制オースデュエル発動」

「なんだと…」
私は思わず空中で動きを止め、着地した。
視線の先で、オスカーが左腕に装着したデュエルディスクを掲げ、眼前に歩み出た。

「世界デュエル憲章第2条。デュエルは、いかなる不当な干渉によっても妨げられてはならない。
これはオースデュエルの交渉にも適用される。貴様は俺達に、暴力で抗うことはできない」

オスカーは、悠然とした表情を崩さぬまま、片腕を軽く胸の前に上げ、私を値踏みするかのように静かに見下ろした。

「…驚いたな。だが、致し方あるまい」
私は素早く左腕を上げ、スーツの袖口に内蔵されたデュエルディスクを瞬時に展開し、戦闘体勢に入った。


しかし、力の差は歴然だった。

「勝者、オスカー・ヴラッドウッド。
オースデュエルにより、ジェン・ズーシャはその身分・目的・経歴の全てを開示する義務を負います。
また、その身柄はオスカー・ヴラッドウッドに一任されます」

機械音が虚しく響き渡る。
眼前には、禍々しい装備を纏った悪魔のようなドラゴンが、跪く私を嘲笑うように見下ろしている。

数瞬の沈黙がサーバルームに重くのしかかった後、DDASは、私が自らの言葉で真実を語る意思がないことを読み取った。
オスカーの眼前に、私の個人情報と任務内容が羅列された、青いソリッドヴィジョンが一瞬で展開された。

「おおかた、予想通りだ。
フレースヴェルグが俺達を陥れようと画策しているのはわかっていた」

オスカーは、その情報を瞬時に読み取り、私に向かって吐き捨てるように言う。

「へえ…ここに来たのもAIの進言ってわけか。
相変わらずアルン・グレムスルーの思想は捻じ曲がってるね」

ルーカスはオスカーの横でソリッドヴィジョンに映し出された情報を見つめながら、軽い口調で言う。

「だが、貴様らの作戦は無泡に帰した。どうする?」

その問いに私は膝をついたまま、無言を貫いた。
思考回路は次の行動を算出していた。

任務失敗、機密漏洩。
私という存在が組織に戻る道は、既に閉ざされている。
残るは、主の情報を守るための自己消去のみ。

私は、スーツのポケットに隠し持っていた、即効性の毒薬が込められたカプセルを指先に滑らせた。
そして、それを口元へと運ぼうとした、その瞬間。

オスカーは、私の行為に一切動じることなく、ソリッドヴィジョンの情報を見つめながら、言葉を続けた。

「絶鎖獣。鎖から解き放たれんとするその姿は、貴様の真なる願いを映しているように見える。
ただ目的のためだけに生き、道具として死ぬ。貴様は、その運命から逃れたいはずだ」

私は思わず毒薬を運ぶ指を止め、顔を上げた。
目の前の男は、表情一つ変えず、真剣にそう言葉にした。
この男が何を言っているのか、私の論理回路では理解できなかった。

「…的外れだな。そのようなことは、一度も考えたことはない。
感情を排し、ただ目的を遂行する。それしか生きる道を知らぬ」

これは正真正銘、私の本心だ。
そこに偽りなどない。

「そんな人生送ってる奴いるんだ。
自主性の欠片もないね。普通なにかあるだろ、趣味とか目標が」
ルーカスは嘲笑うように私を見下した。

「何を見ても、何をしても、何も感じぬ。
そう育った。それだけだ」

「俺とのデュエルでも、か」
私の答えに、オスカーは間をおいて問う。

「ただの戦闘手段に、感じることなどない」

私は即答した。
オスカーは言葉を返さなかったが、その表情はわずかにだが、どこか寂し気に見えた。
するとオスカーは唐突に踵を返し、サーバルームの扉へ向かって歩き出した。

「ついてこい」

「ちょっと…どこに行くんだよ兄さん」
ルーカスは戸惑いを隠せない様子だ。

オスカーは立ち止まり、扉の前で振り返り、未だ膝をついている私を見下ろした。

「命を捨てるのなら止めはしない。
冥土の土産として、その眼に焼き付けろ。"別世界"をな」

オスカーは再び歩き出す。

「まさか…ちょっと兄さん!?
コイツに…"アレ"を見せるっていうのか!?」
ルーカスは顔を蒼白にして必死に兄についていった。

私は膝をついたまま、その言葉の意味を理解できず呆然としていた。
どうしたらいいかわからなかった。
自分に選択肢が与えられることなど、久しくなかったからだ。


私は、しばらく考えた後、胸ポケットに毒薬のカプセルをしまい、静かに立ち上がった。



オスカーとルーカスが消えたサーバルームの扉を抜け、私は言われた通りに彼らの後を追った。
通路をしばらく進んだ先に、一室のドアが開放されていた。

内部は、壁面をいくつもの透過ディスプレイが占める管制室だった。
数人の社員と思われる者が、静かにコンソールを操作していた。
彼らの視線は、部屋を囲むように配置された巨大モニターに向けられていた。

モニター越しに見える映像はわずかにざらつき、時折、電波障害のように砂嵐が走って途切れ途切れになる。
そのモニターに映し出されていたのは、私が生まれて以来、触れることのなかった"異世界"の光景だった。
それを目にした瞬間、私は思わず息を呑んだ。

その向こう側に広がる空は重く、大気を構成する色が地球とは異なる錆びた橙色に染まっていた。
地平線まで広がる荒野には、骨格が剥き出しになったかのような鋭利な結晶質の岩が林立し、その間を、体表を虹色に反射する甲殻に覆われた巨大な節足生物が、鈍い振動を立てて移動していた。
映像には時折、空を覆い尽くすほどの翼を持った禍々しいドラゴンの影が過り、その咆哮はモニターの古いスピーカーを破って、私の内耳にまで響き渡った。

それは、この現実の法則から逸脱した、明確な異形の存在が、あまりにも当然のようにそこに息づく姿だった。

私は、そこに映るあらゆる色彩、構造、動きの全てに、呼吸を奪われるほどの衝撃を受けた。
何が起きているのか、何も理解できない。
全身を駆け抜けるこの激しい熱が何なのか、私には判別できなかった。

見開いた目には、自然と涙が浮かび上がる。
そしてその雫は次々と溢れ、私は呆然と口を開いたまま、ただその液体を垂れ流すことしかできなかった。
自分の中から湧き上がる"それ"が何なのか、紐解くことができなかった。
こんな感覚は、生まれて初めてだった。

「モンスターワールド。
デュエルモンスターズのモンスターが暮らす異世界だ」

前方からオスカーの声がする。
彼が目の前にいたことすら、私は忘却していた。

私は言葉を返すことができなかった。
未だ、モニターの中の異世界に目を奪われて続けていた。

「はぁ……。兄さん、ほんとバカだよ。
よりにもよって、このスパイ野郎に世界の真実をバラすなんて」

ルーカスは頭を抱え、呆れた様子で首を横に振る。

オスカーの言葉は、世迷言同然だ。
それでもモニターの向こうには、確かな生命の息遣いを感じざるを得なかった。

「よいのか…。敵である私に、このようなものを…」

「敵に心配される筋合いはない。
貴様はこれを見て、何を感じた?」

オスカーは私の目を真っ直ぐと見つめる。
その解を、心待ちにするかのように。

私は、言葉にすることができなかった。
どう表現すればいいか、わからなかったからだ。
オスカーは何も言わず、ただ私の言葉を待った。


「……わからない」
それが、初めに思い浮かぶ言葉だった。

「…だが。だが、確かに……」

その先を言葉にするのが恐ろしかった。
もう、後戻りできないような予感がしたからだ。

「…美しいと、思った」

その言葉を聞いた瞬間、オスカーがデュエルディスクを掲げると共に、目の前に1枚のソリッドヴィジョンの契約書が浮かび上がる。
そしてそれは光の粒子となって散り散りとなる。

「なっ…」
それは契約解除の証。
オスカーは私との契約を突如として解除したのだ。

「これで貴様を縛る契約はない」

オスカーは黒いコートのポケットに両手を入れ、ゆっくりと目を閉じた。
静寂の中、彼の静かな声が響く。

「お望み通り、機密情報はくれてやった。
巣にでも持ち帰るか、あの世への土産とするか。好きにしろ」

「ちょ、ちょっと待てよ兄さん!
まさか本当に情報を教えて逃がすつもりじゃないよね!?」

ルーカスは明らかに慌てふためいている。
しかしオスカーは微動だにせず答えた。

「それは今からこの男が決めることだ。さあ、どうする」
オスカーは目を開き、私を真っ直ぐに見つめた。

「私は……」

自分に提示された自由と選択という重みに、初めて強く葛藤した。
長い沈黙の後、私は本心を語る。

「…わからない。なぜ私が今ここに存在しているのか。
なぜ私に選択の余地を与えるのか…」

「理解できなければ、これまで通りグレムスルーの傀儡に準じればいい。
元の道に戻ることなど造作もない。だが、今お前は迷っている」

オスカーの眼は、まるで私の心を見透かすようだった。
私に迷いが生じていることが、今までのことからすれば、異常事態だった。

どうすればいいか、わからなかった。
任務に失敗した私に、もう行き場などない。
あの方は、完璧しか求めていないからだ。

私には本来、一つの道しか残されていないはずだった。
それを実行することに、少し前までは迷いなどなかったはずだ。

私は目の前のモニターに再び目を移した。
人智を超えた異世界が、手を伸ばせば届くほど近くにある。
しかし、どうしても体が動かない。

「ならば代わりに教えてやる。貴様は今まで、自ら選択する機会がなかったからだ。
ただ命令を順守するだけだった貴様に、選択を与えた者が誰1人としていなかった。故にお前は戸惑う」

「…私に選択の余地などなかった。命令こそが私の生きる意味だ。それでいい」

それは、私の根幹に強く根付いた哲学。
そうであると信じて生きてきた、私自身の言葉だった。
私は、自身が歩んできた道、私の存在そのものを、今さら否定することができなかった。

「だが貴様は今、飼い主のもとへ情報を持ち帰る決断を下さない。
それは、貴様の中に他の選択肢が現れたからだ」

オスカーのその言葉が、私の脳裏に強烈なノイズを響かせた。
頭の中に、数々の過去の言葉が木霊する。
それは、私の身体に組み込まれた、逃れられない呪いの鎖だった。

「感情はノイズだ」――すべてを否定する、父の冷たい断言。

「人格や感情を排泄し、ただ目的を遂行する。君のような人材を求めていたのだよォ…」――主の、甘く、支配的な声。

それらの声は、まるで冷たい鎖のように、私の足にからみついた。
これまで、ただ言われるがままに生きて来た。
今思えば、そうすることで心のどこかで安堵していたのかもしれない。
自分が進む道は、いつも目の前に示されていたからだ。

しかし突然、目の前に新たな分かれ道が現れた。
その先は真っ暗で、どこに繋がっているのかもわからない。
初めて「自由」の持つ底知れない恐怖に直面していた。

私は、わずかに唇を震わせながら、答えを示した。

「…他の可能性など、あるはずもない。
当然、この情報は主に渡す」

気付いた時には、私の足は今まで歩んできた道に、1歩踏み出していた。
たとえ、見えているのが途絶えている道だったとしても。
どうしても、"選択"することができなかった。
先の見えない道を、歩むことはできなかった。

「…ニーズヘッグのCEOともあろう者が、何を血迷ったかスパイに情報を渡すとはな。
主の言う通り、隙だらけの…愚かな男だ」

私は何かを誤魔化すように口早に言葉を紡いだ。

「ほんとだよ兄さん。どう責任取るつもり?」
そう言いながらも、ルーカスはあまり危機感を抱いていない様子だった。

1歩、2歩。出口に向かって後方に下がり、この空間から逃れようと振り返った、その瞬間だった。
​正面のモニター群の1つ、モンスターワールドを映し出す画面の中央に、突如として異変が起きた。

​全身が真っ黒な骨格で構成された、禍々しいアンデットのドラゴンが、荒涼とした大地から這い上がるように現れたのだ。
その異形の存在は、モニターの枠を突き破るかと思うほど巨大に映し出され、私を目がけて大きく咆哮した。

「!!」
私は驚きのあまり、硬い床に身を崩して倒れた。
そのドラゴンは、まさしく先ほどのデュエルで、私に敗北を突きつけたオスカーの切り札――アームドホラー・ドラゴンだった。

「俺は契約を解き、貴様に選択肢を与えた。
だが貴様らの蛮行を容認したわけではない。
道を引き返すならば、俺は貴様を追うまでだ」

オスカーは私の前に立ち、私を見下ろしながら言う。
だが、私の意識は眼前のモンスターに釘付けだった。
この映像はあくまで、モンスターワールドとやらをモニタしているに過ぎないはずだ。
にも関わらず、都合よくオスカーのデッキのモンスターが、まるで私を止めるかのように動いた。

明らかにおかしい。そんなはずはない。
導き出される答えは一つだった。

「…一瞬でも信じた私がどうかしていた。この映像は精巧に作られた偽物だ。
お前達が私を簡単に逃がしたのも頷ける」

私は自嘲するように言う。

「アームドホラー・ドラゴンが、俺の心に従ったまでだ。そこに嘘偽りはない」

「不可能だ!このようなまやかしに騙されるほど愚かではない!」

私は声を荒らげた。
目の前の事情を否定しなければ、どうにかなりそうだった。

「そうそう、偽物偽物。
ほんとバカだよね、真に受けちゃって」

ルーカスは兄とは反対に、私の言葉を肯定する。
もはや彼らの意思がどこにあるのか、私には判断できなくなった。
だが、作戦に失敗し、虚偽の情報を掴まされたとあらば、私が出す結論は一つだった。

「…私はこの程度の判断すらできなくなっていたか。もう駒としての利用価値もないだろう」

「ならばまた、振り出しに戻り自ら命を絶つか」

「私に残された道はそれしか…」

その言葉を言い終わるより前に、オスカーが私を掴み壁に押さえつける。

「クッ…何をする…!」

「…今の貴様は、機械の空虚な命令に従うだけの、己が意思を持たぬでくの坊だ。
貴様の人生は何のためにある」

オスカーは腕で私の身体を強く壁に押さえつけたまま、静かに問いかける。
しかしその眼差しの奥は、得体のしれぬ熱さをはらんでいた。

「貴様がその腐った性根のまま死んでいけば、俺は1人の人間すらも変えられなかったことになる。
そんなことは、世界の未来を担う者として断じて許されない」

この男が何を言っているのか、理解できなかった。
そんなことは、私の知ったことではないだろう。

「…理解できないな。そんなことで世界に秘匿すべき機密を私に教えたのか?」

「そうだ」
オスカーは迷うことなく言い切った。
後ろでルーカスが露骨に頭を抱えている。

「だが、モンスターワールドを…生きるモンスターを目にした貴様の心は、確かに揺れ動いたはずだ」

私は言葉を返すことができなかった。
オスカーは腕に込めていた力を抜き、私は解放された。
だが、その場から動けずにいた。

この男の言葉を、私は最後まで聞かなけるばならない。
それが私の宿命である気がしたからだ。

「先の見えない人生が怖いか。
ならば…道は俺が創ってやる」

ただ唖然とする私をよそに、オスカーはマントを翻し、高らかと言う。

「俺のもとへ来い。
そして、真に命を賭ける価値のあるもののために、その命を賭けろ」

「…な、なんだと……!」
それは、あまりに馬鹿げた提言だった。
困惑のあまり、冷や汗が頬を伝う。

「な、何を言ってるんだ兄さん!こいつはこの会社に潜り込んで、マルウェアまで仕掛けようとしたんだぞ!?」

「だからこそ、だ」
オスカーは変わらぬトーンで言葉を返す。
この場で冷静さを保っているのは、奇しくもこの男だけだった。

「事実、この男は驚異的な速度で我が社の中枢に入り込み、あと1歩で目的を達成するところだった。
運良く俺達が一足早かったがな」

彼の言葉に、ルーカスが反論することはなかった。

「俺はこいつの能力を買っている。
エンジニアとしても、エージェントとしても、そしてデュエリストとしてもだ」

この男は、自らの進む道を寸分たりとも疑っていない。
全て本気だ。それがわかった。

「貴様がいれば我が社は更なる発展を遂げ、押し寄せる外敵を退けられると確信している」

心臓が跳ねるのが分かる。
明らかに、ここが、私の人生における"岐路"だ。

「選べ。傀儡として惨めに死ぬか、
初めて心動かされたもののために、必死に生きるか」

オスカーはそう告げた後、ただ私の返事を待った。
オスカーの背後に映されたモニターには、まるで彼の意志を表すかのように、アームドホラー・ドラゴンがこちらを見つめていた。

私は、再び部屋中を見回し、モニターの中の別世界を瞳に映した。
鼓動はさらに速くなる。

その瞬間、目にしたモニターの向こうで、月夜を背に、天馬のモンスターが大きく翼を広げ、崖から飛び立った。
眼下には、紫紺の闇を切り裂くように、無数の発光する結晶の樹々が広大な森を形成し、その中心には、静かに満月を反射する巨大な湖があった。
空からは、天馬の翼が起こす風に乗って、星屑のような光の粒子が降り注ぐ。

その光景はまるで、私を歓迎しているかのようだった。



私の道は、あの時から地続きだ。
人類が滅べば、人の心から生まれたモンスターワールドは形を保てない。
だから、私は…

お前に勝たなければならない。

-------------------------------------------------
【イーサン】
LP6200 手札:0

①ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK3000(雷カウンター:2)

永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット
永続罠:ヴォルタンク・コンバートライン


【ジェン】
LP8000 手札:4

永続魔法:絶鎖獣の先導(雷カウンター:5)
--------------------------------------------------

ジェンは目を開け、目の前の現実に視線を向ける。
そこには、蒼き城塞が高く聳え立っていた。

ジェンが上級モンスターによって攻撃をしたその時、
イーサンは罠カードによって、雷カウンターが置かれたジェンのモンスターを素材に、新たなLモンスターを呼び出した。

サンダーフォートレスは雷カウンターが置かれていることで、自身の効果により効果の対象にならない。
さらには1ターンに1度、相手のカードをデッキに戻すことができる。

ジェンは自分の手札を見つめる。
そして、今は打つ手がないことを理解する。

「永続魔法『絶鎖獣の先導』の効果発動。
1ターンに1度、レベル7以上の絶鎖獣を手札に加える」

その瞬間イーサンが動いた。

「サンダーフォートレスの効果発動。
雷カウンターを3つ使い、相手フィールドのカード1枚をデッキに戻す。
その永続魔法をデッキに戻す」

雷カウンター 6→4

イーサンはジェンの伏せカードの内1枚を指差す。
サンダーフォートレスが電磁波を放つと、そのカードは分解されたようにフィールドから消失する。
同時に、永続魔法に置かれていた雷カウンター2つも消失する。

雷カウンター 4→2

「永続魔法がフィールドから消えたことで、絶鎖獣を手札に加える効果は適用されない。
さらにサンダーフォートレスの効果により、デッキがシャッフルされた時、自身に雷カウンターが1つ置かれる」

雷カウンター 2→3

「…カードを2枚伏せ、ターンエンド」
ジェンは結局、抵抗できずにターンを終えた。

「永続罠『ヴォルタンク・コンバートライン』の効果発動。
雷カウンターを2つ取り除き、相手の魔法・罠カードを1枚破壊する。
その伏せカードを破壊だ」

雷カウンター 3→1

イーサンが指を差した伏せカードは、地面に迸る電気によって砕け散る。
伏せられていたのは、通常魔法カード「絶鎖獣の恩寵」だった。

(…ブラフか?)
イーサンは、ジェンがこの局面でブラフを伏せる意図を図りかねていた。

「よし!残り1枚の伏せカードもデッキに戻しちまえば、もうあいつに手はねえ!」

しかし、ジェンのフィールドに残されたのは1枚の伏せカードのみ。
それも、次のイーサンのターンで除去可能だ。
ようやくイーサンに勝機が訪れたことで、遊次は拳を強く握り歓喜を表す。

「俺のターン、ドロー!永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』の効果発動。
フィールドのLモンスター1体を指定し、そのリンクマーカーの数だけ、フィールドのカードに雷カウンターを置く。
サンダーフォートレス自身に、4つ雷カウンターを置く」

サンダーフォートレスの天守に4度雷が落ちる。
雷カウンター 1→5

「さらにサンダーフォートレスの効果発動。その伏せカードをデッキに戻す」
雷カウンター 5→2

ジェンのフィールドに残された伏せカードはチェーンされることなく、分解されフィールドから消失した。
それはすなわち、無抵抗の証明。

「デッキがシャッフルされたことで、サンダーフォートレスに雷カウンターが置かれる」
雷カウンター 2→3

イーサンの手札は1枚。
イーサンがここからさらなる展開が可能であれば、ここからジェンのライフを一気に削ることも可能だ。
この好機を逃すわけにはいかない。遊次達も固唾を飲んで見守る。

「自分フィールドにモンスターがいない時、『ヴォルタンク・インダクタ』は手札から特殊召喚できる」

■ヴォルタンク・インダクタ
 効果モンスター
 レベル3/光/雷/攻撃力1000 守備力1500
 このカード名の、②の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
 ③:自分メインフェイズに発動できる。
 デッキから「ヴォルタンク」モンスター1体を墓地へ送る。

サンダーフォートレスのリンク先に現れたのは青いコイル形状のモンスター。
金属装甲の外殻に銅線が幾重にも巻きつき、中央では青白い電流がほとばしっている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/4LXtcBt
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「ヴォルタンク・インダクタの効果発動。
1ターンに1度、墓地から『ヴォルタンク』モンスター1体を墓地へ送る。
『ヴォルタンク・ポテンショメータ』を墓地へ送る」

「この時シャッフルが発生し、フィールドの2体のモンスターに雷カウンターが置かれる。
さらにサンダーフォートレスは自身のリンク先のモンスターにも雷カウンターを置くことができる」

雷カウンター 3→6

「さらに墓地へ送られた『ヴォルタンク・ポテンショメータ』の効果発動。
デッキからヴォルタンク罠カード1枚を手札に加える。
『ヴォルタンク・レールガン』を手札に加える。
シャッフルが発生したことで、雷カウンターが置かれる」

雷カウンター 6→9

「俺はカードを1枚伏せる。そして墓地の『ヴォルタンク・ブースト』の効果発動。
手札が0枚の時、このカードは墓地からセットできる。
『ヴォルタンク・ブースト』の効果発動。雷カウンターを4つ取り除き、2枚ドローする」

雷カウンター 9→5

イーサンはカードを2枚ドローする。
墓地からセットされたヴォルタンク・ブーストは、自身の効果で除外される。

「墓地の『ヴォルタンク・ポテンショメータ』の効果発動。
墓地のこのカードを除外し、墓地のヴォルタンクLモンスター1体をEXデッキに戻す。
その後、そのリンクマーカーと同じレベルを持つヴォルタンクを、デッキから特殊召喚できる。
リンク2『ヴォルタンク・パワージェネレーター』をEXデッキに戻し、
デッキからレベル2『ヴォルタンク・モーター』を特殊召喚する」


■ヴォルタンク・モーター
 効果モンスター
 レベル2/光/雷/攻撃力1100 守備力1500
 このカード名の、②の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:自分フィールドに「ヴォルタンク」モンスターが存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚できる。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除いて発動できる。
 「ヴォルタンク・モーター」以外の「ヴォルタンク」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。


現れたのは青いモーター形状のモンスター。
外殻は精密な歯車とねじ部品が露出し、中央部に大型の回転軸が設けられている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/3jDG7gK
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「デッキがシャッフルされたことで、サンダーフォートレス及びリンク先のモンスターに雷カウンターが置かれる」

雷カウンター 5→9

この時点で遊次は確信した。イーサンの展開は留まるところを知らない。
イーサンは確実に、ジェンのLPを超える攻撃力をフィールドに出力することができる。

「『ヴォルタンク・モーター』の効果発動。雷カウンターを3つ使い、デッキからヴォルタンクを特殊召喚する。
来い『ヴォルタンク・エンジン』」

雷カウンター 9→6

■ヴォルタンク・エンジン
 効果モンスター
 レベル4/光/雷/攻撃力1800 守備力1200
 このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 デッキから「ヴォルタンク・エンジン」以外の「ヴォルタンク」モンスター1体を手札に加える。


青いエンジンを模したモンスターは、金属光沢のある深い青色の体を持つ。
胴体は直方体に近い形状で、表面には複数のランプや操作盤のような装飾が施され、冷たい光を放つ。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/nb09OhR
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「この瞬間、デッキがシャッフルされたことでモンスターとリンク先に雷カウンターが置かれる」
雷カウンター 6→11

「ヴォルタンク・エンジンの効果発動。
特殊召喚時、デッキから『ヴォルタンク』モンスター1体を手札に加える。
『ヴォルタンク・トランジスタ』を手札に加える。
シャッフルが発生したことで、雷カウンターが置かれる」

雷カウンター 11→16

「『ヴォルタンク・トランジスタ』は、手札から
ヴォルタンクLモンスターのリンク先に特殊召喚することができる」


■ヴォルタンク・トランジスタ
 効果モンスター
 レベル3/光/雷/攻撃力1400 守備力800
 このカード名の、②の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ③の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードは自分フィールドの「ヴォルタンク」リンクモンスターのリンク先に
 手札から特殊召喚できる。
 ③:このカードがリンク素材として墓地へ送られた場合に発動できる。
 相手の手札をランダムに1枚選んでデッキに戻しシャッフルする。


現れたのは、長方形の本体の上部に三本の足が真っ直ぐ伸びたモンスター。
下部に電流を感じさせる微細な回路模様が彫り込まれている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/HBVuYnm
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「俺はヴォルタンク・モーターとヴォルタンク・トランジスタをリンクマーカーにセット。
サーキットコンバイン!」

2体のモンスターが、地面に浮かび上がったサーキットへと入ってゆく。
モーターに置かれていた雷カウンターは、素材となると共に消失する。

雷カウンター 16→14

「リンク召喚!再び現れよ!リンク2『ヴォルタンク・パワージェネレーター』!」


■ヴォルタンク・パワージェネレーター
 リンクモンスター
 リンク2/光/雷/攻1700
 【リンクマーカー:上/下】
 雷族モンスター2体
 このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:相手がモンスターを召喚・特殊召喚する度に、そのモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 このカードが相互リンク状態の場合、この効果で置かれる雷カウンターの数は2つとなる。
 ③:フィールドの雷カウンターを3つ取り除き、自分の墓地の「ヴォルタンク」フィールド魔法・永続魔法・永続罠カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを自分フィールドに置く。
 この効果は相手ターンでも発動できる。

高さ約5メートルの巨大な蒼き発電機のようなモンスターが再び現れる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/A3i8gl4
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「トランジスタがL素材として墓地へ送られた場合、効果発動。
相手の手札をランダムに1枚デッキに戻す」

イーサンは一切の容赦がなかった。
フィールドがすでに空の状態で、ジェンはさらに2枚の手札の内1枚を奪われようとしている。
ジェンは険しい表情で迷いを見せるも、優先権はイーサンに戻る。

ランダムで手札が1枚選ばれ、ジェンはそれをデッキに戻した。
ジェンは俯き、顔に陰を作る。

「デッキがシャッフルされたことで、俺のモンスターに雷カウンターが置かれる」
雷カウンター 14→20

「『ヴォルタンク・パワージェネレーター』の効果発動。
雷カウンターを3つ取り除き、墓地のフィールド魔法『ヴォルタンク・カレントコレクター』をフィールドに置く」

雷カウンター 20→17

三度、イーサンとジェンの周囲に無数のアンテナ群が張り巡らされる。

「さらに、ヴォルタンク・パワージェネレーターとヴォルタンク・インダクタをリンクマーカーにセット。
リンク2のパワージェネレーターは2体分の素材となる」

パワージェネレーターは半透明の分身を作り、2体のモンスターが地面に現れたサーキットへと入ってゆく。
それぞれのモンスターに置かれていた雷カウンターは宙へ浮き、霧散する。

雷カウンター 15→10

「リンク召喚!現れよリンク3『ヴォルタンク・チャージリダウト』!」


■ヴォルタンク・チャージリダウト
 リンクモンスター
 リンク3/光/雷/攻2200
 【リンクマーカー:左/左下/下】
 雷族モンスター2体以上
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードがL召喚した場合、墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを手札に加える。
 ③:相手が魔法・罠カードの効果を発動した場合、フィールドの雷カウンターを3つ取り除いて発動する。
 その発動を無効にしてデッキに戻す。


再び、蒼き戦車のような要塞が現れる。
その外壁と砦は蒼いボディをしており、各所に巨大なボルトが付いている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/9jFDvVT
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「L召喚したチャージリダウトと、永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』の効果発動。
チェーン2のリファインドサーキットにより、雷カウンターが置かれたカードがフィールドを離れた時、置かれていた雷カウンターを別のカードへ移す。
L素材となったヴォルタンク・インダクタに置かれていた雷カウンターを、ヴォルタンク・チャージリダウトへと移す」

雷カウンター 10→15

「さらにチェーン1のチャージリダウトの効果により、墓地のヴォルタンク・インダクタを手札に戻す」

イーサンの動きが止まる。
どうやらこれで展開は終了のようだ。

「フィールド魔法により、俺のヴォルタンクは雷カウンターの数×300、攻撃力が上がっている」

-------------------------------------------------
【イーサン】
LP6200 手札:3(ヴォルタンク・インダクタ)

①ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK7500(雷カウンター:9)
②ヴォルタンク・チャージリダウト ATK6700(雷カウンター:3)
③ヴォルタンク・エンジン ATK6300(雷カウンター:3)

フィールド魔法:ヴォルタンク・カレントコレクター
永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット
永続罠:ヴォルタンク・コンバートライン
伏せカード:1


【ジェン】
LP8000 手札:1
--------------------------------------------------

イーサンの3体のモンスターの攻撃力は全て6000以上。
このモンスターの総攻撃を浴びれば、ジェンのライフは尽きる。
誰の目にも、結末は明らかだった。
すなわち、イーサンの勝利だ。

「よっしゃぁー!イーサン、そのままブチ込んでやれ!」
遊次は笑顔で拳を突き上げる。

(まずは1つ鍵を手に入れた…。でも、ニーズヘッグとの戦いは始まったばっかりだよね)
灯はほっと一息つくも、すぐに次なる戦いに気持ちを切り替えた。

「バトルだ。ヴォルタンク・サンダーフォートレスで、お前にダイレクトアタック!」

城塞の天頂へ集まった稲妻が弾け、空気を裂く轟音が響いた。
塔の砲身から奔る光が一点へ収束し、雷光が束になって落下する。
次の瞬間、落雷が叩きつけられ、電撃がジェンの全身を貫くように走り抜ける。

「ぐあああああああああ!!!」
ジェン LP8000 → 500

落雷の衝撃が収まると、ジェンの身体はわずかに揺れた。
肩口から黒い煙が立ちのぼる。
全身が痺れたように力が抜け、片膝をつきそうになりながらも必死に踏み留まっている。
満身創痍の姿で、それでもなお、イーサンを睨み返していた。

次が最後の攻撃だ。
だがジェンは、未だその気迫を保ち続けている。
イーサンはそれを押し返すかのように、言葉を投げかける。

「お前と俺は似ていると言っていたな。目的のためなら手段を選ばないと。
だが、少し違うな。俺が手段を選ばないのは目的を果たすためじゃない」

「"願い"を果たすためだ」

イーサンが右手を前に突き出す。
それは攻撃指令の合図だった。

「これで終わりだ。
ヴォルタンク・チャージリダウトでお前にダイレクトアタック!」

チャージリダウトの砲身に雷が充填される。
ジェンは目の前の眩い光を見つめながら、ある男の言葉を思い出す。

(先の見えない人生が怖いか。
ならば…道は俺が創ってやる)

それは、自らの運命を大きく変えた言葉。

あの時、私は確信した。
貴方の創る道にこそ、私の未来はあるのだと。


貴方は敵であった私を開発本部の部長に据え、ニーズヘッグの中枢を担わせた。
あまりに愚かで、非論理的な選択だ。

だからこそ…私は貴方に応えたかった。
論理ではない何かを信じ、私にニーズヘッグの未来を任せた貴方に。


「手札から『絶鎖獣 スティングフォックス』の効果発動!
相手ターンにこのカードを手札から捨て、デッキから『絶鎖獣』罠カードをセットすることができる!」


■絶鎖獣 スティングフォックス
 効果モンスター
 レベル4/地/獣/攻撃力1800 守備力800
 このカードの①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:相手ターンにこのカードを手札から捨てて発動できる。
 デッキから「絶鎖獣」罠カード1枚を自分の魔法&罠ゾーンにセットする。
 自分フィールドにレベル7以上の「絶鎖獣」モンスターが存在する場合、この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 ②:自分フィールドの「絶鎖獣」モンスターがフィールドを離れた場合に発動できる。
 墓地のこのカードを特殊召喚する。
 ③:このカードをリリースして「絶鎖獣」モンスターは以下の効果を得る。
 ●このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。


「…何?」

ジェンの予想不能の一手にイーサンは目を細める。
これは勝利の一撃だったはずだ。
しかし、まだ目の前の男は、まるで生へ執着する獣の如く、イーサンに食らいついてきた。

スティングフォックスは半透明の姿でフィールドに現れると、装甲で覆われた蜂のように鋭利な尾を地面に突き刺した。
そこに罠カードが1枚セットされる。

「私はデッキから『絶鎖獣の封印』をセットする!
フィールドにレベル7以上の絶鎖獣が存在する場合、このカードはセットしたターンに発動可能!」

ジェンはセットした「絶鎖獣の封印」をオープンする。


■絶鎖獣の封印
 通常罠
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:相手フィールドのモンスターの数まで、自分の墓地の「絶鎖獣」モンスターを対象として発動できる。
 それらのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。
 自分のLPが相手より少ない場合、この効果で特殊召喚したモンスターは戦闘で破壊されない。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 ②:自分フィールドのレベル7以上の「絶鎖獣」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードを除外する。
 この効果で除外したモンスターは、次のターンのスタンバイフェイズにA召喚扱いで特殊召喚され、
 攻撃力が1000アップし、相手の効果を受けない。


「このカードは、相手フィールドのモンスターの数まで、墓地の絶鎖獣を効果を無効にして特殊召喚できる。
墓地のレンドウルフとリベレートペガサスを、効果を無効にし守備表示で特殊召喚!
この効果に相手はチェーンすることはできない!」

再び、青銅の鎧を纏った巨狼と、紫色の鎧を纏ったペガサスがフィールドに現れる。
2体のモンスターは鎖に囚われ、身体を動かすことができない。

「さらに自分の方が相手よりもライフが少ない時、このモンスター達は戦闘で破壊されない」

「…九死に一生を得たか」

勝利を目前にして逃したイーサンは拳を強く握る。
後方の怜央は、ジェンを訝しげに見つめながら口を開いた。

「…おかしいだろ、あのデカブツ。
イーサンのヴォルタンク・トランジスタの効果で、あいつは手札を1枚ランダムにデッキに戻されたんだぜ。
あの時スティングフォックスがデッキに戻ってたら、今のイーサンの攻撃でアイツは負けてた。
だったらなんでトランジスタで手札を戻される前に、スティングフォックスの効果を使わなかった?」

怜央の言葉に、灯ははっとする。

「確かに…。もしスティングフォックスがデッキに戻ってたら、自分が負けるのに…」

遊次はすぐにその答えを掴み、言葉を紡ぐ。

「でも、もしトランジスタの効果にスティングフォックスをチェーンしてたら、
『絶鎖獣の封印』で墓地から復活させたモンスターは、バトルで破壊されてた。
自分のライフが相手より少ない時にしか、復活したモンスターに戦闘耐性を与えられないからな」

遊次の推察は的を射ていた。
そしてその選択に裏に潜む意味と、ジェンの覚悟をも、灯は同時に理解した。
遊次は真剣な眼差しでジェンを見つめ、言う。

「ただ生き残るだけじゃ意味がねえ。
アイツは死ぬリスクを冒しても、勝つ方を選んだんだ」

確かにトランジスタのハンデス効果にスティングフォックスをチェーンすれば、
ハンデスされる前に確実に墓地のモンスター2体を蘇生できていた。
しかし、その時点ではジェンの方がライフは高く、モンスターは戦闘破壊されていただろう。
それでは、生き残ることはできても、次の自分のターン、手札1枚から逆転しなければならない。
それはあまりにも困難だ。

故にジェンは、トランジスタのハンデス効果にスティングフォックスをチェーンしなかった。
ジェンの手札は2枚。50%の確率でスティングフォックスがハンデスされれば、ジェンは敗北していただろう。
しかしそのリスクを潜り抜け、一度直接攻撃を受けることでライフを減らした後にモンスターを蘇生することで、戦闘破壊耐性を与え、自分のターンに2体のモンスターを残すことができた。

「…俺はバトルを終了する。そのままターンエンドだ」
イーサンは悔しさを滲ませ、ターンを終えた。

「ターン終了時、墓地の『絶鎖獣 チップモール』の効果発動。
デュエル中に1度、お互いのエンドフェイズにこのカードを墓地から特殊召喚できる」

鋼の装甲をまとったモグラのモンスターが再び姿を現す。

-------------------------------------------------
【イーサン】
LP6200 手札:3(ヴォルタンク・インダクタ)

①ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK7200(雷カウンター:7)
②ヴォルタンク・チャージリダウト ATK6400(雷カウンター:6)
③ヴォルタンク・エンジン ATK6000(雷カウンター:1)

フィールド魔法:ヴォルタンク・カレントコレクター
永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット
永続罠:ヴォルタンク・コンバートライン
伏せカード:1


【ジェン】
LP500 手札:0

①絶鎖獣 レンドウルフ(効果無効) DEF2500
②絶鎖獣 リベレートペガサス(効果無効) DEF2700
③絶鎖獣 チップモール DEF1200
--------------------------------------------------

「お前は前のターン、2枚の伏せカードをセットした。
俺はそのカードを除去したが、代償として雷カウンターを消費した。
そのせいで、サンダーフォートレスの攻撃力は8000に届かなかった」

イーサンはジェンのライフを削り切れなかった。
これはジェンが意図的に作り出した状況であることに、イーサンは気が付いていた。

「俺の一撃を耐えて自分のLPを減らすことで『絶鎖獣の封印』によって、
復活させたモンスターに耐性を与える…それを最初から想定してたわけか。
そのためにお前は可能な限り雷カウンターを減らして、
攻撃力の上昇値を下げ、攻撃を耐える可能性を高めた」

ジェンは無言のまま前を見据える。
イーサンは静かに首を横に振る。

「お前は手札を1枚デッキに戻されると知りながら、
手札にスティングフォックスを保持し、ライフのほとんどを失う選択をした。
次のターンにモンスターを残すという、たった1つの目的のために。正気とは思えないな」

「私も、"願い"のためならば手段を選ばない。それだけのことだ」

その言葉に、イーサンや遊次達は理解した。
彼は、ただ命令を遂行するだけの存在ではない。
1人の人間として、ここに立っているのだと。

「だが、わかっているはずだ。
次のターン、俺がセットした『ヴォルタンク・レールガン』の効果を発動すれば、
取り除いた雷カウンターの数に応じてお前にダメージを与えることができる。
残り500のライフを削ることなど、造作もない」

ジェンの手札は0枚。
ドローフェイズにレールガンを発動された時点で、敗北は確定する。
数々の困難を潜り抜けても、未だ現状は暗闇が支配する洞窟の中だ。
奥に見える光はあまりにも小さく、か細い。

しかし、ジェンはその光から決して目を離さなかった。
ジェンがデッキトップに指を掛ける。

("道は俺が創ってやる"。
貴方はそう言った。私はその言葉を信じた。
だが、私は知った。果たすべき使命は、ただ貴方の創った道を歩むことではないと)

眼前には蒼き巨大要塞が聳え立ち、眩い雷光が辺りを包んでいる。
ジェンは前を見据えたまま、指先に力を込める。

(貴方の歩むべき道を切り拓く。
それこそが、我が使命だ…!)

ジェンは素早くカードを引く。
そのカードに視線を移したのは、刹那。
ドローフェイズ。
ジェンはそのカードを、すぐにデュエルディスクに叩きつけた。

「速攻魔法発動!『絶鎖獣の轟咆』!」

■絶鎖獣の轟咆
 速攻魔法
 このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
 ①:自分フィールドに「絶鎖獣」モンスターが存在する場合に発動できる。
 自分は2枚ドローする。その後、手札を1枚除外する。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 ②:自分フィールドに「絶鎖獣」モンスターが存在する場合に発動できる。
 自分フィールドに「絶鎖獣トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 ③:自分ターン、自分フィールドに「絶鎖獣」モンスターが存在する場合に発動できる。
 相手はこのターン、チェーン1で効果を発動できない。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。


「な…発動できるカードを引いたってのかよ!?」

遊次は目を見開いて驚愕する。
イーサンに優先権が渡った瞬間、ジェンの敗北は決するはずだった。
しかし、最初の優先権はターンプレイヤーにある。
そのごく小さなチャンスを、ジェンは逃さなかった。

「このカードは、3つの効果から1つを選んで発動することができる。
私は3つ目の効果を選択!相手はこのターン、チェーン1でのカードの発動ができない!」

「そんな…!でも、そのカードにチェーンすれば…」

しかし、ジェンは灯の言葉を切り裂くように否定する。

「当然、この効果にチェーンは不可能!」

ジェンのフィールドのレンドウルフとリベレートペガサスは、耳をつんざく程の轟音で咆哮する。
イーサン達は、体が痺れるような感覚を覚えた。

「これでアイツが何らかの効果を発動するまで、レールガンは発動できねえ。
だが、アイツのほとんどのカードはチェーン不可だ。
これじゃ、レールガンをぶっ放すチャンスは限られちまう」

遊次達はひどくもどかしい気持ちを抱きながら、フィールドを見つめる。
あと1歩で、ニーズヘッグの計画を打ち崩す1歩目を歩むことができる。
しかし、その1歩が果てしなく遠い。

「『絶鎖獣 チップモール』の効果発動。
1ターンに1度、デッキから絶鎖獣モンスター1枚を手札に加える。
この効果にもチェーンは不可能。
私はデッキから『絶鎖獣 セヴァーヴァナルガンド』を手札に加える」

「……!こ、れは…!」
そのカードを見たイーサンは、思わず絶句した。
今ジェンが手札に加えたカードは、想像を遥かに絶するモンスターだった。

チップモールの効果処理後も、『絶鎖獣の轟咆』によって、当然イーサンはカードを発動することができない。
勝利はイーサンの目の前にあることは間違いない。
しかし、イーサンはカールした自らの髪を強く握り、その手を震わせる。

その異変に遊次達も気付いた。
何かが来る。そう直感し、ジェンの方を全員が見る。

ジェンは高らかに、1枚のカードを掲げていた。


「このカードは『絶鎖獣 レンドウルフ』を含む3体のモンスターをリリースした場合のみ、召喚することができる。
私は場のレンドウルフ、リベレートペガサス、チップモールの3体をリリースし、アドバンス召喚を行う!」

3体のリリースを必要とし、レンドウルフを指定するという召喚条件。
その縛りこそが、これから現れるモンスターの強さを物語っていた。

「封印されし暴虐、今此処に放たれり。
哮る神獣よ、神羅万象の因果を断絶せよ!」

フィールド中央の地面が、内側から強打されたように盛り上がった。
直後、その一点を中心に白金の光が鋭く走り、亀裂が四方へ炸裂する。
裂け目の奥底から噴き上がった光は一気に太さを増し、天へ突き刺す柱となって咆哮するように揺れた。
地面全体が震え、光の濁流が荒波のように周囲へ押し寄せる。

「アドバンス召喚!降臨せよ!
『絶鎖獣 セヴァーヴァナルガンド』!」


柱の内部で、巨大な質量が光を押し返した。
その存在に導かれるように光が割れ、輪郭がゆっくりと露わになる。
白金の奔流が外側へ弾け飛んだ瞬間、黄金の装甲が一気に姿を現した。

肩を覆う厚い甲冑。胸部へ繋がる重い曲面。前脚を包む刃の束のような装甲。
それらが光を反射し、鋭い閃きが四方へ跳ねた。

光が完全に散った後、そこに立っていたのは、灰銀の毛並みに黄金の装甲を纏った巨狼だった。
荒々しく逆立つ灰銀の鬣が波のように連なり、黄金装甲の面が動くたび重低音を響かせる。
前脚をわずかに踏み込むだけで装甲が連動してうねり、全身から放たれる圧が空間ごと押し潰す勢いで迫ってくる。
灰銀と黄金が混ざり合うその姿は、まさしく世界を割る力を宿した魔狼そのものだった。


イーサン達は、思わず目を奪われた。
レンドウルフやリベレートペガサスとも格が違う。
それはまるで神話上の生物そのものだ。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/he0jYuW
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「セヴァーヴァナルガンドがアドバンス召喚に成功した時、効果発動!
相手フィールドのカードを全て除外する!
当然、この効果に対して相手はチェーンできない!」


■絶鎖獣 セヴァーヴァナルガンド
 効果モンスター
 レベル10/地/獣/攻撃力3700 守備力3000
 このカードは特殊召喚できない。
 このカードを通常召喚する場合、「絶鎖獣 レンドウルフ」を含む3体をリリースして召喚しなければならない。
 ①:このカードがA召喚した場合に発動できる。
 相手フィールドのカードを全て除外する。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 ②:相手がカードの効果を発動した場合に発動できる。
 そのカードを除外する。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。


セヴァーヴァナルガンドが眼前の蒼き城塞を見据えた。
魔狼の眼窩に宿る灼熱の瞳から、冷酷な光が放たれる。
​その視線が焦点を結んだ瞬間、イーサンの足元の地表が、目に見えない圧力によって内部から押し潰されたかのように歪みを帯びた。
白金の奔流が堰を切ったように、荒々しい光となって大地を裂く。
それは何本もの黄金の光の鎖だった。
鎖を破る獣は、ついにその呪縛さえも己の力としたのだ。

​無数の光の鎖が荒れ狂う奔流と化し、瞬く間に領域を埋め尽くす。
それらは迷うことなく、蒼い巨大な城塞の巨躯へ、冷徹な意志をもって絡みついた。
分厚い蒼の装甲を貫き、天守から基礎に至るまで、鎖は深く、そして容赦なく食い込んでいく。

「なんだよ、これ…」
遊次達は思わず、1歩、1歩と後ずさる。

そして​次の瞬間、セヴァーヴァナルガンドが前脚を深く大地に踏み込んだ。
その動作に呼応するように、城塞に巻き付いた鎖が一斉に凄まじい引力を帯びて収縮を開始する。
​鎖を引く力は、もはや次元を引き裂くほどの暴力へと変貌していた。

強固な装甲が、悲鳴のような金属の軋みを上げ、内部から押し潰されるかのような致命的な歪みが生じる。
そして​蒼き城塞は自らの堅牢さに耐えきれず、空間ごと引き裂かれた。
光の鎖に絞り上げられた城塞の破片は、無様に宙へ舞い、一瞬にして光の粒子となって霧散する。

さらにフィールドを埋め尽くす鎖は、フィールドのあらゆるカードを喰らう。
そして虚空がイーサンのフィールドを​満たした後、断罪の鎖は城塞の全てを喰らい尽くし、静かに大地へと消え失せた。

カウンター 12→0

-------------------------------------------------
【イーサン】
LP6200 手札:3(ヴォルタンク・インダクタ)


【ジェン】
LP500 手札:0

①絶鎖獣 セヴァーヴァナルガンド ATK3700
--------------------------------------------------

「そんな…」
灯が膝をつき、うなだれる。
遊次の瞳には再び絶望が差し込み始め、怜央は拳を握り俯く。
イーサンは前髪を掴む手にさらに力を込めるしかなかった。

ただ一度、ヴォルタンク・レールガンを発動すれば全て終わるはずだった。
掴みかけた勝利は、今、目の前で、虚空へと消え去った。

ジェンは、勝機を決して逃さなかった。
獲物を捉えた獣のように、ただ勝利だけを追い求めた。
己の命すら惜しまず。

反撃が始まる。
イーサンは、この窮地を乗り越え、ニーズヘッグの計画に楔を打つことができるのだろうか。


第64話「At a Crossload」 完





襲い掛かるセヴァーヴァナルガンドの猛攻。
追い詰められるイーサン。
しかし、その闘志は消えていなかった。

セヴァーヴァナルガンドが存在する限り、効果を発動したカードは問答無用に除外されてしまう。
光の鎖はイーサンのカードを次々と虚空へと消し去る。
そんな中、決死の思いで残した1枚のカードとは。

お互い一手間違えれば敗北を招く極限状態で、高度に絡まり合う思考。
果たして、勝つのはどちらか。

「一つも取りこぼしたくないんだ。
"皆"が幸せじゃなきゃ、意味がないんだよ」


次回 第65話「チェーン・ゼロ」
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81 第1話:なんでも屋「Next」 881 2 2023-03-25 -
102 第2話:妖義賊(ミスティックラン) 688 0 2023-03-25 -
81 第3話:相棒 670 0 2023-03-25 -
72 第4話:動き出す影 574 0 2023-03-26 -
81 【カードリスト】神楽 遊次 835 0 2023-03-26 -
78 第5話:大災害「コラプス」 703 0 2023-03-27 -
86 第6話:2000万のプライド 587 0 2023-03-27 -
90 第7話:悪しきを挫く至高の剣士 758 0 2023-03-29 -
74 第8話:解き放たれた猟犬 564 0 2023-03-29 -
73 第9話:陸・空・海を統べる者 518 0 2023-03-31 -
76 第10話:悪しき魂を塗り潰す彩 538 0 2023-04-01 -
105 【カードリスト】花咲 灯 725 0 2023-04-02 -
84 第11話:番犬の尾を踏んだ日 631 0 2023-04-02 -
81 第12話:雷の城塞 683 0 2023-04-04 -
82 第13話:平穏を脅かす者に裁きを 525 0 2023-04-06 -
72 【カードリスト】イーサン・レイノルズ 565 0 2023-04-07 -
100 第14話:決戦前夜 731 0 2023-04-09 -
94 【お知らせ】お久しぶりです。 1702 2 2024-02-09 -
61 第15話:爆焔鉄甲(スチームアーミー) 652 2 2025-01-06 -
60 第16話:魂の衝突 582 2 2025-01-13 -
58 第17話:EDEN TO HELL 507 0 2025-01-22 -
72 第18話:憤怒の白煙 606 1 2025-01-29 -
49 第19話:天に弧を描く義の心 453 2 2025-02-05 -
48 第20話:To The Next 496 1 2025-02-12 -
52 【カードリスト】鉄城 怜央 385 0 2025-02-12 -
47 第21話:踏み出す1歩目 407 0 2025-02-19 -
51 第22話:伸し掛かる天井 497 0 2025-02-26 -
47 第23話:壁に非ず 429 0 2025-03-05 -
43 第24話:滅亡へのカウントダウン 530 0 2025-03-12 -
36 セカンド・コラプス編 あらすじ 464 0 2025-03-12 -
64 第25話:アクセラレーション! 523 0 2025-03-19 -
40 第26話:虹色のサーキット 475 3 2025-03-26 -
34 第27話:ふたりの出会い 300 0 2025-04-02 -
42 第28話:親と子 289 0 2025-04-09 -
52 第29話:心の壁 406 0 2025-04-16 -
39 第30話:無償の愛 344 0 2025-04-23 -
48 第31話:開幕 ヴェルテクス・デュエリア 476 0 2025-04-30 -
45 第32話:究極の難題 537 0 2025-05-07 -
47 第33話:願いの炎 439 0 2025-05-14 -
62 第34話:ただそれだけ 496 0 2025-05-21 -
42 第35話:シークレット・ミッション 331 0 2025-05-28 -
45 【カードリスト】七乃瀬 美蘭 452 0 2025-05-28 -
57 第36話:欲なき世界 409 0 2025-06-04 -
46 第37話:禅問答 409 0 2025-06-11 -
45 第38話:紅と蒼の輪舞 260 0 2025-06-18 -
49 第39話:玉座 340 0 2025-06-25 -
43 第40話:"億"が動く裏世界 452 0 2025-07-02 -
36 第41話:生粋のギャンブラー 278 0 2025-07-09 -
51 第42話:運命のコイントス 358 0 2025-07-16 -
51 第43話:王選(レガルバロット) 356 0 2025-07-23 -
37 第44話:願いの芽を摘む覚悟 340 2 2025-07-30 -
44 第45話:答え 301 0 2025-08-06 -
45 第46話:潜入作戦 317 0 2025-08-13 -
47 第47話:心の象徴 309 0 2025-08-20 -
49 第48話:繋ぐ雷電 378 0 2025-08-27 -
37 第49話:帳が上がる時、帳は下りる 325 3 2025-09-03 -
43 第50話:影を焼き尽くす暁光 263 0 2025-09-10 -
48 第51話:夜明け 328 0 2025-09-17 -
44 第52話:決闘眼(デュエル・インサイト) 270 0 2025-09-24 -
48 第53話:命の使い方 251 0 2025-10-01 -
37 第54話:不可能への挑戦 269 3 2025-10-08 -
28 第55話:たとえ、この命が終わっても 198 0 2025-10-15 -
43 【カードリスト】虹野 譲 266 0 2025-10-15 -
49 第56話:交わる運命 238 0 2025-10-22 -
35 第57話:降り掛かる真実 220 0 2025-10-29 -
52 第58話:畏怖を纏う死兵 208 0 2025-11-05 -
43 第59話:世界の敵 181 0 2025-11-12 -
47 【カードリスト】オスカー・ヴラッドウッド 180 0 2025-11-12 -
30 第60話:変わらないもの 183 0 2025-11-19 -
27 第61話:花の仮面 141 0 2025-11-26 -
25 第62話:鎖を絶つ獣 122 0 2025-12-03 -
33 第63話:愚者の道 135 0 2025-12-10 -
1 第64話:At a Crossload 18 0 2025-12-17 -

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