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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第29話:心の壁

第29話:心の壁 作:

今回の依頼内容は血の繋がらない息子「テイル」との関係修復。
クラスメイトを殴ってしまった息子を激しく叱ったことによって、
親子関係に亀裂が入り、口すらも聞けない関係に。

イーサンと怜央が正義感の強い弁護士の父「ハリスン」に話を聞くと、
叔父が殺 人犯となってしまった過去から、
暴力に走り、「殺す」という言葉を口走った息子を叱咤したという経緯だった。

遊次と灯はその当事者である息子「テイル」に話を聞くため、
彼が好きだという車とお菓子で釣り、その本音を引き出す。

遊次はデュエルで魂の会話をすればきっとわかり合えると提案するも、
テイルはデュエルに自信がないため、Nextが代理としてデュエルをするということになった。


その後、遊次はイーサンに連絡し、現状を説明すると、テイルを事務所へ連れていくことになった。
事務所までの道で、電話にてジュリエッタにも承認は得た。
テイルは道中、スポーツカーでの疾走を心から楽しみ、不安などは欠片もない様子だった。


「お、ようやく戻って来たか」

遊次と灯がテイルを連れて事務所に戻ると、イーサンと怜央がすでに待っていた。
テイルに出会ったのは偶然であると装っているため、これが依頼であることは伏せる約束だ。
そのため、たまたまイーサンと怜央の所にテイルの家族から相談があり、
すでに話も聞いているという事にして、テイルに対しては辻褄を合わせた。


「テイル、紹介するぜ。
こっちのちっちぇーのが怜央で、オッサンの方がイーサンだ」

「おい!」
イーサンと怜央が声を合わせて立ち上がる。

「イーサンって…にーちゃんの…パパ?」

「お、そこまで知ってるのか。俺が遊次の父親だ。よろしくな。
えっと…実はこっちでも、たまたま君のお母さんから依頼を受けていてな。
すでに話は聞いている」

「ママ…おばさんがここに来たってこと?」

「そうだ。君のお母さんから、君と仲直りがしたいって依頼が来たんだ。
それで君のお父さんからもお話を聞いた」

「おじさんから…?」
もう少し年齢が高ければ、ここまで都合良い状況に疑問を持つだろうが、
テイルはそうではなかった。

「お前の父ちゃんにもいろいろ事情があるってことがわかった。
多分、ただ説得するだけじゃあのオヤジは折れねえだろうってこともな」
怜央はテイルに子供向けの言葉を使うことなく、素のまま話をする。

「そうなんだ…。こっちも同じだよ。
説得するだけでは折れないし、まだお互いに言いたいことを言えてないんだと思う」

遊次・灯サイドとイーサン・怜央サイドの考えは一致した。
話し合いでは解決しない。本音をぶつけあう機会がなければ。

「遊次、灯。とりあえず、こっちで話をしよう。
悪いけどテイル君は少し待っててくれるか?
テーブルの上のお菓子は好きに食べていいぞ」

「…うん、わかった」
ハリスンは1人でソファに座り、テーブルに置かれた個包装のチョコレートに手を伸ばす。
4人はそこから離れた席に座り、お互い聞いた話を擦り合わせた。

イーサンからは、ハリスンにも重い過去があり、
その過去からテイル君に厳しく当たってしまったこと。
遊次からは、テイルは自分の気持ちを父に理解してもらいたいというのが
最も重要な点だということを伝えた。

「なーーるほどなぁ…。ただのガンコ親父じゃねえってことか」

「お父さんにもお父さんの想いがあって、それが少し掛け違っちゃっただけなんだね。
今なら、厳しい態度を取ったのもわかる気がするよ」

叔父の起こした事件と、テイルが口走ったという言葉への拒否感。
遊次と灯も、ハリスンの頑固な態度にそこまでの理由があるとは思ってもいなかった。

「俺もオヤジから話を聞いた時はそう思ったが、今は逆だな。
むしろ、オヤジはテイルの気持ちを聞いてやらなすぎだと思ったぜ」
一方、怜央は逆にテイルに強い理解を示した。

「そうだな…。
ハリスンさんはテイル君が道を誤らないように強い責任を持っていて、
それ自体は素晴らしいことだと思う。でも、ただそれを押し付けるだけでは、
テイル君も、ハリスンさんの教えを素直に受け取ることはできないだろう」

少しずつ問題の本質が見えてくる。やはり歩み寄ることが大切なのだ。
ハリスンにとっても、真に自分の気持ちを理解してもらうためには、
子供の気持ちを理解しなければならない。
父親としての視点から、イーサンはそう結論づけた。

「テイルには、もうデュエルで会話するって言ってある。
ただテイルはデュエルに自信がないっぽいから、
ハリスンさんに勝つために俺らの中から代理を立てたいんだ。
デュエルに勝てなきゃ意味ねえってさ」


「…確かにそうだ。ただ考えをぶつけるだけなら、デュエルじゃなくてもできるからな。
そこにちゃんと勝ち負けが存在するからこそ、人は更に本気で思いをぶつけることができる」

イーサンは遊次の言いたいことを即座に理解する。
彼も遊次と同様、「デュエルは魂の会話だ」という天聖の言葉が、
経験則として体に染みついているからだ。

「だろ?逆に言葉だとうまく伝わらないことも、
デュエルでなら語れるってことも俺はよく知ってる」

「まさにその通りだな。で、代理はどうするかだが…」
イーサンが3人の顔を見渡す。

デュエルでわかり合うということを、まさに体現してきた遊次。
テイルに優しく寄り添いながら、ハリスンにも理解を示すことができる灯。
テイルと同じような境遇を持ち、誰よりも彼の気持ちを代弁できるであろう怜央。
誰もが適任であるような気がした。

「…テイルの代理だって言うなら、直接話を聞いた遊次か灯がいいんじゃねえか。
まあ、俺もあいつの気持ちはわかってやれると思うが」
怜央はテイルの気持ちを背負える者が適任だと考えているようだ。

「うーん…でもただテイルだけの代弁者になってもダメな気がするんだよなぁ」

「私も同じ。お父さんの気持ちを押し付けるだけじゃダメなように、
テイル君の気持ちを押し付けるだけじゃ、解決できない気がするの。
お父さんの気持ちも汲み取ってあげられないと」

遊次と灯は、ハリスンの気持ちも汲んだ上でデュエルできる者が適任だという。
そういう意味では怜央には少し厳しいかもしれない。

「…俺に行かせてくれないか」
「イーサン…」
イーサンがここで名乗りを上げる。

「俺は遊次の父親として、ハリスンさんの気持ちは誰よりも理解できる。
それと同時に彼の問題点も認識してるし、
テイル君の気持ちも汲み取って、それを整然と伝えることはできるつもりだ」

テイルの気持ちとハリスンの気持ち…そのバランスを保ちながらデュエルするとなると、
確かにイーサンが適任であるように感じた。

「…そうだな。イーサンが適任だと思う」
「うん、私も」

「…いいと思うぜ。ただ、決めるのはテイルだろ」

4人の意見が固まった。テイルの代理でデュエルを行うのはイーサンだ。
ただ、怜央は最後までテイルの気持ちが最優先だということを忘れなかった。

「そうだな。テイル君に話をしてみよう」
4人はテイルが待つ席に移動する。

「にーちゃんの父ちゃんが、俺のかわり?」
テイルはソファに座りながら足をぱたぱたさせ、イーサンを見上げている。

「俺たちの中ではそれがいいって話になった。でも、決めるのはテイル君だ。
テイル君は自分の気持ちをお父さんに知ってもらいたいんだよな。
まずやるべきことはそこだと思ってる」

ただテイルの気持ちを押し付けるだけではいけない。
それでも、まずは気持ちをぶつけ合うことが始まりだとイーサンは考える。

「うん…。アイツは俺の言うことを聞こうともしなかった。そんなの、パパじゃない」
テイルはまだ自分の気持ちを理解してくれないハリスンへの怒りが強い。
この感情は、実際のデュエルで彼自身がハリスンの気持ちを受け止めなければ変わらないだろう。

「それに、亡くなってしまった両親と比較して、
今のお父さんとお母さんを認められずにいる。違うかな?」
イーサンは的確にテイルの気持ちを整理し、言葉にしてゆく。

「…そうだよ。俺が車を好きになったのもパパのおかげだ。
パパは俺に色んなことを教えてくれたし、俺の話も聞いてくれた。
今のパパは、パパと比べたら、全然パパじゃない」

テイルの実の父親は、ハリスンとは真逆といってもいい性格だった。
そんな父を愛していたからこそ、今のハリスンを父親として受け入れるのが難しいのだろう。

「ハハ…俺も遊次と出会った頃はそんな風に思われてただろうな。
でも、それはおかしいことじゃない。
その気持ちも素直にぶつけたらいいと思うんだ。君自身でね」

「え、でも…。デュエルは、にーちゃんのとーちゃんがしてくれるんじゃ…」
テイルにはイーサンの言葉が理解できなかった。

「俺はデュエルを代理する。君の言葉を、適切な方法でお父さんに伝えることもする。
でも、結局は君の気持ちは君自身で伝えるのが一番だ。
だから、君も俺の隣にいてほしいんだ。
…俺と一緒に戦おう。どうだ?」

テイルにもイーサンと隣で、同じデュエルフィールドに立ってもらう。
それがイーサンの考えだった。
ただでさえ代理という形では、本人が戦うよりも気持ちを伝えづらい。
それを補うためには、本人もデュエルという戦いの臨場感の中に身を置く必要があった。

「…いいよ。俺、やるよ!俺だって、別に好きで仲悪くしたいわけじゃないし。
でも、俺のことわかってくんなきゃ、仲良くしたくない」
テイルはイーサンの真剣な眼差しを見つめ、彼が本気だということを受け止める。

「テイル、お前もちゃんとお父さんの気持ち受け取ってやれよ」
「俺も…?」
自分の気持ちを伝えることばかりにやっきになるテイルに、ここで遊次が優しく釘を刺す。

「デュエルってのは思ってる以上に、相手の気持ちがダイレクトに伝わってくるもんだぜ。
自分がデュエルしなくても、横にいればわかるはずだ。
だから、ハリスンさんの言うこともちゃんと聞いてやれ。
お前が大好きなパパがそうしたようにな」

「あっ…」
遊次の言葉はテイルの心に直接突き刺さった。

「…そうだ。パパは、いつも俺の気持ちを全部聞いて、受け止めてくれた。
俺も…パパみたいになりたい」

自分が大好きな父親と真逆の行動を取ってしまっていることに、テイルは初めて気が付いた。
その様子を見て、遊次は微笑む。やはり、この子は人の言葉の真意をすぐに理解できる子だ。
きっと彼なら、ハリスンとデュエルでぶつかり合うことで彼の気持ちも理解してくれるだろうと感じた。

「じゃあ、イーサンと一緒に戦ってくれる?パパには私達から伝えておくから」
「…うん!」
これにて、代理デュエルの承認は降りた。
あとはハリスンにそれを伝えるだけだが、彼にとってもこの好機を逃す手はないだろう。
デュエルの成立は間違いない。

「…テイル、1つだけいいか?」
「なんだよ?」
話が終結しようとしたところ、今まで黙っていた怜央が真剣な表情で語り掛ける。

「お前、クラスの奴らを"殺してやる"って言ったらしいな」
「!」
遊次や灯と話した時も、テイルはこの事を伝えなかった。
痛い所を突かれたと思った。
遊次や灯、イーサンも、怜央が何を伝えようとしているのかはわからなかった。

「言ったんだろ?」
「…う、そ、そうだよ。それがなんだよ」
テイルはまた自分が責められているような感覚に陥り、
動揺しながらも強気な態度を取り始める。

「…俺の両親はコラプスって災害で死んだ。
俺はその直前に、"こんな家に生まれなきゃよかった"って言って、家を飛び出した。
それが、両親にかけた最後の言葉なんだよ」

「あ…」
3人は怜央の言葉の真意を理解し始めていた。そして、テイルも。

「親父と母親はケンカばっかりでな。それで嫌気が差して、"つい"口走っちまった。
その後に、あの災害が起きた。今でもその時の悔いを忘れてねえ」

「だからよ…二度とそんなこと言うんじゃねえ。
悪ィこと言っちまったら謝ればいい。
だがな…もう一生謝る機会が来ねえことだってあんだぞ…!」

怜央は静かなトーンだが、その内には長年燃え続けた後悔が、言葉の圧として滲み出ていた。

「…!」
テイルは大きな衝撃を受けた。
クラスメイトに言ってしまった言葉は、テイルにとっても「つい口走ったもの」だ。
悪いという自覚はあったが、それが一生の後悔になることがあるとは考えもしなかったからだ。

「まあお前の場合は俺と違って、直接言ったわけじゃねえだろうけどな。
でも、お前のオヤジは"殺 す"って言葉がトラウマなんだ。
デュエル終わった後でいいから、ちゃんと謝っとけ」

数か月前の遊次達には、まさか怜央がここまで変わるとは思っていなかった。
元々幼い頃から秘めていた思いであることには間違いはないだろう。
しかし、それを真っ当な形で他人にアウトプットできるようになるとは想像していなかった。

「…」
怜央の言葉を受け止める気持ちと、自分の中の感情が入り混じり、テイルは言葉を発せず俯く。

「わかったか!」

「…!う、うん!わかった…謝るよ。
俺がよくないこと言ったのは…俺もわかってる」

ハリスンとのデュエルの前にこれを伝えたことは正解だったと言えるだろう。
テイルの気持ちも理解している怜央という存在が、ハリスンと同様の主張をするからこそ、
より抵抗なく言葉を心に届けることができるのだ。





そして翌日。

テイルの家の近くにある公園に、朝から全員が集まっていた。
すでにNextから全て聞いたハリスンは、イーサンとの代理デュエルを承認した。
この日はテイルもハリスンも休日だ。

ハリスンとイーサンは黄土色の土が敷かれた公園の広場で対峙し、
お互いデュエルディスクを構えている。
イーサンの横には、テイルが立ち、ハリスンを強い眼差しで見つめている。
ハリスンの後ろではジュリエッタが心配そうにしている。
両者が向かい合うその横側では、Nextの3人が少し離れて見守っている。

「ハリスンさん。このデュエルはテイル君との魂の会話です。
僕はあくまでデュエルの代理。心をぶつけるのはテイル君だ。
ハリスンさんも、自分の心の内をテイル君にぶつけてください。
今まで言えなかったことも、全て」

イーサンが左手のデュエルディスクを掲げる。

「…それが親子関係の修復に繋がるのか、私にはまだわからない。
しかし、テイルと対話するいい機会だ。
…全力で行くが、構わないのだろう」

ハリスンもそれに応じ、デュエルディスクを掲げる。
今回はオースデュエルではなく純粋なデュエルだ。
お互いが全力をぶつけ合い、その中でお互いの心を知ってゆく。
そこにこそ問題の解決の糸口があるのだ。

「手加減はいりません。俺も、全力で行きます」

2人の間に沈黙が流れる。

「「デュエル!」」


デュエルの宣言と共に、イーサンのデュエルディスクのランプが灯る。
イーサンが先行だ。


「俺のターン。フィールド魔法『ヴォルタンク・カレントコレクター』を発動。
このカードがある限り、ヴォルタンクモンスターの攻撃力は、
雷カウンター1つにつき300アップし、
戦闘・効果で破壊される代わりに、
このカードに乗った雷カウンターを1つ取り除くことができる」


■ヴォルタンク・カレントコレクター
 フィールド魔法
 このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがフィールドゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:自分フィールドの「ヴォルタンク」モンスターの攻撃力は、
 フィールドの雷カウンターの数×300アップする。
 ③:自分フィールドの「ヴォルタンク」モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、
 代わりにこのカードの雷カウンターを1つ取り除く事ができる。


イーサンとテイルの周囲を無機質な銀色のアンテナが囲う。

「手札からヴォルタンク・エンジンを召喚!」


■ヴォルタンク・エンジン
 効果モンスター
 レベル4/光/雷/攻撃力1800 守備力1200
 このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 デッキから「ヴォルタンク・エンジン」以外の「ヴォルタンク」モンスター1体を手札に加える。


青いエンジンを模したモンスターは、金属光沢のある深い青色の体を持つ。
胴体は直方体に近い形状で、
表面には複数のランプや操作盤のような装飾が施され、冷たい光を放つ。


「ヴォルタンク・エンジンの召喚時、
デッキから『ヴォルタンク』モンスター1体を手札に加える。
ヴォルタンク・モーターを手札に加える」

イーサンがデッキからカードを1枚手札に加えると、
デュエルディスクが自動でデッキをシャッフルする。

「カードを手札に加えたことでシャッフルが発生した。
デッキがシャッフルされた時、『ヴォルタンク・エンジン』と
フィールド魔法『ヴォルタンク・カレントコレクター』の効果で、
それぞれのカードに雷カウンターを乗せる」

ヴォルタンク・エンジンとイーサンの周囲のアンテナに雷が落ちる。


「うわあっ!」
自分の隣のアンテナに雷が落ちたことで、テイルが思わず驚く。

「もしかして雷が怖いのか?」
イーサンがテイルに問いかける。

「そ、そんなことねーよ!ちょっとびっくりしただけ!」

「このターン中に慣れろよ。これが俺のデッキの特徴だ。
この先、数えきれないぐらい味わうことになる」

毎回あの雷鳴を間近で味わうことになるかと思うと、テイルは少し辟易した。


「ヴォルタンク・モーターはフィールドにヴォルタンクがいる時、
手札から特殊召喚できる!」


■ヴォルタンク・モーター
 効果モンスター
 レベル2/光/雷/攻撃力1100 守備力1500
 このカード名の、②の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:自分フィールドに「ヴォルタンク」モンスターが存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚できる。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除いて発動できる。
 「ヴォルタンク・モーター」以外の「ヴォルタンク」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。


現れたのは青いモーター形状のモンスター。
外殻は精密な歯車とねじ部品が露出し、中央部に大型の回転軸が設けられている。

「モーターの効果発動。フィールドの雷カウンターを2つ取り除いて、
デッキからヴォルタンクモンスター1体を特殊召喚できる。
来い『ヴォルタンク・アーム』」


■ヴォルタンク・アーム
 効果モンスター
 レベル3/光/雷/攻撃力1300 守備力1300
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
 フィールドの雷カウンターを全て取り除き、
 取り除いた分だけ対象のカードに雷カウンターを乗せる。
 ③:このカードを墓地から除外し、
 除外されている「ヴォルタンク」カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードをデッキに戻し、戻したカードと同じ種類の「ヴォルタンク」カード1枚を
 デッキから手札に加える。


青いアーム形状のモンスターは、直線的な金属製の腕部を持つ。
腕には先端に大型のグリップ状の部品が装備され、複数の管や配線が側面に沿って配置されている。


「今モンスターがデッキから特殊召喚されたことでまたシャッフルが発生した。
俺のヴォルタンクモンスター3体とフィールド魔法に雷カウンターが乗る」

フィールドに4本の稲妻が落ちる。
テイルは驚きで目を見開くも、なんとか声を抑え、耐えてみせた。

「ヴォルタンク・アームの効果を発動。
フィールドの雷カウンターを1つのカードに集中させることができる。
モンスターに乗った3つの雷カウンターを、フィールド魔法に集中させる」


アームが真っ直ぐと上へ伸びると、その上に3つの雷カウンターが集まる。
その後、直線的な動きでフィールド魔法へアームを伸ばすと、
雷カウンターは全て周囲のアンテナに灯る。


「俺はヴォルタンク・アームとヴォルタンク・モーターをリンクマーカーにセット!
サーキットコンバイン!」
フィールドにサーキットが現れ、2体のモンスターがその中へと飛び込んでいく。

「光より現れし摩天、集いし雷は更なる牙城を呼び起こす」

「リンク召喚!リンク2、『ヴォルタンク・ライトニングロッド』!」


■ヴォルタンク・ライトニングロッド
 リンクモンスター
 リンク2/光/雷/攻1800
 【リンクマーカー:下/左】
 雷族モンスター2体
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードがリンク素材として墓地に送られた場合、
 墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除き、
 フィールドのカード1枚を対象として発動する。
 そのカードを破壊する。


サーキットから光の柱が上へと伸び、
その中から天へと高く聳え立つ一本の柱のようなモンスターが現れる。
青いボディと、飛び出た大きないくつものネジが特徴的だ。


「うわぁ…でけぇー…」
テイルが現れた青き柱を見上げる。
同じように、対面でハリスンもライトニングロッドを見上げている。

「デッキがシャッフルされる度に溜まるカウンターと、
それを活かすリンク召喚デッキ…と言ったところか。趣深いな」

顎に手を置き、真面目な顔で相手のデッキを分析する。
表情は変わらないが、デュエルを楽しむ気持ちも持っているようだ。


「それはどうも。でも、こっからが本領発揮ですよ。
『ヴォルタンク・トランジスタ』は、手札から
ヴォルタンクLモンスターのリンク先に特殊召喚することができる」


■ヴォルタンク・トランジスタ
 効果モンスター
 レベル3/光/雷/攻撃力1400 守備力800
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードは自分フィールドの「ヴォルタンク」リンクモンスターのリンク先に
 手札から特殊召喚できる。
 ③:このカードがリンク素材として墓地へ送られた場合に発動できる。
 相手の手札をランダムに1枚選んでデッキに戻しシャッフルする。


現れたのは、長方形の本体の上部に三本の足が真っ直ぐ伸びたモンスター。
下部に電流を感じさせる微細な回路模様が彫り込まれている。


「ヴォルタンク・ライトニングロッドと、
ヴォルタンク・トランジスタをリンクマーカーにセット!
ライトニングロッドはリンク2であるため、2体分の素材として使用可能。
サーキットコンバイン!」


「顕現せし強固なる城塞、今ここに天をも穿つ雷鳴を轟かせよ!」

「リンク召喚!『ヴォルタンク・スパークキャッスル』!」


■ヴォルタンク・スパークキャッスル
 リンクモンスター
 リンク3/光/雷/攻2300
 【リンクマーカー:右/左/下】
 雷族モンスター2体以上
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:相手モンスターが効果を発動した時、
 フィールドの雷カウンターを3つ取り除いて発動する。その発動を無効にして破壊する。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除き、墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚する。


光とともに現れたのは蒼き巨大な城。
両端には巨大なネジが突き刺さっており、天守の部分は避雷針となっている。


「あが…あががが…」
目の前に現れた巨大な城塞に、テイルは顎を外す勢いで大口を開けて驚く。

「この時、リンク素材として墓地に送られたトランジスタと、ライトニングロッドの効果発動!
ライトニングロッドがリンク素材として墓地に送られた場合、1枚ドローできる」

「そしてチェーン1のトランジスタの効果。このカードがリンク素材として墓地に送られた場合、
1ターンに1度、相手の手札をランダムに1枚デッキに戻してシャッフルする」
イーサンが裏側となっているハリスンの手札の1枚を指さす。

「先行で私の手札を削ってくるとは…本当に手加減がないようだ。
とても魂の"会話"とは思えないがね」
ハリスンは嫌味を言いながら指定された1枚をデッキに戻すと、シャッフルが行われる。

「いえ、これも対話ですよ。
僕がやろうとしていることはまさしく、テイル君の心を表すものですから」
イーサンには明確に目指しているものがあるようだが、
テイル自身もまだピンと来ていない様子だ。

「今あなたが手札をデッキに戻したことでまたシャッフルが発生した。
俺のフィールドのエンジンとスパークキャッスル、そしてフィールド魔法にそれぞれ雷カウンターが乗る。
さらにスパークキャッスルは、リンク先のモンスターにも雷カウンターを乗せることができる」

3本の稲妻がフィールドに走る。その後スパークキャッスルによってリンク先のエンジンにもう1度雷が落ちる。
現在雷カウンターの総数は8つだ。


「魔法カード『ヴォルタンク・ブースト』発動。
雷カウンターを4つ取り除き、2枚ドローする」

■ヴォルタンク・ブースト
 通常魔法
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:フィールドの雷カウンターを4つ取り除いて発動できる。
 自分はデッキから2枚ドローする。
 ②:このカードが墓地に存在し、自分の手札が0枚の場合に発動できる。
 このカードを自分フィールドにセットする。
 この効果でセットしたこのカードはフィールドを離れた場合に除外される。


「永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』発動。
そして雷カウンターを2つ取り除くことで効果発動。
このターン、ヴォルタンクモンスターをもう1度通常召喚できる」

永続魔法が発動されると、フィールドの地面全体に白いサーキットが張り巡らされる。


■ヴォルタンク・リファインドサーキット
 永続魔法
 このカード名の①②③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:フィールドの表側のカード1枚を対象として発動できる。
 フィールドのリンクマーカーの数だけ、そのカードに雷カウンターを置く。
 ②:フィールドの雷カウンターを2つ取り除いて発動できる。
 このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、
 自分メインフェイズに「ヴォルタンク」モンスターを1体を召喚できる。
 ③:雷カウンターが乗ったカードがフィールドを離れた場合、
 フィールドの表側のカード1枚を対象として発動できる。
 墓地へ送られたそのカードに置かれていた数だけ、
 雷カウンターを対象のカードに置く。


「手札から『ヴォルタンク・リレー』を召喚!」


■ヴォルタンク・リレー
 効果モンスター
 レベル3/光/雷/攻撃力1200 守備力900
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードが召喚した場合、
 墓地のレベル4以下の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 ③:自分フィールドの「ヴォルタンク」モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
 このカードを手札から特殊召喚し、フィールドのモンスターの数だけ、
 フィールドの表側カードに雷カウンターを置く。


直方体の形状をしていた装置のような青色のモンスターが現れる。
前面中央には、固定された小型のボタンスイッチが配置され、
両側にはそれぞれ金属製の端子が設置されている。


「ヴォルタンク・リレーの召喚時に効果発動。
墓地のレベル4以下のヴォルタンク1体を特殊召喚する。
来い、『ヴォルタンク・アーム』」

再びアーム型のモンスターが現れ、これで下級モンスターが3体揃うこととなった。

「ヴォルタンク・エンジン、ヴォルタンク・リレー、ヴォルタンク・アームを
リンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!」


「回路に蓄積されし電荷は迫る魔を阻む防壁となる」

「リンク召喚!現れよ、リンク3『ヴォルタンク・チャージリダウト』!」


■ヴォルタンク・チャージリダウト
 リンクモンスター
 リンク3/光/雷/攻2200
 【リンクマーカー:左/左下/下】
 雷族モンスター2体以上
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードがL召喚した場合、墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを手札に加える。
 ③:相手が魔法・罠カードの効果を発動した場合、フィールドの雷カウンターを3つ取り除いて発動する。
 その発動を無効にしてデッキに戻す。


イーサンの前には再び巨大な要塞が現れる。
スパークキャッスルとはまた別の形状をした要塞だ。
壁に囲まれ、四方からはさながら最新鋭の兵器のような電磁砲がいくつも覗いている。
まるで超巨大な戦車にも見える。
その外壁と砦は蒼いボディをしており、各所に巨大なボルトが付いている。

テイルはさらに目の前に巨大要塞が現れたことに啞然とし、もはや声も出ない状態だ。


「チャージリダウトがL召喚に成功した場合、
墓地のヴォルタンクモンスターを1体、手札に加えることができる。
ヴォルタンク・エンジンを手札に加える」

「さらに永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』の効果発動。
1ターンに1度、フィールドのリンクマーカーの数だけ、
表側カード1枚に雷カウンターを置くことができる。
今、俺のフィールドのリンクマーカーの数は6。フィールド魔法に6つ雷カウンターを置く」

フィールド魔法のアンテナに6つの雷が落ちる。
これまで消費してきたカウンターをここで一気に取り戻した。

「フィールド魔法『ヴォルタンク・カレントコレクター』の効果により、
雷カウンター1つにつき、ヴォルタンクモンスターの攻撃力は300アップする。
雷カウンターは8つ存在するため、2400アップだ」

ヴォルタンク・スパークキャッスル ATK4700
ヴォルタンク・チャージリダウト ATK4600


「雷カウンターを3つ取り除くことで、1ターンに1度、
スパークキャッスルはモンスター効果を、チャージリダウトは魔法カードの効果を無効にできる。
さらにフィールド魔法の効果で、雷カウンターを取り除き、
ヴォルタンクモンスターの破壊を1度免れる」

高打点モンスターが2体並び、1度の破壊耐性を有している。
さらには、先行で手札を1枚削られた上に、モンスターと魔法効果を1度ずつ無効にされる状況。
ハリスンにとっては厳しい一手だ。

「(す、すげえ…。この人が俺の代わりにデュエルしてくれるってのかよ…。
これなら、マジでおじさんに勝てるかもしれない…!)」

テイルは眼前の2体の超巨大要塞と周囲の雷を纏うアンテナ群を見回し、興奮が収まらない様子だ。
圧倒的な盤面を難なく作り上げたイーサンが自身を代弁してくれる。
これほどまでに心強いことはなかった。


「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドです。
このフィールドはまさしく、テイル君とお2人の間にある心の壁。
それを打ち破るには、ハリスンさん…あなたの魂をぶつけるんです」

「なるほど…それこそが"対話"というわけですか」

まずはテイルの気持ちを表面化させる。
そしてハリスン自身もそれを打ち破るために本心をぶつける。
イーサンの真意はここにあった。

-----------------------------------------------------------------------------
【イーサン】
LP8000 手札:2(ヴォルタンク・エンジン)

①ヴォルタンク・スパークキャッスル(雷カウンター:0) ATK4700
②ヴォルタンク・チャージリダウト(雷カウンター:0) ATK4600

フィールド魔法:1(雷カウンター:8)
永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット
伏せカード:1

【ハリスン】
LP8000 手札:4
魔法罠:0
-----------------------------------------------------------------------------


「テイル君、俺のフィールドは君の心の壁だ。
まずはいま君がハリスンさんに抱いてる感情をそのままぶつけてみろ」

あくまでもイーサンはテイルのデュエル代理。心の内までは代弁できない。
テイル本人から両親に対する心の壁を露にすることにこそ意味がある。

「俺の…感情…」
テイルは頭の中を整理しようとする。
クラスメイトに実の父を馬鹿にされたこと、自分だけが叱られたこと。
実の父との思い出と、殺伐とした今の家庭の現状。
頭の中にそれらが渦巻き、言葉を整理することができなかった。


「ありのままでいいんだ。綺麗な言葉にしようとしなくていい。
ただ、思ったことをぶつけろ」

しばらく黙り込んでいたテイルの様子を見てイーサンが声をかける。
少しイーサンより後ろに立っていたテイルは、ハリスンの正面へと歩き、
ここで初めて両者はしっかりと対面する。

「…俺は、パパが大好きだ!」
テイルの発した言葉に一同は目を丸くして驚く。
しかし数秒後、そのテイルの言葉の真意がすぐにわかった。

「パパってのは、おじさんのことじゃない。俺のパパのことだ。
だから、パパをバカにしたあいつらを許せなかった!」

テイルは"パパ"と"おじさん"を線引きし続けている。
その言葉を聞く度に、ジュリエッタとハリスンは心が締め付けられるようだった。
しかし、それこそが現在のテイルと両親の距離感を表している。
彼らはこの事実を受け止めた上でこのデュエルに臨まなければならない。

「おじさんは、俺の気持ちをわかってくれない!
ただ俺が悪いことをしたって怒ってきて…なんであいつらには怒らないんだよ!」

かねてよりテイルが主張してきたのはまさにこの事だ。
ハリスンとジュリエッタははっとした表情をする。
彼がそれを両親にぶつけたことはこれまでになかったからだ。

「おじさんは俺の気持ちを知ろうとしてしない!どうでもいいんだろ!」
テイルは更に声を大きくして叫ぶ。

「違う!そんなはずはない!
何故わからないんだ!私はただ、君のためを思って…!」
ハリスンは焦った表情ですぐにテイルの言葉を否定する。

「ハリスンさん。その思いは、デュエルでぶつけなきゃ」
フィールドの脇から遊次がハリスンの目を見ながら伝える。

「デュエルでぶつける…」
ハリスンは自分の手札を見つめながら呟く。
彼にもまだその言葉の意味は理解しきれていなかった。
このデュエルの果てがどうなるか想像が及ばなかった。

今は心の壁を打ち破るためには魂をぶつけるしかない。
ハリスンの頭には先ほどのイーサンの言葉がリピートされる。
とにかく、まずは動いてみなければ何も始まらない。
ハリスンは視線を前に向け、デッキトップに指をかける。

「私のターン、ドロー!」
ハリスンはドローしたカードを見つめた後、
イーサンのフィールドに聳え立つ二体の要塞を見上げ、思考を巡らせる。
数秒後、手札を1枚取り、デュエルディスクに勢いよく叩きつける。

「手札から『和平の聖約者 レコンシレ』を召喚」


■和平の聖約者 レコンシレ
 ペンデュラムモンスター
 レベル4/光/サイキック/攻撃力1700 守備力1800 スケール3
 【P効果】
 ①:このカードがPゾーンに存在する限り、「聖約者」カードの効果を発動するために
 手札・フィールドからカードを破壊・除外・リリースする場合、1ターンに1度だけ、
 代わりに自分の墓地のカードを除外することができる。
【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードが召喚した場合、800LPを払って発動できる。
 デッキから「聖約者」モンスター1体を手札に加える。
 ②:このカードがL素材としてEXデッキに表側表示で加わった場合に発動できる。
 このカードを手札に加える。


現れたモンスターは、シンプルなデザインの銀色の鉄の鎧を纏った、無表情で無骨な男だ。
ヘルメット状の頭部の目の部分にはゴーグルが装着されており、その表情を隠している。
ゴーグルとボディの鎧の隙間からは緑色の一本のラインが光っている。
拳にはナックルのようなものが装着されている。

「レコンシレの召喚時、効果発動。
800のライフを支払うことで、デッキから『聖約者」モンスター1体を手札に加える」
イーサンはスパークキャッスルによって効果を無効にできるが、この効果に対して反応はない。

「私はライフを支払い、『平定の聖約者 リプレス』を手札に加える」
LP 8000→7200

手札に加えたのはPモンスターだ。どうやらハリスンはPデッキ使いらしい。
その後、ハリスンのデッキがデュエルディスクによって自動的にシャッフルされる。

「カードがシャッフルされた事で、フィールドのカードに雷カウンターが乗る」

2体のリンクモンスターとフィールド魔法に3本の稲妻が走る。
そして少し遅れてスパークキャッスルのリンク先にいるチャージリダウトにもう1本の雷が落ちる。

雷カウンター8→12

そしてフィールド魔法の効果によってイーサンのモンスターの攻撃力は更に1200アップする。

ヴォルタンク・スパークキャッスル ATK5900
ヴォルタンク・チャージリダウト ATK5800


「イーサンさんのモンスターの攻撃力が5000を超えたわ。大丈夫なの?」
ジュリエッタが思わず後ろから心配そうな表情でハリスンに声をかける。

「彼のモンスターは、デッキがシャッフルされる度に力を増してゆく。
しかしそれを恐れては私も本来の力を発揮できない。
この際、カウンターのことは度外視しなければ」

ハリスンは冷静に返答する。
そしてその視線をテイルの方に移す。テイルもそれに反応して体が少しびくっと震える。

ハリスンが左腕に装着されたデュエルディスクを持ち上げると、
その両端から、Pスケールをセットするための2つのゾーンがスライド式に現れる。

「私は、Pスケールに『法条の聖約者 ロウ』をセット!」

ハリスンが左側のPゾーンにPカードを発動すると、ハリスンの頭上にモンスターが浮かび上がる。
頭部には十字型の紫のラインが光っており、ボディの鎧にも同様に紫色のラインが通っている。

「(自分のモンスターの効果を無効にすることで、相手モンスターの効果を無効にするP効果か…。
これは厄介だ)」

イーサンはソリッドヴィジョンとして浮かび上がったデータを見つめ、
公開されたそのカードの効果を確認する。

「何度も言う!私が厳しくするのは、君が正しく育つようにと思ってのことだ!
嫌いだとか、そういう話ではない!」

まだデュエルで語るという言葉の意味を理解しきれていないハリスンだが、
今はとにかく、自らの胸中を素直にテイルにぶつけることにした。
ハリスンの言葉を聞いたテイルの目は更に鋭さを増す。
唇を嚙み締めた後、思い切り息を吸って、言葉として吐き出す。

「なんだってんだよ!
パパは俺にいつも優しくしてくれた!おじさんみたいに、厳しく叱ることもなかった!
じゃあ、パパは間違ってたって言いてえのかよ!!」

「なっ…!」

しかし、ハリスンはテイルの言葉を悪い方向に捉えた。
ハリスンが自分の教育方針が正しいと主張したことで、
真逆だった実の父の教育を間違いだと言われているように感じたのだ。

「ヴォルタンク・チャージリダウトの効果発動!
1ターンに1度、雷カウンターを3つ取り除き、
相手が発動した魔法カードの発動を無効にして、デッキに戻す!
Pカードの発動は魔法カードとして扱われる。ロウの発動は無効になり、デッキへと返る」

雷カウンター12→9

テイルからの"拒否"と、それに呼応するようなイーサンの無効効果。
まさしくこの状況はテイルの心の壁の厚さを表すものだった。

2体のリンクモンスターの頭上に灯っていた電気を纏う光が3つ弾け、
チャージリダウトの大砲に大きな雷のエネルギーとして装填される。
大砲から高速の雷のビームがハリスンの頭上にいるロウを捉え、その姿は消滅する。
自分の声が全く届かなかったことに、ハリスンは少し顔をしかめる。

「そしてロウがデッキに戻ったことでシャッフルが発生した。
フィールド魔法と2体のリンクモンスターに雷カウンターが置かれる」

4本の稲妻がイーサンのフィールドに落ちる。

雷カウンター9→13
ヴォルタンク・スパークキャッスル ATK6200
ヴォルタンク・チャージリダウト ATK6100


「カウンターを消費したってのに、結果的にカウンターの数は増えてやがる。
これがイーサンのデッキの力ってわけか…」
怜央は腕を組んでイーサンのフィールドを見つめながら、噛みしめるように呟く。
Nextに入ってから何度かイーサンのデュエルを見たことはあったが、
その恐ろしさを改めて思い知らされる。

「こんだけの壁を用意したからこそ、
ハリスンさんがこの状況を突破しようとした時、
そこに強い思いが乗っかれば、きっとテイルの心にも届くはずだぜ」

遊次はこのデュエルの行く末を心配していなかった。
父の教えである「デュエルは魂の会話」という言葉を心から信じているからこそ、
彼らもデュエルを通じて打ち解けることができると確信していた。


「(まだ私の思いは全く伝わっていない…。だが、これしきのことで諦めるわけにはいかない。
思い出せ、テイルと初めて出会った時のことを…!)」

ハリスンの脳裏に浮かんだのは、施設の一室で小さな椅子に座り、肩をすくめて俯くテイルの姿。
ハリスンは前を向く。その眼差しの強さをイーサンは感じ取った。

「以前も言っただろう、私の叔父のこと。
君を、彼のようにはしたくなかったのだ。だから厳しくもした。
しかし、君のお父さんが間違っていたなどとは思っていない。
何故なら、君は優しく育っただろう!」

「…!」
テイルが目を見開く。
ここまで強く思いが乗った言葉…それも、テイルを肯定する言葉を、
ハリスンからほとんど聞いたことがなかった。
彼がそのようなことを思っていたことすらも知らなかった。

今まで見せたことのない心の部分をハリスンは見せ始めている。
イーサンはひとまず、この流れに任せようと考えた。
ハリスンは手札の2枚のカードを表に向ける。

「私は、スケール3『均衡の聖約者 イクイ』と、スケール7『至公の聖約者 アネス』で、
ペンデュラムスケールをセッティング!」

ハリスンの頭上に2体のモンスターが浮かび上がる。
「均衡の聖約者 イクイ」と「至公の聖約者 アネス」は、
他の聖約者モンスターと同様、シンプルな頭部とボディの装備に刻まれたラインが光っている。

イクイの頭部の装備には逆A字が刻まれており、ラインは黄色く光っている。
装備を纏っているのは細身な若い男のようだ。
手には先端が黄色く光っている槍のような武器を持っている。

アネスの頭部の装備にはダイヤマークのような四角形が刻まれており、
ラインはオレンジ色に光っている。
頭部の装備から唯一見える唇にはオレンジのリップが塗られており、女性のモンスターのようだ。
両手には大きな輪の形をした武器を持っている。


「施設の庭で弱っていた鳩を手当してあげる姿を私達は見ていた。
なんと優しく育った子なのだろうと思ったのが最初の印象だ」

「…」
テイルははっとしたような顔をする。
そのことはかつて両親から聞いたことがあったのだろう。


「魔法カード『聖約者の献身』を発動!Pゾーンの『聖約者』カードを2枚破壊し、
それらと名前の異なる聖約者モンスターを2体、デッキから手札に加える!
『法条の聖約者 ロウ』と『典常の聖約者 イミュ』を手札に加える」

この魔法カードの発動にはPカード2枚の破壊がコストとなるようだ。
Pゾーンの2体のモンスターが光に包まれ消えてゆく。

「だがデッキがシャッフルされたことで、俺のモンスターとフィールド魔法に、
合計4つの雷カウンターが乗る」

雷カウンター13→17

ヴォルタンク・スパークキャッスル ATK7400
ヴォルタンク・チャージリダウト ATK7300


「そしてコストとして破壊された『至公の聖約者 アネス』『均衡の聖約者 イクイ』の効果を発動!
このモンスター達はカードの効果を発動するためにフィールドから離れた場合、効果を発動可能!」

「チェーン1のアネスはコストとしてフィールドを離れた場合、
このカードを特殊召喚して1枚ドローできる」

「そしてチェーン2の『均衡の聖約者 イクイ』の効果。
コストとしてフィールドから離れた場合、相手モンスター1体を手札に戻すことができる。
スパークキャッスルを対象として選択!」
ハリスンが眼前に聳え立つスパークキャッスルに人差し指を突きつける。


「君は本来、優しい子だ。…だからこそ!
クラスメイトを殴り、殺意を持った言葉を吐いたことを許せなかった!
憎しみが君の優しさを奪うならば、それを止めるのが親としての責務!」

ハリスンは熱を持った言葉でテイルに訴えかけ、
同時に魔法カードとモンスターのコンボがイーサンを襲う。
ハリスンがデュエルで語るということを理解し始めている兆候だ。

「…ッ!」
ハリスンは歯を噛み締める。テイルの心にもハリスンの言葉が届き始めているようだ。
それでもまだ彼の心に疼く悲しみは消えていない。テイルは目に涙を溜めてそれを吐き出す。

「でも、それはおじさんの都合だろ!
俺は、俺の気持ちをわかってほしかったんだ!なのに、おじさんは聞こうともしなかった!
俺にはもう…味方がいないんだっ…!」

「…!」
ハリスンは戦慄した。自分の気持ちをわかってくれないという言葉の真意、心の叫びを感じたのだ。
そしてそれはイーサンも同じだった。自分の隣にいるテイルの表情を横目に見た後、再び前を向く。

「ヴォルタンク・スパークキャッスルの効果発動!雷カウンターを3つ取り除き、
『均衡の聖約者 イクイ』の"モンスターを手札に戻す効果"を無効にして、破壊する!」

テイルの思いを肩代わりするように、イーサンがモンスター効果をぶつける。
スパークキャッスルとチャージリダウトに乗った3つのカウンターが弾け、
イクイが手から放つエネルギーを雷の障壁が打ち消し、そのままイクイを破壊する。

雷カウンター17→14
ヴォルタンク・スパークキャッスル ATK6500
ヴォルタンク・チャージリダウト ATK6400

「そしてチェーン1のアネスの効果によって、自身を特殊召喚し、カードを1枚ドローする」
これにてハリスンの一連の処理は終了する。

「攻撃力6000を超えたモンスター達…。ハリスンさんにこれを超えられるの?」
灯は聳え立つ要塞を横から見上げ、デュエルの行く末を案ずる。
2人の魂の会話が途中のままデュエルが終わってしまえば元も子もないからだ。

「でも、イーサンの2つの無効効果はこれで尽きた。こっからはハリスンも動きやすいと思うぜ」
灯とは対照的に遊次は楽観的だ。
デッキがデュエリストの思いに応えると信じているからこそ、
強くなってゆくハリスンの思いにデッキが応え、この状況を打破できると考えているのだ。


「…実の両親を失ったことで、唯一の味方がいなくなった。
にも関わらず、私は…。君の怒りの根源はそこにあったわけか」

ハリスンはプレイを止め、デュエルを通して感じた息子の思いを受け止める。
ハリスンはこれまで、自分の主義主張を語ってきた。
しかし、テイル自身も整理できていなかったであろう胸中を知ったことで、
これまで通りの主張を続ける気にはならなかったのだ。
何を言えばよいのかを見失い、ただ自分の手札を見つめるハリスンに、
後ろからジュリエッタが声をかける。

「このデュエルでテイルにぶつけられるのは、自分の考えだけじゃないわ。
説得するんじゃなくて、ありのままの心を、ありのままに伝えればいい。
私達の弱みも、過ちも、全部」


「私の、過ち…」
ハリスンは、自分がテイルを叱ったことは、テイルを思ってのことであると、
そればかりを伝えようとしていた。まさにジュリエッタの言う「説得」だ。
ハリスン自身も、それだけではいけないと思い始めていた時、
妻の言葉によって新たな光明が見え始める。ハリスンは再び前を向き、手札に手を伸ばす。


「手札の『典常の聖約者 イミュ』の効果発動。
LPを800払い、このカードを手札から特殊召喚できる」

LP 7200→6400

現れたのは、鉄の装備を纏った少年のようなモンスター。
頭部の装備には丸いラインが刻まれており、頭部とボディのラインは黒い光を放っている。
これによってハリスンのフィールドには3体のモンスターが並んだ。

「私はフィールドの3体のモンスターをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」
レコンシレ、アネス、イミュがサーキットのリンクマーカーへ飛び込んでゆく。
未だにハリスンのデッキの戦術が見えないNextの面々は、少し驚いた様子でフィールドを注視する。

「公正なる光の使者よ、正しき代償と共に大いなる力を振るえ」

「リンク召喚!現れよ、リンク3『調伏の聖約者 エクスオルク』!」


■調伏の聖約者 エクスオルク
 リンクモンスター
 リンク3/光/サイキック/攻2600
 【リンクマーカー:左/左下/右下】
 「聖約者」モンスター3体
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードのリンク先のモンスター1体を除外して発動できる。
 相手エンドフェイズまで、「聖約者」カードの効果を発動するために
 手札・フィールドからカードを破壊・除外・リリースする場合、1ターンに1度だけ、
 代わりに相手の手札、フィールドからカードを選択できる。
 ②:800LPを払って発動できる。
 相手エンドフェイズまで、「聖約者」カードの効果を発動するためにLPを払う場合、
 代わりに相手がLPを払う。
 ③:自分のPゾーンの「聖約者」カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードをこのカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する。


現れたのは、今までのモンスターとは異なり、真っ白な鎧を身に纏ったモンスターだ。
サイの頭のように一本角を携えた頭部の装甲には、三本の線が平行に刻まれている。
その線と鎧のラインは青い光を放っている。
エクスオルクの周囲には、4つの三角錐の物体が一定間隔で浮かんでいる。


「リンク素材となった『和平の聖約者 レコンシレ』の効果発動。
リンク素材となった場合、このカードを手札に加える」
L素材となることでEXデッキに表側で加えられたレコンシレは、手札へと戻る。


「私はスケール3『法条の聖約者 ロウ』とスケール7『平定の聖約者 リプレス』を
ペンデュラムスケールにセッティング!」

ハリスンに迷いはない。デュエルディスクから飛び出た2つのゾーンにカードを叩きつけると、
ハリスンの頭上に2体のモンスターが浮かび上がる。

ロウは頭部の装甲に十字型のラインを持った紫色に光るモンスター。
手には大きなアックスを持っている。
リプレスは頭部の装甲にX字の紋様を持っており、頭とボディに刻まれたラインは赤く光っている。
手には剣を携えている。


「『調伏の聖約者 エクスオルク』の効果発動。
1ターンに1度、Pゾーンの聖約者モンスターをリンク先に特殊召喚できる。
『法条の聖約者 ロウ』を特殊召喚」

「ロウを除外してエクスオルクの効果発動。相手エンドフェイズまで、
聖約者の効果発動のコストとして手札・フィールドのカードを破壊・除外・リリースする時、
1度だけ相手の手札とフィールドからコストを支払うことができる」

「俺のカードを、自分の効果のコストに…!?」
イーサンもその物珍しい効果に驚きを見せる。


「さらに、800のライフを払ってエクスオルクの効果発動。
相手エンドフェイズまで、自分が聖約者の効果発動のコストとしてライフを払う場合、
代わりに相手がライフを払う。
これは1ターンに1度ではなく、あなたのエンドフェイズまで続く効果だ」

LP 6400→5600

「なんだって…!カードだけじゃなくてライフまで…」
2種類のコストを相手に背負わせる特殊な効果に、思わず遊次が驚きの声を上げる。

「今までハリスンさんはコストとして多くのライフを払ってきた。
これからはそれを、全部イーサンが肩代わりするってことに…」
灯もついに動き出したハリスンのデッキの強さを実感し始める。


「…なるほど。あなたのデッキの特徴がようやく見えてきました」
イーサンはすこし口角を上げる。

イーサンは自分のモンスターをハリスンが突破できれば、
テイルとの心の壁も破れると考えている。
テイルは本気で勝利を望んでいるため、当然敗北するつもりはないが、
ハリスンが自分の布陣を突破する可能性の片鱗を見せ始めたことにより、
複雑だが、喜びの感情も湧き上がっている。


「ロウが特殊召喚されたことで、Pスケールには空きがある。
手札から『和平の聖約者 レコンシレ』をPスケールにセット」

緑の光を放つ鎧を纏った武骨な男のモンスターが頭上に浮かび上がる。

「私のPスケールは3~7。
よって、レベル4~6のモンスターを同時に召喚可能!」

「来るか、ペンデュラム召喚…!」
イーサンは警戒を強める。それに合わせてテイルも身構える。

「平等を望む数多の使者よ、この不整の地に厳正なる秩序を与えよ」
頭上の振り子が左右に揺れ、その中から2つの光がフィールドに落ちる。

「P召喚!現れよ、私のモンスター達!
『均衡の聖約者 イクイ』、『至公の聖約者 アネス』!」

エクスオルクのリンク先に2体のモンスターが現れる。
黄色い光を放ち頭部に逆A字のラインが刻まれたモンスターと、
ダイヤマークが頭部の装甲に刻まれオレンジ色の光を放つモンスターだ。


■均衡の聖約者 イクイ
 ペンデュラムモンスター
 レベル6/光/サイキック/攻撃力2200 守備力2400 スケール3
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:手札を1枚除外して、自分のEXデッキの表側のPモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを手札に加える。
【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの「聖約者」モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に、
 LPを800払って発動できる。その自分モンスターの攻撃力は、
 ターン終了時まで1000アップする。
 この効果の発動後、相手ターン終了時まで、
 相手は攻撃宣言時、LPを800払わなければならない。ただしこの効果は重複しない。
 ②:このカードがカードの効果を発動するためにフィールドから離れた場合、
 相手モンスター1体を対象として発動できる。そのカードを手札に戻す。


■至公の聖約者 アネス
 ペンデュラムモンスター
 レベル6/光/サイキック/攻撃力2100 守備力2500 スケール7
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:LPを800払い、除外されている自分の「聖約者」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードを手札に加える。
【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドのカード1枚を除外して発動できる。
 デッキから「聖約者」モンスター1体を特殊召喚する。
 この効果の発動後、相手ターン終了時まで、
 1ターンに1度、相手はモンスターを特殊召喚する場合、
 自分フィールドのカード1枚を除外しなければならない。
 ②:このカードがカードの効果を発動するためにフィールドから離れた場合に発動できる。
 このカードを特殊召喚し、自分はカードを1枚ドローする。


ハリスンのフィールドには3体のモンスターが並んだ。
しかし、イーサンのフィールドには攻撃力6000を超える2体のモンスターが聳え立っている。

「私は、知っていたはずだ。テイル…君の孤独を。
施設で初めて会った時の君の寂しそうな瞳…それを思い出せば、答えは見えたはずだった。
だが私は、己の正義を優先するあまり、君の心を見ていなかった」

「だから…このデュエルでぶつける。今の私の気持ちを。
この聳え立つ高い壁を越えて…テイル、君に届けてみせる」

テイルはこれまで、ハリスンの瞳に対してどこか冷たい印象を抱いていた。
しかし、今の彼は違った。
このデュエルを通して、彼自身がテイルの心に耳を傾け、初めて心からの対話をすることができた。
その結果、彼にはもう、自分の考えを言い聞かせるという意思はない。


「『至公の聖約者 アネス』の効果発動。
1ターンに1度、自分フィールドのカード1枚を除外することで、
デッキから『聖約者』モンスターを特殊召喚する。
エクスオルクの効果により、このコストはあなたのフィールドから払わせてもらう。
私は、あなたのフィールド魔法をコストとして除外!」

アネスが左手を掲げると、イーサンの後ろに立つ無数のアンテナが消えてゆく。

「フィールド魔法が消えたことで、ヴォルタンクの攻撃力は元に戻る」

ヴォルタンク・スパークキャッスル ATK2300
ヴォルタンク・チャージリダウト ATK2200


「やばいよ、これじゃ…!」
攻撃力6000超えのモンスターが2体並ぶ圧倒的な盤面が覆り、
テイルはイーサンを心配そうに見上げている。
彼はこのデュエルで勝利を望んでいる。
それが揺らいでは、テイルが納得しないままこの問題が棚上げになってしまう可能性すらある。
デュエルによって魂をぶつけ合い、お互いの理解を深め合えるからこそ、
その結末によっては溝が深まるリスクもあるということだ。


「この時、永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』の効果発動。
雷カウンターが乗ったカードがフィールドを離れた時、
その雷カウンターを別のカードに乗せることができる。
フィールド魔法に乗っていた雷カウンター11個を、この永続魔法に乗せる」

白いサーキットが張り巡らされているフィールドに、雷が11回落ちる。
この轟音には、雷に慣れてきたテイルもさすがに驚きを禁じ得ず、両手で耳を塞いでいる。


「アネスの効果で、私はデッキから『格律の聖約者 ミグザム』を特殊召喚」


■格律の聖約者 ミグザム
 ペンデュラムモンスター
 レベル6/光/サイキック/攻撃力2000 守備力2700 スケール7
 【P効果】
 このカード名の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:手札を1枚除外し、自分の墓地の「聖約者」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを手札に加える。
【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:手札を1枚除外して発動できる。
 デッキから「聖約者」罠カード1枚を手札に加える。
 この効果の発動後、相手ターン終了時まで、
 1ターンに1度、相手はカードの効果でデッキからカードを手札に加える場合、
 手札を1枚除外しなければならない。
 ②:このカードがカードの効果を発動するためにフィールドから離れた場合に発動できる。
 相手に1000ダメージを与える。


現れたのは、他のモンスターよりも細身な鎧を纏った、女のサイキック族モンスターだ。
頭部にはV字のラインが刻まれており、鎧のラインからはピンク色の光を放っている。
手には光線銃が握られている。

「デッキがシャッフルされたことで、ヴォルタンクモンスター2体に雷カウンターが溜まる」
雷カウンター14→17


「アネスが効果を発動した時、相手エンドフェイズまで、
相手は1ターンに1度、モンスターを特殊召喚する場合、
フィールドのカードを1枚除外しなければならない。
大いなる力の代償…それは君にも平等に払ってもらう」

ハリスンの言葉を聞いた遊次達は思わず驚きの声を漏らす。

「自分にも相手にもコストを課す。それがあなたのデッキの性質…」
すでにハリスンの効果発動のコストとしてフィールド魔法を失ったイーサンは、
自分のターンでも行動に対して代償を支払わねばならなくなったことになる。


「『格律の聖約者 ミグザム』の効果発動。1ターンに1度、手札を1枚除外することで、
デッキから『聖約者』罠カードを手札に加えることができる」

「しかし、ここでPゾーンの『和平の聖約者 レコンシレ』のP効果を適用する。
手札・フィールドのカードを除外する場合、1ターンに1度、代わりに墓地のカードを除外できる。
私は墓地の魔法カード『聖約者の献身』をコストとして除外し、
デッキから罠カード『聖約者の示教』を手札に加える」


「再びデッキがシャッフルされた。ヴォルタンクモンスター2体に雷カウンターを置く」
雷カウンター17→20

しかし、ここで溜まった雷カウンターもフィールド魔法がない今、ほとんど意味を成さない。
ハリスンのフィールド魔法除去は、的確にイーサンの戦術の核を貫いたといえる。


「そしてミグザムがこの効果を使った時、相手エンドフェイズまで、
1ターンに1度、相手はカード効果でデッキからカードを手札に加える場合、
手札を1枚除外しなければならない」

「まだコストが追加されるってのか…!」

「これでイーサンは次のターン、
特殊召喚する時に1度フィールドのカードを除外する制約と、
カードを手札に加える時に1度、手札を除外する制約を負う。
更にハリスンさんがライフを払う時、イーサンのライフから支払われる。
こりゃ相当やべえぜ…」

怜央と遊次は、真価を見せ始めたハリスンのデッキに1歩後ずさりする。

-----------------------------------------------------------------------------
【イーサン】
LP8000 手札:2(ヴォルタンク・エンジン)

①ヴォルタンク・スパークキャッスル(雷カウンター:3) ATK2300
②ヴォルタンク・チャージリダウト(雷カウンター:6) ATK2200

永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット(雷カウンター:11)
伏せカード:1

【ハリスン】
LP5600 手札:2(聖約者の示教)

①調伏の聖約者 エクスオルク ATK2600
②均衡の聖約者 イクイ ATK2200
③至公の聖約者 アネス ATK2100
④格律の聖約者 ミグザム ATK2000

Pゾーン:平定の聖約者 リプレス、和平の聖約者 レコンシレ
-----------------------------------------------------------------------------


「さあ、バトルだ。テイル、もう私は意思を押し付けたりなどしない。
目を見て、語り、心を通じ合わせなければ…親子にはなれない。
それなのに私は、もう親になった気でいたのだ」

ハリスンはこの1ターンの間で180度心を変えたといっても過言ではない。
それはテイルの心の叫びがあったからこそだ。

「このデュエルは君との初めての、真っ向からの対話だ。
私も君の気持ちを受け取った。だから…このバトルフェイズで私の心を感じてほしい」

テイルはハリスンの目を見つめ、ただ1度頷いた。
すでに拒絶の感情は薄らいでいるだろう。
しかし、それがこのデュエルの一時的な感傷によるものであってはならない。
恒久的な親子関係の進展でなくては、このデュエルに意味はないのだ。

デュエルはまだ続いている。
イーサンは解け始めている親子の捻じれを、一つの線にすることはできるのだろうか。

第29話「心の壁」 完


大いなる力には代償が伴う。
相手プレイヤーにもコストを課すハリスンのモンスターによって、
イーサンのライフは大きく削られる。

動けば手札やフィールドが削られ、重い枷をはめられたイーサンは、
それを乗り越える力にテイルの思いを託そうとする。
テイルが真に欲しているもの、そして親子を繋ぐものは何か。
その答えはデュエルの中にある。

次回 第30話「無償の愛」
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