交流(共通)
メインメニュー
クリエイトメニュー
- 遊戯王デッキメーカー
- 遊戯王オリカメーカー
- 遊戯王オリカ掲示板
- 遊戯王オリカカテゴリ一覧
- 遊戯王SS投稿
- 遊戯王SS一覧
- 遊戯王川柳メーカー
- 遊戯王川柳一覧
- 遊戯王ボケメーカー
- 遊戯王ボケ一覧
- 遊戯王イラスト・漫画
その他
遊戯王ランキング
注目カードランクング
カード種類 最強カードランキング
● 通常モンスター
● 効果モンスター
● 融合モンスター
● 儀式モンスター
● シンクロモンスター
● エクシーズモンスター
● スピリットモンスター
● ユニオンモンスター
● デュアルモンスター
● チューナーモンスター
● トゥーンモンスター
● ペンデュラムモンスター
● リンクモンスター
● リバースモンスター
● 通常魔法
永続魔法
装備魔法
速攻魔法
フィールド魔法
儀式魔法
● 通常罠
永続罠
カウンター罠







種族 最強モンスターランキング
● 悪魔族
● アンデット族
● 雷族
● 海竜族
● 岩石族
● 機械族
● 恐竜族
● 獣族
● 幻神獣族
● 昆虫族
● サイキック族
● 魚族
● 植物族
● 獣戦士族
● 戦士族
● 天使族
● 鳥獣族
● ドラゴン族
● 爬虫類族
● 炎族
● 魔法使い族
● 水族
● 創造神族
● 幻竜族
● サイバース族
● 幻想魔族
属性 最強モンスターランキング
レベル別最強モンスターランキング












デッキランキング
第25話:アクセラレーション! 作:湯
「だから、なんでこの事務所にそんなものが必要なの!」
間もなく夕日が沈む時間帯。
ドミノタウンの一角に佇むなんでも屋Nextの事務所では、珍しく灯が大声を上げていた。
「逆になんでいらないと思うんだ!」
「どう考えてもいらないでしょ!
…アイスクリームメーカーなんて!」
遊次と灯は事務所にアイスクリームメーカーを買うかを言い争っているらしい。
「職場にアイスクリームメーカーを置いてるなんて聞いたことないでしょ!
経費で落とすなんてなおさらダメ」
経理担当の灯は経費でアイスクリームメーカーを購入しようとする遊次に反対しているようだ。
「じゃあただでさえ少ない給料から出せってのか!?そりゃあんまりだぜ!」
「経費もお給料も事務所の売上から出てるのは同じでしょ。
ってことは経費だって多くないの。
依頼の解決に必要なこともあるし、無駄遣いはできません」
「くっ…」
遊次は一切の反論できずに苦虫を噛み潰す。
「おい押されんなよ遊次!お前の言葉に全てが懸かってるんだ。
この真夏を生き抜くためには、それだけが生命線なんだよ!」
怜央はどうやら遊次と同じ立場らしい。
今は8月の下旬。空調設備もさほど良くない事務所には、
冷房をもってしても未だ蒸し暑い空気が漂っていた。
それに耐えきれない遊次達は、外からで無理なら体内から冷やそうと、
今回のアイスクリームメーカー購入を立案したのである。
「それにしてもこれは高いでしょ!
なんでちゃっかりちょっと良いやつを買おうとしてるの!」
灯は携帯の画面に表示した通販のページを見せ、その値段を提示する。
「違うんだ灯。
そんじょそこらのアイスクリームメーカーじゃ、滑らかな口触りにはならないんだ。
更にそいつはシャーベットやフローズンヨーグルトまで作れる代物。
…これは将来への投資なんだよ」
イーサンは事務所の一番奥のデスクに腰掛けながら悠々とした態度で話す。
「なんでイーサンまでそっち側なの…。ふつう、大人は止める立場でしょ!
とにかく、認めません」
この事務所の金庫番は灯だ。経費の全ての権限は彼女にあるため、
3人は灯を説得する以外に道がないのだ。しかし灯は頑なに意見を貫いている。
「よし!じゃあデュエルで決めるってのはどうだ?
俺が勝ったら経費での購入を認めて…」
「ダメ。なんでもデュエルで解決できると思ったら大間違いだからね。
なんのために経理がいると思ってるの。ダメなものはダメです」
遊次の一世一代の提案を、灯はまるで母親のような口調できっぱりと拒否する。
「……はい…」
こうなったら灯は絶対に自分を曲げない。それは遊次が一番知っていた。
灯の頑固さにさすがの遊次も心を折られ、
此度のアイスクリームメーカー導入の件は幕を下ろすのだった。
「この独裁者!」
「あ、ひどい!今すぐ訂正しなさい!」
怜央が吐き捨てた言葉に灯は怒り、彼を追いかけ回す。
そんな様子をイーサンは優しい眼差しで見つめる。
「(怜央もずいぶん打ち解けたな。
もうすぐ2ヶ月か…。時が経つのは早いもんだ…本当に)」
怜央がNextに加入してから、2ヶ月が経とうとしていた。
数々の活動を行っていく中で、怜央は遊次や灯・イーサンとも距離を縮めていった。
彼らのチームと抗争していた時には、まさかこのような日が来るなんて考えもしなかった。
イーサンは良くも悪くも運命は数奇であることを噛み締める。
メインシティでの宣伝活動は定期的に行われ、着実に客足は増えている。
それでもまだ満足のいく収入を得られるまでには至っていなかった。
チームの子供達は2ヶ月前に新居に引っ越してから、変わらずそこで暮らしている。
怜央・ドモン・ダニエラの収入で生活費を賄い、
忙しいながらも今までとは違う道を1歩ずつ進んでいる実感が彼らにはあった。
それでも今のままでは、子供達の未来を作るまでには至らない。
学校に通っていない子もいるため、その子にはまた別の学びの場所が必要だ。
そうでなければ社会に羽ばたいていけない。
ただ現状を維持するだけでは意味がないことは怜央達も理解していた。
しかし、今は階段を一つずつ上がっていくほかない。
ヴェルテクス・デュエリアの予選開始は来年の3月だ。
もし優勝できれば一気に階段を駆け上がることができる。
その可能性も胸に秘めながら、彼らは日々を一生懸命に生きていた。
「さあ、そろそろ帰るぞ」
イーサンは皆に声を掛ける。
灯が時計を見ると、すでに19:00を過ぎていた。
今は夏真っ盛りであるため、まだ日は沈みきらないが、すでに帰る頃合いであることには違いない。
「うん、そうだね。ほら遊次、いつまでも拗ねてないで帰るよ!」
アイスクリームメーカーの件を未だに消化しきれない遊次は、部屋の隅っこで丸くなっていた。
灯は全く気にしない様子で遊次に手を差し伸べ、遊次もしぶしぶその手を取る。
「そういえば、最近この町で引ったくりが多発してるらしい。気をつけろよ」
ふと思い出したようにイーサンが注意を促す。
「俺は盗まれるもんは何も持ってねえ」
怜央は全く気にも留めない様子で、ぶっきらぼうに手ぶらでポケットに手を突っ込んでいる。
「俺はむかし大事なカードを引ったくりに盗まれてるからなあ。もう二度とごめんだぜ」
遊次は当時の記憶を思い出し、悲しげな表情となる。
「あったね、小学生の時。めちゃくちゃ泣いてたよね」
「そりゃそうだろ!
ずっと一緒に戦ってきた仲間だってのに、急にいなくなっちまったら…。
今頃どこにいんのかな…ザエモンの奴」
遊次は盗まれたカードの名前を口にする。
「ザエモン?てか、盗まれたままなのか」
怜央は当然そのことを知らないため聞き返す。
「あぁ、今も返ってきてねえ。
ゴエモンと対を成す儀式モンスターだったんだけどな。
灯にカードを見せてた時、一瞬で盗まれちまって。
盗んだ奴は多分俺と同じぐらいの歳の子供だったと思うけど…。
早業すぎてしばらく盗まれたことに気づかなかった」
遊次はその当時の記憶を手繰り寄せながら語る。
犯人は後ろ姿しか捉えられなかったが、
団子結びの茶色い髪だったことは覚えている。
「へっ、普段デュエルで人のカード盗みまくってるくせに、まさか自分が盗まれるとはな」
「なんだとぉ!俺はルールの上で戦ってるだけだっての!」
怜央の軽口に遊次は抵抗の姿勢を見せる。
「…まあ、いつかまた会えるかもしれない。何があるかわからないしな」
「そうだな。そう願うしかねえ」
イーサンが話を締めると、Nextの4人は事務所を出る。
遊次が扉にかけてあるプレートを「CLOSE」に裏返し、4人は帰路につく。
「引ったくりかー。相変わらず物騒な町だな」
遊次は両腕を後頭部に持ち上げ、この町の現状を嘆く。
後ろからオートバイの走る音が聞こえる。
「俺が言えた義理じゃねえが、年々治安は悪くなってやがる。
コラプスで何もかも失った子供がでかくなって、
悪ィことに手染めるしかねえってパターンは多いだろうな」
怜央は経験則から治安悪化の原因を紐解く。
後ろのオートバイの音はどんどんと大きくなる。
「結局、この町が復興しないことにはどうにも…」
ブチィッ!!
何かが千切れる音が響き渡る。
真っ先に目に入ってきたのは、
遊次がいつも身に着けている赤いネックレスを、黒いオートバイに乗った男が引き千切る姿。
時が止まったようだった。
全員が目を見開き、その姿をただその瞳に捉える。
時は動き出し、バイクは走り去る。
一瞬、何が起きたか理解できなかった。
灯とイーサンは遊次の顔に視線を移す。
瞳孔は開いたままだ。遊次はそのまま一切動かない。
その生気のない表情を見て、2人は我に返る。
「灯ッ!!追いかけろ!絶対に逃がすな!!」
イーサンはありったけの声で叫ぶ。
イーサンが言葉を紡ぎ終わるより前に、すでに灯は動き出していた。
真っ先に事務所裏の駐車場へと走る。
「ぁ…あァ…」
遊次は呻き声を上げる。
「おい遊次…!大丈夫か!」
イーサンが遊次の肩をゆする。その額にはじわりと汗が滲む。
「遊次…?」
怜央も明らかに遊次の様子がおかしいことに気がつく。
「ああぁ……!あぁ…アァァ…!」
遊次は膝をつき、頭を押さえ、苦痛に顔を歪めている。
「おい遊 ....ッど...た!」
「...次!しっ....ろ…!」
2人の声がどんどんと遠のいてゆく。
遊次は頭が割れるような痛みに襲われる。
「グウウォオオァァア゛ア゛!!」
遊次は天に向かって雄叫びをあげる。
苦しみを解放するかのように。
そしてその瞬間、遊次の頭の中に突如、映像が流れ込む。
そこは、どこまでも続くような雄大なる緑の大地。
恐竜や獣が自由に走り回り、空には巨大な鳥や翼を持つ人獣が悠々自適に飛び回っていた。
そして、また別の映像が流れ込む。
そこには、絶え間なく煙を吐き出す巨大な火山がそびえていた。
その山肌には赤く光る溶岩が静かに流れ、時折大きな音を立てて岩が崩れる音が響く。
この厳しい環境の中には、岩石の体を持つ生物や黒い翼を持つ悪魔を思わせる姿も見られた。
空飛ぶ人獣や動く岩石に悪魔…それは明らかにこの地球上の光景ではなかった。
しかし、これらはまるで自らがその身で体験したかのような生々しい感覚だった。
まるで「記憶」のように。
また別の映像が頭に流れ込んでくる。
そこには、剣や槍を携えた戦士や、斧を持つ巨人がいた。
その者達は皆、翼竜や巨大な鳥獣に乗っている。
その数は数千にも及ぶ。
その全ての者達が空を見上げていた。
視線は空に移る。
天には、黒と紫の混ざったような、禍々しく巨大な光が輝いていた。
戦士達はその光に剣を構え、覚悟の面持ちを浮かべている。
禍々しい光はどんどんと大きくなる。こちらに近づいてきているようだ。
それも、恐ろしい速度で。
そして戦士達は翼竜や鳥獣と共に飛び立ち、その光へと向かってゆく。
武器を携え、叫びを上げながら。
「アァ゛ァァア゛アァアア!!」
遊次は目を見開き未だ天に叫び続けている。
流れ込む情報量にその身体が耐えられず、ただ叫ぶことしかできなかった。
流れ込む記憶はさらに別の場所へと移り変わる。
およそ50メートルほど上空から見下ろす町。
その下には、悲鳴・怒声を上げながら逃げ惑う人々。
そこは、見覚えのある場所だった。
見ているのは記憶映像に過ぎないはずだが、体がずっしりと重い感覚がある。疲労感に近い感覚だ。
1歩進む度に地面が割れる。そのたびに人々の悲鳴は大きくなってゆく。
逃げ惑う人々の中に、こちらを見つめるオレンジ色の髪の男が見える。
白衣を着ており髭を生やしている。
人々が逃げ惑う中、複雑な感情が入り混じったかのような目で上を見上げている。
そして、ふとその男の視線が背後…人々が逃げる方向へと向かう。
その先には…オレンジ色の髪をした少年が、押し寄せる人々にぶつかり、転んでいた。
白衣の男はそれを見て、すぐに少年の方へと駆けてゆく。
その瞬間、別の記憶が大量に流れ込んでくる。
しかし、それらの光景を脳に焼き付けられないほど、流れ込む情報量は膨大だった。
「アァア゛ア゛ア…アア゛ア゛ア゛ア゛アア!!!」
ただ割れるような痛みに耐え続けるしかなかった。
思考をする余地もない。周囲の状況も、声も、何も聞こえない。
流れ込む記憶は幾百にも及んだ。
プツン。
そこで記憶は途切れた。
視界がブラックアウトする。
遊次は意識を失った。
その刹那に遊次の視界に映ったのは、おそらく自分を心配しているイーサンと怜央の姿と、
向こうの道路から猛スピードで現れる真っ赤な車。
その運転席からこちらを絶望的な表情で見つめる灯の姿だった。
灯は、悲痛な雄叫びをあげる幼馴染の姿を見送るしかなかった。
本当は傍にいてあげたかった。
それでも、今は数百メートル先にいる"標的"を追うことが最優先だ。
そうしなければ、遊次は…。
灯は幼馴染を苦しめる元凶となった者への憎しみを滾らせ、ハンドルを握る。
鋭い眼光で標的のオートバイを無我夢中で追いかける。
スポーツカーとバイクは狭い路地を進んでゆく。
オートバイに乗った引ったくりは、
猛スピードで自分を追いかけてくるスポーツカーの存在に気付かないはずがなかった。
「チッ…面倒くせぇ…」
ひったくり犯はヘルメットの中で舌打ちしながら呟くと、バイクを加速させる。
灯も見失うまいと追い上げる。
車は狭い路地を進む。両側に古い建物が迫り、道幅は車一台が通るのがやっとだ。
ヘッドライトが路地の壁を照らし、
前方を行くオートバイのテールライトがちらちらと見え隠れする。
灯はアクセルを踏みしめ、短い直線でスピードを上げる。
やがて視界が開け、川沿いの広い路地に出る。
道の向こう側は高い土手で、その下に川が流れている。
オートバイはさらにスピードを上げ、橋を目指して直進する。
「…逃さない」
車は懸命に追いかけるが、橋に差し掛かるとオートバイが突然ハンドルを切る。
「…!」
灯は目の前の男がこれから行おうとしていることに正気を疑わざるを得なかった。
男は橋の側面に向かって急加速をしている。
橋の10メートルほど下には、橋と十字に交差した道路がある。
オートバイはウイリーで前輪を持ち上げながら、橋の柵から向こう側へ飛び上がる。
そのまま重力に引かれながら、下側の川沿いの道に向かって落ちていく。
灯は急ブレーキで車を止め、橋の下を覗き込む。
一瞬の後、バイクは大きな衝撃を受けたものの、なんとか着地し、
そのまま橋の下の道を加速し進んで、視界から消えていった。
遊次のネックレスは未だ走り去った引ったくりの手の中だ。
「…あぁあああ!!!」
灯は喉が千切れるほどの叫びを上げ、ハンドルを叩く。
その悔しさや焦りに呼応するように、
クラクションの音だけが静かな道路に鳴り響いていた。
ドミノタウン とあるアンティークショップ
町の片隅にひっそりと佇むアンティークショップ。
扉の上には「トゥクテム」と書かれている。
店内は落ち着いた照明に照らされ、古びた木製の棚にはさまざまな歴史を刻んだ品々が並んでいる。
ショーケースには、色とりどりの石が埋め込まれたネックレスや指輪が丁寧に配置され、
小さなスポットライトを反射して静かに輝いている。
ベルの音と共に店のドアが開く。
ヘルメットを被り、黒いライダースーツを着た男が店に入ってくる。
「よぉキム。いいモンが手に入ったぜ」
その男はヘルメットを脱ぐと頭を振り、肩まで伸びたブロンドの長い髪をたなびかせる。
背の高い20代前半くらいの男だ。
彼は手に持った赤く輝くネックレスを店主に見せつける。
「…クリス、こっちに来い」
キムと呼ばれた50代ほどの店主は、白と黒の混ざった頭髪で、
浅黒い顔に小さい眼鏡をかけており、彫りの深い皺が刻まれている。
彼は金髪の男をクリスと呼び、店の裏へ誘う。
クリスもニヤリと笑みを浮かべながら彼についていく。
店の裏の狭い部屋。
虫眼鏡やピンセットが雑多に置かれた木のテーブルの前にキムは座る。
「見ろよこれ。俺でもわかる、相当な上物だ。早く鑑定してくれよ」
クリスは遊次から奪った赤いネックレスをテーブルの上に置く。
「…ふぅ。また盗んだのかね」
キムは溜息をつき、呆れたような表情でクリスを見る。
「フッ、この店で逸品を取り扱えてるのはその"盗み"のおかげだろ?」
クリスは臆することなく堂々と返す。
キムはクリスの言葉に反論しない。
クリスの盗品をこの店で売り、キムもその恩恵を受けているのは事実のようだ。
「…とはいっても、君との関係を隠すのは骨が折れるんだ。
引ったくりの噂はもう町中に広まってる。そろそろ限界だ」
キムは表に聞こえないよう声を抑えクリスに忠告する。
「何言ってんだ。そもそも俺の盗みがなきゃ、この店はとっくに潰れてた。
持ちつ持たれつ…Win-Winってヤツだろ?
店は別の町にでも引っ越せばいい。とりあえず、話し合いは鑑定を済ませてからだ」
「…」
キムは諦めたようにクリスが持ち込んだ赤いネックレスに手を伸ばす。
ネックレスの中心には、大きく深遠な紅色の宝玉のような石が鎮座している。
ルビーやトパーズのように光を反射して煌めくわけではない。
しかし、重く深いその深紅はまるで瞳のようにこちらを見つめ、
キムは吸い込まれるような感覚をおぼえた。
実際の値打ちは鑑定してみなければわからないが、
そこらの宝石とは異質であることを直感させた。
「前々から目を付けてたんだ。
大した金も持ってなさそうなヤロウが、やたら目立つモンをつけてやがったからな。
盗んでくださいって言ってるみたいだったぜ」
すっかりネックレスに目を奪われているキムにクリスは自慢げに語る。
「…鑑定には最低でも1時間はかかる。
もし価値があっても、もうさすがにこの町では売れないがね」
1度や2度ならともかく、これ以上盗品をいくつも店に並べていては確実に関係を疑われる。
キムはすでに別の町で店を開くことも考えていたが、ひとまずは鑑定に集中することにした。
「じゃあ俺は裏のガレージを借りるぜ。ちと無茶したからバイクがイカれちまった」
クリスは店の表に停めてあるバイクを取りに向かう。
「…そうか。…いや、いいんだ。自分を責めるな。
こっちでも犯人の行先に目星をつけてみる。灯は引き続き付近を見張っててくれ」
イーサンは灯から状況報告の電話を受けていた。
Next事務所のソファには気を失った遊次が横たわっており、
怜央はその様子を様々な思いを巡らせながら見つめていた。
イーサンは電話を切ると怜央に状況を伝える。
「…犯人に逃げられたらしい。
引き続き周囲を見張っててもらうが、こっちも犯人の居場所に当たりをつけるしかない」
「…そもそも、なんでネックレスが盗まれただけで遊次がこんな有様になるんだよ…!
何かワケがあるんだろうが」
怜央は理解不能な事態への苛立ち混じりにイーサンへ問う。
イーサンは数秒の沈黙後、怜央の表情を見て、説明が必要であることを悟り口を開く。
「あのネックレスは遊次の実の父親…天聖さんから遊次に渡されたものだ。
…コラプス以降にな」
「父親…確かコラプスの1年後とかに死んだっていう…」
遊次とのデュエルで彼自身が語った両親の話を怜央は覚えていた。
「…あぁ。遊次はコラプスより以前の記憶を全て失った。
だが、コラプスの後遺症はそれだけじゃなかった」
「…遊次は、あのネックレスがないと精神崩壊を起こす体になってしまったんだ。
何百っていう記憶が一斉に流れ込んできて、さっきみたいに発狂する。
俺と灯は、同じような状態を何度か見たことがある」
「…! なんで…。意味わかんねえよ、なんでそんなことに…」
怜央はネックレスが奪われた直後の遊次の姿を思い出す。
目は虚ろとなり、ただ苦しそうに叫ぶことしかできなかったその姿を。
だがイーサンの説明では到底納得ができない。ネックレスと精神崩壊に繋がりがないからだ。
「…理由は明確にはわからない。
医者が言うには、あのネックレスはある種の精神安定剤の役割を果たしていて、
それがないと、コラプスのトラウマや、
失っていた記憶が一時的に呼び覚まされるんじゃないかということらしい」
「…まあ、その記憶ではモンスターが自然に暮らしてて、
どう考えても自分の記憶じゃないと遊次は言っているんだが…。
それは夢を見る原理と同じで、自分が体験していない空想も混じってしまうんじゃないかという話だ」
説明は受けたものの、怜央は完全には飲み込めずにはいた。
記憶喪失という稀な状況下に置かれた遊次のことだ、必ずしもないとは言い切れない。
しかし、どうも煮え切らなかった。
「いずれにしても、あのネックレスを早く取り返さなきゃヤバいのは確かだ。
遊次は意識を失ってるが、今も精神にはとんでもない負荷がかかり続けてるはず。
このままじゃ、遊次は…」
イーサンが歯を食いしばる。
怜央も少なくとも今は長話をしている状況でないことは理解した。
「引ったくりを捕まえないことにはどうにもならねえな。だが、どうする?」
「灯が教えてくれた内容から、犯人の行き先を推理するしかない」
「んなこと言ったって、そう簡単じゃねえだろ。どうすんだよ…!」
怜央は焦りから語気を強める。
「協力者が必要だ。怜央はドモンやダニエラに連絡してくれ。
俺も知り合いを当たってみる。1人、こういうのが得意そうな人を知ってる」
イーサンは携帯電話を取り出し、ある男に連絡を取る。
「遊次…!」
イーサンに事務所に呼ばれたその男は、事務所のドアを開けると、
ソファに横たわる遊次に駆け寄る。
「状況は話した通りだ。犯人がどこに行ったかを考えてほしい。
時間はない、なるべく早く頼む…!」
イーサンは焦った様子で男に用件を伝える。
怜央は遊次の側で屈んでいる男に目を向け、訝し気に話しかける。
「探偵…だったよな。確か伊達とかいう」
少し冷たい怜央の声にその男は振り返り、立ち上がりながら返す。
「あぁ、初めて会った時に挨拶して以来だね。
俺は伊達アキト、Nextとは業務提携させてもらってる探偵だ」
彼はドミノタウンで探偵事務所を開いている男だ。
小学生時代の遊次の友人であり、コラプスの前に海外に引っ越すも、
約半年前にドミノタウンに帰り、一人で探偵事務所を開いた経緯を持つ。
とある依頼で再び再開し、Nextとは業務提携を結ぶはこびとなった。
細かな調査が必要なものは彼に依頼し、逆にデュエルが不得意な彼は、
オースデュエルが必要な依頼をNextに流すという形だ。
怜央がNextに加入するにあたって一度挨拶は交わしたものの、
それ以来彼とは深い関わりは持っていなかった。
「探偵っつっても、実態は地味だって言ってたよな。…役に立つのかよ」
怜央は彼の実績を知らないため、未だその実力を疑っている。
しかし実績らしい実績を知らないのはイーサンも同じだった。
推理が必要ということで半ば思い付きで呼び出したが、本当に役に立つかは未知数だった。
「…舐めないでもらいたいな。
俺は自分の推理力やプロファイリングを活かす為に探偵になった。
友人のピンチなんだ、必ず犯人を見つけるよ」
アキトは凛々しい表情で宣言する。
プロファイリング能力に長けているというのはイーサンも知らなかったことだ。
だが彼の言葉が自信に裏打ちされたものであることは確かに感じた。
怜央もそれ以上は彼を疑うことはなかった。
「情報を整理しましょう。花咲さんが最後に犯人の姿を見たのはこの場所ですね」
イーサンからあらかじめ情報を受け取っていたアキトは、
手持ちのタブレットに表示した地図を指差す。
「あぁ。橋の上からバイクで飛び降りて、その道を真っ直ぐ走っていったそうだ」
「なるほど…。では、犯人を見つけられる可能性は残っています。
無茶な飛び降りをしたことでバイクにも相当なダメージが残ったはずですし、
そう遠くまでは行けないでしょう。
犯人が進んだ先には他の町に続く道はありません。
おそらくこのエリア内のどこかにいる可能性が高い」
アキトは瞬時に情報を整理し、犯人が進んだ先の一帯を指で円を描いて囲う。
「今はドモンとダニエラが他の町に続く道を見張ってるが、
まだこの町にいる可能性に賭けるしかねえだろうな」
怜央はすでにドモンとダニエラに連絡し、見張るように指示していた。
「そうですね。最近この町で発生しているひったくり事件は、
犯人は共通してオートバイに乗っており、アンティークのアクセサリーばかり狙っています。
遊次が身に付けてたアクセサリーはどのようなものですか?」
アキトはイーサンに質問すると、イーサンは考える間もなく返答する。
「赤い大きな石がはめ込まれていて、ネックレス自体、相当古い年代のものだ。…おそらくな」
「それならやはり同一犯と考えていいでしょう。
他の事件も全てドミノタウンで起きてることから、犯人はこの町を根城にしている可能性が高い。
バイクの損傷も考えれば、まだこの町にいると思います」
アキトが導き出した推理に2人は頷く。
焦りや不安によって頭を整理できなかったイーサンと怜央にとって、
次々と情報を整理し答えを絞ってゆくアキトは救いの手だった。
アキトが地図に目を凝らしていると、イーサンの電話が鳴る。
「灯からだ」
イーサンは電話に出ると、音声をスピーカーに切り替える。
「近くのバイクショップの人に話を聞いてみたんだけど、多分、例のバイクを見かけたって…!
タイヤがすごく歪んでたから覚えてるって、店員さんが」
灯の高揚したような声を聞き、アキトが携帯に話しかける。
「花咲さん、伊達アキトです。そのバイクショップは修理も請け負っていますか?」
「伊達さん…!はい、請け負ってます。見た感じ、けっこう本格的なところっぽいです」
灯の返答を聞くと、アキトは呟きながら考えを巡らせる。
「バイクが壊れているにも関わらずバイクショップには目もくれなかった…。
やはり可能な限り人目にはつきたくなかったとすると…」
アキトは独り言を呟きながらタブレットを操作する。
2次元的な地図から、実際にその場の画像を360度表示できるモードに切り替えると、
アキトはある特定の建物の周囲を確認する。そして再び電話越しに話しかける。
「花咲さん、向かってもらいたい場所があります。
アンティークショップ『トゥクテム』。
犯人が進んだ道の先のエリアにある店で、盗んだ物を売るために向かった可能性があります」
「トゥクテム…ですね。わかりました」
灯は自分の携帯の地図で場所を確認する。
「犯人はすぐにでもバイクの修理をしたいはずだけど、バイクショップはスルーした。
橋の上からバイクで着地できるなんて並のライダーじゃないし、
個人で修理できる設備を持っているかもしれないと思ったんだ。
そして、そのアンティークショップの裏にはガレージがある」
イーサンと怜央は顔を見合わせる。何かが符合した音が頭の中で聞こえた。
現状の情報から判断できる条件に最も合致するのはその店に違いない。
「灯、気を付けろよ。犯人と出くわすかもしれない」
「うん…わかった」
灯は電話を切ると停めてあった車に乗り込み、アンティークショップへ向かう。
アンティークショップ「トゥクテム」。
ガレージでバイクの修理を終えたクリスは、バックヤードに気分良さそうに帰ってくる。
「フゥー!ようやっと修理が終わったぜ。これでなんとか走れそうだ。
鑑定の方はどうだ?キム」
「その件だが…正確な鑑定にはまだ時間がかかりそうだ」
「あぁ?いつもはそんなにかからないだろ」
とっくに鑑定を終えていると思っていたクリスは不満そうな顔つきに変わる。
「このネックレスはそこらのアンティークとは明らかに異質だ。
おそらく中東の辺りの石だと思われるが…相当古い代物だろう。
数百年前…ヘタすれば数千年前のものやもしれん」
「数千…!?」
思いもしなかった数字にクリスは思わず息を飲む。
「もしかすれば数千万サーク…いや、それ以上の価値があるかもしれない」
「…マジなんだろうな?」
金銭的価値を示すキムの言葉に、クリスの表情はより一層真剣さを増す。
「私も目を疑ったが間違いない。
なぜこんなものがこの町にあるのか想像もつかないがね」
「……」
キムの言葉を受け、クリスはしばらく沈黙する。
そして数秒後、素早く机上のネックレスを奪い、早足でバックヤードを出ようとする。
「あっ…!おい、何をする!」
キムは立ち上がり、動揺した声で背中越しにクリスを引き留める。
クリスが振り返ると、その眼差しはひどく冷めていた。
「もしコイツにそんだけの価値があんなら…アンタじゃ買い取れねえだろ?
じゃあ、アンタはここで用済みだ」
「ふざけるな!誰が今まで匿ってやったと思ってる!」
キムは怒りのままクリスに掴みかかるが、
クリスが腕を振るうとあっさりと弾き飛ばされ、バックヤードにある棚に激突する。
「ぐうっ…。わ、わかっているのか!私を裏切れば警察にお前の情報を差し出すだけだ!」
キムは痛みに耐えながら必死の形相でクリスを引き留めようとする。
「フッ、何言ってんだ?俺とアンタは運命共同体。共犯者なんだよ。
引ったくりの存在を隠蔽して、ましてや盗品を売ってたんだぜ。懲役何年になるかな?」
「ッ…」
クリスは一切物怖じすることなくニヤリと笑い、逆に脅すような言葉を投げかける。
実際、ここでクリスを警察に売ったところで、キムも罪に問われるのは事実だ。
「どうせアンタにこのネックレスを買い取る金はねえんだ、じゃあ何の損もねえよな?
ただ俺への恨みを晴らすためだけに、何年も臭い飯を食う覚悟があんのか?体の弱いアンタに」
キムは病気を患っていた。その身で刑務所に入ることにでもなれば命の危険すらもある状況だ。
「くっ…くそぉっ……!」
キムは拳で床を殴る。
クリスは見下した笑みを浮かべ、店を出ていく。
キムはその背を、悔し涙で滲んだ目で見送ることしかできなかった。
日も沈み、完全なる夜が訪れる。
クリスは店を出てバイクが置かれているガレージへと向かう。
ネックレスをジャケットの内ポケットへしまい、ガレージでバイクに跨りヘルメットを被る。
ふと視線を感じ、クリスは横を向く。
すると、そこには白い髪の女の子が目を見開き、唖然とした顔で自分を見ていた。
灯だ。
数秒目が合った後、お互いがお互いを完全に認識し、それぞれ同時に愛車のエンジンをかける。
車とバイクはほとんど横並びの状態で走る。
「クソッ…なんでこんなとこまで嗅ぎ付けてきやがる…!」
クリスが真っ赤なスポーツカーを横目に奥歯を噛む。
「今すぐネックレスを返して!あのお店に隠れてたことはわかってる!
警察を呼べばあなたはもう終わりなの!」
灯は一瞬の隙すらも作らぬよう常に目を見張りながら、力強くクリスに要求する。
「チッ…ふざけんじゃねえ!
これさえありゃ、ようやく俺はクソみたいな生活から抜け出せるんだ!死んでも渡さねえ!」
クリスはバイクを加速させ逃げようとするが、灯はぴたりと横につけ、決して逃がそうとしない。
「ネックレスさえ返せば通報はしない。早く返して」
灯は運転席から手を伸ばす。
「そんな保証ねえだろ…!」
クリスもこのまま逃げ切ることはほとんど不可能だと内心では考えているものの、諦めがつかない。
だがその反応から、通報しない保証さえあれば応じる可能性はあると灯は踏んだ。
「(ただ警察に通報しても、多分諦めずに限界まで逃げようとするはず。
いつ捕まえられるかもわからないし、ネックレスがすぐ返ってくるとは限らない。
それじゃ遊次の体は保たない…!)」
灯は瞬時に頭を回す。
ネックレスを取り戻し遊次の肉体を安静な状態に戻すことが最優先事項であることを認識する。
「保証なら…ある。貴方次第ではそのネックレスも自分のものにできるかも」
灯は折り畳まれたデュエルディスクを取り出し、クリスに見せつける。
クリスもそれを見て一瞬で灯の意図を理解する。
「オースデュエルか…。それでケリつけてくれるんなら話は早え!
でも、すでに通報してるってこたぁねえよなぁ?」
「誰にも言ってない。それはオースデュエルが成立する前にDDASが私の記憶を覗いて保証する。
貴方がデュエルに勝てば貴方のことを一切口外しない。それならいいでしょ?」
1分1秒が惜しい灯は早く片を付けるために話を急ぐ。
通報しないことを条件としていながらすでに通報済であれば、契約は成立していないことになる。
そのような事態を防ぐため、デュエルディスクに搭載されたAIは記憶を参照し、
条件が成立していることを保証するのだ。
「それと、二度と俺のことは追わねえことも条件に入れてもらおうか!
それならこのネックレスを条件にオースデュエルを受けてやる」
本来は自分の方が絶体絶命の立場であるはずだが、
灯が警察への通報よりもネックレスを取り戻すことを最優先にしている様子を見て、
クリスは自分の方が優位に立っていることを瞬時に理解する。
「…わかった。その条件でいい」
遊次の命が懸かっている以上、最初から敗北は許されない戦いだ。
負けた時の条件が一つ増えようが灯には関係がない。
むしろ交渉を重ねる方が時間の無駄であり遊次を危険に晒すことになる。
「決まりだな!オースデュエルが成立した以上、国際法とやらで物理的な妨害はできねえ。
だったらよ…どうせならこのデュエルを最大限に楽しもうぜ。
ライディングデュエルって知ってるか?」
デュエルが終わるまでは確実に捕まることがないことがわかり、
クリスの態度にも余裕が出てくる。
それどころか、自らの運命が懸かったデュエルを楽しもうとさえしている。
「ライディングデュエル…バイクに乗って戦うデュエルでしょ」
灯も当然その言葉を聞いたことがあった。
ライディングデュエル。バイクと共にモンスターもスピードの中で激闘を繰り広げるデュエルだ。
その迫力と臨場感からスポーツとして高い人気を誇る。
スピードワールドというフィールド魔法が固定されていたり、
スピードスペルという特殊な魔法カードを使うルールもあるが、
現在は通常のルールで戦うものが主流だ。
デュエルによって発生する衝撃はバイクにも影響するため、危険も伴う。
公式ルールでは、もしコースアウト・転倒があった場合、その時点で敗北となるが、
デュエリストも観客も、ライディングデュエルでしか味わえない緊迫感を求めるのだ。
ただしオースデュエルでは、ライディングデュエルのルールが適用されるわけではなく、
コースアウト・転倒が起きてもデュエルは続行となる。
「お嬢ちゃんの場合は車だが、ライディングには変わりねえ。
ただ突っ立ってデュエルするより、風の中でモンスターと戦う方が何倍も気持ちがいい。
1回やりゃあ辞められねえぜ。どうする?」
「…それで構わない。始めましょう」
灯はダッシュボードにある小さなボタンに目を向けた。
そのボタンを押すと、センターコンソールの一部が緩やかに動き始め、
デュエルディスクをセットするためのホルダーが現れる。
どんな車やバイクも
ライディングデュエルを想定してデュエルディスクがセットできるように設計されている。
灯は手元のデュエルディスクをホルダーの溝に合わせてそっと押し込むと、
カチッという音と共にディスクがしっかりと固定され、光を放つ。
クリスも自身のオートバイにデュエルディスクをセットする。
「デュエルモードオン、オートパイロットスタンバイ」
灯の車とクリスのバイクから機械音声が流れる。
交通道路でのライディングデュエル中は基本的に自動運転となる仕組みだ。
ただしデュエル中の衝撃に対してのリカバリーなど、瞬時に対応しなければならない場合は、
自分でハンドルを捌くこともある。
「レーンセレクション、使用可能な最適レーンをサーチ。
デュエルレーン、AUTHORIZATION」
デュエルディスクに内蔵されたAI、「DDAS」が、
ライディングデュエルのためのルートを選定し自動で承認する。
「デュエルが開始されます。デュエルが開始されます。
ルート上の一般車両はただちに退避してください。繰り返します…」
ライディングデュエルの承認とコースの選定が完了し、
一般車両に向けたアナウンスが町中に流れる。
そして道路が高くせり上がり、一定のコースを周回するハイウェイが出来上がる。
灯とクリスはこのコースの中でライディングデュエルを行うこととなる。
一般車両はその下の通常の道路を走ることとなる。
このように世界中の全ての交通道路がライディングデュエル用のハイウェイに変化可能だ。
ライディングデュエルを行うことを目的とする場合、専用のコースに出向くため、
一般道路でライディングデュエルが行われることは少ないが、
今回のように偶発的に発生する可能性もゼロではない。
ドミノタウンでもごく稀にライディングデュエルが行われるため、このことは灯も知っていた。
普段、車で町を走っている時にライディングデュエルが発生した場合は、
灯も迷惑そうにしぶしぶ退避していたのだが、まさか自分がこちら側に回るとは思っていなかった。
「オースデュエルの開始が宣言されました。内容確認中…」
ライディングデュエルの準備が整い、続いてはオースデュエルの承認手順が始まる。
プレイヤー1:花咲灯
条件①クリス・ヒッターが現在所持しているネックレスを花咲灯に譲渡する
プレイヤー2:クリス・ヒッター
条件①クリス・ヒッターに関する一切の口外を禁ずる
条件②クリス・ヒッターの追跡を禁ずる
詳細な契約内容は、ソリッドヴィジョンの契約書として両者の前に浮かび上がる。
そこには一切の別の解釈の余地がないほどに徹底された文章が記載されており、
承認した時点で、完全なる両者の意図通りの契約にしかならないようになっている。
灯とクリスは指でソリッドヴィジョンの契約書にサインを行うと、
DDASがオースデュエルの開始を宣言する。
「契約内容を承認します。
デュエルの敗者は、勝者が提示した契約を履行する事が義務付けられます」
「ライディングデュエル…」
「「アクセラレーション!」」
灯とクリスは声を揃え、ライディングデュエルの始まりを告げる。
先行・後攻はDDASによって自動で決定する。クリスが先行だ。
「俺のターン!ハハハ!始まったな、スピードの中のデュエルが!」
人生を左右するオースデュエルだが、
クリスはそれを忘れたかのように子供さながらの笑顔で手札を見つめている。
自分のデュエルに圧倒的な自信があるからこそ、敗北を想定していないのだろう。
「手札から『リングレット・フーパー』を召喚」
クリスが召喚したのは体長1メートルほどの白い見た目をしたモンスター。
全体は硬い質感を持ち、アンバー色の無機質な瞳をしている。
左腕には小さな星が描かれた輪が3つついており、右腕には大きなリングが1つ付いている。
そのリングの中心には虹色のラインが入っており、輝きながら回転している。
クリスのオートバイの前に前傾姿勢で構え、バイクと同じように風を切っている。
■リングレット・フーパー
効果モンスター
レベル3/光/天使/攻撃力1300 守備力1000
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:同一チェーン上で「フーパー」モンスターの効果の対象となっていない
フィールドのレベルまたは攻撃力が元々の数値であるモンスター1体を対象として、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●1~2までの任意のレベルを宣言する。
ターン終了時まで、そのモンスターのレベルは宣言したレベル分アップし、
このカードのレベルは宣言したレベル分下がる。
●ターン終了時まで、このカードの攻撃力を0にし、
下がった攻撃力分、対象のモンスターの攻撃力を上げる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
この効果を使用したターン、自分は「フーパー」モンスターしか召喚・特殊召喚できない。
②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「フーパー」モンスター1体を手札に加える。
「『リングレット・フーパー』の効果発動。
召喚時、デッキから『フーパー』モンスターを1体、手札に加える。
俺は『バングル・フーパー』を手札に加えるぜ」
「永続魔法『円環の絆(フーパーズ・ギフト)』発動!
こいつは俺のデッキのキーカードだぜ」
■円環の絆(フーパーズ・ギフト)
永続魔法
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
自分の「フーパー」モンスターのレベル・攻撃力を上げる効果は手札からも発動できる。
②:「フーパー」Sモンスターが自分フィールドに存在する限り、
魔法&罠ゾーンのこのカードは相手の効果の対象にならない。
③:自分フィールドに「フーパー」SモンスターがS召喚された場合に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。
「俺の『フーパー』モンスターは、モンスターにレベルか攻撃力を譲渡できる。
この永続魔法があれば、その効果を手札からも発動できる。
早速、手札のレベル3『バングル・フーパー』の効果発動だ。
フィールドのリングレット・フーパーにレベルを2つ譲渡する」
クリスの背後に半透明のモンスターの姿が浮かび上がる。
全身が黄土色に近い金色の無機質な見た目で、
リングレット・フーパーと同様、両腕にリングをつけており、
このモンスターのリングは細い金色の輪だ。
バングル・フーパーが左腕を振るうと装着されている星の描かれたリングが2つ飛び出し、
そのリングはリングレット・フーパーの左腕へと装着される。
これによってリングレット・フーパーのレベルは5へと変わる。
役目を終えると半透明のバングル・フーパーの姿は消える。
「(レベルと攻撃力を譲渡する効果…。
でも、同じモンスターに一斉に譲渡することはできない制約があるから、
複数のモンスターの攻撃力を1体に集約したりはできないってことだね)」
灯はクリスのカードの効果を素早く理解する。
「さらに手札の『ホイール・フーパー』は、『フーパー』モンスターが場にいる時、
手札から特殊召喚できる」
■ホイール・フーパー
効果モンスター/チューナー
レベル1/光/天使/攻撃力500 守備力500
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに「フーパー」モンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
②:このカードがS召喚の素材として墓地に送られた場合に発動できる。
デッキから「フーパー」モンスター1体を特殊召喚する。
現れたのは白と黒のボディをしたチューナーモンスター。
他のモンスターよりも一回り小さいその胸部と両腕には、小さな黒いタイヤが装着されている。
「手札のレベル5『サーペント・フーパー』の効果発動。
1つ~4つまでレベルを譲渡できる。『ホイール・フーパー』にレベルを2つ譲渡する」
クリスの背後には滑らかな緑と白のボディを持つ蛇のようなデザインのモンスターが現れる。
胴体が細長く、体の各部分が連結された節になっており、長い尾を持つ。
蛇の頭を模した両腕には石のリングが装着されている。
そのリングの内2つがホイール・フーパーの左腕に装着され、レベルが2つ上昇する。
リングレット・フーパー ☆5
ホイール・フーパー ☆3
「(チューナーとチューナー以外のモンスターが揃った。合計レベルは8…)」
灯はスポーツカーで前のオートバイを追い、
クリスと共に疾走するフィールドの2体のモンスターを見つめる。
「さあカマそうか!俺はレベル5となった『リングレット・フーパー』に、
レベル3となった『ホイール・フーパー』をチューニング!」
ホイール・フーパーが3つの光の輪となり、その中をリングレット・フーパーがくぐる。
「円環・並び立つ命、ただ無為に与えよ。その力は全て天輪に宿り輝く」
クリスが口上を唱えると、円の中で一本の光が繋がり、その光の中からモンスターが姿を現す。
「シンクロ召喚!来い、レベル8…『オレオール・フーパー』!」
■オレオール・フーパー
シンクロモンスター
レベル8/光/天使/攻撃力2500 守備力2200
チューナー + チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力を0にし、
下がった攻撃力分、このカードの攻撃力を上げる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:フィールドのレベルまたは攻撃力が元々の数値と異なるモンスターが
効果の対象となった時に発動できる。その効果を無効にして破壊する。
③:このカードが墓地に存在する場合、
自分フィールドのレベルまたは攻撃力が
元々の数値と異なるモンスター2体をリリースして発動できる。
墓地のこのカードを特殊召喚する。
走るクリスのオートバイの背後に現れたのは、全長3メートルほどの白いモンスター。
左腕には8つの大きな輪が、右腕には一つの輪が装備されている。
硬質なボディの中心には丸い虹色の核があり、両手の指は金色をしている。
脚部はジェット機のような噴射口となっており、頭には金の大きな輪が浮かんでいる。
灯は後ろからどことなく不気味さを漂わせるシンクロモンスターを見上げる。
「S召喚に成功した時、永続魔法『円環の絆(フーパーズ・ギフト)』の効果発動。
カードを1枚ドローできる」
「さらにチェーンして『ホイール・フーパー』がS素材となった時、効果発動。
デッキから『フーパー』モンスターを特殊召喚できる。来い、『コイルド・フーパー』」
■コイルド・フーパー
効果モンスター
レベル3/光/天使/攻撃力1500 守備力800
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:同一チェーン上で「フーパー」モンスターの効果の対象となっていない
フィールドのレベルまたは攻撃力が元々の数値であるモンスター1体を対象として、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●1~2までの任意のレベルを宣言する。
ターン終了時まで、そのモンスターのレベルは宣言したレベル分アップし、
このカードのレベルは宣言したレベル分下がる。
●ターン終了時まで、このカードの攻撃力を0にし、
下がった攻撃力分、対象のモンスターの攻撃力を上げる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
この効果を使用したターン、自分は「フーパー」モンスターしか召喚・特殊召喚できない。
②:このカードのレベルが元々のレベルと異なる場合に発動できる。
デッキから「フーパー」モンスター1体を特殊召喚し、
そのモンスターとこのカードのみを素材として「フーパー」Sモンスター1体をS召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
そのモンスターは螺旋状にねじれた金属製のボディを持ち、下半身は鉄の球体となっている。
バネのような長い手足に黒いガラスの目。重厚感のある鉄製の腕輪が手首に巻かれている。
「永続魔法の効果で1枚ドロー。さらに手札のバングル・フーパーの効果発動。
このカードともう1枚のカードを手札から捨てて、
デッキから『フーパー』罠カード1枚を手札に加える。
俺は『アーティフィシャル・フーパー』を手札に加える」
灯もクリスが手札に加えたカードの効果を確認する。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「(下級モンスター1体を残してターンエンド…?
…あのモンスターはレベルか攻撃力が変動してると相手ターンでもシンクロ召喚ができるんだ。
それに、オレオール・フーパーは対象を取る効果を1度無効にできる。
突破するためには…)」
灯はクリスのフィールドのコイルド・フーパーの効果を理解し、クリスの動きを予測する。
クリスがS召喚したオレオール・フーパーは灯に対する強い制圧力を持っていない。
しかし相手ターンでのS召喚を可能とする効果を持つコイルド・フーパーによって
更なる切り札を呼び出す可能性を灯は懸念している。
そしてクリスの持つ妨害の手数も踏まえ、どうすべきかを瞬時に判断する。
-----------------------------------------------------------------------------
【クリス】
LP8000 手札:2(サーペント・フーパー)
①オレオール・フーパー ATK2500
②コイルド・フーパー ATK1500
永続魔法:1
伏せカード:1
【灯】
LP8000 手札:5
魔法罠:0
-----------------------------------------------------------------------------
次は灯のターンだ。デッキトップに指をかけると、突然目つきが変わる。
「"俺"の、ターン!」
灯はカードをドローする。
「お、俺!?デュエルじゃずいぶん男前だな…お嬢ちゃん」
「ただの癖だ。気にするな」
灯の口調の変化にクリスは戸惑いを見せるも、灯はさらりと流す。
「ドローフェイズ、フィールドの『コイルド・フーパー』の効果発動!
フィールドの『オレオール・フーパー』に攻撃力を譲渡する。
よって、オレオール・フーパーの攻撃力は1500アップする」
オレオール・フーパー ATK4000
コイルド・フーパーは右腕につけられた大きな輪からエネルギーを放つと、
オレオール・フーパーの攻撃力がアップする。
代わりにコイルド・フーパー自身の攻撃力は0となる。
「オレオール・フーパーは
レベルか攻撃力が変動したモンスターを対象にする効果を1ターンに1度無効にして破壊できる。
つまりコイツに触れることは許されないってことだ」
クリスは疾走するオレオール・フーパーを見上げながら自慢げに言う。
「メインフェイズ。俺は『ペイントメージ・フランボワーズ』を召喚!」
■ペイントメージ・フランボワーズ
効果モンスター
レベル4/炎/魔法使い/攻撃力1800 守備力1200
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「ペイントメージ」モンスター1体を墓地に送る。
②:フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。
デッキから炎属性モンスター1体を除外し、そのモンスターを炎属性に変更する。
灯が召喚したモンスターは、
ラズベリーのような色のサスペンダーのついた服に三角帽子を被った男の子だ。
手には服と同じ色の絵の具のついた筆を持ち、灯の車と並んで浮かんでいる。
「フランボワーズの召喚時、デッキから『ペイントメージ』モンスターを1体墓地に送れる。
デッキから『ペイントメージ・トワール』を墓地に送る」
「ペイントメージ・トワールの効果発動。
自分フィールドにペイントメージがいる時、墓地から特殊召喚できる」
■ペイントメージ・トワール
効果モンスター/チューナー
レベル2/地/魔法使い/攻撃力500 守備力1000
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「ペイントメージ」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのモンスターがフィールドを離れた場合、除外される。
②:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードの攻撃力はフィールド上のモンスターの属性の数×300ポイントアップする。
真っ白のキャンバスに、くりっとした目と赤い頬が絵の具で描かれたモンスターが現れる。
「チューナーモンスター…。お嬢ちゃんもシンクロ使いってわけか。それなら…」
クリスは手札のカードを1枚表にする。
「手札のレベル5『サーペント・フーパー』の効果発動!
アンタのペイントメージ・トワールにレベルを4つ譲渡する」
クリスは永続魔法の効果によって手札からもフーパーの効果を発動できる。
クリスの背後に現れたサーペント・フーパーは左腕についた腕輪を4つ飛ばすと、
ペイントメージ・トワールに装着される。
ペイントメージ・トワール ☆6
「これでアンタのフィールドの合計レベルは10…果たしてそれでシンクロ召喚できるかな?」
クリスはニヤリと笑ってみせる。
クリスのデッキは、レベルを合わせることで切り札を呼び出すS・Xデッキには天敵だ。
「確かにこのままじゃシンクロはできない。でも、そう来ることは読めてる!
魔法カード『ペイントメージ・シャッフル』を発動!
ペイントメージ1体をデッキに戻して、別の属性のペイントメージを特殊召喚する!」
■ペイントメージ・シャッフル
通常魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「ペイントメージ」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターをデッキに戻し、
そのモンスターとは異なる属性の「ペイントメージ」モンスターをデッキから特殊召喚する。
②:このカードが墓地に存在し、墓地の「ペイントメージ」モンスター3体を選んで発動する。
選んだモンスターをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。
この効果はこのカードが墓地に送られたターンには使用できない。
「俺はレベルが変わったペイントメージ・トワールをデッキに戻して、
『ペイントメージ・リラ』を特殊召喚!」
■ペイントメージ・リラ
効果モンスター
レベル4/闇/魔法使い/攻撃力1800 守備力1200
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「ペイントメージ」モンスター1体を手札に加える。
②:フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。
デッキから闇属性モンスター1体を除外し、そのモンスターを闇属性に変更する。
現れたのは薄い紫色をしたストレートヘアの若き女性のモンスター。
魔女のようなローブに身を包み、妖しげな目で前を見据え、
手には服と同じ色の絵の具のついた筆を持っている。
「リラが特殊召喚した時、デッキからペイントメージモンスターを1体手札に加える。
『ペイントメージ・パレット』を手札に加える。
さらにパレットはフィールドにペイントメージがいる時、手札から特殊召喚できる!」
■ペイントメージ・パレット
効果モンスター/チューナー
レベル2/光/魔法使い/攻撃力900 守備力500
このカード名の①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
①:自分フィールドに「ペイントメージ」モンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
②:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードはこのカードと同じ属性のモンスターの効果の対象にならない。
現れたのはパレットの形をしたモンスター。
上部は各色の絵の具を出すために細かく分かれており、
下部は絵の具を混ぜるために大きなゾーンが並んでいる。
上部には赤と青の2つの絵の具が出され目のようになっており、
下部には紫色の線がUの字に引かれているため、まるで顔を模しているようだ。
「ふーん…。S素材になった時、Sモンスターに対象に取られない効果を付与する効果か。
それは厄介だ。じゃあ…こっちもそろそろ本気を出さなきゃな」
クリスは灯が召喚したモンスターの効果を読みながら、右肩を回し、不敵な笑みを浮かべる。
彼の言葉に灯は警戒を強める。
「永続罠発動!『アーティフィシャル・フーパー』!」
■アーティフィシャル・フーパー
永続罠
このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「フーパー」Sモンスター1体と、
それ以外のフィールドの「フーパー」モンスター1体を対象として発動できる。
ターン終了時まで、対象のSモンスターのレベルを任意の数下げ(最小1まで)、
その数値分、もう1体のモンスターのレベルを上げる。
②:自分の墓地の「フーパー」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
③:このカードの発動から2ターン後のエンドフェイズに発動する。
このカードを破壊し、
デッキ・手札から「オブジェクト・フーパー」1枚を自分の魔法&罠ゾーンにセットする。
クリスの背後に現れたのは、妖しくピンク色に光るネオンライトで形どられた天使。
頭には同じくネオンライトの天使の輪がついている。
「この罠カードは1ターンに1度、フーパーSモンスターのレベルを任意の数下げて、
その分のレベルを他のモンスターに移すことができる。
オレオール・フーパーのレベルを6下げて、コイルド・フーパーのレベルを6上げる!」
オレオール・フーパーの左腕の6つの輪が、コイルド・フーパーに向かって飛んでゆき、
その長い胴体に装備される。
オレオール・フーパーの大きな腕に合わせた腕輪であるため、不格好な見た目となっている。
オレオール・フーパー ☆2
コイルド・フーパー ☆9
「コイルド・フーパーの効果発動!
攻撃力・レベルが変動している時、デッキから『フーパー』を1体特殊召喚し、
そのモンスターとS召喚を行う!
デッキからレベル1チューナー、『ドーナツ・フーパー』を特殊召喚し、
コイルド・フーパーとシンクロ召喚!」
フィールドに現れた小さなモンスターは、
茶色い見た目にカラフルなスプリンクルがかけられたお菓子の見た目をしており、
両腕にドーナツをつけている。
そのモンスターは特殊召喚と同時に1つの光の輪となり、その中にコイルド・フーパーが飛び込む。
「与え、与えられ、やがては朽ちる。光と陰重なりし瞳は、ここに星の理をもたらす」
「シンクロ召喚!レベル10、『エクリプス・フーパー』!」
■エクリプス・フーパー
シンクロモンスター
レベル10/光/天使/攻撃力3300 守備力2000
チューナー + チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「フーパー」モンスター1体を特殊召喚する。
②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
レベルまたは攻撃力が元々の数値と異なる相手モンスターが効果を発動した時、
そのモンスターは破壊される。
③:このカードが墓地に存在する場合、
自分フィールドのレベルまたは攻撃力が
元々の数値と異なるモンスター2体をリリースして発動できる。
墓地のこのカードを特殊召喚する。
現れたのは、4メートルほどの白く硬質なボディに、無機質な龍の頭を持つモンスター。
その背には白く光り輝く輪と、黒く輝く輪が交差し、重なり合っている。
その黒い瞳の周りには赤く白い輪が重なっており、それはまるで日食のようだった。
「エクリプス・フーパーがいる限り、
アンタのレベル・攻撃力が変動したモンスターが効果を発動すると、そいつは破壊される。
さあ、耐えられるかな?お嬢ちゃん」
遊次は今も事務所のソファで意識を失ったまま苦しんでいる。
イーサンと怜央、そして伊達は灯からの連絡がないことに焦り、苛立ちを募らせる。
灯も、クリスのことを口外しないことを条件にオースデュエルに臨んでいる以上、
この戦いが終わるまでは、文字通りたった1人で戦うしかない。
早く勝負をつけなければ。灯の中で不安がどんどんと大きくなっていく。
そんな気持ちを嘲笑うかのように、疾走するクリスのオートバイの後ろには、
独特な威圧感を放つ白き巨体が2体並んでいる。
第25話「アクセラレーション!」 完
クリスの2体のシンクロモンスターを突破すべく、灯は想像の上をゆく立ち回りを見せる。
色々な属性を持つシンクロモンスターを連続で呼び出し、
「ペイントメージ」デッキはその真価を発揮する。
しかしクリスの猛攻も止まらない。
円環を意味する「フーパー」デッキもその力を大いに振るうのだった。
次回 第26話「虹色のサーキット」
間もなく夕日が沈む時間帯。
ドミノタウンの一角に佇むなんでも屋Nextの事務所では、珍しく灯が大声を上げていた。
「逆になんでいらないと思うんだ!」
「どう考えてもいらないでしょ!
…アイスクリームメーカーなんて!」
遊次と灯は事務所にアイスクリームメーカーを買うかを言い争っているらしい。
「職場にアイスクリームメーカーを置いてるなんて聞いたことないでしょ!
経費で落とすなんてなおさらダメ」
経理担当の灯は経費でアイスクリームメーカーを購入しようとする遊次に反対しているようだ。
「じゃあただでさえ少ない給料から出せってのか!?そりゃあんまりだぜ!」
「経費もお給料も事務所の売上から出てるのは同じでしょ。
ってことは経費だって多くないの。
依頼の解決に必要なこともあるし、無駄遣いはできません」
「くっ…」
遊次は一切の反論できずに苦虫を噛み潰す。
「おい押されんなよ遊次!お前の言葉に全てが懸かってるんだ。
この真夏を生き抜くためには、それだけが生命線なんだよ!」
怜央はどうやら遊次と同じ立場らしい。
今は8月の下旬。空調設備もさほど良くない事務所には、
冷房をもってしても未だ蒸し暑い空気が漂っていた。
それに耐えきれない遊次達は、外からで無理なら体内から冷やそうと、
今回のアイスクリームメーカー購入を立案したのである。
「それにしてもこれは高いでしょ!
なんでちゃっかりちょっと良いやつを買おうとしてるの!」
灯は携帯の画面に表示した通販のページを見せ、その値段を提示する。
「違うんだ灯。
そんじょそこらのアイスクリームメーカーじゃ、滑らかな口触りにはならないんだ。
更にそいつはシャーベットやフローズンヨーグルトまで作れる代物。
…これは将来への投資なんだよ」
イーサンは事務所の一番奥のデスクに腰掛けながら悠々とした態度で話す。
「なんでイーサンまでそっち側なの…。ふつう、大人は止める立場でしょ!
とにかく、認めません」
この事務所の金庫番は灯だ。経費の全ての権限は彼女にあるため、
3人は灯を説得する以外に道がないのだ。しかし灯は頑なに意見を貫いている。
「よし!じゃあデュエルで決めるってのはどうだ?
俺が勝ったら経費での購入を認めて…」
「ダメ。なんでもデュエルで解決できると思ったら大間違いだからね。
なんのために経理がいると思ってるの。ダメなものはダメです」
遊次の一世一代の提案を、灯はまるで母親のような口調できっぱりと拒否する。
「……はい…」
こうなったら灯は絶対に自分を曲げない。それは遊次が一番知っていた。
灯の頑固さにさすがの遊次も心を折られ、
此度のアイスクリームメーカー導入の件は幕を下ろすのだった。
「この独裁者!」
「あ、ひどい!今すぐ訂正しなさい!」
怜央が吐き捨てた言葉に灯は怒り、彼を追いかけ回す。
そんな様子をイーサンは優しい眼差しで見つめる。
「(怜央もずいぶん打ち解けたな。
もうすぐ2ヶ月か…。時が経つのは早いもんだ…本当に)」
怜央がNextに加入してから、2ヶ月が経とうとしていた。
数々の活動を行っていく中で、怜央は遊次や灯・イーサンとも距離を縮めていった。
彼らのチームと抗争していた時には、まさかこのような日が来るなんて考えもしなかった。
イーサンは良くも悪くも運命は数奇であることを噛み締める。
メインシティでの宣伝活動は定期的に行われ、着実に客足は増えている。
それでもまだ満足のいく収入を得られるまでには至っていなかった。
チームの子供達は2ヶ月前に新居に引っ越してから、変わらずそこで暮らしている。
怜央・ドモン・ダニエラの収入で生活費を賄い、
忙しいながらも今までとは違う道を1歩ずつ進んでいる実感が彼らにはあった。
それでも今のままでは、子供達の未来を作るまでには至らない。
学校に通っていない子もいるため、その子にはまた別の学びの場所が必要だ。
そうでなければ社会に羽ばたいていけない。
ただ現状を維持するだけでは意味がないことは怜央達も理解していた。
しかし、今は階段を一つずつ上がっていくほかない。
ヴェルテクス・デュエリアの予選開始は来年の3月だ。
もし優勝できれば一気に階段を駆け上がることができる。
その可能性も胸に秘めながら、彼らは日々を一生懸命に生きていた。
「さあ、そろそろ帰るぞ」
イーサンは皆に声を掛ける。
灯が時計を見ると、すでに19:00を過ぎていた。
今は夏真っ盛りであるため、まだ日は沈みきらないが、すでに帰る頃合いであることには違いない。
「うん、そうだね。ほら遊次、いつまでも拗ねてないで帰るよ!」
アイスクリームメーカーの件を未だに消化しきれない遊次は、部屋の隅っこで丸くなっていた。
灯は全く気にしない様子で遊次に手を差し伸べ、遊次もしぶしぶその手を取る。
「そういえば、最近この町で引ったくりが多発してるらしい。気をつけろよ」
ふと思い出したようにイーサンが注意を促す。
「俺は盗まれるもんは何も持ってねえ」
怜央は全く気にも留めない様子で、ぶっきらぼうに手ぶらでポケットに手を突っ込んでいる。
「俺はむかし大事なカードを引ったくりに盗まれてるからなあ。もう二度とごめんだぜ」
遊次は当時の記憶を思い出し、悲しげな表情となる。
「あったね、小学生の時。めちゃくちゃ泣いてたよね」
「そりゃそうだろ!
ずっと一緒に戦ってきた仲間だってのに、急にいなくなっちまったら…。
今頃どこにいんのかな…ザエモンの奴」
遊次は盗まれたカードの名前を口にする。
「ザエモン?てか、盗まれたままなのか」
怜央は当然そのことを知らないため聞き返す。
「あぁ、今も返ってきてねえ。
ゴエモンと対を成す儀式モンスターだったんだけどな。
灯にカードを見せてた時、一瞬で盗まれちまって。
盗んだ奴は多分俺と同じぐらいの歳の子供だったと思うけど…。
早業すぎてしばらく盗まれたことに気づかなかった」
遊次はその当時の記憶を手繰り寄せながら語る。
犯人は後ろ姿しか捉えられなかったが、
団子結びの茶色い髪だったことは覚えている。
「へっ、普段デュエルで人のカード盗みまくってるくせに、まさか自分が盗まれるとはな」
「なんだとぉ!俺はルールの上で戦ってるだけだっての!」
怜央の軽口に遊次は抵抗の姿勢を見せる。
「…まあ、いつかまた会えるかもしれない。何があるかわからないしな」
「そうだな。そう願うしかねえ」
イーサンが話を締めると、Nextの4人は事務所を出る。
遊次が扉にかけてあるプレートを「CLOSE」に裏返し、4人は帰路につく。
「引ったくりかー。相変わらず物騒な町だな」
遊次は両腕を後頭部に持ち上げ、この町の現状を嘆く。
後ろからオートバイの走る音が聞こえる。
「俺が言えた義理じゃねえが、年々治安は悪くなってやがる。
コラプスで何もかも失った子供がでかくなって、
悪ィことに手染めるしかねえってパターンは多いだろうな」
怜央は経験則から治安悪化の原因を紐解く。
後ろのオートバイの音はどんどんと大きくなる。
「結局、この町が復興しないことにはどうにも…」
ブチィッ!!
何かが千切れる音が響き渡る。
真っ先に目に入ってきたのは、
遊次がいつも身に着けている赤いネックレスを、黒いオートバイに乗った男が引き千切る姿。
時が止まったようだった。
全員が目を見開き、その姿をただその瞳に捉える。
時は動き出し、バイクは走り去る。
一瞬、何が起きたか理解できなかった。
灯とイーサンは遊次の顔に視線を移す。
瞳孔は開いたままだ。遊次はそのまま一切動かない。
その生気のない表情を見て、2人は我に返る。
「灯ッ!!追いかけろ!絶対に逃がすな!!」
イーサンはありったけの声で叫ぶ。
イーサンが言葉を紡ぎ終わるより前に、すでに灯は動き出していた。
真っ先に事務所裏の駐車場へと走る。
「ぁ…あァ…」
遊次は呻き声を上げる。
「おい遊次…!大丈夫か!」
イーサンが遊次の肩をゆする。その額にはじわりと汗が滲む。
「遊次…?」
怜央も明らかに遊次の様子がおかしいことに気がつく。
「ああぁ……!あぁ…アァァ…!」
遊次は膝をつき、頭を押さえ、苦痛に顔を歪めている。
「おい遊 ....ッど...た!」
「...次!しっ....ろ…!」
2人の声がどんどんと遠のいてゆく。
遊次は頭が割れるような痛みに襲われる。
「グウウォオオァァア゛ア゛!!」
遊次は天に向かって雄叫びをあげる。
苦しみを解放するかのように。
そしてその瞬間、遊次の頭の中に突如、映像が流れ込む。
そこは、どこまでも続くような雄大なる緑の大地。
恐竜や獣が自由に走り回り、空には巨大な鳥や翼を持つ人獣が悠々自適に飛び回っていた。
そして、また別の映像が流れ込む。
そこには、絶え間なく煙を吐き出す巨大な火山がそびえていた。
その山肌には赤く光る溶岩が静かに流れ、時折大きな音を立てて岩が崩れる音が響く。
この厳しい環境の中には、岩石の体を持つ生物や黒い翼を持つ悪魔を思わせる姿も見られた。
空飛ぶ人獣や動く岩石に悪魔…それは明らかにこの地球上の光景ではなかった。
しかし、これらはまるで自らがその身で体験したかのような生々しい感覚だった。
まるで「記憶」のように。
また別の映像が頭に流れ込んでくる。
そこには、剣や槍を携えた戦士や、斧を持つ巨人がいた。
その者達は皆、翼竜や巨大な鳥獣に乗っている。
その数は数千にも及ぶ。
その全ての者達が空を見上げていた。
視線は空に移る。
天には、黒と紫の混ざったような、禍々しく巨大な光が輝いていた。
戦士達はその光に剣を構え、覚悟の面持ちを浮かべている。
禍々しい光はどんどんと大きくなる。こちらに近づいてきているようだ。
それも、恐ろしい速度で。
そして戦士達は翼竜や鳥獣と共に飛び立ち、その光へと向かってゆく。
武器を携え、叫びを上げながら。
「アァ゛ァァア゛アァアア!!」
遊次は目を見開き未だ天に叫び続けている。
流れ込む情報量にその身体が耐えられず、ただ叫ぶことしかできなかった。
流れ込む記憶はさらに別の場所へと移り変わる。
およそ50メートルほど上空から見下ろす町。
その下には、悲鳴・怒声を上げながら逃げ惑う人々。
そこは、見覚えのある場所だった。
見ているのは記憶映像に過ぎないはずだが、体がずっしりと重い感覚がある。疲労感に近い感覚だ。
1歩進む度に地面が割れる。そのたびに人々の悲鳴は大きくなってゆく。
逃げ惑う人々の中に、こちらを見つめるオレンジ色の髪の男が見える。
白衣を着ており髭を生やしている。
人々が逃げ惑う中、複雑な感情が入り混じったかのような目で上を見上げている。
そして、ふとその男の視線が背後…人々が逃げる方向へと向かう。
その先には…オレンジ色の髪をした少年が、押し寄せる人々にぶつかり、転んでいた。
白衣の男はそれを見て、すぐに少年の方へと駆けてゆく。
その瞬間、別の記憶が大量に流れ込んでくる。
しかし、それらの光景を脳に焼き付けられないほど、流れ込む情報量は膨大だった。
「アァア゛ア゛ア…アア゛ア゛ア゛ア゛アア!!!」
ただ割れるような痛みに耐え続けるしかなかった。
思考をする余地もない。周囲の状況も、声も、何も聞こえない。
流れ込む記憶は幾百にも及んだ。
プツン。
そこで記憶は途切れた。
視界がブラックアウトする。
遊次は意識を失った。
その刹那に遊次の視界に映ったのは、おそらく自分を心配しているイーサンと怜央の姿と、
向こうの道路から猛スピードで現れる真っ赤な車。
その運転席からこちらを絶望的な表情で見つめる灯の姿だった。
灯は、悲痛な雄叫びをあげる幼馴染の姿を見送るしかなかった。
本当は傍にいてあげたかった。
それでも、今は数百メートル先にいる"標的"を追うことが最優先だ。
そうしなければ、遊次は…。
灯は幼馴染を苦しめる元凶となった者への憎しみを滾らせ、ハンドルを握る。
鋭い眼光で標的のオートバイを無我夢中で追いかける。
スポーツカーとバイクは狭い路地を進んでゆく。
オートバイに乗った引ったくりは、
猛スピードで自分を追いかけてくるスポーツカーの存在に気付かないはずがなかった。
「チッ…面倒くせぇ…」
ひったくり犯はヘルメットの中で舌打ちしながら呟くと、バイクを加速させる。
灯も見失うまいと追い上げる。
車は狭い路地を進む。両側に古い建物が迫り、道幅は車一台が通るのがやっとだ。
ヘッドライトが路地の壁を照らし、
前方を行くオートバイのテールライトがちらちらと見え隠れする。
灯はアクセルを踏みしめ、短い直線でスピードを上げる。
やがて視界が開け、川沿いの広い路地に出る。
道の向こう側は高い土手で、その下に川が流れている。
オートバイはさらにスピードを上げ、橋を目指して直進する。
「…逃さない」
車は懸命に追いかけるが、橋に差し掛かるとオートバイが突然ハンドルを切る。
「…!」
灯は目の前の男がこれから行おうとしていることに正気を疑わざるを得なかった。
男は橋の側面に向かって急加速をしている。
橋の10メートルほど下には、橋と十字に交差した道路がある。
オートバイはウイリーで前輪を持ち上げながら、橋の柵から向こう側へ飛び上がる。
そのまま重力に引かれながら、下側の川沿いの道に向かって落ちていく。
灯は急ブレーキで車を止め、橋の下を覗き込む。
一瞬の後、バイクは大きな衝撃を受けたものの、なんとか着地し、
そのまま橋の下の道を加速し進んで、視界から消えていった。
遊次のネックレスは未だ走り去った引ったくりの手の中だ。
「…あぁあああ!!!」
灯は喉が千切れるほどの叫びを上げ、ハンドルを叩く。
その悔しさや焦りに呼応するように、
クラクションの音だけが静かな道路に鳴り響いていた。
ドミノタウン とあるアンティークショップ
町の片隅にひっそりと佇むアンティークショップ。
扉の上には「トゥクテム」と書かれている。
店内は落ち着いた照明に照らされ、古びた木製の棚にはさまざまな歴史を刻んだ品々が並んでいる。
ショーケースには、色とりどりの石が埋め込まれたネックレスや指輪が丁寧に配置され、
小さなスポットライトを反射して静かに輝いている。
ベルの音と共に店のドアが開く。
ヘルメットを被り、黒いライダースーツを着た男が店に入ってくる。
「よぉキム。いいモンが手に入ったぜ」
その男はヘルメットを脱ぐと頭を振り、肩まで伸びたブロンドの長い髪をたなびかせる。
背の高い20代前半くらいの男だ。
彼は手に持った赤く輝くネックレスを店主に見せつける。
「…クリス、こっちに来い」
キムと呼ばれた50代ほどの店主は、白と黒の混ざった頭髪で、
浅黒い顔に小さい眼鏡をかけており、彫りの深い皺が刻まれている。
彼は金髪の男をクリスと呼び、店の裏へ誘う。
クリスもニヤリと笑みを浮かべながら彼についていく。
店の裏の狭い部屋。
虫眼鏡やピンセットが雑多に置かれた木のテーブルの前にキムは座る。
「見ろよこれ。俺でもわかる、相当な上物だ。早く鑑定してくれよ」
クリスは遊次から奪った赤いネックレスをテーブルの上に置く。
「…ふぅ。また盗んだのかね」
キムは溜息をつき、呆れたような表情でクリスを見る。
「フッ、この店で逸品を取り扱えてるのはその"盗み"のおかげだろ?」
クリスは臆することなく堂々と返す。
キムはクリスの言葉に反論しない。
クリスの盗品をこの店で売り、キムもその恩恵を受けているのは事実のようだ。
「…とはいっても、君との関係を隠すのは骨が折れるんだ。
引ったくりの噂はもう町中に広まってる。そろそろ限界だ」
キムは表に聞こえないよう声を抑えクリスに忠告する。
「何言ってんだ。そもそも俺の盗みがなきゃ、この店はとっくに潰れてた。
持ちつ持たれつ…Win-Winってヤツだろ?
店は別の町にでも引っ越せばいい。とりあえず、話し合いは鑑定を済ませてからだ」
「…」
キムは諦めたようにクリスが持ち込んだ赤いネックレスに手を伸ばす。
ネックレスの中心には、大きく深遠な紅色の宝玉のような石が鎮座している。
ルビーやトパーズのように光を反射して煌めくわけではない。
しかし、重く深いその深紅はまるで瞳のようにこちらを見つめ、
キムは吸い込まれるような感覚をおぼえた。
実際の値打ちは鑑定してみなければわからないが、
そこらの宝石とは異質であることを直感させた。
「前々から目を付けてたんだ。
大した金も持ってなさそうなヤロウが、やたら目立つモンをつけてやがったからな。
盗んでくださいって言ってるみたいだったぜ」
すっかりネックレスに目を奪われているキムにクリスは自慢げに語る。
「…鑑定には最低でも1時間はかかる。
もし価値があっても、もうさすがにこの町では売れないがね」
1度や2度ならともかく、これ以上盗品をいくつも店に並べていては確実に関係を疑われる。
キムはすでに別の町で店を開くことも考えていたが、ひとまずは鑑定に集中することにした。
「じゃあ俺は裏のガレージを借りるぜ。ちと無茶したからバイクがイカれちまった」
クリスは店の表に停めてあるバイクを取りに向かう。
「…そうか。…いや、いいんだ。自分を責めるな。
こっちでも犯人の行先に目星をつけてみる。灯は引き続き付近を見張っててくれ」
イーサンは灯から状況報告の電話を受けていた。
Next事務所のソファには気を失った遊次が横たわっており、
怜央はその様子を様々な思いを巡らせながら見つめていた。
イーサンは電話を切ると怜央に状況を伝える。
「…犯人に逃げられたらしい。
引き続き周囲を見張っててもらうが、こっちも犯人の居場所に当たりをつけるしかない」
「…そもそも、なんでネックレスが盗まれただけで遊次がこんな有様になるんだよ…!
何かワケがあるんだろうが」
怜央は理解不能な事態への苛立ち混じりにイーサンへ問う。
イーサンは数秒の沈黙後、怜央の表情を見て、説明が必要であることを悟り口を開く。
「あのネックレスは遊次の実の父親…天聖さんから遊次に渡されたものだ。
…コラプス以降にな」
「父親…確かコラプスの1年後とかに死んだっていう…」
遊次とのデュエルで彼自身が語った両親の話を怜央は覚えていた。
「…あぁ。遊次はコラプスより以前の記憶を全て失った。
だが、コラプスの後遺症はそれだけじゃなかった」
「…遊次は、あのネックレスがないと精神崩壊を起こす体になってしまったんだ。
何百っていう記憶が一斉に流れ込んできて、さっきみたいに発狂する。
俺と灯は、同じような状態を何度か見たことがある」
「…! なんで…。意味わかんねえよ、なんでそんなことに…」
怜央はネックレスが奪われた直後の遊次の姿を思い出す。
目は虚ろとなり、ただ苦しそうに叫ぶことしかできなかったその姿を。
だがイーサンの説明では到底納得ができない。ネックレスと精神崩壊に繋がりがないからだ。
「…理由は明確にはわからない。
医者が言うには、あのネックレスはある種の精神安定剤の役割を果たしていて、
それがないと、コラプスのトラウマや、
失っていた記憶が一時的に呼び覚まされるんじゃないかということらしい」
「…まあ、その記憶ではモンスターが自然に暮らしてて、
どう考えても自分の記憶じゃないと遊次は言っているんだが…。
それは夢を見る原理と同じで、自分が体験していない空想も混じってしまうんじゃないかという話だ」
説明は受けたものの、怜央は完全には飲み込めずにはいた。
記憶喪失という稀な状況下に置かれた遊次のことだ、必ずしもないとは言い切れない。
しかし、どうも煮え切らなかった。
「いずれにしても、あのネックレスを早く取り返さなきゃヤバいのは確かだ。
遊次は意識を失ってるが、今も精神にはとんでもない負荷がかかり続けてるはず。
このままじゃ、遊次は…」
イーサンが歯を食いしばる。
怜央も少なくとも今は長話をしている状況でないことは理解した。
「引ったくりを捕まえないことにはどうにもならねえな。だが、どうする?」
「灯が教えてくれた内容から、犯人の行き先を推理するしかない」
「んなこと言ったって、そう簡単じゃねえだろ。どうすんだよ…!」
怜央は焦りから語気を強める。
「協力者が必要だ。怜央はドモンやダニエラに連絡してくれ。
俺も知り合いを当たってみる。1人、こういうのが得意そうな人を知ってる」
イーサンは携帯電話を取り出し、ある男に連絡を取る。
「遊次…!」
イーサンに事務所に呼ばれたその男は、事務所のドアを開けると、
ソファに横たわる遊次に駆け寄る。
「状況は話した通りだ。犯人がどこに行ったかを考えてほしい。
時間はない、なるべく早く頼む…!」
イーサンは焦った様子で男に用件を伝える。
怜央は遊次の側で屈んでいる男に目を向け、訝し気に話しかける。
「探偵…だったよな。確か伊達とかいう」
少し冷たい怜央の声にその男は振り返り、立ち上がりながら返す。
「あぁ、初めて会った時に挨拶して以来だね。
俺は伊達アキト、Nextとは業務提携させてもらってる探偵だ」
彼はドミノタウンで探偵事務所を開いている男だ。
小学生時代の遊次の友人であり、コラプスの前に海外に引っ越すも、
約半年前にドミノタウンに帰り、一人で探偵事務所を開いた経緯を持つ。
とある依頼で再び再開し、Nextとは業務提携を結ぶはこびとなった。
細かな調査が必要なものは彼に依頼し、逆にデュエルが不得意な彼は、
オースデュエルが必要な依頼をNextに流すという形だ。
怜央がNextに加入するにあたって一度挨拶は交わしたものの、
それ以来彼とは深い関わりは持っていなかった。
「探偵っつっても、実態は地味だって言ってたよな。…役に立つのかよ」
怜央は彼の実績を知らないため、未だその実力を疑っている。
しかし実績らしい実績を知らないのはイーサンも同じだった。
推理が必要ということで半ば思い付きで呼び出したが、本当に役に立つかは未知数だった。
「…舐めないでもらいたいな。
俺は自分の推理力やプロファイリングを活かす為に探偵になった。
友人のピンチなんだ、必ず犯人を見つけるよ」
アキトは凛々しい表情で宣言する。
プロファイリング能力に長けているというのはイーサンも知らなかったことだ。
だが彼の言葉が自信に裏打ちされたものであることは確かに感じた。
怜央もそれ以上は彼を疑うことはなかった。
「情報を整理しましょう。花咲さんが最後に犯人の姿を見たのはこの場所ですね」
イーサンからあらかじめ情報を受け取っていたアキトは、
手持ちのタブレットに表示した地図を指差す。
「あぁ。橋の上からバイクで飛び降りて、その道を真っ直ぐ走っていったそうだ」
「なるほど…。では、犯人を見つけられる可能性は残っています。
無茶な飛び降りをしたことでバイクにも相当なダメージが残ったはずですし、
そう遠くまでは行けないでしょう。
犯人が進んだ先には他の町に続く道はありません。
おそらくこのエリア内のどこかにいる可能性が高い」
アキトは瞬時に情報を整理し、犯人が進んだ先の一帯を指で円を描いて囲う。
「今はドモンとダニエラが他の町に続く道を見張ってるが、
まだこの町にいる可能性に賭けるしかねえだろうな」
怜央はすでにドモンとダニエラに連絡し、見張るように指示していた。
「そうですね。最近この町で発生しているひったくり事件は、
犯人は共通してオートバイに乗っており、アンティークのアクセサリーばかり狙っています。
遊次が身に付けてたアクセサリーはどのようなものですか?」
アキトはイーサンに質問すると、イーサンは考える間もなく返答する。
「赤い大きな石がはめ込まれていて、ネックレス自体、相当古い年代のものだ。…おそらくな」
「それならやはり同一犯と考えていいでしょう。
他の事件も全てドミノタウンで起きてることから、犯人はこの町を根城にしている可能性が高い。
バイクの損傷も考えれば、まだこの町にいると思います」
アキトが導き出した推理に2人は頷く。
焦りや不安によって頭を整理できなかったイーサンと怜央にとって、
次々と情報を整理し答えを絞ってゆくアキトは救いの手だった。
アキトが地図に目を凝らしていると、イーサンの電話が鳴る。
「灯からだ」
イーサンは電話に出ると、音声をスピーカーに切り替える。
「近くのバイクショップの人に話を聞いてみたんだけど、多分、例のバイクを見かけたって…!
タイヤがすごく歪んでたから覚えてるって、店員さんが」
灯の高揚したような声を聞き、アキトが携帯に話しかける。
「花咲さん、伊達アキトです。そのバイクショップは修理も請け負っていますか?」
「伊達さん…!はい、請け負ってます。見た感じ、けっこう本格的なところっぽいです」
灯の返答を聞くと、アキトは呟きながら考えを巡らせる。
「バイクが壊れているにも関わらずバイクショップには目もくれなかった…。
やはり可能な限り人目にはつきたくなかったとすると…」
アキトは独り言を呟きながらタブレットを操作する。
2次元的な地図から、実際にその場の画像を360度表示できるモードに切り替えると、
アキトはある特定の建物の周囲を確認する。そして再び電話越しに話しかける。
「花咲さん、向かってもらいたい場所があります。
アンティークショップ『トゥクテム』。
犯人が進んだ道の先のエリアにある店で、盗んだ物を売るために向かった可能性があります」
「トゥクテム…ですね。わかりました」
灯は自分の携帯の地図で場所を確認する。
「犯人はすぐにでもバイクの修理をしたいはずだけど、バイクショップはスルーした。
橋の上からバイクで着地できるなんて並のライダーじゃないし、
個人で修理できる設備を持っているかもしれないと思ったんだ。
そして、そのアンティークショップの裏にはガレージがある」
イーサンと怜央は顔を見合わせる。何かが符合した音が頭の中で聞こえた。
現状の情報から判断できる条件に最も合致するのはその店に違いない。
「灯、気を付けろよ。犯人と出くわすかもしれない」
「うん…わかった」
灯は電話を切ると停めてあった車に乗り込み、アンティークショップへ向かう。
アンティークショップ「トゥクテム」。
ガレージでバイクの修理を終えたクリスは、バックヤードに気分良さそうに帰ってくる。
「フゥー!ようやっと修理が終わったぜ。これでなんとか走れそうだ。
鑑定の方はどうだ?キム」
「その件だが…正確な鑑定にはまだ時間がかかりそうだ」
「あぁ?いつもはそんなにかからないだろ」
とっくに鑑定を終えていると思っていたクリスは不満そうな顔つきに変わる。
「このネックレスはそこらのアンティークとは明らかに異質だ。
おそらく中東の辺りの石だと思われるが…相当古い代物だろう。
数百年前…ヘタすれば数千年前のものやもしれん」
「数千…!?」
思いもしなかった数字にクリスは思わず息を飲む。
「もしかすれば数千万サーク…いや、それ以上の価値があるかもしれない」
「…マジなんだろうな?」
金銭的価値を示すキムの言葉に、クリスの表情はより一層真剣さを増す。
「私も目を疑ったが間違いない。
なぜこんなものがこの町にあるのか想像もつかないがね」
「……」
キムの言葉を受け、クリスはしばらく沈黙する。
そして数秒後、素早く机上のネックレスを奪い、早足でバックヤードを出ようとする。
「あっ…!おい、何をする!」
キムは立ち上がり、動揺した声で背中越しにクリスを引き留める。
クリスが振り返ると、その眼差しはひどく冷めていた。
「もしコイツにそんだけの価値があんなら…アンタじゃ買い取れねえだろ?
じゃあ、アンタはここで用済みだ」
「ふざけるな!誰が今まで匿ってやったと思ってる!」
キムは怒りのままクリスに掴みかかるが、
クリスが腕を振るうとあっさりと弾き飛ばされ、バックヤードにある棚に激突する。
「ぐうっ…。わ、わかっているのか!私を裏切れば警察にお前の情報を差し出すだけだ!」
キムは痛みに耐えながら必死の形相でクリスを引き留めようとする。
「フッ、何言ってんだ?俺とアンタは運命共同体。共犯者なんだよ。
引ったくりの存在を隠蔽して、ましてや盗品を売ってたんだぜ。懲役何年になるかな?」
「ッ…」
クリスは一切物怖じすることなくニヤリと笑い、逆に脅すような言葉を投げかける。
実際、ここでクリスを警察に売ったところで、キムも罪に問われるのは事実だ。
「どうせアンタにこのネックレスを買い取る金はねえんだ、じゃあ何の損もねえよな?
ただ俺への恨みを晴らすためだけに、何年も臭い飯を食う覚悟があんのか?体の弱いアンタに」
キムは病気を患っていた。その身で刑務所に入ることにでもなれば命の危険すらもある状況だ。
「くっ…くそぉっ……!」
キムは拳で床を殴る。
クリスは見下した笑みを浮かべ、店を出ていく。
キムはその背を、悔し涙で滲んだ目で見送ることしかできなかった。
日も沈み、完全なる夜が訪れる。
クリスは店を出てバイクが置かれているガレージへと向かう。
ネックレスをジャケットの内ポケットへしまい、ガレージでバイクに跨りヘルメットを被る。
ふと視線を感じ、クリスは横を向く。
すると、そこには白い髪の女の子が目を見開き、唖然とした顔で自分を見ていた。
灯だ。
数秒目が合った後、お互いがお互いを完全に認識し、それぞれ同時に愛車のエンジンをかける。
車とバイクはほとんど横並びの状態で走る。
「クソッ…なんでこんなとこまで嗅ぎ付けてきやがる…!」
クリスが真っ赤なスポーツカーを横目に奥歯を噛む。
「今すぐネックレスを返して!あのお店に隠れてたことはわかってる!
警察を呼べばあなたはもう終わりなの!」
灯は一瞬の隙すらも作らぬよう常に目を見張りながら、力強くクリスに要求する。
「チッ…ふざけんじゃねえ!
これさえありゃ、ようやく俺はクソみたいな生活から抜け出せるんだ!死んでも渡さねえ!」
クリスはバイクを加速させ逃げようとするが、灯はぴたりと横につけ、決して逃がそうとしない。
「ネックレスさえ返せば通報はしない。早く返して」
灯は運転席から手を伸ばす。
「そんな保証ねえだろ…!」
クリスもこのまま逃げ切ることはほとんど不可能だと内心では考えているものの、諦めがつかない。
だがその反応から、通報しない保証さえあれば応じる可能性はあると灯は踏んだ。
「(ただ警察に通報しても、多分諦めずに限界まで逃げようとするはず。
いつ捕まえられるかもわからないし、ネックレスがすぐ返ってくるとは限らない。
それじゃ遊次の体は保たない…!)」
灯は瞬時に頭を回す。
ネックレスを取り戻し遊次の肉体を安静な状態に戻すことが最優先事項であることを認識する。
「保証なら…ある。貴方次第ではそのネックレスも自分のものにできるかも」
灯は折り畳まれたデュエルディスクを取り出し、クリスに見せつける。
クリスもそれを見て一瞬で灯の意図を理解する。
「オースデュエルか…。それでケリつけてくれるんなら話は早え!
でも、すでに通報してるってこたぁねえよなぁ?」
「誰にも言ってない。それはオースデュエルが成立する前にDDASが私の記憶を覗いて保証する。
貴方がデュエルに勝てば貴方のことを一切口外しない。それならいいでしょ?」
1分1秒が惜しい灯は早く片を付けるために話を急ぐ。
通報しないことを条件としていながらすでに通報済であれば、契約は成立していないことになる。
そのような事態を防ぐため、デュエルディスクに搭載されたAIは記憶を参照し、
条件が成立していることを保証するのだ。
「それと、二度と俺のことは追わねえことも条件に入れてもらおうか!
それならこのネックレスを条件にオースデュエルを受けてやる」
本来は自分の方が絶体絶命の立場であるはずだが、
灯が警察への通報よりもネックレスを取り戻すことを最優先にしている様子を見て、
クリスは自分の方が優位に立っていることを瞬時に理解する。
「…わかった。その条件でいい」
遊次の命が懸かっている以上、最初から敗北は許されない戦いだ。
負けた時の条件が一つ増えようが灯には関係がない。
むしろ交渉を重ねる方が時間の無駄であり遊次を危険に晒すことになる。
「決まりだな!オースデュエルが成立した以上、国際法とやらで物理的な妨害はできねえ。
だったらよ…どうせならこのデュエルを最大限に楽しもうぜ。
ライディングデュエルって知ってるか?」
デュエルが終わるまでは確実に捕まることがないことがわかり、
クリスの態度にも余裕が出てくる。
それどころか、自らの運命が懸かったデュエルを楽しもうとさえしている。
「ライディングデュエル…バイクに乗って戦うデュエルでしょ」
灯も当然その言葉を聞いたことがあった。
ライディングデュエル。バイクと共にモンスターもスピードの中で激闘を繰り広げるデュエルだ。
その迫力と臨場感からスポーツとして高い人気を誇る。
スピードワールドというフィールド魔法が固定されていたり、
スピードスペルという特殊な魔法カードを使うルールもあるが、
現在は通常のルールで戦うものが主流だ。
デュエルによって発生する衝撃はバイクにも影響するため、危険も伴う。
公式ルールでは、もしコースアウト・転倒があった場合、その時点で敗北となるが、
デュエリストも観客も、ライディングデュエルでしか味わえない緊迫感を求めるのだ。
ただしオースデュエルでは、ライディングデュエルのルールが適用されるわけではなく、
コースアウト・転倒が起きてもデュエルは続行となる。
「お嬢ちゃんの場合は車だが、ライディングには変わりねえ。
ただ突っ立ってデュエルするより、風の中でモンスターと戦う方が何倍も気持ちがいい。
1回やりゃあ辞められねえぜ。どうする?」
「…それで構わない。始めましょう」
灯はダッシュボードにある小さなボタンに目を向けた。
そのボタンを押すと、センターコンソールの一部が緩やかに動き始め、
デュエルディスクをセットするためのホルダーが現れる。
どんな車やバイクも
ライディングデュエルを想定してデュエルディスクがセットできるように設計されている。
灯は手元のデュエルディスクをホルダーの溝に合わせてそっと押し込むと、
カチッという音と共にディスクがしっかりと固定され、光を放つ。
クリスも自身のオートバイにデュエルディスクをセットする。
「デュエルモードオン、オートパイロットスタンバイ」
灯の車とクリスのバイクから機械音声が流れる。
交通道路でのライディングデュエル中は基本的に自動運転となる仕組みだ。
ただしデュエル中の衝撃に対してのリカバリーなど、瞬時に対応しなければならない場合は、
自分でハンドルを捌くこともある。
「レーンセレクション、使用可能な最適レーンをサーチ。
デュエルレーン、AUTHORIZATION」
デュエルディスクに内蔵されたAI、「DDAS」が、
ライディングデュエルのためのルートを選定し自動で承認する。
「デュエルが開始されます。デュエルが開始されます。
ルート上の一般車両はただちに退避してください。繰り返します…」
ライディングデュエルの承認とコースの選定が完了し、
一般車両に向けたアナウンスが町中に流れる。
そして道路が高くせり上がり、一定のコースを周回するハイウェイが出来上がる。
灯とクリスはこのコースの中でライディングデュエルを行うこととなる。
一般車両はその下の通常の道路を走ることとなる。
このように世界中の全ての交通道路がライディングデュエル用のハイウェイに変化可能だ。
ライディングデュエルを行うことを目的とする場合、専用のコースに出向くため、
一般道路でライディングデュエルが行われることは少ないが、
今回のように偶発的に発生する可能性もゼロではない。
ドミノタウンでもごく稀にライディングデュエルが行われるため、このことは灯も知っていた。
普段、車で町を走っている時にライディングデュエルが発生した場合は、
灯も迷惑そうにしぶしぶ退避していたのだが、まさか自分がこちら側に回るとは思っていなかった。
「オースデュエルの開始が宣言されました。内容確認中…」
ライディングデュエルの準備が整い、続いてはオースデュエルの承認手順が始まる。
プレイヤー1:花咲灯
条件①クリス・ヒッターが現在所持しているネックレスを花咲灯に譲渡する
プレイヤー2:クリス・ヒッター
条件①クリス・ヒッターに関する一切の口外を禁ずる
条件②クリス・ヒッターの追跡を禁ずる
詳細な契約内容は、ソリッドヴィジョンの契約書として両者の前に浮かび上がる。
そこには一切の別の解釈の余地がないほどに徹底された文章が記載されており、
承認した時点で、完全なる両者の意図通りの契約にしかならないようになっている。
灯とクリスは指でソリッドヴィジョンの契約書にサインを行うと、
DDASがオースデュエルの開始を宣言する。
「契約内容を承認します。
デュエルの敗者は、勝者が提示した契約を履行する事が義務付けられます」
「ライディングデュエル…」
「「アクセラレーション!」」
灯とクリスは声を揃え、ライディングデュエルの始まりを告げる。
先行・後攻はDDASによって自動で決定する。クリスが先行だ。
「俺のターン!ハハハ!始まったな、スピードの中のデュエルが!」
人生を左右するオースデュエルだが、
クリスはそれを忘れたかのように子供さながらの笑顔で手札を見つめている。
自分のデュエルに圧倒的な自信があるからこそ、敗北を想定していないのだろう。
「手札から『リングレット・フーパー』を召喚」
クリスが召喚したのは体長1メートルほどの白い見た目をしたモンスター。
全体は硬い質感を持ち、アンバー色の無機質な瞳をしている。
左腕には小さな星が描かれた輪が3つついており、右腕には大きなリングが1つ付いている。
そのリングの中心には虹色のラインが入っており、輝きながら回転している。
クリスのオートバイの前に前傾姿勢で構え、バイクと同じように風を切っている。
■リングレット・フーパー
効果モンスター
レベル3/光/天使/攻撃力1300 守備力1000
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:同一チェーン上で「フーパー」モンスターの効果の対象となっていない
フィールドのレベルまたは攻撃力が元々の数値であるモンスター1体を対象として、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●1~2までの任意のレベルを宣言する。
ターン終了時まで、そのモンスターのレベルは宣言したレベル分アップし、
このカードのレベルは宣言したレベル分下がる。
●ターン終了時まで、このカードの攻撃力を0にし、
下がった攻撃力分、対象のモンスターの攻撃力を上げる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
この効果を使用したターン、自分は「フーパー」モンスターしか召喚・特殊召喚できない。
②:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「フーパー」モンスター1体を手札に加える。
「『リングレット・フーパー』の効果発動。
召喚時、デッキから『フーパー』モンスターを1体、手札に加える。
俺は『バングル・フーパー』を手札に加えるぜ」
「永続魔法『円環の絆(フーパーズ・ギフト)』発動!
こいつは俺のデッキのキーカードだぜ」
■円環の絆(フーパーズ・ギフト)
永続魔法
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、
自分の「フーパー」モンスターのレベル・攻撃力を上げる効果は手札からも発動できる。
②:「フーパー」Sモンスターが自分フィールドに存在する限り、
魔法&罠ゾーンのこのカードは相手の効果の対象にならない。
③:自分フィールドに「フーパー」SモンスターがS召喚された場合に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。
「俺の『フーパー』モンスターは、モンスターにレベルか攻撃力を譲渡できる。
この永続魔法があれば、その効果を手札からも発動できる。
早速、手札のレベル3『バングル・フーパー』の効果発動だ。
フィールドのリングレット・フーパーにレベルを2つ譲渡する」
クリスの背後に半透明のモンスターの姿が浮かび上がる。
全身が黄土色に近い金色の無機質な見た目で、
リングレット・フーパーと同様、両腕にリングをつけており、
このモンスターのリングは細い金色の輪だ。
バングル・フーパーが左腕を振るうと装着されている星の描かれたリングが2つ飛び出し、
そのリングはリングレット・フーパーの左腕へと装着される。
これによってリングレット・フーパーのレベルは5へと変わる。
役目を終えると半透明のバングル・フーパーの姿は消える。
「(レベルと攻撃力を譲渡する効果…。
でも、同じモンスターに一斉に譲渡することはできない制約があるから、
複数のモンスターの攻撃力を1体に集約したりはできないってことだね)」
灯はクリスのカードの効果を素早く理解する。
「さらに手札の『ホイール・フーパー』は、『フーパー』モンスターが場にいる時、
手札から特殊召喚できる」
■ホイール・フーパー
効果モンスター/チューナー
レベル1/光/天使/攻撃力500 守備力500
このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドに「フーパー」モンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
②:このカードがS召喚の素材として墓地に送られた場合に発動できる。
デッキから「フーパー」モンスター1体を特殊召喚する。
現れたのは白と黒のボディをしたチューナーモンスター。
他のモンスターよりも一回り小さいその胸部と両腕には、小さな黒いタイヤが装着されている。
「手札のレベル5『サーペント・フーパー』の効果発動。
1つ~4つまでレベルを譲渡できる。『ホイール・フーパー』にレベルを2つ譲渡する」
クリスの背後には滑らかな緑と白のボディを持つ蛇のようなデザインのモンスターが現れる。
胴体が細長く、体の各部分が連結された節になっており、長い尾を持つ。
蛇の頭を模した両腕には石のリングが装着されている。
そのリングの内2つがホイール・フーパーの左腕に装着され、レベルが2つ上昇する。
リングレット・フーパー ☆5
ホイール・フーパー ☆3
「(チューナーとチューナー以外のモンスターが揃った。合計レベルは8…)」
灯はスポーツカーで前のオートバイを追い、
クリスと共に疾走するフィールドの2体のモンスターを見つめる。
「さあカマそうか!俺はレベル5となった『リングレット・フーパー』に、
レベル3となった『ホイール・フーパー』をチューニング!」
ホイール・フーパーが3つの光の輪となり、その中をリングレット・フーパーがくぐる。
「円環・並び立つ命、ただ無為に与えよ。その力は全て天輪に宿り輝く」
クリスが口上を唱えると、円の中で一本の光が繋がり、その光の中からモンスターが姿を現す。
「シンクロ召喚!来い、レベル8…『オレオール・フーパー』!」
■オレオール・フーパー
シンクロモンスター
レベル8/光/天使/攻撃力2500 守備力2200
チューナー + チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力を0にし、
下がった攻撃力分、このカードの攻撃力を上げる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
②:フィールドのレベルまたは攻撃力が元々の数値と異なるモンスターが
効果の対象となった時に発動できる。その効果を無効にして破壊する。
③:このカードが墓地に存在する場合、
自分フィールドのレベルまたは攻撃力が
元々の数値と異なるモンスター2体をリリースして発動できる。
墓地のこのカードを特殊召喚する。
走るクリスのオートバイの背後に現れたのは、全長3メートルほどの白いモンスター。
左腕には8つの大きな輪が、右腕には一つの輪が装備されている。
硬質なボディの中心には丸い虹色の核があり、両手の指は金色をしている。
脚部はジェット機のような噴射口となっており、頭には金の大きな輪が浮かんでいる。
灯は後ろからどことなく不気味さを漂わせるシンクロモンスターを見上げる。
「S召喚に成功した時、永続魔法『円環の絆(フーパーズ・ギフト)』の効果発動。
カードを1枚ドローできる」
「さらにチェーンして『ホイール・フーパー』がS素材となった時、効果発動。
デッキから『フーパー』モンスターを特殊召喚できる。来い、『コイルド・フーパー』」
■コイルド・フーパー
効果モンスター
レベル3/光/天使/攻撃力1500 守備力800
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:同一チェーン上で「フーパー」モンスターの効果の対象となっていない
フィールドのレベルまたは攻撃力が元々の数値であるモンスター1体を対象として、
以下の効果から1つを選択して発動できる。
●1~2までの任意のレベルを宣言する。
ターン終了時まで、そのモンスターのレベルは宣言したレベル分アップし、
このカードのレベルは宣言したレベル分下がる。
●ターン終了時まで、このカードの攻撃力を0にし、
下がった攻撃力分、対象のモンスターの攻撃力を上げる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
この効果を使用したターン、自分は「フーパー」モンスターしか召喚・特殊召喚できない。
②:このカードのレベルが元々のレベルと異なる場合に発動できる。
デッキから「フーパー」モンスター1体を特殊召喚し、
そのモンスターとこのカードのみを素材として「フーパー」Sモンスター1体をS召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
そのモンスターは螺旋状にねじれた金属製のボディを持ち、下半身は鉄の球体となっている。
バネのような長い手足に黒いガラスの目。重厚感のある鉄製の腕輪が手首に巻かれている。
「永続魔法の効果で1枚ドロー。さらに手札のバングル・フーパーの効果発動。
このカードともう1枚のカードを手札から捨てて、
デッキから『フーパー』罠カード1枚を手札に加える。
俺は『アーティフィシャル・フーパー』を手札に加える」
灯もクリスが手札に加えたカードの効果を確認する。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「(下級モンスター1体を残してターンエンド…?
…あのモンスターはレベルか攻撃力が変動してると相手ターンでもシンクロ召喚ができるんだ。
それに、オレオール・フーパーは対象を取る効果を1度無効にできる。
突破するためには…)」
灯はクリスのフィールドのコイルド・フーパーの効果を理解し、クリスの動きを予測する。
クリスがS召喚したオレオール・フーパーは灯に対する強い制圧力を持っていない。
しかし相手ターンでのS召喚を可能とする効果を持つコイルド・フーパーによって
更なる切り札を呼び出す可能性を灯は懸念している。
そしてクリスの持つ妨害の手数も踏まえ、どうすべきかを瞬時に判断する。
-----------------------------------------------------------------------------
【クリス】
LP8000 手札:2(サーペント・フーパー)
①オレオール・フーパー ATK2500
②コイルド・フーパー ATK1500
永続魔法:1
伏せカード:1
【灯】
LP8000 手札:5
魔法罠:0
-----------------------------------------------------------------------------
次は灯のターンだ。デッキトップに指をかけると、突然目つきが変わる。
「"俺"の、ターン!」
灯はカードをドローする。
「お、俺!?デュエルじゃずいぶん男前だな…お嬢ちゃん」
「ただの癖だ。気にするな」
灯の口調の変化にクリスは戸惑いを見せるも、灯はさらりと流す。
「ドローフェイズ、フィールドの『コイルド・フーパー』の効果発動!
フィールドの『オレオール・フーパー』に攻撃力を譲渡する。
よって、オレオール・フーパーの攻撃力は1500アップする」
オレオール・フーパー ATK4000
コイルド・フーパーは右腕につけられた大きな輪からエネルギーを放つと、
オレオール・フーパーの攻撃力がアップする。
代わりにコイルド・フーパー自身の攻撃力は0となる。
「オレオール・フーパーは
レベルか攻撃力が変動したモンスターを対象にする効果を1ターンに1度無効にして破壊できる。
つまりコイツに触れることは許されないってことだ」
クリスは疾走するオレオール・フーパーを見上げながら自慢げに言う。
「メインフェイズ。俺は『ペイントメージ・フランボワーズ』を召喚!」
■ペイントメージ・フランボワーズ
効果モンスター
レベル4/炎/魔法使い/攻撃力1800 守備力1200
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「ペイントメージ」モンスター1体を墓地に送る。
②:フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。
デッキから炎属性モンスター1体を除外し、そのモンスターを炎属性に変更する。
灯が召喚したモンスターは、
ラズベリーのような色のサスペンダーのついた服に三角帽子を被った男の子だ。
手には服と同じ色の絵の具のついた筆を持ち、灯の車と並んで浮かんでいる。
「フランボワーズの召喚時、デッキから『ペイントメージ』モンスターを1体墓地に送れる。
デッキから『ペイントメージ・トワール』を墓地に送る」
「ペイントメージ・トワールの効果発動。
自分フィールドにペイントメージがいる時、墓地から特殊召喚できる」
■ペイントメージ・トワール
効果モンスター/チューナー
レベル2/地/魔法使い/攻撃力500 守備力1000
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「ペイントメージ」モンスターが存在する場合に発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したこのモンスターがフィールドを離れた場合、除外される。
②:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードの攻撃力はフィールド上のモンスターの属性の数×300ポイントアップする。
真っ白のキャンバスに、くりっとした目と赤い頬が絵の具で描かれたモンスターが現れる。
「チューナーモンスター…。お嬢ちゃんもシンクロ使いってわけか。それなら…」
クリスは手札のカードを1枚表にする。
「手札のレベル5『サーペント・フーパー』の効果発動!
アンタのペイントメージ・トワールにレベルを4つ譲渡する」
クリスは永続魔法の効果によって手札からもフーパーの効果を発動できる。
クリスの背後に現れたサーペント・フーパーは左腕についた腕輪を4つ飛ばすと、
ペイントメージ・トワールに装着される。
ペイントメージ・トワール ☆6
「これでアンタのフィールドの合計レベルは10…果たしてそれでシンクロ召喚できるかな?」
クリスはニヤリと笑ってみせる。
クリスのデッキは、レベルを合わせることで切り札を呼び出すS・Xデッキには天敵だ。
「確かにこのままじゃシンクロはできない。でも、そう来ることは読めてる!
魔法カード『ペイントメージ・シャッフル』を発動!
ペイントメージ1体をデッキに戻して、別の属性のペイントメージを特殊召喚する!」
■ペイントメージ・シャッフル
通常魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「ペイントメージ」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターをデッキに戻し、
そのモンスターとは異なる属性の「ペイントメージ」モンスターをデッキから特殊召喚する。
②:このカードが墓地に存在し、墓地の「ペイントメージ」モンスター3体を選んで発動する。
選んだモンスターをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。
この効果はこのカードが墓地に送られたターンには使用できない。
「俺はレベルが変わったペイントメージ・トワールをデッキに戻して、
『ペイントメージ・リラ』を特殊召喚!」
■ペイントメージ・リラ
効果モンスター
レベル4/闇/魔法使い/攻撃力1800 守備力1200
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「ペイントメージ」モンスター1体を手札に加える。
②:フィールド上のモンスター1体を対象として発動できる。
デッキから闇属性モンスター1体を除外し、そのモンスターを闇属性に変更する。
現れたのは薄い紫色をしたストレートヘアの若き女性のモンスター。
魔女のようなローブに身を包み、妖しげな目で前を見据え、
手には服と同じ色の絵の具のついた筆を持っている。
「リラが特殊召喚した時、デッキからペイントメージモンスターを1体手札に加える。
『ペイントメージ・パレット』を手札に加える。
さらにパレットはフィールドにペイントメージがいる時、手札から特殊召喚できる!」
■ペイントメージ・パレット
効果モンスター/チューナー
レベル2/光/魔法使い/攻撃力900 守備力500
このカード名の①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
①:自分フィールドに「ペイントメージ」モンスターが存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。
②:このカードをS素材としたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードはこのカードと同じ属性のモンスターの効果の対象にならない。
現れたのはパレットの形をしたモンスター。
上部は各色の絵の具を出すために細かく分かれており、
下部は絵の具を混ぜるために大きなゾーンが並んでいる。
上部には赤と青の2つの絵の具が出され目のようになっており、
下部には紫色の線がUの字に引かれているため、まるで顔を模しているようだ。
「ふーん…。S素材になった時、Sモンスターに対象に取られない効果を付与する効果か。
それは厄介だ。じゃあ…こっちもそろそろ本気を出さなきゃな」
クリスは灯が召喚したモンスターの効果を読みながら、右肩を回し、不敵な笑みを浮かべる。
彼の言葉に灯は警戒を強める。
「永続罠発動!『アーティフィシャル・フーパー』!」
■アーティフィシャル・フーパー
永続罠
このカード名の①②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「フーパー」Sモンスター1体と、
それ以外のフィールドの「フーパー」モンスター1体を対象として発動できる。
ターン終了時まで、対象のSモンスターのレベルを任意の数下げ(最小1まで)、
その数値分、もう1体のモンスターのレベルを上げる。
②:自分の墓地の「フーパー」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
③:このカードの発動から2ターン後のエンドフェイズに発動する。
このカードを破壊し、
デッキ・手札から「オブジェクト・フーパー」1枚を自分の魔法&罠ゾーンにセットする。
クリスの背後に現れたのは、妖しくピンク色に光るネオンライトで形どられた天使。
頭には同じくネオンライトの天使の輪がついている。
「この罠カードは1ターンに1度、フーパーSモンスターのレベルを任意の数下げて、
その分のレベルを他のモンスターに移すことができる。
オレオール・フーパーのレベルを6下げて、コイルド・フーパーのレベルを6上げる!」
オレオール・フーパーの左腕の6つの輪が、コイルド・フーパーに向かって飛んでゆき、
その長い胴体に装備される。
オレオール・フーパーの大きな腕に合わせた腕輪であるため、不格好な見た目となっている。
オレオール・フーパー ☆2
コイルド・フーパー ☆9
「コイルド・フーパーの効果発動!
攻撃力・レベルが変動している時、デッキから『フーパー』を1体特殊召喚し、
そのモンスターとS召喚を行う!
デッキからレベル1チューナー、『ドーナツ・フーパー』を特殊召喚し、
コイルド・フーパーとシンクロ召喚!」
フィールドに現れた小さなモンスターは、
茶色い見た目にカラフルなスプリンクルがかけられたお菓子の見た目をしており、
両腕にドーナツをつけている。
そのモンスターは特殊召喚と同時に1つの光の輪となり、その中にコイルド・フーパーが飛び込む。
「与え、与えられ、やがては朽ちる。光と陰重なりし瞳は、ここに星の理をもたらす」
「シンクロ召喚!レベル10、『エクリプス・フーパー』!」
■エクリプス・フーパー
シンクロモンスター
レベル10/光/天使/攻撃力3300 守備力2000
チューナー + チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「フーパー」モンスター1体を特殊召喚する。
②:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
レベルまたは攻撃力が元々の数値と異なる相手モンスターが効果を発動した時、
そのモンスターは破壊される。
③:このカードが墓地に存在する場合、
自分フィールドのレベルまたは攻撃力が
元々の数値と異なるモンスター2体をリリースして発動できる。
墓地のこのカードを特殊召喚する。
現れたのは、4メートルほどの白く硬質なボディに、無機質な龍の頭を持つモンスター。
その背には白く光り輝く輪と、黒く輝く輪が交差し、重なり合っている。
その黒い瞳の周りには赤く白い輪が重なっており、それはまるで日食のようだった。
「エクリプス・フーパーがいる限り、
アンタのレベル・攻撃力が変動したモンスターが効果を発動すると、そいつは破壊される。
さあ、耐えられるかな?お嬢ちゃん」
遊次は今も事務所のソファで意識を失ったまま苦しんでいる。
イーサンと怜央、そして伊達は灯からの連絡がないことに焦り、苛立ちを募らせる。
灯も、クリスのことを口外しないことを条件にオースデュエルに臨んでいる以上、
この戦いが終わるまでは、文字通りたった1人で戦うしかない。
早く勝負をつけなければ。灯の中で不安がどんどんと大きくなっていく。
そんな気持ちを嘲笑うかのように、疾走するクリスのオートバイの後ろには、
独特な威圧感を放つ白き巨体が2体並んでいる。
第25話「アクセラレーション!」 完
クリスの2体のシンクロモンスターを突破すべく、灯は想像の上をゆく立ち回りを見せる。
色々な属性を持つシンクロモンスターを連続で呼び出し、
「ペイントメージ」デッキはその真価を発揮する。
しかしクリスの猛攻も止まらない。
円環を意味する「フーパー」デッキもその力を大いに振るうのだった。
次回 第26話「虹色のサーキット」
現在のイイネ数 | 5 |
---|

↑ 作品をイイネと思ったらクリックしよう(1話につき1日1回イイネできます)
同シリーズ作品
イイネ | タイトル | 閲覧数 | コメ数 | 投稿日 | 操作 | |
---|---|---|---|---|---|---|
49 | 第1話:なんでも屋「Next」 | 541 | 2 | 2023-03-25 | - | |
63 | 第2話:妖義賊(ミスティックラン) | 463 | 0 | 2023-03-25 | - | |
48 | 第3話:相棒 | 444 | 0 | 2023-03-25 | - | |
44 | 第4話:動き出す影 | 410 | 0 | 2023-03-26 | - | |
50 | 【カードリスト】神楽 遊次 | 473 | 0 | 2023-03-26 | - | |
48 | 第5話:大災害「コラプス」 | 487 | 0 | 2023-03-27 | - | |
58 | 第6話:2000万のプライド | 450 | 0 | 2023-03-27 | - | |
51 | 第7話:悪しきを挫く至高の剣士 | 556 | 0 | 2023-03-29 | - | |
41 | 第8話:解き放たれた猟犬 | 409 | 0 | 2023-03-29 | - | |
43 | 第9話:陸・空・海を統べる者 | 365 | 0 | 2023-03-31 | - | |
44 | 第10話:悪しき魂を塗り潰す彩 | 345 | 0 | 2023-04-01 | - | |
77 | 【カードリスト】花咲 灯 | 451 | 0 | 2023-04-02 | - | |
43 | 第11話:番犬の尾を踏んだ日 | 388 | 0 | 2023-04-02 | - | |
50 | 第12話:雷の城塞 | 516 | 0 | 2023-04-04 | - | |
46 | 第13話:平穏を脅かす者に裁きを | 338 | 0 | 2023-04-06 | - | |
44 | 【カードリスト】イーサン・レイノルズ | 410 | 0 | 2023-04-07 | - | |
67 | 第14話:決戦前夜 | 559 | 0 | 2023-04-09 | - | |
60 | 【お知らせ】お久しぶりです。 | 1520 | 2 | 2024-02-09 | - | |
26 | 第15話:爆焔鉄甲(スチームアーミー) | 262 | 2 | 2025-01-06 | - | |
30 | 第16話:魂の衝突 | 267 | 2 | 2025-01-13 | - | |
24 | 第17話:EDEN TO HELL | 194 | 0 | 2025-01-22 | - | |
30 | 第18話:憤怒の白煙 | 211 | 1 | 2025-01-29 | - | |
20 | 第19話:天に弧を描く義の心 | 163 | 2 | 2025-02-05 | - | |
19 | 第20話:To The Next | 166 | 1 | 2025-02-12 | - | |
20 | 【カードリスト】鉄城 怜央 | 139 | 0 | 2025-02-12 | - | |
21 | 第21話:踏み出す1歩目 | 166 | 0 | 2025-02-19 | - | |
14 | 第22話:伸し掛かる天井 | 160 | 0 | 2025-02-26 | - | |
23 | 第23話:壁に非ず | 162 | 0 | 2025-03-05 | - | |
10 | 第24話:滅亡へのカウントダウン | 141 | 0 | 2025-03-12 | - | |
11 | セカンド・コラプス編 あらすじ | 184 | 0 | 2025-03-12 | - | |
5 | 第25話:アクセラレーション! | 134 | 0 | 2025-03-19 | - |
更新情報 - NEW -
- 2025/02/22 新商品 QUARTER CENTURY ART COLLECTION カードリスト追加。
- 03/21 07:59 評価 6点 《錬金生物 ホムンクルス》「《幻惑の巻物》内臓の、なぜか植物族…
- 03/21 02:39 評価 10点 《タキオン・トランスミグレイション》「クッソ強いカウンター罠…
- 03/21 00:00 コンプリート評価 asdさん ⭐遊戯王デュエルモンスターズⅢ 三聖戦神降臨⭐
- 03/20 21:51 評価 1点 《天狗のうちわ》「一応当時は《人喰い虫》・《ペンギン・ソルジャ…
- 03/20 21:28 評価 1点 《ガルマソードの誓い》「6本腕の《ガルマソード》用の儀式魔法。 …
- 03/20 21:19 評価 1点 《ガルマソード》「いにしえのバニラ儀式。 レベル・種族・属性の…
- 03/20 21:17 デッキ オーパーツ
- 03/20 21:10 評価 3点 《サイバティック・ワイバーン》「唯一のレベル5・風・機械族バニ…
- 03/20 19:46 SS 夢の中の決闘
- 03/20 19:37 掲示板 カードリストにおける誤表記・不具合報告スレ
- 03/20 18:52 SS Report#85「序曲-死という舞台」
- 03/20 18:51 評価 1点 《ブルーアイズ・タイラント・ドラゴン》「《青き眼の祈り》の墓地…
- 03/20 18:48 デッキ K9(代理カード)
- 03/20 18:35 評価 8点 《アザミナ・アーフェス》「白き森とアザミナの二つの名前を持つカ…
- 03/20 18:34 SS Episode109:遥かな宇宙の彼方へ
- 03/20 18:21 評価 6点 《混沌核》「光属性レベル2 チューナーで《混沌殻》を除外ゾーンか…
- 03/20 18:11 評価 8点 《白き森のいいつたえ》「条件付きのサーチ魔法。 モンスター効果…
- 03/20 17:56 評価 8点 《機巧狐-宇迦之御魂稲荷》「後攻0ターンで展開できる可能性のあ…
- 03/20 16:55 評価 10点 《刻まれし魔ラクリモーサ》「爆アド融合モンスター。 (1)は蘇生…
- 03/20 16:47 評価 10点 《刻まれし魔の大聖棺》「墓地のモンスターをデッキに戻して融合…
Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。



