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第18話:憤怒の白煙 作:湯
遊次が怜央に魂でぶつかったことによって、
チーム「Unchained Hound Dogs」の仲間は、次第に遊次の特異性に気付く。
そしてついに怜央も、遊次とデュエルで対話することを受け入れた。
彼はコラプスによって家族を失った後、4歳の時に孤児院「エデン」に引き取られたが、
それは秘密裏に子供を奴隷として売買する施設であった。
怜央は5歳の時に鉄城健吾という男の奴隷として買われ、暴力による支配を受けた。
院長が持つ圧倒的な権力の後ろ盾によって守られたその孤児院に抗う術はなく、
怜央はその後6年間、奴隷として生き続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
6年前
「いつまでチンタラやってんだ!!」
バキィッ!!!
「ウッ!!」
怜央は健吾に殴られ、壁に激突する。
「…申し訳ございません」
怜央は殴られたことなど気にも留めない様子で、地面に頭を擦りつけ謝罪する。
「俺が帰ってくるまでに全部終わらせろと言ってんだろうが!
次また同じことをしやがったら殴るだけじゃ済まねえからな」
健吾は吐き捨てて去っていく。
「はい…。申し訳ございません」
怜央は11歳。
引き取られてから6年もの年月を奴隷として過ごした。
健吾に買われるまでの人生よりも、奴隷として過ごした時間の方が長くなっていた。
怜央にとってはそれしか生きる術を知らない状態となっていた。
当然、学校にも通うことはなかった。
読み書きや最低限の計算ができなければ奴隷として使い物にならないため、
健吾が教科書や問題集を買い、空き時間に勉強をさせていた。
しかし1人で勉強するのは限界があり、学校に行くよりも遥かに習熟度は低かった。
それでも最低限の言語能力と四則演算程度の計算能力はあった。
元々エデンでデュエルをしていた時にダメージ計算等で感覚として掴んでいたため、
計算はすぐに覚えることができた。
殴られた痣を見られるわけにもいかず、怜央はほとんど外にも出してはもらえなかった。
怜央はいつも通り仕事を済ませ、少しの空き時間ができた。
特にやることがない時は自室以外で過ごすことを禁じられている。
半ば監禁状態だ。
怜央は自室に戻ると、急いでデュエルディスクを取り出し、自分のカードを見つめる。
5歳のあの頃から、また新たなカードが何枚も増えた。
デュエルディスクは自身の性質から自分だけのカードを生み出す。
怜央にとってモンスター達は、唯一自分が心を許せる存在だったのだ。
健吾もわざわざデュエルディスクを取り上げる必要はないと考えており、
むしろそれさえあれば大人しくしているため、都合が良かったのだ。
デュエルには相手が必要だ。
しかし健吾は当然デュエルの相手になどなってくれない。
彼は1人でデュエルのシミュレーションをすることしかできなかった。
そのシミュレーションで怜央は数々のコンボを生み出し、
自らのデッキの理解度を上げていた。
来たる「革命の日」に向けて。
「いつか…絶対にこいつで…」
怜央は自らのデッキを見つめ指先に力を入れる。
彼も現状に満足しているはずはなかった。
デュエルは彼にとって唯一の心の救いであり、"逆襲のチャンス"だった。
オースデュエル。
その存在を正しく知ったのはたまたま健吾がつけていたテレビからだった。
学校にも行かせてもらえず、情報源がテレビくらいだった怜央は、
奴隷として買われてから2年後の7歳の時にその存在を知った。
デュエルに勝利すれば相手を服従させられる。
デュエルにより決した契約を破ることは実質不可能。
それが怜央の認識だった。
怜央はこれこそ、この現状から抜け出すための希望だと考えた。
ただ家を抜け出すだけではエデンに連絡されることは察していた。
引き取られる前に院長のテレサとそのような会話をしていたからだ。
それに、もし失敗すれば、いつも受けている暴力とは比べ物にならない恐怖が待っているに違いない。
ゆえに、エデンに知られない形でこの現状から脱出する方法が必要だった。
その可能性を秘めているのがオースデュエルだった。
オースデュエルでこの家から脱出するには、健吾に自身が提示する契約内容を承諾させる必要がある。
それは簡単なことではない。
普通に考えればオースデュエルを受ける理由など健吾にはないからだ。
そのため、「怜央の解放」「口外禁止」を契約条件として飲まざるを得ない状況を作り出す必要があった。
例えば健吾の"弱み"を握ること。
その弱みが健吾にとって致命的であれば、こちらの提示した条件を飲まざるを得ない。
大切なのは「勝者が提示した契約は法的制約となる」ということと「相手にも勝機がある」ということだ。
相手の弱みを握り、それを条件に自分の要望を飲むように要求するだけでは、
自分の要求が叶い続ける保証はない。
そのためにオースデュエルによる絶対不可侵の契約が必要だ。
そしてデュエルは相手にも勝つ可能性が平等に存在する以上、
相手にも自分の要求を法的制約とする機会が生まれる。
それによって、リスクを負ってでも相手がオースデュエルを受ける理由となるのだ。
ここまでデュエルで決した契約を絶対不可侵のものとするシステムが整っているのは、
デュエルの地位を上げるためである。
これは数十年前、
デュエルを国家の根幹に据え置くことを決意したデュエリアの思想によるものだ。
逆にオースデュエル以外の方法では、何人も破ることのできない契約を結ぶことはできない。
それができてしまえば、脅迫のもと無理やりそのような契約を結ばせることもできてしまう。
オースデュエルであれば、仮にデュエル成立までの過程で脅迫という手段が採られたとしても、
デュエルで勝利すればそれに抗うことができるのだ。
怜央は逆転の機を伺い、それまで奴隷として健吾に従い続ける決意をした。
そしてある日のこと。
「クソッ!!!!」
健吾が怒り任せにちゃぶ台を蹴り上げた。
片手にはスマートフォンを持っており、誰かと通話しているようだ。
怜央はその様子を陰から見ていた。
「どうにかなんねえのか!!もう後がねえ!
これ以上の赤字は許されねえんだよ!」
健吾が電話相手に怒号を飛ばす。
怜央は電話相手は部下であることがすぐにわかった。
その部下はおそらく裏社会時代からの繋がりで、
今の健吾の『シノギ』をその部下とやっていることもわかっていた。
そのシノギが失敗しかけているため、健吾は火の車となっているのだ。
「…あぁ。……あぁ?最終手段だ?
……いや待て。ないこともねえ。だが……」
健吾はどうやら迷っているようだ。
電話を片手に廊下を右往左往している。
怜央は仕事をしているフリをしながら話に耳を傾けた。
「……いや、ある。とっておきの情報がな。
超極秘の情報だ…"裏"でもほとんどの奴は知らない。
相当高く売れるにはちげえねえ。だが…リスクが高すぎる」
どうやら情報を売ろうとしていることは幼い怜央にもわかった。
裏社会の人間の奴隷を6年もの間務めてきた怜央は、
それに対する知識や嗅覚は人一倍あった。
「…いや、ここでは言えねえ。
何せ無暗に漏らせば消される案件だからな…。
実際、俺にこの情報を教えた奴が消されてる」
「…あぁクソッ!!なんでこんなことに…!
……わかった。教えてやるよ。
簡単に言やぁ"奴隷売買"…奴隷を売ってるルートを知ってる」
怜央「…!」
その瞬間、怜央は瞬時に理解した。
彼が情報を誰かに売ろうとしていること。
そしてその情報とは、「孤児院『エデン』が奴隷売買をしている」ということであると。
健吾の発言からすると、それを無暗に教えた者は消されるということだった。
それは健吾自身にも当てはまる…だからこそ彼は怯えているのだ。
それでも赤字を挽回するためには高額な極秘情報を売らなければならない。
そのような内容の電話であることを怜央はすぐに察知した。
そして、それこそが怜央にとっての「革命の機」であることも。
同日夕刻。
怜央は健吾の目を盗み、1階の健吾の部屋の前に来た。
現在、健吾は用を足すために自分の部屋を離れており、その隙を見計らって怜央は1階に降りてきた。
自分の鼓動がどんどんと大きくなっているのが聞こえる。
ずっと待ち望んでいた機会がついに訪れた。
だが今は喜びや期待などなく、あるのは長年暴力で支配されてきたことへの恐怖心だけだ。
健吾は少しの間席を外しただけだ。もうすぐ戻ってくるに違いない。時間はないのだ。
怜央は高鳴る鼓動が響き渡る中、決心をして部屋に入る。
部屋に入ると真っ先に健吾の机へと向かう。
怜央「(あった…!)」
怜央は机にあった健吾のスマートフォンを素早く手に取る。
怜央「(…本当にこれでいいのか…?これで俺は解放されるのか…?)」
怜央は手にしたスマートフォンを見つめながら自問自答を繰り返す。
自らの意志で何かを行うこと自体、奴隷となってからの6年間では無いに等しかった。
それだけで手が震える。
自分の決定に自信が持てない。
怜央「(いや、このチャンスを逃したら終わりだ。人生変えるにはこれしか…)」
「おい、そこで何をしてる」
怜央「ッ…!」
突然の声に驚き振り返ると、そこには健吾が鬼の形相で仁王立ちしていた。
怜央は恐怖のあまり声が出ない。
健吾「…テメェ、なんで俺の携帯持ってんだ…?
勝手な事してんじゃねえ!!」
健吾が怜央に向かって勢いよく拳を振りぬく。
しかし怜央は素早い身のこなしでその拳をひらりと交わし、健吾から距離を取った。
健吾「テメェ、どういうつもりだァ!俺に逆らうつもりかァ!!」
健吾が地響きのような怒鳴り声を上げる。その姿はまるで獣のようだった。
怜央「…そうだ!俺はお前に従わない!」
怜央は震える体を必死に抑えながら、健吾を睨みつける。
彼にはすでに戦う覚悟があった。
健吾「なんだとォ…?どうやら死にてえみたいだな…怜央ォ…!
二度とそんなナメた口利けねえように俺が躾けてやるよぉッ!」
健吾は再び拳を構える。
しかしその瞬間、怜央は先ほど手にした健吾のスマートフォンを掲げる。
怜央「これ以上俺に危害を加えたら、『エデン』に言うぞ!
お前が何をしようとしてるか!」
怜央は震える手でスマートフォンに番号を打ち込み、健吾に突きつける。
それは孤児院「エデン」の電話番号だった。
健吾「あぁ…?俺が何をしようってんだ?
あぁ…もしかしてお前、あの孤児院がお前を守ってくれるとでも思ってんのか?
とんだマヌケだな…」
健吾が嘲笑するようにニヤリと笑う。
怜央「違う!『エデン』が俺を奴隷として売ったのはわかってる!
俺が言ってんのは、『エデン』が奴隷を売ってるって情報をお前が横流ししようとしてることだ!」
健吾「な、なんだと…!」
健吾の表情から余裕が消え去る。
健吾「テメェ…今すぐそいつを返しやがれ!」
健吾が自分のスマホを取り返そうと怜央に近づこうとする。
怜央「近寄るんじゃねえ!
それ以上近づいたらすぐに『エデン』に電話してやる!
電話する時間ぐらいお前から逃げながら稼げる!」
健吾「チッ…!
大体、てめえが『エデン』にチクったところでお前が助かるわけじゃねえ!
仮に俺から逃げられたとしても、『エデン』の真実を知ってるお前も消されるだけだ!
本当に頭が悪ぃクソガキだぜ!」
健吾は自身の主張が怜央にとってクリティカルなものであり、反論しようのない事実だと疑わなかった。
健吾からは笑みが零れる。
しかし怜央は一切ひるまなかった。
怜央「だから何だよ。俺はお前さえ潰せればなんでもいい。
お前に復讐さえできれば俺がどうなろうと知ったこっちゃねえ。
ここから出られねえなら死んでるのと変わらねえ…いや死んだ方がマシだ!」
健吾「…ッ!」
怜央の心の底からの叫びは、それが嘘でないと健吾に伝わるほど迫真的だった。
怜央「だが、別に俺だって道連れになることは望んじゃいねえ。
お前だって同じだろ。だから…コイツでケリ着けようぜ」
怜央はポケットから小型に折りたたまれたデュエルディスクを取り出す。
健吾「ほぉ…?デュエルで勝負しようってか?
テメェ、その意味ほんとにわかってんのか?」
怜央「オースデュエルだ。敗者は勝者に従わなきゃいけないんだろ。
もしこのデュエルを受けないってんなら、
今すぐ『エデン』に連絡してお前を道連れにしてやるだけだ」
健吾「フン、ガキが生意気に脅してんのかよ、この俺を!」
怜央「うるせえ!どうするか決めやがれ!
まさか奴隷相手にビビってんじゃねえだろうな!」
怜央にはもう恐れるものはない。完全に恐怖を振り切っていた。
健吾「(フン、何のことはねえ、こいつをデュエルで潰せばいいだけだろうが!
せいぜい部屋で1人でカードいじりする程度だった奴に俺を倒せるわけがねえ!)」
健吾「…やってやる。
ただし、俺がデュエルで勝てば、二度と俺に歯向かえねえ。
それに、他人に何かを口外することを一切禁止にする。
これでてめえは一生俺の奴隷だ」
怜央「(よし、デュエルさえ始まれば、世界なんとかかんとかって決まりで、
絶対に妨害はできないって読んだことがある…!
デュエル中に殴ったりできなければ平等に戦える!)」
「世界デュエル憲章」。
デュエルが始まれば何人たりともその妨害を行ってはならないという、
世界中で適用される国際法だ。
そのため、デュエル中の暴力行為などを行えば重罪となる。
また、デュエルは公正かつ一切の不正なく行われなければならず、わざと敗北することも許されない。
それは脅迫等を前提としたオースデュエルで相手にわざと敗北させれば
不当な契約を結ばせることができるため、それを防ぐための世界基準の規律だ。
DDASはデュエリストの思考を読み取る機能があり、
わざと敗北しようとするとその瞬間にデュエル憲章違反として通報される。
怜央「その代わり、俺が勝ったら、奴隷契約は終わりだ!
それと、俺のことを誰にも言うな!それが条件だ!」
健吾「いいぜ…お前みたいなただのガキに勝機なんざ1mmもねえ。
こっちは"実力"で裏社会をのし上がったんだ…
まともにデュエルもしてこなかった奴隷のガキに負ける理由はねえ!」
…………
健吾「ハァ…ハァ…あ、ありえねえ…この俺が…!」
健吾 LP500
怜央 LP1200
怜央「俺はこのために何年間も1人でシミュレーションしてきたんだ…。
あらゆる状況を考えて、コンボを探し、牙を研いできた。
お前をぶっ潰して、この地獄から這い上がるために!」
怜央の前には赤き目を爛々と滾らせる『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』がいる。
対して健吾のフィールドはガラ空きだ。
健吾「や、やめろ…やめてくれ…!
許してくれぇ!悪かった!もうお前をイジメたりしない!
ちゃんと息子として扱う!だから…これ以上は…!」
怜央「…」
健吾の哀れな命乞いにも怜央は一切耳を傾けない。
ただその哀れな姿を蔑視している。
怜央「許すわけねえだろ。
テメエも、そして『エデン』のクソババアも…絶対に俺がぶっ潰す」
怜央「『炎機公子(エクスプロード)』で、ダイレクトアタックだ!!」
健吾「やめろぉぉおおおおおお!!!!」
業火を纏い最後の一撃を繰り出す『炎機公子(エクスプロード)』の姿は、怒りの化身そのものだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
怜央「その日をもって俺は、奴隷という身分から解放され、自由となった。
それと同時に、学校にも行ったことがねえ11歳の身で、たった1人で生きていかなきゃいけなくなった。
エデンを潰すと息巻いてはいたが、エデンには近づかなかった。
もし見つかれば消されるかもしれねえ。せっかくのチャンスを棒に振るわけにはいかなかった。
解放されてから数年後にエデンがあった場所に行ったが、
その時にはすでに施設ごと消えてやがった。
どっからか情報が漏れたことを嗅ぎつけたんだろうな」
怜央の壮絶な半生を知り、その重みに遊次たちはただただ戦慄した。
想像も及ばぬほどの地獄。
5歳から暴力による絶対的な支配に6年も耐え続け、あろうことか自力でその境遇から抜け出したのだ。
遊次「…すげえよ、お前。
5歳から6年も一方的な暴力に耐え続けて、しかも自力でそこから抜け出したってのかよ。
想像もしてなかった。この町で、そんなことが起きてたなんて…!」
遊次は俯き、まだ整理しきれない自分の感情を言葉にする。
ドミノタウンの皆を笑顔にしたいと謳っておきながら、ドミノタウンの真の暗部には目を向けられなかったことに、
悔しさや情けなさをおぼえている。
その思いに偽りはないが、怜央の目には自分の夢が陳腐に映っても仕方がないと、遊次自身も感じている。
遊次「その後の話は、なんとなく想像がつく。
みんな自分のことばかりで他人のことなんてどうでもいい…そう言ってたよな。
多分、誰もお前を助けてくれなかったんだろ」
怜央「察しがいいじゃねえか。その通りだ。
食いもんにもありつけずにフラフラ歩いてるガキを、大人共は気にも留めなかった。
まるでそれが当たり前の光景みたいに視界にも入らねえ」
怜央は遠い目で回想する。
灯「それが大人達を、この町を許さない理由…」
怜央が語った過去から、彼のこれまでの言葉の意味をようやく理解した。
そしてそこには想像以上の重みがあったということも。
ダニエラ「怜央だけじゃない、アタイらも同じさ。子供達もね。
誰にも見向きもされなかったさ」
ドモン「上っ面では良い人間を演じていても、
どいつもこいつも腹の中じゃ自分のことしか考えてねえってことを思い知ったぜ。
だから浅ぇ綺麗事ばっか吐くセンコー共を許せなかった」
遊次「(…皆がそうじゃねえ。でもそれを言ったところであいつらの心は動かせない。
でも突破口は見つかった。あとはとにかく魂でぶつかるまでだ)」
簡単な言葉で変えられるほど彼らの過去は軽くないことを知り、遊次は思案する。
イーサン「その口ぶりだと、奴隷から解放されてから、誰にも頼らず生きてきたのか?」
怜央「誰にも頼らなかったと言えば嘘になる。だが少なくとも大人の力は借りてねえ。
解放されてからの数年間、俺は盗みでなんとか食い繋いだ。
俺以外にも1人で生きていくしかねえガキが何人もいたから、そういう奴らが自然と集まってなんとか飢えを凌いだ。
だがそんな生活をいつまでも続ける気はなかった。
結局、クソオヤジを力で捻じ伏せて自由を勝ち取ったあの時が答えだったんだと分かった。
クソみたいな現状を変えるには、力で覆すしかねえと」
怜央「そのために俺はデュエルを磨き続けた。
逃げ隠れてこそこそ盗みをやるんじゃなくて、オースデュエルで金や物資を奪うようになった。
実力が認められて裏社会を仕切ってたチームに入ったりもしたが、結局こき使われただけだ。
だからそいつらも俺が潰した」
意地でも這い上がるという執念と募る怒りが彼に力を与えたのだろう。
しかしそこには長年一人で研鑽し続けた確かなデュエルの実力があった。
怜央「誰にも従う必要のない、圧倒的な力を手に入れなきゃならねえ。
それさえあればやっと人並みの生活を取り戻せると信じた。
奪われ続けるだけの人生に終止符を打つ。誰にもナメられねえように」
怜央「そして2年前にドモンとダニエラに出会った。
コイツらも、1度全部ぶっ潰さねえと何も始まらねえことをわかってた。
だから俺はこのチームを組んだ。
報われねえガキ共がこの町にはまだまだいる。
俺はそいつら全員を引き連れて、大人共から全てを奪うことにした」
それが"Unchained Hound Dogs"の成り立ち。
1つの憎悪の火種が日に日にその勢いを増し、この町を飲みこもうとしている。
今に至るまでの怜央の過去を鑑みると、今はまだその被害も相当小さく収まっていると言える。
だがこのままチームが拡大していけば、さらにこの町の人々を脅かす存在となるに違いないと遊次は確信している。
遊次「確かにお前の境遇ならそうなっても仕方ねえかもな。
よくわかったぜ、お前の考えが。
でも…お前もお前自身をまだ理解してねえってこともわかった」
怜央「なんだと…?この期に及んでまだそんなこと…」
遊次「やっぱり今のお前は怒りに支配されてる。
そのせいで本当に見なきゃいけねえもんを見失ってるんだ」
怜央の言葉を遮り遊次は自らの思いを突きつける。
そして左腕に装着したデュエルディスクを掲げ、戦いの意思を示す。
怜央もそれに呼応するように、無言でデュエルディスクを掲げる。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
【怜央】
LP4400 手札:1
①爆焔鉄甲 炉衛生兵(ファーネス・メディック) ATK1300
②爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード) ATK1500
③爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード) ATK2800 X素材:2
カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
□
□①②③□
フィールド魔法:1
伏せカード:1
【遊次】
LP3900 手札:0
①妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
②妖義賊-駿足のジロキチ ATK1600
③妖義賊-忍びのイルチメ ATK1500
④錬鋼操兵(アイアン・ドライバー) ATK1700
カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
□
□①②③④
◆□□★□
フィールド魔法:1
★永続魔法:1
◆Pゾーン:妖義賊-剛腕のナンゴウ
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
遊次「俺は墓地の『妖義賊の復活』を除外して効果発動!墓地の予告状カードを除外する!」
■妖義賊の復活
通常魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する場合、
墓地の「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動する。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:このカードが墓地に存在する場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。
自分の墓地の「予告状」カード1枚を除外する。
再び決闘の舞台の幕が開く。
灯やイーサン達もまだ考えが追い付かないまま、フィールドに意識を戻す。
怜央「(今アイツの墓地にあるのは『儀式の予告状』…。
儀式召喚する時にもし『駿足のジロキチ』をリリースされたら、
そいつがリリースされた時の効果で俺のモンスターが奪われる。
そうなったらアイツは確実に俺の爆弾が奪いに来るに違いない。それなら…)」
怜央も即座にデュエルへと思考をスイッチする。
怜央は遊次の盤面のカードの効果をすでに把握しており、起こる未来を予測する。
怜央「その効果にチェーンして『爆焔鉄甲 炉衛生兵(ファーネス・メディック)』の効果を発動!
フィールドの『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』をお前の『俊足のジロキチ』に装備する!」
遊次「そうはいかねえ!フィールド魔法『妖義賊の秘密回廊』の効果発動!
1ターンに1度、『ミスティックラン』を対象とするモンスター効果を無効にする!」
それによって怜央の発動した爆弾を装備させる効果は不発に終わり、
チェーン1で発動していた「妖義賊の復活」の効果が処理される。
遊次「『妖義賊の復活』の効果!俺が除外するのは『儀式の予告状』!
そして除外された『儀式の予告状』の効果発動!
デッキから儀式モンスターを儀式召喚することができる!」
ダニエラ「デッキからだって!?」
■儀式の予告状
儀式魔法
「ミスティックラン」儀式モンスターの降臨に必要。
①:このカードは発動後、墓地に送られる。
このカードの発動後2回目の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。
②:このカードが墓地から除外された場合に発動できる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、
自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、
手札・デッキから「ミスティックラン」儀式モンスター1体を儀式召喚する。
遊次「俺は『駿足のジロキチ』と、
お前から奪った『錬鋼操兵(アイアン・ドライバー)』をリリースし、
儀式召喚を執り行う!」
遊次「桜吹雪の舞う中に、現れたるは荒野の義賊!
儀式召喚!来い、俺の相棒!『妖義賊-ゴエモン』!」
■妖義賊-ゴエモン
儀式モンスター
レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000
「予告状」儀式魔法カードにより降臨。
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、
自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。
②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。
モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、
魔法・罠カードの場合、自分の魔法&罠ゾーンにセットする。
③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。
元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。
そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。
桜吹雪と共に現れたのは、大剣を携えた戦士のモンスター。
メタリックなボディは赤と白を基調とした装甲で覆われており、光を反射して鋭く輝いている。
頭には後ろ向きのパーツがついており、まるで鳥の尾羽のように背後に伸びている。
その目は赤く光り、ただならぬ存在感を示している。
ドモン「あれがあいつのエースか…」
リアム「か、かっけぇ…」
ついに現れた遊次のエースモンスターの風格に驚く一同。
怜央「…!」
怜央はそのモンスターの効果を確認し、驚きの表情を見せる。
遊次「ここでリリースされた『駿足のジロキチ』の効果発動!
こいつがリリースされた時、相手モンスターをエンドフェイズまで得ることができる。
『炎機公子(エクスプロード)』は…『堅鉄建兵(バリケイド・ビルダー)』を素材としてるから効果の対象にできねえ。
俺が奪うのは『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』だ」
遊次「更に、フィールド魔法『妖義賊の秘密回廊』の効果を発動!
『ミスティックラン』がリリースされた時、1枚ドローできる!」
遊次がデッキからカードをドローする。引いたのは速攻魔法カードだ。
遊次「そしてチェーン1のジロキチの効果で、
お前の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』をいただくぜ」
------------------------------------------
【遊次のフィールド】
①妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
②妖義賊-ゴエモン ATK2500
③妖義賊-忍びのイルチメ ATK1500
④爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード) ATK1500
カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
□
④①□③②
◆□□★□
フィールド魔法:1
★永続魔法:1
◆Pゾーン:妖義賊-剛腕のナンゴウ
------------------------------------------
イーサン「うまいぞ遊次…!
真ん中のモンスターゾーンが空いてるから、全てのモンスターが横並びじゃない。
つまり、仮に怜央に爆弾を装備させられても、破壊の連鎖は2体で止まる。
1度の破壊で全てのモンスターが巻き添えを食らうことはない!」
イーサンは盤面を即座に把握し、胸元で小さくガッツポーズをする。
灯「しかもフィールドにはゴエモンがいる。このまま勝って、遊次…!」
遊次のエースモンスターの登場によって希望が湧きあがる。
ミオ「モンスターが4体も…。しかも怜央のモンスターまで奪われちゃった…」
ミオがぬいぐるみを強く抱きしめ、不安な表情を浮かべる。
リアム「大丈夫だミオ!怜央の兄貴がこんなところで負けるわけねえ!」
リアムがミオを叱咤する。
少しでも弱気なムードが流れればそれに圧し潰される気がしたのだ。
しかしリアムが口にした怜央への信頼は偽りではない。彼ならこの状況をきっと打破できると本気で信じていた。
遊次「相手から奪ったカードが俺のフィールドにある時、
ゴエモンの効果によって俺のモンスターは相手の効果の対象にならない。
つまり、お前は今、俺のモンスターに爆弾を装備することも、
『炎機公子(エクスプロード)』の効果で俺のモンスターを破壊することもできねえ!」
ドモン「なんだと…!」
相手モンスターに爆弾を装備させた後に破壊することで、破壊を連鎖させるのが怜央のデッキの特徴だ。
しかしそれを根本から封じられたことで、Unchained Hound Dogs陣営に焦りが募る。
怜央「…」
だが怜央は表情を崩さず遊次を見つめている。
それに応えるように遊次も視線をぶつける。
遊次「…もう1回聞いておきたい。お前は何のために戦ってるんだ?」
怜央「二度と誰にも奪われないためだ。そのためには奪うしかない」
遊次「そっか。じゃあ聞くけどよ…。
ただ奪われないためなら、力を示したいだけなら…なんでお前は子供たちの居場所を作ろうとしたんだ?」
怜央「…何?」
遊次の問いは怜央の意表を突いた。
遊次「ドモンとかダニエラみたいにデュエルの腕が立つ奴らは、お前の言う目的に合ってるのかもな。
でもお前のチームには子供が大勢いるだろ。その子達はチームの戦力ってわけじゃないはずだ。
じゃあなんで子供たちをチームに入れるんだ?」
勝負がつくかもしれないこの局面で、遊次は怜央の本質に触れようとしている。
遊次の思いをバトルフェイズで全てぶつけるために。
怜央「何が言いたいかわかんねえ。
俺がガキ共を拒絶する理由はねえ。ついて来たいなら来ればいい。
その数が増えれば大人共から奪うモンも増える。
そうすりゃこの町も自分達がいかに腐ってたか気づくはずだ」
遊次「…ゴエモンの効果発動。お前の墓地からカードを1枚奪うことができる。
俺はお前の墓地から『爆焔鉄甲 煙機関車(レイル・エクスプレス)』を奪う」
遊次のフィールドには漆黒の巨大な鉄塊が出現した。
怜央の言葉に対して何も言わずにプレイを続けた遊次の姿や表情も相まって、
そのモンスターは更なる威圧感を放っていた。
遊次「ゴエモンの効果発動。相手から奪ったモンスターをリリースして儀式召喚している時、
相手から奪ったモンスターをリリースすることで、
その元々の攻撃力分、俺のフィールドの全てのモンスターの攻撃力を上げる。
『煙機関車(レイル・エクスプレス)』をリリースして、
俺のモンスターの攻撃力を2000ポイントアップする」
妖義賊-士君子のブラックバード ATK3500
妖義賊-ゴエモン ATK4500
妖義賊-忍びのイルチメ ATK3500
羅針榴弾(コンパス・グレネード) ATK3500
『煙機関車(レイル・エクスプレス)』がリリースされた後、
遊次のフィールドに白い蒸気が立ち込め、フィールドのモンスターの力を底上げする。
ダニエラ「下級モンスターでさえ攻撃力3500…。
もし総攻撃を受けちまったら、怜央は…!」
ドモン「…クソッ…!このまま負けて奪われっ放しで泣き寝入りなんざ、許されねえぞ怜央…!」
濃くなってゆく敗北の色にドモンとダニエラが冷や汗を流す。
もしこのまま怜央が負ければ、自分達の野望はここで潰えることとなる。
遊次「更にPゾーンの『剛腕のナンゴウ』のP効果発動。
ゴエモンはこのターン2回攻撃を可能とする」
遊次「そこのミオって子が言ってたぜ。
お前は子供たちが感じる怒りも、自分のことのように怒ってくれるって」
怜央「…」
怜央の脳裏にはミオの顔が浮かぶ。
激しい雨の日だった。
それはある路地裏で彼女と初めて会った時の、ボロボロの姿だった。
泥だらけのくまのぬいぐるみだけを抱えている。
(私のおうちは、もう私のおうちじゃないみたいなの。)
(私、捨てられちゃったの…?)
(私…どうしたらいいか…わかんない…っ…!)
小さい体で、涙を流しながら自分のことを見つめるその姿を怜央はハッキリと覚えていた。
遊次「お前は、ただ自分の目的のために子供をチームに入れるような奴じゃねえ!
そこにお前の本当の気持ちがあるはずなんだ!」
怜央「…」
今までのように頭ごなしに拒絶したりしない。
今の怜央には遊次の言葉がしっかりと届いている。
更に踏み込まなければならない。
そのためには全力でぶつかるしかない。
遊次「子供たちも、お前の事を本気で信じてる!
お前がその子たちの気持ちを誰よりもわかってやれたから、
皆お前について行きたいって思ってるんだ!」
リアム「…!」
遊次「バトルフェイズ!
このまま攻撃が通れば俺の勝ちだ、怜央!
止められるもんなら止めてみろ!」
ミオ「このままじゃ…怜央が…」
ミオが涙ぐみ、虚ろな眼差しで怜央の背中を見つめる。
そんなミオの姿を見てリアムは思わず怜央に対して声を張り上げる。
リアム「ッ…!おい!怜央の兄貴!
ミオにこんな顔させんじゃねえよ!」
リアム「アンタ、あの時言ったよな!
泣いてる俺に、もうそんな顔は二度とさせないって!」
リアム「負けるなんて絶対に許さないからなッ!
アンタは俺にとってヒーローなんだ!!」
怜央「…!」
怜央の脳裏にある記憶がフラッシュバックする。
(顔上げろ。いつまでも泣いてんじゃねえ)
(うわっ…きったねえ…! 鼻水でベタベタじゃねえか!)
(…行くとこがねえなら俺んとこに来い。お前みたいな奴が他にもいる)
(俺がクソみたいな大人を全員ぶっ潰してやる。2度とそんなツラはさせねえ)
怜央「…二度と泣かせねえと誓った。負けるわけにはいかねえんだ」
リアムの叫びに呼応し、怜央の眼に闘志が灯る。
垂れた前髪の隙間から鋭い眼光で遊次を睨む。
遊次はそれを見てニヤリと笑って見せる。
遊次「攻撃力3500となった『妖義賊-士君子のブラックバード』で、
『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』を攻撃!」
ブラックバードが漆黒の羽を打ち込む。
その羽は『炎機公子(エクスプロード)』の方へと向かってゆく。
(俺、兄貴みたいなカッコよくて…それで…優しい奴になりたいッス!)
(兄貴は俺にとってのヒーローッスよ!)
怜央「何のために戦うか?そんなモン、1つしかねえ」
怜央「アイツらの怒りも、悲しみも…全部俺が背負って立つと決めたからだ!」
その瞬間、怜央は伏せていたカードを表にする。
怜央「速攻魔法、発動!
『RUM-エクスプロージョン・フォース』!」
遊次「ランクアップ、マジック…!」
遊次は驚くが、この土壇場でとっておきの逆転のカードを切ってきたことに興奮する気持ちの方が強く、
思わず口角が上がる。
灯とイーサンはこれから起きることに予想がつかず、目を見開いている。
怜央「『スチームアーミー』Xモンスター1体を対象に、
そのランクより1つ高いランクを持つモンスターをX召喚する!」
■RUM-エクスプロージョン・フォース
速攻魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「スチームアーミー」Xモンスター1体を対象として発動できる。
その自分のモンスターよりランクが1つ高い「スチームアーミー」Xモンスター1体を、
対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。
②:墓地のこのカードを除外し、フィールドのモンスターを2体まで対象として発動できる。
対象のモンスターの数だけ墓地から「スチームアーミー」モンスターを選び、
対象のフィールドのモンスターに装備カード扱いとして装備する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
ドモンやダニエラ、リアム・ミオもそのカードの意味はもちろん知っていた。
敗北すらも覚悟した心の靄が一気に晴れてゆく。
怜央「『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』1体でオーバーレイ!
ランクアップ・エクシーズチェンジ!」
「爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)」は黒い渦の中へと飲み込まれる。
怜央「焼け焦げた鎧は血戦の証。燻る執念を憤怒の白煙へと昇華せよ!」
怜央「エクシーズ召喚!現れよ、ランク5!
『爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)』!」
逆巻く黒い渦から現れたモンスターは、黒く焼け焦げた鉄の鎧で全身を覆っていた。
その鎧にはパイプが張り巡らされており、その1つ1つから炎が噴射されている。
鎧の各部から絶え間なく蒸気が噴き出し、周囲に熱気を放つ。
肩の部分には大きな歯車、背中には大型の噴射口が装備されている。
その姿はまるで「将軍」。
そこにいるだけで、「炎機公子(エクスプロード)」とは比べ物にならない迫力と威圧感を放っていた。
遊次達はその姿に圧倒される。
怜央「『蒸機焼軍(デトネイト)』の効果発動。
X召喚に成功した時、全ての相手モンスターの効果を無効にする!」
遊次「なんだって…!」
■爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)
エクシーズモンスター
ランク5/炎/機械/攻撃力2800 守備力2600
レベル5モンスター×3
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがX召喚した場合に発動できる。
相手フィールドの全てのモンスターの効果を無効にする。
②:このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
この効果で破壊したモンスターが「スチームアーミー」モンスターを装備していた場合、
相手フィールドのカードをもう1枚破壊できる。
このカードが炎属性モンスターをX素材としている場合、この効果は相手ターンでも発動できる。
③:このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
自分の墓地の「スチームアーミー」Xモンスター1体を自分フィールドに特殊召喚し、
その後、墓地の「スチームアーミー」モンスター1体をそのモンスターのX素材とする。
怜央が効果を宣言すると、フィールドに白い蒸気が充満する。
その蒸気が遊次のフィールドのモンスターの力を奪ってゆく。
灯「効果が無効化されたら、ゴエモンの対象に取られない効果もなくなる…」
イーサン「つまり、また爆弾を装備させられるかもしれないってことだ」
怜央「『蒸機焼軍(デトネイト)』の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、
相手モンスター1体を破壊する!
お前のフィールドの『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』を対象に選択する。
更に、この効果で破壊したモンスターが『スチームアーミー』を装備していた場合、
もう1枚カードを破壊することができる!」
怜央はX素材としている「堅鉄建兵(バリケイド・ビルダー)」を取り除き、
「蒸機焼軍(デトネイト)」の効果を発動する。
灯「そんな…!」
イーサン「だが爆弾はついていないから、破壊は連鎖しないはずだ…」
イーサンは希望的観測を口にするが、当の怜央がそれをわかっていないはずがなかった。
怜央「更にチェーンして、墓地の『RUM-エクスプロージョン・フォース』の効果発動!
墓地のこのカードを除外して、フィールドのモンスターを2体まで対象にし、
そのモンスターに墓地の『スチームアーミー』を装備できる!」
怜央「俺は墓地の『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』と『鍵発射弾(キー・ロケットボム)』を、
お前の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』と『ゴエモン』に装備!」
イーサン「破壊対象に選択されたのは『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』。
そして今そのモンスターに爆弾が巻き付けられたら…」
再び連鎖する破壊の恐怖が押し寄せる。
遊次は思考を巡らせ、これから起きる未来を予測する。
そしてその結末は「破滅」だった。
遊次「(…何をしても俺のモンスターは全滅だ。それなら…)」
遊次が意を決してデュエルディスクに触れる。
遊次「速攻魔法発動!『妖義賊の即日決行』!
『ミスティックラン』1体をリリースしてデッキから『予告状』を墓地に送り、
そのカードを除外する!俺はゴエモンをリリース!」
遊次は怜央の発動した2枚のカードに対して更なるチェーンを行い、
そのコストとして自らの切り札を迷いなくリリースする。
■妖義賊の即日決行
速攻魔法
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールド上の「ミスティックラン」モンスター1体をリリースして発動する。
デッキから「予告状」魔法カードを1枚墓地に送る。
その後、そのカードを墓地から除外する。
この効果の発動後、この効果で除外したカード以外の「予告状」魔法カードの効果は使用できない。
灯「ゴエモンを!?いや、でも…」
遊次のプレイの意図を図りかねる灯だったが、すぐに盤面を整理しその真意を理解する。
そしてそれはイーサンも同様だった。
イーサン「(『蒸機焼軍(デトネイト)』が『スチームアーミー』を装備したモンスターを破壊した時、
更に1枚カードを破壊できる。
そこでゴエモンが破壊されれば、ゴエモンに装備された爆弾も起爆し、その隣の『忍びのイルチメ』も破壊される。
ならば先にリリースすることで、自分のアドバンテージに変換したってわけか)」
そしてチェーンが解決し、チェーン3の遊次の発動したカードから処理が行われる。
遊次「『妖義賊の即日決行』で墓地に送るのは『一攫千金の予告状』!そして墓地から除外する!」
ここで除外された予告状の効果は、現在の全てのチェーン処理が解決した後に発動されることとなる。
続いてチェーン2の怜央のRUMの効果が解決される。
怜央「チェーン2の『RUM-エクスプロージョン・フォース』の効果により、
お前のモンスターに『スチームアーミー』モンスターが装備される。
俺が指定したのは『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』と『ゴエモン』だが、
ゴエモンがすでにリリースされたことで、2つ目の爆弾は対象を失った。
よって爆弾が装備されるのはお前の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』だけだ」
遊次のフィールドの『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』に
『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』が装備される。
鎖付きの爆弾同士が絡み合い、異形の様相を呈している。
------------------------------------------
【遊次のフィールド】
①妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
②妖義賊-忍びのイルチメ ATK1500
③爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード) ATK1500
カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
□
【③】①□②□
◆ □□★□
※【】は「スチームアーミー」が装備されているモンスター
フィールド魔法:1
★永続魔法:1
◆Pゾーン:妖義賊-剛腕のナンゴウ
------------------------------------------
怜央「チェーン1の効果!
『蒸機焼軍(デトネイト)』の効果で『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』を破壊する!」
その瞬間、「蒸機焼軍(デトネイト)」の全身から蒸気が噴出し、辺りは熱気に包まれる。
鎧に張り巡らされたパイプから炎が噴き出し、その炎は全て「羅針榴弾(コンパス・グレネード)」へと向かい、
モンスターが破壊される。
怜央「更に、『蒸機焼軍(デトネイト)』が破壊したモンスターに『スチームアーミー』が装備されていた場合、
もう1体モンスターを破壊することができる!
『ゴエモン』をリリースしようが、結局お前のモンスターが破壊されることには変わりねえ。
『忍びのイルチメ』を破壊だ!」
「蒸機焼軍(デトネイト)」の放った炎は縦横無尽にフィールドを疾り、
炎の渦となって「忍びのイルチメ」に襲い掛かる。
イルチメは耐えきれず破壊される。
怜央「『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』が破壊されたことで、
装備されていた『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』の効果を発動!」
ここで新たなチェーンブロックが組まれ、
強制効果である『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』の効果が起爆する。
遊次「墓地から除外された『一攫千金の予告状』の効果発動!」
そして前のチェーンブロック中に除外された予告状の効果がチェーン2で発動される。
遊次「自分の手札が1枚以下の時、カードを3枚ドローする!」
■一攫千金の予告状
通常魔法
①:このカードは発動後、墓地に送られる。
このカードの発動後2回目の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。
②:自分の手札が1枚以下で、このカードが墓地から除外された場合に発動できる。
自分はデッキから3枚ドローする。
怜央「3枚のドローだと…!」
まさに一攫千金といえる破格のアドバンテージに怜央は驚愕する。
墓地から除外する必要があり、手札が1枚以下の場合のみという制約があるため、
その分恩恵も大きいカードだ。
遊次の手札は0枚であるため、カードを3枚ドローする。
そしてチェーン1で発動した怜央の効果が処理される。
怜央「チェーン1の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』の効果!
お前の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』の隣にいた『士君子のブラックバード』を破壊する!
更に同じ縦列にあるPカード『剛腕のナンゴウ』も破壊だ!」
遊次のフィールドの一番左端にいた『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』が破壊されたことで、
その隣と縦列に存在していたカードが全て破壊される。
これで遊次のフィールドには、怜央から奪った
「爆焔鉄甲補給戦線(スチームアーミー・サプリングバトルライン)」だけが存在していることとなる。
お互いに幾度となくチェーンが重ねた、息をつく暇もない一進一退の攻防。
結果的には遊次のモンスターは全て破壊されたこととなるが、
灯とイーサンはこのターンでの勝利を期待していただけに、逆に致命傷を負わされた現状に苦い表情を浮かべている。
遊次「人のバトルフェイズで大暴れしやがって…。
何回俺のフィールドをぶっ壊せば気が済むんだ?」
だが遊次の表情からはこの死闘を心から楽しんでいるのが伺える。
怜央「何度でもぶっ壊してやるよ。
お前はどうやら、俺らが越えるべき壁らしい。
お前を越えなきゃ、俺の、チームの奴らの、怒りが報われねえ」
はじめは遊次のことをただ自分達の邪魔をする存在としか認識していなかった怜央だが、
このデュエルを通してその認識は完全に覆されたと言っていい。
遊次「子供達の悲しみや怒りを背負って立つ…それが本当のお前の原動力なんだろ。
なら、やっぱり俺の見立ては間違ってなかったんだな。
お前はただ力で支配したいだけの横暴な奴じゃねえ。
誰かのために戦える奴なんだ!」
怜央「…お前の目的がわからねえな。確かに俺が戦うのはガキ共のためでもある。
だが俺の行く道は初めから何も変わってねえ。
二度と誰にも奪われねえように、二度と奪おうなんて思わねえように、
大人共から奪ってやる。そうしなきゃ何も変わらねえからだ」
遊次の言葉と全身全霊のデュエルによって、
怜央は薄れつつあった子供達との誓いを再認識することができた。
しかしデュエルで語り合うと宣言したまだ遊次の真意は掴めずにいた。
灯「(怜央は何も変わってないって言うけど、
デュエルを始めた時と比べて、怜央の心は何かが変わってるように見える。
最初は遊次の言葉を全部拒否してたけど、今は怜央も心をぶつけようとしてる。
遊次はわかってる、そこからがスタートだってこと)」
灯は遊次の背中を見つめ、その思いを読み取る。
幼い頃から傍にいるからこそ、灯は彼の真意を理解し、彼を信じることができる。
遊次「俺が言いたいことも変わってねえよ。
怒りのままに無関係の人達からも奪うような真似して、その"先"に何があるんだってことだ」
遊次「…俺のバトルフェイズは終わりだ。だが俺のターンは終わってねえ」
遊次はデュエルディスクを構える。
第18話「憤怒の白煙」 完
怜央の真の切り札「蒸機焼軍(デトネイト)」によってフィールドを全壊させられた遊次は、
ある"召喚法"によって鉄壁の布陣を作り上げる。
遊次は怜央に新たな道を示すため、前に進まなければならないことをデュエルで伝えようとするが、
怜央は怒りをピークにまで高め、その激昂をモンスターの一撃に込める。
次回 第19話「天に弧を描く義の心」
チーム「Unchained Hound Dogs」の仲間は、次第に遊次の特異性に気付く。
そしてついに怜央も、遊次とデュエルで対話することを受け入れた。
彼はコラプスによって家族を失った後、4歳の時に孤児院「エデン」に引き取られたが、
それは秘密裏に子供を奴隷として売買する施設であった。
怜央は5歳の時に鉄城健吾という男の奴隷として買われ、暴力による支配を受けた。
院長が持つ圧倒的な権力の後ろ盾によって守られたその孤児院に抗う術はなく、
怜央はその後6年間、奴隷として生き続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
6年前
「いつまでチンタラやってんだ!!」
バキィッ!!!
「ウッ!!」
怜央は健吾に殴られ、壁に激突する。
「…申し訳ございません」
怜央は殴られたことなど気にも留めない様子で、地面に頭を擦りつけ謝罪する。
「俺が帰ってくるまでに全部終わらせろと言ってんだろうが!
次また同じことをしやがったら殴るだけじゃ済まねえからな」
健吾は吐き捨てて去っていく。
「はい…。申し訳ございません」
怜央は11歳。
引き取られてから6年もの年月を奴隷として過ごした。
健吾に買われるまでの人生よりも、奴隷として過ごした時間の方が長くなっていた。
怜央にとってはそれしか生きる術を知らない状態となっていた。
当然、学校にも通うことはなかった。
読み書きや最低限の計算ができなければ奴隷として使い物にならないため、
健吾が教科書や問題集を買い、空き時間に勉強をさせていた。
しかし1人で勉強するのは限界があり、学校に行くよりも遥かに習熟度は低かった。
それでも最低限の言語能力と四則演算程度の計算能力はあった。
元々エデンでデュエルをしていた時にダメージ計算等で感覚として掴んでいたため、
計算はすぐに覚えることができた。
殴られた痣を見られるわけにもいかず、怜央はほとんど外にも出してはもらえなかった。
怜央はいつも通り仕事を済ませ、少しの空き時間ができた。
特にやることがない時は自室以外で過ごすことを禁じられている。
半ば監禁状態だ。
怜央は自室に戻ると、急いでデュエルディスクを取り出し、自分のカードを見つめる。
5歳のあの頃から、また新たなカードが何枚も増えた。
デュエルディスクは自身の性質から自分だけのカードを生み出す。
怜央にとってモンスター達は、唯一自分が心を許せる存在だったのだ。
健吾もわざわざデュエルディスクを取り上げる必要はないと考えており、
むしろそれさえあれば大人しくしているため、都合が良かったのだ。
デュエルには相手が必要だ。
しかし健吾は当然デュエルの相手になどなってくれない。
彼は1人でデュエルのシミュレーションをすることしかできなかった。
そのシミュレーションで怜央は数々のコンボを生み出し、
自らのデッキの理解度を上げていた。
来たる「革命の日」に向けて。
「いつか…絶対にこいつで…」
怜央は自らのデッキを見つめ指先に力を入れる。
彼も現状に満足しているはずはなかった。
デュエルは彼にとって唯一の心の救いであり、"逆襲のチャンス"だった。
オースデュエル。
その存在を正しく知ったのはたまたま健吾がつけていたテレビからだった。
学校にも行かせてもらえず、情報源がテレビくらいだった怜央は、
奴隷として買われてから2年後の7歳の時にその存在を知った。
デュエルに勝利すれば相手を服従させられる。
デュエルにより決した契約を破ることは実質不可能。
それが怜央の認識だった。
怜央はこれこそ、この現状から抜け出すための希望だと考えた。
ただ家を抜け出すだけではエデンに連絡されることは察していた。
引き取られる前に院長のテレサとそのような会話をしていたからだ。
それに、もし失敗すれば、いつも受けている暴力とは比べ物にならない恐怖が待っているに違いない。
ゆえに、エデンに知られない形でこの現状から脱出する方法が必要だった。
その可能性を秘めているのがオースデュエルだった。
オースデュエルでこの家から脱出するには、健吾に自身が提示する契約内容を承諾させる必要がある。
それは簡単なことではない。
普通に考えればオースデュエルを受ける理由など健吾にはないからだ。
そのため、「怜央の解放」「口外禁止」を契約条件として飲まざるを得ない状況を作り出す必要があった。
例えば健吾の"弱み"を握ること。
その弱みが健吾にとって致命的であれば、こちらの提示した条件を飲まざるを得ない。
大切なのは「勝者が提示した契約は法的制約となる」ということと「相手にも勝機がある」ということだ。
相手の弱みを握り、それを条件に自分の要望を飲むように要求するだけでは、
自分の要求が叶い続ける保証はない。
そのためにオースデュエルによる絶対不可侵の契約が必要だ。
そしてデュエルは相手にも勝つ可能性が平等に存在する以上、
相手にも自分の要求を法的制約とする機会が生まれる。
それによって、リスクを負ってでも相手がオースデュエルを受ける理由となるのだ。
ここまでデュエルで決した契約を絶対不可侵のものとするシステムが整っているのは、
デュエルの地位を上げるためである。
これは数十年前、
デュエルを国家の根幹に据え置くことを決意したデュエリアの思想によるものだ。
逆にオースデュエル以外の方法では、何人も破ることのできない契約を結ぶことはできない。
それができてしまえば、脅迫のもと無理やりそのような契約を結ばせることもできてしまう。
オースデュエルであれば、仮にデュエル成立までの過程で脅迫という手段が採られたとしても、
デュエルで勝利すればそれに抗うことができるのだ。
怜央は逆転の機を伺い、それまで奴隷として健吾に従い続ける決意をした。
そしてある日のこと。
「クソッ!!!!」
健吾が怒り任せにちゃぶ台を蹴り上げた。
片手にはスマートフォンを持っており、誰かと通話しているようだ。
怜央はその様子を陰から見ていた。
「どうにかなんねえのか!!もう後がねえ!
これ以上の赤字は許されねえんだよ!」
健吾が電話相手に怒号を飛ばす。
怜央は電話相手は部下であることがすぐにわかった。
その部下はおそらく裏社会時代からの繋がりで、
今の健吾の『シノギ』をその部下とやっていることもわかっていた。
そのシノギが失敗しかけているため、健吾は火の車となっているのだ。
「…あぁ。……あぁ?最終手段だ?
……いや待て。ないこともねえ。だが……」
健吾はどうやら迷っているようだ。
電話を片手に廊下を右往左往している。
怜央は仕事をしているフリをしながら話に耳を傾けた。
「……いや、ある。とっておきの情報がな。
超極秘の情報だ…"裏"でもほとんどの奴は知らない。
相当高く売れるにはちげえねえ。だが…リスクが高すぎる」
どうやら情報を売ろうとしていることは幼い怜央にもわかった。
裏社会の人間の奴隷を6年もの間務めてきた怜央は、
それに対する知識や嗅覚は人一倍あった。
「…いや、ここでは言えねえ。
何せ無暗に漏らせば消される案件だからな…。
実際、俺にこの情報を教えた奴が消されてる」
「…あぁクソッ!!なんでこんなことに…!
……わかった。教えてやるよ。
簡単に言やぁ"奴隷売買"…奴隷を売ってるルートを知ってる」
怜央「…!」
その瞬間、怜央は瞬時に理解した。
彼が情報を誰かに売ろうとしていること。
そしてその情報とは、「孤児院『エデン』が奴隷売買をしている」ということであると。
健吾の発言からすると、それを無暗に教えた者は消されるということだった。
それは健吾自身にも当てはまる…だからこそ彼は怯えているのだ。
それでも赤字を挽回するためには高額な極秘情報を売らなければならない。
そのような内容の電話であることを怜央はすぐに察知した。
そして、それこそが怜央にとっての「革命の機」であることも。
同日夕刻。
怜央は健吾の目を盗み、1階の健吾の部屋の前に来た。
現在、健吾は用を足すために自分の部屋を離れており、その隙を見計らって怜央は1階に降りてきた。
自分の鼓動がどんどんと大きくなっているのが聞こえる。
ずっと待ち望んでいた機会がついに訪れた。
だが今は喜びや期待などなく、あるのは長年暴力で支配されてきたことへの恐怖心だけだ。
健吾は少しの間席を外しただけだ。もうすぐ戻ってくるに違いない。時間はないのだ。
怜央は高鳴る鼓動が響き渡る中、決心をして部屋に入る。
部屋に入ると真っ先に健吾の机へと向かう。
怜央「(あった…!)」
怜央は机にあった健吾のスマートフォンを素早く手に取る。
怜央「(…本当にこれでいいのか…?これで俺は解放されるのか…?)」
怜央は手にしたスマートフォンを見つめながら自問自答を繰り返す。
自らの意志で何かを行うこと自体、奴隷となってからの6年間では無いに等しかった。
それだけで手が震える。
自分の決定に自信が持てない。
怜央「(いや、このチャンスを逃したら終わりだ。人生変えるにはこれしか…)」
「おい、そこで何をしてる」
怜央「ッ…!」
突然の声に驚き振り返ると、そこには健吾が鬼の形相で仁王立ちしていた。
怜央は恐怖のあまり声が出ない。
健吾「…テメェ、なんで俺の携帯持ってんだ…?
勝手な事してんじゃねえ!!」
健吾が怜央に向かって勢いよく拳を振りぬく。
しかし怜央は素早い身のこなしでその拳をひらりと交わし、健吾から距離を取った。
健吾「テメェ、どういうつもりだァ!俺に逆らうつもりかァ!!」
健吾が地響きのような怒鳴り声を上げる。その姿はまるで獣のようだった。
怜央「…そうだ!俺はお前に従わない!」
怜央は震える体を必死に抑えながら、健吾を睨みつける。
彼にはすでに戦う覚悟があった。
健吾「なんだとォ…?どうやら死にてえみたいだな…怜央ォ…!
二度とそんなナメた口利けねえように俺が躾けてやるよぉッ!」
健吾は再び拳を構える。
しかしその瞬間、怜央は先ほど手にした健吾のスマートフォンを掲げる。
怜央「これ以上俺に危害を加えたら、『エデン』に言うぞ!
お前が何をしようとしてるか!」
怜央は震える手でスマートフォンに番号を打ち込み、健吾に突きつける。
それは孤児院「エデン」の電話番号だった。
健吾「あぁ…?俺が何をしようってんだ?
あぁ…もしかしてお前、あの孤児院がお前を守ってくれるとでも思ってんのか?
とんだマヌケだな…」
健吾が嘲笑するようにニヤリと笑う。
怜央「違う!『エデン』が俺を奴隷として売ったのはわかってる!
俺が言ってんのは、『エデン』が奴隷を売ってるって情報をお前が横流ししようとしてることだ!」
健吾「な、なんだと…!」
健吾の表情から余裕が消え去る。
健吾「テメェ…今すぐそいつを返しやがれ!」
健吾が自分のスマホを取り返そうと怜央に近づこうとする。
怜央「近寄るんじゃねえ!
それ以上近づいたらすぐに『エデン』に電話してやる!
電話する時間ぐらいお前から逃げながら稼げる!」
健吾「チッ…!
大体、てめえが『エデン』にチクったところでお前が助かるわけじゃねえ!
仮に俺から逃げられたとしても、『エデン』の真実を知ってるお前も消されるだけだ!
本当に頭が悪ぃクソガキだぜ!」
健吾は自身の主張が怜央にとってクリティカルなものであり、反論しようのない事実だと疑わなかった。
健吾からは笑みが零れる。
しかし怜央は一切ひるまなかった。
怜央「だから何だよ。俺はお前さえ潰せればなんでもいい。
お前に復讐さえできれば俺がどうなろうと知ったこっちゃねえ。
ここから出られねえなら死んでるのと変わらねえ…いや死んだ方がマシだ!」
健吾「…ッ!」
怜央の心の底からの叫びは、それが嘘でないと健吾に伝わるほど迫真的だった。
怜央「だが、別に俺だって道連れになることは望んじゃいねえ。
お前だって同じだろ。だから…コイツでケリ着けようぜ」
怜央はポケットから小型に折りたたまれたデュエルディスクを取り出す。
健吾「ほぉ…?デュエルで勝負しようってか?
テメェ、その意味ほんとにわかってんのか?」
怜央「オースデュエルだ。敗者は勝者に従わなきゃいけないんだろ。
もしこのデュエルを受けないってんなら、
今すぐ『エデン』に連絡してお前を道連れにしてやるだけだ」
健吾「フン、ガキが生意気に脅してんのかよ、この俺を!」
怜央「うるせえ!どうするか決めやがれ!
まさか奴隷相手にビビってんじゃねえだろうな!」
怜央にはもう恐れるものはない。完全に恐怖を振り切っていた。
健吾「(フン、何のことはねえ、こいつをデュエルで潰せばいいだけだろうが!
せいぜい部屋で1人でカードいじりする程度だった奴に俺を倒せるわけがねえ!)」
健吾「…やってやる。
ただし、俺がデュエルで勝てば、二度と俺に歯向かえねえ。
それに、他人に何かを口外することを一切禁止にする。
これでてめえは一生俺の奴隷だ」
怜央「(よし、デュエルさえ始まれば、世界なんとかかんとかって決まりで、
絶対に妨害はできないって読んだことがある…!
デュエル中に殴ったりできなければ平等に戦える!)」
「世界デュエル憲章」。
デュエルが始まれば何人たりともその妨害を行ってはならないという、
世界中で適用される国際法だ。
そのため、デュエル中の暴力行為などを行えば重罪となる。
また、デュエルは公正かつ一切の不正なく行われなければならず、わざと敗北することも許されない。
それは脅迫等を前提としたオースデュエルで相手にわざと敗北させれば
不当な契約を結ばせることができるため、それを防ぐための世界基準の規律だ。
DDASはデュエリストの思考を読み取る機能があり、
わざと敗北しようとするとその瞬間にデュエル憲章違反として通報される。
怜央「その代わり、俺が勝ったら、奴隷契約は終わりだ!
それと、俺のことを誰にも言うな!それが条件だ!」
健吾「いいぜ…お前みたいなただのガキに勝機なんざ1mmもねえ。
こっちは"実力"で裏社会をのし上がったんだ…
まともにデュエルもしてこなかった奴隷のガキに負ける理由はねえ!」
…………
健吾「ハァ…ハァ…あ、ありえねえ…この俺が…!」
健吾 LP500
怜央 LP1200
怜央「俺はこのために何年間も1人でシミュレーションしてきたんだ…。
あらゆる状況を考えて、コンボを探し、牙を研いできた。
お前をぶっ潰して、この地獄から這い上がるために!」
怜央の前には赤き目を爛々と滾らせる『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』がいる。
対して健吾のフィールドはガラ空きだ。
健吾「や、やめろ…やめてくれ…!
許してくれぇ!悪かった!もうお前をイジメたりしない!
ちゃんと息子として扱う!だから…これ以上は…!」
怜央「…」
健吾の哀れな命乞いにも怜央は一切耳を傾けない。
ただその哀れな姿を蔑視している。
怜央「許すわけねえだろ。
テメエも、そして『エデン』のクソババアも…絶対に俺がぶっ潰す」
怜央「『炎機公子(エクスプロード)』で、ダイレクトアタックだ!!」
健吾「やめろぉぉおおおおおお!!!!」
業火を纏い最後の一撃を繰り出す『炎機公子(エクスプロード)』の姿は、怒りの化身そのものだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
怜央「その日をもって俺は、奴隷という身分から解放され、自由となった。
それと同時に、学校にも行ったことがねえ11歳の身で、たった1人で生きていかなきゃいけなくなった。
エデンを潰すと息巻いてはいたが、エデンには近づかなかった。
もし見つかれば消されるかもしれねえ。せっかくのチャンスを棒に振るわけにはいかなかった。
解放されてから数年後にエデンがあった場所に行ったが、
その時にはすでに施設ごと消えてやがった。
どっからか情報が漏れたことを嗅ぎつけたんだろうな」
怜央の壮絶な半生を知り、その重みに遊次たちはただただ戦慄した。
想像も及ばぬほどの地獄。
5歳から暴力による絶対的な支配に6年も耐え続け、あろうことか自力でその境遇から抜け出したのだ。
遊次「…すげえよ、お前。
5歳から6年も一方的な暴力に耐え続けて、しかも自力でそこから抜け出したってのかよ。
想像もしてなかった。この町で、そんなことが起きてたなんて…!」
遊次は俯き、まだ整理しきれない自分の感情を言葉にする。
ドミノタウンの皆を笑顔にしたいと謳っておきながら、ドミノタウンの真の暗部には目を向けられなかったことに、
悔しさや情けなさをおぼえている。
その思いに偽りはないが、怜央の目には自分の夢が陳腐に映っても仕方がないと、遊次自身も感じている。
遊次「その後の話は、なんとなく想像がつく。
みんな自分のことばかりで他人のことなんてどうでもいい…そう言ってたよな。
多分、誰もお前を助けてくれなかったんだろ」
怜央「察しがいいじゃねえか。その通りだ。
食いもんにもありつけずにフラフラ歩いてるガキを、大人共は気にも留めなかった。
まるでそれが当たり前の光景みたいに視界にも入らねえ」
怜央は遠い目で回想する。
灯「それが大人達を、この町を許さない理由…」
怜央が語った過去から、彼のこれまでの言葉の意味をようやく理解した。
そしてそこには想像以上の重みがあったということも。
ダニエラ「怜央だけじゃない、アタイらも同じさ。子供達もね。
誰にも見向きもされなかったさ」
ドモン「上っ面では良い人間を演じていても、
どいつもこいつも腹の中じゃ自分のことしか考えてねえってことを思い知ったぜ。
だから浅ぇ綺麗事ばっか吐くセンコー共を許せなかった」
遊次「(…皆がそうじゃねえ。でもそれを言ったところであいつらの心は動かせない。
でも突破口は見つかった。あとはとにかく魂でぶつかるまでだ)」
簡単な言葉で変えられるほど彼らの過去は軽くないことを知り、遊次は思案する。
イーサン「その口ぶりだと、奴隷から解放されてから、誰にも頼らず生きてきたのか?」
怜央「誰にも頼らなかったと言えば嘘になる。だが少なくとも大人の力は借りてねえ。
解放されてからの数年間、俺は盗みでなんとか食い繋いだ。
俺以外にも1人で生きていくしかねえガキが何人もいたから、そういう奴らが自然と集まってなんとか飢えを凌いだ。
だがそんな生活をいつまでも続ける気はなかった。
結局、クソオヤジを力で捻じ伏せて自由を勝ち取ったあの時が答えだったんだと分かった。
クソみたいな現状を変えるには、力で覆すしかねえと」
怜央「そのために俺はデュエルを磨き続けた。
逃げ隠れてこそこそ盗みをやるんじゃなくて、オースデュエルで金や物資を奪うようになった。
実力が認められて裏社会を仕切ってたチームに入ったりもしたが、結局こき使われただけだ。
だからそいつらも俺が潰した」
意地でも這い上がるという執念と募る怒りが彼に力を与えたのだろう。
しかしそこには長年一人で研鑽し続けた確かなデュエルの実力があった。
怜央「誰にも従う必要のない、圧倒的な力を手に入れなきゃならねえ。
それさえあればやっと人並みの生活を取り戻せると信じた。
奪われ続けるだけの人生に終止符を打つ。誰にもナメられねえように」
怜央「そして2年前にドモンとダニエラに出会った。
コイツらも、1度全部ぶっ潰さねえと何も始まらねえことをわかってた。
だから俺はこのチームを組んだ。
報われねえガキ共がこの町にはまだまだいる。
俺はそいつら全員を引き連れて、大人共から全てを奪うことにした」
それが"Unchained Hound Dogs"の成り立ち。
1つの憎悪の火種が日に日にその勢いを増し、この町を飲みこもうとしている。
今に至るまでの怜央の過去を鑑みると、今はまだその被害も相当小さく収まっていると言える。
だがこのままチームが拡大していけば、さらにこの町の人々を脅かす存在となるに違いないと遊次は確信している。
遊次「確かにお前の境遇ならそうなっても仕方ねえかもな。
よくわかったぜ、お前の考えが。
でも…お前もお前自身をまだ理解してねえってこともわかった」
怜央「なんだと…?この期に及んでまだそんなこと…」
遊次「やっぱり今のお前は怒りに支配されてる。
そのせいで本当に見なきゃいけねえもんを見失ってるんだ」
怜央の言葉を遮り遊次は自らの思いを突きつける。
そして左腕に装着したデュエルディスクを掲げ、戦いの意思を示す。
怜央もそれに呼応するように、無言でデュエルディスクを掲げる。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------
【怜央】
LP4400 手札:1
①爆焔鉄甲 炉衛生兵(ファーネス・メディック) ATK1300
②爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード) ATK1500
③爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード) ATK2800 X素材:2
カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
□
□①②③□
フィールド魔法:1
伏せカード:1
【遊次】
LP3900 手札:0
①妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
②妖義賊-駿足のジロキチ ATK1600
③妖義賊-忍びのイルチメ ATK1500
④錬鋼操兵(アイアン・ドライバー) ATK1700
カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
□
□①②③④
◆□□★□
フィールド魔法:1
★永続魔法:1
◆Pゾーン:妖義賊-剛腕のナンゴウ
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遊次「俺は墓地の『妖義賊の復活』を除外して効果発動!墓地の予告状カードを除外する!」
■妖義賊の復活
通常魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する場合、
墓地の「ミスティックラン」モンスター1体を対象として発動する。
そのモンスターを特殊召喚する。
②:このカードが墓地に存在する場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。
自分の墓地の「予告状」カード1枚を除外する。
再び決闘の舞台の幕が開く。
灯やイーサン達もまだ考えが追い付かないまま、フィールドに意識を戻す。
怜央「(今アイツの墓地にあるのは『儀式の予告状』…。
儀式召喚する時にもし『駿足のジロキチ』をリリースされたら、
そいつがリリースされた時の効果で俺のモンスターが奪われる。
そうなったらアイツは確実に俺の爆弾が奪いに来るに違いない。それなら…)」
怜央も即座にデュエルへと思考をスイッチする。
怜央は遊次の盤面のカードの効果をすでに把握しており、起こる未来を予測する。
怜央「その効果にチェーンして『爆焔鉄甲 炉衛生兵(ファーネス・メディック)』の効果を発動!
フィールドの『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』をお前の『俊足のジロキチ』に装備する!」
遊次「そうはいかねえ!フィールド魔法『妖義賊の秘密回廊』の効果発動!
1ターンに1度、『ミスティックラン』を対象とするモンスター効果を無効にする!」
それによって怜央の発動した爆弾を装備させる効果は不発に終わり、
チェーン1で発動していた「妖義賊の復活」の効果が処理される。
遊次「『妖義賊の復活』の効果!俺が除外するのは『儀式の予告状』!
そして除外された『儀式の予告状』の効果発動!
デッキから儀式モンスターを儀式召喚することができる!」
ダニエラ「デッキからだって!?」
■儀式の予告状
儀式魔法
「ミスティックラン」儀式モンスターの降臨に必要。
①:このカードは発動後、墓地に送られる。
このカードの発動後2回目の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。
②:このカードが墓地から除外された場合に発動できる。
レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように、
自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、
手札・デッキから「ミスティックラン」儀式モンスター1体を儀式召喚する。
遊次「俺は『駿足のジロキチ』と、
お前から奪った『錬鋼操兵(アイアン・ドライバー)』をリリースし、
儀式召喚を執り行う!」
遊次「桜吹雪の舞う中に、現れたるは荒野の義賊!
儀式召喚!来い、俺の相棒!『妖義賊-ゴエモン』!」
■妖義賊-ゴエモン
儀式モンスター
レベル7/地/戦士/攻撃力2500 守備力2000
「予告状」儀式魔法カードにより降臨。
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:元々の持ち主が相手となるカードが自分フィールドに存在する限り、
自分フィールドのモンスターは相手の効果の対象にならない。
②:相手の墓地のモンスター、または魔法・罠カード1枚を対象として発動する。
モンスターカードの場合、そのカードを自分フィールドに特殊召喚し、
魔法・罠カードの場合、自分の魔法&罠ゾーンにセットする。
③:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターをリリースして儀式召喚された場合、以下の効果を得る。
元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして発動する。
そのモンスターの元々の攻撃力分、自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力をアップする。
桜吹雪と共に現れたのは、大剣を携えた戦士のモンスター。
メタリックなボディは赤と白を基調とした装甲で覆われており、光を反射して鋭く輝いている。
頭には後ろ向きのパーツがついており、まるで鳥の尾羽のように背後に伸びている。
その目は赤く光り、ただならぬ存在感を示している。
ドモン「あれがあいつのエースか…」
リアム「か、かっけぇ…」
ついに現れた遊次のエースモンスターの風格に驚く一同。
怜央「…!」
怜央はそのモンスターの効果を確認し、驚きの表情を見せる。
遊次「ここでリリースされた『駿足のジロキチ』の効果発動!
こいつがリリースされた時、相手モンスターをエンドフェイズまで得ることができる。
『炎機公子(エクスプロード)』は…『堅鉄建兵(バリケイド・ビルダー)』を素材としてるから効果の対象にできねえ。
俺が奪うのは『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』だ」
遊次「更に、フィールド魔法『妖義賊の秘密回廊』の効果を発動!
『ミスティックラン』がリリースされた時、1枚ドローできる!」
遊次がデッキからカードをドローする。引いたのは速攻魔法カードだ。
遊次「そしてチェーン1のジロキチの効果で、
お前の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』をいただくぜ」
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【遊次のフィールド】
①妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
②妖義賊-ゴエモン ATK2500
③妖義賊-忍びのイルチメ ATK1500
④爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード) ATK1500
カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
□
④①□③②
◆□□★□
フィールド魔法:1
★永続魔法:1
◆Pゾーン:妖義賊-剛腕のナンゴウ
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イーサン「うまいぞ遊次…!
真ん中のモンスターゾーンが空いてるから、全てのモンスターが横並びじゃない。
つまり、仮に怜央に爆弾を装備させられても、破壊の連鎖は2体で止まる。
1度の破壊で全てのモンスターが巻き添えを食らうことはない!」
イーサンは盤面を即座に把握し、胸元で小さくガッツポーズをする。
灯「しかもフィールドにはゴエモンがいる。このまま勝って、遊次…!」
遊次のエースモンスターの登場によって希望が湧きあがる。
ミオ「モンスターが4体も…。しかも怜央のモンスターまで奪われちゃった…」
ミオがぬいぐるみを強く抱きしめ、不安な表情を浮かべる。
リアム「大丈夫だミオ!怜央の兄貴がこんなところで負けるわけねえ!」
リアムがミオを叱咤する。
少しでも弱気なムードが流れればそれに圧し潰される気がしたのだ。
しかしリアムが口にした怜央への信頼は偽りではない。彼ならこの状況をきっと打破できると本気で信じていた。
遊次「相手から奪ったカードが俺のフィールドにある時、
ゴエモンの効果によって俺のモンスターは相手の効果の対象にならない。
つまり、お前は今、俺のモンスターに爆弾を装備することも、
『炎機公子(エクスプロード)』の効果で俺のモンスターを破壊することもできねえ!」
ドモン「なんだと…!」
相手モンスターに爆弾を装備させた後に破壊することで、破壊を連鎖させるのが怜央のデッキの特徴だ。
しかしそれを根本から封じられたことで、Unchained Hound Dogs陣営に焦りが募る。
怜央「…」
だが怜央は表情を崩さず遊次を見つめている。
それに応えるように遊次も視線をぶつける。
遊次「…もう1回聞いておきたい。お前は何のために戦ってるんだ?」
怜央「二度と誰にも奪われないためだ。そのためには奪うしかない」
遊次「そっか。じゃあ聞くけどよ…。
ただ奪われないためなら、力を示したいだけなら…なんでお前は子供たちの居場所を作ろうとしたんだ?」
怜央「…何?」
遊次の問いは怜央の意表を突いた。
遊次「ドモンとかダニエラみたいにデュエルの腕が立つ奴らは、お前の言う目的に合ってるのかもな。
でもお前のチームには子供が大勢いるだろ。その子達はチームの戦力ってわけじゃないはずだ。
じゃあなんで子供たちをチームに入れるんだ?」
勝負がつくかもしれないこの局面で、遊次は怜央の本質に触れようとしている。
遊次の思いをバトルフェイズで全てぶつけるために。
怜央「何が言いたいかわかんねえ。
俺がガキ共を拒絶する理由はねえ。ついて来たいなら来ればいい。
その数が増えれば大人共から奪うモンも増える。
そうすりゃこの町も自分達がいかに腐ってたか気づくはずだ」
遊次「…ゴエモンの効果発動。お前の墓地からカードを1枚奪うことができる。
俺はお前の墓地から『爆焔鉄甲 煙機関車(レイル・エクスプレス)』を奪う」
遊次のフィールドには漆黒の巨大な鉄塊が出現した。
怜央の言葉に対して何も言わずにプレイを続けた遊次の姿や表情も相まって、
そのモンスターは更なる威圧感を放っていた。
遊次「ゴエモンの効果発動。相手から奪ったモンスターをリリースして儀式召喚している時、
相手から奪ったモンスターをリリースすることで、
その元々の攻撃力分、俺のフィールドの全てのモンスターの攻撃力を上げる。
『煙機関車(レイル・エクスプレス)』をリリースして、
俺のモンスターの攻撃力を2000ポイントアップする」
妖義賊-士君子のブラックバード ATK3500
妖義賊-ゴエモン ATK4500
妖義賊-忍びのイルチメ ATK3500
羅針榴弾(コンパス・グレネード) ATK3500
『煙機関車(レイル・エクスプレス)』がリリースされた後、
遊次のフィールドに白い蒸気が立ち込め、フィールドのモンスターの力を底上げする。
ダニエラ「下級モンスターでさえ攻撃力3500…。
もし総攻撃を受けちまったら、怜央は…!」
ドモン「…クソッ…!このまま負けて奪われっ放しで泣き寝入りなんざ、許されねえぞ怜央…!」
濃くなってゆく敗北の色にドモンとダニエラが冷や汗を流す。
もしこのまま怜央が負ければ、自分達の野望はここで潰えることとなる。
遊次「更にPゾーンの『剛腕のナンゴウ』のP効果発動。
ゴエモンはこのターン2回攻撃を可能とする」
遊次「そこのミオって子が言ってたぜ。
お前は子供たちが感じる怒りも、自分のことのように怒ってくれるって」
怜央「…」
怜央の脳裏にはミオの顔が浮かぶ。
激しい雨の日だった。
それはある路地裏で彼女と初めて会った時の、ボロボロの姿だった。
泥だらけのくまのぬいぐるみだけを抱えている。
(私のおうちは、もう私のおうちじゃないみたいなの。)
(私、捨てられちゃったの…?)
(私…どうしたらいいか…わかんない…っ…!)
小さい体で、涙を流しながら自分のことを見つめるその姿を怜央はハッキリと覚えていた。
遊次「お前は、ただ自分の目的のために子供をチームに入れるような奴じゃねえ!
そこにお前の本当の気持ちがあるはずなんだ!」
怜央「…」
今までのように頭ごなしに拒絶したりしない。
今の怜央には遊次の言葉がしっかりと届いている。
更に踏み込まなければならない。
そのためには全力でぶつかるしかない。
遊次「子供たちも、お前の事を本気で信じてる!
お前がその子たちの気持ちを誰よりもわかってやれたから、
皆お前について行きたいって思ってるんだ!」
リアム「…!」
遊次「バトルフェイズ!
このまま攻撃が通れば俺の勝ちだ、怜央!
止められるもんなら止めてみろ!」
ミオ「このままじゃ…怜央が…」
ミオが涙ぐみ、虚ろな眼差しで怜央の背中を見つめる。
そんなミオの姿を見てリアムは思わず怜央に対して声を張り上げる。
リアム「ッ…!おい!怜央の兄貴!
ミオにこんな顔させんじゃねえよ!」
リアム「アンタ、あの時言ったよな!
泣いてる俺に、もうそんな顔は二度とさせないって!」
リアム「負けるなんて絶対に許さないからなッ!
アンタは俺にとってヒーローなんだ!!」
怜央「…!」
怜央の脳裏にある記憶がフラッシュバックする。
(顔上げろ。いつまでも泣いてんじゃねえ)
(うわっ…きったねえ…! 鼻水でベタベタじゃねえか!)
(…行くとこがねえなら俺んとこに来い。お前みたいな奴が他にもいる)
(俺がクソみたいな大人を全員ぶっ潰してやる。2度とそんなツラはさせねえ)
怜央「…二度と泣かせねえと誓った。負けるわけにはいかねえんだ」
リアムの叫びに呼応し、怜央の眼に闘志が灯る。
垂れた前髪の隙間から鋭い眼光で遊次を睨む。
遊次はそれを見てニヤリと笑って見せる。
遊次「攻撃力3500となった『妖義賊-士君子のブラックバード』で、
『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』を攻撃!」
ブラックバードが漆黒の羽を打ち込む。
その羽は『炎機公子(エクスプロード)』の方へと向かってゆく。
(俺、兄貴みたいなカッコよくて…それで…優しい奴になりたいッス!)
(兄貴は俺にとってのヒーローッスよ!)
怜央「何のために戦うか?そんなモン、1つしかねえ」
怜央「アイツらの怒りも、悲しみも…全部俺が背負って立つと決めたからだ!」
その瞬間、怜央は伏せていたカードを表にする。
怜央「速攻魔法、発動!
『RUM-エクスプロージョン・フォース』!」
遊次「ランクアップ、マジック…!」
遊次は驚くが、この土壇場でとっておきの逆転のカードを切ってきたことに興奮する気持ちの方が強く、
思わず口角が上がる。
灯とイーサンはこれから起きることに予想がつかず、目を見開いている。
怜央「『スチームアーミー』Xモンスター1体を対象に、
そのランクより1つ高いランクを持つモンスターをX召喚する!」
■RUM-エクスプロージョン・フォース
速攻魔法
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分フィールドの「スチームアーミー」Xモンスター1体を対象として発動できる。
その自分のモンスターよりランクが1つ高い「スチームアーミー」Xモンスター1体を、
対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。
②:墓地のこのカードを除外し、フィールドのモンスターを2体まで対象として発動できる。
対象のモンスターの数だけ墓地から「スチームアーミー」モンスターを選び、
対象のフィールドのモンスターに装備カード扱いとして装備する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
ドモンやダニエラ、リアム・ミオもそのカードの意味はもちろん知っていた。
敗北すらも覚悟した心の靄が一気に晴れてゆく。
怜央「『爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)』1体でオーバーレイ!
ランクアップ・エクシーズチェンジ!」
「爆焔鉄甲 炎機公子(エクスプロード)」は黒い渦の中へと飲み込まれる。
怜央「焼け焦げた鎧は血戦の証。燻る執念を憤怒の白煙へと昇華せよ!」
怜央「エクシーズ召喚!現れよ、ランク5!
『爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)』!」
逆巻く黒い渦から現れたモンスターは、黒く焼け焦げた鉄の鎧で全身を覆っていた。
その鎧にはパイプが張り巡らされており、その1つ1つから炎が噴射されている。
鎧の各部から絶え間なく蒸気が噴き出し、周囲に熱気を放つ。
肩の部分には大きな歯車、背中には大型の噴射口が装備されている。
その姿はまるで「将軍」。
そこにいるだけで、「炎機公子(エクスプロード)」とは比べ物にならない迫力と威圧感を放っていた。
遊次達はその姿に圧倒される。
怜央「『蒸機焼軍(デトネイト)』の効果発動。
X召喚に成功した時、全ての相手モンスターの効果を無効にする!」
遊次「なんだって…!」
■爆焔鉄甲 蒸機焼軍(デトネイト)
エクシーズモンスター
ランク5/炎/機械/攻撃力2800 守備力2600
レベル5モンスター×3
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがX召喚した場合に発動できる。
相手フィールドの全てのモンスターの効果を無効にする。
②:このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを破壊する。
この効果で破壊したモンスターが「スチームアーミー」モンスターを装備していた場合、
相手フィールドのカードをもう1枚破壊できる。
このカードが炎属性モンスターをX素材としている場合、この効果は相手ターンでも発動できる。
③:このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
自分の墓地の「スチームアーミー」Xモンスター1体を自分フィールドに特殊召喚し、
その後、墓地の「スチームアーミー」モンスター1体をそのモンスターのX素材とする。
怜央が効果を宣言すると、フィールドに白い蒸気が充満する。
その蒸気が遊次のフィールドのモンスターの力を奪ってゆく。
灯「効果が無効化されたら、ゴエモンの対象に取られない効果もなくなる…」
イーサン「つまり、また爆弾を装備させられるかもしれないってことだ」
怜央「『蒸機焼軍(デトネイト)』の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、
相手モンスター1体を破壊する!
お前のフィールドの『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』を対象に選択する。
更に、この効果で破壊したモンスターが『スチームアーミー』を装備していた場合、
もう1枚カードを破壊することができる!」
怜央はX素材としている「堅鉄建兵(バリケイド・ビルダー)」を取り除き、
「蒸機焼軍(デトネイト)」の効果を発動する。
灯「そんな…!」
イーサン「だが爆弾はついていないから、破壊は連鎖しないはずだ…」
イーサンは希望的観測を口にするが、当の怜央がそれをわかっていないはずがなかった。
怜央「更にチェーンして、墓地の『RUM-エクスプロージョン・フォース』の効果発動!
墓地のこのカードを除外して、フィールドのモンスターを2体まで対象にし、
そのモンスターに墓地の『スチームアーミー』を装備できる!」
怜央「俺は墓地の『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』と『鍵発射弾(キー・ロケットボム)』を、
お前の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』と『ゴエモン』に装備!」
イーサン「破壊対象に選択されたのは『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』。
そして今そのモンスターに爆弾が巻き付けられたら…」
再び連鎖する破壊の恐怖が押し寄せる。
遊次は思考を巡らせ、これから起きる未来を予測する。
そしてその結末は「破滅」だった。
遊次「(…何をしても俺のモンスターは全滅だ。それなら…)」
遊次が意を決してデュエルディスクに触れる。
遊次「速攻魔法発動!『妖義賊の即日決行』!
『ミスティックラン』1体をリリースしてデッキから『予告状』を墓地に送り、
そのカードを除外する!俺はゴエモンをリリース!」
遊次は怜央の発動した2枚のカードに対して更なるチェーンを行い、
そのコストとして自らの切り札を迷いなくリリースする。
■妖義賊の即日決行
速攻魔法
このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールド上の「ミスティックラン」モンスター1体をリリースして発動する。
デッキから「予告状」魔法カードを1枚墓地に送る。
その後、そのカードを墓地から除外する。
この効果の発動後、この効果で除外したカード以外の「予告状」魔法カードの効果は使用できない。
灯「ゴエモンを!?いや、でも…」
遊次のプレイの意図を図りかねる灯だったが、すぐに盤面を整理しその真意を理解する。
そしてそれはイーサンも同様だった。
イーサン「(『蒸機焼軍(デトネイト)』が『スチームアーミー』を装備したモンスターを破壊した時、
更に1枚カードを破壊できる。
そこでゴエモンが破壊されれば、ゴエモンに装備された爆弾も起爆し、その隣の『忍びのイルチメ』も破壊される。
ならば先にリリースすることで、自分のアドバンテージに変換したってわけか)」
そしてチェーンが解決し、チェーン3の遊次の発動したカードから処理が行われる。
遊次「『妖義賊の即日決行』で墓地に送るのは『一攫千金の予告状』!そして墓地から除外する!」
ここで除外された予告状の効果は、現在の全てのチェーン処理が解決した後に発動されることとなる。
続いてチェーン2の怜央のRUMの効果が解決される。
怜央「チェーン2の『RUM-エクスプロージョン・フォース』の効果により、
お前のモンスターに『スチームアーミー』モンスターが装備される。
俺が指定したのは『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』と『ゴエモン』だが、
ゴエモンがすでにリリースされたことで、2つ目の爆弾は対象を失った。
よって爆弾が装備されるのはお前の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』だけだ」
遊次のフィールドの『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』に
『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』が装備される。
鎖付きの爆弾同士が絡み合い、異形の様相を呈している。
------------------------------------------
【遊次のフィールド】
①妖義賊-士君子のブラックバード ATK1500
②妖義賊-忍びのイルチメ ATK1500
③爆焔鉄甲 羅針榴弾(コンパス・グレネード) ATK1500
カードの位置(□はカードが置かれていない場所):
□
【③】①□②□
◆ □□★□
※【】は「スチームアーミー」が装備されているモンスター
フィールド魔法:1
★永続魔法:1
◆Pゾーン:妖義賊-剛腕のナンゴウ
------------------------------------------
怜央「チェーン1の効果!
『蒸機焼軍(デトネイト)』の効果で『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』を破壊する!」
その瞬間、「蒸機焼軍(デトネイト)」の全身から蒸気が噴出し、辺りは熱気に包まれる。
鎧に張り巡らされたパイプから炎が噴き出し、その炎は全て「羅針榴弾(コンパス・グレネード)」へと向かい、
モンスターが破壊される。
怜央「更に、『蒸機焼軍(デトネイト)』が破壊したモンスターに『スチームアーミー』が装備されていた場合、
もう1体モンスターを破壊することができる!
『ゴエモン』をリリースしようが、結局お前のモンスターが破壊されることには変わりねえ。
『忍びのイルチメ』を破壊だ!」
「蒸機焼軍(デトネイト)」の放った炎は縦横無尽にフィールドを疾り、
炎の渦となって「忍びのイルチメ」に襲い掛かる。
イルチメは耐えきれず破壊される。
怜央「『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』が破壊されたことで、
装備されていた『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』の効果を発動!」
ここで新たなチェーンブロックが組まれ、
強制効果である『時計炸弾(クロック・ダイナマイト)』の効果が起爆する。
遊次「墓地から除外された『一攫千金の予告状』の効果発動!」
そして前のチェーンブロック中に除外された予告状の効果がチェーン2で発動される。
遊次「自分の手札が1枚以下の時、カードを3枚ドローする!」
■一攫千金の予告状
通常魔法
①:このカードは発動後、墓地に送られる。
このカードの発動後2回目の自分メインフェイズに、このカードを墓地から除外できる。
②:自分の手札が1枚以下で、このカードが墓地から除外された場合に発動できる。
自分はデッキから3枚ドローする。
怜央「3枚のドローだと…!」
まさに一攫千金といえる破格のアドバンテージに怜央は驚愕する。
墓地から除外する必要があり、手札が1枚以下の場合のみという制約があるため、
その分恩恵も大きいカードだ。
遊次の手札は0枚であるため、カードを3枚ドローする。
そしてチェーン1で発動した怜央の効果が処理される。
怜央「チェーン1の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』の効果!
お前の『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』の隣にいた『士君子のブラックバード』を破壊する!
更に同じ縦列にあるPカード『剛腕のナンゴウ』も破壊だ!」
遊次のフィールドの一番左端にいた『羅針榴弾(コンパス・グレネード)』が破壊されたことで、
その隣と縦列に存在していたカードが全て破壊される。
これで遊次のフィールドには、怜央から奪った
「爆焔鉄甲補給戦線(スチームアーミー・サプリングバトルライン)」だけが存在していることとなる。
お互いに幾度となくチェーンが重ねた、息をつく暇もない一進一退の攻防。
結果的には遊次のモンスターは全て破壊されたこととなるが、
灯とイーサンはこのターンでの勝利を期待していただけに、逆に致命傷を負わされた現状に苦い表情を浮かべている。
遊次「人のバトルフェイズで大暴れしやがって…。
何回俺のフィールドをぶっ壊せば気が済むんだ?」
だが遊次の表情からはこの死闘を心から楽しんでいるのが伺える。
怜央「何度でもぶっ壊してやるよ。
お前はどうやら、俺らが越えるべき壁らしい。
お前を越えなきゃ、俺の、チームの奴らの、怒りが報われねえ」
はじめは遊次のことをただ自分達の邪魔をする存在としか認識していなかった怜央だが、
このデュエルを通してその認識は完全に覆されたと言っていい。
遊次「子供達の悲しみや怒りを背負って立つ…それが本当のお前の原動力なんだろ。
なら、やっぱり俺の見立ては間違ってなかったんだな。
お前はただ力で支配したいだけの横暴な奴じゃねえ。
誰かのために戦える奴なんだ!」
怜央「…お前の目的がわからねえな。確かに俺が戦うのはガキ共のためでもある。
だが俺の行く道は初めから何も変わってねえ。
二度と誰にも奪われねえように、二度と奪おうなんて思わねえように、
大人共から奪ってやる。そうしなきゃ何も変わらねえからだ」
遊次の言葉と全身全霊のデュエルによって、
怜央は薄れつつあった子供達との誓いを再認識することができた。
しかしデュエルで語り合うと宣言したまだ遊次の真意は掴めずにいた。
灯「(怜央は何も変わってないって言うけど、
デュエルを始めた時と比べて、怜央の心は何かが変わってるように見える。
最初は遊次の言葉を全部拒否してたけど、今は怜央も心をぶつけようとしてる。
遊次はわかってる、そこからがスタートだってこと)」
灯は遊次の背中を見つめ、その思いを読み取る。
幼い頃から傍にいるからこそ、灯は彼の真意を理解し、彼を信じることができる。
遊次「俺が言いたいことも変わってねえよ。
怒りのままに無関係の人達からも奪うような真似して、その"先"に何があるんだってことだ」
遊次「…俺のバトルフェイズは終わりだ。だが俺のターンは終わってねえ」
遊次はデュエルディスクを構える。
第18話「憤怒の白煙」 完
怜央の真の切り札「蒸機焼軍(デトネイト)」によってフィールドを全壊させられた遊次は、
ある"召喚法"によって鉄壁の布陣を作り上げる。
遊次は怜央に新たな道を示すため、前に進まなければならないことをデュエルで伝えようとするが、
怜央は怒りをピークにまで高め、その激昂をモンスターの一撃に込める。
次回 第19話「天に弧を描く義の心」
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