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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第63話:愚者の道

第63話:愚者の道 作:

先行で上々の展開を見せたイーサンだが、ジェンの「絶鎖獣」デッキの"チェーン不可"の効果に抗えず、
切り札「絶鎖獣 レンドウルフ」のアドバンス召喚を許してしまう。

レンドウルフはチェーン不可のフリーチェーンの破壊効果+同一チェーン上の相手カードの破壊という、傍若無人なる力を持つ。
イーサンは全ての雷カウンターを消費してレンドウルフの攻撃力を極限まで下げるも、ジェンはある罠カードを発動する。
その効果によって、イーサンのモンスターは強制効果を付与され、イーサンの4体のモンスターは強制的に効果を発動させられてしまう。
それにレンドウルフが効果をチェーンすることで、一気に5枚ものカードが破壊されてしまった。
絶体絶命の状況に、Nextはただ絶句するほかなかった。


「チェーン1の『絶鎖獣 グライズバット』の効果により、手札からこのカードを特殊召喚する」

■絶鎖獣 グライズバット
 効果モンスター
 レベル3/地/獣/攻撃力800 守備力600
 このカードの①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分・相手メインフェイズに発動できる。
 このカードを手札から特殊召喚する。
 ②:墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「絶鎖獣」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを手札に加える、
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 ③:このカードをリリースして「絶鎖獣」モンスターは以下の効果を得る。
 ●このカードは戦闘で破壊されない。


現れたのは、黒鋼の装甲をまとったコウモリだった。
赤い光を帯びた双眸は細く光り、鋭い嘴が影の中でわずかに覗く。
胸から腹にかけては硬質な甲殻が幾層にも重なり、腕にあたる部位には黒い装甲が締め付くように覆いかぶさっている。
大きく広げた翼膜には赤い紋が走り、血脈のような光が脈打ちながら翼をはためかせている。
イーサンの持つ生体認証と、ニーズヘッグの持つパラドックス・ブリッジの鍵。
パラドックス・ブリッジを起動するための鍵を懸け、イーサンとジェンのオースデュエルが始まった。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/3aIvlhV
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


-------------------------------------------------
【イーサン】
LP6200 手札:3


【ジェン】
LP8000 手札:3

①絶鎖獣 レンドウルフ ATK1200(雷カウンター:1)
②絶鎖獣 グライズバット DEF600

永続魔法:絶鎖獣の先導
永続罠:絶鎖獣の覇気
--------------------------------------------------

手札のグライズバットの効果によって、ヴォルタンクモンスターに付与された強制効果が発動し、
そこにレンドウルフの効果がチェーンされたことによって、同一チェーン上にあるヴォルタンクモンスターは全て破壊されてしまった。
さらに、レンドウルフの効果の対象となった永続罠「ヴォルタンク・レールガン」も破壊された。

イーサンのターンながら、フィールドはまさに更地だ。

「絶鎖獣…読んで字の如く、チェーンを断ち切るというわけか。
だが、まだ俺のターンは終わりじゃない」

イーサンは、赤き眼をぎらつかせ立ちはだかるレンドウルフを見上げる。

(レンドウルフの攻撃力は1200まで下がっている。倒すのは簡単だ。だが…)
イーサンはジェンのフィールドの魔法・罠ゾーンに目を向ける。

(あの永続魔法は相手ターン中のアドバンス召喚を可能にする。
下手に動けばこちらがやられる)

イーサンは墓地から1枚のカードを選ぶ。

「墓地の『ヴォルタンク・ポテンショメータ』を除外し、効果発動。
墓地のLモンスターをEXデッキに戻し、そのリンクマーカーと同じレベルを持つヴォルタンクを、デッキから特殊召喚できる」

「墓地のリンク2『ヴォルタンク・ライトニングロッド』をEXデッキに戻し、
デッキからレベル2の『ヴォルタンク・モーター』を特殊召喚する」


■ヴォルタンク・モーター
 効果モンスター
 レベル2/光/雷/攻撃力1100 守備力1500
 このカード名の、②の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:自分フィールドに「ヴォルタンク」モンスターが存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚できる。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除いて発動できる。
 「ヴォルタンク・モーター」以外の「ヴォルタンク」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。


現れたのは青いモーター形状のモンスター。
外殻は精密な歯車とねじ部品が露出し、中央部に大型の回転軸が設けられている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/3jDG7gK
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

「デッキがシャッフルされたことで、ヴォルタンク・モーターに雷カウンターが置かれる」
モーターの上に白い稲妻が落ち、頭上に光の球が浮かび上がる。

雷カウンター 1→2

イーサンのデッキが再び回りだしたことで、ひとまず遊次達は一抹の安堵をおぼえる。

「墓地の『ヴォルタンク・コイル』を除外して効果発動。デッキから『ヴォルタンク』カードを1枚除外する。
『ヴォルタンク・カレントコレクター』を除外。
さらにシャッフルが発生したことで、ヴォルタンク・モーターに雷カウンターが置かれる」

雷カウンター 2→3

「ヴォルタンク・モーターの効果発動。雷カウンターを2つ取り除き、デッキからヴォルタンクを特殊召喚する。
『ヴォルタンク・アーム』を特殊召喚」

雷カウンター 3→1

■ヴォルタンク・アーム
 効果モンスター
 レベル3/光/雷/攻撃力1300 守備力1300
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
 フィールドの雷カウンターを全て取り除き、
 取り除いた分だけ対象のカードに雷カウンターを乗せる。
 ③:このカードを墓地から除外し、
 除外されている「ヴォルタンク」カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードをデッキの一番下に戻す。
 その後、戻したカードと同じ種類の「ヴォルタンク」カード1枚をデッキから手札に加える。


青いアーム形状のモンスターは、直線的な金属製の腕部を持つ。
腕には先端に大型のグリップ状の部品が装備され、複数の管や配線が側面に沿って配置されている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/SlcldTi
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「デッキがシャッフルされたことで、2体のモンスターに雷カウンターが置かれる」
雷カウンター 1→3

「俺はヴォルタンク・モーターとヴォルタンク・アームをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

リンクマーカーが次々と輝き、空間に青白いサーキットが展開する。
インダクタとエンジンの輪郭が光の粒となり、線で結ばれていく。

雷カウンター 3→1

「リンク召喚!再び現れよ、リンク2『ヴォルタンク・ライトニングロッド』!」


■ヴォルタンク・ライトニングロッド
 リンクモンスター
 リンク2/光/雷/攻1800
 【リンクマーカー:下/左】
 雷族モンスター2体
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードがリンク素材として墓地に送られた場合、
 墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードをデッキに戻し、自分はデッキから1枚ドローする。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除き、
 フィールドのカード1枚を対象として発動する。
 そのカードを破壊する。


回路が完成すると同時に、二体の光が奔流となって中央へと収束した。
眩い蒼が爆ぜ、雷鳴のような轟きとともに、天へ貫く巨大な光柱が立ち上がる。
青いボディと、飛び出た大きないくつものネジが特徴的だ。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/bK4xj8i
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「墓地の『ヴォルタンク・アーム』の効果発動。
このカードを除外し、除外されている『ヴォルタンク』カード…『ヴォルタンク・カレントコレクター』をデッキに戻す。
そしてその後、同じ魔法カードである『ヴォルタンク・リファインドサーキット』をデッキから手札に加える。
さらにこのシャッフルによりライトニングロッドに雷カウンターが置かれる」

雷カウンター 1→2

「永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』を再び発動」
フィールド一面に白いサーキットが広がる。

「リファインドサーキットの効果発動。
フィールドのLモンスター1体のリンクマーカーの数だけ、フィールドのカードに雷カウンターを置く。
この永続魔法自身に、ライトニングロッドのマーカーと同じ数、雷カウンターを置く」

フィールドに二度、鋭い雷が落ちた。
その直後、地面に埋め込まれた白いサーキットのラインが、雷光を吸い込んだかのように、眩い光を放って激しく明滅した。

雷カウンター 2→4

「永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』の効果発動。
雷カウンターを2つ取り除き、このターンもう一度ヴォルタンクを召喚できる」

雷カウンター 4→2

「手札からヴォルタンク・コンデンサを召喚」

■ヴォルタンク・コンデンサ
 効果モンスター
 レベル4/光/雷/攻撃力1600 守備力1000
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:フィールドの雷カウンターを2つ取り除き、
 相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動する。そのカードを破壊する。
 ③:このカードが墓地に存在する場合、フィールドの雷カウンターを3つ取り除いて発動できる。
 墓地のこのカードを特殊召喚する。


現れたモンスターは金属の青い円筒形の胴体を持つ。
胴体の中央から上向きに一直線に伸びる端子がついている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/NOqMzGy
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「ヴォルタンク・コンデンサの効果発動。
雷カウンターを2つ取り除き、相手の魔法・罠カード1枚を破壊する。
永続罠『絶鎖獣の覇気』を破壊」

青い円筒形の機械の二つの端子から、青い雷の奔流が迸った。
その電撃はジェンの永続罠カードを直撃し、激しい放電音と共にカードは黒焦げの塵となって消失した。

雷カウンター 2→0


「…無意味な足掻きを。
まさに、他の手段がないと知りながら、世界滅亡を目前に抵抗する貴方そのものだ」

ジェンは首を小さく横に振り、呆れたように言う。
イーサンはなんとか立て直しを図っているが、雷カウンターは使い切っている。ギリギリの状態だ。

「足掻くつもりなんてないさ。
俺はただ、1つの未来に向かって歩みを進めているだけだ」

しかし、イーサンは未だ冷静さを保ったまま、静かに言葉を返す。
遊次達は彼のその言葉に、だんだんと平静を取り戻してゆく。

「俺は、リンク2『ヴォルタンク・ライトニングロッド』と、『ヴォルタンク・コンデンサ』をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

リンクマーカーが次々と輝き、空間に青白いサーキットが展開する。
ライトニングロッドが1体の分身を作ると、3体のモンスターの輪郭が光の粒となり、線で結ばれていく。

「回路に蓄積されし電荷は、迫る魔を阻む防壁となる。
リンク召喚!現れよリンク3『ヴォルタンク・チャージリダウト』」


■ヴォルタンク・チャージリダウト
 リンクモンスター
 リンク3/光/雷/攻2200
 【リンクマーカー:左/左下/下】
 雷族モンスター2体以上
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードがL召喚した場合、墓地の「ヴォルタンク」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを手札に加える。
 ③:相手が魔法・罠カードの効果を発動した場合、フィールドの雷カウンターを3つ取り除いて発動する。
 その発動を無効にしてデッキに戻す。


イーサンの前に巨大な要塞が現れる。
壁に囲まれ、四方からはさながら最新鋭の兵器のような電磁砲がいくつも覗いている。
まるでそれは超巨大な戦車にも見える。
その外壁と砦は蒼いボディをしており、各所に巨大なボルトが付いている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/9jFDvVT
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「L素材となったライトニングロッドと、チャージリダウトの効果発動。
チャージリダウトはL召喚時、墓地のヴォルタンク1体を手札に加える。
対象は『ヴォルタンク・モーター』だ」

「チェーン1のライトニングロッドの効果。
L素材となった時、墓地のヴォルタンク1体をデッキに戻し、1枚ドローできる。
墓地の『ヴォルタンク・エンジン』をデッキに戻し、1枚ドロー。
この瞬間、デッキがシャッフルされたことで、チャージリダウトに雷カウンターが置かれる」

雷カウンター 0→1

「さらにヴォルタンク・モーターは、フィールドにヴォルタンクがいる時、手札から特殊召喚できる」

■ヴォルタンク・モーター
 効果モンスター
 レベル2/光/雷/攻撃力1100 守備力1500
 このカード名の、②の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:自分フィールドに「ヴォルタンク」モンスターが存在する場合、
 このカードは手札から特殊召喚できる。
 ③:フィールドの雷カウンターを2つ取り除いて発動できる。
 「ヴォルタンク・モーター」以外の「ヴォルタンク」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。


現れたのは青いモーター形状のモンスター。
外殻は精密な歯車とねじ部品が露出し、中央部に大型の回転軸が設けられている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/3jDG7gK
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「手札の『ヴォルタンク・スイッチギア』の効果発動。
雷カウンターを1つ取り除き、手札からこのカードを特殊召喚する」

雷カウンター 1→0

■ヴォルタンク・スイッチギア
 効果モンスター
 レベル5/光/雷/攻撃力2000 守備力2200
 このカード名の②③④の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
 お互いのデッキがシャッフルされる度に、このカードに雷カウンターを1つ置く。
 ②:フィールドの雷カウンターを1つ取り除いて発動できる。
 このカードを手札から特殊召喚する。
 ③:フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
 自分の墓地の「ヴォルタンク」カードの枚数だけ、そのカードに雷カウンターを置く。
 (最大10個まで)
 ④:フィールドの雷カウンターを3つ取り除いて発動できる。
 相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力をターン終了時まで入れ替える。


現れたのは、深い蒼を基調とした大型の装置型モンスターだった。
分厚い外殻は複雑なラインで区画化され、幾層にも重なった金属板が精密機械のように組み上げられている。
正面には太いレバー状のパーツが突き出し、その根元からは青白い放電が微かに走っていた。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/QFFwsKl
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「ヴォルタンク・スイッチギアの効果発動。
1ターンに1度、墓地の『ヴォルタンク』カードの数だけ、フィールドのカード1枚に雷カウンターを置く。
ただし置けるカウンターは最大10個までだ。
お前の永続魔法『絶鎖獣の先導』に、雷カウンターを10個置く」

突如、ジェンの目の前に白く太い稲妻が一本、大地を裂くように落ちた。
その眩い光に、ジェンは思わず右手で顔を覆うようにして目を庇った。

雷カウンター 0 → 10

「俺はヴォルタンク・モーターとヴォルタンク・スイッチギアをリンクマーカーにセット。
サーキットコンバイン!」

2体のモンスターが、地面に浮かび上がったサーキットへと入ってゆく。

「戦乱に生まれし摩擦、集いて天に轟く迅雷となる。
リンク召喚!リンク2『ヴォルタンク・パワージェネレーター』!」


■ヴォルタンク・パワージェネレーター
 リンクモンスター
 リンク2/光/雷/攻1700
 【リンクマーカー:上/下】
 雷族モンスター2体
 このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:相手がモンスターを召喚・特殊召喚する度に、そのモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 このカードが相互リンク状態の場合、この効果で置かれる雷カウンターの数は2つとなる。
 ③:フィールドの雷カウンターを3つ取り除き、自分の墓地の「ヴォルタンク」フィールド魔法・永続魔法・永続罠カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを自分フィールドに置く。
 この効果は相手ターンでも発動できる。


現れたのは、高さ約5メートルの巨大な発電機のようなモンスターだ。
全身は濃い蒼色の鋼鉄装甲で覆われ、太いボルトとパイプが多数取り付けられている。
中央の塔からは、青白い稲妻を帯びたエネルギーが上空へ噴き出し、頂上の光の輪から激しいスパークを散らしている。底部には巨大な送風ファンがあり、常に微細な電光を発している。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/A3i8gl4
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2体の蒼き鋼鉄の巨躯が放つ圧倒的な質量は、ジェンの前に強烈な迫力をもって立ち塞がった。
しかし、その眼差しはやはり揺るがない。

「待たせたな。バトルフェイズだ。
ヴォルタンク・チャージリダウトで、攻撃力1200となったレンドウルフへ攻撃!」

チャージリダウトが、砲身に高電圧の電気を充填する。
その巨体は、充満するエネルギーの負荷に鋼鉄の装甲を激しく軋ませた。
しかしその瞬間、ジェンが動いた。

「永続魔法『絶鎖獣の先導』の効果発動。
相手ターンにアドバンス召喚を行うことができる。
この効果に対して、相手は効果をチェーンできない!」

ジェンが手札から1枚のカードを表へと向けると、ジェンのフィールドのレンドウルフとグライズバットは、突如として眩い光の渦に包まれた。

「まだ、アドバンス召喚できるっていうの…」
灯は思わず、1歩後ろに身を下げた。


「呪縛に冒されし天馬よ、秘めたる本能を解き放ち、自由の空へと駆け上がれ」

「アドバンス召喚!現れよ!
『絶鎖獣 リベレートペガサス』!」


■絶鎖獣 リベレートペガサス
 効果モンスター
 レベル7/闇/獣/攻撃力2400 守備力2700
 このカードの①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分・相手ターンに発動できる。
 自分はデッキから1枚ドローする。このカードがA召喚している場合、
 その後、この効果の発動時に積まれていたチェーン上の、全ての相手カードの効果を無効にする。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ②:自分の墓地のレベル7以上の「絶鎖獣」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを手札に加え、そのモンスターを召喚する。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ③:このカードをリリースして「絶鎖獣」モンスターは以下の効果を得る。
 ●このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分の「絶鎖獣」カードは相手の効果の対象にならない。


光が収束すると、そこには漆黒の甲冑を纏った幻獣が出現していた。
そのモンスターは、神話に出てくるような白馬に、影のような青銅の鎧が装着されている。
鋭い角が額を突き上げ、たてがみは白銀に輝く。
背中には、広大な翼が夜空のように広がり、その翼は淡い紫の光を帯びていた。
特にその両の蹄と瞳は、内部から燃え上がるような紫のエネルギーを宿し、全てを射抜くかのような殺気を放っていた。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/tZ7NzLM
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イーサンは突如として現れた上級モンスターを見上げる。

「…ヴォルタンク・パワージェネレーターがいる限り、相手がモンスターを召喚・特殊召喚すれば、そのモンスターに雷カウンターが置かれる。
このモンスターが相互リンク状態の時、置かれるカウンターは2つとなる」

リベレートペガサスの巨体に、二度、鋭い雷が叩きつけられた。
しかしその瞬間、ペガサスは天を揺るがす雄叫びを上げ、迸る雷を全身から放つ紫の波動で弾き飛ばした。
そしてその頭上に、二つの淡い光が静かに灯った。

雷カウンター 10→12

「この瞬間、アドバンス召喚のためにリリースされたレンドウルフの効果発動!
全ての相手モンスターの攻撃力を0にする!」

フィールドに、蒼き衝撃波が走る。

ヴォルタンク・チャージリダウト ATK0
ヴォルタンク・パワージェネレーター ATK0

「…マジかよ、せっかく建て直したってのに…!」

思わぬ奇襲によってモンスターを全壊されても、イーサンは新たなリンクモンスターを呼び出し、場を再建した。
しかし、それでも未だ、イーサンはジェンに傷一つつけられなかった。

「…バトルフェイズは終了だ」

イーサンはただ、矛を収める他なかった。
その事実が、遊次達を再び絶望へと追いやろうとしていた。

「このままじゃ、ただ無防備になっただけだ。
次のターンでやられちまうかもしれねえぞ…!」

怜央は苛立ち混じりにジェンを睨みつける。

「オスカー以外も、こんなに強ェのかよ。ニーズヘッグってのは…!」

遊次は拳を強く握る。
オスカーへ挑むために、まずは交渉材料を可能な限り多く手に入れなければならない。
しかし、第一の壁でさえもその高さは計り知れなかった。

「…カードを2枚伏せてターンエンドだ」

(まだ動くことはできる。だが…)

イーサンは目の前で翼を広げ飛行するリベレートペガサスを見上げる。

「エンドフェイズ、リベレートペガサスの効果発動。
自分・相手ターンに1度、カードを1枚ドローする。
この効果にはチェーンできず、A召喚している場合、同一チェーン上にある相手のカード効果は無効となる」

ジェンが1枚素早くカードを引く。
イーサンはパワージェネレーターや墓地のヴォルタンク・ブーストなど、まだ使用可能な効果を温存している。
しかしそれらを使用できなかったのは、同一チェーンのカードを無効にされてしまうためだった。

「せっかくレンドウルフがいなくなったってのに、あのモンスターもそんな厄介な効果持ってんのかよ…」

遊次は改めて思い知らされた。
ニーズヘッグに挑む限り、死闘は避けられないことを。

-------------------------------------------------
【イーサン】
LP6200 手札:0

①ヴォルタンク・チャージリダウト ATK0
②ヴォルタンク・パワージェネレーター ATK0

永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット
伏せカード:2

【ジェン】
LP8000 手札:3

①絶鎖獣 リベレートペガサス ATK2400(雷カウンター:2)

永続魔法:絶鎖獣の先導(雷カウンター:10)
--------------------------------------------------

結局、なんとかイーサンはフィールドを立て直したものの、2体のLモンスターの攻撃力は0だ。
勝機があるとすれば、2枚の伏せカード。
そこに遊次達は希望を託すほかなかった。


「私のターン、ドロー」
ジェンがカードを引く。

「スタンバイフェイズ。罠カード『ヴォルタンク・オーバーライト』を発動。
雷カウンターの置かれた相手モンスター1体のコントロールを奪う。
対象は当然、リベレートペガサスだ」

■ヴォルタンク・オーバーライト
 通常罠
 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:雷カウンターが置かれた相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターのコントロールを得る。


イーサンは目の前で飛行するペガサスを指差す。
しかし、すぐにジェンは右手を前に出す。

「その効果にチェーンし、『絶鎖獣 リベレートペガサス』の効果発動。カードを1枚ドローする。
さらに同一チェーン上にあるその罠カードの効果は無効となる」

リベレートペガサスが空中で大きく翼を広げると、イーサンの罠カードを紫色の闇が覆い、その効果は無効となる。
これでイーサンの場の「ヴォルタンク・オーバーライト」は効果を失った。
イーサンは驚きを見せることなく、静かにフィールドを見つめている。

(永続魔法『絶鎖獣の先導』は、レベル7以上の絶鎖獣を手札に加える効果があるが…これにはチェーン不可の効果はない。
今この効果を使えば、奴のチャージリダウトによって無効・破壊されてしまう)

デュエルの追い風はジェンに吹いていた。それでも、イーサンは的確にジェンの一手を潰していた。
そして、すでに彼のモンスターは圧倒的な攻撃力と破壊耐性を得ている。
イーサンはどこまでも冷静だった。

(何故、その理性をもっていながら我らに抗う?
お前は、そんな男ではないはずだ)

しかし、その冷静さがジェンに強烈な違和感を与えていた。
デュエルは時に、言葉よりも鮮明に相手の心を知ることができる。
ここまで常に最適解を選び続けたイーサンが、なぜ遊次達と共にニーズヘッグの計画に無鉄砲に抗うのか。
ジェンの中で、その2つの像が重ならなかった。

(破滅を知りながら、そこに向かうことへ躊躇がない。
ただの自暴自棄だ。まるで…)

ジェンの脳裏に、かつての光景が光のように飛び込んできた。
それは、彼という人間を形作った、冷たく、濃密な記憶の連鎖だった。

FRESVELG CYBERNETICSと書かれたプレートが掲げられた部屋は、鉄の臭いが染み付いていた。
何十もの顔が、VRヘッドセットの下で青白い光に照らされている。
モニターには次々と「GAME OVER」の文字が閃くたび、周囲から呻き声が漏れた。
ヘッドセットを外した学生たちは、吐き気を堪えるように胸元を押さえ、虚ろな眼差しで床にへたり込んでいる。

しかしジェンだけは、ヘッドセットをつけたまま平然と"ゲーム"を続けている。
極限までリアルに描かれた食卓。彼はナイフを握りしめ、まるで呼吸をするように、次々と眼前の存在を処理していく。その作業に、ためらいや厭悪といった感情の痕跡はなかった。

(人格や感情を排泄し、ただ目的を遂行する。
君のような人材を求めていたのだよォ…ジェン・ズーシャ君)

耳の奥で、粘りつくような男の声が響く。
自分を見下ろす、鼻の高い金茶色の髪の男。


無数の配線と機器が唸る部屋。
若きジェンは、制御盤の前に立っていた。
足元には、数人のスーツ姿の男たちが倒れている。
ジェンがボタンを押し込むと、メインディスプレイに「ALL DELETE」の文字が、血のような赤で点滅した。
その瞬間、床に這う男の一人が、涙で濡れた手で虚しくジェンに向かって手を伸ばす。
ジェンは、その哀れな抵抗を、氷のような瞳で見下ろした。


最後に飛び込んできた記憶。それは、都市の喧騒の中で静かに立ち尽くす自分。
視線の先には、空を突き刺すようにそびえ立つ、黒い龍の形をした巨大なビルがあった。



(クロム・ナイトシェイド。彼と私はどこか似ている。
だからこそ…解せない。お前は、今の自分の行動が正しいと本当に思っているのか?)

ジェンは正面のイーサンを見つめる。
緑色のパーマヘアに隠れた表情は、その感情を読み取らせない。

(…答えはデュエルの果てにある)
ジェンは自分の手札に視線を移し、1枚のカードを手にする。

「手札から『絶鎖獣 ニブルラット』を召喚」

■絶鎖獣 ニブルラット
 効果モンスター
 レベル3/地/獣/攻撃力1200 守備力400
 このカードの①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:除外状態の自分のレベル4以下の「絶鎖獣」モンスター1枚を対象として発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 ②:相手のバトルフェイズ開始時、このカードを手札から捨てて発動できる。
 相手フィールドのモンスターの攻撃力は、ターン終了時まで300ダウンする。
 ③:このカードをリリースして「絶鎖獣」モンスターは以下の効果を得る。
 ●このカードは1度のバトルフェイズに2回攻撃できる。


現れたのは、黒鉄の装備を纏ったネズミのモンスターだ。
全身の毛は深い紅を帯び、金属の板金が肩から脚にかけて幾重にも重なっている。
頭部を覆う面当てには青い宝石が埋め込まれ、淡い光が脈を打つように揺らめいた。
背には鋭い棘状の突起が並び、四肢の爪は黒く硬質に研ぎ澄まされている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/ZZ3Mbcr
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「ヴォルタンク・パワージェネレーターの効果により、召喚されたモンスターには雷カウンターが2つ置かれる」
ニブルラットは雷に打たれた後、その身を小刻みに震わせた。

雷カウンター 12→14

「ニブルラットの効果発動。1ターンに1度、除外されているレベル4以下の絶鎖獣を特殊召喚できる。
この効果に相手はチェーンできない。
再び現れよ『絶鎖獣 チップモール』」

鋼の装甲をまとったモグラの戦士が再び姿を現す。
そしてその身にも雷が落ち、雷カウンターが2つ溜まる。

雷カウンター 14→16

ジェンのフィールドに2体の下級モンスターが現れたその時、イーサンが動き出す。

「『ヴォルタンク・パワージェネレーター』の効果発動。
お互いのターンに、雷カウンターを3つ取り除き、墓地の『ヴォルタンク』フィールド魔法・または永続魔法・永続罠カードを1枚、フィールドに置くことができる。
墓地のフィールド魔法『ヴォルタンク・カレントコレクター』をフィールドに置く」

雷カウンター 16→13

再び、2人の周囲を無機質な大きなアンテナ群が囲う。

「このフィールド魔法がある限り、俺のヴォルタンクは雷カウンターの数×300攻撃力が上がる」

ヴォルタンク・チャージリダウト ATK3900
ヴォルタンク・パワージェネレーター ATK3900

「よしっ!0にされた攻撃力が戻って来たぜ!」
遊次は拳を突き上げ、歓喜を表す。

「しかもヴォルタンクが破壊される時、1度代わりにフィールド魔法に置かれたカウンターを取り除ける。
破壊耐性のオマケ付きってわけだ」
怜央は静かに口角を上げた。

「あの人、もう通常召喚は使ったし、チャージリダウトがいれば永続魔法の効果も使えない。
アドバンス召喚まではできないはずだよね」

灯はイーサンが連ねる2体の蒼きモンスターの後ろで、両手を合わせて明るい声で言う。

「…そう甘くはないぞ」

イーサンは真っ直ぐと前を見据えそう言った。
イーサンの視線はリベレートペガサスへと向いている。
導かれるように、遊次達の視線も空中へと向かう。

「『絶鎖獣 リベレートペガサス』の効果発動!
墓地のレベル7以上の絶鎖獣を手札に加え、そのモンスターをアドバンス召喚する!」

「なっ…墓地からアドバンス召喚だと!?」

ジェンが墓地の墓地に存在するレベル7以上のモンスター。
それはたった1枚しかない。
ジェンは手札に加えたカードを表に向ける。

「ニブルラットとチップモールをリリースし、『絶鎖獣 レンドウルフ』をアドバンス召喚する!」

2体のモンスターは瞬く間に、まばゆい光の粒子となって砕け散る。
そして周囲に爆風のように強い衝撃が走る。
リリースされたモンスターに置かれていた雷カウンターも空中に霧散する。

雷カウンター 13→12

「再び現れよ!『絶鎖獣 レンドウルフ』!」

■絶鎖獣 レンドウルフ
 効果モンスター
 レベル7/地/獣/攻撃力2700 守備力2500
 このカードの①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:フィールド上のカード1枚を対象として発動できる。
 そのカードを破壊する。
 その後、この効果の発動時に積まれていたチェーン上の、全ての相手カードを破壊する。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ②:自分の墓地の「絶鎖獣」モンスターを3体まで除外して発動できる。
 このカードの攻撃力は除外したモンスターの数×1000アップする。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。
 ③:このカードをリリースして「絶鎖獣」モンスターがA召喚した場合に発動できる。
 全ての相手モンスターの攻撃力・守備力を0にする。
 この効果に対して相手は効果を発動できない。


閃光の中から、再び青銅色の鋼を纏った巨大な狼が重々しく大地を踏みしめて出現した。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Jx7zHBp
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

レンドウルフは雄々しく咆哮する。
幾度となくイーサンを苦しめた切り札が、また眼前に立ち塞がった。
イーサンの顔はより一層険しい表情へと変わる。

「パワージェネレーターの効果により、レンドウルフにも雷カウンターが2つ置かれる」

その身に2度落雷するも、レンドウルフは何事もなかったかのように微動だにしない。

雷カウンター 12→14

フィールド魔法により、イーサンのモンスターは雷カウンターの数×300の数値の攻撃力を誇っている。
しかし、今しがた現れた凶獣の前には、それはハリボテに過ぎないことを誰しもが知っていた。

「レンドウルフの効果発動。1ターンに1度、相手のカードを1枚破壊する。
この効果に相手はチェーンできない。
フィールド魔法『ヴォルタンク・カレントコレクター』を破壊」

四肢を踏み締めた巨狼は、天に向けて吠えた。
その咆哮は大気を歪ませ、地面を穿つ純粋な衝撃波へと変わる。
無機質なアンテナ群は、火花を散らす暇もなく、内部から激しく震動した。
フィールド魔法は、瞬時に微塵の鉄粉と化して崩れ落ちた。

ヴォルタンク・チャージリダウト ATK0
ヴォルタンク・パワージェネレーター ATK0

「クソッ!攻撃力が元に戻っちまった…!」

遊次が髪を乱して悔しさを滲ませる。
フィールド魔法と雷カウンターで無理やり底上げしていたものの、前のターンにレンドウルフの効果によって、2体のリンクモンスターの攻撃力は0となっていた。
フィールド魔法が破壊されたことで、再びイーサンのフィールドは無防備となる。

「レンドウルフの効果発動。墓地のニブルラットを除外し、攻撃力を1000アップする」

-------------------------------------------------
【イーサン】
LP6200 手札:0

①ヴォルタンク・チャージリダウト ATK0
②ヴォルタンク・パワージェネレーター ATK0

永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット
伏せカード:1

【ジェン】
LP8000 手札:4

①絶鎖獣 リベレートペガサス ATK2400(雷カウンター:2)
②絶鎖獣 レンドウルフ ATK3700(雷カウンター:2)

永続魔法:絶鎖獣の先導(雷カウンター:10)
--------------------------------------------------

「レンドウルフは、A召喚の生贄としたニブルラットの効果により、2度の攻撃が可能。
全ての攻撃が通れば、貴方の負けだ」

その言葉はまるで、喉元へ突き立てられた刃に等しかった。
契約解除により奇跡のように得られた2度目のチャンスが、わずか数ターンで潰えようとしている。

灯は思い出さずにはいられなかった。
オスカーに遊次が敗北したあの瞬間を。
灯の心拍数は再び急上昇する。それはまるでトラウマのように。

ジェンはイーサンの姿をじっと捉えている。
2人の視線が交わる。

「クロム・ナイトシェイド…貴方の眼は、私と似ている。
目的のためならば、いかなる犠牲をも厭わない、冷たい瞳だ」

「…失礼だな、初対面だぞ?」

イーサンは少し間を置いた後、わざと少し明るいトーンで言葉を返す。
しかしそんな態度などいざ知らず、ジェンは言葉を続ける。

「貴方はパラドックス・ブリッジの建造に携わり、コラプスを招いた。
パラドックス・ブリッジによって悲劇が引き起こされる可能性は当然、理解していたはずだ。
それでも、貴方は開発を続けた。
それが神楽天聖の意思だとしても、貴方は彼を止めなかった」

その言葉に、イーサンの顔つきが真剣なものへと戻る。

「違ぇよ!それは、大統領に脅されてたからだ!
パラドックス・ブリッジを造らなきゃ、俺の身に危険が及ぶって脅されたから…」

遊次は我慢できず、言葉を返す。
しかし、ジェンは遊次の言葉を待たず、口を開く。

「いかなる理由があろうと、事実は事実だ。
君の言葉の通りだとしても、少数の身内のためだけに、多くの者の命を危険に晒したことには違いない」

遊次は、喉の奥に熱い塊が詰まったような感覚を覚えた。
何かを言い返そうと口を開くが、適切な言葉が見つからない。

ジェンは、ただ事実のみをもってイーサンを悪だと断じようとしている。
しかし、遊次にとってイーサンはそうではない。
その「行為」だけを切り取れば、確かに悲劇の引き金となったかもしれない。
だがその深奥には、幾重にも重なる葛藤と、大切なものを守りたいという切実な願いがあったことを遊次は知っている。
その真実を、目の前の冷徹な事実にどう対抗して伝えるべきか。
その理由を明瞭に語ることができず、遊次はただ無言で歯噛みするしかなかった。

「そのような男が、なぜ我々の計画に抗う?
かつての貴方なら、世界が滅ぶと知りながら、無意味に足掻くほど愚かではなかったはずだ」

ジェンは再びイーサンへと視線を向け、心中に渦巻いていた疑念を吐露する。

「貴方には、自分の行いが愚かだとわかっているはずだ。
何が、貴方を変えた?」

イーサンの視線は宙を彷徨い、その口元にゆっくりと、しかし確かな歪みが浮かび上がる。

「…買い被りすぎだな。俺はお前が思うほど利口な人間じゃない。
それに…俺は何も変わっちゃいないさ」

それは、自嘲にも見える奇妙な笑みであり、同時に深い哀しみの影を宿しているようにも見えた。

「俺にはただ、世界を救うよりも大切なことがあるだけだ。
遊次…お前には悪いがな」

イーサンはジェンと対峙したまま、目線だけをわずかに動かし、背後の遊次に向けた。

「イーサン…」

遊次は世界の人達を救おうとしている。
しかし、共に戦うイーサンは、世界の人達ではなく、遊次や灯、怜央…自分にとって大切なものを守るために戦っている。
その隔たりが、彼の背中にわずかな影を見せていた。

イーサンはゆっくりと目線を上げ、遠くを見つめた。
その瞳の奥に、過去の日々が鮮やかに浮かび上がる。


脳裏に蘇るのは、あのどしゃ降りの光景だ。玄関先で出会った、7歳の遊次の姿。
あいつはまるで手綱のないじゃじゃ馬で、それを手懐けようとした俺もひどく若く未熟だった。

最初は、小さな反抗ばかりしていた。
朝食のシリアルをひっくり返すとか、そんな子供じみたことを何度も繰り返して。
あの頃は、ただ何かをぶつけたかったんだろう。
拗ねて部屋に籠もったときも、しばらくドアの外から声をかけ続けたっけ。
やっと出てきたと思ったら、遊次は零したシリアルを一生懸命集めてた。
不器用で、でも本当にあの頃から、遊次は遊次だった。

そんな遊次にも、仲のいい女の子ができた。
その子と話す時だけは、心の奥まで全部見せていた。
その子は、記憶を失って孤独だった遊次の心を埋めてくれる存在だった。
きっとこれからもずっと、遊次には彼女が…灯が必要なんだって確信した。

それから、Nextに怜央が入ってきた。
今でこそ少しは落ち着いたけど、最初は本当に手を焼いた。
最初の方は、依頼人に「そんなくだらないことで悩むな」なんて言い放って、その家のアイスを勝手に食ってたな。あの時は心底ヤバい奴だと思った。
けど、妙に肝が据わってて、勢い任せに見えてどこかで冷静に俯瞰してて…。
子供たちの未来を創る約束から始まり、遊次は自ら誰かの願いを背負う決意した。
怜央が来てから、遊次はもっと大きなものを懸けて戦えるようになった。


(俺にまた"居場所"を与えてくれたのは、お前達だ)

イーサンは顔を下げ、自らの顔を暗い影に沈ませた。
そして彼の脳裏に、記憶の断片が瞬きのような速度で流れ込む。

図書館の床。白衣の男。埃まみれの古文書を読み込む横顔。卓上ランプに照らされた、オレンジ色の髪。

夏のベランダ。二つの安酒の缶。夜空を仰ぐ男の横顔。その手元には、開いた研究ノート。

薄暗い部屋。膝から崩れ落ちた白衣の男。顔を覆う両手の隙間から涙が零れ、嗚咽して泣きむせぶ姿。


そして、最後に思い浮かんだのは、怜央とのデュエルの時に遊次の口から零れた言葉。

(俺が覚えてねえんだったら、じゃあ母さんはなんのために…俺をッ…!!)


それらの記憶が流れたのは、ほんの一瞬のことだった。
しかし、イーサンの胸に明確な"答え"を抱かせるには、十分すぎる時間だった。
イーサンは前を向き、ジェンと対峙する。

「愚者の道を歩もうとも、こいつらだけは守り抜く。
たとえ世界が滅んでも、この小さな希望だけは消させない」

イーサンの言葉には、はっきりとした決意が宿っていた。
しかし、それはジェンに更なる違和感を抱かせるだけだった。

「…非論理的だな。世界が滅んでも…だと?
世界が滅びれば、後ろの者達もろとも死にゆくのだ!」

ジェンは明らかに苛立ちを募らせていた。
ここまで問うても、ジェンは目の前の男を理解できずにいた。
掴もうとしてもすぐに手をすり抜ける。
彼に迷いはないように見える。その言葉は驚くほどにクリアだ。
なのに、その心の奥底がまるで見えてこない。

「"お前"の口からは、いかに世界を救うかという話が一つも出てこない。
まるで、最初から全て諦めているかのようだ。
そんな人間に、我々の計画を邪魔されるわけにはいかない!」

ジェンは声を荒げたが、すぐに冷静さを取り戻す。

「…そもそも、お前の心の内など私には関係のないことだ。
ただ目的を遂行する。それだけのこと」

ジェンはデュエルディスクを構える。

「バトルフェイズ!これで終わりにしよう。
『絶鎖獣 レンドウルフ』でダイレクトアタック!」

もしレンドウルフの攻撃が2度通れば、その時点でイーサンのライフは0となる。
遊次は心の中で祈りながら、イーサンの背中を見つめる。

レンドウルフが大きな咆哮を上げ、今にも襲い掛かろうとしたその時。

「…今のお前のモンスターに、鎖を断ち切る力はない。
ただデカいだけの犬っころだ」

イーサンは不敵な笑みを見せ、デュエルディスクに触れる。

「永続罠発動!『ヴォルタンク・コンバートライン』!」


■ヴォルタンク・コンバートライン
 永続罠
 このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:雷カウンターが置かれた相手モンスターの種族は雷族となる。
 ②:フィールドの雷カウンターを2つ取り除き、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
 そのカードをデッキに戻す。
 ③:フィールドの雷カウンターを7つ取り除いて発動できる。
 自分・相手フィールドのモンスターを素材として「ヴォルタンク」Lモンスター1体をL召喚する。


「このカードがある限り、雷カウンターが置かれた相手モンスターは全て雷族となる」

刹那、レンドウルフとリベレートペガサスの全身から、抑えきれない強烈な雷光が同時に迸った。
2体の肉体は、雷の力に耐えきれず、一瞬で物質の形を失う。
その場に残されたのは、荒々しい狼の形状を成した地を這う雷電と、優美なペガサスの輪郭を維持した光の奔流。

「なっ…」
自らのモンスターが一瞬で変貌したことに、ジェンは呆気にとられる。
しかし、この種族の変化に一体何の意味があるのか、理解できなかった。
そして、その答えはすぐに示される。

「ヴォルタンク・コンバートラインの効果発動。
雷カウンターを7つ取り除き、ヴォルタンクモンスターをL召喚する。
この時、相手モンスターもリンク素材にすることができる」

雷カウンター 14→7

「俺は、ヴォルタンク2体と、雷族と化したお前の絶鎖獣2体でリンク召喚を行う!」

「な、なんだと…」

ジェンは思わず、雷の姿に変化した目の前の絶鎖獣2体を見上げる。
瞬間、フィールドにサーキットが広がる。
レンドウルフとリベレートペガサスは雷の奔流となり、サーキットの中央上空へと吸い込まれていく。
そしてそれは巨大な稲妻の柱となり、空間を引き裂くような轟音を立てた。
さらにイーサンの2体のヴォルタンクも雷となり、大きな一つの雷轟がサーキットへと突き落ちる。

「聳え立つ要塞に雷落ちる時、神撃の力が解き放たれる」

「リンク召喚!リンク4『ヴォルタンク・サンダーフォートレス』!」


■ヴォルタンク・サンダーフォートレス
 リンクモンスター
 リンク4/光/雷/攻3000
 【リンクマーカー:上/左/左下/下】
 雷族モンスター2体以上
 このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのデッキがシャッフルされる度に、
 このカードおよびこのカードのリンク先のモンスターに雷カウンターを1つ置く。
 ②:このカードがフィールドに存在する限り、
 自分フィールドの雷カウンターの乗ったモンスターは相手の効果の対象にならない。
 ③:フィールドの雷カウンターを3つ取り除き、相手フィールドのカード1枚を対象として発動する。
 そのカードを持ち主のデッキに戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。


今までの要塞をも大きく上回る超巨大な城塞。
全身は青色の金属板で覆われ、その表面は固く研ぎ澄まされた鋼鉄の質感と、
錆一つ目立たない均整の取れたデザインが特徴である。
外殻は厚みがあるため、外敵の攻撃をも防ぐ堅牢な装甲となっている。
正面中央には大きな電気扉が設置されている。
城塞型の構造の中核部には、巨大な電磁砲が据え付けられている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/YhifH9K
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能

素材となった絶鎖獣に置かれていたカウンターがフィールドから霧散する。

雷カウンター 7→5

(フィールド魔法があれば、イーサンにまともなダメージは与えられねえ。
だからジェンはフィールド魔法を破壊した。でも、それはイーサンが仕掛けた囮…!
本当の狙いは罠カードでリンク召喚することだったんだ!)

遊次は笑みを浮かべる。
ジェンからすれば、フィールド魔法さえ破壊すれば、このターンで決着を着けられるかもしれない。
逆にフィールド魔法を破壊せず、伏せカードを破壊すれば、ヴォルタンクは高い打点を維持し、イーサンに直接攻撃はできない。
ましてや、返しのターンで大きなダメージを負う可能性が残るだけだ。

ジェンにとっては、わざわざ勝利の可能性を逃してまで罠カードを破壊する理由は薄い。
フィールド魔法を破壊する選択こそ必然だった。

あと一手で勝利を掴むはずだったジェンのフィールドは、一瞬にしてもぬけの殻となった。
さらに眼前には蒼き巨大要塞が立ちはだかっている。
ジェンはただ、言葉を呑むほかなかった。

「永続魔法『ヴォルタンク・リファインドサーキット』の効果発動。
雷カウンターを持ったモンスターがフィールドを離れた時、そのカウンターを別のカードに移す。
レンドウルフに置かれていたカウンター2つ分、サンダーフォートレスにカウンターを置く」

サンダーフォートレスに雷が2度落ちる。

雷カウンター 5→7

「サンダーフォートレスがいる限り、雷カウンターを持つモンスターは効果の対象にならない。
さらにサンダーフォートレスは、1ターンに1度相手のカード1枚をデッキに戻すことができる」

-------------------------------------------------
【イーサン】
LP6200 手札:0

①ヴォルタンク・サンダーフォートレス ATK3000(雷カウンター:2)

永続魔法:ヴォルタンク・リファインドサーキット
永続罠:ヴォルタンク・コンバートライン


【ジェン】
LP8000 手札:4

永続魔法:絶鎖獣の先導(雷カウンター:5)
--------------------------------------------------

「よっしゃぁああああ!」

まさに一転攻勢。
遊次と灯は見事な逆転に飛び跳ねる。

「ったく、無駄にヒヤヒヤさせやがって」
怜央は軽口を叩きつつも、その口角は上がっていた。

ジェンは目の前の蒼き城塞を見上げ、その痺れるほどの圧になんとか耐えている。

青白い光を纏った要塞が、低く唸るように振動する。
その前に立つイーサンの足元から、微かな電流が地を這い、空気が一瞬で張り詰める。
その静寂の中で、彼の存在だけがこの場を支配していた。

「雷電は途絶えない。
俺の"眼"を、そう簡単に奪えると思うな」


第63話「愚者の道」 完


ジェンに強く根付くオリジン。
彼は元々、ニーズヘッグのライバル企業のエージェントだった。
目的を遂行するために感情を排した、冷徹なる獣。

そんな男が何故オスカーに付き従うことになったのか。
機械同然のジェンの心を鮮烈に動かしたものは何か。

そして、イーサンの反撃が始まる。
襲い掛かる雷の砲撃に、ジェンは抵抗することができない。

決着は目に見えていた。
最後の攻撃の刹那、ジェンの脳裏に浮かんだのは、ある男の言葉だった。

「先の見えない人生が怖いか。
ならば…道は俺が創ってやる」


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