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第24話:滅亡へのカウントダウン 作:湯
怜央は不良チームGREMLINZのリーダー「ギャリガン」とのオースデュエルを制し、見事勝利した。
オースデュエルによってGREMLINZにはドミノタウンへの撤退と不干渉が命じられ、
依頼者「船頭」の依頼を解決したことになる。
そして、その日の夜。
Nextの4人と依頼者「船頭 進」はとある洋食店に来ていた。
ドモンやダニエラ、そして空き家暮らしだった子供達を含めた
Unchained Hound Dogsの面々も呼ばれ、店内は大盛況だった。そこにはリクやトーマスの姿もあった。
4つのテーブル席を1つにし、パーティのように皆が食事を楽しんでいた。
リアム「うわぁーー!俺こんなうまいメシ、はじめて食った!」
ランラン「おいしい!おいしい!!」
リアムとランランは口の周りにデミグラスソースをつけ、無我夢中でハンバーグをほおばっていた。
遊次「だろぉ!?お前ら、大人になっても絶対この味忘れないからな!
こんなハンバーグ他にないんだから!」
遊次も子供達に負けじと、ソースを口につけてハンバーグに喰らいついていた。
その姿を微笑ましそうに大人達が見つめている。
船頭「どうだ、うまいだろ。ウチの母さんのハンバーグは」
船頭が隣の席の子供達に語り掛ける。
ミオ「うん、めっちゃしあわせ…」
治「この絶妙な焼き加減と肉厚なボリューム、
そしてその素材の味を活かしながらも更に旨味を引き立てるデミグラスソース…。
料理を徹底的にまで突き詰めたお母様の努力が伺えます」
船頭「そ、そうか…。凄いな君は…」
子供とは思えぬ語彙で饒舌にハンバーグの感想を語る治に、船頭はたじろぐ。
皆がハンバーグの味に感動している中、厨房から白髪でメガネをかけた妙齢の女性が現れる。
船頭の母だ。
船頭母「皆さん、本当にありがとうございました。
こうしてまた安心して料理ができるのも、皆さんのおかげです」
船頭の母は頭を下げる。
店を襲ったのがGREMLINZというチームだったこと、
怜央がオースデュエルでリーダーを倒しドミノタウンに手出しできなくなったことなど、
一連の経緯は全て船頭と母にはすでに伝えている。
遊次「いえいえ!こんな最高のハンバーグが食べられる店、なくすわけにはいきませんから!」
遊次が笑顔で快活に答える。
怜央「すんません、白飯おかわりいいっすか!」
ドモン「俺も頼んます!」
怜央とドモンが空になった白い皿を船頭の母に突きつける。
ダニエラ「アンタら、もうちょっと遠慮したらどうだい!」
船頭母「いいんですよ。私の料理を食べてくださるお客様の笑顔が生き甲斐ですから」
船頭の母は厨房へと戻ってゆく。
その背中を目で追い、船頭はNextの面々へと向き直る。
船頭「私からも、本当にありがとう。
無茶な依頼だったのに、まさか本当に1日でチームを追い出すなんて」
遊次「いやー、全てはコイツの頑張りのおかげっすよ!」
遊次が隣の席の怜央の肩を抱きながら自慢気に言う。
灯「そうなんです!
デュエル中も、見てるこっちはめっちゃヒヤヒヤしてたのに
当の本人は余裕そうにしてて!」
灯も怜央を真っ直ぐに褒める。
慣れていない状況に困惑している怜央は、
頬をかきながら小さい声で言葉を発する。
怜央「変装したり車かっ飛ばしたり…俺だけの力じゃねえだろ。
それに、リクのことも…。本当に助かった」
怜央はイーサンの方を向き礼を述べる。
船頭「子供が拉致されかけたって?
危険な依頼だとはわかっていたが、まさかそんなことになるとは…。
本当にすまない」
船頭もリクが拉致されかけたということは聞いていた。
自分の依頼のせいで子供が危険に巻き込まれたことに責任を感じていた。
怜央「まあ、そのおかげで金ももらえるし、タダでうまいもん食えてるしな。
リクも特に怯えてる様子もねえし、今もうまそうにハンバーグを食ってる。
だから気にすんな」
この大人数での食事は船頭が感謝の意を込めてセッティングしたものだ。
当然、代金は発生しない。
怜央は厨房から戻ってきた船頭の母からライスを受け取ると、すぐに食事に集中する。
イーサン「今後のことですが、ウチの者達が今後も中央エリア付近を見張るようにします。
また別のチームが幅を利かせかねませんから」
ウチの者というのはドモンやダニエラのことだが、イーサンは細かい説明を省くためにそう表現した。
船頭「本当に何から何まですまない。
それについては依頼料とは別に振り込ませてもらうよ」
イーサン「いえ、これは自分達が好きでやっていることですから。
急に14万サークもの依頼料を提示した粗相もありますし、お代は結構です」
船頭「…そうか。すまない。ありがとう」
おそらく怜央は子供達の居場所を作るための資金として追加料金をほしがるだろうが、
イーサンは依頼人への筋を優先した。
あくまでドミノタウンの人々のために活動したいという当初の目標を忘れてはならないからだ。
子供達のためとはいえ、それを見失ってがめつく金に拘るのは違うという考えだ。
一同は食事を楽しみ、店を後にした。
船頭は店に残り、ヒノモトへ帰る前に母親との時間を過ごすようだ。
店の前で各々が話している中、1人で考え事をしている星弥に怜央が声を掛ける。
怜央「ハンバーグ、うまかったか?」
星弥「…!」
怜央が星弥に後ろから話しかける。
星弥は少し驚いた様子だ。
数日前にチームの方向が大きく変わったことで怜央とぶつかり、
それ以来ほとんど話していなかったためだ。
星弥「う、うん。めちゃくちゃおいしかった」
少しの間の後、星弥は素直に答える。
怜央「そうか。そりゃよかった。
…まだ悩んでるか?チームのこと」
怜央は星弥に本質を突いた話を切り出す。
星弥「…悩んでるっていうか、どうしたらいいかわからないんだ。
俺は怜央さんに出会って、奪われないためには奪うしかないって聞いて、そのとおりだと思ったんだ。
そのためには何でもやった。
でも、その怜央さんが急に変わっちまって、大人への怒りとかがなくなってて…」
星弥はまだ自分の思いを完璧に言語化できずにいたが、頭に浮かぶ言葉をそのまま口に出している。
しかしそれでも怜央には十分伝わっていた。
怜央「怒りがなくなったわけじゃねえ。今もずっと俺の中で疼いてる。
でも、それをぶつけるだけじゃお前らに未来はねえと気付いた。
それに…」
怜央はリアムやミオ…笑顔を浮かべている子供達を見つめる。
怜央「あいつらの顔を見てみろ。あんな嬉しそうな顔、久しぶりに見ただろ。
俺にとって一番大事なモンは、あれだ。
だから俺はあいつらがいつまでも笑ってられるようにしたい。
もちろん、お前もな」
怜央は星弥に真っ直ぐに想いを投げかける。
星弥も、怜央から直接的な子供達への思いを初めて聞いた。
大人達からの略奪やチームの抗争に明け暮れていた日々では、
そのようなことを口にする機会もなかったからだ。
星弥「…怜央さんがそこまで俺達のことを思ってたって…知らなかった。
だから怜央さんがなんで急に考えを変えたのかわからなかった」
星弥「でも…今ならわかる気がするよ。
俺も皆でうまい飯食ってる時、思ったんだ。
こんな日がずっと続けばいいなって」
星弥が目に涙を貯めながら笑みを浮かべる。
怜央「あぁ、命を賭けてでも続けられるようにする。
だから、俺達を信じろ」
星弥「…うん…!」
怜央の思いを受け止めたことで、星弥のわだかまりは解けたようだ。
1人の人の料理が、1人の子供の気持ちを変えた。
それはNextが力を合わせた結果に他ならなかった。
「ドミノタウンはお前が憎むような人ばかりじゃない」
遊次が怜央に言った言葉の意味を、怜央も少しずつ理解し始めていた。
ダニエラ「さあ皆、今日から新しい家に引っ越しだからね」
ダニエラはチームの子供達に声を掛ける。
ランラン「引っ越し?」
ダニエラ「そうさ。いつまでもあの空き家に住むわけにもいかないからね。
ここ何日か、アタイが色んなところに掛け合って、
なんとか1件だけ安い金で貸してくれるところが見つかった」
ドモンが仕事をしている間、ダニエラは新しい家を探して奔走していたのだ。
今までは自分達の行いもあり、自分達の心理的にも他の大人に頼るという気は一切なかった。
しかし新たな道を歩むと決めた以上、泥臭くどうにか頼み込んで家を探すしかなかった。
自分達の現状からしてもまともな物件は借りられないため、
人があまり借りたがらない物件を安く借りるしかなかった。
数日間に渡って交渉した結果、それが実を結んだというわけだ。
治「電気は使えるのですか?」
ダニエラ「もちろんさ!ようやく人並みの暮らしができるようになるよ。
ただし金はけっこうギリギリだ。
アタイもドモンも、それに怜央もバリバリ働いて稼がないといけない」
ミオ「じゃあ、みんなあんまり帰ってきてくれない?」
ダニエラ「そんなことないさ。
皆アンタ達を気にかけてるし、アタイもほとんどは新しい家の方で暮らすよ」
ダニエラは家庭に問題かあってチームにいる身であり、
今もほとんどチームの皆と暮らしている状態だ。
ドモン「おいダニエラ、すまねえがリクとトーマスを送ってやってくれねえか」
後ろからドモンがリクとトーマスを連れて声を掛ける。
ダニエラ「あぁ、いいよ。アタイのトラックに乗ってきな」
ダニエラはトラックを所持しているらしく、家に帰る子供達を度々それで送っていた。
リク「わー!」
トーマス「ありがとダニエラ姉ちゃん!」
リクとトーマスはダニエラのトラックに乗り込む。
ダニエラ「ドモンは新居に子供達を案内してやってくれるかい?」
ドモン「あぁ、わかった」
帰る居場所のない子供達はダニエラが貸りた新居へとドモンが案内することになった。
子供達はそれぞれの帰る場所へと帰り、残ったのはNextの4人だけとなった。
遊次・灯・イーサンが話していると、向こうから怜央が歩いてきた。
遊次は怜央に声をかける。
遊次「やったな怜央。初仕事なのに大手柄じゃねえか」
怜央「こんぐらい当然だ。これからもっと稼がなきゃならない。
ってことは、さらに危ない仕事も増えるかもしれねえんだぞ」
怜央が淡々と言ってのけた言葉が遊次にとっては嬉しかった。
遊次「(…やっぱり、怜央はもっと先を見てるんだ。
子供達を良い未来に導くために。そのためには…)」
遊次「そうだな。俺らももっと血眼になって仕事取りに行かねえとな!」
イーサン「そのことだが、もっとでかい仕事を取るためには、
ドミノタウンだけに居続けるわけには行かないと思うんだ」
灯「…どういうこと?」
イーサンが切り出した話の意図を他のメンバーは理解しきれなかった。
遊次「でも、俺はドミノタウンの皆を元気にしたくてやってるんだぜ?
確かに他の町の人だって助けられたら嬉しいけどさ…」
イーサン「早とちりするな。何も場所を移すわけじゃない。
もちろんドミノタウンの人達のために俺らはこの事務所を立ち上げた。
それでも子供達を養うって目標も生まれた以上、
他の街の人達の仕事も受けられるようになれば、資金面では助かるのも確かだ」
遊次「まあ怜央も加わったし、金がいるのは間違いないけど…。
他の街の仕事までやる余裕あるかな。
そっちにかかりきりになったらこの町の人を助ける人手がなくなったりとか…」
遊次の目標はあくまでもコラプスの時に遊次を助けてくれた人達や、
今も苦しんでいる人達の助けになることだ。
遊次にとってそこをブレさせるわけにはいかなかった。
イーサン「そうならないように努力するさ。
それでももっと都市部で大口案件を取らないと、まずこの仕事を続けること自体難しくなるんだ」
怜央「間違いねえ。
最低ウン百万稼ぐって言った以上、金に関しては譲らねえぞ」
イーサンと怜央の言葉が所長である遊次の肩にのしかかる。
遊次はすでに何人もの人生を背負っている。
その責任を遊次はかつてなく感じる。
遊次「…そうだな。イーサンの言う通りだ。
長くこの町の人達を助けるためには、他の街で仕事を取ることも大事だ」
灯「私もそう思う。それで、何か案はあるの?」
イーサン「まずは宣伝だ。
名前を売り込んで必要な時に電話とかメールで仕事の依頼をしてもらえれば、
その時に向こうに出向くこともできるし、向こうから来ることもあるだろ。
とにかく、まずは売り込むところからだ」
遊次「売り込むって、どこに?」
イーサン「決まってるだろ。この国の首都…『メインシティ』さ」
ドミノタウンは首都メインシティから少し離れた田舎町だ。車でも2時間はかかる。
その名を聞くと灯が反応する。
遊次「やっぱそうだよな。灯はメイン出身だし、色々教えてくれると嬉しいぜ」
灯「うん。って言っても小さい頃だし、そこまで詳しいわけじゃないけど…」
当然のように話しているが怜央にとっては初耳だった。
怜央「そうだったのか。てっきり全員ここ出身だと思ってたが」
灯「ううん、私は12年前…小3の時にこの町に引っ越して来たんだ。
親がコラプスの復興を手伝うためにね」
怜央「そうだったのか」
怜央「(なら灯はコラプスを見たことがねえってことか…)」
怜央は新しい仲間のパーソナルを初めて聞いたような気がした。
Nextに入って以来、一気にここまで駆け抜けてきたため、深い話をする機会もなかったのだ。
イーサン「メインシティに縁があるのは灯だけじゃないだろ。遊次、お前もだ」
遊次「…え?なんかあったっけ?」
遊次には心当たりがないらしい。
イーサン「なんで忘れてんだ!
3年前のヴェルテクス・デュエリア!お前はその本戦に出てるだろ!」
怜央「なっ…なんだと!?」
イーサンの言葉を聞き怜央は耳を疑う。
遊次「あぁ…いや、本戦に出たっつっても初戦敗退だぞ。そんな自慢できるもんじゃ…」
怜央「アホか!!お前、どんだけやべえかわかってねえのか!?
デュエリア中のデュエリスト…何万人の中の頂点を決める大会だぞ!お前はそのベスト16だ!」
怜央は目を見開き遊次の肩をゆすりながらその規模の大きさを力説する。
ヴェルテクス・デュエリア。
4年に1度、デュエリアで開かれる世界で最大規模のデュエルの大会だ。
3年前…前回大会で遊次は予選に勝ちあがり、メインシティで開かれる本戦に出場していたのだ。
怜央はまさか遊次がそこまでの実力者であることを知らなかった。
遊次「まあ確かにそうだけど…。
初戦でディエボラって奴に負けちまって…俺、めちゃくちゃ悔しかったからさ。
だから、すげえことってあんま思ってなかったんだ」
灯「逆に怜央は知らなかったんだね、遊次が本戦出場者って」
怜央「まともにニュースも観れる環境じゃなかったし、詳しいことは知らねえ。
だがさすがにベスト16がやべえことぐらいはわかる」
灯「あっ…そっか。そうだよね」
軽く話を振ったつもりだったが、怜央の境遇について思わぬ地雷を踏んでしまい、
灯は申し訳なさそうにする。
イーサン「で、そのヴェルテクス・デュエリア本戦出場者がデュエルでお助けしますって謳えば、
メインシティでも相当な宣伝文句になると思うんだ。実はそっちが狙いでな」
遊次「なるほどな…確かに宣伝文句にはなるか。考えもしなかったぜ」
灯「前から打ち出しておけば、今頃もっと仕事あったかもね…」
へらへらとしている2人に怜央は呆れて物も言えなかった。
怜央「そういえば来年の大会は?そもそもいつから始まる?」
ヴェルテクス・デュエリアの出場資格は15歳以上であることだ。
3年前の怜央はその条件を満たしておらず世相にも疎いことから、あまり興味を持っていなかった。
イーサン「応募者数十万人から、
事前の審査やAIとのデュエルで勝ち抜いた数万人だけが予選に出られる。その予選は来年だ。
予選は16都市で行われる。ドミノタウンもその内の1つだ。
大体1予選に確か…448人が参加して、ランダムにマッチした人とデュエルしていくんだが、
1回でも負けたら脱落。だから数時間で14人にまで振るい落とされる。
そっから前大会の予選通過者とかがシードとして参加…って感じだな」
イーサンは淡々と説明する。
以前に遊次が参加した時も手続きやルールの把握に手間取ったことがあり、
遊次に教えるためにもイーサン自身が細かいルールを把握していた経緯がある。
応募者数十万人の時点で各々がデュエルでぶつかる訳にはいかず、
まずは明らかにレベルの低い者を落とすために、事前の審査が行われる。
その後段階的にレベルが上がってゆくAIとのデュエルによって、数が絞られる。
AIにすら勝てなければ予選で勝ち上れるはずもないからだ。
怜央「…ってことは、遊次はシード枠ってことか…!?」
遊次「あ、マジ?そうなの?ラッキー!
あのめちゃくちゃ大変なAIとのデュエルとかやんなくていいのか!?」
遊次も前回が初出場であり、シード云々を気にしていなかったのだ。
自分がシード枠であるという自覚は全く持っていなかった。
遊次は生身の人間とのデュエルにしか興味がなく、AIとのデュエルはあまり乗り気ではないらしい。
怜央「呑み込めねえ…コイツがそこまで実績がある奴だったとは…」
遊次は約1000人の実力者がひしめき合う予選を勝ち抜き、
ドミノタウン代表として本戦に出場したことになる。今まで当たり前のように接してきた遊次が
そこまで世界的にも実力のある人物だったというギャップに、怜央は慣れることができなかった。
怜央「今回の大会はお前らは出るのか?」
怜央は他3人に問いかける。
遊次「もちろん俺は出るぜ」
イーサン「俺はパスだ。仕事があるんでな」
灯「私はあんまり出るつもりなかったけど…。うーん…どうしようかなって感じ」
意思が決まっている遊次とイーサンと違い、灯は迷っているようだ。
遊次「怜央はどうすんだよ?お前、今17だよな?参加資格満たしてるだろ」
遊次の問いに、怜央は真剣な表情で応える。
怜央「もちろん出るに決まってる。
なにせ…優勝者はどんな願いでも叶えられるんだからな」
「優勝者の願いを1つ叶える」
シンプルだが、これがヴェルテクス・デュエリアの最大の特徴と言ってもいい。
デュエリアがこのような大会を開催することに決めたのにも、深い考えと歴史があった。
怜央「優勝できれば、ガキ共の居場所を作ることなんか簡単だ。
それに、まともに学校に行かせたり…俺の求めてるモンが全部叶うはずだ」
イーサン「叶えられる願いは1つだがな。
それも、デュエリア政府が物理的に叶えられるものと、法律の範囲内での話で。
それでも、子供達を一生サポートするとか、一生暮らしに困らないだけの金とかは朝飯前だろう。
実際いくらでもやりようはある」
---------------------------------------------------------------------------------------
ヴェルテクス・デュエリア。
デュエリアにて4年に1度開催される世界最大のデュエルの大会。
政府によってこの39年間で9度開催されている歴史ある大会。
次回は来年開催される第10回大会だ。
デュエリア国籍を持つ15歳以上のデュエリストが参加可能。
優勝者には「政府が実現可能な願いを1つ叶える」という権利を手にする。
この大会の開催および優勝者の願望の実現は、
DDASから政府に課せられた契約であり、政府も破ることはできない。
法・経済面から「実現可能である」と判断された願いは、
例えそれがどんな悪辣な願いであれ、政府は履行する義務が生じる。
40年ほど前から、世界はあらゆる軍事を縮小し、デュエルこそが力となり、
デュエルの強さが国家の強さに直結することとなった。
国民は「どんな願いでも叶える」という最上の報酬が与えられることで、
この願いを求めて様々なデュエリストが腕を磨き、デュエリアの発展に寄与する事となる。
どんな願いも叶えるという性質上、国家にとっても非常にリスクはあるが、
そのリスクを取ってでもデュエリア全体の国力を底上げするために先人が当大会の開催を決定した。
他国にはこのようなリスクのある政策を行う事はできず、
今更行ってもデュエリアには遠く及ばない。
それにより世界の腕の立つデュエリストが『願い』を求めて
デュエリア国籍を取得しデュエリア国民となる。これにより、
他国から強いデュエリストを奪い、自国を強化するという仕組みが出来上がる。
これこそヴェルテクス・デュエリアが開催されることとなった理由だ。
---------------------------------------------------------------------------------------
遊次「俺も、3年前にドミノタウンの復興のために参加した。今年もそのつもりだ。
この町はまだまだ復興に時間がかかる。
だから…せめてコラプスが起きる前ぐらいの状態まで、この町を戻したいんだ」
灯「…」
遊次がNextを始めたのも、コラプスがきっかけで人々の笑顔が失われたことがきっかけだ。
その思いを13年間変わらず抱え続け、遊次はここまで来た。灯はその思いを誰よりも知っている。
遊次「でも、それだけじゃねえ。
何より、めちゃくちゃつえー奴らが集まるんだ!そんなの、出るに決まってんだろ!」
遊次は屈託のない満面の笑みを見せる。
遊次にとって、どこまでいってもデュエルは楽しいものだ。
いかに大切なものを賭けた戦いであろうとも揺るがないほど、それは絶対の価値観だった。
灯「ふふ、それでこそ遊次だよ!」
灯は遊次に笑顔を向け、遊次も微笑み返す。
遊次「3年前、本戦の会場のドームでディエボラって奴と戦った時も、すげえ楽しかったんだ。
あんな大舞台で、最高に面白いデュエルができる。子供の時から絶対出てやるって思っててさ。
だからこそ、負けた時は人生で1番悔しかったけど…今度は負けねえ!
絶対に優勝してやる!」
遊次は拳を握り、固く誓う。
数万人が争う大会で優勝と言う言葉を口にできるだけでも凄いことだと灯は感じた。
それを実現できる自信がなければ絶対に口にできない言葉だからだ。
遊次「あ!そういえば、メインにはいつ行くんだ?」
遊次は突然思い出したようにイーサンに問いかける。
来年の大会よりも、まずはNextの宣伝活動に意識を向けなければならない。
イーサン「週末にしようと思う。人が大勢いる日の方がいいし、まだ色々準備に時間もかかる」
灯「皆でいく?その日は事務所を空けることになっちゃうけど」
イーサン「皆にも協力してもらいたいし、全員で行こう。
2回目からは誰かは事務所に残るようにしようか」
怜央「宣伝って具体的にはどうするんだ?」
イーサン「フッ、よくぞ聞いてくれた。
すでに作戦は考えてある。でもそれは当日のお楽しみと行こうじゃないか」
イーサンは得意げに胸を張りながら夜空を見上げる。
遊次「『妖義賊-怪盗ルパン』でダイレクトアタック!」
少年「うわ~~!!」 LP0
都会の街中にある公園の噴水広場。そこにNextの4人はいた。
周りには大人も子供も集まっており、かなりの賑わいをみせている。
遊次は高校生ほどの少年とデュエルをし、今その勝負がついたようだ。
少年「くそー、お兄さんめっちゃ強いな!
やっぱヴェルテクス・デュエリアのベスト16は伊達じゃねーや!」
金髪の少年が芝生に尻もちをつきながら頭をかいて笑っている。
遊次「へへ、まあな。でもお前もいい腕してるぜ!楽しかった!またやろうな!」
遊次は少年に笑顔で手を差し伸べる。少年も笑顔でその手を握る。
デュエルが一段落すると、遊次の後ろから
顔の部分だけ出た緑のティラノサウルスの着ぐるみを着て、イーサンが声を張り上げる。
イーサン「さあさあお立合い!
ヴェルテクス・デュエリアベスト16の神楽遊次に勝てたら、豪華賞品をプレゼント!」
灯「参加条件は、デュエルの後に『なんでも屋Next』のことをSNSで発信するだけ!
もちろん、観戦するだけでもオッケー!さあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
黄色いプテラノドンの着ぐるみを着た灯も、
「なんでも屋Next」と書かれた大きな看板を持ちながらイーサンに負けじと大声で呼びかける。
怜央「……」
ただ1人怜央だけは、黒いステゴサウルスの着ぐるみを不服そうに着ながら黙っていた。
イーサン「おい怜央、いい加減観念しろ。これも仕事だぞ」
怜央「アイツは着てねえのに…」
怜央は唯一着ぐるみを着ていない遊次を睨みながら、ぼそっと愚痴をこぼす。
イーサン「この着ぐるみは子供達の目を引き付けるために重要なんだ。
そうすれば親御さん達にアピールすることにも繋がる。わかったらさっさとやれ」
イーサンは小声で怜央に早口で伝えると、再び呼びかけに戻る。
怜央「クソッ…これもあいつらのためと思えば…。
……さ、さあ!ヴェルテクス・デュエリアベスト16・ドミノタウンのなんでも屋Next所長、
神楽遊次に挑む勇気あるチャレンジャーはいねえか!いたら名乗り出ろぉ!」
怜央も吹っ切れたように周囲へ大声で呼びかける。
Nextは週末、予定通りメインシティへ来ていた。
ここはメインシティの都会の真ん中に位置する大きな公園。
その芝生の広がる噴水広場で彼らは宣伝活動の真っ最中だ。
彼らの背後にはお菓子や家電などの景品が並べられている。
これはここ数日でイーサンがドミノタウンの町中からどうにかかき集めたものだ。
デュエルに勝てばプレゼント、
ただしデュエルが終わった後にSNSでNextについて宣伝をするという条件付きだ。
単純に公園でこの光景を目にした人に対しても宣伝効果がある。
ドミノタウンとメインシティは距離があるため、
直接的にメインシティの人達にのみNextをアピールしても、
実際に足を運ぶまでに至る可能性は少ない。
しかしインターネット上の投稿であればドミノタウンや近い都市の住人へのアプローチにもなるため、
このような戦力をとることにした。
ホームページには電話での相談や出張も可能であることを記載し、
ヴェルテクス・デュエリアベスト16の遊次が所長であること、
その彼がデュエルで数々の困難な依頼を解決してきたこともしっかり記載している。
まずは知名度を上げることと、ホームページへのアクセスに導くことを最優先にしたということだ。
女性「はーい!次アタシがチャレンジしていいですかー!」
灯「どうぞー!」
遊次のデュエルによって観客も盛況をみせ、チャレンジャーは途切れない。
その光景をSNSへ投稿する者も多く、宣伝効果は抜群だと言えるだろう。
「ん…?何かやってるのか…?」
その光景を遠巻きから不思議そうに眺める一人の大人の女性がいた。
紺色の髪のロングヘアで、眼鏡をかけスーツを着ている。
年齢は30代前半に見える。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/PcgqjpN
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
彼女からは観客達が何やら盛り上がっているということ以外見えていない。
彼女が広場へと歩みを進めると、その中心でデュエルしている遊次を目にする。
「……ッ!神楽…遊次……!」
その姿を目にした瞬間、女性の表情は一変する。
その表情は憎しみや怒りに満ちている。
遊次は彼女の存在には気づかず、デュエルを楽しんでいる様子だ。
女性は遊次のその心から楽しそうにしている表情を見て、さらに怒りを募らせる。
「何も変わってないのね。
今度こそあなたを潰して、私が…」
女性は低いトーンで呟くと、公園を跡にした。
そして日が沈み始め、公園にいる人だかりも数を減らし始めた頃。
着ぐるみと誰にも渡すことのなかった景品を片付け、
大荷物を持ちながら夕日が照らす街並みを歩き、4人は駐車場へ向かっている。
遊次「いやー楽しかったなー!あんなにデュエルしまくったのも久々だぜ」
灯「ふふ、よかったね」
灯は心底嬉しそうな遊次に笑顔を送る。
怜央「お前はいいよな、デュエルしてただけなんだから。
こっちは暑苦しい着ぐるみ着せられて、ずっと大声出してたんだぞ」
イーサン「まあいいじゃないか。そのおかげでみんな盛り上がってくれたし、宣伝効果もバッチリさ。
早速ホームページのアクセス数は昨日までとは段違いに上がってる」
イーサンは携帯で常にホームページに張り付きアクセス数をチェックしている。
灯「ほんと!?よかった!じゃあ定期的に続けなきゃね」
怜央「今度からは誰かが事務所に残るんだろ。じゃあその大役は俺が務める」
遊次「お前1人だと依頼者の人にすげー失礼なこと言いそうで怖いんだけど…。
てか、着ぐるみがイヤなだけだろ」
4人は他愛もない話をしながら歩いている。一番後ろを歩いていた灯が、ふと足を止める。
灯はある大きな広告看板を見上げていた。
そこには、金髪のショートカットの女性…世界的モデル「七乃瀬美蘭」の姿があった。
デュエルディスクを開発した企業「ニーズヘッグ・エンタープライズ」の看板であり、美蘭はその専属モデルだ。
灯「(…あの子は、上ったんだ。自分の力で)」
前を歩く遊次・イーサン・怜央。
灯が立ち止まっていることに遊次が気付き、振り返る。
遊次「灯?どうした?」
遊次の声でイーサンと怜央も振り返る。
灯は少しの間遊次を見つめた後、前を向く。
灯「私、出たい。ヴェルテクス・デュエリアに」
少しの間が空いた後、遊次が答える。
遊次「おう!じゃあ俺も怜央もライバルだな!」
同じくヴェルテクス・デュエリア出場を決めている怜央の肩に肘を置きながら、
遊次は灯に笑いかける。
怜央「言っとくが手加減はしねえ。誰が相手でもな」
灯の挑戦を真正面から受け止める彼らに灯も応じる。
灯「…うん!私も全力で戦うから!」
灯は右手の拳を突き出す。
イーサン「予選は2日間。1日目の時点で14人にまで絞られる。
遊次はシードだから2日目からの参戦だが、灯と怜央はまず1日目が関門だ。
…気合入れていけよ」
出場者ではないイーサンは若き2人にエールを送る。
灯「うん!」
怜央「おう」
予選開始は来年の上旬だ。
目下の目標はNextの発展。
大会に向けて腕を磨きながらも、自分達の夢を叶えるために、毎日1歩ずつ前に進んでいかなければならない。
彼らが刺激的かつ平穏な日常を過ごその裏で、
いくつもの影が動き始めていることを彼らは"まだ"知る由もなかった。
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デュエリア国立エネルギー研究所
そこはデュエリア政府管轄の国立研究所。
その内部は広々とした空間が広がっている。
研究所の上部中央には、巨大なドーム状の観察室が設けられており、
その中には神秘的な眩い光を放つオレンジ色に輝くエネルギー体が浮かんでいる。
ドームの周囲には、最新の研究設備が並び、
数十台のコンピュータ端末がエネルギーの解析をリアルタイムで行っている。
壁面にはモニターが設置され、エネルギーの動きや変化が詳細に映し出されている。
研究員たちは白い実験用コートを身にまとい、
絶え間なくデータを記録し、新たな実験の準備を進めている。
大統領「マキシム・ハイド」は
研究所の中央で神々しく光を放つオレンジ色のエネルギー体を見上げている。
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その傍らにいるのは、この研究所の所長であり、科学分野の世界的権威「Dr.オクトー」。
紫の無造作な髪に白いひげをたくわえ眼鏡をかけている、背の小さな男だ。
研究者らしい白衣を纏っており、そのよれた皺からは年季が感じられる。
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マキシム「やはりいつ見ても美しいな」
ドームの中でオレンジ色に輝く光を見てマキシムは呟く。
オクトー「美しい、か。
君のそれは、人間が本能的に持つ価値観に基づいた、いわば『身体的反応』だろう。
浅い…実に浅いよ。
例えば、電子殻のエネルギー状態が離散的に並ぶハミルトニアンの固有値分布や、
ナノスケールでの相転移に伴う臨界現象のスケーリング則の一致のほうが、 遥かに美しいといえる。
自然界の設計には、人間の感性を凌駕する完璧で合理的な美しさが宿っているのだよ」
オクトーは猫背の姿勢で自分より数10cm背の高いマキシムを見上げ、
眼鏡を上げながら不可解そうに返す。
マキシム「Dr.オクトー、美的感覚について君に同意を求めることはない。
今のは独り言だ、安心してくれたまえ。
それより、エネルギー吸収の効率化装置の開発は順調かね?」
マキシムはオクトーの言葉を軽く片手であしらうと、この研究所に視察に来た本題を切り出す。
オクトー「えぇ、もちろん。
この15年間で私があなたのオーダーに1度でも応えられなかったことなどあったか?」
マキシムがデュエリアの大統領となって約15年。
オクトーはマキシムの就任当時から、
マキシムの望む世界改革のためのエネルギー研究に大きく貢献してきた。
マキシム「ガハハ!いや、ない。むしろ必ずオーダー以上のものを持ってくる。
今回も期待しているよ。
なにせ、ヴェルテクス・デュエリアの開催が近い。
特に本戦の舞台は大きな"デュエルエネルギー"が発生するからね」
デュエルエネルギー。
マキシムは眼前に輝くオレンジ色のエネルギー体をそう呼んだ。
オクトー「デュエルエネルギー…。
デュエリストの感情の昂りによってデュエルディスクから発せられるその類稀なるエネルギーは、
元ニーズヘッグ役員としての知見を持つハイド大統領が発見し、
今や世界のエネルギー問題の解決策として名高い。
ハイド大統領の実績として今後の歴史で最も語り継がれるもの…でしょう?」
マキシム「ガッハッハ!わかっているじゃないかオクトー君!
君はいつからそんなに褒め上手になったんだね!」
Dr.オクトー「いや、あんたがいつも酔うと毎回のように自分の功績を何時間も語るんだ。
だからつい覚えてしまっただけのことさ」
オクトーは大統領に対しても崩した言葉で返していることから、二人の親密さが伺える。
マキシム「そ、そうなのか…?全く覚えておらん…。
私は酔うとそんな自分語りばかりしているのか…?」
Dr.オクトー「えぇ。もう聞き流すことに慣れたがね」
肩を落とし、しゅんとするマキシムにオクトーが話を振る。
Dr.オクトー「それにしても、最近退屈な研究ばかりで興が乗らなくてね。
私が求めているのはもっとドーパミンが滝のように出る…そんな刺激的な実験だよ。
それこそ、7年前のデュエルエネルギーによる不死の実験のようなね。
あれは思い出すだけでも心躍る…」
オクトーが目を瞑り過去の記憶に浸る。
マキシム「世界のエネルギー問題の解消を退屈と言ってのけるとは、世の科学者達が許さんぞ。
だが…もしかすれば君が心躍るような革新的な研究が実現するかもしれない」
オクトー「ほぉ?」
マキシム「デュエルエネルギーは他のエネルギーとは違い、人間の心から発せられるものだ。
その性質が世界を救う。
それこそ、地球に迫る未曾有の危機でさえも"消し去る"ことができる…私はそう考えている」
マキシム「今はまだ盤面が整っていないし計画も私の頭の中にしかないが…もしそれを実現する日が来れば、君に協力を願い出るよ」
オクトー「世界を救うなどという大義名分には残念ながら興味がない。大事なのは面白いかどうか、唯一つだ」
オクトーはマキシムに指を突き立てて宣言する。
マキシム「なら世界を救う研究ではなく、こう言い換えたらどうかな?
"人を書き換える"研究と」
オクトー「……! ぜひ盤面とやらが整うことを願うよ、大統領閣下」
オクトーはマキシムの言葉を聞きニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
マキシム「盤面は私次第では変わらない。駒の方から動いてくれなければね。
それまでは従来通り進めるとしよう。
『モンスターワールド侵攻計画』を」
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ニーズヘッグ・エンタープライズ本社 79F シークレットルーム
メインシティの中央に堂々と佇む黒き龍の形をした高層ビル。
それはデュエリアのシンボル「ニーズヘッグ・エンタープライズ」の本社だ。
約50年前にヘックス・ヴラッドウッドが創設し、デュエルディスクの開発により、
それまで1カードゲームに過ぎなかったデュエルモンスターズを世界に普及させた企業だ。
このデュエルディスクは、ソリッドヴィジョンによってより実体的なデュエルを可能とするほか、
個人の性質からオリジナルのカードを生み出すのが特徴だ。
これが、全ての人類が独自のデッキを使って戦う現代のデュエルの在り方を決定づけることとなった。
そしてデュエルで法的契約を結ぶ「オースデュエル」も、
ニーズヘッグが当時の政府に提案したことで実現した。
今や世界はオースデュエルを武力の代替とし、世界から兵器を廃絶するに至った。
たった50年で世界の構造さえも根底から変えてしまった功績こそが、
ニーズヘッグを世界一の企業たらしめる要因である。
そしてこの龍の目に位置する79Fには、何重ものセキュリティに守られた一室がある。
黒を基調とした部屋は、異様に静かでその空気は重厚だ。
部屋の中央には巨大なモニターがある。
そしてその部屋への入室を唯一許されている4人が、今一堂に会していた。
彼らはニーズヘッグの中でも"裏"の任務を行うために選ばれた精鋭だ。
それ以外の社員は裏の任務など露知らず、通常業務にあたっている。
■開発本部長 『鄭 紫霞 (ジェン・ズーシャ)』
身長2mの大柄な図体だが、物腰柔らかな雰囲気を持つその男は、
齢30代後半ながらニーズヘッグのデュエルディスク開発における指揮権を持つ本部長である。
オースデュエルが世界の中枢となっているこの現代において、
その頭脳である「DDAS」に触れることのできる世界でも有数のエンジニアだ。
若き社長「オスカー・ヴラッドウッド」の就任から数年後に他社からの引き抜きで突然採用され、
破竹の勢いで本部長まで上り詰めた人物である。
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■ビジュアルディレクター『七乃瀬 美蘭(しちのせ みらん)』
金髪のショートカットに緑色を基調とした奇抜な衣服を纏う彼女は、
22歳にしてニーズヘッグのビジュアル・デザイン司る立場だ。
ここ数年、誰でもオーダーメイドのデュエルディスクを手軽に作れるようにしたのは彼女であり、
独自のデュエルディスクを所持していることは1つのステータスとされる。
Nextでも怜央以外はオーダーメイドのデュエルディスクを保持しているほどだ。
肩にはペットであるトカゲの「ゲー君」をいつも乗せており、
大企業の社員としては明らかに常軌を逸する存在だが、
オスカーが社長に就任後、オーディションにて専属モデルとして採用され、
その後彼女の熱烈なアプローチによって正式に社員として起用されたという経緯を持つ。
今もなおニーズヘッグの顔として若者を中心に世界から圧倒的な支持があり、
その独特なセンスは世の流行を牽引し、ファッションの一時代を築く存在となる。
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■副社長 『ルーカス・ヴラッドウッド』
灰色に近い薄い紫の髪色をした、24歳の若き副社長。
社長「オスカー・ヴラッドウッド」の弟。
オスカーがそのデュエルへの人並外れた熱情を持ってアイデアを創出し、
ルーカスはそれを資金面や人事などの具体的な粒度で実現してゆく。
冷淡な性格で情け容赦がない。
言動に遠慮がなく、リテラシーやデリカシーに欠けた発言も多い。
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■社長 『オスカー・ヴラッドウッド』
5年前に若くして世界一の大企業の社長に就任した男。現在28歳。
黒い長髪に鋭い目つき。
浮き世離れしているとも取れるマントのついた黒い服を着こなせるのは、彼の持つオーラがあってこそだ。
判断力・決断力に優れており、その才覚でニーズヘッグを更に成長させた。
年齢に関係なく若い世代も実力によって高いポストに据え、
彼らは世間からは「ニーズヘッグ新世代」と呼ばれている。
常に冷静で、あまり感情を表には出さないが、
その裏にはデュエルやモンスターに対する常人とは比べ物にならない情熱と拘りを持つ。
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オスカーの招集により他3人はこの場に集められた。
オスカーは中央の大きなモニターに背を向けて立っている。
他3人はオスカーに呼び出され、今しがたこの場に来たところだ。
彼らはなぜ招集されたかを理解している。
故に軽々しく口を開くことはなく、オスカーが話始めるのをただ待っている。
しばしの沈黙の後、オスカーが口火を切る。
オスカー「1年前、正体不明の人物から俺に送られてきた情報。
この1年間に渡る裏取りを経て…今やその中身を疑う者はこの中にいないだろう」
オスカーは目の前の3人と目を合わせその意思を確認する。
ルーカス「最初は何かの罠かと思ったけど、どうやら本当らしいね。
…"最悪"なことに」
ルーカスは机の角に腰かけながら、気怠そうに髪をかく。
美蘭「うん。全部最悪だった。1つでも嘘であってほしかったよ」
美蘭は毛先を指でくるくると巻きながら同意する。
ジェン「…我々はもう、決して引き返せない道の最中にいます。1年前のあの日から」
ジェンは記憶を遡る。
全ては1年前、今日と同じくこのシークレットルームに呼び出された事から始まった。
(もし、俺の計画に多くの犠牲が伴うとしたら…お前達は俺に付いて来る覚悟はあるか?)
あの時、オスカーは3人にそう告げた。
当時は全く理解できなかったオスカーの言葉が、今でははっきりとわかる。彼の葛藤や覚悟も。
オスカー「俺達が成さねばならないことは2つ。
まず1つは…政府が企む『モンスターワールド侵攻計画』を止めることだ」
オスカーは、国立研究所でマキシムが口にしたものと同じ言葉を発する。
オスカー「政府の所有する『パラドックス・ブリッジ』なる装置…。
それは空間に裂け目を入れ、この世界とモンスターワールドを繋ぐという代物らしい」
オスカーは"らしい"と言葉を濁す。
たとえ情報としては知っていても、それが実在するという実感がないのだ。
ジェン「…にわかには信じ難い話です。
モンスターワールドとこの世界の繋がりを論理的に理解していたとしても…
いえ、理解しているからこそ度し難い。
空間に裂け目を入れられる理屈など、到底想像もつきません」
"モンスターワールド"という言葉は政府とニーズヘッグは当然のように口にするが、
一般的に知れ渡っている概念ではなく、その意味もごく一握りの関係者だけが知っているようだ。
オスカー「あらゆる関係者からオースデュエルで情報を引き出したが、
その中身を説明できる者は誰一人としていなかった」
オスカー「造った本人…『神楽天聖』の頭の中にしか設計図がないということだ」
「パラドックス・ブリッジ」という空間に裂け目を入れる装置。
その開発者としてオスカーが口にしたのは、神楽遊次の父の名だった。
これも彼らがオースデュエルで得た情報の一つだろう。
ルーカス「当の本人が死んでるんだ、もうどうしようもない。
DTDL副所長の『クロム・ナイトシェイド』もコラプスで死亡したと記録があったしね」
DTDLとは、デュエルモンスターズ技術開発研究所
(DuelMonsters Technology Development Laboratory)の略称で、
かつてドミノタウンにあり、神楽天聖が所長を務めていた研究所だ。
研究所自体は大きな被害を受けなかったものの、
ドミノタウン自体が研究を続行できる状態でなかったため解散したと記録されている。
美蘭「ふん、ジゴージトクってヤツだよ!悪いことするから罰が当たったの」
美蘭が腕を組みながらぷいっと横を向く。
オスカー「政府はパラドックス・ブリッジによるモンスターワールドへの侵攻を計画している。
その動機が何であれ…俺達は必ず阻止しなければならない」
オスカーの言葉に3人が強く頷く。
オスカー「手段は1つ。パラドックス・ブリッジを政府から奪う。
これはもう1つの目的のためにも必要不可欠だ」
ジェン「ドミノタウンに6基に分かれて存在しており、
ロックを解除するためには、世界中に点在する6本の鍵が必要。
しかし、その在処は未だ掴めておりません」
彼らが成し遂げるべき1つ目の目的のためには、まだ高いハードルがあるようだ。
ルーカス「情報提供者もてんで役に立たないしね。
パラドックス・ブリッジの場所も教えてくれないし、こっちから連絡もできない」
オスカー「情報提供者がどのように情報を手に入れ、なぜ俺に流したのかはわかっていない。
だが、もはや俺達には無関係だ。端から意図通り動くつもりなどない」
突如オスカーのもとに舞い込んだ機密情報。
それは謎の情報提供者からたった1度だけ送られてきたものだった。
ニーズヘッグはパラドックス・ブリッジの強奪を計画している。
しかし、それが情報提供者の意図しているものかは定かではない。
情報提供者がパラドックス・ブリッジの位置を掴めなかったのか、
または知っていても彼らにその位置までを教えるつもりはないのか、
ニーズヘッグには知る由もなかった。
しかし、オスカーは真実を知ってしまった以上、
情報提供者の意思に関わらず、自らの望む未来のためにその情報を利用するつもりだ。
美蘭「ケッキョク、またアタシ達がオースデュエルで無理やり情報を引き出すしかないってことだよね?
もうほんとヤなんだけど!
1個情報をゲットするだけでもすんっっごい大変なんだよ!?
関係者1人見つけるだけで、マジ死ぬかと思うぐらい頑張ったんだから!」
美蘭が手足をバタバタさせて自らの苦労を力説する。
機密情報ゆえ、僅かな手掛かりを掴むだけでも大きな労力が必要なのだ。
彼らが語るのは1年もの年月をかけて手に入れた情報だ。
それでも計画を実行に移せるだけの情報はなかった。
ルーカス「死ぬかと思うくらいじゃない、死ぬ程頑張れよ。
じゃなきゃ本当に死ぬよ。皆ね」
美蘭「…」
美蘭は真剣な表情でルーカスの言葉を捉えた。
労い一つなく更なる苦労を強いるだけのルーカスの言葉を。
オスカー「政府の計画を阻止することはあくまで通過点だ。
パラドックス・ブリッジを奪えたとしても、それは始まりに過ぎない」
オスカー「約1年6ヶ月後に地球に衝突する隕石を止められなければ、人類は滅びる」
オスカーは後ろの画面に情報提供者から手に入れた衛星画像を映し出す。
衛星からの写真ゆえぼやけているが、
そこには明らかなる異形が映し出されていた。
その表面は隕石のような岩肌を思わせるが、
明らかに隕石とは異なる存在だった。
禍々しく紫色に光り、2つの黒いX字上の輪が隕石の周囲を取り巻いている。
その全容は見えないが、隕石には顔のように見える凹凸が刻まれている。
それはまるで悪の化身。
目にするだけで、それが"悪"であることが本能で理解できる。
その姿は身が凍りつくほどの邪悪さを内包していた。
「直径約500kmの巨大な隕石でありながら、何故か誰もこの存在を認識できていない。
…デュエリア政府以外は」
本来ならば各国の衛星が隕石の存在を捉え、とっくに世界中でニュースとなっているはずだ。
それが起きていない以上、何か"からくり"があると思われるが、
ニーズヘッグもそこまでは掴んでいないようだ。
オスカー「政府はモンスターワールドそのものを破壊することで、この隕石を消失させるつもりだ。
モンスターワールドより現れたこの隕石を」
隕石はただの宇宙からの飛来物ではない。
ニーズヘッグは確定情報として当然のようにそう語る。
オスカー「断じて許すな。
モンスターは我らデュエリストの心と共に在る。決して切り離せぬ存在だ」
オスカーは感情を表に出すことなく冷静に言葉を放つ。
しかしそこには力強い決意と内なる青い怒りが潜んでいた。
オスカー「政府の計画も、隕石も…どちらも打ち破る。
そのためには"俺達が"パラドックス・ブリッジを手に入れ、解放しなければならない。
世界をモンスターワールドのエネルギーで満たし、
全人類が召喚したモンスターの総攻撃で隕石を破壊する…。
それが俺達の成すべき計画…『セカンド・コラプス』だ」
オスカーの言葉に、3人は真っ直ぐと眼差しを向ける。
4人の意思は一つだ。
オスカー「この計画には数千…或いは数万人の犠牲が伴うことになる。
それでも、人類とモンスターワールドの2つの世界を守るには、この道しか残されていない」
オスカー「もう一度聞く。
もし俺の計画に多くの犠牲が伴うとしても…俺に付いて来る覚悟はあるか」
オスカーは再び3人に問いかける。
ルーカス「当然だ。僕達が積み上げてきたものを守るために」
美蘭「やるよ、命を懸けて。オスカー様のために」
ジェン「何があろうと遂行せねばなりません。神秘なるモンスターワールドのために」
パラドックス・ブリッジを政府から奪い、モンスターワールド侵攻計画を阻止する。
そして、奪ったパラドックス・ブリッジを利用して隕石を破壊する。
これがニーズヘッグの「セカンド・コラプス」計画だった。
かつて神楽天聖が開発した、この世界とモンスターワールドを繋ぐ「パラドックス・ブリッジ」。
政府が目論む「モンスターワールド侵攻計画」。
正体不明の情報提供者。
数万人の犠牲を厭わず、2つの世界を守るために暗躍するニーズヘッグ。
そして…全ては地球に飛来する謎の隕石から始まっていた。
世界は、いつも通り回っている。
人々は、いつまでもこの平和が続くと信じている。
疑うことすらしないだろう。
しかし、世界は着実に終焉へと向かっている。
神楽遊次は、メインシティでの楽しかった記憶に浸り、幸せそうに眠りについていた。
世界の真実も、暗躍する影も、迫る未曾有の危機も…
今の彼にとっては全く関係のない出来事であった。
だが、いずれ全ての運命は交わることになる。
【隕石衝突まで…残り555日】
第24話 「滅亡へのカウントダウン」完
ドミノタウンでひったくりが多発しているという噂を聞く遊次達。
物騒になったものだと話していると、遊次はバイクに乗った引ったくりによって、
いつも身に着けている赤いネックレスを奪われてしまう。
その瞬間、遊次の頭に大量の記憶が流れ込む。
モンスター達が大地を走り、自由に空を飛ぶ姿。
宙に光る紫色の巨大な星。
町を逃げ惑う人々。
ネックレスを取り戻し、精神崩壊を起こした遊次を救うため、
灯は犯人とスピードの中のデュエル…「ライディングデュエル」で戦う。
次回 第25話「アクセラレーション!」
オースデュエルによってGREMLINZにはドミノタウンへの撤退と不干渉が命じられ、
依頼者「船頭」の依頼を解決したことになる。
そして、その日の夜。
Nextの4人と依頼者「船頭 進」はとある洋食店に来ていた。
ドモンやダニエラ、そして空き家暮らしだった子供達を含めた
Unchained Hound Dogsの面々も呼ばれ、店内は大盛況だった。そこにはリクやトーマスの姿もあった。
4つのテーブル席を1つにし、パーティのように皆が食事を楽しんでいた。
リアム「うわぁーー!俺こんなうまいメシ、はじめて食った!」
ランラン「おいしい!おいしい!!」
リアムとランランは口の周りにデミグラスソースをつけ、無我夢中でハンバーグをほおばっていた。
遊次「だろぉ!?お前ら、大人になっても絶対この味忘れないからな!
こんなハンバーグ他にないんだから!」
遊次も子供達に負けじと、ソースを口につけてハンバーグに喰らいついていた。
その姿を微笑ましそうに大人達が見つめている。
船頭「どうだ、うまいだろ。ウチの母さんのハンバーグは」
船頭が隣の席の子供達に語り掛ける。
ミオ「うん、めっちゃしあわせ…」
治「この絶妙な焼き加減と肉厚なボリューム、
そしてその素材の味を活かしながらも更に旨味を引き立てるデミグラスソース…。
料理を徹底的にまで突き詰めたお母様の努力が伺えます」
船頭「そ、そうか…。凄いな君は…」
子供とは思えぬ語彙で饒舌にハンバーグの感想を語る治に、船頭はたじろぐ。
皆がハンバーグの味に感動している中、厨房から白髪でメガネをかけた妙齢の女性が現れる。
船頭の母だ。
船頭母「皆さん、本当にありがとうございました。
こうしてまた安心して料理ができるのも、皆さんのおかげです」
船頭の母は頭を下げる。
店を襲ったのがGREMLINZというチームだったこと、
怜央がオースデュエルでリーダーを倒しドミノタウンに手出しできなくなったことなど、
一連の経緯は全て船頭と母にはすでに伝えている。
遊次「いえいえ!こんな最高のハンバーグが食べられる店、なくすわけにはいきませんから!」
遊次が笑顔で快活に答える。
怜央「すんません、白飯おかわりいいっすか!」
ドモン「俺も頼んます!」
怜央とドモンが空になった白い皿を船頭の母に突きつける。
ダニエラ「アンタら、もうちょっと遠慮したらどうだい!」
船頭母「いいんですよ。私の料理を食べてくださるお客様の笑顔が生き甲斐ですから」
船頭の母は厨房へと戻ってゆく。
その背中を目で追い、船頭はNextの面々へと向き直る。
船頭「私からも、本当にありがとう。
無茶な依頼だったのに、まさか本当に1日でチームを追い出すなんて」
遊次「いやー、全てはコイツの頑張りのおかげっすよ!」
遊次が隣の席の怜央の肩を抱きながら自慢気に言う。
灯「そうなんです!
デュエル中も、見てるこっちはめっちゃヒヤヒヤしてたのに
当の本人は余裕そうにしてて!」
灯も怜央を真っ直ぐに褒める。
慣れていない状況に困惑している怜央は、
頬をかきながら小さい声で言葉を発する。
怜央「変装したり車かっ飛ばしたり…俺だけの力じゃねえだろ。
それに、リクのことも…。本当に助かった」
怜央はイーサンの方を向き礼を述べる。
船頭「子供が拉致されかけたって?
危険な依頼だとはわかっていたが、まさかそんなことになるとは…。
本当にすまない」
船頭もリクが拉致されかけたということは聞いていた。
自分の依頼のせいで子供が危険に巻き込まれたことに責任を感じていた。
怜央「まあ、そのおかげで金ももらえるし、タダでうまいもん食えてるしな。
リクも特に怯えてる様子もねえし、今もうまそうにハンバーグを食ってる。
だから気にすんな」
この大人数での食事は船頭が感謝の意を込めてセッティングしたものだ。
当然、代金は発生しない。
怜央は厨房から戻ってきた船頭の母からライスを受け取ると、すぐに食事に集中する。
イーサン「今後のことですが、ウチの者達が今後も中央エリア付近を見張るようにします。
また別のチームが幅を利かせかねませんから」
ウチの者というのはドモンやダニエラのことだが、イーサンは細かい説明を省くためにそう表現した。
船頭「本当に何から何まですまない。
それについては依頼料とは別に振り込ませてもらうよ」
イーサン「いえ、これは自分達が好きでやっていることですから。
急に14万サークもの依頼料を提示した粗相もありますし、お代は結構です」
船頭「…そうか。すまない。ありがとう」
おそらく怜央は子供達の居場所を作るための資金として追加料金をほしがるだろうが、
イーサンは依頼人への筋を優先した。
あくまでドミノタウンの人々のために活動したいという当初の目標を忘れてはならないからだ。
子供達のためとはいえ、それを見失ってがめつく金に拘るのは違うという考えだ。
一同は食事を楽しみ、店を後にした。
船頭は店に残り、ヒノモトへ帰る前に母親との時間を過ごすようだ。
店の前で各々が話している中、1人で考え事をしている星弥に怜央が声を掛ける。
怜央「ハンバーグ、うまかったか?」
星弥「…!」
怜央が星弥に後ろから話しかける。
星弥は少し驚いた様子だ。
数日前にチームの方向が大きく変わったことで怜央とぶつかり、
それ以来ほとんど話していなかったためだ。
星弥「う、うん。めちゃくちゃおいしかった」
少しの間の後、星弥は素直に答える。
怜央「そうか。そりゃよかった。
…まだ悩んでるか?チームのこと」
怜央は星弥に本質を突いた話を切り出す。
星弥「…悩んでるっていうか、どうしたらいいかわからないんだ。
俺は怜央さんに出会って、奪われないためには奪うしかないって聞いて、そのとおりだと思ったんだ。
そのためには何でもやった。
でも、その怜央さんが急に変わっちまって、大人への怒りとかがなくなってて…」
星弥はまだ自分の思いを完璧に言語化できずにいたが、頭に浮かぶ言葉をそのまま口に出している。
しかしそれでも怜央には十分伝わっていた。
怜央「怒りがなくなったわけじゃねえ。今もずっと俺の中で疼いてる。
でも、それをぶつけるだけじゃお前らに未来はねえと気付いた。
それに…」
怜央はリアムやミオ…笑顔を浮かべている子供達を見つめる。
怜央「あいつらの顔を見てみろ。あんな嬉しそうな顔、久しぶりに見ただろ。
俺にとって一番大事なモンは、あれだ。
だから俺はあいつらがいつまでも笑ってられるようにしたい。
もちろん、お前もな」
怜央は星弥に真っ直ぐに想いを投げかける。
星弥も、怜央から直接的な子供達への思いを初めて聞いた。
大人達からの略奪やチームの抗争に明け暮れていた日々では、
そのようなことを口にする機会もなかったからだ。
星弥「…怜央さんがそこまで俺達のことを思ってたって…知らなかった。
だから怜央さんがなんで急に考えを変えたのかわからなかった」
星弥「でも…今ならわかる気がするよ。
俺も皆でうまい飯食ってる時、思ったんだ。
こんな日がずっと続けばいいなって」
星弥が目に涙を貯めながら笑みを浮かべる。
怜央「あぁ、命を賭けてでも続けられるようにする。
だから、俺達を信じろ」
星弥「…うん…!」
怜央の思いを受け止めたことで、星弥のわだかまりは解けたようだ。
1人の人の料理が、1人の子供の気持ちを変えた。
それはNextが力を合わせた結果に他ならなかった。
「ドミノタウンはお前が憎むような人ばかりじゃない」
遊次が怜央に言った言葉の意味を、怜央も少しずつ理解し始めていた。
ダニエラ「さあ皆、今日から新しい家に引っ越しだからね」
ダニエラはチームの子供達に声を掛ける。
ランラン「引っ越し?」
ダニエラ「そうさ。いつまでもあの空き家に住むわけにもいかないからね。
ここ何日か、アタイが色んなところに掛け合って、
なんとか1件だけ安い金で貸してくれるところが見つかった」
ドモンが仕事をしている間、ダニエラは新しい家を探して奔走していたのだ。
今までは自分達の行いもあり、自分達の心理的にも他の大人に頼るという気は一切なかった。
しかし新たな道を歩むと決めた以上、泥臭くどうにか頼み込んで家を探すしかなかった。
自分達の現状からしてもまともな物件は借りられないため、
人があまり借りたがらない物件を安く借りるしかなかった。
数日間に渡って交渉した結果、それが実を結んだというわけだ。
治「電気は使えるのですか?」
ダニエラ「もちろんさ!ようやく人並みの暮らしができるようになるよ。
ただし金はけっこうギリギリだ。
アタイもドモンも、それに怜央もバリバリ働いて稼がないといけない」
ミオ「じゃあ、みんなあんまり帰ってきてくれない?」
ダニエラ「そんなことないさ。
皆アンタ達を気にかけてるし、アタイもほとんどは新しい家の方で暮らすよ」
ダニエラは家庭に問題かあってチームにいる身であり、
今もほとんどチームの皆と暮らしている状態だ。
ドモン「おいダニエラ、すまねえがリクとトーマスを送ってやってくれねえか」
後ろからドモンがリクとトーマスを連れて声を掛ける。
ダニエラ「あぁ、いいよ。アタイのトラックに乗ってきな」
ダニエラはトラックを所持しているらしく、家に帰る子供達を度々それで送っていた。
リク「わー!」
トーマス「ありがとダニエラ姉ちゃん!」
リクとトーマスはダニエラのトラックに乗り込む。
ダニエラ「ドモンは新居に子供達を案内してやってくれるかい?」
ドモン「あぁ、わかった」
帰る居場所のない子供達はダニエラが貸りた新居へとドモンが案内することになった。
子供達はそれぞれの帰る場所へと帰り、残ったのはNextの4人だけとなった。
遊次・灯・イーサンが話していると、向こうから怜央が歩いてきた。
遊次は怜央に声をかける。
遊次「やったな怜央。初仕事なのに大手柄じゃねえか」
怜央「こんぐらい当然だ。これからもっと稼がなきゃならない。
ってことは、さらに危ない仕事も増えるかもしれねえんだぞ」
怜央が淡々と言ってのけた言葉が遊次にとっては嬉しかった。
遊次「(…やっぱり、怜央はもっと先を見てるんだ。
子供達を良い未来に導くために。そのためには…)」
遊次「そうだな。俺らももっと血眼になって仕事取りに行かねえとな!」
イーサン「そのことだが、もっとでかい仕事を取るためには、
ドミノタウンだけに居続けるわけには行かないと思うんだ」
灯「…どういうこと?」
イーサンが切り出した話の意図を他のメンバーは理解しきれなかった。
遊次「でも、俺はドミノタウンの皆を元気にしたくてやってるんだぜ?
確かに他の町の人だって助けられたら嬉しいけどさ…」
イーサン「早とちりするな。何も場所を移すわけじゃない。
もちろんドミノタウンの人達のために俺らはこの事務所を立ち上げた。
それでも子供達を養うって目標も生まれた以上、
他の街の人達の仕事も受けられるようになれば、資金面では助かるのも確かだ」
遊次「まあ怜央も加わったし、金がいるのは間違いないけど…。
他の街の仕事までやる余裕あるかな。
そっちにかかりきりになったらこの町の人を助ける人手がなくなったりとか…」
遊次の目標はあくまでもコラプスの時に遊次を助けてくれた人達や、
今も苦しんでいる人達の助けになることだ。
遊次にとってそこをブレさせるわけにはいかなかった。
イーサン「そうならないように努力するさ。
それでももっと都市部で大口案件を取らないと、まずこの仕事を続けること自体難しくなるんだ」
怜央「間違いねえ。
最低ウン百万稼ぐって言った以上、金に関しては譲らねえぞ」
イーサンと怜央の言葉が所長である遊次の肩にのしかかる。
遊次はすでに何人もの人生を背負っている。
その責任を遊次はかつてなく感じる。
遊次「…そうだな。イーサンの言う通りだ。
長くこの町の人達を助けるためには、他の街で仕事を取ることも大事だ」
灯「私もそう思う。それで、何か案はあるの?」
イーサン「まずは宣伝だ。
名前を売り込んで必要な時に電話とかメールで仕事の依頼をしてもらえれば、
その時に向こうに出向くこともできるし、向こうから来ることもあるだろ。
とにかく、まずは売り込むところからだ」
遊次「売り込むって、どこに?」
イーサン「決まってるだろ。この国の首都…『メインシティ』さ」
ドミノタウンは首都メインシティから少し離れた田舎町だ。車でも2時間はかかる。
その名を聞くと灯が反応する。
遊次「やっぱそうだよな。灯はメイン出身だし、色々教えてくれると嬉しいぜ」
灯「うん。って言っても小さい頃だし、そこまで詳しいわけじゃないけど…」
当然のように話しているが怜央にとっては初耳だった。
怜央「そうだったのか。てっきり全員ここ出身だと思ってたが」
灯「ううん、私は12年前…小3の時にこの町に引っ越して来たんだ。
親がコラプスの復興を手伝うためにね」
怜央「そうだったのか」
怜央「(なら灯はコラプスを見たことがねえってことか…)」
怜央は新しい仲間のパーソナルを初めて聞いたような気がした。
Nextに入って以来、一気にここまで駆け抜けてきたため、深い話をする機会もなかったのだ。
イーサン「メインシティに縁があるのは灯だけじゃないだろ。遊次、お前もだ」
遊次「…え?なんかあったっけ?」
遊次には心当たりがないらしい。
イーサン「なんで忘れてんだ!
3年前のヴェルテクス・デュエリア!お前はその本戦に出てるだろ!」
怜央「なっ…なんだと!?」
イーサンの言葉を聞き怜央は耳を疑う。
遊次「あぁ…いや、本戦に出たっつっても初戦敗退だぞ。そんな自慢できるもんじゃ…」
怜央「アホか!!お前、どんだけやべえかわかってねえのか!?
デュエリア中のデュエリスト…何万人の中の頂点を決める大会だぞ!お前はそのベスト16だ!」
怜央は目を見開き遊次の肩をゆすりながらその規模の大きさを力説する。
ヴェルテクス・デュエリア。
4年に1度、デュエリアで開かれる世界で最大規模のデュエルの大会だ。
3年前…前回大会で遊次は予選に勝ちあがり、メインシティで開かれる本戦に出場していたのだ。
怜央はまさか遊次がそこまでの実力者であることを知らなかった。
遊次「まあ確かにそうだけど…。
初戦でディエボラって奴に負けちまって…俺、めちゃくちゃ悔しかったからさ。
だから、すげえことってあんま思ってなかったんだ」
灯「逆に怜央は知らなかったんだね、遊次が本戦出場者って」
怜央「まともにニュースも観れる環境じゃなかったし、詳しいことは知らねえ。
だがさすがにベスト16がやべえことぐらいはわかる」
灯「あっ…そっか。そうだよね」
軽く話を振ったつもりだったが、怜央の境遇について思わぬ地雷を踏んでしまい、
灯は申し訳なさそうにする。
イーサン「で、そのヴェルテクス・デュエリア本戦出場者がデュエルでお助けしますって謳えば、
メインシティでも相当な宣伝文句になると思うんだ。実はそっちが狙いでな」
遊次「なるほどな…確かに宣伝文句にはなるか。考えもしなかったぜ」
灯「前から打ち出しておけば、今頃もっと仕事あったかもね…」
へらへらとしている2人に怜央は呆れて物も言えなかった。
怜央「そういえば来年の大会は?そもそもいつから始まる?」
ヴェルテクス・デュエリアの出場資格は15歳以上であることだ。
3年前の怜央はその条件を満たしておらず世相にも疎いことから、あまり興味を持っていなかった。
イーサン「応募者数十万人から、
事前の審査やAIとのデュエルで勝ち抜いた数万人だけが予選に出られる。その予選は来年だ。
予選は16都市で行われる。ドミノタウンもその内の1つだ。
大体1予選に確か…448人が参加して、ランダムにマッチした人とデュエルしていくんだが、
1回でも負けたら脱落。だから数時間で14人にまで振るい落とされる。
そっから前大会の予選通過者とかがシードとして参加…って感じだな」
イーサンは淡々と説明する。
以前に遊次が参加した時も手続きやルールの把握に手間取ったことがあり、
遊次に教えるためにもイーサン自身が細かいルールを把握していた経緯がある。
応募者数十万人の時点で各々がデュエルでぶつかる訳にはいかず、
まずは明らかにレベルの低い者を落とすために、事前の審査が行われる。
その後段階的にレベルが上がってゆくAIとのデュエルによって、数が絞られる。
AIにすら勝てなければ予選で勝ち上れるはずもないからだ。
怜央「…ってことは、遊次はシード枠ってことか…!?」
遊次「あ、マジ?そうなの?ラッキー!
あのめちゃくちゃ大変なAIとのデュエルとかやんなくていいのか!?」
遊次も前回が初出場であり、シード云々を気にしていなかったのだ。
自分がシード枠であるという自覚は全く持っていなかった。
遊次は生身の人間とのデュエルにしか興味がなく、AIとのデュエルはあまり乗り気ではないらしい。
怜央「呑み込めねえ…コイツがそこまで実績がある奴だったとは…」
遊次は約1000人の実力者がひしめき合う予選を勝ち抜き、
ドミノタウン代表として本戦に出場したことになる。今まで当たり前のように接してきた遊次が
そこまで世界的にも実力のある人物だったというギャップに、怜央は慣れることができなかった。
怜央「今回の大会はお前らは出るのか?」
怜央は他3人に問いかける。
遊次「もちろん俺は出るぜ」
イーサン「俺はパスだ。仕事があるんでな」
灯「私はあんまり出るつもりなかったけど…。うーん…どうしようかなって感じ」
意思が決まっている遊次とイーサンと違い、灯は迷っているようだ。
遊次「怜央はどうすんだよ?お前、今17だよな?参加資格満たしてるだろ」
遊次の問いに、怜央は真剣な表情で応える。
怜央「もちろん出るに決まってる。
なにせ…優勝者はどんな願いでも叶えられるんだからな」
「優勝者の願いを1つ叶える」
シンプルだが、これがヴェルテクス・デュエリアの最大の特徴と言ってもいい。
デュエリアがこのような大会を開催することに決めたのにも、深い考えと歴史があった。
怜央「優勝できれば、ガキ共の居場所を作ることなんか簡単だ。
それに、まともに学校に行かせたり…俺の求めてるモンが全部叶うはずだ」
イーサン「叶えられる願いは1つだがな。
それも、デュエリア政府が物理的に叶えられるものと、法律の範囲内での話で。
それでも、子供達を一生サポートするとか、一生暮らしに困らないだけの金とかは朝飯前だろう。
実際いくらでもやりようはある」
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ヴェルテクス・デュエリア。
デュエリアにて4年に1度開催される世界最大のデュエルの大会。
政府によってこの39年間で9度開催されている歴史ある大会。
次回は来年開催される第10回大会だ。
デュエリア国籍を持つ15歳以上のデュエリストが参加可能。
優勝者には「政府が実現可能な願いを1つ叶える」という権利を手にする。
この大会の開催および優勝者の願望の実現は、
DDASから政府に課せられた契約であり、政府も破ることはできない。
法・経済面から「実現可能である」と判断された願いは、
例えそれがどんな悪辣な願いであれ、政府は履行する義務が生じる。
40年ほど前から、世界はあらゆる軍事を縮小し、デュエルこそが力となり、
デュエルの強さが国家の強さに直結することとなった。
国民は「どんな願いでも叶える」という最上の報酬が与えられることで、
この願いを求めて様々なデュエリストが腕を磨き、デュエリアの発展に寄与する事となる。
どんな願いも叶えるという性質上、国家にとっても非常にリスクはあるが、
そのリスクを取ってでもデュエリア全体の国力を底上げするために先人が当大会の開催を決定した。
他国にはこのようなリスクのある政策を行う事はできず、
今更行ってもデュエリアには遠く及ばない。
それにより世界の腕の立つデュエリストが『願い』を求めて
デュエリア国籍を取得しデュエリア国民となる。これにより、
他国から強いデュエリストを奪い、自国を強化するという仕組みが出来上がる。
これこそヴェルテクス・デュエリアが開催されることとなった理由だ。
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遊次「俺も、3年前にドミノタウンの復興のために参加した。今年もそのつもりだ。
この町はまだまだ復興に時間がかかる。
だから…せめてコラプスが起きる前ぐらいの状態まで、この町を戻したいんだ」
灯「…」
遊次がNextを始めたのも、コラプスがきっかけで人々の笑顔が失われたことがきっかけだ。
その思いを13年間変わらず抱え続け、遊次はここまで来た。灯はその思いを誰よりも知っている。
遊次「でも、それだけじゃねえ。
何より、めちゃくちゃつえー奴らが集まるんだ!そんなの、出るに決まってんだろ!」
遊次は屈託のない満面の笑みを見せる。
遊次にとって、どこまでいってもデュエルは楽しいものだ。
いかに大切なものを賭けた戦いであろうとも揺るがないほど、それは絶対の価値観だった。
灯「ふふ、それでこそ遊次だよ!」
灯は遊次に笑顔を向け、遊次も微笑み返す。
遊次「3年前、本戦の会場のドームでディエボラって奴と戦った時も、すげえ楽しかったんだ。
あんな大舞台で、最高に面白いデュエルができる。子供の時から絶対出てやるって思っててさ。
だからこそ、負けた時は人生で1番悔しかったけど…今度は負けねえ!
絶対に優勝してやる!」
遊次は拳を握り、固く誓う。
数万人が争う大会で優勝と言う言葉を口にできるだけでも凄いことだと灯は感じた。
それを実現できる自信がなければ絶対に口にできない言葉だからだ。
遊次「あ!そういえば、メインにはいつ行くんだ?」
遊次は突然思い出したようにイーサンに問いかける。
来年の大会よりも、まずはNextの宣伝活動に意識を向けなければならない。
イーサン「週末にしようと思う。人が大勢いる日の方がいいし、まだ色々準備に時間もかかる」
灯「皆でいく?その日は事務所を空けることになっちゃうけど」
イーサン「皆にも協力してもらいたいし、全員で行こう。
2回目からは誰かは事務所に残るようにしようか」
怜央「宣伝って具体的にはどうするんだ?」
イーサン「フッ、よくぞ聞いてくれた。
すでに作戦は考えてある。でもそれは当日のお楽しみと行こうじゃないか」
イーサンは得意げに胸を張りながら夜空を見上げる。
遊次「『妖義賊-怪盗ルパン』でダイレクトアタック!」
少年「うわ~~!!」 LP0
都会の街中にある公園の噴水広場。そこにNextの4人はいた。
周りには大人も子供も集まっており、かなりの賑わいをみせている。
遊次は高校生ほどの少年とデュエルをし、今その勝負がついたようだ。
少年「くそー、お兄さんめっちゃ強いな!
やっぱヴェルテクス・デュエリアのベスト16は伊達じゃねーや!」
金髪の少年が芝生に尻もちをつきながら頭をかいて笑っている。
遊次「へへ、まあな。でもお前もいい腕してるぜ!楽しかった!またやろうな!」
遊次は少年に笑顔で手を差し伸べる。少年も笑顔でその手を握る。
デュエルが一段落すると、遊次の後ろから
顔の部分だけ出た緑のティラノサウルスの着ぐるみを着て、イーサンが声を張り上げる。
イーサン「さあさあお立合い!
ヴェルテクス・デュエリアベスト16の神楽遊次に勝てたら、豪華賞品をプレゼント!」
灯「参加条件は、デュエルの後に『なんでも屋Next』のことをSNSで発信するだけ!
もちろん、観戦するだけでもオッケー!さあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
黄色いプテラノドンの着ぐるみを着た灯も、
「なんでも屋Next」と書かれた大きな看板を持ちながらイーサンに負けじと大声で呼びかける。
怜央「……」
ただ1人怜央だけは、黒いステゴサウルスの着ぐるみを不服そうに着ながら黙っていた。
イーサン「おい怜央、いい加減観念しろ。これも仕事だぞ」
怜央「アイツは着てねえのに…」
怜央は唯一着ぐるみを着ていない遊次を睨みながら、ぼそっと愚痴をこぼす。
イーサン「この着ぐるみは子供達の目を引き付けるために重要なんだ。
そうすれば親御さん達にアピールすることにも繋がる。わかったらさっさとやれ」
イーサンは小声で怜央に早口で伝えると、再び呼びかけに戻る。
怜央「クソッ…これもあいつらのためと思えば…。
……さ、さあ!ヴェルテクス・デュエリアベスト16・ドミノタウンのなんでも屋Next所長、
神楽遊次に挑む勇気あるチャレンジャーはいねえか!いたら名乗り出ろぉ!」
怜央も吹っ切れたように周囲へ大声で呼びかける。
Nextは週末、予定通りメインシティへ来ていた。
ここはメインシティの都会の真ん中に位置する大きな公園。
その芝生の広がる噴水広場で彼らは宣伝活動の真っ最中だ。
彼らの背後にはお菓子や家電などの景品が並べられている。
これはここ数日でイーサンがドミノタウンの町中からどうにかかき集めたものだ。
デュエルに勝てばプレゼント、
ただしデュエルが終わった後にSNSでNextについて宣伝をするという条件付きだ。
単純に公園でこの光景を目にした人に対しても宣伝効果がある。
ドミノタウンとメインシティは距離があるため、
直接的にメインシティの人達にのみNextをアピールしても、
実際に足を運ぶまでに至る可能性は少ない。
しかしインターネット上の投稿であればドミノタウンや近い都市の住人へのアプローチにもなるため、
このような戦力をとることにした。
ホームページには電話での相談や出張も可能であることを記載し、
ヴェルテクス・デュエリアベスト16の遊次が所長であること、
その彼がデュエルで数々の困難な依頼を解決してきたこともしっかり記載している。
まずは知名度を上げることと、ホームページへのアクセスに導くことを最優先にしたということだ。
女性「はーい!次アタシがチャレンジしていいですかー!」
灯「どうぞー!」
遊次のデュエルによって観客も盛況をみせ、チャレンジャーは途切れない。
その光景をSNSへ投稿する者も多く、宣伝効果は抜群だと言えるだろう。
「ん…?何かやってるのか…?」
その光景を遠巻きから不思議そうに眺める一人の大人の女性がいた。
紺色の髪のロングヘアで、眼鏡をかけスーツを着ている。
年齢は30代前半に見える。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/PcgqjpN
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
彼女からは観客達が何やら盛り上がっているということ以外見えていない。
彼女が広場へと歩みを進めると、その中心でデュエルしている遊次を目にする。
「……ッ!神楽…遊次……!」
その姿を目にした瞬間、女性の表情は一変する。
その表情は憎しみや怒りに満ちている。
遊次は彼女の存在には気づかず、デュエルを楽しんでいる様子だ。
女性は遊次のその心から楽しそうにしている表情を見て、さらに怒りを募らせる。
「何も変わってないのね。
今度こそあなたを潰して、私が…」
女性は低いトーンで呟くと、公園を跡にした。
そして日が沈み始め、公園にいる人だかりも数を減らし始めた頃。
着ぐるみと誰にも渡すことのなかった景品を片付け、
大荷物を持ちながら夕日が照らす街並みを歩き、4人は駐車場へ向かっている。
遊次「いやー楽しかったなー!あんなにデュエルしまくったのも久々だぜ」
灯「ふふ、よかったね」
灯は心底嬉しそうな遊次に笑顔を送る。
怜央「お前はいいよな、デュエルしてただけなんだから。
こっちは暑苦しい着ぐるみ着せられて、ずっと大声出してたんだぞ」
イーサン「まあいいじゃないか。そのおかげでみんな盛り上がってくれたし、宣伝効果もバッチリさ。
早速ホームページのアクセス数は昨日までとは段違いに上がってる」
イーサンは携帯で常にホームページに張り付きアクセス数をチェックしている。
灯「ほんと!?よかった!じゃあ定期的に続けなきゃね」
怜央「今度からは誰かが事務所に残るんだろ。じゃあその大役は俺が務める」
遊次「お前1人だと依頼者の人にすげー失礼なこと言いそうで怖いんだけど…。
てか、着ぐるみがイヤなだけだろ」
4人は他愛もない話をしながら歩いている。一番後ろを歩いていた灯が、ふと足を止める。
灯はある大きな広告看板を見上げていた。
そこには、金髪のショートカットの女性…世界的モデル「七乃瀬美蘭」の姿があった。
デュエルディスクを開発した企業「ニーズヘッグ・エンタープライズ」の看板であり、美蘭はその専属モデルだ。
灯「(…あの子は、上ったんだ。自分の力で)」
前を歩く遊次・イーサン・怜央。
灯が立ち止まっていることに遊次が気付き、振り返る。
遊次「灯?どうした?」
遊次の声でイーサンと怜央も振り返る。
灯は少しの間遊次を見つめた後、前を向く。
灯「私、出たい。ヴェルテクス・デュエリアに」
少しの間が空いた後、遊次が答える。
遊次「おう!じゃあ俺も怜央もライバルだな!」
同じくヴェルテクス・デュエリア出場を決めている怜央の肩に肘を置きながら、
遊次は灯に笑いかける。
怜央「言っとくが手加減はしねえ。誰が相手でもな」
灯の挑戦を真正面から受け止める彼らに灯も応じる。
灯「…うん!私も全力で戦うから!」
灯は右手の拳を突き出す。
イーサン「予選は2日間。1日目の時点で14人にまで絞られる。
遊次はシードだから2日目からの参戦だが、灯と怜央はまず1日目が関門だ。
…気合入れていけよ」
出場者ではないイーサンは若き2人にエールを送る。
灯「うん!」
怜央「おう」
予選開始は来年の上旬だ。
目下の目標はNextの発展。
大会に向けて腕を磨きながらも、自分達の夢を叶えるために、毎日1歩ずつ前に進んでいかなければならない。
彼らが刺激的かつ平穏な日常を過ごその裏で、
いくつもの影が動き始めていることを彼らは"まだ"知る由もなかった。
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デュエリア国立エネルギー研究所
そこはデュエリア政府管轄の国立研究所。
その内部は広々とした空間が広がっている。
研究所の上部中央には、巨大なドーム状の観察室が設けられており、
その中には神秘的な眩い光を放つオレンジ色に輝くエネルギー体が浮かんでいる。
ドームの周囲には、最新の研究設備が並び、
数十台のコンピュータ端末がエネルギーの解析をリアルタイムで行っている。
壁面にはモニターが設置され、エネルギーの動きや変化が詳細に映し出されている。
研究員たちは白い実験用コートを身にまとい、
絶え間なくデータを記録し、新たな実験の準備を進めている。
大統領「マキシム・ハイド」は
研究所の中央で神々しく光を放つオレンジ色のエネルギー体を見上げている。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/qeBKUhv
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
その傍らにいるのは、この研究所の所長であり、科学分野の世界的権威「Dr.オクトー」。
紫の無造作な髪に白いひげをたくわえ眼鏡をかけている、背の小さな男だ。
研究者らしい白衣を纏っており、そのよれた皺からは年季が感じられる。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/TqdGzVy
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能
マキシム「やはりいつ見ても美しいな」
ドームの中でオレンジ色に輝く光を見てマキシムは呟く。
オクトー「美しい、か。
君のそれは、人間が本能的に持つ価値観に基づいた、いわば『身体的反応』だろう。
浅い…実に浅いよ。
例えば、電子殻のエネルギー状態が離散的に並ぶハミルトニアンの固有値分布や、
ナノスケールでの相転移に伴う臨界現象のスケーリング則の一致のほうが、 遥かに美しいといえる。
自然界の設計には、人間の感性を凌駕する完璧で合理的な美しさが宿っているのだよ」
オクトーは猫背の姿勢で自分より数10cm背の高いマキシムを見上げ、
眼鏡を上げながら不可解そうに返す。
マキシム「Dr.オクトー、美的感覚について君に同意を求めることはない。
今のは独り言だ、安心してくれたまえ。
それより、エネルギー吸収の効率化装置の開発は順調かね?」
マキシムはオクトーの言葉を軽く片手であしらうと、この研究所に視察に来た本題を切り出す。
オクトー「えぇ、もちろん。
この15年間で私があなたのオーダーに1度でも応えられなかったことなどあったか?」
マキシムがデュエリアの大統領となって約15年。
オクトーはマキシムの就任当時から、
マキシムの望む世界改革のためのエネルギー研究に大きく貢献してきた。
マキシム「ガハハ!いや、ない。むしろ必ずオーダー以上のものを持ってくる。
今回も期待しているよ。
なにせ、ヴェルテクス・デュエリアの開催が近い。
特に本戦の舞台は大きな"デュエルエネルギー"が発生するからね」
デュエルエネルギー。
マキシムは眼前に輝くオレンジ色のエネルギー体をそう呼んだ。
オクトー「デュエルエネルギー…。
デュエリストの感情の昂りによってデュエルディスクから発せられるその類稀なるエネルギーは、
元ニーズヘッグ役員としての知見を持つハイド大統領が発見し、
今や世界のエネルギー問題の解決策として名高い。
ハイド大統領の実績として今後の歴史で最も語り継がれるもの…でしょう?」
マキシム「ガッハッハ!わかっているじゃないかオクトー君!
君はいつからそんなに褒め上手になったんだね!」
Dr.オクトー「いや、あんたがいつも酔うと毎回のように自分の功績を何時間も語るんだ。
だからつい覚えてしまっただけのことさ」
オクトーは大統領に対しても崩した言葉で返していることから、二人の親密さが伺える。
マキシム「そ、そうなのか…?全く覚えておらん…。
私は酔うとそんな自分語りばかりしているのか…?」
Dr.オクトー「えぇ。もう聞き流すことに慣れたがね」
肩を落とし、しゅんとするマキシムにオクトーが話を振る。
Dr.オクトー「それにしても、最近退屈な研究ばかりで興が乗らなくてね。
私が求めているのはもっとドーパミンが滝のように出る…そんな刺激的な実験だよ。
それこそ、7年前のデュエルエネルギーによる不死の実験のようなね。
あれは思い出すだけでも心躍る…」
オクトーが目を瞑り過去の記憶に浸る。
マキシム「世界のエネルギー問題の解消を退屈と言ってのけるとは、世の科学者達が許さんぞ。
だが…もしかすれば君が心躍るような革新的な研究が実現するかもしれない」
オクトー「ほぉ?」
マキシム「デュエルエネルギーは他のエネルギーとは違い、人間の心から発せられるものだ。
その性質が世界を救う。
それこそ、地球に迫る未曾有の危機でさえも"消し去る"ことができる…私はそう考えている」
マキシム「今はまだ盤面が整っていないし計画も私の頭の中にしかないが…もしそれを実現する日が来れば、君に協力を願い出るよ」
オクトー「世界を救うなどという大義名分には残念ながら興味がない。大事なのは面白いかどうか、唯一つだ」
オクトーはマキシムに指を突き立てて宣言する。
マキシム「なら世界を救う研究ではなく、こう言い換えたらどうかな?
"人を書き換える"研究と」
オクトー「……! ぜひ盤面とやらが整うことを願うよ、大統領閣下」
オクトーはマキシムの言葉を聞きニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
マキシム「盤面は私次第では変わらない。駒の方から動いてくれなければね。
それまでは従来通り進めるとしよう。
『モンスターワールド侵攻計画』を」
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ニーズヘッグ・エンタープライズ本社 79F シークレットルーム
メインシティの中央に堂々と佇む黒き龍の形をした高層ビル。
それはデュエリアのシンボル「ニーズヘッグ・エンタープライズ」の本社だ。
約50年前にヘックス・ヴラッドウッドが創設し、デュエルディスクの開発により、
それまで1カードゲームに過ぎなかったデュエルモンスターズを世界に普及させた企業だ。
このデュエルディスクは、ソリッドヴィジョンによってより実体的なデュエルを可能とするほか、
個人の性質からオリジナルのカードを生み出すのが特徴だ。
これが、全ての人類が独自のデッキを使って戦う現代のデュエルの在り方を決定づけることとなった。
そしてデュエルで法的契約を結ぶ「オースデュエル」も、
ニーズヘッグが当時の政府に提案したことで実現した。
今や世界はオースデュエルを武力の代替とし、世界から兵器を廃絶するに至った。
たった50年で世界の構造さえも根底から変えてしまった功績こそが、
ニーズヘッグを世界一の企業たらしめる要因である。
そしてこの龍の目に位置する79Fには、何重ものセキュリティに守られた一室がある。
黒を基調とした部屋は、異様に静かでその空気は重厚だ。
部屋の中央には巨大なモニターがある。
そしてその部屋への入室を唯一許されている4人が、今一堂に会していた。
彼らはニーズヘッグの中でも"裏"の任務を行うために選ばれた精鋭だ。
それ以外の社員は裏の任務など露知らず、通常業務にあたっている。
■開発本部長 『鄭 紫霞 (ジェン・ズーシャ)』
身長2mの大柄な図体だが、物腰柔らかな雰囲気を持つその男は、
齢30代後半ながらニーズヘッグのデュエルディスク開発における指揮権を持つ本部長である。
オースデュエルが世界の中枢となっているこの現代において、
その頭脳である「DDAS」に触れることのできる世界でも有数のエンジニアだ。
若き社長「オスカー・ヴラッドウッド」の就任から数年後に他社からの引き抜きで突然採用され、
破竹の勢いで本部長まで上り詰めた人物である。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/MGyVTR6
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■ビジュアルディレクター『七乃瀬 美蘭(しちのせ みらん)』
金髪のショートカットに緑色を基調とした奇抜な衣服を纏う彼女は、
22歳にしてニーズヘッグのビジュアル・デザイン司る立場だ。
ここ数年、誰でもオーダーメイドのデュエルディスクを手軽に作れるようにしたのは彼女であり、
独自のデュエルディスクを所持していることは1つのステータスとされる。
Nextでも怜央以外はオーダーメイドのデュエルディスクを保持しているほどだ。
肩にはペットであるトカゲの「ゲー君」をいつも乗せており、
大企業の社員としては明らかに常軌を逸する存在だが、
オスカーが社長に就任後、オーディションにて専属モデルとして採用され、
その後彼女の熱烈なアプローチによって正式に社員として起用されたという経緯を持つ。
今もなおニーズヘッグの顔として若者を中心に世界から圧倒的な支持があり、
その独特なセンスは世の流行を牽引し、ファッションの一時代を築く存在となる。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/qDTcVbl
※URLの最初に「h」を付けると表示可能
■副社長 『ルーカス・ヴラッドウッド』
灰色に近い薄い紫の髪色をした、24歳の若き副社長。
社長「オスカー・ヴラッドウッド」の弟。
オスカーがそのデュエルへの人並外れた熱情を持ってアイデアを創出し、
ルーカスはそれを資金面や人事などの具体的な粒度で実現してゆく。
冷淡な性格で情け容赦がない。
言動に遠慮がなく、リテラシーやデリカシーに欠けた発言も多い。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/xPpadJo
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■社長 『オスカー・ヴラッドウッド』
5年前に若くして世界一の大企業の社長に就任した男。現在28歳。
黒い長髪に鋭い目つき。
浮き世離れしているとも取れるマントのついた黒い服を着こなせるのは、彼の持つオーラがあってこそだ。
判断力・決断力に優れており、その才覚でニーズヘッグを更に成長させた。
年齢に関係なく若い世代も実力によって高いポストに据え、
彼らは世間からは「ニーズヘッグ新世代」と呼ばれている。
常に冷静で、あまり感情を表には出さないが、
その裏にはデュエルやモンスターに対する常人とは比べ物にならない情熱と拘りを持つ。
キャラデザイン:ttps://imgur.com/a/Z0H2VX3
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オスカーの招集により他3人はこの場に集められた。
オスカーは中央の大きなモニターに背を向けて立っている。
他3人はオスカーに呼び出され、今しがたこの場に来たところだ。
彼らはなぜ招集されたかを理解している。
故に軽々しく口を開くことはなく、オスカーが話始めるのをただ待っている。
しばしの沈黙の後、オスカーが口火を切る。
オスカー「1年前、正体不明の人物から俺に送られてきた情報。
この1年間に渡る裏取りを経て…今やその中身を疑う者はこの中にいないだろう」
オスカーは目の前の3人と目を合わせその意思を確認する。
ルーカス「最初は何かの罠かと思ったけど、どうやら本当らしいね。
…"最悪"なことに」
ルーカスは机の角に腰かけながら、気怠そうに髪をかく。
美蘭「うん。全部最悪だった。1つでも嘘であってほしかったよ」
美蘭は毛先を指でくるくると巻きながら同意する。
ジェン「…我々はもう、決して引き返せない道の最中にいます。1年前のあの日から」
ジェンは記憶を遡る。
全ては1年前、今日と同じくこのシークレットルームに呼び出された事から始まった。
(もし、俺の計画に多くの犠牲が伴うとしたら…お前達は俺に付いて来る覚悟はあるか?)
あの時、オスカーは3人にそう告げた。
当時は全く理解できなかったオスカーの言葉が、今でははっきりとわかる。彼の葛藤や覚悟も。
オスカー「俺達が成さねばならないことは2つ。
まず1つは…政府が企む『モンスターワールド侵攻計画』を止めることだ」
オスカーは、国立研究所でマキシムが口にしたものと同じ言葉を発する。
オスカー「政府の所有する『パラドックス・ブリッジ』なる装置…。
それは空間に裂け目を入れ、この世界とモンスターワールドを繋ぐという代物らしい」
オスカーは"らしい"と言葉を濁す。
たとえ情報としては知っていても、それが実在するという実感がないのだ。
ジェン「…にわかには信じ難い話です。
モンスターワールドとこの世界の繋がりを論理的に理解していたとしても…
いえ、理解しているからこそ度し難い。
空間に裂け目を入れられる理屈など、到底想像もつきません」
"モンスターワールド"という言葉は政府とニーズヘッグは当然のように口にするが、
一般的に知れ渡っている概念ではなく、その意味もごく一握りの関係者だけが知っているようだ。
オスカー「あらゆる関係者からオースデュエルで情報を引き出したが、
その中身を説明できる者は誰一人としていなかった」
オスカー「造った本人…『神楽天聖』の頭の中にしか設計図がないということだ」
「パラドックス・ブリッジ」という空間に裂け目を入れる装置。
その開発者としてオスカーが口にしたのは、神楽遊次の父の名だった。
これも彼らがオースデュエルで得た情報の一つだろう。
ルーカス「当の本人が死んでるんだ、もうどうしようもない。
DTDL副所長の『クロム・ナイトシェイド』もコラプスで死亡したと記録があったしね」
DTDLとは、デュエルモンスターズ技術開発研究所
(DuelMonsters Technology Development Laboratory)の略称で、
かつてドミノタウンにあり、神楽天聖が所長を務めていた研究所だ。
研究所自体は大きな被害を受けなかったものの、
ドミノタウン自体が研究を続行できる状態でなかったため解散したと記録されている。
美蘭「ふん、ジゴージトクってヤツだよ!悪いことするから罰が当たったの」
美蘭が腕を組みながらぷいっと横を向く。
オスカー「政府はパラドックス・ブリッジによるモンスターワールドへの侵攻を計画している。
その動機が何であれ…俺達は必ず阻止しなければならない」
オスカーの言葉に3人が強く頷く。
オスカー「手段は1つ。パラドックス・ブリッジを政府から奪う。
これはもう1つの目的のためにも必要不可欠だ」
ジェン「ドミノタウンに6基に分かれて存在しており、
ロックを解除するためには、世界中に点在する6本の鍵が必要。
しかし、その在処は未だ掴めておりません」
彼らが成し遂げるべき1つ目の目的のためには、まだ高いハードルがあるようだ。
ルーカス「情報提供者もてんで役に立たないしね。
パラドックス・ブリッジの場所も教えてくれないし、こっちから連絡もできない」
オスカー「情報提供者がどのように情報を手に入れ、なぜ俺に流したのかはわかっていない。
だが、もはや俺達には無関係だ。端から意図通り動くつもりなどない」
突如オスカーのもとに舞い込んだ機密情報。
それは謎の情報提供者からたった1度だけ送られてきたものだった。
ニーズヘッグはパラドックス・ブリッジの強奪を計画している。
しかし、それが情報提供者の意図しているものかは定かではない。
情報提供者がパラドックス・ブリッジの位置を掴めなかったのか、
または知っていても彼らにその位置までを教えるつもりはないのか、
ニーズヘッグには知る由もなかった。
しかし、オスカーは真実を知ってしまった以上、
情報提供者の意思に関わらず、自らの望む未来のためにその情報を利用するつもりだ。
美蘭「ケッキョク、またアタシ達がオースデュエルで無理やり情報を引き出すしかないってことだよね?
もうほんとヤなんだけど!
1個情報をゲットするだけでもすんっっごい大変なんだよ!?
関係者1人見つけるだけで、マジ死ぬかと思うぐらい頑張ったんだから!」
美蘭が手足をバタバタさせて自らの苦労を力説する。
機密情報ゆえ、僅かな手掛かりを掴むだけでも大きな労力が必要なのだ。
彼らが語るのは1年もの年月をかけて手に入れた情報だ。
それでも計画を実行に移せるだけの情報はなかった。
ルーカス「死ぬかと思うくらいじゃない、死ぬ程頑張れよ。
じゃなきゃ本当に死ぬよ。皆ね」
美蘭「…」
美蘭は真剣な表情でルーカスの言葉を捉えた。
労い一つなく更なる苦労を強いるだけのルーカスの言葉を。
オスカー「政府の計画を阻止することはあくまで通過点だ。
パラドックス・ブリッジを奪えたとしても、それは始まりに過ぎない」
オスカー「約1年6ヶ月後に地球に衝突する隕石を止められなければ、人類は滅びる」
オスカーは後ろの画面に情報提供者から手に入れた衛星画像を映し出す。
衛星からの写真ゆえぼやけているが、
そこには明らかなる異形が映し出されていた。
その表面は隕石のような岩肌を思わせるが、
明らかに隕石とは異なる存在だった。
禍々しく紫色に光り、2つの黒いX字上の輪が隕石の周囲を取り巻いている。
その全容は見えないが、隕石には顔のように見える凹凸が刻まれている。
それはまるで悪の化身。
目にするだけで、それが"悪"であることが本能で理解できる。
その姿は身が凍りつくほどの邪悪さを内包していた。
「直径約500kmの巨大な隕石でありながら、何故か誰もこの存在を認識できていない。
…デュエリア政府以外は」
本来ならば各国の衛星が隕石の存在を捉え、とっくに世界中でニュースとなっているはずだ。
それが起きていない以上、何か"からくり"があると思われるが、
ニーズヘッグもそこまでは掴んでいないようだ。
オスカー「政府はモンスターワールドそのものを破壊することで、この隕石を消失させるつもりだ。
モンスターワールドより現れたこの隕石を」
隕石はただの宇宙からの飛来物ではない。
ニーズヘッグは確定情報として当然のようにそう語る。
オスカー「断じて許すな。
モンスターは我らデュエリストの心と共に在る。決して切り離せぬ存在だ」
オスカーは感情を表に出すことなく冷静に言葉を放つ。
しかしそこには力強い決意と内なる青い怒りが潜んでいた。
オスカー「政府の計画も、隕石も…どちらも打ち破る。
そのためには"俺達が"パラドックス・ブリッジを手に入れ、解放しなければならない。
世界をモンスターワールドのエネルギーで満たし、
全人類が召喚したモンスターの総攻撃で隕石を破壊する…。
それが俺達の成すべき計画…『セカンド・コラプス』だ」
オスカーの言葉に、3人は真っ直ぐと眼差しを向ける。
4人の意思は一つだ。
オスカー「この計画には数千…或いは数万人の犠牲が伴うことになる。
それでも、人類とモンスターワールドの2つの世界を守るには、この道しか残されていない」
オスカー「もう一度聞く。
もし俺の計画に多くの犠牲が伴うとしても…俺に付いて来る覚悟はあるか」
オスカーは再び3人に問いかける。
ルーカス「当然だ。僕達が積み上げてきたものを守るために」
美蘭「やるよ、命を懸けて。オスカー様のために」
ジェン「何があろうと遂行せねばなりません。神秘なるモンスターワールドのために」
パラドックス・ブリッジを政府から奪い、モンスターワールド侵攻計画を阻止する。
そして、奪ったパラドックス・ブリッジを利用して隕石を破壊する。
これがニーズヘッグの「セカンド・コラプス」計画だった。
かつて神楽天聖が開発した、この世界とモンスターワールドを繋ぐ「パラドックス・ブリッジ」。
政府が目論む「モンスターワールド侵攻計画」。
正体不明の情報提供者。
数万人の犠牲を厭わず、2つの世界を守るために暗躍するニーズヘッグ。
そして…全ては地球に飛来する謎の隕石から始まっていた。
世界は、いつも通り回っている。
人々は、いつまでもこの平和が続くと信じている。
疑うことすらしないだろう。
しかし、世界は着実に終焉へと向かっている。
神楽遊次は、メインシティでの楽しかった記憶に浸り、幸せそうに眠りについていた。
世界の真実も、暗躍する影も、迫る未曾有の危機も…
今の彼にとっては全く関係のない出来事であった。
だが、いずれ全ての運命は交わることになる。
【隕石衝突まで…残り555日】
第24話 「滅亡へのカウントダウン」完
ドミノタウンでひったくりが多発しているという噂を聞く遊次達。
物騒になったものだと話していると、遊次はバイクに乗った引ったくりによって、
いつも身に着けている赤いネックレスを奪われてしまう。
その瞬間、遊次の頭に大量の記憶が流れ込む。
モンスター達が大地を走り、自由に空を飛ぶ姿。
宙に光る紫色の巨大な星。
町を逃げ惑う人々。
ネックレスを取り戻し、精神崩壊を起こした遊次を救うため、
灯は犯人とスピードの中のデュエル…「ライディングデュエル」で戦う。
次回 第25話「アクセラレーション!」
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