DRAW:７６ RISE-ライズ-　作：人喰い

(76)



火群とマインが決闘を始めて少しした頃…

◉結維Side◉
〜山岳エリア・洞窟内部〜


結維「…行くわよ鈴華、セントラルホールへ！」

鈴華「…そういえばさっきから気になってたのだけれど、あなたの身体能力…ちょっと人間離れしすぎじゃないかしら…？」

結維「…えっ……と…、別に大したことない。
誰でも“願えば”手に入る程度のものよ」


鈴華「そういうものなの…？
あ、あともう一つ。あなたなんで急に私に対して敬語じゃなくなったの？」

結維「…ゔぇ、別にいいじゃない、なんでも。気分よ気分。……悪い！？」

和泉と…市瀬 火群も言ってた。親しくなった同年代の人と話す時は敬語は変だと。
いや、そもそも『親しい』という対人関係も、私はよくわかっていないのだけど。

鈴華「…い、いや悪いとかじゃありませんわよっ！ その…なんというか……対等に話してくれるのは、嬉しいといいますか……」

結維「…？」

あ、もしかしてーーー

結維「…あなた同性愛者なの？」

鈴華「違いますわっっっ！！！」

そんなに顔真っ赤にして叫ばなくても。

鈴華「…じ、時間がないんでしょう！？ 急ぎますわよ！」

結維「…鈴華から話をふってきたんでしょう…」

そうして走り始め、洞窟を抜けたところで、

結維「ーーー！！」

鈴華「……！？」


洞窟の外に、大勢の終焉の焔の隊員らしき者が待ち構えていた。

結維「……っ」

数はざっと30から40といったところね…。
モニター室との連絡が取れなくなって不審に思って集まってきたってことかしら…。
でも見た所幹部クラスはいないみたい…！ これならいける…っ？ でも決闘する為にはーーー


鈴華「…ちょっと！？ こんな大勢相手に闘うつもり！？ でもあなた…！ 腕が…！！」

結維「……仕方ない、か」

鈴華のいる前では、決闘したくなかったんだけどな…。

結維「できればもうこれはやりたくなかった……でも、この状況はそうも言ってられない…！！」

鈴華「……っ？ それってどういうーーー」

結維「………ぁぁぁああぁああっっっ！！！」

私は左肩を抑えながら叫び声を上げる。
すると私の“左側”に、決闘盤と一体となった新たな左腕が現れる。

鈴華「！！？？」

結維「……ごめんね鈴華。私ーーーバケモノなの」

鈴華「ーーー！」

結維「…あとで必ず全部話すから、今は本当に、ごめん…」

鈴華を背に私は言う。思えば人に対して謝るのなんて、市瀬火群と決闘したあの日ぶりだ。

鈴華「………」

鈴華の表情は見れない。振り向くことを脳が拒否してる。

やっぱり最初に、ちゃんと話しておくべきだった。
ちゃんと私の事話した上で鈴華には安全なところへ逃げてもらうべきだった。
私……バカだ…。一般人を勝手に巻き込んで……こんなんじゃ、和泉に叱られちゃうな…。

ここにきて私の心臓を鷲掴みにする後悔。
そしてそれをそのまま握り潰すような鈴華の言葉。


鈴華「……騙…してたの…？」

ダッ！！

鈴華は一言そう言って、走り出した。

結維「ーーー！！ 待っ……」

いや。
止めて、いいの？
悪いのは私だ。
ここで鈴華を止める資格なんて………私には、無いはずだ。
だから、今の私にはーーー

終焉の焔A「…一人逃げるつもりだぞ！！ 捕らえろ！！」


結維「……余所見しないでください。あなた達の相手は私です」


終焉の焔A「…ッッ！！（なんて眼力だ……ッ！！）」

鈴華を逃してあげることしか……できない…！！

終焉の焔B「…構わん、逃しておけ。レーダーを見る限り、どうせどちらも精霊のカードを持ってはいないんだ」

結維「……！」

終焉の焔別C「……だがマイン様の話では、眼鏡をかけた隻腕の少女が、太陽神の精霊を持っているという話だったが……」

結維「……レーダーの故障じゃないですか？
…それと私は今急いでいるので、さっさと始めましょう」

終焉の焔D「…チッ…！ 舐めやがって…！！ 行くぞっっ！！ かかれぇっ！！」


結維「ーーー行きますよ……！！」





「「「ーーー決闘！！！」」」




私はさっきまで、鈴華が私のこの姿を見ても逃げ出さず、なんだかんだ言いつつもそばにいてくれるんじゃないかとか、そんな期待を心のどこかで抱いていた。
けど期待通りになんていかなくて。
ショックなのか清々したのか、意味わからないグルグルした心の奥のモヤモヤが、ただただ私の胸でざわつく。
信頼って何？
友情って何？
友達って何？

私にはやっぱりわからないよ。

けど。
なのに。

何でこんなに、苦しいの？

何でーーー

涙が出るの？










〜〜〜



鈴華（……結維、さん…っ）


















遊戯王 Ph.X DRAW:７６
《RISE-ライズ-》

















マイン【LP 500】
場:『インフェルノイド・ネヘモス』[ATK 3000]
『インフェルノイド・アドラメレク』[ATK 2800]
魔:『煉獄の虚無』(永続)
『未来融合ーフューチャーフュージョン』◉２(永続)
伏せ:0
手札:4

火群【LP 1950】
場:『炎王神獣 ガルドニクス』
魔:『炎王の孤島』(フィールド)
『補給部隊』(永続)x2
伏せ:3
手札:2




マイン「ーーー融合召喚！！ 現れろ！！『インフェルノイド・ティエラ』！！」





ティエラ『グギィィガァァアアァァアァァアアッッッ！！！』[ATK 3400]



火群「……ッッ！！！」

こんなバケモンを…っ超えなきゃなんねぇのかよ…ッッ！！


マイン「……ティエラの効果発動ッ！！」

火群「…くっ…！！」


《インフェルノイド・ティエラ/Infernoid Tierra》 †
融合・効果モンスター
星１１/炎属性/悪魔族/攻3400/守3600
「インフェルノイド・ネヘモス」＋「インフェルノイド・リリス」＋「インフェルノイド」モンスター１体以上
(1)：このカードが融合召喚に成功した時に発動できる。
その融合素材としたモンスターの種類によって以下の効果を適用する。
●３種類以上：お互いはそれぞれ自分のエクストラデッキからカードを３枚選んで墓地へ送る。
●５種類以上：お互いのデッキの上からカードを３枚墓地へ送る。
●８種類以上：お互いはそれぞれ除外されている自分のカードを３枚まで選んで墓地へ戻す。
●１０種類以上：お互いの手札のカードを全て墓地へ送る。


マイン「１０機の“不完全”の集合体である“完全体ティエラ”は、その能力全てを扱うことができる…！！
まず第１の災厄ーーー互いにエクストラデッキのモンスター３体を墓地へ送る！！」

火群「……！ 俺のエクストラデッキのカードは全部で４枚…」

しかもその全てが白紙のカード…！
だけど、そのうち一枚からは微かに“熱”を感じる…っ！ 今はこのカードにわずかな望みを託すしかない…！！

火群「…俺はこの１枚を残し、残りのカードを墓地へ送る」

マイン「…俺はエクストラデッキの『旧神 ヌトス』３体を墓地へ」

火群「…旧神ヌトスを…３体……っ？」

マイン「続いて第２の災厄ーーー互いにデッキの上から３枚のカードを墓地へ送る！！」

マイン
『インフェルノイド・デカトロン』
『ツインツイスター』
『インフェルノイド・アドラメレク』

火群
『炎王の孤島』
『テラ・フォーミング』
『リビングデッドの呼び声』


マイン「次に第三の災厄ーーー互いに除外されているカードを３枚まで墓地へ戻す！」

火群「…！ これは俺にとってもプラスだな…！ 俺はヴォルカニックカウンター２体と火舞太刀を墓地へ！」

マイン「……煉獄の死徒、ベルフェゴル、リリスを墓地へ…！！」

和泉「ヴォルカニックカウンターがまた墓地に戻った…っ！」

千愛「…けど、そんなことは恐らく想定済みでしょうね…」

マイン「これで最後だ……第４の災厄ーーー互いの手札のカードを全て墓地へ送る…ッ！！」

火群「…！！ 俺の手札のカードが…っ、焼かれて…！！」

マイン「…更に俺は、墓地に送られた旧神ヌトスの効果を発動！！」

《旧神
キュウシン
ヌトス》 †
融合・効果モンスター
星４/光属性/天使族/攻2500/守1200
Ｓモンスター＋Ｘモンスター
自分フィールドの上記カードを墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる（「融合」は必要としない）。
自分は「旧神ヌトス」を１ターンに１度しか特殊召喚できない。
(1)：１ターンに１度、自分メインフェイズに発動できる。
手札からレベル４モンスター１体を特殊召喚する。
(2)：このカードが墓地へ送られた場合、
フィールドのカード１枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。


マイン「墓地に送ったヌトスは３体……！ よって、炎王の孤島、そして２枚の伏せカードを破壊する！！」

火群「……何…ッッ！？ 『ジェネレーション・チェンジ』と、『炎王輪廻』が…ッ！！…このためにエクストラデッキから３枚の旧神ヌトスを…！！」

孤島が、崩れて行く…！！
くそ…っ…！！ こんな状況……！！ どうやって打開すりゃいいんだ…！！ 何かないか…！？ 何か…ッッ！！



ニクス『……火群』

火群（……ッ、ニクス……？）

ニクス『…私はもうじき炎王の孤島の崩落によって破壊されてしまう…。だからその前に聞いてほしい』

火群（……）

ニクス『ーーーバカが難しく考えるな。
一人で突っ走ったところで、その道の先はたかが知れているぞ。
…マンティスとの決闘を思い出してみろ』

火群（ーーー！！ 確か、あの時は……）

ニクス『……少なくとも、一人で戦ってるわけじゃなかったはずだ』

火群（…！！）

ニクス『…お前はここまで何のために戦ってきた？』

火群（…俺は……！！ 夢を掴む為に…！！ニクスとWDCSの頂点に立って、和泉の腕を元に戻す為に……！！）

ニクス『…そうだ。場に流されるな。目的を見失うな。周りの意見を聞き入れろ。火群、お前には仲間がいる』


雫「……火群さん…っ！！」

千愛「…市瀬 火群…！！」


和泉「ーーー火群くんっ！！」



火群「ーーー！！！」


マイン「……！！（奴のデッキが……燃えている…ッ？ いや違う、この炎は……まさかエクストラデッキから……！？）」


火群「……炎王の孤島が破壊された事により、俺の場のガルドニクスは破壊される…！！」

ニクス「行くぞ火群…！！」


火群「ーーーああ！！ 俺たちの魂をシンクロさせれば……！！」

ニクス「ーーー進化への扉は……開く！！！」


俺はエクストラデッキに残された１枚のカードを思いっきり引き抜く。

ゴォオオォオオォオォォオオ！！

そのカードはドローにより炎の軌跡を描き、イラストとテキストが浮かび上がる。

その瞬間意識が何者かに乗っ取られたような、真っ白い空間に吸い込まれるような、そんな不思議な感覚が俺を襲う。
意識はあるが、口が、身体が、勝手に動く。



火群「ーーーリミット解放ッ！！ コード『ガルドニクス』！！」


マイン「………ッ！？」

火群「ーーー朽ちること無き恒久の翼、今こそ解き放てッ！ 不滅の焔が敵を穿つ！」

大地を割り、溶岩とともに現れたニクスの周りを、眩い光を放つ無数の粒子が覆い、ニクスを新たな姿へと作り変えていく。

そして不死鳥は光を纏い舞い上がる。











火群「ーーー〝ライズ召喚〟！！！

『炎王神獣 ガルド・イモータル』！！」





《炎王神獣 ガルド・イモータル》＊Ph.X Original Cards
ライズ・効果モンスター
星９/炎属性/鳥獣族/攻 2700/守 1700
ライズコア「炎王神獣 ガルドニクス」
【自分フィールド上のモンスターが破壊された場合】自分のライフが3000以下なら、ライズコアに指定されたモンスターを自分のフィールド・墓地から１体選び、そのモンスターをライズコアとしてライズ召喚する。
このカード名の①③の効果は、１ターンに１度しか発動できない。
①このカードが破壊されエクストラデッキに送られた場合、攻撃力を１０００アップさせて特殊召喚する。
②このカードの①の効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上のカードを２枚まで選択して発動できる。選択したカードを破壊し、破壊した自分のカードの数まで、相手フィールド上のカードを選んで破壊する。
③自分及び相手のスタンバイフェイズ時にこのカードがエクストラデッキに表で存在する場合、このカードを守備表示で特殊召喚する。



火群・ニクス「……はぁああぁあぁぁぁあああっっっ！！！」



和泉「…あれは……っ！？」

千愛「…ニクスの……新しい姿……ッ！？」

雫「…あの時の…っ！！」


マイン「……なんだ………それはァァッッ！！」

火群「ーーーお前と俺たちの違いは、倒れ、立ち上がる度に、成長するかどうかだ。
その答え、その象徴、それが、このカードなんだよ」


マイン「…いい気になるなよ……ッ、俺には……ッ！！ 時間が…ッ！」

火群「……ッ…！
補給部隊の効果で俺はデッキから２枚ドロー…！！」【手札 2】

マイン「……墓地のベルフェゴル、デカトロンを除外し、墓地よりアドラメレクを復活させる！！」[ATK 2800]

マイン「バトルだ…ッ！！ アドラメレクで、不死鳥を攻撃ッ！！」

火群「…伏せカードオープン！！『イタチの大暴発』！！」

《イタチの大暴発
だいぼうはつ
/Ferret Flames》 †
通常罠
(1)：相手フィールドの表側表示モンスターの攻撃力の合計が
自分のＬＰよりも高い場合に発動できる。
相手フィールドの表側表示モンスターの攻撃力の合計が、
自分のＬＰ以下の数値となるように、
相手は自身のフィールドの表側表示モンスターを選んで
持ち主のデッキに戻さなければならない。


マイン「…こざかしい…ッ！！ ネヘモスの効果発動！！ 攻撃を行なっていないアドラメレクを墓地へ送り、魔法・罠の発動を無効にし破壊する！！」

火群「……！」

マイン「よってバトルは続行！ やれぇ！ アドラメレク！！」


『インフェルノイド・アドラメレク』
[ATK 2800]
ーーーVSーーー
[ATK 2700]
『炎王神獣 ガルド・イモータル』


アドラメレクの放った火炎がニクスを包む。

ニクス『……ッ！！』

炎に包まれながらニクスは笑みをこぼす。とても楽しそうだ。
そうだ。決闘ってのは本来こんな風に楽しいもののはずなんだよ。

火群「……！」【LP 1950→1850】

火群「墓地のヴォルカニック・カウンター２体の効果発動！ マイン！ お前に俺が受けたダメージを、2倍にして返す！！ くらぇえぇえ！！」


マイン「…ぐッ…！！」【LP 500→300】

火群「ライズモンスターであるイモータルと、ライズコアとなったガルドニクスはフィールドを離れる場合、墓地へは行かずエクストラデッキに表側で戻る」

マイン「…何だと…ッ？」

火群「…そして破壊されたガルド・イモータルの効果発動！！ ガルド・イモータルは破壊されエクストラデッキに送られた場合、攻撃力を１０００アップさせて特殊召喚できる！！
〝フレイミング・イン・モータル〟！！」

ニクス『はぁあぁあぁぁああっっ！！』[ATK 2700→3700]

火群「更に、この効果で特殊召喚に成功した時、俺の場の２枚の補給部隊を選択して効果発動！！ 選択した自分のカードを破壊して、破壊した自分のカードの数まで相手フィールドのカードを破壊する！！」

マイン「…！！」

火群「…俺が破壊するのは……『インフェルノイド・ネヘモス』と、『インフェルノイド・ティエラ』だ！ いっけぇぇえ！！
〝イモータル・フレイム〟！！」

ニクスが真っ赤に燃える翼を大きく広げ、右手に炎の気を溜め始める。

ニクス『…っっ！！』

そして今にも爆発せんばかりの強大な炎のエネルギー弾を、煉獄の悪魔目掛けて撃ち放つ。

ニクス『…こいつを持っていけ…ッ！！ 業火に焼かれろッッ！！」


マイン「…貴様…ァァ…ッッ！！ 墓地の煉獄の死徒を除外し、ティエラの破壊を無効にする…ッ！！」

ニクスの放った技が辺りに爆風を巻き起こし、『優しさ』を持った暖かい炎が微かに“闇”を振り払う。


火群「…これでも倒せねぇか…っ！！」


マイン「…はぁ…！！ はァ…ッ！！

息を荒げ膝をつくマイン。

火群「…ぜぇ……っはぁ…！」

俺も同様に息を切らして膝をつく。
まだ身体の感覚がハッキリしないし、ライズ召喚を行なってから体力の消耗が明らかに激しい…！ 思えばマンティスと戦った時もそうだった…！

おそらくーーー


火群・マイン（ーーーこのバトルフェイズが最後の勝負……ッッ！！）







＊


ほぼ同時刻
◉明日人side◉
〜セントラルホール付近の森林地帯〜


明日人【LP 7300】
場:0
伏せ:0
手札:1

放浪【LP 8000】
場:0
罠:『不知火流ー輪廻の陣』(永続)
伏せ:0
手札:1


戦況はほぼ五分だ…！！ けどここで焦るな…！ 俺…！

明日人「…俺のターン…！！」

そして俺がカードを引こうとした瞬間だった。






？？「ーーー苦戦してますね、放浪」





一人の男が、現れた。


明日人「…！！？」

その男は黒いローブを身につけ、目深に被ったフードの奥から眼鏡を光らせる。

放浪「……上層部の人間だな、確か『真和(まさかず)』と言ったか」

放浪のその発言が、今現れた真和という男が放浪よりも位が上の人間だと告げる。

真和「一度顔を合わせただけなのに覚えててくれるなんてね。嬉しい事だ」

明日人「……！！」

俺が身構えていると、真和はこちらを見て、

真和「……！ 君は…！ そうか、君が精霊の持ち主か…！ へぇ…！」

意味ありげにそう言った。




ここにきてようやく脳が現状を理解する。

間違いない。

これは最悪の状況だ。







To Be Continued…




《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:７７ 登る光柱