DRAW:８１ 集結、選ばれし決闘者達　作：人喰い

(81)




ーーー精霊界、精霊王の間。

その最奥部において、とてつもない存在感を放ちそびえ立つのが、『神星樹』だ。

だが樹と呼ぶには少し歪で、無数の太い幹が何重にも重なり入り乱れ、雲を突き抜けそびえ立っている。
直径100メートル、高さは500メートルは超えるあろう神星樹は、精霊界の輪廻転生を司っており、平和・均衡を保つ為にも無くてはならない精霊界の象徴なのである。


ルナ「……グ……ッ……やはり、神星樹の力が、弱まって来ている…」

精霊王であるルナは、神星樹に当てていた右手を樹から離すと、苦しげな表情で呟く。
そんなルナを心配に思ってか１人の少女が声をかける。

少女「…ルナ様、あまり無理をなさらないでください……」

ルナ「…私は大丈夫ですよ、『ティア』」

ティア「で、ですが、顔色が悪いです！ 紅茶を淹れて来たので、どうぞ飲んでください」

ルナ「…どうもありがとう。ティア」

ルナは表情をすぐに戻し、ティアの持つトレーから紅茶の入ったティーカップを手にする。
そして一口。

ルナ「……ん…っ、とても美味しいです。やはりティアの淹れる紅茶は素晴らしいですね」

ティア「喜んで頂けて良かったです♪
……ところでルナ様ぁ…、最近かなり無理をしていませんか…？」


ルナ「…心配をかけてしまったかしら。けれどさっきも言いましたが、大丈夫ですよ、ティア。“このくらい”はいつもの事ですから」

ティア「…ならいいんですけどぉ」

ルナ「……ねえティア」

ティア「…どうしました？ ルナ様」


ルナ「これからも毎日紅茶を淹れて下さると、私はとても嬉しい」


ティア「！ もぉーっなんですか急に〜っ、そんなの当たり前じゃないですかぁ！
私、ずっとルナ様のそばで仕えさせて貰いたいと思ってますよぉ！」

ルナ「…ふふ…っ、おかしな事を言いましたね、ごめんなさい」








ーーー『この世界から争いを無くしたい』ーーー

その想いで精霊王となったルナは、生まれながらにしてその身に『再生』の力を宿していた。
死しても蘇るその姿は、まるで不死鳥のように気高く、優美で、神聖なるものだったーーー














ーー遊戯王 Ph.X ーー
◉◉◉第2章◉◉◉

〜VS 終焉の焔編〜
《破壊と創造》





ーーーDRAW:８１ーーー
《集結、選ばれし決闘者達》















〜終焉の焔撤退から二日後〜



“精霊王の意思”が、直接火群たち決闘者の脳内へと語りかけた。



『本日、１５時にYAGAMI本社へとお越しください』



その“意思”はあまりにも突然で、唐突な宣告だった。




◉火群side◉
〜市瀬家〜


火群「ーーー！！ ニクス！ 今の聞こえたか！？」

ニクス「…ああ、確かに聞こえた。
YAGAMI本社……か。色々と疑問が盛り沢山だが、どうやら行ってみた方が早いだろうな」

火群「…そういえばYAGAMIの件は何一つ片付かないままだったもんな……」

ニクス「うむ。すると、丁度いいと言えば丁度いいのか。
…ところで、明日人達はまだ病院に入院中であったな……一人で行くのか？」

火群「……ああ、そのつもりだ。
あー…、けど…、和泉には、一応相談して行こうと思う…」

ニクス「…ふむ？」

火群「…やっぱり余計な心配かけたくないから黙って行きたい想いはあるけど、伝えない事で逆に心配かけるって事もあるからな…」

ニクス「……ほぅ、なんか知らんが変わったな、火群。良いことだと思うぞ、撫でてやろうか」

火群「……子供扱いすんなっ」

と言いつつ俺は、不覚にも無自覚にニクスの方に頭を差し出していた。

ニクス「……」

火群「……」

ニクス「…わしゃわしゃわしゃ」

約10秒程だったが、俺はニクスにされるがまま。抵抗は一切しなかった。

火群「……なんかニクスに頭を撫でられてると不思議と、懐かしい感じがする。なんでだろうな…」

ニクス「………。
……そうか」

火群「……ごめん、ありがとうニクス。そろそろ和泉のとこに行くよ」

ニクス「……ああ、行こう」







〜桜庭家前〜


火群「……」

ドクン…ドクン…ッ

ニクス「…おいどうした。火群」

火群「…いや、その…」

ニクス「…？ さっさとインターホンを押したらどうだ？」

火群「…んーと、なんてゆーか…」

ニクス「…お前が押さないなら私が押すぞ？」

火群「！ ま、まって！ ……俺、女の子の家に来んの初めてなんだけど……急に押しかけちゃって大丈夫なのかな〜……とか…」

ニクス「………」


ﾋﾟﾝﾎﾟ-ﾝ!!　ﾋﾟﾝﾎﾟ-ﾝ!!


火群「うぉいっ！ まてって！！」

ニクス「別に問題ないだろう、和泉に両親はいないんだし」

火群「…いや、でもまだ心の準備が…〜…」

ニクス「ニヤニヤするな、ぶっちゃけキモいぞ」


ｶﾞﾁｬ...ｷｨｨ...



鈴華「……あ、勧誘なら御断りーーーヒィィ！！」

ﾊﾞﾀﾝｯｯ!!!


火群「………」

ニクス「…なんか知らない娘が出て来たな……」

火群「…俺たちを見て物凄く怯えてたぞ…」


ｶﾞﾁｬ...ｷｨｨ...


結維「…あ、やっぱりあなたたち二人だったのね。どうぞ上がって」


火群「…？？？」



〜桜庭家・和泉の部屋〜



初めて来た、和泉の部屋。
入った瞬間から、いつも感じている和泉の香りで満たされているその空間は、俺の『ナチュル・バンブーシュート』を一瞬で攻撃表示へと変貌させた。
予想通りではあったが、あたりは本だらけで、ざっと見たところ500冊以上はあるだろう。それでいて６人がゆっくりくつろいでいても窮屈さを感じさせない広さだ。正直言って羨ましい。
そして今は何より、周りに女子しかいないこの状況が、とてつもなく嬉しい反面気まずすぎて死にたい。


火群「ドキドキドキドキ土器土器」

ニクス「…火群、胸の鼓動というかもう心臓本体が口から出そうだが大丈夫か」

雫「はわわわ…っ、火群さんしっかりしてください〜っ！」


鈴華「…市瀬火群さんに、にくすさん……。みなさん知り合いだったんですわね…」

和泉「…ははは…、そういえば鈴華ちゃんにはまだ二人を紹介してなかったね〜」

結維「鈴華が『なんかニヤニヤした変態っぽい男子と金髪のヤンキーっぽい巨乳が押しかけて来ましたわ！！』とか言って玄関から戻って来た時はビビったけどね……」

千愛「…まあそんな二人組みなんてあなたたちしかいないわね」ｼﾞﾄ-

ニクス「だれがヤンキーだ」ｷｯ

鈴華（…胸元の開いた黒Tシャツに革ジャン羽織った金髪の目つき悪い女性がいきなり玄関前に立ってたらそりゃぁヤンキーの方だと思いますわよ……）

ニクス「何か言ったか小娘」ｷﾞﾝｯ

鈴華「…ヒィィ！！ 何も言ってないですわよぉっ！！」ｶﾞｸﾌﾞﾙｶﾞｸﾌﾞﾙ

結維「…申し訳ないわね不死鳥さん、お詫びと言ったらあれだけど、ここにチョココロネがあるからどうぞ召し上がって」ｸﾞｲｯ

鈴華「…ちょっ！！ それ私の巻き髪！！ 引っ張んないで結維さん！！」

ニクス「…詫びなど結構だ。よろしく頼むぞ、チョココロネ」

鈴華「だーかーらぁ！ チョココロネじゃないですわっっ！」

雫「はわわっ！ 鈴華さん暴れないでください〜っ」





火群（みんな打ち解けんのはぇぇよ…）


和泉「ーーー火群、くん？」

火群「……！！ い、い、い和泉！？ ど、どうした」

和泉「…それはこっちのセリフだってば〜…。
顔真っ赤だけど、もしかして風邪ひいた？」

火群「…いや…っ、多分…っ大丈夫！ 元気だよ！ とっても元気！(何がとは言わないが)」

和泉「……そっか、ならいいんだけど」


そして俺がようやく、精霊王からの宣告を和泉に話そうとしたところで、

和泉「ーーーじゃあみんな、そろそろ行こっか」

和泉がそう言った。

火群「……え…？ はい…？」

不意を突かれたので俺は戸惑う。

和泉「…火群くんがなんで驚くの。火群くんも精霊王さんに呼ばれてるんでしょ？」

火群「…え……！？」

結維「……隠してたってわかるんだから。だって私たちも呼ばれたし」

火群「…ははは…、まぁ、なんとなく予想はしてたよ……」

でもなるべく女の子たちはこれからの戦いに巻き込みたくなかった。
巻き込まずにーーー

結維「ーーー『巻き込まずに解決できるならそれが一番良かった』。なんて、考えてないでしょうね？」ﾒｶﾞﾈｸｲｯ

火群「…うっ……」

雫「そんなの私たち、許しませんよ！」

鈴華「…ま、まぁ、『海苔のかかったハゲ』ですしね…」ﾄﾞﾔｧ

千愛「……『乗りかかった船』ね。
…とまぁ、そんな感じであなた達が二人で行ったところで誰も喜ばないのよ」


和泉「…でも行く前にちゃんと私たちのとこに来てくれた……って事は相談するつもりはあったんだよね。少し成長したね、火群くん♪」

火群「…子ども扱いすんなしっ」

そこで俺はなんとなく和泉の方に軽く頭を差し出してみる。

和泉「……」

火群「……」

和泉「…えいっ」

ぺちっ

チョップされた。


火群「なぜだ！？」

和泉「んー？ なんとなく！」


結維「…ったく、いつまでもやってると遅刻するから早いとこ行きましょ」

和泉「…あはは、ごめんごめん…っ。
さ、火群くん！ 立って！」

火群「…ああ、行こう！」ｶﾞﾀｯ

そうだ、戒にも言ったじゃないか。
敵が襲ってくるなら俺が絶対に護ってみせると。
その為に、俺自身がもっともっと強くなる必要があるんだよな…。


和泉「ひゃ………っ」

俺が立ち上がった瞬間、和泉の小さな悲鳴が聞こえた。

和泉を見てみると、その視線は下の方に向いている。
よくみると和泉だけではない。
その場にいた全員の視線が、立ち上がった俺の立ち上がった下半身ーーー局部へと向けられていた。


ニクス「……あちゃぁー…」

千愛「…いくらなんでも、それは……」

雫「はわわわ……っっ///」

鈴華「…な…っなななっなによそれーーーっっ///」

結維「……なんて見事な『ピラミッド・タートル』……」


和泉「…ひゃ…ぁ…あ、あ…っ…あぁ…っ///」


火群「…あ、いや、これはそのっ」


和泉「〜〜〜っっっ！！！」ｷｯ!



ｽﾊﾟｧｧﾝｯ!!!







＊＊＊










〜YAGAMI本社ビル・1Fエントランス〜



時刻は15:00ーーー



ルナ『ーーー決闘者諸君、よくぞここまでいらっしゃいました』



精霊王の声がエントランス内に響き渡る。

火群「………」

なんとなくあたりを見回してみると、俺たちを含めて、ざっと20人くらいの決闘者がエントランスに集まっていた。戒やシルバさんの姿もある。
思ってたより少ないんだな…、けど、見た感じみんなかなりの実力者だ…。とか考えていると、精霊王の方から俺に直接声がかかる。


ルナ『…市瀬火群、やはり来てくれましたね。……ところでケガをされているようですが……？』

火群「…あ、これはさっきまで秘密の特訓をしてまして…」

ニクス（何言ってんだこいつ）

和泉（何言ってんのこの馬鹿…）

結維（何言ってんのよこの変態…）


ルナ『…あらあら、王である私に嘘は通じませんよ？ ふむふむ………きゃっ…！ …なるほど、そんな事が…』

火群「（今一瞬すごい可愛い声が出たような……）…って！！ 何があったか全部お見通しって訳っすか！」

ルナ『…ええ、もちろんです。ただ、本当にごめんなさい。これ以上は詮索しません、すみません』

火群「…あ、いえ、こちらこそすみません……」



ルナ『…コホン。
ーーーでは改めまして、決闘者諸君。突然お呼び立てして申し訳ありませんでした。本日ここに集まったみなさんは、終焉の焔と闘う覚悟のある者達です』


火群「………っ！」

ルナ『そして終焉の焔との決戦の日はーーー１カ月後の８月２５日と致します』

火群「一カ月後……！」

ルナ『その日に公平なルールにて終焉の焔との決着をつけます。
それでは、私からお伝えする事は以上です』

ｻﾞﾜ...ｻﾞﾜ...

火群「！ それ……だけ…？」


ルナ『ーーーですので、あとはこの場を借りて、集まった決闘者同士で実践経験を積む場にしたいと思うのですが……いかがでしょうか』

火群「……！」

ｵｵｵｫｫｫｵｫｵｵｫｫ!!!

火群「…はは…は…！ まじかよ…っ！」

周りには、途轍もない強さを秘めているであろうシルバさんだけじゃなく、俺が初めて見る精霊がたくさんいる…！
しかもその一つ一つが、東雲竜貴の『ドラグニティアームズーレヴァテイン』に匹敵するレベルの威圧感を放ってやがる…！！
こんなところで自由に対戦できるなんてーーーッッ


和泉「どうしたの？ 火群くん。
もしかして、周りに強そうな人ばっかりで怖気付いちゃった？」ﾆﾔ-





火群「ーーー違うねっ！ 滾って来たのさッ！！！」









To Be Continued…










《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:８２ ヨーロッパ代表の実力





＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙