DRAW:３５ One Hand Red　作：人喰い

スッキー先生とのデュエルに決着が付き、予鈴がなったところで俺は、家庭科室の扉を開けた。

すると、家庭科室前の廊下の隅っこで胸元に左手を触れたまま俯いて泣きべそをかいている和泉と、何やらブツブツと独り言を呟く千愛が視界に入る。



「ーーーあれ、いz…っ桜庭さん！？」


「…？ 転校生の桜庭か…？ どうしたんだ。もう予鈴鳴ってるし急げよー」


俺の後ろから顔を出したスッキー先生も和泉に気付き、声をかける。


「……大丈夫です…っ。グス…っ…ぅ…うぅ」


和泉はそう言うが、明らかに大丈夫そうではない。
心配に思った俺も、和泉に声をかける。


「…な、何があったの…？」


俺は和泉にそんな風に問いかける。
すると和泉は、一言、涙ぐんだ声色で呟いた。





「………胸」





残念ながら俺にはよく理解できなかった。












遊戯王 Ph.X DRAW:３５
《One Hand Red》












ーーー-ーーー-ーーー-ーーー




クスクスクスクスクス…。

クスクスクスクス…


女子A「ねぇ、桜庭さぁん」


和泉「な、なんですか？」


女子A「この教科書、休み時間の間に多目的室まで運んでくれないかしらぁ？」


和泉「…えっ？ なんで私が……って、こんなに沢山……っ！」


女子B「…なんで、って、あなた眼鏡かけてるし、学級委員っぽいでしょ？」


女子C「それに、そんなに対した量じゃないわよ？ “両手で”抱えていけばすぐよ」


和泉「………ッ！！（この人達…私の腕の事知ってて…！）」


千愛『………』ジャキン


和泉「！（…千愛ちゃんダメ！ 手は出さないで…っ。こんなの、私が我慢すればいいだけだから）」


千愛『…でも…ッ』


和泉（いいの…。大丈夫、大丈夫だからーーー）





ーーー-ーーー-ーーー-ーーー




翌朝、4月29日(木)AM7:04
私は目を覚ました。
そこは最近、ようやく見慣れてきた光景で、私の視界には私の部屋の天井が映っている。


和泉「…夢……？」


和泉「………はぁ…」


私は仰向けで寝たままの体制で左手の甲をおでこに乗せ、深くため息をつく。

ーーーあれは私が桜花学園の中等部に通っていた時の記憶だ。

私はあの後、結局学校が嫌になって、2年生になったばかりだというのに転校してしまった。そしてその後、再び黒髭町に引っ越してきて、現在に至るというわけだ。

数年前まで、私はこの黒髭町に住んでいた。
だけどある事件を境に、私は一旦、この町を離れた。

ーーー全てを燃やした、あの事件。


和泉「…ようやく思い出してきた…」


あの事件の後、行き場も無く彷徨っていた私に、千愛ちゃんが声をかけてくれたんだっけ。


和泉「…二年前、だったよねーーー」



ーーー貴女も一人？



和泉「………」



和泉「……そうだ。私は、大切なものを守るためにこの腕を絶ったんだ」


火群くんの心の闇が生み出した私の中の心の闇ーーーその邪悪な囁きから、火群くんを守るために。


和泉「…本当にこれで、良かったのかな…」


千愛ちゃんに腕を絶たれ、不自由な事が増えたし、イジメも受けるようになった。
火群くんを傷つけないためとはいえ、本当にああするしかなかったのだろうか。

などと、私は私らしくもなく後ろ向きに考えてしまう。
そんな風に考え込んでいると、不意にノック音が聞こえた。


コンコン。


ガチャ…キィィ。



ノックの後に少しの間をおいて、私の部屋に入ってきたのは、千愛ちゃんだった。


千愛「…和泉ちゃん。そろそろ起きないと学校に遅刻するわよ」


和泉「……あ、うん。大丈夫、起きてるよ千愛ちゃん。おはよう」


そう言いながら私は身体を起こし、枕元に置いていた眼鏡ケースの中から眼鏡を取り出して、それを慣れた動作でかけた。

そして寝起きで多少ぼんやりした視界で千愛ちゃんの方を見てみると、小さな両手にティーカップが乗っているのが見える。


千愛「…おはよう和泉ちゃん。目覚めのハーブティーはいかが？」


ーーー考えていても仕方ない、か。



和泉「……ありがとう、千愛ちゃん！ いただくねっ」



悔やむより、前を向いた方がいいよね！

私、ガンバ！！






＊





和泉「…いってきまーす！」

千愛「…いってきます」


とは言って家を出たものの、私と千愛ちゃんが家を出たら、もう家には誰もいないのだけど。


私は今、千愛ちゃんと二人暮らしをしている。

私の両親は千愛ちゃんの話だと、私を置いてどこか遠いところに行ってしまったらしい。

でも千愛ちゃんはそのことを詳しくは話してくれない。
学費や生活費に関しても千愛ちゃんは、『大丈夫よ。心配ないわ。私に任せて』としか言ってくれない。


和泉「…ねぇ、千愛ちゃん」


千愛『…どうしたの？ 和泉ちゃん』


私は学校への道のりを辿りながら、千愛ちゃんに声をかける。やっぱり両親の話と、お金の問題が気になったからだ。

私の方を振り向いた千愛ちゃんの、真っ赤な瞳が、私の瞳に映る。
その瞳を見ていると、どこか私は安心して、

和泉「…ううん、やっぱり何でもないの」

と、会話をやめてしまった。

あのことはとっても気になるけど、知らない方がいいのかな、とも思ってしまう私がいたのだ。

きっと怖いんだ。
千愛ちゃんが私の知らないところで何か危ない目にあってるんじゃないか、って思うと、それを知ってしまうのも、怖くなる。

情けない話だ。

友達なら、“家族”なら、ちゃんと聞いてあげるべきなのだろうけど。

今日こそちゃんと話そうと思ってたのに、また私は逃げてしまった。

そんな風に逃げながら、私は学校へ向かう足を、一歩、また一歩と早足で進める。


和泉（…う〜、私、全然ガンバれてないよ〜…）



私は落ち込んだテンションで学校の校門をくぐり、下駄箱に向かう。


下駄箱で靴を履き替え、私は教室へと足を進めた。



教室に入ると、いつものようにクラスメイトの視線が痛い。

その視線は全て、私の右腕のあった部分に向けられている。


和泉（めんどくさいなぁ……もう…）


私が席に着くと、お決まりのようにクラスメイトからの質問責めが始まる。



生徒「ねぇねぇ桜庭さん！ その腕ってどうしたの？」


ニヤニヤ笑いながら聞いてくる頭の悪い男子。



生徒「…わぁ…可哀想…っ！ 困った時はいつでも力になるからねっ！」


表面を嘘でコーティングした偽善者女子。



生徒「ちょっと袖捲って見せてよ！」


人の気持ちもわからない無神経女子。





この学校のクラスメイト達も、どれもこれも、めんどくさい。








ーーー私、黒髭町に戻る。それで黒髭中学に行くの！ いいでしょ？ 千愛ちゃん！

ーーー何かそこで、やらなきゃいけない事がある気がするんだ。









和泉「………」



千愛『…和泉ちゃん…ごめんなさい。私の所為で………私が、貴方の腕をこんな風にしてしまったから……っ』



和泉（千愛ちゃんは悪くないよ。……もちろん火群くんや、あの不死鳥さんが悪いってわけでもないの）



全部、元の原因は私にあるのだから。






そんなとき、聞き慣れた声を耳にする。





火群「…あ、桜庭さん。 どうも」


火群くんだ。いつも一緒の倉川くんは今日は一緒じゃないみたい。



火群「……そういえば桜庭さん！ 担任の先生が探してたよ。職員室に来いだってさ」


和泉「…え、本当？ ありがとね。市瀬くん」


多分、嘘だ。
きっと火群くんなりに、気を使ってくれたのだろう。

私はちょっと嬉しくなった。

……本当に、ちょっとだけだけど。


私が教室の外に出た後、少しして、よく聞き取れなかったが、教室で火群くんらしき人の声が聞こえた。











火群「ーーーあんたら恥ずかしくないの？」











一体何を話していたんだろうと疑問に思っていたら、火群くんが教室から出てきて小走りで追いかけてきてくれた。





和泉「おはよう、市瀬くん」


火群「おはよう、桜庭さん」


和泉「今日は倉川くんと一緒じゃないの？」


火群「クラースは今日は休みだってさ。
昨日、頭痛いって言って午後の授業早退してたし、熱でもあったのかな」


和泉「…そういえば昨日は早退してたね。大丈夫かなぁ」


火群「まぁ、あいつなら大丈夫だと思うよ。何となくだけど」


和泉「そっか」


などと、私たちは何気無い会話を交わしながら、予鈴がなるまで歩き回った。どこへ行くでもなく。

昔の火群くんとの事はまだあまり思い出せないけれど、今は今の火群くんとの関係を大切にしよう。
私は今日、そう思った。




和泉（ねぇ、千愛ちゃん）


千愛『どうしたの？ 和泉ちゃん』






和泉（……ううん。やっぱり何でもないっ！）



今度のは、“逃げ”じゃない。

ちょっと、言うのが照れ臭かっただけだ。




千愛『…変なの』





ーーー私ね。貴女に腕を斬ってもらった事、後悔してないよ。

確かに辛い事はたくさんあったけど、
一度は信じられなくなった大切な人と、
また、

友達になることができたのだから。












ーーー-ーーー-ーーー-ーーーTo Be Continued…






〜おまけ〜



. . 人人人.人人人.人人人.人人人.
＜教えて！ スッキーせんせー！＞
. . Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y



＊このコーナーは、読者のみんな(少数)から寄せられた質問(多分無い)に、『美 好先生(以下スッキー先生)』が一刀両断！ 快刀乱麻の回答をしていくコーナーだ！！
質問が無い場合は自問自答をしていく痛々しいコーナーになるから気をつけな！(ドン☆)

質問待ってるぜ！！(切実)



《第３回》



好「ーーーさてさてやって参りました！ 第三回！ 今日のゲストは……(≖ω≖ ´ )」


明日人「俺か(T_T )」


好「…おぉ倉川か(≖ω≖`)流石にゲスト3人目ともなるとやっぱり顔文字が適当だな」


明日人「…そういうこと言うのはやめて下さいよ(T_T;;)」


好「…じゃあサクサク行くよ！
(｀≖ω≖)ただでさえ投稿遅れてるんだし」


明日人「ってスルーですかっ(T□T ´ )」


好「そんじゃあ質問を………よろしくぅd(≖ω≖`)」


明日人「………（今更だけどこの顔→『(≖ω≖`)』…めちゃくちゃ腹立つな…）(T_T )」


明日人「……『…なんで最近は投稿のペースが遅いんですか？』( T_T)」


好「(≖ω≖` )」

好「(´ ≖ω≖)」

好「(´≖ω≖`)」


明日人「いや、答えろよ！
(っ T□T)シ)≖□≖`)ビシッ


好「……投稿が遅いことに関しては触れないでやってくれ…(≖ω≖;;)


明日人「…何でですか( T_T)


好「…作者にも、色々あるんだよ…(≖ω≖ ´ )





つづく…






明日人（…え？ もしかして今のでこのコーナー終わり？ 今のが締めのセリフだったの？ 先生と作者はどんだけ適当なんだ。ってか俺、１話から出てて、久々にもらった出番だったのにあれだけかよふざけんな(T_T )




天の声『ーーーそんな君に朗報だ』


明日人「…だ、誰だ！？」


天の声『ーーー私は「人喰い」。この「遊戯王Ph.X」の作者であり、マスターだ」


明日人「…作者、だって…？ なんでこんなところに…！」


天の声『ーーーそんなことはどうでも良い。それよりもーーー』



天の声『ーーー次回はお前が主役だ』



明日人「………」


明日人「……な、」



明日人「ﾅﾝﾀﾞｯﾃ━━━(； ･`д･´)━━━ｯ!!!






《次回予告》


…それは誰にも知れず、自然を護る１人の決闘者の物語ーーー



次回、『遊戯王 Ph.X』
DRAW:３６ 枯れない決闘者