DRAW:１７８ 炎は奔る　作：人喰い

(178)








〜積木町３丁目〜





火群「ーーーー和泉っ…！！ チアガール…！
大丈夫か！？」

ワンターンスリーキルにより決着が着いた直後、火群は慌てて和泉の元へ駆け出す。


和泉「…うん…、怖かったけど……、なんとか大丈夫だよ。火群くん」

千愛「…私も問題ないわ」

火群「…そっか……、本当に、良かった…。
でも、その怪我───」

和泉「……あ、この怪我は私が勝手に転んだだけだから、気にしないで。
……ってかてか！ そもそもなんで火群くんがここにいるのさ！」

火群「…明石さんから連絡があったんだよ。和泉が飛び出して行っちゃったから、追いかけてくれって」

和泉「…そうだったんだ…。でもなんで明石さんは怪我してるはずの火群くんにそんな事を………いやその前になんで怪我治ってんの！？」

火群「…怪我に関しては、俺もよくわかってないんだけど、夢の中である女の子に会ってーーー」

ニクス（………っ…？)

和泉「へー…、女の子」

火群「えと、そ、それで、その夢から覚めたら身体が動くようになってて、２枚目の白紙のカードにイラストが浮かび上がってたんだ」

千愛「……それがさっきの、“生命の焔”……ってわけね」

火群「…そ。
んで、明石さんにだけは怪我が治った事を一応連絡してたんだよ。和泉や、工場にもしもの事があった時に、助けに行くための指示が貰えるように」

和泉「…けどそれなら私にも教えてくれたって良かったじゃんっ！ 一体どれだけ心配したとーーーー」

火群「…う…っ！ いやそれは、きっと和泉に話したら、何がなんでも安静にしてろって言うと思って…！」

和泉「そりゃ言うに決まってるよぉ！ ばかばかばかぁ！
今だって完治したって保証も無い訳だし！」

火群「…ば…っ、そ、そんなに強く言う必要ないだろ！？ 俺が助けに来た時、ぼろぼろ泣きながら嬉しがってたじゃんか！」

和泉「…いや？そんな事ないけど？」

千愛「確かに言ってたわよ『ーーーー来るのが……遅いよ…っ……バカ…っ…！』って」

和泉「ぎゃぁぁぁぁ言ってない言ってないっ！ お願いだから忘れてぇっ！！」


ニクス「ーーーーおい！お前たち！ 喧嘩してる場合じゃないんじゃないか！？」


和泉「……！ そうだ……っ…！ 早く工場に行かないと…！！ 鈴華ちゃんと雫ちゃんがーーーー！！」

火群「！！」


火群「…急ぐぞ、和泉…っ！！」

和泉「…え、ちょっ」

火群は急に真剣な表情になったかと思うと、躊躇いなく和泉をお姫様抱っこで抱きかかええる。

和泉「…ちょっとっ何してんのっ！？」

火群「……その足の怪我じゃ走れないだろ？

和泉「…それはそうだけどさぁ……〜〜〜///」


火群「……ぅ…」

和泉「…ねぇ火群くん、今一瞬重そうな顔しなかった？ ねぇ」

火群「ーーーーよし、行くぞニクス！！ 俺の筋力と脚力を精霊の力で補ってくれ！」

ニクス「…任せろ。お安い御用だ」

和泉「…」

ニクスが火群の右手に触れると、ニクスの精霊のエネルギーが炎となって火群の手足に宿る。


火群「ーーーー！」

和泉（…！ 火群くんの腕……燃えてるのに熱くない…！)


火群「…和泉、しっかり掴まってろよッッ！！」


一時的に精霊の力を得た火群は勢いよく駆け出す。
向かう先は、決闘騎兵製造工場-ﾃﾞｭｴﾙﾛｲﾄﾞﾌｧｸﾄﾘ--ーーーーー















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:１７８ーーー
《炎は奔る》















〜決闘騎兵ファクトリー・B１F格納庫〜




周辺の機材は大方破損し、爆風が立ち込める格納庫ーーーーー



星奈「ーーーーきゃははは…っ！
壊した！壊したの！壊した壊した壊した！
こわこわこわし壊したした！！」


決闘が決着した事で立体映像も消えてゆき、星奈は狂ったように笑い声を上げる。

星奈「……これであの精霊のカードもあたしのモノ……☆
今日だけでいっぱい精霊集まったし、マイン様…あたしのこときっと褒めてくれるよねっっ！」

星奈は満面の笑みで鈴華のいた辺りへと歩いてゆく。

星奈「ーーー確かこの辺だったと思うんだけどなぁ……？
もしかして跡形もなく消し飛んじゃった！？ それはまずいよ〜……っ…」

次第に煙は晴れーーーーー

星奈「……っ…！！」


星奈の正面に、瓦礫に囲まれ倒れ込むーーーー鈴華の姿。


鈴華「………っ…………」


星奈「……そんなところにいたんだね…☆」

星奈は鈴華の目の前にちょこんとしゃがみ込み、にっこりと笑う。

鈴華「…………」

星奈「…？ あたしの攻撃をくらってまだ息があるなんて珍しいねーっ！
………あ、精霊のカードがダメージを肩代わりしてくれたって事かぁ！ きゃはははっ」

けたけたと笑いながら星奈は倒れる鈴華の肩を起こす。

星奈「…最期の時まで決闘盤を抱えて………よっぽどそのカードの事が好きなんだねーーーー」


星奈「ーーーーでもざ〜んねんっ！
…………負けた人は全てを失い、勝った人が全てを得る。
それがーーーー決闘なんだよ。くるくる頭のおねーさん」


星奈は先程までと打って変わって静かに笑い、鈴華の抱える決闘盤に手をかける。


星奈「………っ」

しかし、星奈が力を込めても決闘盤は動かない。



鈴華「…………っ……たす……ん……ですか……っ…！」

鈴華は決闘盤を力強く抱きしめ、かすれる声で叫ぶ。


鈴華「……あなたたちなんかに……っ…渡す……ッ…もんですか……っ！！」


星奈「……大人しくしてれば、これ以上苦しまずにすんだのに…、おねーさんもしかしておバカ？」

呆れた口調で星奈は言う。

鈴華「…このカードは…っ……死んでも渡しませんわ……っ！！」


星奈「……死ぬ事が、怖くないの？」

鈴華「…怖いに……決まってますわよ……っ…」

星奈「……」


鈴華「…けど私にとっては……っ！
…このカードが…、あなたたちの手に堕ちる事の方が……死ぬ事より怖い事だからっ…！！」

鈴華は力の限り叫ぶ。
強気な口調だが、恐怖で身体は震え、逃げ出したい気持ちで一杯だった。

鈴華「……っ…」

しかし母親から託された精霊のカードに護られ、このカードが悪の手に堕ちて破壊の限りを尽くす姿が頭をよぎった鈴華は、なんとしてでもこのカードを守りたいと思った。その思いを前に、死の恐怖などに構っている暇は無いーーーーー

鈴華（………ママーーーーー絶対に……このカードだけはーーーーーー）


星奈「…わかったよ。
じゃぁ望み通りにーーーーーグッチャグッチャにドロッドロなグチャドロにしてあげるっっ！！！☆☆☆」


突如星奈の背後上空に星が煌めき、巨大な三角形を描き出す。



鈴華「ーーーーっ！！」


星奈「ーーーー今度こそ、バイバイっ☆」


そして光り輝く三角形から、無数の光弾が放たれた。




ーーーー刹那。





光弾全てに火が灯り、その場に焼け落ちるーーーー


鈴華「ーーーー！」


星奈「……巨大な精霊反応……っ…！！ これはーーーーー」

レーダーを確認した星奈は振り返り、前進してくる“それを”、無邪気な笑顔で見つめた。


星奈「ーーーー不死鳥っっ！！☆」





火群「ーーーーぜぇぇぇりゃあぁぁぁああっっっ！！！」

両腕両足に、赤を基調とした不死鳥を模す武装をした火群は、星奈に向け拳を振りかぶるが、巨大な三角形の光盤によって弾かれてしまう。

火群「…がッ……！！ 頼むッ…ニクス！！」

弾き飛ばされる中で火群の手足から離れ実体化したニクスは星奈の脇を抜けると、鈴華を抱きかかえて火群の元へ戻って行くーーーー

和泉「…すごい……！ いつの間にあんなこともできるようになってーーーー」

扉の陰に隠れている和泉はその光景を目を丸くして見ている。


鈴華「……っ…！ 市瀬…さん……っ！ 和泉さんも…っ……どうしてーーーー！？」


星奈「ーーーー邪魔しないでっ！！」

星奈は右手を動かしニクスに照準を合わせると、再び光弾を放つ。

しかしその直後、ニクスの影から千愛が姿を現した。

千愛「ーーーーリン♫
こっちこそ、邪魔はさせないわ」

千愛はステッキを回転させ光弾を弾き返すーーーー


星奈「……うわっ…！？ もう１人いたの！？」

驚きながら、弾き返された光弾を三角形の光盤で防ぐ星奈。

その隙に鈴華を抱えたニクスと千愛は、火群と和泉の待つ扉の前まで駆け寄った。


ニクス「……今、奴と闘うべきでは無い…っ…！！ ここは退くぞ…っ！」

火群「……了解！！」


急いで格納庫から出る火群たち。


星奈「ーーーーー黙って逃すわけないよねっ！！！」


星奈は精霊の力によって宙に浮き、ものすごい速さで扉に向かい飛行する。


ニクス「……ッ！！」

全員が扉を出たのを確認し、ニクスは手元のシャッター開閉スイッチを押した。

星奈「ーーーーっ！！！」


星奈が追いつくすんでのところで、扉と同時に通路側のシャッターも何重にも閉まっていく。
その様子を火群達は駆けながら確認し、安堵する。


火群「…よし、なんとかうまくいったな…！」

和泉「……鈴華ちゃん…っ！ 鈴華ちゃん……っ…！！」

火群におぶさる和泉は鈴華に声をかけるが、返事は返ってこない。

鈴華「………っ……」

ニクス「…気を失っているだけだ。ちゃんと息はある」

和泉「……そっか……良かった…」


火群「…明石さんが端末を通して、直接地下の格納庫の前に繋がってる入り口を教えてくれて助かった…！」

爽香の声『…どういたしまして！ 上の階へ行くなら正面から行くのが早いけど、正面の階段壊れてるから、上の階へは迂回してーーー』

火群「……いや、ここはこのまま突っ切ります」

爽香の声『ぇぇ！？』


火群「…ニクス、また頼めるか！？」

ニクス「……ああ…！
千愛、鈴華を頼む」

ニクスはそう言って鈴華を千愛に預けると、再び火群の手足に換装される。


火群「ーーーーりゃぁあっ！！」

そして地面を蹴り飛び上がり、上の階へと着地した。


和泉「…！」

着地の直後、火群におぶさる和泉がブルっと震える。

火群「…和泉っ！ 大丈夫か！？」

和泉「…う、うん！ 平気！」


和泉（……今ので少しちびっちゃったなんて言える訳ないよ……っ…！）


鈴華を抱える千愛も難なく上の階へと飛び上がり、先へと進んで行く。

爽香の声『…うひゃ〜、精霊ってすごいな〜。
…あ！ 雫ちゃんから今連絡が！！雫ちゃんもまだ無事みたい！』

火群「…！！」

和泉「…！ 良かった…！！」


爽香の声『…今は屋上に向かってるみたいだから、フォローに行ってあげて！』


火群「…はい！！」


和泉（…良かった……本当に…っ…！）

和泉は嬉し涙を目に浮かべ、火群の背中にきゅっと軽く身を寄せる。

火群「……！」

和泉（……けど…、まだ意味のわからない不安感は私の中に残ったままーーーーなんで…？ どうして……？）


次第にしがみつく手が震え、力も強くなる。


火群「……っ…」


それを見た火群は、和泉の耳元に小声でーーー


火群「ーーーー大丈夫だ、和泉」

そう言った。


和泉「……っ…」


火群「……絶対にみんなで生きて帰るんだーーーー不安な事なんて、何も無い」


その言葉を受け、僅かに安心した和泉は、


和泉「……ありがと、火群くん」


頰を染め、聞こえるか聞こえないか微妙なレベルの声量で一言、感謝を述べる。



僅かではあったが、その“僅か”が、和泉にとってはとても大きいものでーーーー和泉の中に新たな感情を与えている事は、間違いなかった。







To Be Continued…






《次回予告》




「次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１７９《ネロ》






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙