DRAW:２０１ 不死鳥の精神　作：人喰い

(201)





〜桜庭家前〜


午前５時５分。


【Side 火群】



火群「…………」



周囲には機械の部品の様なものがいくつか転がっていて、無人の家の前は妙な不気味さが漂っていた。

火群「………どういう…ことだよ……」

約束の時間に現れない和泉。そして家の窓が空いていた事を不審に思い、火群の精霊であるニクスは家の中へと入っていったが、家内はすでにもぬけの殻だった。


ニクス「…部屋の隅々まで探したが、和泉だけでなく、結維…そして千愛の姿も見当たらなかった……。
見つけたのは、これだけだ」

そう言って懐から取り出したのは、白く細いーーーー和泉の義手だった。

火群「……嘘だろ…？ なんで……っ……。
先に、黒髭町駅に行っちゃったのか……？」

佇む火群の傍で、ニクスは小さく呟いた。

ニクス「ーーーー嫌な予感がする」

火群「……え…？」

口元に手を当て考え込むニクス。火群は振り返り首を傾げる。

ニクス「火群に一言も無しに、義手を置いて先に行くなどあり得ると思うか…？
あの真面目な和泉が不用心に戸締りもせずに家を出るとも考えにくい……」

火群「……ああ…。和泉はそんなことする様なやつじゃないもんな……」

ニクス「それに、周囲に散らばる機械の破片……恐らくここで、戦闘があったのかもしれん」

火群「！！！」

一気に青ざめた表情で火群は目を見開く。


火群「……じゃあまさかこの破片ってーーーー」

ニクス「ーーーー『決闘機兵-ﾃﾞｭｴﾙﾛｲﾄﾞ』。
終焉の焔の連中がそれをもって襲撃しに来た……と見るのが自然か…」

火群「……決闘機兵…っっ…！ 工場で奪われたデータを元に、もう作り出したっていうのかよ…！！
だとすれば、和泉たちは負けた……って事か…？ それで………連れ去られた……？
けど……何の為にーーーー」

徐々に怒りが込み上げる中、ニクスは火群の肩にそっと手を置く。

ニクス「…大丈夫だ。和泉は無事に違いない。急いで助けに行こう」

火群「……そんなこと言ったって！！ 和泉の居場所もわからないんじゃ助けに行けないだろ…！？ それにマインの拘束が解かれるまでも時間がない…！！」

情けなく涙声になる火群に、ニクスは真っ直ぐな視線を送り、

ニクス「…これを見ろ。火群。
どうやら向かうべき場所は、変わらないようだ」

言いながら、和泉の義手を薄暗い夜空に掲げてみせた。

火群「……！」

驚く火群。掲げられていた義手からは、淡い桜色の光が、道標の様に遥か空の彼方まで伸びていた。


火群「これはーーーーーこの先に和泉が居るって事か……！？」

ニクス「ああ、恐らくこの義手は和泉の眼鏡に反応しているんだ」

火群「…眼鏡……だって…？」

何を突拍子も無いことを、と目を細める火群に、ニクスは小さく鼻を鳴らし答える。

ニクス「一昨日、私たちがYAGAMI本社ビルに行く前、和泉は積木病院に入院中の鈴華の母親ーーー『西蓮寺 鈴音』に眼鏡のメンテナンスを頼んでいたそうだ」

火群「…？ 俺もそれは知ってるけど、それが一体どう関係してるんだ？」

ニクス「……和泉の義手を作ったのは鈴音の勤め先だ。そしてメンテナンスの際に、和泉の眼鏡と義手を連動させる処置を施していたそうだーーーー」

火群「…！！」

火群は見えてきた希望に胸が熱くなるのを感じ、うつむき気味だった顔を上げてニクスと目を合わせる。

ニクス「…今回は彼女に救われたな」

火群「……結維さんも同じ場所に居てくれればいいんだけどーーーー」

ニクス「……そうだな…。
……よし…、行くぞ火群！」


火群「……ああ！！」

力強く頷く火群。その火群の身体に、光子化したニクスの身体が重なり合う。
精霊と人が、強く心を結びつけることでその身を一体化させる現象ーーーー『具象化-ﾄﾗﾝｽ』。
先日までは不完全だったそれが、不死鳥の化身との闘いを経て、炎の翼を生み出すまでに成長していた。

火群は和泉の“右腕”をぎゅっと抱きしめ、慣れないニクスの翼でふらつきながら飛んでゆく。


目指すは、光の示す道の先。

ーーーーー空に浮かぶ、神星樹。















ーーー遊戯王 Ph.X ーーー
◉◉◉◉◉第３章◉◉◉◉◉

〜決戦の地・セフィロト編〜
《Dead or Alive》




ーーDRAW:２０１ーー
《不死鳥の精神》















火群「ーーーーーけど、時間になるまで、神星樹の“門”が開くことはないってシルバさんは言ってた。
和泉達が攫われたんだとすれば、攫った奴はどうやって神星樹の中に入ったんだ…！？」

ニクス「……“門”を経由せずとも神星樹の内部に侵入する方法が別にあるのか、そもそも内部にいるという推測が間違っているのかもしれない。
どの道、この距離では判断できないな。少しスピードを上げるぞ、火群」

話しつつ、“具象化”状態での飛行にも段々と慣れてきた頃。


「おーーーい！！」

「火群ーーっ！！」


呼ぶ声に目線を下ろし、まだ少し安定しない挙動でひゅん、ひゅん、と火群は舞い降りる。

地上から火群を呼んでいたのは、ツンツン頭の眼鏡男子『古宮 栗須(こみや くりす)』と、真っ直ぐな目をした小太りの少年『倉川 明日人(くらかわ あすと)』の二人だった。


火群「……よっ。二人とも」

明日人「『……よっ』じゃねぇよッ！ お前その翼ッ！ どういうことだよ！！」

栗須「いいなー、俺にもくれよ」

二人にはなんて説明したらいいやら、と火群は頭を掻く。

火群「……あー、これはあれだよ。精霊の力の応用っつーか……って、そんなこと説明してる場合じゃねぇ！ お前らも行くぞ！
捕まれ！！」

慌ててそう言って、火群は精霊の力で筋力を強化した腕で二人を抱え、

栗須「…は！？」

明日人「おいおい冗談じゃねぇぞ……っ」


火群「……電車を待ってる余裕なんて無いーーーーー行くぞ…ッッ！！」


鋭く地面を蹴り、再び飛び立った。





＊＊＊＊＊



〜YAGAMI本社ビル〜



時刻は５時１５分。


ぎゅん、と音を立て、火群はビルの前に降り立つ。

栗須「……あ”ー…ちびるかと思ったぜ…っ」

明日人「…ぜぇ…はぁ……、火群…、お前が急いでる理由はわかったけど…、他のみんなももう来てんのか……？」

火群「…どうだろう…。一応、５時半に集合って事になってたけど……」

辺りを見回してからなんとなく空を見上げると、確かに感じる。邪気。
すぐ真上に生える神星樹からは、マインと対峙した時に全身で感じた邪気が解き放たれているようだった。

火群「……」

そしてリュックから和泉の右腕を取り出すと、やはり桜色の光は神星樹の中への真っ直ぐに伸びていた。

明日人「……これが、神星樹……だろ？ 俺の精霊ーーーアルセイが言ってた」

栗須「……でっけェェ…っっ…！」

火群（……やっぱりあの中に、和泉が………っ…）


しばし頭上の神星樹を眺めていると、


ｷｷｲｲｨｲｲｨｲｲｨ!!


火群達の後方で鳴り響く、バイクのブレーキ音。



メアリー「ーーーーハァイ♪
Good morning, everybody!」


ヘルメットを脱ぎ、バイクの座席から調子の良い挨拶を送るのは、ウェーブがかった金髪美女『メアリー=ベイクウェル』。

３人はメアリーの挨拶に手を振り応じながら、メアリーの後ろに乗っていた少女に自然と目がいく。

雫「……あ、あの…えと……おはよう、ございます…っ…」

こちらもヘルメットを脱ぎ、挨拶を交わす。
真ん中だけ残し伸びた前髪を左右で分けている。火群達の一個下の少女『柏木 雫(かしわぎ しずく)』。
が、火群を除いた男性陣２人は何とも微妙な表情。

明日人「……？」

栗須「…誰だあの美少女は…ッッ！！？？」

火群「…え…？ 雫さんだけど？」

明日人・栗須「「はぁ！！？」」

息ぴったりに驚愕する２人。
火群は雫に手を振りぎこちなく笑いかけ、「似合ってるぜ」と一言。
雫はそれを受けヤカンの如く顔を真っ赤にしてフリーズしてしまう。

雫「は、はわわわわわ……っ……」


一方栗須は鼻息を荒くし、一歩、二歩、三歩と、雫の手前１メートルくらいの距離でまじまじと雫を見つめ、顔をしかめた。

雫「……っ…！」

栗須「……この美少女が本当にあの前髪モサ子の雫ちゃんだってのか…！？」

雫「…はわわ……っ…古宮さん本当ですよぉ…っ」

栗須「…いや〜、そんなわけないだろ〜」

雫「…いやいや本当の本当ですって！
……ほらっ！」

そう言ってヘアピンを外し前髪を下ろすと、いつもの前髪少女・雫。

栗須「ほんまや」


メアリー「…あはははっ！ なに漫才やってんの２人ともー！
……っていうか、今のところ来てんの君ら３人だけ？ 眼鏡の双子ちゃんは？」

火群「…！！
えっと、その件なんですがーーーー」

言いかけたところで、ビルの入り口ーーー自動ドアが開いた。


鈴華「…あ、皆さん……っ…！」


ビルの中から、ゴスロリ少女『西蓮寺 鈴華(さいれんじ すずか)』が顔を見せ、茶髪のツインアップロールを大きく揺らす。
鈴華は皆が来ていたことに一瞬驚き目を丸くしていたが、すぐに一同から顔を背ける。そして腕を組み背を反らすと、

鈴華「…お、遅かったじゃない！」

と、ツン寄りの一声。

明日人「鈴華さーん、デレが隠せて無いっすよ」

鈴華「うるさいですわっ！ この太っちょ！」

振り返り怒る鈴華。
可愛い反撃により若干の傷を負った明日人を他所に、程なくしてその場の全員で情報交換が始まった。


…………


雫「……そんな……、結維さんに和泉さん、千愛さんが………」

メアリー「…迂闊だった……。奴らが昨夜襲ってくるなんてーーーー」

鈴音「……で、ですが！ ママのお陰でなんとか和泉さん達の場所はわかりそうですわね！」

火群「…ああ、急ごう。
３人が心配だ」

胸を押さえ俯く火群。その様子を雫は傍で心配げに伺う。

メアリー「…そうね。
そだ、ゴスロリちゃん、中には他に誰がいた？」

鈴華「…私のママに、シルバさん、斬波さん、明石さん。
それから……私たちのバックアップをしてくださるYAGAMI社員の方々、ですわ」

火群「…戒…っ…。
あいつ……怪我は本当に大丈夫なのか…？」

鈴華「……言ってても仕方がないですわ。
行きましょう」

火群「…あ、ああ！」

こんな強気に引っ張っていくタイプの子だったかなと火群は軽く面食らいつつも、自動ドアの先へと足を踏み入れて行った。




＊＊＊＊＊




〜YAGAMI本社ビル・神託の間〜




シルバ「ーーーーー作戦は説明した通りだ。
もうすぐ、八神社長がかけた“門”のロックが解除される。
皆。準備はいいか？」



YAGAMI本社ビルの４５階。
社長室の奥に広がる神託の間ーーーーーそこに集まる、決闘者たち。


火群「……はいッ…！ シルバさん…！
いつでも行けます！！」

雫「待っててねーーーーお姉ちゃん…っ！」

鈴華「パパ…ママ…。進太郎、進助、美鈴……。
……行って来ます」

明日人「……俺も覚悟は決めたぜ。
行ってやろうじゃねーか……ッ…この“樹”の中に！」

栗須「…怖ぇ……怖ぇけど……っ…！
日常に戻れねぇ方がもっと怖ぇ！！」


戒「…………ああ。
奴らに見せてやる……。死の淵を見た人間のーーーーー底知れぬ力を」


それぞれ誓いを胸に、“門”の前に立つ。



爽香「……みんなすっかり立派になって…っ、爽香ちゃんは嬉しいよ…っ…」

鈴音「…鈴華……。みんな…。
私たちはYAGAMIの科学力を最大限に使ってみんなを人間界からサポートするわ。
…どうか、気をつけて」

綾小路「…WDCSを開催し、皆さんを危険な目に合わせてしまったこと……本当に申し訳ないと思っています。
あなた方が生き残る為に、我々は全力を尽くすだけです……。ご武運をーーー」



シルバ「……数名のプロ決闘者、そして海外の代表達には周囲の警戒に当たってもらっている」

火群「…………」

シルバ「……経験値で遥かに勝る彼等ではなく、お前たちがこの場にいる意味がわかるか？」

火群「ーーーーはい」

火群の返答と同時に、皆も無言で頷く。

火群達は運の悪い事に、数回にわたり終焉の焔幹部クラスの決闘者による襲撃を受けた。その闘いの中で死にかけた者もいる。
そんな中で幸運にも生き残り、精霊を奪われることも無かった彼等は、終焉の焔との“闇のゲーム”における経験値で圧倒的に他を追随していた。
絶望的な状況からの生還。その極限を体感した子供の成長力。
シルバはそこに賭けた。

勿論それだけではない。
特に注意すべき存在、マインと伍召焔。彼等と実際に戦った者、彼等の決闘を目の当たりにした者なら、その対策も自然と組み立てることができる。
そう言った意味も含めて、シルバは火群達に、神星樹への侵入及びその先で待ち受けるであろう終焉の焔との闘いを任せたのである。

シルバ「…メアリー、皆を頼んだぞ」

メアリー「ハァイ♪
シルバさん、そんじゃワタシタチ、ちょっくら世界救って来ますねー♪」

言って、メアリーはキャップ帽を逆さに被り、ひらひらと手を振って“門”の前の皆の元へ歩いて行く。
シルバはメアリーの軽口には付き合わなかったが、一瞬、僅かに口元を緩ませた。


シルバ「ーーーーー指揮は俺が取る。
目標は、“マインの意思”の浄化。
それによる“終焉の焔”の殲滅だ…ッッ…！！」




倒れても屈せぬーーーー不死鳥の精神を見せてやれッッ！！！



その言葉と共に、門は開かれた。













To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:２０２ Sephiroth






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙