DRAW:２２９ 涙は星屑と消ゆ　作：人喰い

(229)



《神星樹内部》『美の間』



瑞希「───」

辺り一帯が氷で覆われた『美の間』にて瑞希はひとり、嘆息。
手元にあるレーダーが、ここ美の間に接近する精霊反応を複数感知したからだ。

上方向、王冠の間へと続く通路からは、星奈と戦う結維・鈴華、その戦いを見守る戒と栗須のもの。
続いて左斜め上方向、『峻厳の間』へと続く通路から、ひとつ。
そして右斜め上方向、『慈悲の間』へと続く通路から、ふたつ。


瑞希「───うーん、全部で７つかぁ。多いな〜〜」

レーダーの表示を拡大し、指でなぞるように点を数えると、

瑞希「上は星奈ちゃんがいるから大丈夫だろうけど、残りは3人……うん……あ、3人か───ちょうどいいね！」

そう言う瑞希の傍には、白銀の氷を身に纏った3体のドラゴン。

瑞希「出番だよ」

瑞希が指を鳴らすと、3体の竜は横たわっていた3機の決闘機兵へとそれぞれその身を宿し、ゆっくりと、立ち上がった。

すると、パキパキパキと音を立て、機兵の身体が氷で覆われた姿へと変化してゆく。

氷結界の名を冠した、三龍を模した姿へと。



瑞希「───暴れといで。
『ブリューナク』『グングニール』『トリシューラ』」

















◉◉◉遊戯王 Ph.X◉◉◉
───DRAW:２２９───
　《涙は星屑と消ゆ》















【Side 結維】


《神星樹内部》
〜『王冠の間』←→『美の間』〜



◉TURN:０１◉


結維＆鈴華【LP 8000】
(場)
なし
手札:5


星奈【LP 8000】
(場)
『星守の騎士 プトレマイオス』[DEF 2600]
◉素材:７
(魔法・罠)
『星守の騎士団』(永続魔法)
伏せ:0
手札:5



【ルール】
２対１

【ライフポイント】
結維＆鈴華:共有8000
星奈:8000

【フィールド・墓地・除外】
共有

【ターン進行】
星奈→結維→星奈→鈴華→星奈→…







カチ、カチ、カチ



星奈「───プトレマイオスの効果、使うね」


《星守の騎士
テラナイト
プトレマイオス》 †
エクシーズ・効果モンスター（制限カード）
ランク４/光属性/戦士族/攻 550/守2600
レベル４モンスター×２体以上
(1)：このカードのＸ素材を３つまたは７つ取り除いて発動できる。
●３つ：「Ｎｏ.」モンスター以外の、このカードよりランクが１つ高いＸモンスター１体を、
自分フィールドのこのカードの上に重ねてＸ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
●７つ：次の相手ターンをスキップする。
(2)：お互いのエンドフェイズ毎に発動できる。
自分のエクストラデッキの「ステラナイト」カード１枚を選び、
このカードの下に重ねてＸ素材とする。


星奈「───プトレマイオスの“おーばーれいゆにっと”7つ全てを使うことで、次のおねーさんのターンを、スキップする」


カチ、カチカチ


結維「───は…？」


カチカチカチカチカチカチカチカチ


秒針を刻む音はより大きく、より早く。


星奈「カードを2枚伏せて、これであたしはターンしゅーりょー！」


◉エンドフェイズ◉


星奈「それじゃあ、もーいっかい、あたしのばんだねっ！」

鈴華「…待って、待ってよ。なに、言ってんの…？」

理解が追いつかない。
だが、これだけははっきりとわかる。
続く結維のターンはスキップされ、星奈のターンになるということは、つまり、バトルフェイズも行えてしまうという事───


結維「───ッ…！ふざけ…んじゃないわよ…ッ！」

結維は叫び、手札のカードに指をかける。

結維「このエンドフェイズ時、私は手札の『ワナビー！』を捨てて効果発動ッ！！」


《ワナビー！》 †
効果モンスター
星２/光属性/昆虫族/攻 0/守 0
このカード名の効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：自分・相手のエンドフェイズに、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。
使用していない相手の魔法＆罠ゾーンの数だけ自分のデッキの上からカードをめくる。
その中から罠カード１枚を選んで自分フィールドにセットできる。
残りのカードは好きな順番でデッキの下に戻す。
この効果でセットしたカードは次のエンドフェイズに墓地へ送られる。


星奈「！」

結維「…この効果で…ッ！あんたの使用してない魔法・罠ゾーンの数までデッキの上からカードをめくり───その中の罠カードをセットする！！」

星奈の場には、永続魔法『星守の騎士団』と、伏せカードが2枚、計3枚のカード。


戒「…上手い…！だが、めくれるカードはたったの2枚…！

栗須「2枚の中から罠カードを引かなきゃなんねぇのか…！」

更には結維のデッキにおいては、『神罰』や『裁きの光』など、場に天空の聖域が存在しなければ発動できない罠カードも投入されている。
それらを引いても、この局面では意味をなさない。かつてないプレッシャーが結維を襲う。

結維「……！」

意を決してめくられた1枚目───『神聖なる球体』。罠カードではない。

続く2枚目───


結維「───ッ…！」


結維は引いたカードを横目で確認し、目を閉じる。
そして一声。


結維「───ありがとう、私のデッキ」


鈴華「！」


結維「私の引いたカードは、
罠カード───『無限泡影』…ッ！！
このカードは私の場にセットされる！！」

結維＆鈴華[伏せ 1]

星奈「もーっ！！あたしのターンだっていうのに罠を伏せるなんてずるいずるいっ！！」

更に結維の伏せた『無限泡影』はモンスターの効果を無効にする事ができる罠カード。
これにより展開を鈍らせる事が可能となった。
しかし───

結維「………」

依然として不利な状況には変わりない。
先のターンの展開力を見て、無限泡影1枚で果たして止まり切るのかどうか、怪しいところではあった。

そして星奈のターンは終了し───


◉TsじhsxN(/@088:」2
うwyxkっdrsmk

結維「───？」

本来なら、TURN:０２と表示されるはずのデュエルディスクの表示がおかしい。しかしそんなことを気に留める間も無く───

結維「───」

鈴華「───」


一瞬。

時が───止まる。


結維「───ッ」



◉TURN:０３◉

ターンプレイヤー:常盤 星奈

◉ドローフェイズ◉

結維「……！」

鈴華「…っ…！」

改めて、自分達のターンがスキップされた事実を目の当たりに拳を握る2人。しかし無慈悲にも2度目の星奈のターンは展開される。

星奈「───あたしのターンっ！ドローっ！☆」[手札 4]

けれど『ワナビー！』の効果により、勝ち目0の状況から、1に繋がった。
この僅かな可能性に全ての望みを託し、結維はその1枚の希望を切るタイミングを伺う。

◉スタンバイフェイズ◉

◉メインフェイズ１◉

星奈「そんな罠が1枚あったって星奈にはカンケー無いもんねっ！」

結維「…そうね。この『無限泡影』1枚じゃ、モンスター効果を1度止めるので精一杯……」

星奈「そうだよねっ！だけど、1度止められたぐらいじゃあたしのデッキは止まらないんだからっ！☆
手札からそっこーまほー『天架ける星因士』を“はつどー”っ！☆」

【対象】『星守の騎士 プトレマイオス』

星奈「プトレマイオスをEXデッキに戻して、デッキから『星因士 デネブ』を特殊召喚っ！」[ATK 1500]


《星因士
サテラナイト
デネブ/Satellarknight Deneb》 †
効果モンスター
星４/光属性/戦士族/攻1500/守1000
「星因士 デネブ」の効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「星因士 デネブ」以外の「テラナイト」モンスター１体を手札に加える。


星奈「デネブの効果いくよーっ！☆」

召喚権を残したままの1手目。

結維「…それにしても、随分と余裕そうね。もう少し、慎重になっても良いんじゃない？」

ここを止めてもカドケウスの効果で手札に戻したリュラの召喚から展開を伸ばされてしまう。

結維(…ここじゃ……無い)

星奈「おねーさんこそ、どういう“じょーきょー”かわかってないみたいだねっ！
デネブの効果でデッキから『星因士 アルタイル』を手札に加えて……“しょーかん”っ！」[ATK 1700]

《星因士
サテラナイト
アルタイル/Satellarknight Altair》 †
効果モンスター
星４/光属性/戦士族/攻1700/守1300
「星因士 アルタイル」の効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合、
「星因士 アルタイル」以外の自分の墓地の
「テラナイト」モンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
この効果の発動後、ターン終了時まで「テラナイト」モンスター以外の
自分フィールドのモンスターは攻撃できない。


星奈「召喚したアルタイルの効果と、手札のリュラの効果はっつどーっ！」


《星騎士
テラナイト
リュラ》 †
効果モンスター
星４/光属性/戦士族/攻1200/守1600
このカード名はルール上「セイクリッド」カードとしても扱う。
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：自分フィールドに「星騎士 リュラ」以外の「テラナイト」、「セイクリッド」モンスターが召喚された場合に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2)：このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「テラナイト」魔法カード１枚を手札に加える。


アルタイル効果
【対象】『星因士 ウヌク』

結維(まだ……まだよ…)

星奈「手札と墓地から、おいで！『星因士 ウヌク』『星騎士 リュラ』っ！」[DEF 1000]


《星因士
サテラナイト
ウヌク/Satellarknight Unukalhai》 †
効果モンスター
星４/光属性/戦士族/攻1800/守1000
「星因士 ウヌク」の効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「星因士 ウヌク」以外の「テラナイト」カード１枚を墓地へ送る。


星奈「そして！ウヌクとリュラの効果で───」


結維「───今！！」


瞬間、声を上げる。

結維「トラップ発動！！『無限泡影』！！」

己の直感を信じて開かれた罠から発せられた稲妻が地を這い、星奈のモンスターの動きを封じる。その対象となったのは、『星騎士 リュラ』だ。


チェーン①『星騎士 リュラ』
デッキから「テラナイト」魔法カード１枚を手札に加える。

チェーン②『星因士 ウヌク』
デッキから「星因士 ウヌク」以外の「テラナイト」カード１枚を墓地へ送る。

チェーン③『無限泡影』
対象のモンスター(星騎士 リュラ)の効果をターン終了時まで無効にする。


結維「───リュラの効果は止めさせて貰うわ！」

星奈「ふーんだ！そのくらいどうってことないもん！
ウヌクの効果で『星因士 シリウス』を墓地へ送るよっ！」


栗須「リュラの効果は止まったけど、モンスターが4体残っちまったぞ…！」

戒「……逆だ。4体で止めたんだ。
このタイミングでの無限泡影……おそらくは、ヤツが墓地のアルテアの効果を使わなかったのを見て撃ち込んだのだろう」

栗須「けどあの幼女…なんでアルテアの効果を使わなかったんだ？」

戒「…アルテアの蘇生効果を使用したターンはエクシーズモンスターしか攻撃できなくなる…。その誓約を嫌ったか、もしくは───」

栗須「…？」

戒「アルテアにも備わっているであろう特殊召喚時の効果をまだヤツはこのデュエルで使用していない。
先攻1ターン目で使用しなかったところを見るに、相手の場に干渉する効果の可能性が高い。それを狙っていたのかもしれないな───」


◉バトルフェイズ◉


星奈「───いくよっ！バトルだっ！」


『星因士 アルタイル』[ATK 1700]

『星因士 デネブ』[ATK 1500]

『星騎士 リュラ』[ATK 1200]

結維と鈴華の前に立ち塞がる星の騎士達。
それぞれ剣を掲げ、2人に斬りかかる。


結維「…く…ッ…ァ…ッ！！」【LP 8000→6300】

鈴華「きゃぁあっぁぁあッ！」【LP 6300→4800】

結維「…ぎァ…ッ…ェぁぐッ…！！」【LP 4800→3600】

咄嗟に前に出た結維が一撃多くもらう形となり、

鈴華「結───」

駆け寄ろうとする鈴華。それを結維は右手で静止する。

結維「…はぁ…ッ…フーーーッ…っ…！
……大丈夫…。私は…大丈夫だから───」

このターンを耐えれば、次はようやく鈴華のターンだ。
結維の一言に、このデュエルの命運が懸かった次のターンに備えて欲しいという意味が込められていると鈴華は受け取った。


栗須「…がんばれ…！結維さん……！西蓮寺さん…！
ライフはまだ残ってる…！これなら───」

星奈「───きゃは☆」

しかしこの少女相手に、そう簡単にはいかない。
星奈は元気いっぱい両手を広げると、

星奈「バトルはこれでしゅーりょーだけどっ、あたしのターンはまだ終わってないよーっ！☆」

飛び上がり、そう言った。
何気なしに発されたその一言。しかし結維たちにはそれが二重の意味に聞こえ、背筋を凍らす。


◉メインフェイズ２◉


星奈「4体のモンスターで“おーばーれいねっとわーく”を構築っ！えくしーず召喚っ！！
またまたまたまた出番だよっ！『星騎士 セイクリッド・カドケウス』っ！！☆」[ATK 2500]

三度現れた金色の鎧纏いし星騎士。
星騎士が大剣を振るうと地中より2本の光柱が天へと伸びる───

星奈「カドケウスの効果で、墓地の『セイクリッド・トレミスM７』と『星因士 アルタイル』を手札に！」[手札 3]


栗須「トレミスが戻っちまった！もっかい来るってのか…！？」

戒「…だがカドケウスの上にトレミスを重ねたとしても、X素材は5枚止まり……。星守の騎士団の効果でその上にプトレマイオスを重ねようが素材は6枚…！ターンスキップには1枚足りん…！」


星奈「───それはどうかなー？☆
あたしは『星騎士 セイクリッド・カドケウス』の1体でっ！“おーばーれいねっとわーく”を再構築！！」

カドケウスを眩き光が包み、新たな姿へと作り替えてゆく───

星奈「“えくしーずちぇんじ”！！
来て！！らんく５！！『星輝士 セイクリッド・ダイヤ』！！」


現れたのは、星守の聖龍セイクリッド・トレミスM７と酷似した星輝竜───決闘機兵工場にて鈴華を苦しめたモンスターの出現に、鈴華は眼を見張らせる。


『星輝士 セイクリッド・ダイヤ』[ATK 2700]◉素材x5


鈴華「…！そうだ…あのモンスターは…っ…メインフェイズ2に『テラナイト』エクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズできる……っ…！」

星奈「そ！よく覚えてたねー！☆
…でもちょっと、思い出すのが遅かったかなーっ！」

鈴華「…！」

星奈「ここまでくればもうわかるよねっ！
ダイヤの上にトレミスを重ねて、その上にプトレちゃんを重ねれば───ずっとあたしのターンってわけっ！！☆」

結維「………ッ…」

星奈「───いくよっ！セイクリッド・ダイヤ1体で“おーばーれいねっとわーく”を再構築っ！！
えくしーずちぇんじっ！！
らんく６！！『セイクリッド・トレミスM７』！！」

『セイクリッド・トレミスM７』[ATK 2700]◉素材x6

星奈「どーお？すごいでしょ！1枚止められたところでどうってことないんだからっ！」


栗須「…おい…！どうすんだよこれ…！！
無限にターンスキップできるってことじゃねェか…！？ふざけてんだろ、なァ…！？こんなの───」

戒「───2人の眼を見ろ」

栗須「……？」

戒「…まだ2人は、諦めてなどいない…！」

栗須「───！」


これだけの絶望を目の当たりにしても、結維と鈴華の目は死んでいない。
ただ一点、目の前の超えるべき相手だけを見据えて離さない。

結維「───」

星奈は強い。しかしその強さは、強力な展開力を持つデッキを直感的に操り、圧倒的な物量を相手に押し付ける、いわば独りよがりな強さなのだ。

鈴華「───」

幼いが故に、相手との会話を避ける。
自分の強さに絶対の自信があるからこそ、相手の盤面をほとんど見ない。
そこに付け入る隙があると、2人は考えていた。


星奈「…な、なんなのその目…、おもちゃのくせに…っ！そんな目で星奈を見ないでよっ！！」

鈴華「いいえ、私たちはおもちゃじゃありませんわ。
あなたの対戦相手。それをあなたにはわかって欲しい」

星奈「いみ…わかんない…っ！」

星奈は一瞬涙声になったかと思うと、

星奈「もうしらない。つぎで、こわす」

感情を押し殺した声色で、そう言った。
そして既に発動済みの1枚のカードに手をかける。

星奈「えーぞくまほう『星守の騎士団』の効果で───」

瞬間、

星奈「───？」

そこで、星奈の手が止まる。

星奈「…『星守の騎士団』の、効果、効…果、効果…！効果！！効果っっ！！効果効果効果効果効果効果効果っっ！！！」

狂ったように繰り返す星奈。

星奈「効果発動！！…って言ってるでしょ！！なんで…！！なんでいうこときかないのっっ！！！」

結維「───さっきあなたが言った通りだった。
1枚止めたところじゃ、状況は変わらない」

だから、と結維は続ける。

結維「2枚、止めさせてもらっただけよ」

星奈「───！」

星奈は眼を見開き、盤面を見渡す。
そこでようやく気づく。
リュラの効果を無効にした稲妻が、盤面の中央１列にまだ場に残り続けていることに。

星奈「！！」


結維「───『無限泡影』は、まだ生きてる」


《無限泡影
むげんほうよう
/Infinite Impermanence》 †
通常罠
自分フィールドにカードが存在しない場合、このカードの発動は手札からもできる。
(1)：相手フィールドの表側表示モンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。
セットされていたこのカードを発動した場合、
さらにこのターン、このカードと同じ縦列の他の魔法・罠カードの効果は無効化される。


星奈「…あ…あ、あ……ぇ……あたしのカードが、“むげんほーよー”と同じ列にあったから、無効になっちゃったの…？」

これも、よく盤面を見ていれば気づけた事なのだ。しかし星奈の中の圧倒的な自信が、決闘者としての未熟さを露呈させる形となってしまった。

結維「…」

鈴華「…」

そしてこれを受け、結維と鈴華は確信する。

星奈の中には、まだ救うことのできる“星奈の意思”が存在する事を。


星奈「───言ってよっ！！！」


そこで、しばし下を向き震えていた星奈が大声を上げた。

星奈「そんな効果があるなら…っ…！！先に…！！言ってよっ！！！バカ！！バーカ！！」


結維「……」

鈴華「……」

突然の罵倒に、2人は思わず言葉を失う。
しかしすぐに切り替え、

結維「甘えないで頂戴」

厳しく、一蹴。

星奈「……っ！」

結維「なんでもかんでも相手から教えてもらえると思わないことね。
それに、あんな風に余裕ぶっこかれたんじゃあ、既に知ってるものかと思ったじゃない」

星奈「…知らない…知らないし…そんなの」

挑発する結維に、星奈は再び俯き首を振る。
それを見て、2人は静かに目線を交わす。

鈴華「結維さん」

結維「…ええ」

初めは言動や行動すべてが理解不能だった星奈と、決闘を通して、言葉が、通じ始めた。
少しずつ、会話が、成り立ってきている。
もう少し、もう少しだ。
自分達が倒れない限り、希望は、ある。

鈴華「言ってほしいなら、まずは聞いてみてほしい。私たちに。聞いてくれれば私たちは答えますわ」

結維「そうやって会話して、互いを磨き合うのも、デュエルのひとつのカタチ───違う？」


その言葉を聞き、星奈は、


星奈「…ちがう」


一言、小さく呟き、

星奈「…ぜんぶ、あたしの思い通りになるの、する…ものなの、でゅえる、は。
たのしいこと、ずっとずっとやって、壊すの。今まで壊された分ぜんぶまとめて。そうするとね、みーんな星奈のこと褒めてくれるの、『すごい』って。だから、だからだからだからだからだからだから」

今度は自分に溜まったものを全部吐き出すように、

星奈「…あたしの“でゅえる”は、それだけでいい」

だって、と震える声で星奈は続ける。

星奈「負けたらぜんぶ無くなっちゃうから」

結維「───」

鈴華「───」

星奈「あたしを拾ってくれたマインさまや“ねーね”たち家族も…！！《終焉の焔》っていう居場所も…！！ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ！！
無くなっちゃうからっっ！！！
そうするしかないんだよっっ！！！」


泣きながら叫ぶ星奈を前に、結維たち４人は口を紡ぐ。
それぞれがそれぞれの守るべきもののために戦っている。
それ故に奪い、奪われ、憎しみは連鎖してゆく。
自分達のしている事は本当に正しい事なのだろうか。一瞬、ほんの一瞬、揺らぎかけてしまった。それが情けなくて、悔しさだけが募る。


星奈「カードを1枚伏せて…っ！！ターンエンドっっ！！」



◉エンドフェイズ◉



星奈【LP 8000】
(モンスター)
『セイクリッド・トレミスM７』[ATK 2700]◉素材x6
(魔法)(罠)
『星守の騎士団』(永続魔法)
伏せ:3
手札:2
墓地:シリウス、アルテア、アルタイル、カドケウス、Xカドケウス、天架け


結維＆鈴華【LP 3600】
(モンスター)
なし
(魔法)(罠)
なし
伏せ:なし
手札:(結維:4(鈴華:5
墓地:ワナビー！、無限泡影


◉TURN:０４

ターンプレイヤー:西蓮寺 鈴華

◉ドローフェイズ◉

鈴華「…私のターン！！」[手札 6]

◉スタンバイフェイズ◉

◉メインフェイズ１◉

ようやく回ってきた鈴華のターン。
一瞬迷いかけた心を奮い立たせ、結維が繋いでくれた思いを無駄にせぬよう、鈴華は改めて決意を固める。

闇に唆されただけの不幸な少女と、戦う決意を。

鈴華（迷っちゃ、ダメ。私がここに居る意味を考えなさい───）

正しいか正しくないかじゃない。自分が後悔しない方を選べ。

鈴華「───私は手札の『カオスウィッチ-混沌の魔女-』を捨て、『混沌領域』のカードを発動しますわ！」


《混沌領域
カオス・テリトリー
/Chaos Space》 †
通常魔法
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
(1)：手札から光属性または闇属性のモンスター１体を墓地へ送って発動できる。
そのモンスターとは属性が異なり、
レベル４～８の通常召喚できない光・闇属性モンスター１体をデッキから手札に加える。
(2)：墓地のこのカードを除外し、
除外されている自分の通常召喚できない光・闇属性モンスター１体を対象として発動できる。
そのモンスターをデッキの一番下に戻す。
その後、自分はデッキから１枚ドローする。


鈴華「この効果で、カオスウィッチの対となる属性───光属性のモンスター『輝白竜 ワイバースター』を手札に加えますわ！」[手札 5]

鈴華「続けて、墓地のカオスウィッチを除外して、ワイバースターを特殊召喚！」[ATK 1800]


《輝白竜
きびゃくりゅう
ワイバースター/White Dragon Wyverburster》 †
特殊召喚・効果モンスター
星４/光属性/ドラゴン族/攻1700/守1800
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地から闇属性モンスター１体を除外した場合のみ特殊召喚できる。
この方法による「輝白竜 ワイバースター」の特殊召喚は１ターンに１度しかできない。
(1)：このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「暗黒竜 コラプサーペント」１体を手札に加える。


鈴華「除外されたカオスウィッチの効果、発動ですわ！」


《カオス・ウィッチ－混沌
こんとん
の魔女
まじょ
－》 †
効果モンスター
星４/闇属性/魔法使い族/攻1500/守1500
このカード名の(1)(2)の効果は１ターンに１度、いずれか１つしか使用できず、
発動するターン、自分は光・闇属性のＳモンスターしかＥＸデッキから特殊召喚できない。
(1)：このカードをリリースして発動できる。
自分フィールドに「黒き獣トークン」（悪魔族・闇・星２・攻１０００／守５００）２体を特殊召喚する。
(2)：このカードが手札・墓地から除外された場合に発動できる。
自分フィールドに「白き獣トークン」（天使族・チューナー・光・星２・攻５００／守１０００）２体を特殊召喚する。


鈴華「『白き獣トークン』2体を、私の場に特殊召喚！！」

『白き獣トークン』[DEF 1000]

『白き獣トークン』[DEF 1000]

鈴華「更に！レベル4のワイバースターに、レベル2の白き獣をチューニング！！」

◉◉◉☆4+☆2=☆6◉◉◉

───シンクロ召喚！レベル6！『ドロドロゴン！！」

『ドロドロゴン』[DEF 2200]

鈴華「場から墓地へ送られたワイバースター効果で、デッキから『暗黒竜 コラプサーペントを手札に！」[手札 5]

鈴華「まだまだ…いきますわよ…！！
私はレベル6のドロドロゴンに、レベル2の白き獣をチューニング！！」



◉◉◉☆6+☆2=☆8◉◉◉



鈴華「───理想も現実も、全て受け入れて……混沌とした世界に終幕を───っ！！」


光と闇が入り混じり、フィールドの中央に現れたのは、禍々しく巨大な渦。

やがてその渦の中から、ゆっくり、ゆっくりと、“それ”は、姿を現す。


鈴華「シンクロ召喚！！レベル8───
『カオス・デーモン-混沌の魔神-』！！」


白き鎧を纏い、黒きマントを靡かせ、白黒２色の翼で舞い上がる魔神。
巨大な槍を構え、魔神は星守の聖龍と対峙する。

『カオス・デーモン-混沌の魔神-』[ATK 2500]

『セイクリッド・トレミスM７』[ATK 2700』

星奈「…見たことないモンスター…っ…！このあいだ取り損ねちゃった精霊とは別の…！
でも、攻撃力はこっちの方が上だよっっ！！」

鈴華「───この程度じゃありませんわ！このターンにカードが除外されている場合、カオスデーモンの攻撃力は、2000！アップしますわ！！」

『カオス・デーモン-混沌の魔神-』[ATK 2500→4500]

星奈「…っ！」


栗須「…す、すげぇ…！西蓮寺さん、いつの間にこんなに強く……」

鈴華「まだ驚くには早くてよ！！
私は墓地のワイバースターとドロドロゴンの2体を除外！！」

鈴華の足元から黒白２色の柱が立ち上り、弾ける。

鈴華「その輝きは、白───全てを照らす希望の光っ！！
…来なさいっ！！『ライトパルサー・ドラゴン』！！」[ATK 2500]

星奈「…っ…！また、いきなり、手札から…っ！」

手札から墓地の光闇をコストに現れる唐突な打点、この奇襲性が鈴華のデッキの強みだ。

鈴華「更に！墓地の混沌領域を除外し、除外されているワイバースターをデッキに戻すことで、1枚ドロー！」[手札 4]

鈴華はドローしたカードを横目で確認すると、

鈴華「…結維さん、墓地のカード、借りますわよ…！」

結維「どうぞ好きに使って頂戴！」

一言交わし、結維が1ターン目に手札から墓地へ送ったカードに手をかける。

鈴華「墓地の光属性モンスター『ワナビー！』を除外して、『暗黒竜 コラプサーペント』を特殊召喚！」[ATK 1800]


《暗黒竜
あんこくりゅう
コラプサーペント/Black Dragon Collapserpent》 †
特殊召喚・効果モンスター
星４/闇属性/ドラゴン族/攻1800/守1700
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地から光属性モンスター１体を除外した場合のみ特殊召喚できる。
この方法による「暗黒竜 コラプサーペント」の特殊召喚は１ターンに１度しかできない。
(1)：このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
デッキから「輝白竜 ワイバースター」１体を手札に加える。


鈴華「───そして！私はコラプサーペントをリリース！！アドバンス召喚！！」

鈴華の右手に黒焔が宿る。
しかしそれは終焉の焔とは違う、暖かな、決意に満ちた誓いの焔───

鈴華「その煌めきは、黒───全てを覆う漆黒の焔っ！！
…来なさいっ！！『ダークフレア・ドラゴン』！！」[ATK 2400]


光の粒子と黒焔がフィールドを舞い、荒れ狂う嵐の如く吹き荒れる。

星奈「───！」

ここまでの展開で、鈴華の場には3体のモンスター。

『カオス・デーモン-混沌の魔神-』[ATK 4500]

『ライトパルサー・ドラゴン』[ATK 2500]

『ダークフレア・ドラゴン』[ATK 2400]

光と闇、対となる2匹の竜に、混沌の魔神。
まさに圧巻の盤面。鈴華はここに来て、初めて笑みをこぼす。

鈴華「あなたがあなたのデュエルを貫くというなら、今はそれで構いませんわ」

星奈「───」

鈴華「デュエルのカタチは人それぞれ……それを人に強制する権利なんて、あるわけないもの」

星奈「───うるさい」

鈴華「でもね、これだけは言わせて」

星奈「───だまって」

鈴華「───あなたはまだ、真っ当な道を歩むことができる」

星奈「───しずかにして」

鈴華「だって、あなたは」

星奈「───やめて」


鈴華「私たちと同じで、大切なものを守るために戦っているのだから」






To Be Continued…