DRAW:２１６ 大切な友達だから　作：人喰い

(216)





ーーーー鈴華が栗須の元へ駆けつける約30分前。

〜生命の樹 内部・理解の間〜


二人の少年少女を中心にして、その周囲には十数体の決闘機兵の残骸。

警官服に身を包んだ白髪の少年ーーーー斬波戒(ざんば かい)は息一つ切らさず、敵の全滅を確認すると構えを解き、
ゴスロリ姿のツインアップロール少女ーーーー西蓮寺鈴華(さいれんじ すずか)は肩で息をしながら額の汗を拭った。


鈴華「ーーーーーぜぇ…はぁ…っ……ありがとう…。
あなたのお陰で助かりましたわ……斬波さん」

ワープしてすぐに決闘機兵の大群に襲われた鈴華は、逃げてきた先の理解の間で偶然戒と合流し、二人で決闘機兵を迎え撃ったのだ。


戒「ーーーー戒でいい。
それよりも、この程度で苦戦しているんじゃあ、留守番していた方が良かったんじゃないか？ 西蓮寺」

鈴華「ぬぁによぉ！ バカにしないで頂戴っ！！ 戒さんの方こそ、痩せ我慢しているんじゃなくて？」

戒「……フッ、それくらいの元気があれば上等だ。先を急ぐぞ。西蓮寺」

鈴華「！ あっ…ちょっ待ってっ！！
……私だけ下の名前っていうのもあれだし…、私の事も鈴華でいいですわ」

戒「……」

一瞬の沈黙。


戒「……拒否する」

鈴華「！！！？？？」

戒「………拒否する」

鈴華「なんで２回言った！？」



一呼吸置いて。
部屋の奥まで進み、二人は頭上、およそ50メートル上に空いた直径5メートル程の穴を見上げる。


鈴華「……この先に………マインがーーーーー」

戒「…マップを見る限り、そのはずだ。覚悟はいいか？ 西蓮寺」

結局呼び方はそのまま、鈴華はため息混じりに答える。

鈴華「…ええ、とっくに覚悟はできていますわ。
………それで、あの高さまではどうやって行くおつもりで？」


戒「………」


鈴華「………」


戒「…………しっかりと捕まっていろ。西蓮寺」

鈴華「ちょっと待って！！？？ 飛んで行くつもり！！？？」

戒「…他に方法は無い。それに、“具象化”を使えば、あの高さであろうと飛んで行くことは容易い」

鈴華「…そ、それはそうなんですが…！」

戒「いいから捕まれ。置いて行くぞ」

鈴華「〜〜〜っっ…！！！ わ、わかりましたわよ！！」

顔を真っ赤にしながら戒の背に手をかける鈴華。
男子と密着した事など今までなかった鈴華は緊張でどうにかなってしまいそうだったが、しかし同時に、自分だけが変に意識してしまっていることに対し多少の苛立ちも覚えつつ。

戒「……行くぞーーーー」

戒は足に力を込め、飛ぼうとした刹那ーーーーー


ｻﾞｻﾞ…ｻﾞｻﾞｻﾞ……ｻﾞｻﾞーーーー


？？『斬…！！ 応……しろ……！！
斬波……！！』


？？『…華……！！ ……事…して…！
鈴…華……！！』


DUEL GEARを通して音声が聞こえてきた。
司令室のシルバと鈴音からだ。


戒「……！！ 聞こえます。
西蓮寺鈴華も一緒です」

鈴華「…通信が直ったの…！？
ママ！ 私は無事よ！」

鈴音『…よかった…！ そっちの状況は！？』

戒「……“峻厳の間”から追ってきた１３体の決闘機兵を、“理解の間”にて西蓮寺と共に撃破。
これより王冠の間ーーーーマインの元へ向かいます」

シルバ『ーーーー待て、斬波。
その先では何が起こるか分からない。
まずは全員の合流を優先しろ』

戒「…っ…！」

シルバ『それに妙だと思わないか…？
ボスの目の前だというのに、そこを守る者がいないなどーーーー
何か罠が仕掛けられている可能性が高い』

戒「……そう…ですね。わかりました」

シルバ『…よし。
皆の位置情報も端末を通して見れるはずだ。
一番近いのは、知恵の間と理解の間を繋ぐ通路の小部屋にいる古宮だ』

鈴音『古宮くんにも通信で呼び出ししてるんだけど、まだ完全に通信機能が回復したわけじゃなくって、繋がらないの。
それに古宮くんの位置情報、もう十分以上も同じところから動いてないから、恐らく決闘中か……最悪の事態も考えずにはいられないわね』

鈴音の最後の一言にゾッとしながら、鈴華は戒の背中から降り、

鈴華「…そ、それじゃあ私たちは今から、急いで古宮さんのところに向かうね、ママ」

鈴音『…ええ、気をつけてね。鈴華』

シルバ『目的地への最短ルートを端末に送信した。状況に変化があればまた追って連絡する。
以上だ。健闘を祈る』


そして通信は切れ、

鈴華「……さ、行きましょ？ 戒さん」

一瞬戒の方を振り返り笑いかける鈴華。

戒「……ああ、そうだな」

戒は、その笑顔の奥に募る寂しげな想いをひしひしと感じながら、走り出した鈴華の後ろをついて行く。

戒（………）

気丈に振る舞っていても本当は不安で仕方なく、母親である鈴音ともっと話したかったはずだ。
しかし思いを断ち切り、友の為に最後まで闘うと決めた鈴華の背中は、戒にも少し眩しく見えた。












◉遊戯王 Ph.X◉
ーーDRAW:２１６ーー
《大切な友達だから》















〜生命の樹 内部・理解の間←→知恵の間〜


鈴華「ーーーーそういえば戒さん、シルバさんとはWDCSより以前に知り合っていたんでしたっけ」

栗須の元へ向かう道中、鈴華は何気なく戒に問いかける。

戒「…なぜそんな事を聞く…？」

鈴華「……なぜと言われると困るのだけど…。
ほんとにただちょっと気になっただけだから」

戒「……知り合った、というのはあまり適さないのかもしれない。
俺はあの人に命を救われ、魂までも救われた。だが、会話をしたのはほんの一瞬だけーーーーー。
そしてどういう訳だか、出会って間もない俺に“聖騎士”のデッキを……闘う為の剣をくれたんだ」

鈴華「…デッキを…！？ もしかして、次元を超えた先で手に入れたっていう…？」

戒「……そうだ。そのデッキには、本来この次元この時代には存在しないはずのカードーーーーシンクロとエクシーズのカードも組み込まれていた」

鈴華「…シンクロ……、エクシーズ…。
話が飛んで悪いんだけど、その二つに加えて、火群さんの話だと“ペンデュラム”というカードまでもを敵は操ってくる……。
もしかしたら私達が知らないだけで、他の召喚法もあったりしてーーーー」

戒「ーーーー！
その可能性はゼロでは無いな…」

鈴華の言葉に、戒は足を止めぬまま顔を伏せ考え込む。

戒「…だとすれば、それだけの本来存在しないはずであるカードが蔓延る事で、この世界のバランスも大きく崩れてしまうだろう…。いや、もう崩れ始めているんだ…！」

鈴華「…！」

戒「……今まではその“歪み”を精霊王が正してきたのだろうが、精霊王の力が弱まっている今はその“歪み”が視認できるレベルまで来ようとしているーーーーー」

鈴華「……そっか、人間界から神星樹を見ることができたのは、その“歪み”の所為…！」

戒「…このままだと神星樹が本当に直接人間界に現れてしまう場合だってありえる…！」

鈴華「！！ そうなったら…！！ 神星樹のすぐ真下にいるママ達は…！！」

戒「………ッ…」

まず、助からないだろう。
だが、それもまたひとつの推測に過ぎず、そんなことで弱気なことは言ってられない。
だが戒の胸中でひとつの嫌な予感が不穏な渦を巻く。

戒「……」

八神コウの未来視により視えた未来というのは、マインを決闘により討ち倒し、マインの魂が浄化される未来ーーーーー

だがそれ以上の事はコウの口からも、コウから役目を受け継いだシルバの口からも聞かされていない。

戒「……っ…」

鈴華「…戒さん…？ 大丈夫…！？」

だんだん顔色の悪くなる戒に、鈴華は振り返りつつ心配そうに声をかけるが、

戒「…ああ、問題…ない」

苦しそうに戒は答える。

戒（ーーーーーつまり、だ）


戒が思い至ったのは、八神コウの視た未来というのが、

“大勢の犠牲の上に成り立つ勝利の未来”

であるという可能性。



鈴華「ーーーーん…！ い…ん……！
……戒さん！！」

戒「！」

鈴華からの呼びかけに気づき戒は目を見開く。額からは大量の汗。

鈴華「………本当に大丈夫…？」

戒は無言で頷いた後、

戒「…っ…今度こそ……守ってみせるーーーー」

小さく、そう言った。

鈴華「……えっ…？」



戒「ーーーーーもう二度と、失ってたまるか…！！ 失わせてたまるか…！！！」



珍しく叫びを上げた戒に鈴華は一瞬きょとんとしたが、すぐにやれやれと言わんばかりに息を吐き、

鈴華「……っ。もちろんですわ…、
ーーーーけど！」

力強く言いつつ鈴華は立ち止まり、両手で戒の右手を握った。

戒「…！？」

そして今度は真剣な顔持ちで、


鈴華「ーーーー絶対にひとりで抱え込んではいけませんわ。
今のあなたには仲間がいる。
辛い時、苦しい時、手を差し出してくれる仲間が。そうでしょう？」


それは、結維達に会うまで友達のいなかった鈴華だから言えた、励ましの言葉。

しかし直後、自分でもなんでそんな事を言ってしまったのかわからず、だんだんと鈴華の顔が赤く染まってゆく。

鈴華「…っっっ！！ あっえっそのっっ！ ごめんなさいっっ！！ そんなこと言うつもりじゃなくてーーーーっ」

わたわたと謝りつつ、握っていた戒の手を離す鈴華。戒は先ほどまで握られていた手をしばし不思議そうに見つめ、

戒「………フッ。
そうだな………今はもう、“ひとりじゃない”」

小さく笑い、拳を握った。




やがて二人は目線を交わし一息つくと、再び駆け出した。
そして数分ほど進んだ先、T字路の角から顔を覗かせる。その先約３０メートル、栗須のいる部屋のすぐ近くまで繋がる階段前にて、大勢の決闘機兵を目撃する。


鈴華「ーーーーー決闘機兵……！！」

戒「数は10数体……見張りにしては多すぎる」

決闘機兵はまだ二人に気付いておらず、キョロキョロと辺りを見渡している。

戒「……あの階段の先には古宮がいるらしき部屋、そしてその奥に繋がる部屋だけしかない…。古宮がやられたのだとすれば、あそこまで厳重に警備をする必要などないはずだ」

鈴華「…つまり古宮くんは無事って事…！！」

戒「…だが安心もできない。もしかしたらあの部屋では何か重要な機器を扱っていて、それを守るために機兵を配置したのかもしれない」

鈴華「…樹の中なのに、中は意外と機械的な部分もありますものね……ここ」

戒「他にもあの部屋には“隠したい何か”や“閉じ込めておきたい何か”がある可能性は高い」

鈴華「……！！」

戒「…今これ以上考えている暇は無いかーーーーよし、あの部屋へは俺が行く。西蓮寺、お前にはあの機兵たちの囮をーーーー」

戒が言いかけたところで、鈴華のロール髮が小さく揺れた。

鈴華「ーーーーー待って」

小声で言いつつ戒の服の裾をつまむ鈴華。

戒「……っ？」

不思議そうに振り返る戒に、鈴華は重い口を開く。

鈴華「……あの部屋には、私が行きますわ」

戒「…よせ、部屋の中には幹部クラスの敵がいる可能性だってある…！ 危険だ…！！」

鈴華「でも…！！」

戒「………何か策があるのか？」

問う戒に、鈴華は少しあわて気味に、

鈴華「いやっ…その、策とかじゃ無いのだけど……、戒さんさっき、“閉じ込めておきたい何かがある”かも…みたいなこと言ってたじゃない？ それが少し気になってーーーー」

戒「……行方不明の桜庭結維と桜庭和泉…か？」

鈴華「…そう。もしかしたら、結維さんと和泉さん、二人もそこに居るのかも……って思いましたの…っ！
そしたら、私が……私が助けなきゃ…ってーーーー」

戒「……」


鈴華「…だって結維さん、和泉さんに、古宮さん、みんなみんなみんなーーーーーひとりぼっちだった私の手を引いてくれた、大切な友達だから……！！」


戒「ーーーー！」

鈴華の真剣な表情に押され、戒は小さくため息をつくと、

戒「……任せたぜーーーー西蓮寺」

鈴華の肩にそっと手を置き、戒は曲がり角を抜けた。

鈴華「ーーーーはいっ！！ 戒さん……そちらもお気をつけて」

鈴華の返事を受け、戒は機兵の前へと姿を現し歩いて行く。

丁度同じ頃、鈴華はシルバに通信を繋ぎ、状況を説明しつつ指示を仰ぐ。

鈴華「……えっ…？ 古宮さんとの通信が…？」

聞けば司令室では現在、栗須との通信が繋がりかけているとのこと。

そこで戒に気付いた決闘機兵達は戒を追いかけ、T字路の階段とは反対方向へ勢いよく飛んで行った。

鈴華「……！」

息を殺しそれを見送ると、階段の前に敵が居なくなった事を確認し鈴華は走り出す。


友達を、助けるために。





To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:２１７ 魔は轟き、破壊せん






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙