DRAW:６４ 崩落の彼方　作：人喰い

(64)






？？（ーーーホムラっ！）



………？ 誰だ？ 俺を呼ぶのは…？
それにここはどこだ？ そよ風が気持ちいい。


？？（ーーーこっちだよーっ！）


俺は辺りを見渡してみる。
周囲は草木で覆われており、建物は何かの研究施設？のような所以外には倉庫のようなものがいくつかある程度で、それら以外は広大な草原に埋め尽くされている。
そして少し離れたところで、1人の小さな少女が、黒髪ポニーテールを可憐に揺らしながら手を振って俺を呼んでいるのが見えた。
俺はゆっくりと立ち上がり、その子に近寄る。


少女（ーーーこっちこっち♪）



すると少女はさらに先に、研究施設のような建物の方へ進んでいく。
俺はそれを駆け足で追いかける。



少女（ーーー遅いよーっ！ 早く早くっ♪）



ったく、どこまで行くんだ。
どんどんと少女の姿が遠のいていく。



少女（ーーー……っ！ ………！）



少女が何か言っているのは聞こえるが、内容までは聞き取れない距離まではなれてしまった。
俺は急いで少女を追いかけるが、



ビュォォオォォォオオ！！



不意に吹き荒ぶ突風に、反射的に両手を顔の前でクロスさせ防ぐ体制になる。
風の勢いがとても強かったため、しばらく目を瞑り風が止むのを待った。
流石にこの風の中では少女の声も聞こえない。

そして数十秒後。


風が止んだようなので俺はゆっくりと目を開ける。


が、


そこに広がっていた景色は先ほどまでとは違っていた。







一面、赤。


赤、真っ赤。


燃えるような赤。



周りの草木までもが赤く染まり、ゆらゆらと不気味に揺れている。
空も焼けるように真っ赤に染まり、俺を見下ろす。


あまりの訳の分からなさに息が詰まりそうになりながらも前に進んでいくと、少女はいた。





少女は血溜まりの上で、横たわっていたのだ。













ーーーこれは、死しても蘇る不死鳥の運命に翻弄される、少年少女の破壊と再生の物語。














『ホムラ、こっちだよ。早く早くーーー』



















遊戯王 Ph.X DRAW:６４
《崩落の彼方》





















〜森林エリア(闇の決闘空間)〜 火群side



木にもたれかかり眠りについていたらしい俺は、うっすらと目を開ける。
ぼやける視界と、はっきりとしない意識の中で、なんとなくだが誰かが決闘をしているのがわかる。

でも俺、なんでこんな所で寝ていたんだ…？ 確か俺はWDCS予選に出てて、マンティスと決闘して勝ったところまでは覚えてるんだけど……。

そんなことを考えていた次の瞬間、聞きなれない男の一言で俺の目は完全に覚める。





マイン「ーーーやれ、ネヘモスッッ！！！」



ネヘモス『グギガァアアァァァアアアッッ！！！』




火群「………ッッ！！？」




火群（なんだあのモンスターは…っ！？
どことなくニクスに似ているが……全然違う！）

そこで、ふと柏木さんの言葉が頭をよぎる。





『ーーー墓地より蘇り、我以外の全てを焼き払う終焉の焔ーーー』





火群（まさか、あいつが柏木さんの故郷を襲ったっていう奴なのか…！？）



ネヘモス『ガァアアアァアアアァアア！！！』


謎の男のモンスターが大きく口を開け咆哮すると、その口にドス黒いエネルギーが集まっていく。


悪魔の視線の先にいるのはーーー結維さんだ。



マイン【LP 8000】


結維【LP4700】



火群「結維さん！！」


俺が思わず叫ぶ。
それに気づいた結維は眼鏡の奥の瞳を僅かにこちらへ向けると、いつもの落ち着いた表情のまま、



結維「…火群！ 和泉のとこへ向かって！ 早く！」


そう言った。



火群「……待ってくれ！そいつらは精霊を狙ってんだろ！？ だったら俺も戦う！」



結維「やめて！ あんたじゃ“絶対にこの男には勝てない”！！」



火群「…！？ どういう…事だ…？」


俺は結維さんと対峙する黒いローブを羽織った黒髪ロンゲの男と視線を合わせる。



マイン「…目覚めたか、不死鳥の使い手。俺はマイン……“終焉の焔”を率いる者だ」



マインと名乗った男は俺を睨む。
この男の漆黒の瞳を見ていると、吸い込まれてしまうような不思議な感覚に襲われてしまう。



マイン「…貴様は先へは行かせない」


結維「…それはこっちのセリフです」


結維さんのその言葉を受け、マインは再び視線を結維さんの方へ移した。


マイン「…まだそんな口が聞けるか…！ 放てぇッ！！『インフェルノイド・ネヘモス』！！」


結維「…私に構わず早く行って！雫も先に向かってる！ あんたが彼女たちを守るの！！」




マイン「プレイヤーへ直接攻撃！！」


火群「……くっ…！！ でも…！」



マイン「ーーー〝煉獄のファンタズマ・デス・ペイン〟！！」






結維「…あんたが助けるべきは、私じゃない。和泉よ」





火群「ーーーっ…！」




ネヘモス『グギィァアアアァアアアァアア！！』[ATK 3000]



『インフェルノイド・ネヘモス』と呼ばれたモンスターがマインの指示を受け、溜めていたエネルギーを結維さんへ向け放出させる。





〜〜〜


それを見た頃には俺はもうセントラルホールへ向かい走り出していた。








火群「…ごめん、結維さん……っ！！」



ニクス『…火群。マインという男は特殊な決闘盤を装着して、自分は大会の参加者では無いと言っていた』


火群「…なんだって…！？」


ニクス『それに、奴の作り出した闇の決闘空間ではパスカードがなくても決闘を申し込む事ができるようだ』


火群「…そっか…。
でも奴等はなんで精霊を集めているんだろう…。未だ動きの見えないYAGAMIもそうだけど」



ニクス『…千愛なら何か知っているかもしれない。合流したら聞いてみよう』


火群「確かに、“精霊会”の事も含めて、千愛には聞かなきゃいけない事がたくさんある」

今までは聞こうとしてもうまくかわされてしまっていたが、今回ばかりはそうもいかないだろう。


ニクス『…それにしても、こんな事になってしまっては大会は続行不可能だな…』



火群「…ああ、悔しいけど、今はそれどころじゃないもんな…」



和泉ーーーどうか無事でいてくれ…！！








＊


〜セントラルホール前・芝生〜 明日人side




竜貴「ーーー『ドラグニティアームズーレヴァテイン』でダイレクトアタック！！ 打ち貫け！！〝害ヲ成ス焼滅のレーヴァテイン〟！！」




終焉の焔A「……！！ ぐわあぁっぁぁあ！！」【LP 1400→0】



終焉の焔B「なにぃ！？ 1人になったか…！」




竜貴「…まだ終わりじゃねぇ！『ドラグニティーブランディストック』を装備したレヴァテインは２回攻撃できる！！ ワンツーフィニッシュだ！ はぁあぁああッッ！」




終焉の焔B「………うわぁぁあああぁあ！！」【LP 2500→0】




竜貴「…今ので何人目だ…？ キリがねーな」


明日人「…もう先輩一人でいいんじゃないかな……」



竜貴「んーー？ なんか言ったか？」



明日人「いやいやなんでもないっすよ！
……それにしても東雲先輩、幾ら何でも数が多すぎますよこれ…」


見渡すと次々に影が現れ、その中から黒ローブの男が現れる。



竜貴「…ああ、まさか2人相手にしてるうちにこんなに雑魚共が寄ってきちまうとはなー」



火群達は無事なのだろうか。
ここまで大量に兵を送ってくるほどの大規模な攻撃なら、ドロワって奴だけじゃなく、植物園を襲ってきた幹部全員が来ていてもおかしくはない。

思考を巡らせていると、先輩が俺を呼ぶ。

竜貴「……おい明日人」


明日人「なんですか？」



竜貴「………なんか来るぞ…熱いのが」


明日人「……えっ…？」


すると直後に、俺たちの周囲を囲う終焉の焔が爆風によって全員吹き飛んだ。





竜貴「…っっ！」



明日人「！？」



立ち込める煙の中から現れたのは、一人の黒ローブの男だった。フードを深めにかぶっているため顔がよく見えない。
だが、右頬に刻まれた痛々しい火傷の痕はしっかりと確認できた。




明日人「…！！」



その火傷の痕は見覚えがある。

植物園を襲ってきた終焉の焔“三本の火柱”の１人ーーー永井 放浪！！





放浪「………」


放浪は無言で俺たちに近づく。
足元が凍りついたように動かない！ あの時と同じだ！

ふと、先輩の方に目を向けると、先輩も放浪の方に向かい歩き出していた。


明日人「…東雲先輩…っ！？」



放浪「…お前は“動ける”のか。ということはお前が“持ってる方”か」



竜貴「…！ 何言ってっかわかんねーなぁ」



放浪「…俺と決闘しろ…。お前が負けたら精霊は頂いていく」


精霊……！？ まさか、東雲先輩はカードの精霊に選ばれた決闘者だってのか…？


竜貴「…今度は言ってる意味はわかったぜ」


安定の決闘脳によって一瞬で納得すると、颯爽と決闘盤を構え立ち止まる東雲先輩。そしてその構えは、まるでこれから格闘技でも始めるかのような、腰を落としたファイティングポーズだ。



放浪「…とてつもない気合いだが……気合いだけじゃ決闘は勝てない。お前は俺の目的のためにここで果てろ」


明日人「………っ」


なんだ…？ 奴のあの悲しそうな眼は……。




「「決闘！！」」











＊



〜？？？〜




幼い少女「〜♪」



モニターと精密機器だらけの部屋にて、回転椅子の上に、行儀悪く体育座りの様に膝を立てて座る少女。
少女は一つのモニターをずっと見つめていたが、そのモニターに映る映像の変化に気付き、バッと振り返り満面の笑みで室内にいる全員に呼びかける。
振り返りざまに、肩ぐらいまでの後ろで２つに結んだ金髪が小さく揺れた。




幼い少女「ーーー星が動きだしたよ！ ってことはそろそろだよね♪」



巨乳の女子「…おっ、『星奈(せな)』が言うんなら間違いない♪ 計画は順調ってことかなっ？」


星奈「えへへ♪ 『真和(まさかず)』の方はどお？」


真和「こちらも順調ですよ、星奈。数字は安定してます。
……それから呼び捨てはやめなさい」


星奈「…えー、別にいいじゃーん」


真和「良くありません」



巨乳の女子「あはは、じゃあ私は先に行ってますかねー♪」


真和「いい報告を期待していますよ」


星奈「行ってらっしゃい！ ねーねに星々の加護あれ！」



巨乳の女子「…んな大げさな…」







＊




〜森林エリア(闇の決闘空間)〜結維side



結維【LP 4700】

マイン【LP 8000】



インフェルノイド・ネヘモスから発せられたエネルギー弾が私の足元で強烈な熱を発し爆発する。



結維「………ぁあああぁあああぁああっっっ！！！」【LP 4700→1700】



結維「…ぜぇー…っ！ はぁ…ッ！」


なんて化け物よ…！
こんなのに勝つ術なんてあるの…？


結維「……いや」


弱気になってどうするの。
こんなとこで、こんな簡単に諦めるようだったら、最初から“あいつ”に偉そうな事なんて言ってない…っっ！！

それにここれ諦めたらーーー




マイン「………カードを1枚伏せ、ターンエンド」




和泉にも、



◉TURN:０４◉



千愛にも、



結維「…私の、ターーーンッッ！！！」



デッキトップから感じるーーーヒュペリオン、貴方にも。



結維「…ドローッッ！！」【手札 4】




ーーー申し訳がないもの！！





マイン「……この瞬間、伏せカードオープン！『針虫の巣窟』！ この効果により、俺はデッキの上からカードを5枚墓地へ送る」


「インフェルノイド・デカトロン」
「ライトロード・アサシン ライデン」
「インフェルノイド・アドラメレク」
「インフェルノイド・リリス」
「妖精伝姫ーシラユキ」




またマインの墓地にインフェルノイドモンスターが…！ 次の返しも万全って訳ね…。
けど、私のライフは残り1700。どの道後には引けない！ 仕掛けるなら、今！



結維「…私は、『神秘の代行者 アース』を召喚！！」[ATK 1000]☆2(チューナー)


結維「…アースが召喚に成功した時、デッキから『代行者』モンスター１体を手札に加える事ができる！ 『創造の代行者 ヴィーナス』を手札に！」【手札 4】


結維「更に手札から、魔法カード『光神化』を発動！！ この効果で手札のヴィーナスの攻撃力を半分にして特殊召喚！」[ATK 800]☆3



マイン「………」



結維「…っそして、ヴィーナスの効果で500のライフポイントを支払うことでデッキから『神聖なる球体』1体を呼び出すことがてきる！ 私は1500のライフと引き換えに、3体の『神聖なる球体』を特殊召喚！！」[DEF 500]☆2

結維【LP 1700→200】



マイン「……ククク……クッフッハッハ！」



結維「…何がおかしいのですか」


マイン「『神聖なる球体』……その美しき姿を見た者は、願い事が叶うと言われている…。俺の願いも……是非叶えてくれ…っ！」


奇妙な笑みを浮かべながらマインは言う。
願いが叶う…？ それってWDCSとも何か関係が…？

願い。そうだ、願いだ。私はそのためにここにいるんじゃない。

和泉、力を、貸してーーー！


結維「…貴方なんかが叶えられる願いなんてありません！！ 魔法発動！『トランスターン』！！」



マイン「…ふむ…」



結維「場の神聖なる球体1体を墓地へ送り、墓地へ送ったモンスターと同属性・同種族で、レベルが一つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する！ 現れて！『フェアリー・アーチャー』！！」[ATK 1400]☆3



マイン「…小粒を並べたところで、そんなものは壁にもならん……！ この世の全ては俺の力の前に灰となる他ない！！」



結維「……！」


マイン「…やがてこの場所もすぐに灰と化す。だがその前に精霊のカードだけは回収せねばならないからな……さっさと貴様を片付けて俺は不死鳥の元へゆく」



結維「…なんで……そんなことするんですか」



マイン「…そんなこと貴様に話す必要はない」


結維「……」


マイン「…だが、ただ一つ言えるとすれば……」



マイン「ーーー俺を捨てたこの世界が憎くてたまらないからだ」



結維「……っ…」



マイン「…結維と言ったな。俺は人の行動原理は『怒り』『憎しみ』『妬み』『僻み』、それらだと思っている」


結維「…何が言いたいのですか」



マイン「俺は常に何をするにもそう言った感情を持ち取り組んできた」


結維「……言いたい事の意味が理解できません」


何…こいつの眼……すごく嫌な感じがする…！！






マイン「…俺には視える、貴様の心の奥にもーーー」









結維「ーーー嫌ぁああぁあああっっっ！！！」







意味わかんない！！

意味わかんない！！！



結維「…フェアリー・アーチャーの効果発動！！ 場の光属性モンスターの数x400のダメージを相手に与える！！」




マイン（…この女……思った以上に使えそうだ…！）



シュババッッ！！

フェアリー・アーチャーの放った5本の弓矢がマインへ襲いかかる。


マイン「…ぐぅ…ッ！！」【LP8000→6000】






結維「…まだ終わってません、ここからが私の全力……！！ 絶対に貴方を倒します……っ！」










To Be Continued…









〜セントラルホール・2F〜




千愛「…観客席のモニターは全部映らなくなるし、スタッフもみんなバタバタしてるし、以上事態発生みたいね、和泉ちゃん」


和泉「…火群くんたち……無事だといいけどーーー痛っ！？」


千愛「大丈夫！？ 和泉ちゃん！」


和泉「うん…なんか右肩の辺りが、急にズキってして……あとっ、それだけじゃないの。
なんか、とっても嫌な胸騒ぎが…っ」



千愛「…っ！（和泉ちゃんの今は無き右腕の繋がっていた右肩が痛むって事は……)」



和泉「…結維ちゃん……！」
















《次回予告》



次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:６５ 精霊達の鎮魂歌