DRAW:１９８ あの日の衝動　作：人喰い

(198)








〜アトリエ・イチセ〜




ニクス「ーーーーー父上、もう一つだけ」

久義「…ああ、『依り代』の件だな」

唐突に出てきた依り代という聞きなれない単語に火群は首をかしげる。

久義「…カードの中の炎花の成長に伴って増加していく精霊エネルギーをガルドニクスのカードだけで封じ込めておくには限界があったんだ。
…だからガルドニクス以外にも、４枚の『依り代』を用意した」

火群「！」

火群はそこでハッとして、カバンの中からデッキケースを取り出す。

火群「…まさか、その『依り代』ってーーーー」

そしてデッキケースから抜き出した４枚のカードを久義に公開した。


『炎王神獣 ガルド・イモータル』

『炎王神獣 アニマ・フェニックス』

『』

『』


夢の中での炎花との邂逅によって覚醒したニクスの成長起点ーーーー〝不滅の焔〟ライズモンスターのガルド・イモータル。

シャドールによって負わされた火群の傷を再生した事で得た、守るための力ーーーー〝生命の焔〟シンクロモンスターのアニマ・フェニックス。

イラスト、テキストが浮かび上がっているのはその２枚で、残りの２枚はまだ白紙のカードだ。


久義「…そうだ。父さんの渡したそのカードこそが、ニクスの増大した精霊の力を蓄えておく役割を担っているんだ」

火群「……力が溢れて暴走しないために、父さんは俺にこのカードを渡してくれたのか……」

久義「……それにしても凄いな…、もう既に２枚のカードの覚醒を果たすとは…」

火群「それだけ強くなれてるって事だよな？ ニクス」

火群は嬉しげにニクスを見やるが、ニクスの表情には曇りが見える。

ニクス「…ああ、しかしーーーーー」


そして直後。




ーーーーーﾄﾞｸﾝ…ｯｯ…!!!




心臓の鼓動が鳴り響く。


火群「……っ…！？」

鼓動は火群の持つ白紙のカードのうち１枚から、断続的に鳴り続ける。


ニクス「……ッ…！」

火群「…なんだ…っ…！？ これーーーーこのカードから……っ！？」

久義「…マズい…！ そのカードから離れるんだっ！！」


父の声を聞き、火群は鼓動高鳴るカードを手放し、その場から飛び退いたーーーー




火群「ーーーーーッッ」




ｺﾞｫｵｫｵｵｵｫｵｵｵｯｯｯ‼︎



次第に白紙のカードが黒く染まっていく。
それと同時にカードは炎に包まれ、その炎は人の形を形成し始めた。


火群「あれはーーーーーッ…！」

久義「……紛れも無い……！」


ニクス「ーーーー私……のつもりか…ッ…！！」


大きな翼に、ゆらゆらと揺れるポニーテール。グラマラスなボディーまでニクスを模して生み出されたであろう、その炎の生命体は、


『ーーーー私は、『不死鳥の化身』……』


言葉を、発した。


不死鳥「……市瀬火群……、貴様の友人……『桜庭 和泉』の右腕を焼き尽くしたーーーーー〝破滅の焔〟だ」















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーDRAW:１９８ーー
《あの日の衝動》















火群「……ッッ……っ！！」

久義「…………！」

ニクス「…和泉の右腕を……貴様が焼いただと……ッ…？」


ーーーー２年前の事件にして、物語の始まり。
火群が召喚した『炎王神獣 ガルドニクス』のカードから発生した業火が、目の前の眼鏡をかけた少女の右腕を焼いたーーーーー火群にとっては一生忘れられない事件。


火群「……けどあれは…っ！
…あの“破壊衝動”は…っ…！ すでに押さえ込んだはずーーーーー」


不死鳥「ーーーーー押さえ込まれたフリをしていた……とすれば…？」

ニクス「……！！」

火群とニクス、二人の成長によって力が暴走する事は無くなり、二人は力を完全に制御できるようになったと思い込んでいた。
しかしーーーーー


不死鳥「……お前たちが成長する度に、お前の中で身を潜めていた私も、少しずつではあるが成長していったーーーーーそして後はお前の中から出るだけだった」

久義「……だが、何故今になって姿を現した……っ！」

不死鳥「……ずっと邪魔されてたのさ。ガルドニクス…、お前の中に巣食う……数多の精霊エネルギーに」

久義「………炎花が吸収した精霊の持つエネルギーにか……っ…。
だとすれば、そのエネルギーの一部が別の“依り代”に移った事で、オリジナルの『炎王神獣 ガルドニクス』に封じられた悪霊であるお前の逃げ道が出来てしまったというわけか……」

炎花が吸収した無数の精霊は炎花の成長により“依り代”を必要とし、不死鳥の化身を押さえ込んでいた精霊達がその“依り代”に分散してしまったがために、返って不死鳥の化身を動きやすくしてしまっていたのだ。


ニクス「……成長により押さえ込んだと思っていたものが、逆に手助けをしてしまっていたとはなーーーーー」

不死鳥「…そういうことだ。
感謝しているーーーーー御誂え向きの媒体まで用意してくれてね」

媒体。
白紙だった１枚のカードの事だ。

不死鳥「……時期的にも丁度いい……。これで心置きなく破壊が行える」

ニクス「……貴様……ッッ………」


不死鳥「…なかなかに辛い人生だったよなァ……、安心しろ。そんな“終わった人生”も、一瞬で“終わる”ーーーー」


不死鳥の化身は左手に装着した決闘盤を構え、

不死鳥「まずは手始めにーーーーー」


そして火群を見据え、両翼を激しく燃え上がらせた。


不死鳥「ーーーー右腕から破壊しようか」





火群「黙ってろよ」



不死鳥の化身が言い終わる前に、火群は強引に言葉を押し付ける。


火群「お前がいたからーーーー」


和泉は腕を焼かれ。

チアガールは復讐に心を染め。

結維は辛い道を歩む事になり。

ニクスはそれら全てを自分の過ちだと後悔して。

みんな。

みんなみんなみんなみんな。


火群「ーーーーーお前の所為で終わっちまったんじゃねぇか…ッッッ！！！！」


火群は怒りに打ち震えながら左手を突き上げ、ニクスもそれに合わせて右手を重ねる。

ニクス「決闘だ。“不死鳥”ーーーー貴様が外に出てきたおかげで、私も安心して貴様を“破壊”できるというものだ……ッ…！」


やがて火群とニクス、二人の腕を炎が渦巻き、炎を纏った緋色の決闘盤が形を成す。




-Duel Standby-



火群【LP 8000】[手札 5]


不死鳥【LP 8000】[手札 5]




「「ーーーーー決闘ッッ！！！」」





＊＊＊＊＊




開幕した不死鳥と不死鳥による決闘ーーーーー先攻は火群。


◉TURN ０１◉


火群「ーーーーー俺のターン！！」[手札 5]


手札をざっと眺め、戦略を立てる火群。
瞳は怒りに満ちていたが、頭は至って冷静だ。

火群「…俺は手札から、『炎王の孤島』を発動ッ！！」


《炎王
えんおう
の孤島
ことう
/Fire King Island》 †
フィールド魔法
「炎王の孤島」の(1)(2)の効果は１ターンに１度、いずれか１つしか使用できない。
(1)：自分メインフェイズにこの効果を発動できる。
自分の手札・フィールドのモンスター１体を選んで破壊し、
デッキから「炎王」モンスター１体を手札に加える。
(2)：自分フィールドにモンスターが存在しない場合にこの効果を発動できる。
手札の鳥獣族・炎属性モンスター１体を特殊召喚する。
(3)：フィールドゾーンの表側表示のこのカードが、
墓地へ送られた場合または除外された場合に発動する。
自分フィールドのモンスターを全て破壊する。



火群「炎王の孤島の効果…！！
自分の場にモンスターが存在しない場合、手札の炎属性・鳥獣族モンスターを特殊召喚できる！！
ーーーーー現れろ！！」

手札から一枚のカードを抜き出し、炎纏う指先が弧を描く。
そして流れるような動作でモンスターが召喚された。

それはたった一人の、火群の相棒。


火群「ーーーーー勝利へ導く紅蓮の翼……ッッ！！！
『炎王神獣 ガルドニクス』ッッ！！！」


《炎王神獣
えんおうしんじゅう
ガルドニクス/Fire King High Avatar Garunix》 †
効果モンスター
星８/炎属性/鳥獣族/攻2700/守1700
このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
次のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、
このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。
また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
デッキから「炎王神獣 ガルドニクス」以外の
「炎王」と名のついたモンスター１体を特殊召喚できる。



ニクス「……手加減など無用だ…！！ 全力で行くぞッ！ 火群！！！」

『炎王神獣 ガルドニクス』[ATK 2700]

火群「…ああ！！ 上等……ッ！！」


不死鳥「……フッ…美しき友情……家族愛…か。くだらないなーーーーー」

不死鳥の化身は静かに笑ったように見えた。しかし炎の生命体である彼女の表情はほとんど読み取ることができない。


火群「……続けて、チューナーモンスター『幼炎王獣 ガルドニクス』を通常召喚』！！」[ATK 200]


《幼炎王獣 ガルドニクス》＊Ph.X Original Cards
チューナー・効果モンスター
星１/炎属性/鳥獣族/攻 200/守 200
このカード名の②③の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
①自分フィールドに表側表示で存在する「炎王」モンスターがカードの効果で破壊された場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
②このカードがカードの効果で破壊された場合、「幼炎王獣 ガルドニクス」以外の自分の墓地または除外されている自分の「炎王」モンスター１体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
③このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「炎王神獣」モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。
この効果の発動後、ターン終了時まで自分は炎属性モンスターしか特殊召喚できない。


不死鳥「……ッ…！ チューナーモンスター……」


火群は左手を突き出し、周囲の炎をその手に集め掌握する。

火群「ーーーーレベル８『炎王神獣 ガルドニクス』に…ッ！ レベル１、『幼炎王獣 ガルドニクス』をチューニング！！！」


そして二体の周囲に揺らぐ赤き炎は徐々に白みを帯び、真紅の翼に灯ってゆくーーーーー


火群「ーーーー白炎の魂、その身に灯しーーー“生命の焔”よ全てを包めッ！！
シンクロ召喚！！ レベル９ーーーーー
『炎王神獣 アニマ・フェニックス』ッ！！！」


《炎王神獣 アニマ・フェニックス》＊Ph.X Original Cards
シンクロ・効果モンスター
星９/炎属性/鳥獣族/攻 1700/守 2700
炎属性チューナー+チューナー以外の炎属性モンスター１体以上
このカード名の①③の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できない。
①このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカード以外の自分の手札・フィールドの炎属性モンスター１体を選んで破壊し、自分はそのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。その後、自分の墓地の「炎王獣」モンスター１体を選んで特殊召喚できる。
②このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの①の効果または「炎王神獣 アニマ・フェニックス」以外の元々の持ち主が相手となるカードの効果で自分がダメージを受けた時、自分のライフが６０００以下の場合に発動する。相手に１０００ダメージを与え、自分は１０００LP回復し、このカードの攻撃力は自分が受けたダメージの数値分アップする。
③このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドのモンスターを全て破壊する。その後、自分の墓地の「ガルドニクス」モンスター１体を選んで特殊召喚できる。



降臨した“生命の焔”は辺りを照らし、光り輝く。

久義「……これが炎花の……ニクスの…、新しい姿……！！」


『炎王神獣 アニマ・フェニックス』[ATK 1700]


火群「ーーーーアニマ・フェニックスの効果！！
手札の『九尾の狐』を破壊し、俺はその攻撃力分……2200のダメージを受ける…！！
……ぐぁぁぁ…っ！！」【LP 8000→5800】


不死鳥「……自らにダメージだと……？」

火群「…その後、墓地の『幼炎王獣 ガルドニクス』を特殊召喚！」[DEF 200]


火群「…それだけじゃない…！破壊された『九尾の狐の効果で、俺の場に『狐トークン』２体を特殊召喚！！」


《九尾
きゅうび
の狐
きつね
》 †
効果モンスター
星６/炎属性/アンデット族/攻2200/守2000
このカード名の(1)の効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：このカードが手札・墓地に存在する場合、
自分フィールドのモンスター２体をリリースして発動できる。
このカードを特殊召喚する。
(2)：墓地から特殊召喚したこのカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、
その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(3)：このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。
自分フィールドに「狐トークン」（アンデット族・炎・星２・攻／守５００）２体を特殊召喚する。


『狐トークン』[DEF 500]
『狐トークン』[DEF 500]

火群「…更に！ アニマ・フェニックスの効果でダメージを受けた事で、効果発動！！
相手から1000ポイントのライフを吸収し、受けたダメージの数値分、アニマ・フェニックスの攻撃力を上昇させる！！
〝ホワイト・チャージング・フレア〟！！」


白き炎が辺りを包み、ニクスの炎は更に燃え上がる。


不死鳥「…ッッ…！」【LP 8000→7000】

火群「……！」【LP 5800→6800】

ニクス「……ぜぁぁぁあぁああぁぁッッ！！」[ATK 1700→3900]

火群「まだだ…！！ 場の『狐トークン』を２体リリースし、墓地の『九尾の狐』を特殊召喚！！」[ATK 2200]


火群「……ターンエンドだ」

火群【LP 6800】
(モンスター)
『炎王神獣 アニマ・フェニックス』[ATK 3900]
『九尾の狐』[ATK 2200]
『幼炎王獣 ガルドニクス』[DEF 200]
(魔法)
『炎王の孤島』(フィールド)
伏せ:0
手札:1
墓地:炎王神獣ガルドニクス



不死鳥「……ハッ…。“生命の焔”ーーーーーそれがお前の新しい力か……。だが皮肉なものだな…、その力を得たことで、私という“破壊衝動”が表に出る為の助力となっていたのだから」

ニクス「……貴様…ッ……」


火群「………けど、無駄じゃない」


不死鳥「……」

久義「火群……」


火群「…この力のおかげで救われた命があるんだ……ッ…。
だから絶対……無駄なんかじゃねぇッ！！」


火群は強く叫ぶ。それを受け不死鳥の化身は肩を揺らし、

不死鳥「……そうか…、そうかい、そうなのか。
そうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうか」

狂ったように、繰り返す。

火群「……っ…！？」


不死鳥「…そんな力なんて、役に立たないってこと……すぐにわかる」

ゆらりと、炎の身体は陽炎の如く揺れる。


不死鳥「……破って破って破って破って破って破って破って破って破って破って破って壊すッッ！！！！
破壊……破壊だッッ！！！
ーーーーお前には、“破壊”する効果だけあればいい」


ただ衝動の赴くままに。





To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:１９９〝破滅の焔〟






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙