DRAW２２３ NEXT→My turn　作：人喰い

(223)



【Side 鈴華】



〜生命の樹 内部・理解の間←→知恵の間〜


“終焉の焔”にて決闘機兵の開発を担当していた女、浜崎玲子との激戦を終えた鈴華は、栗須と共に玲子の守っていた部屋へと向かおうとしていたーーーー


栗須「ーーーーすまねぇ、西蓮寺さん…」

玲子を倒した事で栗須の手足の拘束は解け、ズボンを叩きながら栗須は立ち上がる。

鈴華「…別に構いませんわよ。あなたの言葉があったから勝てた試合でもありましたし」

栗須「……っっそ、そそそそそうだよなァ！！ この俺が居たからこその勝利よ！！！」

鈴華「…ったく……調子のいい…。ところで、そちらの精霊さんは……？」

栗須「…あ、そういや説明がまだだったよな」

シムルグ「進みながら話すとしよう。
あのエンジニアが居なくなった事で、洗脳の解けた妖艶なハーピィ達も奥の部屋へと行ってしまった様だしな」



２人は無言で視線を奥の通路へと重ね、互いに頷くと静かに足を踏み出した。


………

……………


鈴華「ーーーーー……え…っ！？ ママがこのシムルグさんを…！？」

軽く紹介を済ませ、道中、全員の安否報告も兼ねて人間界へと通信を繋いでいたーーーー

鈴音『……ええ。古宮くんが斬波くんと戦った際にカードに電気を帯びたじゃない？
その電気の正体は精霊エネルギーだったのよ』

栗須「……！」

鈴音『…激しい決闘の中で精霊が覚醒する事があるとは聞いていたけど……古宮くんに渡したカード、無事覚醒できたみたいで良かったわ』

シムルグ「……ワタシは別に覚醒など望んでいなかったのだが…」

栗須「何言ってんだ！ ノリノリで現れたくせによ」

シムルグ「あれは無様に泣き叫ぶお前を見兼ねてだな…」

栗須「バッ…！！ おめぇそれ言うのは反則だろ！！ つーか泣いてねーし！！」

鈴音『…あははは…、まぁとにかく、無事で良かったわ。二人とも』

鈴華「…ええ。
それで、ママ。
戒さんから何か連絡は…？」

鈴音『斬波くんはまだ敵の機兵と戦闘中みたい』

鈴華「…戒さん……」

栗須「……」

戒の名前が出て来た事で栗須は若干不機嫌になりながらも、

栗須「ま、あいつなら心配いらねェっすよ」

口をつくのは、確かな信頼。

栗須「……戒のヤローだけじゃねぇ。
俺たちみんな……死んでてもおかしくない状況から生き延びた連中ばかりだ」

鈴華「…！」

栗須「終焉の焔の強さを目の当たりにして、ぶっ倒れて、絶望しかけてーーーそれでも立ち上がってきたんだよ」

鈴華「…そうね。それこそ、不死鳥の様にーーーー」


栗須「……だったら信じなきゃウソだろーが。この悪運ってやつをよ」


鈴華は静かに頷き、ここに来た理由を胸の内でもう一度確かめる。

思えば、いつも誰かの言葉に助けられてばかりだ。

けど今日は、今日だけは。

その人たちへの恩返しをするために、ここに来た。

たくさん助けられてきた。

たくさん護られてきた。

たくさん救われてきた。


だからーーーーー















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:２２３ーーー
《NEXT→My turn》















〜理解の間←→知恵の間・精霊貯蔵庫〜



鈴華「…着いたーーーーー」

鈴華たちがたどり着いたのは、精霊達を閉じ込めておく為のタンクの様なものがいくつかある一室だったーーーー


シルバ『ーーーーおそらくその部屋は、精霊戦争の際に実際に精霊貯蔵庫として使われていた部屋だ』

通信機を介し、シルバの声。

栗須「…！ 精霊戦争っていやぁ、マインが精霊王に喧嘩吹っかけたっつーアレだよな？」

鈴華「大体合ってますけど、もう少し言い方というものがありますでしょうに…。
けど精霊を貯蔵…って、どうしてそんなことを…？」

シルバ『…大気中に潜む微精霊だけでは無く、二人の持つ「カオス・ゴッデス」や「シムルグ」などのカードに宿る精霊ですら、奴等は兵器として扱っていたんだ。
そこにあるタンクに貯蔵し、大砲のように撃ち出したりする事で…』

鈴華「…っそんな……っ！」

栗須「…むごいことしやがる…！」

シルバ『……だが中央にある樹の幹に覆われた巨大な貯蔵タンク…、少なくとも11年前は慈悲の間に設置されていたはずだ。
おそらくマインの転移魔法で移動させたのだろうが、一体何の為にーーーー』




「ーーーーネぇ、“レイコ”は…？」


突如どこからか、幼き少女のような声。

栗須「…！？」

鈴華「……っ…誰…？ 誰なの……！？」


「“レイコ”は？ “レイコ”は…？」


“レイコ”というのは、十中八九、この部屋を守っていたエンジニア・浜崎玲子の事だろう。その名を呼ぶ声は次第に増えて行き、やがて声の主は二人にも視認できるレベルまで姿を現す。

それは、赤青緑、茶、黄、紫、と6色にわかれ発光し、ふよふよと宙を漂っていた。

鈴華「…これは……！」

栗須「……微精霊ってヤツか！！」


“微精霊”。
カードに宿る力を持たず、中には会話もできる程の知能を持つ個体も居るが、主に大気中に漂っているだけの無害な存在である。

シルバ『…しかし先程も少し触れた通り、内に秘める精霊エネルギーは低くとも、弾に込めることによってその威力を数十倍にまで跳ね上げたりもできる……使い方を誤れば兵器にも変わってしまう存在だ…』


「ねぇ、“レイコ”は……？」


鈴華「…っ…この子達…、ずっと名前を呼んでる…。
“レイコ”って、私が闘った『浜崎 玲子』の事ですわよね……これは一体ーーーー」

シムルグ「……微精霊と深く心を通わせられる人間がいるとは聞いていたが、まさかあのエンジニアがそうだというのか…？」

鈴華「……！」

鈴華は玲子の言葉を思い返す。
「人と話すのが苦手」そう何度も言っていた。
それは彼女の話し相手の大半が精霊や微精霊たちだったから、人とうまく話せなくなってしまったのではないか、といった憶測がよぎり、鈴華はぎゅっと胸を押さえる。

鈴音『可能性は高いわね…。おそらく彼女が終焉の焔に引き込まれたのも、その能力をマインが必要としていたからじゃないかしら…？』

鈴華「…！」

シムルグ「だとすればあのエンジニアがここを守っていたのも納得だ。
彼女の本当の役割は、各地で回収した微精霊達のママ代わりだったという訳だ」

栗須「…けど、肝心のでっけぇ貯蔵タンクをこんなとこに転移した理由ってのが見えてこねーな。
わざわざ体力削って樹のド真ん中、しかもこんな高ぇ位置に転移するなんてよ…一体マインのヤツは何考えてんだ……？」

シルバ『…樹のド真ん中……。
………まさか…ッ…！！』

シルバは目を見開き、叫ぶ。


シルバ「ーーー今すぐそのタンクを破壊しろッ！！！」


栗須「…ッ！？」

鈴華「…！！ シムルグさん！！」

シムルグ「…ゼァッッ！！！」

反射的にシムルグは突風を巻き起こし巨大な貯蔵タンク目掛け放つ。

しかし命中の直前ーーーー

シムルグ「…！！」

ーーーータンクが一瞬の内に氷に覆われ、風を弾いたのだ。

栗須「…！？ シルバさんっ！？ 一体どういう事だよ…！？」

シルバ『…ッ…、遅かったか…！
おそらくそのタンクを覆う樹の幹は、お前たちが今いる部屋の真下に位置する『美の間』と繋がっている…！』

鈴華「…美の間…ですって…！？」

栗須「美の間っつーと、…ッ確か桜庭さんの“右腕”の光が指してたのがその辺りじゃなかったか！？」

シルバ『その通りだ…ッ…、そして終焉の焔があのタイミングで桜庭和泉、桜庭結維の両名を攫ったのであれば、考えうる可能性は一つ…！！！』

鈴音『…まさか……っ…和泉ちゃん、結維ちゃんを、各地から奪った精霊の『依代』にーーーーっ！？』


シルバ『…ずっと疑問だった……、奴らが精霊を回収するその理由が…！ だがこれで全て繋がった……！
奴らの真の目的は…ッ…桜庭の身体を媒体にーーーー精霊合成体[キメラ]を創り上げること…ッ…！！』


鈴華「…！！」

栗須「！ そんじゃあこのタンクの精霊達は、今から下の『美の間』に送り込まれるってのか…！？」

シルバ『…ああ、既にもう送り込まれている最中かもしれん…！
キメラとなったら最後…この世界ごと滅ぼし兼ねない…ッ…なんとしてでも阻止するんだ！！』

最優先事項の変更。
キメラを誕生させてしまっては、八神の予知した『火群とニクスがマインを倒す』未来になったとしても、この世界は終わる。

その結末も絶対に避けねばならない。
シルバは拳を固く握り締め、思考を回す。


栗須「クソ…ッ…つってもこの氷…！！ どうにかなんねぇのか…！？」

鈴音『…タンクが氷漬けになったのは、おそらく伍召焔の『ネロ』が持つ精霊のカードの力よ。彼女も『美の間』にいる可能性が高いわ…！』

栗須「…ネロ……柏木先輩を倒せば、精霊の供給を止めれるかもって事か…！」

鈴華「…だったら早く行かないと！！」

シムルグ「……しかし、ここからでは距離があるぞ…！ ワタシが栗須と具象化[トランス]して全力で向かっても、障害が無かったとして１時間以上はかかる…！」




シルバ『ーーーー安心しろ。道は俺が拓く』




声の直後、一閃。




音の無い一太刀が生命の樹の内部へと降りかかり、鈴華達のいる部屋の床に“のみ”、迅雷が如く降り注ぐーーーー


鈴華「…！！ この斬撃は……どこから…！？」


ーーーー人間界における遥か上空。神星樹を目の前にして、混沌の鎧を身に纏いし戦士は右手に握った剣を振り下ろしていた。

ーーー『超戦士 カオス・ソルジャー』。

その剣は空間を断ち、君主の“視界の先”を寸分違わず斬り裂く《次元の刃》ーーーー



シルバ『ーーーー我が次元の刃に“間合い”など存在しない……。
目に見える範囲その全てがーーーーー俺の“領域”だ』



シルバは簡単に言ってみせるが、精霊と心を合わせ、神経を重ね、モニター越しに見た位置情報を元に斬撃を飛ばすなど、当然常人にできる芸当では無い。数多の次元にて幾千もの経験を積んできたシルバだからこそできる芸当なのだ。

栗須「…はは…は…っ…、あんな頑丈な床に一発でヒビ入れちまったぞ……。こりゃあと一、二発ぶち当てれば大穴空くんじゃねェか…？」

シルバ『……任せろ。
……と、言いたいところだがーーーー』

そこで少し声が遠くなり、


シルバ『ーーーー美味しいところは譲ろう。
頼めるか？ ーーーー斬波少年』


確かにそう、言った。

ーーーー刹那。


「ーーーーーはァァァァァァッッッ！！！」


雷鳴の如き、一閃。

鈴華「…！！」

栗須「……ッッ！！
…クソっ……生きてやがったかよ…」

悪態を吐きつつもどこか嬉しそうな様子の栗須に、白髪の少年ーーーー『斬波 戒(ざんば かい)』は小さく笑い、


戒「…お前こそ真っ先にくたばっていると思っていたが、まだ生きていたとはな」

皮肉を投げかけ、僅かに二人の間で火花が散る。

鈴華「ちょっと二人とも！！ 喧嘩なんてしてる場合じゃないでしょうに！」

鈴華は慌てて仲裁に入るが、全くもってその通りで、戒が持つ精霊である『騎雷鳥』と具象化[トランス]してヒビの入った床に渾身の斬撃を浴びせたことで地盤は崩壊し、今まさに三人は『美の間』の方へ真っ逆さまに落ちている最中なのである。


鈴華「落ちてる！ 落ちてるんですわよ！？ わたくしたち！！」

戒「…そうだな」

鈴華「淡白！」

戒「その頭のやつで飛べたりしないのか？」

鈴華「私の巻き髪にそんな便利機能が！？
…って、冗談言ってる場合じゃーーーー」


ｶﾞﾊﾞｯ

鈴華は咄嗟に伸ばした手で戒の腰にしがみつく。

戒「ーーー！」

鈴華「…ぜぇ…っはぁ…っ！ あなた達二人は…ぜぇ…！ 飛べるんだから…っ…はぁ…！ さっさと助けてよ…っ…！」

息を切らしながら泣きべそをかく鈴華を戒は呆れ顔で見下ろしつつ、

戒「…悪いが俺も、人ひとり分の重量を乗せて飛べる程この力をコントロールしているわけじゃないんだ」

衝撃の事実が語られた。

鈴華「……へ？」

落ちる速度は変わらない。

戒「…西蓮寺…、お前今何キロだ…？」

同時に地雷原に自ら飛び込む徹底っぷり。

鈴華「………戒…さん…？」

鬼の様な形相で問う鈴華。

戒「…なんだ？」

鈴華「女の子の身体はマシュマロでできているのですわ。だから重さなんて微塵も感じないはずーーーー」

戒「……嘘を吐くな。この感覚だと多分よんじゅーーーがふァぁァッッ！！」

言いかけた瞬間、万力が如き力で腰が締め上げられる。

鈴華「数字を言うな数字をォォ！！！
……って、落ちてる！！！ 落ちてる！！！
戒さん起きてェェェェ！！！」

自分でトドメを差したにも関わらず、ぺしぺしと叩いて懸命に起こそうとする鈴華の健闘も虚しく、二人はみるみると高度を落としていく。

一方シムルグと具象化[トランス]した栗須も、空から落ちてくる瓦礫を避けるので精一杯といったところだ。

栗須「…クソッ…！！ 何やってんだアイツら…！！ どんどん落ちてってるぞ…！？
…ガッ！！」

しかし羽根を被弾し、大きく体制を崩してしまう。

栗須「…ッッ！！ やべ…っ！！」


そしてとうとう地面が見え始めてきた。

重力には逆らえない。落ちていく身体。

鈴華は目を瞑り、必死に思考する。


鈴華（どうすればどうすればどうすれば…！！！)

そこでようやく、さっきまでまた誰かに“助けてもらおう”と考えていた事に気づく。

鈴華(…そう…ですわよね)

鈴華はデッキケースに優しく手を触れ、祈る様に叫ぶ。

鈴華「……ママ…！ カオス・ゴッデス…！！
私に力を頂戴…！！ 自分だけじゃなく…大切な友達を護ってあげられる力を！！！」


願いを受けて、着地の瞬間、眩い光が辺りを包むーーーー

鈴華「…！」

戒「…っ…！ これはーーーーッ？」

栗須「…ッ！ あったけぇ……あったけぇ光だ……」

暖かな光はその場の三人を優しく抱え、そっと床に降ろすだけでなく、落ちてきた瓦礫を消滅させた。



鈴華「……ふぅ…」

とりあえず、一息。


鈴華「………なんとか危機一髪、でしたわね」

戒「…全くだ」

栗須「…元はと言えばお前がだなぁ…。
…っとまぁいいか…。とにかく助かったぜ、西蓮寺さん」

戒「……。
ああ、今回ばかりは助かった。礼を言う」

鈴華「……こ、困った時はお互い様ですわ！」

礼を言われ慣れてない為か照れる鈴華。気持ち急ぎ気味にスカートの裾を叩き立ち上がり、

鈴華「…さぁ、休んでる暇なんかありませんわ！」

元気よくそう言うと無線機に手を当てる。

鈴華「ーーーーママ！ 私たちは無事よ！マップを見る限り、『美の間』までもう少しってところ！」


鈴音『…よかった…本当に…！
……けど早速で悪いけど、近くにもう一つ、大きな精霊反応が…『美の間』へと向かってるわ！
発信機の反応が無いから……おそらく敵よ…！気をつけて！』

栗須「……敵…！」

鈴華「大きな精霊反応って事は……！」

戒「……伍召焔の誰かか…！！」


鈴音『その可能性は高いわ…！ くれぐれも無茶はしないで…！ なるべく戦闘を避けられる様なら避けなさい！！ いいわね！？』


「「「了解！！！」」」


通信を切り、進む三人。



その、道中。



血。



鈴華「……？」


点々と。

道しるべの様に血痕は続いていた。

それだけではない。

周囲には、闘いの跡。
破壊された機兵の残骸があちこちに転がっており、ここで決闘が行われたであろう事は明白だった。

更に足を進めていく。
薄暗い、通路を。


鈴華「…ッッ！！！」


そこで鈴華は何かに気づき足を止める。
他の二人もそれに合わせ立ち止まった。

栗須「……どうしたんだ…？ 西蓮寺さん」

鈴華「………あれーーーーっ」

鈴華が指をさした先に転がっていたのは、白くて細い“何か”ーーーーー


戒「……ッ…！！」


ーーーー否。



それは“腕”だ。


白くか細いーーーー少女の腕だ。





To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:２２４






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙