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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#74「死の責任」

Report#74「死の責任」 作:ランペル

 渚の背後より首元へと突き付けられた鎌の刃。刃先は既に渚の首元に触れており、背後のモンスターが少し力を込めて引き寄せるだけで、首を掻き切られてしまう状況にあった。

「ふふ……まさか君が実力行使とはね……。だが、ボクの事を本当に殺せるのかな?殺意のない脅しなんか、脅しにはなり得な……

 渚が少しだけ体を動かそうとすると、背後より骨がカタカタと震えるような音が響き渡り、それと共に首筋に触れる鎌が小さく震えていく。

「ぐ…………」

「デュエルの決着だけで全てが丸く収まるのなら、こんなひどい手段を取ったりは絶対しません……。でも、貫名さんとデュエルした時に改めて気づいたんです。私がどれだけ説得しようとしても、相手がそれに応じてくれなかったら無意味だって……。
渚さんがやろうとしたように、相手がデュエルを続行する意思があれば、また命を懸けたデュエルをする羽目になるんです。相手が諦めてくれなければ、何度も……何度も……。そんな事を続けていたら、いずれどちらかは死ぬ事になります……。対戦相手はもちろん、相手にデュエルを辞めさせることが出来ない事で、大切な人を殺されてしまうリスクもあるんです。
だから、死なない為……そして殺さない為に!話し合いの舞台に無理やりあがってもらう必要があるんです。誰だって、命を脅かされたら話をせざるを得ません!」

 梨沙が真剣な眼差しで渚を見つめそう言い放つ。自らが有利な状況下でありながら、その表情に余裕などはなかった。懸命にこの行為の意義を説き、そして自らの殺意の無さと脅しへの矛盾を紐解き始める。
 
「口先だけの脅しなんかじゃ脅しになり得ない事も、理解しているつもりです。私が直接ナイフを持って渚さんへ突き立てたとしても、刺すだけの覚悟は持てないと思います……。
だけど、デュエルディスクを奪われている今の渚さんの命は、モンスターになら容易く奪えてしまう。私に出来なくても、私がお願いした《ゴーストリック・スケルトン》なら、あなたを殺す事が出来ます…………」

 梨沙が、静かにそう答えを示した。呼び出したモンスターであれば、殺しの覚悟の有無に関わらず人を殺し得る……。渚が、梨沙の言葉が本当に口先だけのものでないことは、自らの首筋から生暖かい液体が緩やかに流れ始めた時に、理解せざるを得なかった。

「なるほど……ね。つまり、言う事を聞かなければ殺す。デュエルに負けたボクが反抗すれば殺されても仕方がないと?」

「この状況は、あくまで話し合いをする為の装置に過ぎないんです。私は渚さんを殺すつもりは全くありません。協力して、もう少しここからの脱出の方法を探してみたいんです」

 話し合いの舞台を整え、再び渚へと協力を訴えかけていく梨沙。しかし、その話の本命はあくまで脱出が前提となっている。

「脱出ね……。ボクが話したことは、既に理解しているんだろう?外に出た瞬間……ボクも、君も、福原 渚でも裏野 梨沙でもなくなるんだ。そんな外に出たからって……ボクらは幸せになれないんだよ……」

 渚は視線を横に反らしながら、気力なくそう口にする。

「諦めたくなるのも分かります……。ただ……本当に諦めてしまうのは、可能性を試しつくしてからでも遅くないはずです。私達が想像していないような、いい方向に事が進むかもしれないじゃないですか……!」

 梨沙が、奥歯を噛みしめゆっくりと言葉を紡いでいく。しかし、渚は依然として冷たく半ば呆れにも似た感情を押し出す。

「何度言ったら分かってもらえる。ボクらが夢や希望を見ても、その先に待っているのは暗い絶望だけさ。出られるか出られないかの結果はそりゃボクにも分からないよ?でも、もし出られてもそこに幸福な未来は存在しない事だけは断言できる。
ボクらはデータなんだ。そんなあやふやな存在が外に出てみろ、最悪即座に消え去る可能性も大いにあり得る。データとして維持ができたとしても……その後は?肉体を持たないボクらが、どうやって人間らしく生きていけと言うんだい?」

「先ほど、河原さんが何かを話そうとしてくれていましたよね?私が勝ったら教えて貰おうと思っていたんです。教えてください。そこに、何かの可能性があるんじゃないですか?」

 絶望的状況の根拠を今一度示し直す渚に対し、デュエル前に渚が口止めを計った河原の語ろうとした内容へと言及する梨沙。

「…………希望じゃないんだよ。希望なんかじゃ……」

 口ごもり内容を語ろうとしない渚に、背後のスケルトンが鎌を構え直す。俯き前傾姿勢になりかけていた渚の首筋へ再び刃先が触れる。

「ぃっ……!?」

「私は……命を懸けて渚さんとのデュエルに勝ったはずです。何か1つでも、欠けてしまったり、タイミングが合わなかったら私はあなたに殺されていました。
でも、私はあなたの命を奪おうだなんて思ってない……!ただ、私を含めたここに居る皆さんが、こんな実験から解放される方法を探したいだけ……。その為に、出来ることをやり切りたいだけなんです!!
それとも……負けてなお口を閉ざす事が自分の命よりも大事ですか……?」

 必死さを隠せない梨沙の懇願と恫喝とが入り乱れた語りかけに、渚は少しだけ口元を緩ませた。

「なかなか、様になってるじゃないか梨沙君……。
確かに、君はデュエルに勝った。その上で、ボクの命を脅かしている状況にある……」

「渚さん…………」

 梨沙が苦しそうな表情で渚を見遣る。その表情は到底他者の命を脅かしている人物のする顔つきなどではない。殺そうとする構えこそ取っているが、その当の本人はそれが嫌で嫌で堪らないのだろう。

「梨沙君の言うように、この情報にボクが死んでまで秘匿する価値はない。そもそもボクが黙って死んだって、後から河原さんに聞けばいいだけの話だからね」

 渚は観念したように、ため息と共にそう呟く。そして、首を少しだけ傾け、自身の背後で臨戦状態のままのスケルトンを横目に再び口を開いた。

「降参だよ。話すから、この状態をもう少し緩めてくれないかい?
たぶん、ボクの首少し切れてるよね」

「……!はい!
でも……その前に、懐に入れている物をスケルトンが取り上げます。たぶん……予備のデュエルディスクですよね?」

 カタカタと音を鳴らしながら黒いフードを被った骸骨が鎌を持ち替え、渚の前面へと回り込んできた。そして、渚が手を入れたコートの内ポケットに骨だけの手を差し込むと、小型の腕時計のような物が取り出される。

「他にデュエルディスクは隠し持ってないですか?」

「信用されないだろうけど、取り上げられた予備の分で最後だよ。これ1つで、7万DPもするからね。1つあれば十分さ。
どうしても信用できないって言うなら、身ぐるみでも剥いでみるといい……」

「…………」

 腕時計型の機械が取り上げられたことで、両手を開きコートから離れた位置へ持っていった渚。梨沙は、スケルトンから投げ渡された機械を受け取ると、しばらくの間考えを巡らせる。

「…………スケルトン、いつでも動けるように渚さんの背後に居てくれるかな?」

 スケルトンは指示を受け、ふわふわと渚の頭上を通過して渚の背後に陣取る。
 それを目で追っていた渚は、鎌が首元から完全に離れた事でため息と共にその場へへたり込む。

「はぁぁぁ……死ぬかと思った……」

「脅したりなんかして本当にごめんなさい…………。首は……大丈夫ですか……?」

 頭を下げ謝罪を口にした梨沙。それと共にスケルトンの鎌によって、切れてしまった渚の首元を気にする。自らの首をなでた渚は、赤く濡れた指先を眺めるとそれを振り払った。

「大したことはない……。しかし、自分で切りつけといてその心配をするなんて……頭がおかしいと思われても仕方のない発言だよ、梨沙君?」

 立てた人差し指を自らの頭に突き付け、嫌らしく笑う渚。そんな言葉を受けた梨沙が、再度申し訳なさそうに眉を下げる。

「そう、ですよね…………。私が脅しておいて心配するなんて……ごめんなさい……」

「…………ボクだって、非道な事はいろいろやって来たんだ……人の企てた事についてとやかく言うつもりはないんだけどさ。君がしたいようにしたのがこの結果なんだ。少しは胸を張ってくれよ。そうじゃなきゃ、申し訳なさそうにするぐらいなら大人しくボクに殺されてくれよと思ってしまうじゃないか……」

 渚が依然として申し訳なさでいっぱいの梨沙に向けて言い放つ。はっとした梨沙は自分がしている事のおかしさに気づき、頭を振るった。

「渚さんの言う通りですね……。私は死にたくないし、渚さんに死んで欲しくもなかったんです。だから、過程はどうあれその目標が達成できた事。今はただただ、ほっとしています……最悪の事態にならなくて本当に良かったです……!
渚さんを殺してしまうようなことにならなくて……本当に……ほんとうに良かった……」

 呼吸を乱しながらも、心底安心したような表情を浮かべる梨沙。それに対し、渚が自分の首元をさすりながら気の抜けた返事をした。

「デュエルに勝ったのに、ノーリスクで再戦されるってのも理不尽と言えば理不尽ではあるしね……。にしても、まさかデュエルディスクを取り上げられるとは考えてなかったよ」

「貫名さんとのデュエルが終わってから思いついたんです。危険な人を殺さなくても、デュエルディスクさえ奪ってしまえば、すぐに再戦される可能性はなくなりますから」

「この脅しも計算通りだった訳ね……」

 背後で浮かぶスケルトンをチラリと見遣った渚が呟く。

「渚さんならデュエルディスクを奪っても何かしてくる気がして……最終手段として頭の片隅には入れてました。でも、殺してしまうんじゃないかって、ほんっっっとうに気が気じゃなかったですよ……」

 未だ心臓の鼓動が激しいままの梨沙が取り上げたデュエルディスクを掲げながら話していると、その背後より声を掛けられた。

「それが、梨沙さんが言ってた作戦だった訳だ」

「翔君……!」

 久能木をデュエルでくだした白神が、梨沙達の元へと合流する。先程まで感情的だったはずの彼の顔色は少し陰りが見えるものの、声には落ち着きが感じられた。

「貫名がデュエルディスクを捨てたのを見て思いついた感じ?」

「そ、そうです。あの後、閃いて……」

 彼からの質問へ簡単に答えてから、梨沙が恐る恐る調子を伺う。

「それよりも……大丈夫、ですか?久能木さんとのデュエルもそうですけど……気分の方は……」

 白神はチラリと梨沙を見遣る。一拍の間隔を空けると、気まずそうに視線を背けてしまう。

「取り乱して悪かったよ。梨沙さんのこと突き飛ばした事も謝る……ごめん」

「あ、いえ、そこは気にしないでください!誰だってあんな話を聞いたら取り乱して当前です。翔君が声をあげなかったら、たぶん私の方が混乱して叫んでたと思いますし……」

 白神の話し方に冷静さが戻った事に安堵を重ねた梨沙は、柔らかな笑みと共にそう返事をした。白神は、対面でへたり込んでいる渚の方を向き直し、状況の確認に入った。

「だとしても、僕ももう少し冷静になるべきだったよ……。
こっちでもデュエルしてたみたいだね?それで、梨沙さんが勝ってデュエルディスクを取り上げたと……」

「白神君のその様子から……久能木君は負けてしまったようだね……。
…………殺したのか?」

 渚が残念そうに久能木の敗北を悟ると共に、鋭い目つきで白神へ久能木の生死を確かめる。それには梨沙も同調し、視線が白神へと集まる。

「安心していいよ。手傷は負わせたけど、殺したりなんかしてない。
すぐ再戦されないように少しダメージは大きいかもしれないけど、さっきやって見せた回復するやつをやれば元通りになるでしょ?」

 白神と対戦していた久能木が生きている事を知った梨沙はほっと息を漏らす。渚も久能木の生存に安心したのか、一息つくと共に乾いた笑い声を漏らす。

「ははっ……ボクだけでなく、久能木君も負けた上で生かされるとは……まるでお話にならなかったようだ。結果がこれじゃぁ……ボクらの力だけで危険な連中を排除する事も、無謀な事なのかもしれないね……」

 渚はその結果を受け、今一度自身の立てた計画の実現性に難色を示しだす。梨沙も自分の考えを改めて伝えるべく、その計画へと言及する。

「危険な人をそのままにしておけないという考え自体には私も賛成なんです。私がこのデュエルに勝ったことで渚さんに要求するのは、外へ出る方法の模索の継続です。全部が全部ダメになったのが決まった訳でもないはずです。全てを試していく上で、そして試してもダメだった時には、渚さんの計画はみんなの安全にも繋がる事だと思いますから、協力できると思うんです」

 渚の計画の必要性を認めながらも、この実験からの解放である脱出手段の模索を続けたいという旨の発言をした梨沙。しかし、渚がデュエルのきっかけとなった危険な人物を殺さないという梨沙の主張に苦言を呈する。

「……だが、危険な人間を殺す事には反対なんだろう?」

「はい……。でも、今実演したように殺す以外にも完全に無力化する方法自体は存在すると思うんです。もちろん、どんな人も殺すななんて無責任な事は言えませんけど、可能な限り殺さない選択肢も考えて欲しいんです」

「つまり、外へ出る方法も模索しながらかつ、デュエルディスクを取り上げるなどで危険人物を殺す以外の方法で無力化する……。そんな条件なら、ボクの計画に協力してもいいという事を言いたいのかい?」

「そうです!まずは、外に出ることが本当に無理なのかという事を考えて欲しいです。私達がデータ上の存在だとしても、河原さんの話そうとしていた事を聞いて、その上でパスワードのリセットされない5日間は足掻いてみるべきだと思うんです。
この5日間が上手くいかなかったら、渚さんの計画に私もより一層協力したいと考えています。すぐ外に出るのが無理なら、どちらにしろ実験の中で過ごさないといけない時間は伸びます。その上で、渚さんの危険な人をそのままにしておけないという計画は理に適っていますから」

前提として外への脱出を念頭において欲しい事を告げ、その上で協力関係を続けたいと提案する梨沙。
 
「なるほどね……。
外への可能性なんて追えたものではないが、ボクもこんな状況だ。殺されても仕方ない状態から、互いの妥協点を見つけ、協力出来るなら願ってもないことではある。
話を煮詰めていく為にも……まずは、近久君が殺されていないかどうかの確認をしなければ……」

「そう、ですね……。
(アリスさん……)」

 対戦しているのがアリスであるならばともかく、実際に対戦をしていたのはアリスのもう1つの人格の方だ。デュエルの過程で対戦相手である近久を殺してしまっていてもおかしくない事もあり、梨沙は不安を胸にアリス達が居るであろう背後を振り返る。
 梨沙と白神のデュエルも終わった事で、まだデュエルが続いているならば何かしらの音が聞こえてもおかしくない状況であったが、フロア内は静寂が続くばかりであった。

「アリスさんもデュエルしていたのか…………けど、いくら何でも静かすぎない?」

「きっと、デュエル自体はもう終わってるはずです……後は……」

 白神もまた梨沙の向ける視線の方向へと視線が動く。しばらく待っているとその方角から誰かが歩いてくるのが分かった。

「………」

 歩いてきたのは浴衣を身に纏った女性、近久であった。表情はここへ来た時に見たものと変化がなく、虚ろな目をし、血を流す足を少し引きずりながら梨沙達の方へとぎこちなく歩いて来ていた。

「よかった……もう1人のアリスさんも上手くやってくれたんですね……!」

 梨沙が最初に抱いた気持ちは、何度目かとなる安堵の感情。殺されてしまっていてもおかしくない近久の生存が確認できたことで、混乱の中始まってしまった3つのデュエルで誰の犠牲も出なかった事を確信した梨沙。ほっと一息つくと共に、アリスがこちらへと歩いてくるのを待っていた。

 しかし、近久の背後からアリスは現れない。それどころか、近久の後ろから誰かがこちらへ来ている気配が感じられないのだ。梨沙の頭の中で、確信となったはずの疑念が別の形となって再発する。

「あ、アリスさん……?アリスさんはどこですか……?」

 何かの間違いである事を願いながら、左右へ首を振り、懸命にアリスを見つけようとする。そして、彼女と対戦していたであろう近久へその所在を聞いた梨沙。
 虚ろな瞳の近久が、それに反応しゆっくりと……口を開いた。

「アリスなら……ウチが殺したよ……」


「……………………は?」


 理解し難い事象は何度目だろうか?
 これ程短期間に、理解の追いつかない出来事ばかりを経験してきた梨沙でも、これだけは慣れることが出来ない。何故ならば、理解するよりも前にその事象を脳が拒絶してしまうからだ。
 口から飛び出したのは純粋な疑問であり、そして拒否の構え。言葉の意味は理解せども、その状況を決して受け入れらようとはしない梨沙が困惑を表情へ滲ませる。
 そんな彼女と同様に、白神と渚もまた困惑や驚きの表情を見せていた。

「なんだって……」

「本当かい近久君……君が、アリス君を殺したのか?」

「そう……ウチが殺した。なぎさの計画通りにね……」

 依然として虚ろな目のまま近久によって繰り返される言葉。二度目となるアリスを殺したという発言に、梨沙が全身を震わせながら反応する。

「う、うそ……嘘だ。そんなの嘘です…………。
嘘だ……嘘に決まってる!!!」

 梨沙は声を荒げると共に、渚から奪い取ったデュエルディスクをその場へ落とし近久が歩いて来た方向に向かって駆け出す。近久の横を通り過ぎ、アリスと別れた場所に向かって無我夢中で走り続けた。

「(デュエルで受けたダメージのせいでケガしたんだ……だから、動けないんだ。
負けるはずない……あんなに強いアリスさんが……もう1人のアリスさんが負けて……ましては殺されてしまうはずがない……!)」

 近久の言葉を嘘と決めつけ、残された可能性を模索すると共に梨沙はただひたすらに走った。

 そうして少し走った所に……彼女は居た。

「アリスさん……!!!」

 フロアの赤い照明に照らされ、うつ伏せのままに倒れた彼女は赤に染められていた。その赤い体へ急いで近づき、ゆっくりと触れる。

「アリスさん。しっかり……して……。
ケガ、したん……で…………」

 拒絶すれども、現実は否応なく染み込んでくる。
 彼女に近づく直前、足元でピチャリと音がした。彼女を包み込むように地面に生成された水たまりは、液体でありながら妙な粘り気を含んでおり、周囲は鉄のような匂いで覆われている。

 それらが彼女の体から流れ出た血液であることなど、一目瞭然であった。アリスの体に触れる梨沙の手や服、膝をついた足もまた生暖かい血で汚れていった。そんな事など気に留めることなく、梨沙は懸命にアリスへと声をかけていく。

「ありす……さん……アリスさん、ってば……」

 自分では懸命に呼びかけていると思っていても、その呼びかけは何とも弱弱しくか細い声であった。ゆっくりと床に倒れた彼女の体を仰向けに返す。

「あ、え……」

 妙に軽い体に違和感を感じながらも、顔を見ると、それはアリス本人であり、赤い光に照らされながら目を閉じていた。まるで眠っているかのようにも思えたが、よく見ると首から口元までが真っ赤な血でべったりと濡れていた。そして、仰向けになったのが彼女の全身ではなく、左肩から右の脇腹とを境目に切断された上半身だけであった事が、ただ眠っているだけなどという幻想を否定する。

「ど、どうし……はやく、手当……しない……と?
ねぇ……アリスさん……どう、したら…………」

 脳の容量を超えた情報を処理しきれず、アリスへと手助けを求めた梨沙。震える指で彼女へ触れ、その軽い体を揺する。依然として傷口から大量に流れ出る血の生暖かさに反し、彼女の体は異常なまでに冷たかった……。

「あぁぁ…………アリス、さん……んなんで……なん、で?
ぁぁ……あぁぁ…………

ぁぁぁあああああああ!!!!!??」

 そこでようやく、そこに倒れていた彼女が既に死を迎えた肉塊である事を完全に理解した梨沙。止めようのない涙と共に梨沙は絶叫をあげ、ぐちゃぐちゃになった感情が行き場を失った様にただただ声をあげ続けた。
 自らの手の中で死んでいるアリスには、もう何も伝えらない。
 つい先ほどまで生きていた彼女とは、もう二度と言葉を交わす事は出来ない。
 悲しみのままに抱きしめても、彼女はその深い絶望の感情を優しく受け止めてはくれない。



 -----



「なぎさは、何してるの……?」

 地面にへたり込んでいる渚を見つけ、状況の説明を求めた近久。

「何って…………梨沙君にデュエルで負けてデュエルディスクを取り上げられた状態だ……」

「そう、分かった……」

 バツが悪そうにする渚の答えに、抑揚なく答えた近久は背を向けると梨沙が走って行った方向へ歩き始めた。

「待つんだ近久君。どこへ行く……?」

「どこって決まってるでしょ?なぎさが仕留め損なった梨沙って子を殺しに行くんだよ」

 首だけで渚の方へ振り返った近久は淡泊にそう口にする。

「梨沙さんを殺すだと……?」

 梨沙の殺害宣言を受け、白神が近久に向けてデュエルディスクを構えた。それを目視すると、白神の背後のさらに向こう側へ一度視線を逸らした近久が、虚ろな瞳で再び白神を捉える。

「学は負けたんだね……。
翔だったよね?あなたが先でもいいよ、デュエルする?」

 抑揚なくそう言いのけた近久もまたデュエルディスクを構え始めた。だが、白神はその近久の無気力さから、何とも言えない不気味さを感じ取る。

「(殺意を感じない……?)
本当にアリスさんを殺したのか……?」

「嘘ついてどうするの?なに、デュエルしないの?」

「何故梨沙さんを殺そうとするんだ。殺そうとしている様に見えたけど、発言に反して近久さんからは殺意を感じられない……」

 アリスに続き梨沙を殺そうと行動を始める近久だったが、それに相反して殺しに対する気概を感じられなかった白神。その違和感を解消するべく、近久へと問いかける。

「殺意なんかある訳ないよ。ウチは別に梨沙って子を殺したい訳じゃないし」

「……は?どういうことだよ、言ってる事が無茶苦茶じゃないか」

「ウチに殺意があろうがなかろうが、そんなのは関係ないの。梨沙となぎさがデュエルしたって事は、なぎさの計画に反対したってことなんでしょ?だったら、なぎさが殺し損ねたって事になる。学が動けない以上、代わりにウチが殺さないといけないよね。
ウチが動こうとしなかったら、なぎさはウチにそう指示を出してたはずだもんね」

 横目で渚を見遣る近久。その言葉を受け、白神もまた目つきを鋭くし渚を見遣った。二人から視線が集まって来た事で渚が弁明を始めだす。

「待ってくれ……ボクがいつ君にそんな指示を出した?」

「出されてないけど、どっちみちその指示を出すつもりだったんだから、同じことでしょ?」

 至極当たり前であるかのような反応を見せた近久に、渚の中で違和感が膨らむ。

「勝手に話を進めないで欲しいな、ボクは君に現段階でそんな指示を出すつもりはない。状況が変わったんだ。ひとまず落ち着いてくれ近久君」

「ウチは落ち着いてるよ、ここに居る誰よりもね……」

 そう近久が呟いた瞬間、離れた所から梨沙らしき声が響き渡ってくる。その絶叫の声へ溶け込んだ絶望と深い悲しみを、白神達の全員が容易に読み取れた。

「(梨沙さん……)。
本当にアリスさんに勝ったようだね……」

「だから言ってるでしょ。嘘つく意味なんかないんだから」

 そう告げると再び梨沙の元へと歩き始めようとする近久。それを渚が止める。

「待て、近久君!
やはり、彼女達の協力がなければ、危険の排除というボクの計画も完遂が危うい状況だと気づいたんだ。ボクと久能木君が梨沙君達に負けたように、この実験に居る危険な連中はどうしても手ごわい。
これ以上、協力できるかもしれない人間の戦力を減らす事は、ボクの計画にとってもやはり損失の方が大きかった。アリス君の事は残念だが……ここで梨沙君達と争うメリットがないとボクが判断した。
だから、君の言っていたような梨沙君を殺せなんて指示をボクは出さないよ」

 渚が自身と久能木の敗北を受けての戦力分析、そして梨沙の提案した協力関係になり得る状況から、梨沙を殺す必要がない事を明言した。
 一瞬の沈黙の後に、近久が渚を強く睨みつけた。

「…………バカな事言わないで」

「……!?」

 霊園の一件以降、虚ろな瞳しか映していなかった近久へ久々に宿った感情。それは明らかな怒りであり、その激しさが増していくように近久が言葉を放っていく。

「今更、何言ってんの……!?なぎさが言ったんでしょ!?計画に反対する危険な奴は殺せって!その為に、学も、ウチも、なぎさ自身もデュエルで命を懸けて戦ったはずでしょ!
それが何!?やっぱり協力した方がいいから、殺すのやめますって……?ふざけないでよ!!!」

「近久……

 言葉を返そうとした渚だったが、その隙と権利も与えず近久の怒りがエスカレートしていく。
  
「協力する可能性があったんなら、翔が混乱したぐらいで見切りつけるなよ!?ここに居る自分がコピーだとか偽物だとか言われて冷静を保てない人が居る事ぐらい想像出来たはずでしょ!?じゃぁウチは何のために、アリスを殺したんだよ!!!
ウチがアリスを殺したことが残念って言ってたよね!?ふざけるのもいい加減にして!!ウチだけじゃなくて、アリスの事もバカにしてる発言だって分かんないの!?
アリスも本気で戦ってた、その上で……ウチを生かす可能性も追ってくれてた……。でも、それに流されちゃったら……ウチが霊園を殺した意味がなくなる。学が命を懸けて翔と戦ってる意味がなくなってしまう……。
だから!!!勝ちたくもないのに、殺したくもないのに、ウチはデュエルに勝ってアリスを殺したんだよ!!?なのに……なんでその覚悟を踏みにじるような発言が出来るんだよ……人をバカにするのも大概にして……!!
なぎさはデュエルに負けたんでしょ?その癖、ずうずうしく生き残ってるのに、本気で戦った人をバカにするな!!」

 語気を荒くし、渚の不義を捲し立てていく近久。彼女の声は悔しさと怒りで震え、侮蔑の目が渚へと突き立てられていく。

「人の事をなんだと思ってるの……?自分らが人間じゃなくなったって梨沙達に強調して話してたけどさ……。なぎさこそ、ウチらを人間扱いしてないじゃないか。
どうせ、ウチがアリスに負けて殺されても仕方なかったで済まして……最初からウチなんか居なかったみたいに梨沙達と協力していこうって話になったんでしょ……!?」

「そ、そんな事をするつもりは……
 
「だったら!!アリスの死が残念だなんて口が裂けても言えるはずがないでしょ!?本当に残念とか思うならなんで排除しろなんて言った!?
知り合いだったのか知らないけど、なぎさがウチに殺せって言った人だよ?なんで1回デュエルに負けただけで、その殺しの価値をふいにするの?おかしいでしょ……そんな事言い出したらアリスは……何のために…………」

 つけ入る隙を微塵も見せない近久から飛び出す感情の爆発は止まることなく、延々と渚の不用意な発言を非難し続ける。
 
「人の事殺しても、自分は悪くないとか思ってるんでしょ?人が死ぬという事がどれだけ大変な事かも分かってない癖に、自分だけは被害者面出来る意味が分からない……。運が悪いとか、向こうから仕掛けて来たとか、この実験が悪いとか言い訳ばっかり並べて、責任から逃げようとしてる。
なのに……ウチが耐えられなくてなって死の責任から逃げようとした時には、逃がしてくれなかったよね?あれはなぎさなりに、ここで生きて行く為に必要な覚悟を無理やり教えてくれたんだって、そう言い聞かせて……なんとか自分を納得させたんだよ…………。
でも、蓋開けてみたらさ。なぎさはそんな覚悟も、責任も、自覚だってなんにも持ち合わせてなかったって事なんでしょ?
そんな自分にだけ都合がいい話、許せるわけない……」

 その純然たる怒り、そして死を冒涜された悔しさが近久を凶行に駆り立てる。

「デュエルに負けたんなら……潔く死 ねよ!!!」

 EXデッキを無理やりこじ開けた近久が、《花札衛-五光-》を取り出すと、デュエルディスクへと叩きつけた。すると、渚の背後へ抜刀した五光が立ち、刀を振り上げた。

「待っ――


ガキン……!


 五光の重い重い一太刀は寸前で、《ゴーストリック・スケルトン》の鎌によって防がれた。衝撃は鎌の刃を砕く勢いでヒビを入れ込み、その破片がぽろぽろと地面へと落ちていく。
 冷や汗が滝のように流れ落ちていく渚は呼吸すら忘れ、ただただ呆然と自らに向けて振るわれた刀剣へ視線がくぎ付けとなっている。

「本っっ当にあり得ない……人は殺そうとするし殺せって言う癖、殺されそうになったら命乞い?ウチの言葉が何にも響いてない証拠だよね?響く訳ないか、人から死んだ意味を気まぐれで奪い去るような人なんだからさ」

 ゴミでも見るかのように軽蔑の視線を渚へ向けた近久。渚はその場を動くことが出来ず、言葉を返す事もなく黙りこくっているばかりだ。
 
「………」

 すぐ様背を向け、梨沙が向かった方へと再び歩き始めた近久。

「ウチは、殺した人みんなから恨まれても仕方ない事をしたんだ。データとかそんなの関係ない……ウチは人殺しだ。殺した人に死んだ意味を与えられるのはウチだけ、絶対に無意味な死を生み出しちゃいけない……。多くの人の幸せの為に犠牲となってもらったんだ……犠牲を無駄にできない……しちゃいけない……計画に反対する人は殺さないといけないんだ……。

その為に、梨沙も犠牲になってもらう必要がある……」

 まるで……暗示する様に、呪詛のように、戒めるかのようにぶつぶつぶつぶつと呟きながら、白神達の前から消えていく近久。その歩んで行く様を渚はもちろんの事、白神でさえも動き出せずにいた。

「人の死の……責任……」

 白神もまた他人を結果的に殺める事があっても、責任の所在は自分の元へ置いていなかった。殺す気で挑んで来たのだから殺されても仕方ない、金の為に命を懸けているのはどちらも同じ条件……。そんな理論で、自らの心の安定を図って来た白神は、他者の死を背負った近久を食い止める立場に無かった。

「………………」

 残された白神と渚の元に訪れた静寂。

 近久の足音が消えるだけの一時続いた沈黙を打ち破ったのは、白神の背後から発せられた渚の渇いた笑い声だった。

「ふふ……ははは……」

「何が……おかしい」

「なに……口は災いの元とはよく言ったものだなぁと実感している所さ…………」

 渚は目尻の下がった目で虚空を無気力に見つめる。

「反省は……なさそうだね……」

「近久君の言ったことはもっともだとは思うよ。ただ、ボクは人を利用する事でようやくここまで生き延びて来られたんだ。今更、それを悔いても得はない……。
悔いるとすれば、彼女の神経を逆撫でた自分の不用意な発言と、彼女が言うように君の暴走を冷静になだめられなかったことかな?」

「………」

 結果として、今回のレッドフロアで起きた一連のデュエルの引き金となったのは、白神が冷静さを欠き、渚へデュエルを仕掛けた事が起因している。自分に全ての原因があるとまでは考えなかったが、先程の近久の発言も刺さり押し黙る白神。そこへ渚がははと再び乾いた笑いを漏らす。

「ボクが言える立場じゃないだろうけど、自分を責めても時間の無駄だよ白神君。こうなった以上……今出来る事を考えるべきだ。いくら梨沙君がお人好しで精神的に強いとは言え……今の彼女ではまともにデュエルできるかも危ういはず……」

「……!」

 白神がはっとしたように、渚から奪い取った2つのデュエルディスクを拾い上げ、梨沙の元へ向かった近久を追う。
 
「(そうだ……悔やんでる内にまた人が死んだら、後悔が増えるだけ……。しかも顔を知った人が2人目なんて最悪もいいとこだ……!)」

 己の行動の遅さを悔やみながらも、近久を止めるべく白神はひたすらに走った。



 -----



「ごめんなさい…………ごめん、なさい…………」

 流れ落ちる涙と共に零れる言葉。自らの不甲斐なさ、頼りなさ、無力さ……己を卑下しただただ謝り続けるしかなかった。こんな謝罪がなんの意味にもならない事を分かっていても、他にこの行き場のない感情を逃す術が見つけられない。
 頭の中で巡るのは、懺悔と後悔の念……。彼女とこんな別れ方をしなくても良い方法がどこかにあったのではないか?自分がもっと彼女に寄り添っていたら、あるいはもう一人の彼女とも密にコミュニケーションを取っていれば、このような悲劇は起きなかったかもしれない。恩人であり、友人でもあるアリスの死を前に、頭の中で自らを非難する声が鳴り止まない。

「アリスさん……アリス……さん…………」

 血に濡れた手で、何度目となるか彼女の頬へと触れた。伝わってくるのは、肌の柔らかな感触と、血の生暖かさ……そして、それを上塗りするひどく冷たい体。現実から逃れようと、何度彼女の名を呼んだか、何度彼女へ触れたか。だが、それらを重ねれば重ねるだけ、彼女の死が絶対的なものへと置き換わっていく。
 それを認めたくなくて……耐えられなくて……何度も何度も何度も同じ愚行を繰り返す。

 彼女が居なければ、この環境に耐えるだけの気力を持ち直せず、既に死んでいたかもしれない。それほどまでに、彼女が最初に自分の元へ訪れて来てくれた事は救いになっていた。見ず知らずの他人へ優しくすること。それが、どれだけ難しいことか……。
 何故、これ程までに優しい彼女が死ななければならないのか?自らが苦しんでいるさなかでさえ、他者へ思い遣りの気持ちを持つことの出来る彼女が、何故死ぬ必要があったのか?自分を救い出してくれた恩人が、何故死ななければならない?

「大切な人だったんだね……」

 背後より女性の声が聞こえ、梨沙が涙でぐちゃぐちゃになった顔のままゆっくりと振り返る。そこには虚ろな目を向けて来る近久が立っていた。

「………」

 梨沙は、アリスを殺した近久を無意識の内に鋭く睨みつけていた。それを受け入れるように、近久は真っ直ぐ梨沙を見遣る。

「梨沙……だったよね。
アリスが、最後に呼んでた……」

 アリスの名に反応した梨沙が、それを反復した。

「アリス……さんが……?」

「梨沙に、謝ってた……。役立たずでごめんって……」

「役立たずな訳ない!!!」

 近久が告げたアリスの最期の言葉を、梨沙が声を荒げながら咄嗟に否定した。そのまま、梨沙は涙声のまま懸命にその言葉を否定し続ける。

「アリスさんが居なかったら、私はここまで頑張れてないんです……こんな狂った実験から立ち直れてない……役立たずってなんですか……そんなはずないじゃないですか…………」

 自らの腕の中で眠るアリスをゆっくりと抱きしめながら、ぽろぽろと言葉を零す。それを静かに見つめる近久も、悲し気な表情を浮かべていく。

「口調は強かったけど、梨沙が言ってた様にウチを生かそうとしてくれていたよ……。本当は優しい人だったんだろうね……。彼女は本気で戦ったけど、ウチの運がアリスを上回った……実力は彼女の方が上だったのに、偶然でウチが勝ってしまった。だから、アリスは死んだ……」

 近久が3度目となるアリスの死を口にした。彼女の死 体を前にして、初めて他者から告げられる現実。逃れられない。
 梨沙はこの悔しさ、悲しさ、そして絶望を……飲み込むしかなかった。ただただ辛いこの現実を、己の中で収めるべく自らの腕を力いっぱい握り込む……。
 壊れた自分は痛みすら知覚できないのだ。心の痛みもきっとへっちゃらのはずだ――――――。

「ウチはもうあなた達に謝る権利すら持っていない。ウチがする事はただ1つ……。
役立たずだなんて、誰にも言わせない……。アリスの死を無意味には終わらせない……。その死が価値ある尊いものであった事を証明しないといけない。
その為に、梨沙にも協力してもらう……」


ザザッピー
「ただいまよりレッドフロアにてデュエルを開始します。
ルール:マスタールール
LP:8000
モード:ベーシック
リアルソリッドビジョン起動…。」


響き渡るデュエル開始のアナウンス。奥歯を噛みしめ、悔しそうに睨みつける梨沙の視線の先には、デュエルディスクを構えた近久が居る。

「なんで、ですか……。私は、耐えようと……てるのに…………どうして…………?」

「もう……止まれないよ。
今更辞めたって誰も生き返ったりしない。ウチの罪が無かったことになんてならない。アリスが死んだのも、梨沙がそんなに苦しんでるのも、死を悲しむ時間すら許されないのも……何もかも全部ウチのせいだ。
だから梨沙は何も悪くないんだよ……すぐ、その苦しい気持ちも無くしてあげるから……」

 虚ろな瞳のままに淡々と言葉を重ねる近久を前に、梨沙の涙を浮かべる目が目一杯開かれていく。ふらふらと足を立てた梨沙は、デュエルディスクを構える。血に塗れ、それを滴らせながら立ち上がる様は、まるで死人が起き上がったかのようにも見えただろう。

「ふざけたこと……言わないでください!!」

 腹の奥底へと追いやり、抑え込もうとした怒りの声が溢れ出る。
 優しい彼女を死に追いやったこの人を前に何を躊躇する必要がある?
 自分は何故躊躇なんかしていた?
 何を……考えていただろうか?
 
 敵を前にした今。
 そんな事もう分からない……頭が働かない……考えられない……。
 
 今はただ……この感情の赴くままに…………。


 「デュエル……」   LP:8000
 「デュエル……!」  LP:8000

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