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Report#72「勝者の在り方」 作:ランペル
梨沙ーLP :5500
手札 :2枚
モンスター :《厄災の星ティ・フォン》[攻]、《ゴーストリック・セイレーン》[攻]
魔法&罠 :《神碑の泉》、《亜空間物質回送装置》、伏せ×1
ーVSー [ターン5]
渚ーLP :8000
手札 :1枚
デッキ :5枚
モンスター :《RR-ワイズ・ストリクス》[EXM攻]、《RR-ブルーム・ヴァルチャー》[守]、《雛神鳥シムルグ》[裏]、《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》[裏]
魔法&罠 :《シムルグの霊峰エルブルズ》
レッドフロアに設定されたフロアカスタム《確定ドロー》によって、通常のドローで任意のカードを手中へと引き込んだ渚。彼女は不敵な笑みを浮かべながら梨沙を見遣る。
「まぁ、何が起こるか分からないデュエルを楽しんでいる君なら、きっとこの展開も楽しんでくれているはずだろう」
頬を掻きながら少し困ったような表情を浮かべた梨沙だったが、すぐ様指先をデュエルディスクへと走らせ、高らかにカードの発動を宣言した。
「さすがに命だって懸けてますから……ワクワクするとまでは言いませんが、何をするつもりなのかは気になりますよ。もちろん、私が出来る妨害はさせて貰いますけど!
スタンバイフェイズに永続罠《ゴーストリック・ナイト》を発動!私のフィールドにゴーストリックモンスターである《ゴーストリック・セイレーン》が居る限り、渚さんはモンスターの反転召喚が行えません」
渚のフィールドに伏せられた2体のモンスターの元へ、氷の結晶と青い鬼火が現われ、封じ込めてしまう。
「《大熱波》で召喚と特殊召喚を封じ、《ゴーストリック・ナイト》で反転召喚さえさせてくれない訳だね……」
渚は周囲を包み込む《大熱波》の赤い熱気へ視線をずらしながら、そう言葉にした。
「《ゴーストリック・ナイト》を、破壊したとしてもダメですよ。ナイトの効果で相手に破壊されたターン、相手モンスターの攻撃宣言を封じる効果がありますから!」
渚が任意に引き込んだその手札へ注力しながら、梨沙が全体除去の無意味さを説く。それを受けた渚は、その手札を使うことなくバトルフェイズへと移行してしまった。
「だったらバトルだ。《RR-ワイズ・ストリクス》で《ゴーストリック・セイレーン》を攻撃」[攻1400]
機械質な体を動かし飛び立ったワイズ・ストリクスが、その鉤爪でセイレーンを掴み取り地面へと伏せる。その瞬間にセイレーンが破壊され、その光の破片が梨沙に向かって降り注ぐ。
「(ごめんねセイレーン……)。
でも、私のライフは当然尽きませんよ!」
梨沙LP5500→4900
セイレーンが破壊された瞬間憂いの表情が過った梨沙だったが、自らへと突き刺さる破片を振り払い少量の血を飛び散らせると、それらの破片が消失する。
「……だが、これで君のフィールドからゴーストリックモンスターは消えた。《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》を反転召喚だ」[攻2000]
《ゴーストリック・ナイト》の制約が消えた事で、伏せられていたレヴォリューション・ファルコンが再び飛翔し、梨沙と渚の上空を巡回し始めた。
「ボクはカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
手札:1枚→0枚
渚ーLP:8000
手札:0枚
[ターン6]
「(《確定ドロー》で引いたカードを伏せた……あれが渚さんの逆転の一手……)」
伏せられたカード。それは渚がこのデュエルを自らの勝利で終わらせるべく、カスタムで引き込んだもの。その伏せを警戒しながら自身のデッキよりカードを引き込む梨沙。
「私のターン……ドロー!」
手札:2枚→3枚
腕を伸ばしデッキから引き込んだカードをゆっくりと確認する梨沙。にっとした笑みを浮かべたかと思えば、引き込んだそれをデュエルディスクへと差し込む。
「渚さんが逆転を確定で引き込むなら、私は物量です!スタンバイフェイズに入り、速攻魔法《解呪の神碑》を発動です!EXデッキからEXモンスターゾーンへ神碑モンスターを特殊召喚します!」
手札:3枚→2枚
薄れゆく赤い熱気の中で発動されたカード。その発動を受け、渚が静かに自らのデュエルディスクを操作すると、伏せられていたカードがゆっくりと持ち上がり、逆転の1手が露わとなった。
「ボクが賭けたのは……ここらからだ!
チェーンして速攻魔法《RUM-レヴォリューション・フォース》発動!」
「またランクアップ……!?」
梨沙が驚きと共に視線を頭上へ向けた。渚のフィールドへと残る唯一のエクシーズモンスターであり、RUMにもその名を冠する《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》が一体どんな逆転のモンスターへと変化するかを目で追う。
しかし、頭上の隼は一向に動きを見せない。
「どこを見ているんだい梨沙君。ランクアップするのは君のフィールドの《厄災の星ティ・フォン》だよ」
「は……え……!?」
渚に導かれるように視線を元の位置へと戻すと、自分のフィールドに居たはずのティ・フォンが渚のフィールドへと移動していた。
「レヴォリューション・フォースを相手ターンに発動した時の効果だ。相手のエクシーズ素材のないエクシーズモンスターのコントロールを奪い、ランクが1つ上のRRへとランクアップさせる事が出来る!」
「1つ上って……ティ・フォンのランクは12です!それ以上のランクなんて……」
梨沙はそれ以上、言葉を続けることが出来なくなった。渚が逆転の為に確実に引き込んだ1枚が、そもそも発動の出来ないカードであるはずがない。何よりも対面する渚の表情が、ミスをした人間の顔などではない事に気づいた事で、梨沙もまた覚悟を決める。
「呼ぶんですね……ランク13を……!!」
「《厄災の星ティ・フォン》を素材にオーバーレイネットワークを再構築……。
厄災より出でし隼よ、天壌無窮の翼翻し、死への反逆を示せ!
ランクアップ、エクシーズチェンジ!
来たれ、ランク13!《RR-ライジング・リベリオン・ファルコン》!!」[攻4000]
紫の稲妻が一瞬梨沙の視界を横切る。
「……来る!」
フィールドへ紫電一閃、飛来したのは金色の外殻に包まれた翼を飛躍的に広げる隼。神々しくも思えるその壮大さを誇る鳥獣だが、その赤い眼へ宿るのは確かなる反逆の心。
勝利を掴まんとする梨沙を打ち倒すべく、渚によってここへと呼び寄せられたのだ。
「ボクの賭けはまだ終わっていない……さぁ、梨沙君。
君は一体何を呼び出す……!?」
渚が呼び寄せた恐らく最後の切り札。ライジング・リベリオン・ファルコンの発する威圧感を前に、息を呑む梨沙。
「EXデッキから……《神碑の翼ムニン》を、特殊召喚!」[守2000]
梨沙のフィールドへ、赤いズボンをはいた金髪の少年が黒い翼を羽ばたかせフィールドへとやってくる。しかし、ライジング・リベリオン・ファルコンの存在に気づくと、ギョッと驚いたような表情を見せた。
「いくら攻撃力が4000でも……私のターンに呼んでは攻撃出来ません。フィールド魔法《神碑の泉》の効果を今度こそ発動です!墓地より《輝く炎の神碑》、《黄金の雫の神碑》、《解呪の神碑》の3枚を対象にデッキの下へ戻し、3枚をドロー!」
圧倒的存在感を放つ超越的隼を前に、梨沙も焦りながらドロー効果の発動を宣言した。
その宣言に合わせて渚の頬が弛緩していくのが梨沙の目に映される……。
「まだ……勝負が決した訳ではない……。
だが、少なくともこの賭けにボクは勝ったようだ……」
「な……」
梨沙が驚く間もなく、ライジング・リベリオン・ファルコンが甲高い鳴き声を上げ、それと共に空気が震え始めた。
「《RR-ライジング・リベリオン・ファルコン》がエクシーズ召喚に成功した場合、効果を発動!相手フィールドのカードを全て破壊する!」
「全てを破壊……!?」
超越の隼がその翼を翻した瞬間に、梨沙のフィールドへと紫の稲妻が迸る。瞬く間にフィールドへ呼び出されたムニンと、《神碑の泉》、《ゴーストリック・ナイト》の全てが塵と化した。
「《神碑の泉》が破壊された事で、君のドロー効果も無力化した。ライジング・リベリオンはアルティメット・ファルコン同様、他の効果を受け付けない耐性を備えている。何枚も都合よく先ほどのダルマ・カルマを引き込んでいる訳でもないだろう……?
本当はその残った手札も使い切ったタイミングで呼び出したかったが、ドローされてデッキを削られては元も個もないからね」
「………」
梨沙が静かに己へ残された手札2枚の元に視線を戻す。その内の1枚は既に、渚にも詳細を知られている1枚だ。
「残されたのは先ほどサーチしていた《ゴーストリック・ショット》と、非公開の1枚……。
残る1枚がボクにとって唯一の不確定要素だが……そのカードも神碑速攻魔法でないことは明白だ。つまり、ボクのデッキをこのターンで削りきるのはかなり厳しいはずだ。ショットで壁を用意しようとも、これだけボクのフィールドにモンスターが残されていれば、君の5000に届かないライフを削りきる事は造作もない。
この状況でも……まだ君は希望を持ち続けられると言うのかい……?」
渚が分析した状況をそのまま口にし、暗に梨沙の逆転の目が潰えていると言い放つ。
梨沙がその言葉に緊張と共に、口の中で湧き出す唾液をごくりと飲み込む。そして、気を落ち着けるべく大きく息を吸い込み始める。
「ふぅぅ……」
ゆっくりと吸い込んだ空気を吐ききった梨沙が、手札から《ゴーストリック・ショット》を手にすると、活気にあふれた目で渚を見遣った。
「もちろんです!!
渚さんがデッキ切れでの敗北を何とか回避したように、可能性がある限り私は諦めません!カスタムの《確定ドロー》まで使ったという事は、渚さんもギリギリの状態のはずです。次のターンを耐えて、渚さんのデッキを0に出来るカードを引けばいいんです!」
「……!」
依然として勝利を見失っていない梨沙を前に驚くと共に、唇を噛みしめ始めた渚。
「どうしてだ……どうして……いったい何で希望を見出せるんだ!!ボク達の存在が意味をなさなくなっているんだよ!?生きていると思っていたボク自身が、もう生きてるとも呼べない存在なんだよ……。
なんで諦めない……なんで頑張れる…………なんで、前を向いて生きていこうと思えるんだよ……!!!」
強く噛みしめ、口元から血を流しながら渚は強い負の感情を乱暴に吐き捨てた。梨沙は終始穏やかに柔らかな口調で、渚へと語り続ける。
「デュエルと一緒ですよ。
可能性を信じて、後は進むだけ」
「そんなもの無理くりだ!デュエルと無理やり繋げて語ろうとも、ボクらの生きた証さえ失われたこの状況に……逆転の1手なんて残されていないんだよ!!」
「可能性を信じるという事に関しては、今の状況もデュエルもおんなじなんです。
渚さんが逆転できる1手に尽力したように。その勝つ可能性を追って賭けに出たように。
……それと同じように可能性を探してみればいいんですよ!
私は諦めないって決めたんです。デュエルも、ここから外に出ることも……全部を諦めたくないから!!!」
確かなる希望を胸に梨沙は、手札のカードを発動した。
「《ゴーストリック・ショット》発動!墓地から《ゴーストリックの人形》を特殊召喚!
さらに、ゴーストリックが居ることで、手札から《ゴーストリックの猫娘》を通常召喚!」[守1200][攻400]
手札:2枚→1枚→0枚
更地となった梨沙のフィールドへ、小さなブーケを手にした人形と尻尾を揺らしながら転がり込んできた猫娘が現われる。
「レベル2の《ゴーストリックの人形》と《ゴーストリックの猫娘》の2体でオーバーレイネットワークを構築!
エクシーズ召喚!
来て、ランク2《ゴーストリック・サキュバス》!」[守1200]
2体のゴーストリックが交錯しながら、エクシーズの渦へと巻きこまれ爆発が起こる。爆発の規模に反して、のほほんとした悪魔の翼を生やした少女が枕を引っ張りながらフィールドへ歩いて来ると、即座に投げた枕へ身を預け爆睡をかまし始めた。
「サキュバスのオーバーレイユニットを1つ使って効果発動!フィールドのゴーストリックの攻撃力以下のモンスター1体を対象に破壊できます!つまり、攻撃力1400以下が効果範囲!
攻撃力がちょうど1400の《RR-ワイズ・ストリクス》を対象に破壊です!
スリープ・プランク!」
すやすやと眠るサキュバスからもやもやとした夢の空間が出現する。そこから元気そうに目を輝かせた夢の中のサキュバスが顔を覗かせると、対面のワイズ・ストリクスを指差した。すると、羽ばたいていたワイズ・ストリクスが突如意識を失い地面へと墜落し、破壊されてしまう。
「サキュバスを素材にオーバーレイネットワークを再構築。
ランクアップ、エクシーズチェンジ!
来て、ランク4《ゴーストリックの駄天使》!」[守2500]
夢の中のサキュバスが現実で眠るサキュバスをそのまま夢の世界へと引っ張り込んで消えていくと、上空から継ぎ接ぎのハートに乗り、黒いドレスに身を包んだ少女……《ゴーストリックの駄天使》が降り立った。
駄天使の出現に、渚も今一度目を細め警戒を再開した。
「ようやく梨沙君のエースモンスターが拝めたね……。
呼び出せる手札は揃っていたみたいだけど、どうやって次の攻撃を防ぐつもりなんだい。それこそ、諦めず可能性を信じるっていうならさ……ボクに勝って証明するのが手っ取り早いってもんだよ……!!」
渚が声を荒げながら、鋭い目つきで梨沙の展開と手札へと注力する。そんな攻撃的な視線を受けてなお、梨沙は希望を抱えた言葉を返す。
「言われずとも、そのつもりですよ!
駄天使のオーバーレイユニットを1つ使って効果発動です!デッキからゴーストリック魔法か罠カード1枚を手札に加えることが出来ます。私は、フィールド魔法《ゴーストリック・ハウス》を手札へ加えます!
トリック・プレゼント!」
手札:0枚→1枚
駄天使が周囲を巡回する継ぎ接ぎのハートを掴み取ると、指先で高速回転させ始めた。次第に継ぎ接ぎの糸がほどかれて行き、中から1枚のカードが現われる。
それを梨沙へウィンクと共に投げ渡す駄天使へ、梨沙が笑顔でお礼を言葉にした。
「ありがとう!
さらに、墓地から罠発動《ゴーストリック・リフォーム》!墓地から除外して、駄天使に重ねて別のゴーストリックモンスターをエクシーズ召喚できます。
《ゴーストリックの駄天使》1体でオーバーレイネットワークを再構築……。
ゴーストリック・チェンジ!
来て、ランク3《ゴーストリック・アルカード》!」[守1600]
駄天使を囲うように白い布が現われる。うっすらと駄天使の影を映していたが、それらが次第に形を変え、突如現れた蝙蝠が白い布を持ち去ってしまう。すると、先ほどまでそこに居たはずの駄天使が消え、赤い目を光らせたドラキュラがそこに佇んでいた。
「アルカードのオーバーレイユニットを1つ使って効果発動!渚さんのセットモンスターを対象に破壊しますよ。
シャドウ・プランク!」
アルカードが指をパチンと鳴らした瞬間、渚のフィールドのセットモンスターが真っ黒に覆われ、すぐさま破壊される。
「……破壊された《雛神鳥シムルグ》は自身効果で除外される」
「では、アルカードもオーバーレイネットワークを再構築です!
ランクアップ、エクシーズチェンジ。
再登場!《ゴーストリックの駄天使》!」[守2500]
アルカードの体が影となり姿を消すと、入れ替わるように駄天使がフィールドへとふわふわ飛んできた。
「駄天使の効果を再び発動!
オーバーレイユニットを1つ使って、今度は《ゴーストリック・リフォーム》を手札へ加えますよ」
手札:1枚→2枚
駄天使が今度は自らが被るシルクハットを脱ぎ、その中へ継ぎ接ぎのハートを詰め込みシャカシャカと振るえば、何故か1枚のカードが取り出され梨沙へと手渡された。
「ありがとう!
さらに、オーバーレイユニットとして墓地へ送られた《ゴーストリック・アルカード》の効果で、墓地の《ゴーストリック・ナイト》を手札へと回収します!
トリック・リバイバル!」
手札:2枚→3枚
右手を翳せば、黒い靄が梨沙の手の中へと集約していき、1枚のカードを形成した。
「墓地の《ゴーストリック・ショット》を除外して、墓地のアルカードを駄天使のオーバーレイユニットに補充しておいて……フィールド魔法《ゴーストリック・ハウス》発動です!」
手札:3枚→2枚
回収したナイトを器用に右手へ収めたまま、ショットの効果を使用し、手札から《ゴーストリック・ハウス》を発動した梨沙。発動されると共に、梨沙の背後にゴーストリックのお屋敷が現われ始める。
「このカードがある限り、互いにゴーストリック以外の戦闘と全ての効果ダメージで受けるダメージが半分になります。そして、相手フィールドの裏側表示モンスターに攻撃が出来ず、裏側モンスターしかいない時は、相手プレイヤーへのダイレクトアタックが出来る様になりました!」
「ダメージを半分……ライジング・リベリオン・ファルコンでも、与えられるダメージは2000か……」
「私はカードを2枚伏せて、ターンエンドです!
さ、渚さん。どこからでもかかってきてください!」
手札:2枚→0枚
駄天使の効果を駆使して、瞬く間に増やしたカードの全てを使い、次のターンを凌ぐ準備を終えた梨沙。そんな彼女を前に渚はデュエルディスクにてそれらのテキストを今一度再確認し、思考を巡らせていく。
「(《ゴーストリック・ハウス》がある限り、梨沙君に与えられるダメージは半分になる……。ボクのライジング・リベリオンとエアレイドの合計ダメージを合わせても3000にしか届かない。それどころか、駄天使を戦闘破壊しないといけないから、さらにダメージは減る……。
ハウスを除去しようとも、《ゴーストリック・リフォーム》で躱され再発動されるだけ……。だが、まとめて破壊しようと全体除去を撃てば《ゴーストリック・ナイト》の効果で攻撃が出来なくなるか……)」
梨沙ーLP:4900
手札:0枚
[ターン7]
「《ゴーストリック・ハウス》がある限り、梨沙君のライフを例え0に出来たとしても致死的ダメージは与えられない……つまり、《ゴーストリック・ハウス》を何とかしないと梨沙君は殺せない訳だ」
「実質私のライフは倍になりました……これが私の賭けた最後の希望です!」
誇らしげにそう語る梨沙。それを横目に渚が自身のデッキトップへ指をかけていく。
「(このターンで殺しきれなくとも、負けると決まった訳ではない……だが、このドロー後に4枚となったデッキを削りきれるカードを引かれる可能性は大いにある……。出来る事なら、このターンで決着をつけたい……)。
ボクのターン……ドロー」
手札:0枚→1枚
渚デッキ:5枚→4枚
渚が願いと共にデッキから引き込んだカード。それを見た渚は大きく目を見開き、それを掲げデュエルディスクへと叩きつけていく。
「まだ……ツキはボクにあるようだ!
《護神鳥シムルグ》を通常召喚!」[攻1700]
手札:1枚→0枚
透き通る翼を羽ばたかせながら神鳥が、フィールドへと舞い降りる。
「護神鳥が召喚に成功した時、相手の魔法か罠1枚を対象に手札へ戻す事が出来る。対象とするのは、ボクから見て左の伏せカードだよ!」
「伏せカードを……」
発動と共に広げた翼を羽ばたかせ巻き起こった風は、伏せカードの1枚を弾き飛ばし、梨沙がそれを掴み取った。
「ですが、《ゴーストリック・ハウス》は健在です!リフォームかナイト、どちらが戻されたか分からない以上、渚さんの選択が勝敗を分けますよ!」
梨沙手札:0枚→1枚
梨沙が渚の選択次第で決まる勝敗である事を強調し、動揺を誘った。しかし、その梨沙の言葉を受け渚の口元がほんの少し緩む。
「ボクが適当に伏せを戻したと思っている様だけど、それは違うよ梨沙君。
ボクが狙ったのは《ゴーストリック・ナイト》だ!」
「な……」
反応しまいと意識を律する梨沙だったが、瞬間的な心の揺れは手札へと戻された《ゴーストリック・ナイト》の方へ視線が逸れてしまった。当然、その視線の動きまでも注意深く観察していた渚が見逃すはずもない。
「ふふ……君が《ゴーストリック・ナイト》を回収した時から、ずっと右手に収めていたのを見ていたからね。どちらに伏せられていたのか把握していたが……これで確定だ」
「うぐ……」
梨沙の展開途中の手札の動きにまで注目されてしまった事。それにより、伏せたカードの所在を把握されていた梨沙が、しまったと言わんばかりに顔をしかめた。
それを確認した渚は、畳みかける様にEXデッキより1枚のカードを取り出す。
「レベル4の《護神鳥シムルグ》と《RR-ブルーム・ヴァルチャー》の2体でオーバーレイネットワークを構築。
エクシーズ召喚!
来たれ、ランク4《鳥銃士カステル》!」[攻2300]
2体の鳥獣がエクシーズ召喚の渦へと飲まれると、マスケット銃を携えた鳥人がフィールドへと静かに降り立った。
「カステルのオーバーレイユニットを2つ使い、梨沙君の《ゴーストリックの駄天使》を対象に効果発動だ。対象のモンスターを持ち主のデッキへと戻させてもらう!」
「駄天使をデッキに……!?」
静かに銃を構え目を細めるカステルの射線上へと、駄天使が重なったその瞬間、空気の圧縮された弾丸が放たれた。それが着弾した事で、突如暴風が弾けるように吹き荒れ、駄天使をはるか彼方へと吹き飛ばしてしまう。
「これで壁モンスターも消えたね?」
「まだです……墓地へ送られた《ゴーストリック・アルカード》の効果で、墓地から《ゴーストリック・ランタン》を手札に回収させてもらいますよ……」
梨沙手札:1枚→2枚
梨沙の影よりぬるりと現れた蝙蝠が1枚のカードをくわえて羽ばたく。それを受け取った梨沙が、元々持っていた手札と混ぜ込む。
「確か直接攻撃に反応する防御カードだったね。徹底しているけど、それではもう守り切れないよ!墓地の《RR-グロリアス・ブライト》を除外することで、墓地か除外されているRR1体を手札に加えることが出来る。除外していた《RR-ネクロ・ヴァルチャー》を手札へ!」
手札:0枚→1枚
漆黒を中心に輝く小さな光弾が、異次元より放たれるとそれが渚の手札へと収まり1枚のカードを送り込む。それに合わせて、フィールドに緩やかに流れていた風が勢いを増し始めた。
「ネクロ・ヴァルチャー……RUMを回収するつもりですね……」
「そうだ。
ボクが《ゴーストリック・ナイト》を戻したのも、殲滅する時に邪魔だったから……《シムルグの霊峰エルブルズ》の効果発動!鳥獣族、風属性である《鳥銃士カステル》が存在することで、鳥獣族の召喚が行える」
フロアの赤い光に照らされ鮮明には見えないが、梨沙の表情には確かな焦りが見えた。背後に佇む屋敷の姿もまた、赤い光の反射が揺れ動き自らの役目の終わりを悟ったかのように朧になるばかりだ。
「手札から《RR-ネクロ・ヴァルチャー》を召喚!」[攻1000]
手札:1枚→0枚
渚がデュエルディスクへ呼び出すと共に、怪しいオーラを身に纏った機械鳥の不吉な赤い目が、フロアの光へと溶け込んでいく。
「ネクロ・ヴァルチャーの効果で、自身をリリース。墓地のRUMを…………」
ガコン……!!
それは、何の前触れもなく渚の耳へと響き渡った謎の異音。幻聴とは到底思えないはっきりとした音の発生源を見つけるべく渚が周囲を咄嗟に見渡した。
「なんの……音だ……」
渚のフィールドのモンスターは、つい先ほど展開したネクロ・ヴァルチャー含め依然としてフィールドに残り続けている。そして、梨沙のフィールドに視線を向けた渚が、その異変へ気づく。
「……!?
梨沙君、何故伏せカードが……」
伏せカードがなくなっている事に気づいた渚が、梨沙の後ろに存在するはずのフィールド魔法の所在を確認する。フロアの光で見え辛いだけに思い込んでいた《ゴーストリック・ハウス》だったが、渚が目を凝らしてそれを見遣れば、そこには大きな赤い布がフィールドを流れる風で揺れていた。
「いったい……何をした……!?」
「可能性を……信じたんです!
《シムルグの霊峰エルブルズ》の発動にチェーンして《ゴーストリック・リフォーム》を発動していました!《ゴーストリック・ハウス》を手札に戻して、デッキよりフィールド魔法を発動できる効果です」
梨沙手札:2枚→3枚
梨沙のその言葉と共に、彼女の背後を覆っていた大きな赤い布が取り払われ異音の正体が姿を現した。
「これは……」
そこに鎮座していたのは巨大なブレーカー。そのブレーカーはスイッチが下ろされており、OFFの文字が明確に示されていた。
「デッキよりフィールド魔法《サモン・ブレーカー》を発動しました。渚さんがこのターン3回目の召喚行為を行ったことで、ブレーカーが落ちて、強制的にエンドフェイズに移行しました!」
「エンっ……!?」
渚が驚きと共に、自身のデュエルディスクを確認する。そこに表示されていた現在のフェイズ表記は確かにエンドフェイズを示しており、フィールドに残った渚のモンスター達も、行動できる状態にはなかった。
「結構……シビアな効果をしているので、ちゃんと決められるのか不安でしたけど、何とかうまく決まりました!」
「やって……くれるじゃないか!?
……だが、まだボクの負けが決定した訳ではない。君が逆転の手を引けなければ、次のターンこそ君は終わりだ!」
動揺のままに声をあげた渚。自らのターンを終了し、梨沙の次のドローへと意識を向けていく……。
渚ーLP:8000
手札:0枚
[ターン8]
「《サモン・ブレーカー》のタイミングを逃していたら……きっと私は負けてたと思います……。
そして、ここを逃せば私の勝ちの目は完全に消え去る……」
梨沙はデッキトップへ指をかけると共に、にっと笑みを垣間見せた。
「だったら、このターンで勝てるカードを引くだけです!
ドロー!!」
手札:3枚→4枚
渚は息を殺し、梨沙が引き込んだカードを目で追う。引いたカードがゆっくりと裏返され梨沙が確認するまでの時間……まるでコマ送りの様にゆっくりと時間が流れていく錯覚を憶える。
引き込んだカードを確認した梨沙は、そのカードを渚に向けて翳した。
「私が引いたのは、《手札抹殺》!そのまま発動して、手札3枚全てを捨てて、捨てた数だけカードをドローします!」
手札:4枚→0枚→3枚
「………」
手札へと回収されていた3枚のカードを捨て去り、可能性を追った梨沙が新たな3枚を引き込む。無言でその様を見ていた渚を前に、間髪入れず引き込んだカードの1枚が発動されていく。
「《凍てつく呪いの神碑》を《RR-ネクロ・ヴァルチャー》を対象に発動!対象モンスターの効果をターン終了まで無効にして、渚さんのデッキを上から3枚除外です!」
手札:3枚→2枚
渚デッキ:4枚→1枚
yを意味するルーン文字が梨沙の右手の甲へと浮かび上がり、ネクロ・ヴァルチャーが凍り付く。それと同時に、渚のデッキトップ3枚が弾け飛んだ。
「これで最後。
速攻魔法《皆既日食の書》を発動!互いのフィールドのモンスターを全て裏側守備表示に変更して、エンドフェイズに渚さんの裏側モンスターのすべてが表側守備表示になります。そして、この効果で表になったモンスターの数だけ渚さんはカードをドローしないといけません!」
手札:2枚→1枚
梨沙と渚のフィールドの頭上でフィールドを赤く照らしていた照明が丸い物体によって覆い隠され、フィールドへ降り注ぐ光が遮られる。すぐ様、赤い光が二人を照らし始めるも、ライジング・リベリオン・ファルコンを除く、渚のモンスター3体は裏側へと変化させられていた。
「つまり、3枚のドローという訳か…………」
「私はこのままターンエンドです!
そして、エンドフェイズに渚さんの裏側モンスター3体がすべて表側守備表示になります!」
エンドフェイズへの移行が宣言されたことで、渚の2体の機械鳥と鳥人が表返りその姿を露わにする。そして、渚のデッキトップが、引くことを促すように少しだけデュエルディスクから飛び出す。
「まさか、負けるとはね……」
「あり得ないなんてことは何事にもないんです。
可能性を突き詰めていけば、きっと何かが見つけられるはずですから!」
にこりとほほ笑む梨沙を前に、失笑を漏らした渚がデッキから最後の1枚を引き抜いた。
ピーーー
「福原様のデッキが0になり、ドローが行えませんでした。勝者は裏野様です。」
フロアのアナウンスがデュエルの勝者を告げた。それと同時に、互いのフィールドのリアルソリッドビジョンが消失していく。
敗北を期した渚だったが、その目に宿っていた敵意は抜け落ちるばかりか、さらに深みを増し始めていった。
「何かが見つかるはず……ねぇ…………。
この無意味に終わったデュエルへ一体何が見出されたというのかな?
言ったはずだよ。ボクを殺さない限り、君が何度勝とうとボクはデュエルをやめる気なんかないんだよ……!」
そう言い、再びデュエルディスクを構えようと右腕を持ち上げ直す渚。だが、その腕の異様な軽さに渚は違和感を感じ、視線を梨沙から自らの右腕へと下ろした。
「なっ……!?」
驚きの声をあげた渚の右腕からは、つい先ほどまで装着されていたはずのデュエルディスクがなくなっていた。周囲を見渡すと、装着していたデュエルディスクがデッキごと空中をふわふわと浮遊しているのが視界に入って来る。
「いつの間にロックが!?いや、何がどうなってる……!?」
それを掴み取ろうと左手を伸ばすが、指先が触れる瞬間にデュエルディスクがふわりと渚を躱し、梨沙の方へと飛んで行ってしまう。
「ありがと、スペクター」
梨沙が飛んできたデュエルディスクを受け取り、そう口にした。それと共に、透けていた体が実体化していき、デュエルディスクを奪い取った《ゴーストリック・スペクター》が舌をぺろりとのぞかせながら姿を現す。
「これは……」
「お父さんから教えてもらった《盤外発動》です。本当は、デュエルディスクを勝手に奪う事は出来ないらしいんですけど……”これ”を使えばデュエルへ勝った時にその制限が一時的になくなるらしいです!」
そう喋りながら、梨沙は《大捕り物》が収められた1枚のカードケースを取り出し渚へと見せる。
「は、はは……!なかなか面白い事を考えるじゃないか梨沙君。確かに、これならデュエルする気があってもデュエルは出来ないだろうね……。
だが、ボクの決意はその程度の妨害で抑え込めやしないよ!!!」
即座に渚が自らのコートの懐へと左腕を突っ込み、何かを取り出そうとする。
その瞬間に、渚の喉元へ背後から冷たい何かがあてがわれた……。
「う…………」
冷たく鋭い何かへ、咄嗟に命の危機を感じた渚はそこで動けなくなる。そして、ゆっくりと目線だけを自らの首にあてがわれた物へと移していく。
そこにあったのは鋭利な黒い鎌。その刃先は完全に自身の首筋へと触れている様で、下手に動けば鎌が動かずとも喉が傷つけられてしまう程にぴったりとあてがわれたそれがあった。
「動かないでくださいね?
私は、本当に渚さんを殺したくはないんです……」
静かに言い放たれた梨沙の言の刃。
先ほどまでと声色の変わらない彼女の声だが、自らに刃を突き立てるモンスターを使役するのは紛れもない眼前の少女に他ならなかった。
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Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
渚さんと梨沙さんのデュエル、《シムルグ》+《RR》の猛攻を、《神牌》+《ゴーストリック》でギリギリ抑え込んだ梨沙さんにより、無血の勝利となりましたね、こういう耐久系のデッキ、メタい話にはなってしまいますが、デュエルの構成組むのめちゃくちゃ大変じゃないですか?ほんと毎度びっくりさせてもらってます。そしてSSで使うカードってマンネリしがちなのですが、《RR》は新規をしっかり搭載したり、《サモン・ブレーカー》なんてニッチなフィールド魔法を利用されたり、今度は何を魅せてくれるんだ?って気持ちで毎話読んでおります!
そしてびっくりしたのは最後の展開ですね!命を奪ってしまったことがあるゆえに、誰も傷つけない意思を貫いてきた梨沙さんがそういう手段を取るとは思いませんでした。いいえもちろん言い分は理解できます、2人ともですが。お互いに目指す世界、目指す生き方にとっては危険すぎる人物です。しかしそこで命を引き合わせる手段を取らずにいたのが今までの梨沙さんでしたから。この状況と狂気がそうさせたのか、はたまた渚さん率いるレッドフロアメンツの危険さゆえか、はたまた別の要因か。
物語が佳境という感じで、本当に毎度楽しみにしております!無理せず執筆頑張ってくださいね! (2024-10-10 14:35)
デュエル構成に関しては仰る通りで、白神、アリス含めての3戦の中でこの二人のデュエルが一番頭を抱えておりましたwやはり低速に加えて耐久系のデッキは、ある程度拮抗を描きたい側としても非常に難儀なデッキでして…。がちがちにロックを固め過ぎればそれはそれで相手が何も出来なくなりますし、完全に突破されれば今度は即座にこちらが負けてしまうという…。
悩みどころが、ターン6の初手で《大熱波》の制約がドローフェイズ終了時まで続く関係で、梨沙がドローフェイズに神碑速攻魔法を使えば渚はライジング・リベリオンを出せないので梨沙が3枚ドローできてしまうんですね。その為、渚の賭けとしては①梨沙がドローフェイズに使える神碑速攻魔法引かない事。②スタンバイ以降に使われたとしても3枚目のフギンがEXにない事。とだいぶギリギリの状態だったんですね。
後は、《サモン・ブレーカー》も適用されても仕方ない様、誘導するのが大変でした…。渚が盤面をよく見ていて気付けたとしても、逃げられないように使わせるには3回目の召喚行為が発動を介するものでないといけなかったので。ちゃんと勝てる目標を持ちつつ、ブレーカーに引っかかる様に持っていくのが多分一番悩んでましたねぇ…。悩んだ分、楽しんでいただけたようで何よりでございます!
梨沙が最後に取った強硬手段については、次に彼女達が話すときにある程度補完できるとは思います。
その中で梨沙がその選択を取った一番の理由をお話しすると、”相手を生かすデュエルが、相手にノーリスクで再戦させるチャンスを与えること”にあります。
デュエルディスクさえ奪ってしまえば直接の暴力行為が禁止されているこの実験内では無力化に等しいです。しかし、渚が何かをしようとしているのを感じ取った為、苦肉の策として、デュエルディスクを装着していない内に完全に無力化する必要を感じた訳ですね~。萩峯、貫名の一般被験者とのデュエルで梨沙が再戦を挑まれなかったことが、結局は相手の気分次第だった事に気づいた故の選択になりました。
……ですが、この選択は良くも悪くも梨沙がこの実験へ順応してしまった慣れの果てなのかもしれませんね?コングの施しさんの感じた違和感をそのまま彼女へ伝えれば、彼女もまた思う事があるかもしれません。
いつも読んでいただけてうれしい限りでございます!また~りと物語を締めていけるよう頑張ります! (2024-10-13 07:25)