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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#85「序曲-死という舞台」

Report#85「序曲-死という舞台」 作:ランペル

「ウチは、《花札衛-月花見-》を対象に《超勝負!》を発動!対象の月花見をデッキへ戻して、墓地から花札衛4枚を特殊召喚。
そして、デッキからカードを引いてそれが花札衛なら場に出せて、違うならウチのモンスター全てが破壊され、さらにウチのライフが半分になる!」
手札:5枚→4枚

「ですが、そのデメリットも《花札衛-雨四光-》の耐性効果によって、意味を成さなくなっているという訳ですか」

「そういう事!
ウチは墓地から《花札衛-五光-》、《花札衛-雨四光-》、《花札衛-柳-》、《花札衛-月花見-》の4体を特殊召喚し、ドロー!
……引いたのは、《花札衛-萩に猪-》!」
手札:4枚→5枚


近久ーLP :4000
手札    :5枚
モンスター :《花札衛-五光-》[攻]、《花札衛-雨四光-》[守]、《花札衛-雨四光-》[守]、《花札衛-柳-》[守]、《花札衛-月花見-》[守]
魔法&罠  :なし
適用中効果 :《花札衛-猪鹿蝶-》

ーVSー [ターン1]

萩峯ーLP :4000
手札    :5枚
モンスター :なし
魔法&罠  :なし


 近久の先攻で始められた萩峯とのデュエル。瞬く間にフィールドへ、5体のモンスターを並べた近久。背後で穂香が見守る中、持ち前の勝負強さを生かした花札衛の大量展開は大詰めを迎えていく。

「月花見の効果発動、デッキから1枚ドロー。
引いたのは《札再生》。
さらに、柳の効果も発動し、墓地の《花札衛-桜に幕-》をデッキへ戻して1枚ドロー!」
手札:5枚→6枚→7枚

「くく……その2体の効果も、これで何度目の発動となるのでしょうね?」

 扇子を華麗に動かし舞う月花見。それに連なり吹きすさぶ風へ導かれ、2枚のカードをデッキより引き込む近久。引いたカードと手中の手札とを入れ替え、2枚のカードがデュエルディスクへと伏せられた。

「ウチはカードを2枚セットして、エンドフェイズ」
手札:7枚→5枚

「ふむ……1枚は《影のデッキ破壊ウイルス》でしょう。
果てさて、もう1枚は一体何が伏せられているのでしょうか!」

 花札衛の効果によって公開されてきた手札から、伏せカードを予測する萩峯が、己のターンを始めるべく右腕を掲げた。しかし、それを防ぐように近久は指先をデュエルディスクの墓地へと翳す。

「その前にもう一仕事だ!
墓地の《超勝負!》の効果発動。花札衛の効果で墓地へ送られたエンドフェイズに墓地から魔法か罠カード1枚を手札に加える事が出来る。このカードは《花札衛-桜-》の効果で墓地へ送られてるから、ウチは墓地の《超勝負!》そのものを手札へ回収する!」

「なるほど、墓地へと送られていた3枚目でしたか。花札衛の効果により手札へ加わる事はなくとも、次へ繋がる一手となるのですね。わたくしも一演者として、近久様の運をも味方につけたその展開力には感嘆させられました所です」

 ペストマスク越しに小さな笑い声を洩らす萩峯。その嘲笑うかのような声色に近久の眉がピクリと動く。

「ウチの事……舐めてるの?昨日までならともかく、今日からのウチを舐めてると痛い目見るよ!
これでターンエンド!」


近久ーLP:4000
手札:5枚


 [ターン2]


「舐めるなどとんでもない。その様な振る舞いは、共にショーを盛り上げる共演者に対して失礼極まりないでしょう?近久様は、わたくしの新たなエンターテインメントを披露する演者として、充分な実力者とお見受け致します!
では参りましょう。わたくしが送る全力のショーを是非とも体感してくださいませ。
わたくしのターン、ドロー!」
手札:5枚→6枚

 萩峯が高らかに自らのターンの宣言と共に勢い良くカードを引き抜く。それに反応した近久のフィールドに居る2体の雨四光が、電撃を纏う傘の先端をまるで銃口の様に、萩峯へと向ける。

「あなたがドローフェイズにドローしたこの瞬間、《花札衛-雨四光-》2体の効果を発動だ!相手に1500ダメージを与える。この効果が2回分で、合計3000のダメージ!」

「……!」

 宙へと放られた傘が回転を始め、傘の内側より鋭い針の雨が萩峯へと襲いかかる。それに続き、もう1体の雨四光が構えた傘の先端より放たれる雷撃が萩峯の全身を痛みと共に巡っていく。

「う……あぁ゛ぁ゛っ……!!?」

萩峯LP4000→1000


 針と電撃に身体を貫かれ、痙攣と共に感覚を狂わされた萩峯はその場へと倒れた。

「すごく痛いはずよ……。
でも、死ぬってのはこれ以上に怖くて苦しい事なの。こんなに痛くて苦しい事を、あなたはエンタメだって嬉しそうに話していたわ。
ねぇ……その苦しさは、本当にエンタメだって言えるの?」

 死をエンタメと称す萩峯に、直接痛みを与える事で命の尊さを伝えようという近久の作戦。他者の痛みが分からずとも、自らに与えられる痛みを通してならば理解できるはずなのだ。そんな近久の言葉に、萩峯は返事をしない。
 ほんの少しの静寂が空間内を満たしていく。

「ちょ、ちょっと……?」
 
 倒れ込んだ萩峯は、与えられた電流により時々痙攣するのみで、言葉を発する事がない。それどころか、まるで命を失ったかのように全く動かないその光景に近久は、一瞬息を呑む。

「嘘、でしょ……」

 近久が困惑と焦る表情を浮かべる中、萩峯の体が突然ピクリと動いた。
 次の瞬間、彼の手がゆっくりと宙を掴むように動くと、まるで人形が見えない糸で操られているかのように立ち上がったのだ。

「くく……驚かれましたか?そう、今まさに近久様の感じているものこそが、死の瞬間が生み出す感情の力なのです!」

 萩峯はまるで何事もなかったかのように起き上がったかと思えば、胸元から赤い布を取り出す。
 
「な……何のつもりなのよ!?」

「いえいえ、あまり痛々しい絵面のままで居るのもお目汚しになってしまいますのでね。今よりこの受けたダメージ、そっくりそのまま帳消しにしてみせましょう」
 
 そう宣言した萩峯は、自らへ突き刺さった雨四光により飛ばされた針を隠すように布を揺らしながらなぞって行く。すると、まるで布へ吸い込まれる様に突き刺さったはずの針が次々と消えていくのだ。一通り針が取り除かれると、萩峯はその赤い布を広げ、表裏を見せる事で、取り除いた針が隠されていない事を近久と穂香へ示す。

「無くなってる……?」

「あなた……何をしてるのよ……?」

 萩峯の針を消し去る手品を前に、純粋な驚きと不思議さを覚える穂香。そして、確かに痛みを受けたはずの萩峯が、その受けたダメージさえも手品に転用してしまう様に近久は困惑を隠せないでいた。

「ご覧のようにこの赤い布はただの布キレです。さてさて針は何処かへ消えてしまいましたが、わたくしめの受けた痛みはまだここに残されている様子……」
 
 そう口にする萩峯が、赤い布を小さく纏めていく。縮こまった布を突如大きく振るうと、赤い液体がまるで鮮血のように周囲へと飛び散った。

「わ……!」

「な……!?」

 次の瞬間、確かに液体であったはずのそれらは萩峯の弾かれた指の音と共に、鮮やかな花びらへと変わり、宙に舞い上がっていくではないか。

「くく……少々悪趣味でしたかね?しかし、わたくしがお二方へお魅せするのは、さらに過酷な死の演出!瞬時見逃せば、瞬く間にその命の灯火が燃え尽きてしまう刹那の世界なのです!」

 前口上を高らかに謳い始める萩峯に、近久の戸惑いと溢れ出る怒りが言霊となってぶつけられていく。
 
「じょ、冗談でしょ……!?あなた、自分が受けた痛みさえもエンタメだなんて言うつもり!?」

「くく……近久様はわたくしのエンターテインメントを理解出来ないと仰られましたのでね。わたくしのスタンスをお伝えしたまでですよ。
予期せぬ死、それは与えられる側も与える側にとっても驚愕そのものなのです!無理やり振るわされる感情の動き!これをエンターテインメントと称さず何と表現するのでしょうか!」

 間違いなく体に与えられていたはずの痛み。それらを何らかの方法で物理的に消し去ったのだとしても、これほど即座に笑い声まで零せるものだろうか?痛みによって殺しという行為の苦しみを知ってもらうという近久の作戦。その考えが、どれほど無意味なものであったかを痛感させられると同時に、萩峯の人間としての異質さに近久の背筋を寒気が伝う。

「あなた……マジで正気じゃないよ!
守備力2000の闇属性《花札衛-月花見-》をリリースして《影のデッキ破壊ウイルス》を発動!あなたの手札とフィールド、そして3ターンの間にドローしたカードの全てを確認して、その中の守備力1500以下のモンスターを破壊する効果よ!」

「おやおや……手の内を曝け出させるマジシャン殺しの様なカードでございますね。そして、わたくしが引かされたのは《花札衛-牡丹に蝶-》の効果でデッキトップを操作されたカード……」

 引き込んだカードを指先でくるくると回転させる萩峯。そのカードは近久が展開の最中に、《影のデッキ破壊ウイルス》の効果範囲になる様に仕込んでいたカードだ。

「そう。ウチが引かせたのは守備力0のモンスターだった!さぁ、他の手札も見せなさい」

「いいでしょう。では、しかと目に焼き付けてくださいませ!」

 不敵にそう言葉を落とした萩峯が、虚空からカードを取り出したかのように突如現れた手札を頭上へと放った。それと同時に、近久のデュエルディスクへ公開された手札の詳細が映し出されていく。
 
萩峯手札:6枚
《サイバー・ヨルムンガンド》[守2100]
《サイバー・ダーク・ヴルム》[守2100]
《機皇兵廠オブリガード》[守1800]
《機皇枢インフィニティ・コア》[守0]
《リミッター解除》
《機皇創出》

「くっ、破壊出来るのはウチがトップに仕込んだ奴だけか……」

 萩峯が指先をぱちんと鳴らすと、効果範囲である《機皇枢インフィニティ・コア》のみが粉々に弾け飛ぶ。それを確認すると即座に被っていたシルクハットを掴み取り、舞い落ちる5枚のカードをシルクハットの中へ一気に拾い集めた。

「さて、ここで破壊されたインフィニティ・コアの効果を発動!
……と行きたい所ですが、近久様の《花札衛-猪鹿蝶-》の効果によりわたくしは墓地での効果発動と墓地からの特殊召喚が行えません」
手札:6枚→5枚

 残念そうに首を横に振る萩峯は、シルクハットの内に収められているであろうカードを回収する事無く、シルクハットを1回転させながら被り直す。

「墓地で効果を使うデッキは多いんでしょ?手札の破壊はほとんど出来なかったけど、あなたが展開し辛い事に変わりはないはずだ!」

「くく、ではご覧にいれましょう!この明かされた手の内から繰り出されるわたくしの妙技……それを近久様は読み切れるでしょうか?
相手フィールドにモンスターが存在する事により、手札から《サイバー・ヨルムンガンド》の効果を発動致します!自身を特殊召喚」[守2100]
手札:5枚→4枚

 シルクハットに収められているはずのカードを、何故か手元から出現させた萩峯がカードをデュエルディスクへと叩き付ける。それによって、フィールドへ巨大な機械竜が蛇の様に蠢きながら登場した。それに追従するかのように、白銀の装甲を身に纏う新たな機械竜も頭上より現れる。

「さらに、デッキから《サイバー・ドラゴン》1体の特殊召喚、もしくは自身へと装備する事が出来ます。わたくしは、デッキより《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚です!」[守1600]

「1枚で一気に2体のモンスターを……」

「わたくしはフィールドへ揃えた機械族レベル5モンスター2体でオーバーレイネットワークを構築致します!
エクシーズ召喚!

ランク5、《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》[攻2100]

さらに、呼び出したノヴァに重ねて即座にオーバーレイネットワークを再構築!
ランクアップ、エクシーズチェンジ!

ランク6、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》」[攻2700]

 瞬く間に行われるモンスターの連続召喚。交錯していく2体の機械竜から、外殻を黒い装甲で覆った新たな機械竜が呼び出される。さらに、登場から即座にエクシーズ召喚の渦に身を投じる《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》によって、全身が黒鉄に覆われし機械竜が姿を現すのだ。

「エクシーズモンスターに重ねてのエクシーズ……」

 冷静に状況を見据える近久の態度に、萩峯は小さく首を傾げる。

「おや、その反応はこの連続召喚の事を既にご存じのご様子……。残念ではありますが、裏野様を知っておられるならば珍しいものでもありませんか。
続きまして、永続魔法《機皇創出》発動」
手札:4枚→3枚

「そのカードはサーチ効果を持ってる!《花札衛-五光-》の効果発動!相手の魔法か罠カードの発動を無効にして破壊させてもらう!」

 《影のデッキ破壊ウイルス》により公開されたテキストに軽く目を通していた近久が、サーチ効果を内蔵したカードの発動に反応し、デュエルディスクをタップした。無力化するべく五光が抜刀し構えた瞬間、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》が五光に向けてレーザー光線を放つ。

「な……!?」

「デュエルの攻防もまた刹那的、よくよくお忘れなきように。
《花札衛-五光-》の効果発動にチェーンして、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》のオーバーレイユニットを1つ消費し効果発動です!その発動を無効とし、破壊させて頂きますよ?」[攻2500]

 放たれた光線を刀で受け流し、軌道を逸らす五光。それと同時に、萩峯のデッキより1枚のカードが飛び出していく。

「でも、雨四光の効果で五光は効果で破壊されない……」

「くく、わたくしは《機皇創出》の発動時の効果処理によって《機皇帝グランエル∞》を手札へ加えさせて頂きます」
手札:3枚→4枚

 サーチした機皇帝のカードしか持っていないはずの右手から、突如もう1枚のカードを出現させる萩峯がデュエルディスクへそれを呼び出す。

「《機皇兵廠オブリガード》を通常召喚いたします」[攻1200]
手札:4枚→3枚

 現れたのは両肩と胸部に合計3つのハッチを備えた人型の機械兵。降り立つと、すぐさまその両肩のハッチが解放される。

「オブリガードの効果を発動です。
自らを破壊する事で、デッキより《機皇兵ワイゼル・アイン》と《機皇兵スキエル・アイン》の2体を守備表示で特殊召喚致します!」[守0][守1000]

 両肩より、それぞれ白と青を基調とする2体の機械兵が放出される。放出を終えたオブリガードのハッチは破損し、ビリビリと電気を迸らせ爆発してしまう。

「また1枚で2体のモンスターを……」

「オブリガードの役目はそれだけでは終わりません。自分モンスターが効果で破壊された時、手札より《機皇帝グランエル∞》を特殊召喚する事が出来るのです!」[攻2000]
手札:3枚→2枚

 オブリガードの爆発により舞い上がる黒い煙。警戒する近久の眼前へと、その煙の中からオレンジ色に染まった魚を模した5つの機械片が出現する。

「お魚?」
 
「な、何このモンスター……」

「世にも珍しい5体で1体のモンスターでございます。
合体せよ、《機皇帝グランエル∞》!」

 機械片の1つが起動すると、それぞれのパーツが機敏に動き始める。最初に起動したパーツが胸部に位置する核となり、その核と連結するように4つのパーツが合体していく。右腕、左腕、下半身とが繋ぎ合わされ、最後に頭部へ位置する部位にパーツが繋がる事で完全なる起動を果たし、巨大なモンスターの登場を締めくくる。

「おぉ……」

 その元の機械片からは想像し難い合体形態に、意図せず驚きの声を洩らしてしまった近久。

「続けて、レベル4のワイゼル・アインとスキエル・アインの2体でオーバーレイネットワークを構築。
エクシーズ召喚!

ランク4、《ギアギガントX》」[攻2300]

 次々と萩峯のフィールドへ並び立っていく機械の軍勢。エクシーズ召喚の爆発から新たに現れた全身の至る所に歯車の回る機械兵のギアが解放される。

「《ギアギガントX》のオーバーレイユニットを1つ取り除き効果を発動致します。デッキよりレベル4の《サイバー・ドラゴン・フィーア》を手札へ加えさせて頂きます」
手札:2枚→3枚

「またデッキからモンスターを?一体何を狙ってるの……!」

 展開が進めども、萩峯のフィールドには依然として近久のフィールドを打ち破るモンスターやカードは出てきていない。不安から焦りが声に乗せられた近久の言葉に、ペストマスク越しに萩峯が小さく笑う。

「くく、それこそがお楽しみというものではございませんか!
手札より《サイバー・ダーク・ヴルム》の効果を発動!サイバーモンスターがフィールドもしくは墓地に存在する事によって、デッキから《サイバー・ドラゴン・コア》を墓地へ送りながら、このカードを特殊召喚させて頂きます!」[守2100]
手札:3枚→2枚

 鋭い鋼鉄の鉤爪と翼を広げながら現れる機械竜。その出現に反応するように、薄紫のオーラを纏った白銀の機械蛇もフィールドにて蠢く。

「《サイバー・ドラゴン》として扱われるダーク・ヴルムが登場した事により、先程手札へ加えた《サイバー・ドラゴン・フィーア》も、フィールドへ呼び出させて頂きますよ」
手札:2枚→1枚

「ここから何かするつもりね……」

 萩峯の埋め尽くされたモンスターゾーンから、逆転の一手を予感する近久が身構える。

「さぁ、世にも不思議なエンターテインメント!まさしく刹那で一瞬の出来事!是非とも、お見逃しなきようにお願い致しますよ。
わたくしは攻撃力800の《サイバー・ダーク・ヴルム》1体でリンクマーカーをセット!
リンク召喚。

LINK1、《機械仕掛けの騎士》」[攻500]

 隊列を組み行進する機械仕掛けの騎士達が現れ、唯一赤いパーツを備えた隊長格の騎士がレイピアの剣先を近久へ向ける。

「リンク召喚時の効果を発動し、わたくしの永続魔法《機皇創出》を墓地へ送る事で、デッキより永続魔法《機械仕掛けの夜-クロック・ワーク・ナイト-》を手札へと加えます!そして、そのまま発動です!」
手札:1枚→2枚→1枚

「クロックワークナイト……?」

 意気揚々とサーチしたカードを発動する萩峯。その発動によって、フィールドの様相が様変わりしていく。より厳密には、変化が訪れたのは近久のフィールドだ。

「な、なにこれ……」

 浮かび上がる月光に照らされる花札衛達の身体が硬質化していく。人型らしい滑らかで柔らかな質感だったモンスター達は、瞬く間に先程呼び出された《機械仕掛けの騎士》の様なロボットのような姿へと変えられてしまう。

「みんな……ロボットになっちゃってる」

 突如機械化し様変わりしたモンスター達を眺める穂香が小さな驚きを零す。

「《機械仕掛けの夜-クロック・ワーク・ナイト-》の効果により、フィールドのモンスター全てが機械族へと変貌するのです!さらに、わたくしの機械族の攻撃力は500上昇し、逆に近久様の機械族の攻撃力は500ダウン致します」

「一気に1000の攻撃力差を作る効果ね……。けど、戦闘補助にしたって五光どころか雨四光の守備3000も超えられていない!」

 発動されたクロック・ワーク・ナイトのテキストを確認した近久は、攻撃力の増減を含めても突破できない守備力を持つ雨四光を横目にそう言い放つ。

「近久様の仰る通りです。このままでは、わたくしのモンスターで近久様のモンスターを倒す事は出来ませんね。
では、わたくしの指先へとご注目ください!」

 そう口にした萩峯が、右手を高く構える。それに誘導されるがままに近久の視線はその指先へと向けられていく。

「ワン……トゥー……スリー!」

 掲げた指先が弾かれ、パチンと音が鳴り響く。それと同時に、近久のフィールドで機械化した雨四光の体がバラバラに壊れ始めていくたのだ。

「なっ……!?」

 まるで積み上がった積み木が崩れるように、ガシャガシャとその身体が崩れていく雨四光。しかし、その崩落は雨四光1体に留まらない。もう1体の雨四光と《花札衛-柳-》もまた、各部のパーツが崩れ落ちて機械の残骸がその場へと積み上げられていく。
 バラバラに壊れた3体の機械族の破片達が、いつの間にかカードを掲げる萩峯の元へ勢いよく吸収されていく。

「イリュージョン!
レベル8、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》」[攻4500]

 紫のオーラを広げた《サイバー・ドラゴン・フィーア》を起点として広がった渦に飲み込まれた近久のモンスターであった機械片。それらが混ざり合うと、円盤型の胴体を持つ機械竜が現れる。それらの円盤から合計3つの首が生え、4つ首の機械竜達は、近久を無機質に見つめるのだ。

「な、なんでウチのモンスターが……」

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は、《サイバー・ドラゴン》とフィールドの機械族を任意の数墓地へと送り、その数✕1000の攻撃力を得て呼び出す事の出来るモンスター。よって、《サイバー・ドラゴン》として扱う《サイバー・ドラゴン・フィーア》に、近久様の機械族となった2体の雨四光と《花札衛-柳-》を素材とさせて頂いたのです」

「モンスターを素材に使ったから、雨四光の耐性も意味がなかったって事か……。でも、その条件なら五光も墓地に送れたはず……どうしてわざわざ残すような事を!」

 近久のフィールドに、不自然に残された五光。五光も素材に活用すれば、キメラテック・フォートレスの攻撃力もさらに上昇する為、敢えて放置する理由などないはずだ。何か目論みがある。その確信があったからこそ、近久は警戒と共に萩峯へと問うた。

「ご要望にお答えしましょう。わたくしが敢えて五光をフィールドへと残した理由……それがこれです」

 再び指をパチンと鳴らす萩峯。すると、グランエルの胸部のパーツから薄緑色に発光する無数の糸のような物が五光に向かって放たれていく。

「《機皇帝グランエル∞》の効果発動。相手のシンクロモンスターを対象に吸収する事が出来るのです!」

「シンクロの吸収!?」

 伸びる光の蔦が五光の体を縛り上げ、締め上げられた右手に携えていた刀が落ちていく。その瞬間に、五光はグランエルの核へと吸収されてしまった。

「そして、自身の攻撃力は吸収したモンスターの攻撃力分上昇致します」[攻7500]

 グランエルの頭部のパーツの赤い目が怪しく光ると、その機体の周囲を五光の幻影が淡く浮かび上がっていく。

「この為に、対象耐性を与える雨四光をどかしたって訳ね……」

「機皇帝の異名はシンクロキラー。その脅威の程を味わって頂けたようで何よりでございます。
さて、これで近久様のフィールドから全てのモンスターが取り除かれました。ですが……近久様の瞳に宿る闘志、それは敗北を悟った者の目ではありませんね?」

「……ウチは、ただ真っすぐ進むだけだよ。真っすぐにあなたが遊び感覚で人を殺そうとするのを止めるだけだ」

 首を嫌らしく倒し、近久の表情を伺ってくるペストマスクの男。近久はその飄々とした振る舞いに苛立ちを感じながらも、マスク越しに萩峯の目を見据え言葉を落とす。

「あぁ……とても素晴らしいですね。挫けぬ心、揺らがぬ決意、己を突き通す自我。そのどれもが強さの象徴であると共に……崩れ去った時に人を惹きつける力もまた絶大!」

「…………やっぱりウチには理解出来ないな。あなたがそれ程までに命を軽んじてまで追い求めるエンタメって奴が」

「くく……理解の先に驚きは存在しません。理解の外、突然の出来事、即ち刹那!その一瞬に魅せる技術こそがエンターテインメントの真髄なのです」

「それが人を殺す事な訳?他の方法で人を惹きつける事は出来ないの?」

 近久の言葉に萩峯の肩がピクリと揺れる。

「死こそ、わたくしの辿り着いたエンターテインメントの境地なのです。刹那の瞬間に垣間見える表情。あれこそが、真の驚きに他なりません」

「確かに、驚かせるってのは大切だよ……。でも、それが人の命を奪う事でしか成り立たないなんて絶対に間違ってる!」

「1度知れば、理解できるはずですよ。エンターテイナーとして驚愕を与えたいわたくし達にとって、あれほど満たされる瞬間もありませんからね」

「人を殺せば満たされるって?ふざけるな!!
あなたの殺しを前提とした狂ったエンタメと比較したら、ウチの方がよっぽどいいエンタメを披露できるよ!」

 激しい感情の起伏の末に堂々と宣言する近久。萩峯は大きく右腕を振るい、背後に位置する《機皇帝グランエル∞》へとその場の視線を向けさせていく。

「構いませんよ。近久様の魅せるものを、わたくしのエンターテインメントが上回る瞬間を是非体感してくださいませ。
《機皇帝グランエル∞》の効果を発動!」

 陽気な声色を取り戻した萩峯の発動宣言を受け、グランエルの核である胸部から《花札衛-五光-》が光の蔦に捕まったまま出現した。

「1ターンに1度、吸収したシンクロモンスターをわたくしめのフィールドへ守備表示で特殊召喚する事が出来るのです!
近久様の強力なモンスターもわたくしの軍配へ下りました。これで、その伏せカード……も……」[守0]

 萩峯が視線をフィールドへ向ければ、伏せられていたはずのカードが開かれており、近久は開いた右手を掲げながらその存在を誇示する。

「グランエルの効果にチェーンして永続罠《モンスターBOX》を発動させてもらったよ。五光が止められるのは、魔法か罠の"カード発動"だけ。既に表になった《モンスターBOX》の"効果発動"は止められない!」
 

 =====
《モンスターBOX》
永続罠
このカードのコントローラーは自分スタンバイフェイズ毎に500LPを払う。またはLPを払わずにこのカードを破壊する。①:相手モンスターの攻撃宣言時に発動する。コイントスを1回行い、裏表を当てる。当たった場合、その攻撃モンスターの攻撃力は、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、バトルフェイズ終了時まで0になる。
 =====


「くく……コイントスの結果を当てる度、わたくしの攻撃モンスターの攻撃力を0にする効果ですか。これでは、《リミッター解除》の倍加も意味を成しませんね。
ですが……まさかそのカード1枚でわたくしの攻撃全てを防ぐつもりですか?《リミッター解除》の倍加を含めれば、4連続でコイントスの表裏を当てる必要があるのですよ?」

「上等だよ。ウチなりのエンタメってのを見せてあげるから覚悟してよ!」

 複数回の成功を前提としたコイントスに、己の命運を託そうとする近久。その様をどこか嬉しそうに眺める萩峯が、デュエルディスクから2体のモンスターを掴み取る。

「なるほどなるほど……運を絡めたエンターテインメントですか。運とは、時に仕込まれた以上の盛り上がりを見せる可能性を秘めていますからね。そういう意味では、近久様もエンターテイナーの素質があるかもしれません。
しかし……タネの割れた手品で驚きは生まれません。仕込みを悟られぬよう、観客の視線を巧みに誘導し、予想させずに繰り出すのが本当のエンターテイナー!わたくしとのエンターテイナーとしての意識の差が敗北を生むのです!
《機械仕掛けの騎士》と《機皇帝グランエル∞》の2体でリンクマーカーをセット。
リンク召喚。

LINK2、《クリフォート・ゲニウス》」[攻1800]

 ヒビ割れた機械片が上空より降り注ぐ。ガシャガシャと騒々しい音を立てながら落下してきたそれらから、まるで怨霊のようなモノが滲み出てくるのだ。

「わたくしの《ギアギガントX》と近久様の《モンスターBOX》それぞれを対象に、《クリフォート・ゲニウス》の効果を発動致します!
それらの効果をターン終了時まで無効とさせて頂きますよ」

「な!?」

 ゲニウスの目が怪しく光ると、《ギアギガントX》と表側で表示されている《モンスターBOX》の双方に黒い影が落ちる。

「これにて近久様の用意したエンターテインメントであり、最後の防衛手段が失われました。後は、幕引きを飾るのみです!」

 そう高らかに宣言した萩峯がディスク上から3枚のカードを掴み取る。

「問答無用で無力化なんて……エンターテイナーなら盛り上げ所を潰すような事しないでよ!?」

「言ったはずですよ。タネの割れた手品など、驚愕に値しないとね。
《クリフォート・ゲニウス》、《ギアギガントX》、機械族となっている《花札衛-五光-》の3体でリンクマーカーをセット。
リンク召喚。

LINK3、《幻獣機アウローラドン》[攻2600]

 虹のベールを纏い現れる獣を模した戦闘機。その出撃と共に、アウローラドンの格納庫が開かれ、3体の小型の戦闘機も続いていく。

「リンク召喚時、わたくしのフィールドへ《幻獣機トークン》を3体特殊召喚致します。[守0]×3

さらに、呼び出したトークン2体をリリースする事によって、デッキから幻獣機である《幻獣機オライオン》を特殊召喚する事が出来るのです!」[守1000]

 淡い虹色を纏う2体の小型戦闘機が、上空に向けて飛び立ち泡となって消える。フィールドへと新たに飛来するのは、ライオンの顔を思わせる造形の小型衛星機。その出現とほぼ同時に、オライオンが緑色に輝く2つの円陣へと姿を変える。

「それは……!」

「レベル3の《幻獣機トークン》にレベル2のチューナー《幻獣機オライオン》をチューニング。
シンクロ召喚。

レベル5、《HSRチャンバライダー》[攻2500]

 シンクロ召喚の閃光に導かれるように、バイクに見立てた剣へ乗り込む機械ライダーがフィールドを突き進む。

「墓地へ送られたオライオンの効果も発動です。わたくしのフィールドへ《幻獣機トークン》を特殊召喚」[守0]

 萩峯のフィールドへ並び立つのは、融合、シンクロ、エクシーズ、リンクと召喚法の異なる4種の機械族モンスターだ。

「さて、フィナーレと参りましょう。シンクロを扱う近久様へ、こちらのモンスターより刹那の一撃をお送り致しますよ。
バトルフェイズ、《HSRチャンバライダー》で近久様へダイレクトアタック!」[攻2500]

 エンジンの様に巻き上がる風を受けるチャンバライダーは、近久に向かって真っ直ぐに飛んでいく。その一撃で近久の命を刈り取らせるべく、萩峯の右手に現れた最後の手札が構えられる。

「お札のお姉ちゃん……」

 背後より不安そうな穂香の声が漏れ聞こえる。その声を合図と言わんばかりに、頬を汗が伝う近久。しかし、その口元から笑みを滲ませると、自らの手札を掴み取った。

「予想させないのがエンタメなんだよね……。だったら、これは予想してたかな!
 
相手モンスターの直接攻撃宣言時、手札の《アンクリボー》を捨てて効果発動!」

「ほう……!」

 生死と逆転を賭けた近久の一手。それは、金色の十字架を額に宿すモンスターによって打ち出されるのだ。
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