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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#38「旅立ち」

Report#38「旅立ち」 作:ランペル

ピー
「ターン順は早乙女様、アリス様、成瀬様、有栖川様の順になります。
バトルロイヤルモードのルールにより、ドローフェイズ及びバトルフェイズが行えるようになるのは、最後に順番が回る有栖川様からになります。」


 [ターン1]


「(バトルロイヤル…こんなモードでデュエルしたことはない。
ドローと攻撃はもう一人の私から…。なら、私がしておくことは…)」

順番にターンが回る内、最後のターンプレイヤーまでの3人はドローと攻撃が行えない。初めて臨むモードのルールを把握しつつ、アリスがもう一人の自分にへとつなげる為の手を考えるべく自身の手札を確認する。
その間に、立ちふさがる黒髪の男性、早乙女が自身のターンを開始する。

「僕の先行だよね。
魔女さんにタッグの強みを教えてあげる。
《星の金貨》発動。僕の手札2枚を相手の手札に加えて2枚ドローする」
手札:5枚→4枚

「手札2枚を相手の手札に…?」

「バトルロイヤルでは、相手となるプレイヤー1人を選択する」

「なっ…まさか」

「そのまさかだよ。
僕は手札2枚を晶(あきら)へと渡し、2枚のカードをドローする!」
手札:4枚→2枚→4枚
成瀬手札:5枚→7枚

早乙女が手札2枚をくしゃりと握り込むとそれは2枚の金貨へと変わり、それを金髪の相方、成瀬へと放る。受け取った金貨はすぐさま手札にへと変化し、手中へと収まった。

「なるほどっすね…」

送り付けられた手札を確認する成瀬を横目に早乙女はデッキから2枚のカードをドローする。

「(味方の手札を増やしながらの手札交換…)」

「続けて《信用取引》発動。対象プレイヤーは晶!」

「マージン…トレード…?」

聞いたことのないカード名に首を傾げるアリス。

「互いのプレイヤーは相手のデッキを確認し、その中から1枚をデッキの持ち主の手札へと加える事が出来る」

「相手のデッキを確認して、それを手札に…?」

デッキのカードから特定のカードを手札に加えられるカード。そう聞くと強いカードだが、あくまで手札に加わるカードの選択権は相手に委ねられる。普通は、相手に有利となるようなカードは選択せず、手札に加わるのはその状況での必要性の薄いカードになるだろう。
しかし、その相手と協力して強いカードを選択するとなれば別だ。それは、デッキから好きなカードをサーチできる万能カードとなり得る。

二人組は互いにアイコンタクトを取り、デュエルディスクをタップする。

「今の状況ならこれっすね。みっくんの手札へ《命削りの宝札》を!」
早乙女手札:3枚→4枚

「晶の手札へ《無限抱影》を加えさせる!」
成瀬手札:7枚→8枚

それぞれのデッキから選択されたであろうカードが飛び出す。
その様を見て、内側からもう一人のアリスが外へと解き放たれる。

「徹底してやがんなぁ!!?随分と慣れた連携じゃないか!?
そうやって、連携して相手を殺そうって算段な訳だ!あぁぁ…なんともまぁむき出しな殺意だこってで!!!」
「でも、あんな戦法を使われるのはまずいわね…。金髪の子の手札がすごい勢いで増えてる…」

早乙女の発動した2枚のカード。それだけで、成瀬の手札は一気に3枚も増えている。

「何もさせはしないよ。
フィールド魔法《天空の聖域》発動」
手札:4枚→3枚

早乙女の背後へ遺跡の様な白い神殿が現れる。それと同時に眩い光が辺りを包み込む。

「《豊穣のアルテミス》を召喚」[攻1600]
手札:3枚→2枚

上空から光が漏れ込み、紫のマントを靡かせ下半身が円錐状の天使がフィールドへと降り立つ。地面へと尖った部分が触れると、その地面へと緑が芽吹く。

「このカードが存在する限り、カウンター罠カードを自分か相手が発動する度に僕はデッキから1枚ドローが出来る」

「カウンター罠…!?」

フィールドへと降り立ったモンスターが内包する効果はカウンター罠に関する物。
つまり、彼のデッキは…。

「あぁぁぁ!!それで《星の金貨》か!?カウンター罠なら、送り付けても活用がしやすいもんなぁ!?てことはなぁ、それだけ本気ってことだ。練って来たんだろ?あたし達を殺す計画を。練りに練った残虐な術をなぁ!!!?
何もさせずにいたぶり殺そうって魂胆だ!」

もう一人のアリスが自分の口を借りて相手の狙いを公言する。

「そういうことだね。いくら魔女さんと言えども、カウンター罠の手数の前には何も出来ないはずだよ。カードを1枚セット」
手札:2枚→1枚

「(まずいわね…残された手札はさっき《信用取引》で手札に加わった…)」

「《命削りの宝札》発動。僕の手札が3枚になるようにデッキからカードをドローして、このターンのエンドに僕の手札全てを墓地へ送る」
手札:1枚→3枚

残り1枚となっていた早乙女がデッキから一気に3枚ものカードを手札へと引き込む。

「カードを追加で1枚セットして、《プレゼント交換》発動。対象プレイヤーは晶だ」
手札:3枚→1枚

再び発動された相方を対象とするカード。先ほど同様、協力しているが故に活用できる効果を持っているのだろう。

「僕と晶は互いに自分のデッキのカード1枚を裏側で除外する。そして、そのカードをエンドフェイズにそれぞれ相手の手札へと加える」

「文字通り《プレゼント交換》って訳ね…」

再びアイコンタクトを交わした二人は、デュエルディスクを操作するとデッキから1枚のカードが飛び出す。カードを引き抜き二人が掲げると、それは黄色と黒のリボンで包装されたプレゼントボックスへと収められ異次元へ吸い込まれて消える。

「僕はこのままエンドフェイズに移行。
まずは、《命削りの宝札》の効果処理を行い手札全てを捨てる」
手札:1枚→0枚

早乙女が手札を墓地へと送り込むと同時に、二人組の上空から先ほど消えたプレゼントボックスが入れ替わって落ちてくる。

「《プレゼント交換》の効果処理で、僕と晶はそれぞれ裏側除外していたプレゼントを受け取る」
手札:0枚→1枚

「うっす…!」
成瀬手札:8枚→9枚

降って来たプレゼントボックスがはじけて中に入っていたカードがそれぞれの手札にへと届けられた。

「(伏せの2枚はまず間違いなくカウンター罠…。それに加えてサーチされていたカードの中には妨害カードも間違いなくあるはず…。
何とかこの子に繋げる動きをしないと…)」

かなりの妨害が予測される次のアリスのターン。発動する順番も考え、改めて己の右手に持つカードを見遣る。

「僕はこれでターンエンドだよ」



早乙女-LP:4000
手札:1枚


 [ターン2]


「おい、あたしの手札邪魔だろ。こっちのデュエルディスクにはカード立てがついてる」

自分の口を借りてもう一人の自分が左手に持つ5枚のカードの預け先を伝えてくる。

「あ、ホントね…じゃぁここにセットしとけば…大丈夫ね。
(なんか、あたしが使ってるのより豪華じゃない…?)」

左手に持っていた5枚のカードを右腕に装着されたデュエルディスクに備えられたカード立てへと固定する。しっかりと固定されているようで、腕を振るっても落ちるような気配はない。
一度、呼吸を整え自分の手札、そして対戦相手の二人を見遣り自身のターンを宣言する。

「私のターン。
まずは1枚使わせるわよ!《ハーピィの羽根帚》発動!相手の魔法、罠をすべて破壊する。対象は黒髪のあなたよ!」
手札:5枚→4枚

「カウンター罠《魔宮の賄賂》。魔法、罠の発動を無効にし破壊して、相手に1枚ドローさせる」

羽根帚の発動が無効にされると同時に、アリスの目の前へ上空から一枚の小判が落ちてくる。

「こっちに落ちてきてるんだから、このドローは私がしてもいいわよね」

「効果の処理は一連だよ。ドローするのは、無効にされたプレイヤー」

「なら遠慮なく、ドロー!」
手札:4枚→5枚

「僕も《豊穣のアルテミス》の効果が適用され、1枚ドローする」
早乙女手札:1枚→2枚

ドローしたカードを確認し、次へと繋げる動きが脳内で導かれる。

「私は《宣告者の神巫》を召喚」[攻500]

フィールドへとフードを被り三つ編みを左右で分けた少女が現れ、その背後で7色に光り輝く翼を広げた。

「ディヴァイナーの召喚、特殊召喚成功時に、デッキかEXデッキから天使族モンスターを墓地に送って、このカードのレベルを墓地へ送ったモンスターのレベル分アップさせるわ!」

「させないっすよ!自分フィールドにカードがない時手札から罠発動《無限抱影》。
《宣告者の神巫》を対象にその効果をターン終了時まで無効にするっす」
手札:9枚→8枚

「くっ…今度はそっちから妨害ね…。
なら、儀式魔法《宣告者の予言》発動するわ!」
手札:4枚→3枚

フィールドへと魔法陣が浮かび上がるが、そこへ上空から雷が降り注ぐ。

「…!?」

「カウンター罠《神罰》発動。《天空の聖域》が存在する時、相手の発動した効果の発動を無効にして破壊する」

浮かび上がった円陣が雷によって消滅させられた。

「《豊穣のアルテミス》の効果で1枚ドロー」
手札:2枚→3枚

「でも、これでフィールドのカウンター罠はなくなったわよね?
《儀式の下準備》発動!デッキから儀式魔法とそれに記された儀式モンスターの1セット計2枚を手札にへと加える」
手札:3枚→2枚

「《灰流うらら》を手札から捨てて、デッキからカードを手札に加える効果を含んだ《儀式の下準備》の発動を無効にさせてもらうよ」
早乙女手札:3枚→2枚

「ぐっ…まだそんなカードを手札に…。
アルテミスでドローしたってこと…」

「これは晶から貰ったプレゼントだね。有効活用させてもらったよ」

早乙女が成瀬の方を向くと、金髪の少女がぶんぶんと首を縦に振る。

「(《プレゼント交換》で手札誘発のカードを…。
この子へのターンの為に…何も出来なかった…)」

手札に残されたのは、儀式召喚するモンスターとその生贄となるはずだったモンスター《神光の宣告者》《サイバー・エンジェル-弁天-》のみとなってしまった。

「ごめんなさい…。結局何もさせてもらえなかったわ…」
「バカか?お前は手札4枚すべてに妨害を吐かせた。それだけで十分なんだよ!
どっちみち、あっちの金髪は攻撃が出来ない。攻撃できるのはあたしのターンからみたいだからなぁ!?」

もう一人のアリスが、成瀬を睨みつけ威嚇する。

「うっ…そんなに睨まれても…怖くないっすよ!!」

「怖くないって発言は、内に抱く恐怖心を隠そうとしている証拠なんだよ!?あたしは怖いよ。人殺しのお前らが怖くて怖くて仕方がない!だから、あたし達を殺そうとするお前らは絶対に殺してやる。人を殺そうとするような連中は殺されるべきだろ!?
そうすりゃ、誰もお前らの毒牙にかからなくて済むからなぁ!?あたし達にデュエルを挑んだ以上、生き残れると思うなよなぁぁあああああああ!?」

もう一人のアリスが成瀬を糾弾する。発する絶叫は喉を震わせ、人格の切り替えが行われると喉には痛みとかすれが残される。

「げほっ…げほっ…分かったから…あんまり叫ばないでよ…」
「前よりは感情表に出すの収まってる!殺す気で行かないと殺されちまうだろうがっ!?」



アリス-LP:4000
手札:2枚


 [ターン3]


一人二役の魔女の対話を見ていた成瀬は、しびれを切らしたように自分のターンを開始した。

「も、もうやることないっすよね!?なら私のターンっす。
私もみっくんを対象に《信用取引》発動っす!」
手札:8枚→7枚

「ちっ…またそのカードか…仲良しこよしに同じカード積み込みやがってよぉぉぉおおお!!?」

「持ってないならこれでいいね。晶の手札へ《おろかな埋葬》を!」
成瀬手札:7枚→8枚

「みっくんの手札へカウンター罠《レッド・リブート》を!」
早乙女手札:2枚→3枚

相方が選択したカードがそれぞれ自身のデッキから飛び出し、それを手札にへと加える。成瀬は手札に加えたそれとは別のカードを手札からデュエルディスクへと召喚する。

「行くっすよ《不知火の隠者》召喚っす!」[攻500]
手札:8枚→7枚

兜巾を被った修験者のような人間がフィールドへと降り立つ。

「隠者の効果でアンデット族である自身をリリースする事で、デッキから守備力0のアンデット族チューナー《ユニゾンビ》を特殊召喚するっす!」[守0]

錫杖を振るい隠者がフィールドから消えると、成瀬の背後から二人組のゾンビが二人三脚でフィールドへと走り込んでくる。

「続けて《おろかな埋葬》発動!
デッキから《屍界のバンシー》を墓地へと送り、《屍界のバンシー》は墓地から除外する事で、フィールド魔法《アンデットワールド》を発動する事が出来るっす!」
手札:7枚→6枚

成瀬はデッキから飛び出したカードを引き抜くと、デュエルディスクの上へと発動する。発動されると共に、成瀬を起点にフィールドへ暗がりが染み込み地面の一部から血の池が現れた。そして、仄かに漂う何かが腐ったような臭いがアリスの元まで到達する。

「うっ…(フィールド魔法を発動しただけで…肉が腐ったような…)」

突如訪れる腐敗臭に咄嗟に鼻を塞ぐ。

「《アンデットワールド》がある限り、全員のフィールドと墓地のモンスターの種族はアンデット族になって、アンデット族以外のアドバンス召喚が行えなくなるっす!」

フィールドへ目を向けると、《宣告者の神巫》の翼が色を失い欠け始めると共に体表が変色し始める。

「《ユニゾンビ》の効果発動っす。手札1枚をコストにこのカードのレベルを1つ上げるっすよ!」
手札;6枚→5枚
《ユニゾンビ》:☆3→4

二人組のゾンビの内、緑色のゾンビが音痴な歌声を披露する。それをフォローするかのように太ったゾンビも歌声を重ねる。

「墓地へ送られた《グローアップ・ブルーム》の効果発動!墓地へ送られたこのカードを除外する事で、レベル5以上のアンデット族を手札に加える事が出来るっす。
ただし、《アンデットワールド》が存在する場合には、代わりに特殊召喚が行えるっす…。

死者を従え現れるっす、レベル8《死霊王ドーハスーラ》!」[守2000]

地面から大量の頭蓋骨を模した霊魂がフィールド中を駆け巡ると、巨大な蛇の様な体を蠢かす異形の化け物がフィールドへと這い出てきた。胸部には獣の頭部と思わしき骸骨が見え、両腕の生え際にも頭蓋骨が埋め込まれており、右腕に持った杖を振るった。

「《ユニゾンビ》の第二の効果を発動するっすよ。ドーハスーラを対象にデッキからアンデット族を墓地に送ってレベルを1つ上昇。
さらに、この瞬間ドーハスーラの効果もチェーン発動するっす!」

2人組のゾンビが歌声を奏でると同時に、死霊の王が悍ましいうめき声をあげる。

「何を…」

「ドーハスーラ以外のアンデット族の効果が発動した時、その効果を無効にするか、フィールドか墓地のモンスター1体を除外する効果のどちらかを使えるっす。
私は除外効果を選択して《宣告者の神巫》を除外させてもらうっすよ」

ドーハスーラの頭部と思わしき頭蓋が《宣告者の神巫》を見遣ったかと思えば、体をうねらせその尾にいる蛇が《宣告者の神巫》を飲み込んでしまう。

「(《アンデットワールド》で全てのモンスターがアンデット族に変えられている…。こちら側のモンスター効果に反応して除外や無効化も出来るって訳ね…)」

「《ユニゾンビ》の効果処理で、デッキから《牛頭鬼》を墓地にへと送って《死霊王ドーハスーラ》のレベルを1つ上げるっす」
《死霊王ドーハスーラ》:☆8→☆9

「次々と墓地にモンスターが…」

「墓地肥やしはアンデット族の十八番だ。僕との連携で晶の安定感は随一だよ」

次から次へと墓地へとモンスターを送り込む効果を連続的に発動していく成瀬。その展開はさらに続きフィールドに大型モンスターが並ぶことになる。

「墓地へと送られた《牛頭鬼》の効果でアンデット族《不知火の隠者》を墓地から除外する事で、手札からアンデット族の特殊召喚が行える。
手札から2体目の《牛頭鬼》を特殊召喚っす!」[守800]
手札:5枚→4枚

牛の頭を持った人型のモンスターがフィールドへと降り立つ。

「《牛頭鬼》もメインフェイズに1度デッキからアンデット族を墓地へ送る事が出来るっすよ。デッキから《馬頭鬼》を墓地へ」

《牛頭鬼》が手に持つ巨大な木槌を地面へと叩きつける。それに合わせて成瀬のデッキから1枚のカードが飛び出し、それを墓地にへと送った。

「レベル4の《牛頭鬼》にレベル4となった《ユニゾンビ》をチューニングっす!
シンクロ召喚!

現われるっす、レベル8《巨骸竜フェルグラント》!」[守2800]

フィールドへと紫色の瘴気が立ち込めたかと思うと、金色の鱗を淀ませながらのそりと巨大なドラゴンの骸が蠢き赤い目を光らせる。

「2体目の大型モンスター…」

「私はカードを3枚セットして、ターンエンドするっす!」
手札:4枚→1枚



成瀬-LP:4000
手札:1枚


 [ターン4]


「やっと…あたしのターンだな!?」

もう一人の自分がアリスの体の主導権を得る。
先程右腕のデュエルディスクへとセットしていた手札5枚を手中に収め、アリスのターンで残った手札2枚と入れ替わる。

「このターンからドローも攻撃も出来るって話だったよなぁ!?
あたしのターン、ドロー」
手札:5枚→6枚

「ここでカウンター罠《強烈なはたき落とし》を発動っす!相手が手札に加えたカード1枚をそのまま捨てさせるっすよ」

「あぁ!?そうやってあたしの戦略の手数を減らそうってか?ふざけやがって…」
手札:6枚→5枚

「カウンター罠が発動されたことで《豊穣のアルテミス》の効果が適用され、1枚ドローさせてもらうよ」
早乙女手札:2枚→3枚

カウンター罠の発動に連動して早乙女がデッキトップからカードを引く。

「あぁ…さっきカード渡してたなぁ?それか。
今度はこれだメイン1開始時に《強欲で金満な壺》を発動する!EXデッキからランダムに6枚を除外し、2枚をドローさせてもらう!」
手札:5枚→4枚

「それもダメっす!手札の《灰流うらら》を捨ててデッキからカードを手札に加える効果を含むカード効果を無効にするっすよ」
成瀬手札:1枚→0枚

「またそのカードを!?」

先程自分ターンで発動を封じられたように、もう一人の自分のターンもことごとくカードの発動を無効にされてしまっている。
再び主導権がもう一人の自分へと切り替わる。
このままでは負けてしまうかもしれない…。しかし、もう一人の自分から流れ込んでくる感情は……。

安堵の感情だった。

「そう来るよなぁ!?二人そろって妨害大好きだもんなぁ!?
だがお陰様でこのカードが使える。まだ援助されたカウンター罠残ってんのか!?
自分ターン中に相手がモンスター効果を発動している事で《三戦の号》を発動する。相手フィールドにモンスターがいることにより、デッキから魔法か罠1枚を手札に加える!!」
手札:4枚→3枚

「うっ…」

「おいおい、なにもなしか?カウンター罠使わなくてもいいのか?
それとも貰ったカウンター罠は使い切ったかぁ?」

「発動は…ないっす…」

「はぁー!じゃぁそっちの野郎はどうなんだ!?大事な大事な彼女さんを助けてあげようとかそう言う気持ちはない訳か!?」

まくし立て挑発する。それに釣られてか、早乙女は自分の手札を確認し苦い顔をする。
それを見たであろうもう一人の自分の口角が緩まっているのが分かった。

「効果処理だ!デッキから《ハーピィの羽根帚》を手札に加えて、即座に発動!
魔法罠を全て破壊するのは金髪の女の方だ!」
手札:3枚→3枚

羽根帚が発動され、伏せ2枚を残す成瀬は焦りながら相方の早乙女へと指示を仰ぐ。

「…みっくん!」

「大丈夫、晶。使って」

「罠発動《プレゼントカード》!手札を全て捨てさせて5枚ドローさせるっす。
さらにチェーンして《威迫鉱石-サモナイト》を《牛頭鬼》《ユニゾンビ》《馬頭鬼》の3体を対象に発動。どちらも対象はみっくんっす」

伏せられていた2枚のカードが発動される。
どちらも相方である早乙女を対象に発動されていることから、連携前提のカードだろう。

「サモナイトの効果で、私は《馬頭鬼》を選んでみっくんは、私が選んだモンスターを私のフィールドに蘇生させるか、それ以外の対象にした2体を蘇生させるかが選べるっす」

「当然、僕が選ぶのは他2体を蘇生させる効果だ。これで、晶の墓地から《牛頭鬼》《ユニゾンビ》が特殊召喚される!」

「2体のモンスターを守備表示で特殊召喚っす!」[守800][守0]

フィールドへ再び牛の頭を持ったモンスターと、肩を組んだ二人組のゾンビが現れた。

「そして、《プレゼントカード》の効果処理だ。
僕は手札を全て捨てて5枚のカードをドローさせてもらうよ!」
早乙女手札:3枚→5枚

早乙女の手札が一気に5枚に増える。

「随分と仲良しこよしな事で!一気に5枚も手札に加えて妨害の準備は万端ってか!?
パーミッションのお前も誘発積んでんのか!?止めれるんなら止めて見ろよ!なぁぁあああ!!?
《儀式の準備》発動!デッキからレベル7以下の儀式モンスターを手札に加える!」
「(うららを引いているなら絶好の使いどころのはず…。ここで発動が来なければ…)」

心の中で相手のドローしたカードの中に手札誘発のカードがない事を願う…。
早乙女は手札のカードを使う素振りを見せなかった。

「(よし…!)」
「デッキからレベル7《魔神儀-カリスライム》を手札に加え、さらに墓地から儀式魔法《凶導の福音》も手札に加えさせてもらう」
手札:3枚→4枚

「な…墓地に儀式魔法が…?
まさか《強烈なはたき落とし》で落としたのが…」

発動したカードの妨害が回収されたことで、結果的に無意味になってしまったことに成瀬は体を震わせる。

「晶…心配しないでいい。大丈夫だから…

「大丈夫な訳ないだろうが!?お前らはこれから死ぬんだ。無責任な事言うんじゃねぇ。巻き返す手があってあたしらを欺く演技をしてるならお前は真正の屑だ。
だが、何もなく身勝手に安心させようとしているならお前は最低のたらし野郎だ。
そこの金髪女もうまい事丸め込んだんだろ?じゃないと、乗り気じゃなさそうなその女がこんなことに手を貸すはずないもんなぁ!?あぁ…可哀そうにね。遊ばれた挙句にここで殺されちゃうんだからさぁ!!!」

アリスの口からアリス自身では思いつきもしない殺意と挑発が混ざり合った言の葉が飛び出す。

「なんすか…それ…。みっくんの悪口言ってるんすか…?」

成瀬は体を震わせ、怒りを露わにして声を荒げる。

「あなたなんかに…みっくんの何が分かるんすか!?」

「知る訳ねぇだろうが!!?人殺しの事情に配慮しろってか!?
バカな奴連れてるからお前らは死ぬんだ。物事の分別がつきもしねぇ…。お前らはこのターンで死ぬ。必ずあたしが殺すんだよ…」

「うぐっ…」

「………」

言葉を詰まらせた成瀬は早乙女の方へ助けを求めるかのように視線を向けるが、早乙女は押し黙り、アリスを睨みつける。

「あぁ…?あぁぁぁ…!?なんだよその目は!?人殺しはお前らだろうが!
《魔神儀-ペンシルベル》の効果発動。手札の儀式《魔神儀-カリスライム》をお前に見せて、このカードとデッキの《魔神儀-タリスマンドラ》を特殊召喚する!」[守0][守0]

羽根とペン先それぞれに顔の点いたモンスターがフィールドにふわりと舞い降り、首からお守りを提げたマンドラゴラがフィールドに踊りながらやって来る。

「デッキから特殊召喚されたタリスマンドラの効果により、デッキから儀式モンスター《ロード・オブ・ザ・レッド》を手札に加えるよ」
手札:3枚→4枚

タリスマンドラの提げていたお守りが突如として奇声を発する。その奇声に耐えられずマンドラゴラが耳を塞ぎ、それに合わせてデッキから1枚のカードが飛び出す。

「ペンシルベルをリリース。《チョウジュ・ゴッド》をアドバンス召喚!」[攻1400]
手札:4枚→3枚

アリスの背後に後光が差し込み、その差し込まれた光の先へとおびただしい数の手の生えた大仏の様なモンスターが鎮座する。

「《チョウジュ・ゴッド》がフィールドへと呼び出された時、デッキから儀式モンスター《凶導の白き天底》と儀式魔法《魔神儀の祝誕》の2枚を手札にへと加えさせてもらう」
手札:3枚→5枚

無数の蠢く手の一つが2枚のカードを持ちながらアリスの元まで手を伸ばす。
それをひったくると、手にしたカードの内1枚を即座に発動した。

「儀式魔法《魔神儀の祝誕》発動。魔神儀を生贄に儀式モンスターを儀式召喚する。
レベル6の《魔神儀-タリスマンドラ》に手札のレベル7《魔神儀-カリスライム》を生贄に降臨しろ。
儀式召喚。

来な、《ロード・オブ・ザ・レッド》!」[攻2400]
手札:5枚→2枚

フィールドに浮かび上がった円陣へと生贄となったモンスターが炎となり捧げられる。8つの炎を宿した円陣から、青い鎧に身を包んだドラゴンの戦士が顕現した。

「さらに発動!儀式魔法《凶導の福音》。
ここでカード効果の発動にチェーンして《ロード・オブ・ザ・レッド》の効果も発動する。フィールドの魔法、罠カード。黒髪のフィールドの《天空の聖域》を破壊させてもらう」
手札:2枚→1枚

《ロード・オブ・ザ・レッド》が己の右手に炎を宿し、それを早乙女の背後に向けて振るう。右手に集まっていた炎が火球となり、彼の背後の聖域を焼き尽くす。

「く……」

「そして《凶導の福音》の処理だ…。ドラグマ儀式モンスターと同レベルになる様に手札かフィールドのモンスターを生贄に捧げる。ただし、このカードは代わりにEXデッキからモンスター1体を墓地へと送る事でも生贄を満たす事が出来る!」

「EXデッキから生贄を確保だと…!?」

もう一人のアリスに残された手札が2枚だったことから、フィールドのモンスターを素材に使って呼び出されると思い込んでいた早乙女は驚きの声を上げる。

「あたしはEXデッキからレベル12《F・G・D》を生贄に捧げ…。
儀式召喚!

来な、《凶導の白き天底》!」[攻4000]
手札:1枚→0枚

浮かび上がった円陣から悍ましいうめき声がフィールドを震わせる。

「なん…だ…?」

「なんの声っすか…」

フィールドにまず現れたのは目のない白い頭部。紫の舌を覗かせた不気味な口だけが開かれた人型の異形。その腰辺りからは羽根の様な巨大な何かが広げられ、人型の胸部は背後から槍が貫かれている。
そのあまりに恐ろしく不気味な姿は生命として自然な嫌悪感を誘発する。

「ひっ…ば、ばけもの……」

「晶…落ち着いて…」

巨大なこの世ならざる姿の存在を目の当たりにした成瀬は、自然と後退る。

「こんなモンスター…持っていたの…?」
「とっておきってやつだ!必ず殺してやらねぇといけねぇからなぁぁ!!?」

自分とは違う儀式モンスターを扱うのは知っていたが、あまりにも理から外れた姿をしており、味方の遣うモンスターとは言え身の毛がよだつ。

「アルバ・ゾアはドラグマモンスターへ相手の発動した融合、シンクロ、エクシーズ、リンクモンスターの効果を受けない耐性を付与する」

「けど…僕たちのモンスターにEXデッキから特殊召喚されたモンスターは居ない…。その耐性も今は意味を成していないはずだ…」

「人の話は最後まで聞くってもんだろぉ?
第二の効果を発動。相手は以下の効果から1つを選んで適用する。
1つ、自身のEXデッキのカード2枚につき1枚、自身の手札かEXデッキからカードを選んで墓地へ送る。
2つ、自身のフィールドの融合、シンクロ、エクシーズ、リンクモンスターを全て持ち主のEXデッキに戻す」

自身の口から語られる異形のモンスター効果。それは、相手のEXデッキへと干渉する効果だ。しかし…

「EXモンスターはフィールドに居ない…EXデッキ破壊効果か…。だけど、僕も晶もその効果の影響はほとんど受けない。
さぁ、どっちのプレイヤーを選択するんだい?」

「(二人のデッキはメインデッキを活用する物…。どちらかと言えば金髪の子の方がシンクロモンスターがいるし、活用はしそう…かしら…)」

早乙女から迫られる二択。どちらを対象にする方がより効果を有効に使えるかをアリスは考える。
それに対してもう一人の自分が左腕を上にへと掲げた。

「自意識過剰か?お前ら二人なんざ眼中にねぇんだよ。
あたしが対象とするプレイヤーはもう一人のあたしだ!」
「え!?私…!?」

まさか自分が選ばれるとは思っていなかったアリスは困惑するばかりだ。
しかし、発動されたのはEXデッキのカードを墓地へと送れる効果。改めて考えた事でもう一人の自分の狙っていた事が分かった。

「そういうこと…!やるじゃない!」
「こいつのフィールドにモンスターは居ない。当然選択されるのは自身のEXデッキか手札を墓地へ送る効果だ!」

アルバ・ゾアが穴の開いた赤紫色に変色した両手を振るいながら咆哮をあげる。

「私のEXデッキのカードは15枚、よって7枚のカードが墓地へと送られるわ。
私が墓地に送るのはこの7枚!」

アリスは左腕のデュエルディスクのパネルを操作し、墓地へ送る7枚を選択する。それと同時にEXデッキが収められている部分が解放され、そこから7枚のカードが飛び出る。

「《虹光の宣告者》を3体!
《旧神ヌトス》を3体!
《虚光の宣告者》1体の合計7体を墓地へ!」
アリスEXデッキ:15枚→8枚

「なんで…味方のカードを墓地に送るんすか…?」

「無意味にそんなことをするはずがない…きっと墓地へ送ったあの7枚は…」

疑問を浮かべる成瀬に対し、事の重大さを悟ったであろう早乙女は顔を青ざめる。

「この瞬間!墓地へ送られた7枚のカードの効果を発動するわ!
《虹光の宣告者》の効果で、儀式モンスターか儀式魔法のサーチが3回分。
《旧神ヌトス》の効果で、金髪のあなたのフィールドの《死霊王 ドーハスーラ》《巨骸竜フェルグラント》《ユニゾンビ》3体を対象にそれぞれを破壊。
《虚光の宣告者》の効果で墓地の儀式モンスターか儀式魔法を手札に加える事が出来るわ!」

「なな、7枚とも全部の効果を発動するんすか…!?しかも、私のモンスターを破壊って……」

「《虚光の宣告者》の発動にチェーンして《ロード・オブ・ザ・レッド》の効果を発動だぁ!黒髪、お前の《豊穣のアルテミス》を対象に破壊だ…」

「ぐ…」

青い鎧に身を包んだ戦士が、拳を天使に向けて振るう。拳から放たれた火球はフィールドへと鎮座していた天使とその地面へと芽吹いた緑共々焼き尽くした。

「《虚光の宣告者》の効果で墓地の儀式魔法《宣告者の予言》を手札に加えます。
そして、ヌトスの効果であなたのフィールドのモンスター3体を破壊!」
アリス手札:2枚→3枚

天より3つの槍が成瀬のフィールドの3体のモンスターへと降り注ぐ。槍が突き刺さると共に、一切の声を発する事も許さずモンスター達は破壊された。

「最後に《虹光の宣告者》3体の効果で、デッキから《輝神鳥ヴェーヌ》《原初の叫喚》《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の3枚を手札に加えるわよ」
アリス手札:3枚→6枚

アルバ・ゾアのもたらしたEXデッキ破壊により、早乙女と成瀬のフィールドは成瀬のフィールドの《牛頭鬼》を残すのみとなった。

「さぁこれで終わりだ!バトルフェイズ。
気持ちよく二人でカード回しまくって楽しんでたよなぁ!?
おら死 ねよ。《凶導の白き天底》で黒髪にダイレクトアタックだぁぁあああ!!」[攻4000]

「………」

もう一人の自分が宣言した無慈悲な攻撃。それに反応した異形の怪物が悍ましいうめき声をもたらしながら、その体を黒髪の男の元へとゆっくりと近づいていく。

「な、なんでみっくんを……」

「あたしがターンを終われば次はあいつだ。なら、先に殺しとかなきゃだろ!?
人殺しを計画したのはきっとこいつだろうしなぁぁああ!!?」

早乙女は構えていたデュエルディスクごと両腕をだらんとおろす。
悔しそうな顔を垣間見せるが、その表情を金髪の彼女へは悟らせぬように懸命に微笑んだ。

「晶…ごめんね…。僕が無理言って頼んだことなのに…。
一緒に外へ出る約束…叶えられそうにないよ…」

「そんな……。
い、いやっす…!こんなことになるなら…危なくても、外に出なくてもよかったす…。私は…あなたさえ居てくれたら…。
ねぇ、みっくん!!!私を…置いていがないで!!!」

金髪の少女は恥じらう事もせず、泣きじゃくりながら黒髪の彼の元へと駆け寄りながら想いを訴える。
彼女の泣き顔を見た彼は、耐えられず涙を流す。

「あき…らぁ………。
ごめn

彼が言葉を最期まで言い切ることはなく、その頭部は異形に刈り取られた。

「あ…………」

アルバ・ゾアの攻撃はそのまま続き、首より下だけとなった男の体を無慈悲に巨大な両手で叩きつけ、血と肉の塊だけとなったそれを眺め口元を緩ませた。

早乙女LP:4000→0


その光景を前に、金髪の少女もまた口元を緩ませて乾いた笑い声を漏らす。

「あぁ…ははは…みっくん……何、してるんすか?
そんな、とこで、はやく、かえら、ないと……」

金髪の少女は、足をふらつかせながら血肉の元まで辿り着くとそこで膝を落とす。

「みっくん…みっくん…みっくん………」

血だまりのプールから肉片をかき集め、両手ですくいあげる。
一体誰がこの肉片が数秒前まで生きた人間だったと判別が出来るだろうか?
金髪の少女は自身が血だらけになることなど意に介さず、懸命に地面へと散らばった肉片をかき集め続けている。彼の名前を零しながら。

「………」

アリスの頬を涙が伝っていく。

「(分かってたはず…。この子が殺すと言った以上…今までだって惨い死に方で死んでしまった子はいっぱいいたわ…。この子は私を守る為に…。
それに、デュエルで勝たなきゃ…私が殺されていたかもしれない……。
でも……でも……)」

仕方のないこと。そう割り切るしかない。
デュエルを挑まれた、殺されかけた。正当防衛。引き分けなんてものが存在しない以上、相手を倒すしか術はないのだ………。今までだって何度もそうやって自分の感情を抑え込んできたのだ。
今回だって同じこと。

「私には…自分の手を血に染めてでも…守りたいものが出来ちゃったのよ……。
この子のせいじゃないわ…。この子は私を守ろうとしてくれただけなんだから……」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ?壁が増えたせいで、もう一人は殺し切れない。
とどめは任せたから。
《チョウジュ・ゴッド》で《牛頭鬼》を攻撃」

無数の手が牛の頭を持つ獄卒を囲むと、叩き潰し破壊してしまう。
しかし、そのコントローラーはフィールドを見る事もなく、必死に床の血だまりに話しかけている。

「《ロード・オブ・ザ・レッド》で金髪にダイレクト…
「待って」

己の口から発せられるもう一人の自分の声を無理やりかき消す。

「待つ…?何を待つんだよ。今更見逃すとか言ってる訳じゃないよな?」
「ううん、そんなことしないわ…。ここで見逃したとしても、あの子一人だとどうせすぐに……」
「なら…なんだ?あたしの攻撃を止める理由をまだ聞いていない」

覚悟を決め唾を飲み込む。もう一人の自分へ同じ体を共有しながら、己の意思を口にする。

「私にやらせて…」
「あ…?」
「私の自己満足なのは理解してるわ。でも、そのモンスターに攻撃されるあの子は見たくないの…」

青い鎧に身を包んだ戦士《ロード・オブ・ザ・レッド》。その攻撃には炎が伴う。
大切な人を亡くし、気の触れた彼女へ必要以上に傷を負わせるような事はしたくなかった。

「はっ…あいつも火傷したからってことか?まぁ好きにしろよ…。
どっちみちあたしのターンでは殺し切れない。お前がきっちり殺すってんなら、問題ない」
「えぇ…約束するわ」
「なら、あたしは攻撃せずこのままターンエンドだ」



有栖川-LP:4000
手札:0枚


 [ターン5]


「私のターンね…。
ドロー」
手札:6枚→7枚

右手をデッキトップの上へと置き、カードをドローする。

「(約束はしたからな…あたしは疲れた…。
先に休んでる…)」
「(助かったわよ…ありがとう)」

心の内より聞こえる声。再び主導権がもう一人の自分に移ることはなく、心の声で感謝を伝える。しかし、眠ってしまったのか無視したのか彼女の声はそのまま聞こえなくなっていった。

「もとに、戻らない…っすね。なんで、かな?みっくん?」

目の前の血だまりの中央で、ぼそぼそと呟きながら彼女は肉塊を固めて積み重ねているが、それはすぐに崩れ去ってしまう。

「成瀬…さんだったかしらね?
あなたになんて声を掛けたらいいかなんて分からないし、きっと私たちに声を掛ける権利はないわ。
だから、もう終わらせましょう…」

ドローしたカードをデュエルディスクにへと召喚する。

「《サイバー・プチ・エンジェル》召喚。召喚時の効果で、デッキから《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」
手札:7枚→7枚

フィールドへ天使の輪と青い翼を生やした桃色の丸いボールがふわふわと飛んでくる。それは、アリスの目の前まで飛んでくると、ぱっちりと目を開き、翼をぱたぱたと羽ばたかせた。

「儀式魔法《原初の叫喚》発動よ。
レベルが8以上になる様にモンスターを生贄に捧げる…。
手札のレベル6《サイバー・エンジェル-弁天-》と同じくレベル6の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の2体を生贄に
儀式召喚。

レベル8、原初なる神鳥《輝神鳥ヴェーヌ》!」[攻2800]
手札:7枚→4枚

描き出された魔法陣から鳥の鳴き声と共に、翼を輝かせた美しい鳥が薄紫色の羽衣の様なものを揺らしながらフィールドへと生誕した。

「リリースされた韋駄天と弁天の効果を発動。
弁天の効果でデッキから光属性、天使族の《サイバー・プチ・エンジェル》を手札に加えて、
韋駄天の効果で、儀式モンスター全ての攻守を1000アップさせるわね」
手札:4枚→5枚

《輝神鳥ヴェーヌ》[攻3800]

「梨沙ちゃんが居なくて…よかったかもしれないわね……。
バトルフェイズ、《サイバー・プチ・エンジェル》でダイレクトアタック!」[攻300]

プチ・エンジェルがその小柄な体で成瀬の元まで飛んでいき体当たりする。

「あた、なにするんすか、みっ…くん……?」

成瀬LP:4000→3700


攻撃を喰らった彼女がこちらを向いた。目から光を失い頬に血の跡をつけた彼女はフィールドへ鎮座する輝く神鳥の姿を見て口を開く。

「なんか、きれいっすね…神様…?」

「…。
えぇ…きっと、彼と一緒にあなたを天国に連れて行ってくれるわよ」

「ほんとっすか!?
なら絶対みっくんと一緒がいいっす!
一緒に遊んで、美味しいもの食べて、喧嘩とかしちゃう時もあるとは思うっすけど、仲直りして!ずっと一緒に幸せに過ごしたいっすから!」

成瀬は目に光を戻すことなく、既に終わってしまった彼との日常が続くことを頼み込む。

「そうね…そうなる事を私も願ってるわ」

「みっくんと一緒にさえ居られたら…もうなんにもいらないっすから…」

その様を見て、アリスの心に淀んだ何かが入り込んでくるのを感じた。
歯を食いしばり、己の手で神鳥へと目の前の少女の殺 害を命じる。

「(どの面下げて謝ろうとしてるの…?私は…。
魔女って呼ばれてるなら…私は魔女になろう。悪い悪い魔女に…人を殺す事に心を痛める事のない…悪い魔女に…)
バトル、《輝神鳥ヴェーヌ》でダイレクトアタック…」[攻3800]

ヴェーヌが翼を広げると、血だまりの中に浮かぶ少女をスポットライトが当たるかのように暖かく優しい光が照らし始める。

「やったっすねみっくん!
また、また…今度は…一緒に…過ごせそうっすよ?」

優しく語り掛けほんのりと笑顔を零した彼女は、血まみれの肉塊をその胸にへと抱き寄せた。大切な人の温もりをその手に噛み締めながら目を閉じ、差し込む光の温かさを感じている内に、その意識は遥か遠くへと旅立った…。

成瀬LP:3700→0


どこか幸せそうに血だまりの中へと体を倒した少女が、アリスの心に重くのしかかる。

「悪い魔女になれてたら…どれだけ楽だったろうなぁ…」
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