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Report#21「視線恐怖症」 作:ランペル
ピー
「先行は有栖川様、後攻は工藤様になります。」
[ターン1]
「あたしのターン」
ピー
「カスタム《初期手札増強》により有栖川様の初期手札は6枚となります」
手札:6枚
「な、なんだそれ!?」
「ここはあたしのフロアだ。あたしが何しようが自由なんだよ。
手札の《魔神儀-ペンシルベル》効果発動。手札の儀式モンスター《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》を相手に見せる事で、手札の自身とデッキから魔神儀1体を特殊召喚できる。
あたしは《魔神儀-ペンシルベル》とデッキの《魔神儀-タリスマンドラ》を特殊召喚」[守0][守0]
手札:6枚→5枚
羽とペン先部分に顔のついた羽ペンのモンスターと、首からお守りを提げるマンドラゴラのモンスターがフィールドへと降り立つ。
「な、モンスターが…」
工藤がリアルソリッドビジョンの演出に驚くが、女性は構わずディスクの画面からカードを選択する。
「タリスマンドラがデッキからの特殊召喚成功時、デッキから儀式モンスター1体を手札に加える。
あたしは《虚竜魔王アモルファクターP》を手札に加える」
手札:5枚→6枚
マンドラゴラの提げるお守りが突然奇声を発し始める。あまりにうるさいのか、マンドラゴラの方が耳を塞ぎだしている。
「う、うるさい…」
「永続魔法《昇華する魂》を発動して、儀式魔法《魔神儀の祝誕》発動。
レベルが儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように手札、フィールドから魔神儀を生贄に捧げる…レベル3の《魔神儀-ペンシルベル》レベル6の《魔神儀-タリスマンドラ》を生贄に降臨しろ。
儀式召喚。
来な、全てを無と化す魔王《虚竜魔王アモルファクターP》」[攻2950]
手札:6枚→5枚→3枚
円陣が浮かび上がり、そこへリリースされたモンスターのレベル分の炎が浮かび上がり、光と共に灰色のドラゴンがフィールドへと降り立った。
そのドラゴンの足元は溶け出しており、髪を逆巻かせた人型が手を広げて背中から生えているという何とも不気味な姿のモンスターだ。
「アモルファクターPが儀式召喚成功時、次の相手メインフェイズ1をスキップさせてもらう。この効果はチェーンブロックを作らない。無効は無駄だよ」
「な、メイン1をスキップ!?」
「後攻のお前に攻撃させる暇なんか与えない。
永続魔法《昇華する魂》の効果で儀式召喚成功時にその儀式に使用したモンスター1体を手札に加える事が出来る。
あたしは《魔神儀-ペンシルベル》を手札に回収する」
手札:3枚→4枚
灰色のドラゴンから白いもやもやがふわふわと漂い、そのもやもやを女性が掴み取ると1枚のカードとなって手札へと加えられた。
「あたしはこれでターンエンドだ」
有栖川-LP:8000
手札:4枚
[ターン2]
「手札増やしても儀式モンスター1体か…。
攻撃できないなら盤面を固めさせてもらうぞ!
僕のターン、ドロー」
手札:5枚→6枚
「さっき言った通り、アモルファクターPの効果でお前のメインフェイズ1はスキップされる」
灰色のドラゴンが咆哮をあげる。
「なら、バトルに入ってそのままメインフェイズ2だ。
手札の《ジャンク・コンバーター》は手札から自身とチューナーモンスターを捨てる事でデッキからジャンクモンスターをサーチできる。
《スターダスト・シンクロン》と共に捨てる事で、デッキから《ジャンク・シンクロン》を手札に加える。
手札:6枚→5枚
そして、手札に加えた《ジャンク・シンクロン》をそのまま召喚!」[攻1300]
手札:5枚→4枚
フィールドへオレンジ色を基調とした機械チックなモンスターが首に巻いたマフラーを靡かせながらフィールドへと現れる。
「召喚時に墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる。
僕は墓地からレベル2の《ジャンク・コンバーター》を特殊召喚!」[守200]
両腕両足にコンポジット端子を備えた人型のコンバーターのモンスターがフィールドへ降り立つ。
「レベル2の《ジャンク・コンバーター》にレベル3チューナー《ジャンク・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚!
レベル5、《ジャンク・スピーダー》!」[守1000]
《ジャンク・シンクロン》が自らの体に取り付けられたリコイルスターターで勢いよくエンジンをかける。緑の円となり、コンバーターを取り囲み閃光がほとばしる。
すると、フィールドへと銀色の装甲に身を包みこんだ戦士が超スピードで滑り込んでくる。
「《ジャンク・スピーダー》はシンクロ召喚成功時に、デッキからシンクロンを可能な限り特殊召喚できる!」
「ふざけた効果を…だが無意味だな。
《虚竜魔王アモルファクターP》がいる限り、フィールドの表側の融合、シンクロ、エクシーズモンスターの効果は無力化されるんだよ」
「なに!?」
「これで《ジャンク・スピーダー》の展開効果は使えない。
シンクロデッキでシンクロの効果を使えないお前に勝ち目はないんだ」
「なら、《ジャンク・コンバーター》の効果だ!
シンクロ素材に使われたことで、墓地の《スターダスト・シンクロン》を効果を無効にして特殊召喚する!」[守1000]
白と水色を基調とした小さなドラゴンがフィールドへぴょんと跳ねて現れた。
「墓地からモンスターが特殊召喚された時、手札の《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚できる!」
手札:4枚→3枚」
黒装束のモンスターが銃を構える。
「レベル2《ドッペル・ウォリアー》にレベル4チューナー《スターダスト・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚!
レベル6、《瑚之龍》!」[攻2400]
オレンジの体表にサンゴ礁を生成した尾がどこまでも伸びるドラゴンが、地面から水しぶきと共に出現した。
「アモルファクターPの効果でシンクロの効果は無効化されているのに、これ以上何をするつもりなんだ?」
「シンクロの効果は無効にされても、素材に使ったモンスターの効果は使える。
シンクロ素材として墓地へ送られた《ドッペル・ウォリアー》の効果発動!
自分フィールドに《ドッペル・トークン》2体を攻撃表示で特殊召喚」[攻400][攻400]
先程の黒装束のモンスターの幻影が二つに分裂し、小さな銃を持って不敵な笑みを浮かべるトークンとなった。
「《瑚之龍》をリリースし、墓地から《スターダスト・シンクロン》を特殊召喚!」[守1000]
「またそいつ?」
「こいつは自分モンスターをリリースして特殊召喚できる。
スターダストが召喚、特殊召喚成功時に《スターダスト・ドラゴン》の名が記された魔法か罠カードを手札に加える事が出来る。さらに、墓地へと送られた《瑚之龍》の効果で1枚ドローするよ。
アモルファクターPが無効にできるのはフィールドのシンクロモンスターの効果だけ。墓地へ行った《瑚之龍》の効果までは止められない」
手札:3枚→5枚
「ちっ…」
デュエルディスクからカードを引いてる間に、小さなドラゴンがくるりと工藤の上空を一回りすると降り注ぐ星屑が固まり1枚のカードとなって手札へと加えられた。
「(すげぇ…)僕は手札に加えた《光来する奇跡》を発動!
発動時の効果でデッキから《スターダスト・ヴルム》をデッキトップへ持って来る!
手札:5枚→4枚
レベル1《ドッペル・トークン》にレベル4チューナー《スターダスト・シンクロン》を再びチューニング!
シンクロ召喚!
レベル5、《TGハイパー・ライブラリアン》!」[攻2300]
眼鏡を装着した司書のような人型が、内側が赤い白マントをはためかせながらフィールドへと降り立つ。
「この瞬間、《光来する奇跡》の効果が発動!
シンクロモンスターが特殊召喚された時に手札からチューナーモンスターを特殊召喚する。手札からレベル1《ジェット・シンクロン》を特殊召喚だ」[守0]
小さな見た目からは想像できない威力のジェットを噴射し、超スピードで《ジェット・シンクロン》がフィールドへと現れる。
「レベル1《ドッペル・トークン》にレベル1チューナー《ジェット・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚!
シンクロチューナー、《フォーミュラ・シンクロン》!」[守1500]
F1のレーシングカーのようなモンスターがすさまじい速度でフロア内を走り抜ける。
「シンクロチューナー?」
「そう!シンクロチューナーにより、シンクロモンスター同士のシンクロ召喚が可能になる!そして、《光来する奇跡》の更なる効果でシンクロが特殊召喚された時に1枚ドロー」
手札:3枚→4枚
「どれだけ強力なモンスターが出てきたとしても、その力が失われればただの案山子に過ぎないんだよ」
「失われない力が、あったとしたら…?」
工藤がにやりと笑う。
それを見た女性は顔を引きつらせながら、ガリガリと体を掻きむしり始める。
「きめぇ…きもいきもいきもいきもいきもい…。
何楽しそうにデュエルをしてるんだお前!?
そんなにもあたしをいたぶるのが、痛めつけるのが、殺すのが楽しいのかあぁ!?」
「さっきから言ってるけど…僕はあなたを殺す気なんかない。
そもそもデュエルでどうやって殺すんですか?
漫画やアニメじゃあるまいし…」
「だまれ、お前の言う殺す気がないの証明は、お前があたしに殺される以外では成り立たないんだよ。
殺す気がないならさっさと無抵抗に殺されろ!」
「殺しも殺されもする気ないけど…それ以上にデュエルで負ける気はない!
行きますよ!
レベル5《ジャンク・スピーダー》と
レベル5《TGハイパー・ライブラリアン》に
シンクロチューナー、レベル2《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!
リミットオーバー・アクセルシンクロ!
二つの未来を紡げ、《コズミック・クェーサー・ドラゴン》![攻4000]
フロアの不気味な青い照明がかすむほどに神々しい黄金の光がフィールドを包み込む…。
二人が目を開くと、フロアの半分を埋め尽くすほどに巨大な白銀のドラゴンが光を発しながら、工藤の上空に鎮座していた。
「っ…(かっけぇ………)」
キラキラとした瞳で、フィールドへとシンクロ召喚されたコズミック・クェーサーを見遣る工藤。
そんな工藤とは対照的に、神々しい光を避けるように顔を両手で塞ぐ女性は、実に不愉快そうに苦言を呈す。
「あーまぶしい…まぶしいまぶしいまぶしい…そうやって自分が光側に表舞台に居る陽キャなアピールして見せつけてんのか!?
満たされた存在だって、あたしが満たされてない憐れなゴミだって?
何から何まで全部全部そうやってあたしを見下しやがって…」
「どうしてそんなに捻くれてるんだい…。こんなにかっこいいドラゴンが演出だとしてもこれだけ迫力あるんだよ。僕は今すごい満足してるよ。
あなたの事は余計怒らせちゃいそうだけどね…」
工藤は隠しきれない喜びを何とか表情まで及ばないように踏ん張りながら、女性へ思いを伝える。
「くそくそくそくそくそ、自分の世界に浸ってんじゃねぇよ。
それに付き合わされるこっちの身にもなれ、自惚れクソ野郎。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ぐちぐちと呟いていただけだった女性は、喉が裂けんとばかりに叫び散らし、髪の毛を千切り抜き、頭を振り回しながら発狂している。
「…(この人とはどうしても相容れないんだろうな…。
せっかく、こんな舞台でデュエル出来るなら一緒に楽しめる人とが良かったな…)」
少しだけため息を漏らし、コズミック・クェーサーの効果発動を宣言する。
「《コズミック・クェーサー・ドラゴン》の効果発動。
1ターンに1度、シンクロ素材に使ったモンスター数+1まで表側カードを対象にしてその効果を無効化する。
僕は、あなたの《昇華する魂》と《虚竜魔王アモルファクターP》を対象にしますよ」
「ああああああああああああああああぁぁぁ!?
何度同じことを説明したらいいんだ…。あれか?あたしをバカにしてるってことか?
虚竜魔王アモルファ…
「アモルファクターPの効果でシンクロモンスターの効果は無効化される。
それは聞いたよ」
「なら、何故効果の発動を…」
「言ったはずだよ。失われない力があったとしたらって。
《コズミック・クェーサー・ドラゴン》のこの効果の発動と効果は無効化されないんだ!」
「無効化…されない…!?」
「つまり、アモルファクターPが存在する状況でもこの効果は有効。
2枚のカードを無効にする!」
コズミック・クェーサーが白銀の翼を大きく広げ羽ばたくと、煌めく星屑が灰色のドラゴンへ纏いつき、灰色のドラゴンは黄金に輝き始める。
「これで、シンクロの効果が無効化される効果は失われた。まだまだ行くよ!
魔法カード《調律》発動。デッキトップを墓地へ送り、デッキからシンクロンモンスター1体を手札に加える。
僕は《アサルト・シンクロン》を手札に加える」
手札:4枚→4枚
デッキトップからハリネズミのモンスターが墓地へと送られ、デュエルディスクの画面で選択したモンスターがデッキから1枚飛び出てくる。
「さらに、《スターダスト・イルミネイト》を発動。
デッキから《スターダスト・トレイル》を墓地へ送り、《アサルト・シンクロン》の効果も発動だ。
このカードを手札から特殊召喚しその後、僕は700ダメージを受ける」[守0]
手札:3枚→2枚
デュエルディスクへ《アサルト・シンクロン》を置いた瞬間…
後頭部へ殴られたような鈍い痛みが走り、前方へと倒れ込む。
「いっ!?てぇええええええ!?」
工藤LP8000→7200
咄嗟に痛みが走った部分を手で押さえると、激しい痛みと生暖かい感触があった。
「は、あ、え?なんだよ…いきなり…」
後頭部を触った手のひらを目の前へ持って来ると、コズミック・クェーサーの神々しい光の影響で、それが赤い血液だという事が問題なく理解できた。
「なん…で、血が…?」
「だまれだまれだまれ、自分も苦しんだ振りして、最終的にはあたしの事しか苦しめないんだろ。お前みたいなやつの臭い演出も演技も全部嘘っぱち、人をたぶらかす様にしか脳みそが出来ないんだろ!?
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「いっ…頭に響く…マジで何があって…」
目線を上にあげると、自分が召喚した真っ黒な機体のモンスターが宙に浮かんでいた。そして、よく見るとその機体の先端部分には赤い血痕が付いているのが見えた。
「なに…?え、《アサルト・シンクロン》が頭にぶつかって来た?
いや、演出でなんでぶつかって…??」
鈍い痛みが続く頭で今何が起こっているのかを理解しようとするが、狂乱している女性の絶叫と、痛みで何も思考が回らない。
「ころすころすころすころすころすころす。
こわいこわいこわいこわいこわい…。
大丈夫、しっかりカスタムで殺せるように設定してる。
《加虐ダメージ増量》で、お前への現実ダメージだけ30%上昇させてある。
殺せる殺せるころせる。大丈夫だいじょうぶだいじょうぶううぅぅぅああああああああああああああああああ」
唇を震わせ歯をカチカチ音がするほど、嚙み合わせながらうわ言と奇声、絶叫を織り交ぜながら、殺しの準備が整っている事を確認している。
後頭部に残り続ける鈍い痛みは、女性の言う世迷い事が少しだけ現実味を帯びてくる。
「訳分からない事を言わないでくれ…。
僕はデュエルしろって言われただけなんだ…」
痛みはあるが、出血が続いている訳でもないようだ。
デュエルが続行できない訳ではない。
立ち上がり、手についた血液をポケットのハンカチで拭う。
「自分フィールドにチューナーモンスターがいる事で…墓地の《ボルト・ヘッジホッグ》は特殊召喚できる…」[守800]
フィールドへ、ボルトが背中へ無数に刺さったオレンジ色のハリネズミが飛び出してきた。
「《死者蘇生》を発動だ。
墓地の《スターダスト・トレイル》を蘇生させる」[守2000]
手札:2枚→1枚
光が照らされた場所へ星屑と共に、赤髪で赤い尻尾を生やした天使が舞い降りた。
「レベル4の《スターダスト・トレイル》、レベル2の《ボルト・ヘッジホッグ》にレベル2チューナー《アサルト・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚…。
飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」[攻2500]
白銀の竜が星屑を辺りに散らしながら現れ、甲高い咆哮をあげる。
「シンクロ素材に使用した《スターダスト・トレイル》の効果で、スターダストモンスターのシンクロ素材に使われたことで《スターダスト・トークン》を特殊召喚できる」[守0]
星屑が集まり金平糖の様な小さなモンスターがポンッと生まれた。
「手札1枚をコストに…墓地の《ジェット・シンクロン》は特殊召喚できる。[守0]
レベル1の《スターダスト・トークン》に、レベル1チューナー《ジェット・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚。
シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》」[守1500]
手札:1枚→0枚
先程と同様《フォーミュラ・シンクロン》がフロア内を走りまわる。
「シンクロ召喚成功時に1枚ドローさせてもらう」
手札:0枚→1枚
《フォーミュラ・シンクロン》がアクセルを吹かし、目の前を猛スピードで通り過ぎた。その際に巻き起こった突風でデッキトップが1枚吹き飛び、工藤の手元へと落ちてくる。
「仕上げだね…。
レベル8《スターダスト・ドラゴン》に
シンクロチューナー、レベル2《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!
アクセルシンクロォ!
現れろ《スターダスト・ウォリアー》!」[攻3000]
白銀の竜を思わせる装飾が施された巨大な戦士は、煌めく星屑を辺りに降らせながら、拳を握り込んだ。
「僕はこれでターンエンドするよ…」
工藤-LP:7200
手札:1枚
[ターン3]
「あーーーあーーー高い攻撃力、痛いのは嫌だなぁ。
その攻撃力は殺意の表れ、ほら、やっぱりお前も殺しに来てたんだろ?
今更何も知らないとか言うなよ。知らない訳がない。ここにデュエルをしにきといて知らない訳がない。そんなことある訳ない。あたしは知らない」
焦点の定まらない目であちこちの虚空を見つめながら、女性はうわ言を繰り返す。
「あたしのターンドロー」
手札:4枚→5枚
「何されるか分からないから、早めに使うよ。
ドローフェイズに《コズミック・クェーサー・ドラゴン》の効果を発動!
自分か相手のターンに、シンクロ召喚したこのカードを除外する事で、
別のドラゴン族シンクロモンスターをシンクロ召喚扱いで呼び出す事が出来る」
コズミック・クェーサーが黄金の光に包まれ姿を変え始める。
「これがもう一つの未来、来い《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》!」[攻4000]
黄金の光がキラキラと霧散していくと、そこには先ほどの白銀のドラゴンと似ているが確かに違うドラゴンが存在していた。
白銀の翼や鉤爪は同じく備えているが、そのドラゴンの周囲は鋭い風が吹き荒んでいる。
「コズミック・ブレイザーは自身をエンドフェイズまで除外する事で、
相手のカード効果の発動、
相手モンスターの召喚行為、
相手モンスターの攻撃、
それぞれを無効化する事が出来る」
「なんでも1度だけ無効にって事ね。そうやって、あたしに何もさせずに完膚なきまで屈服させてからいたぶると、そういう訳ね。あぁぁぁぁ許せない。しっかりきっかりちゃんと完璧に殺し切らないと安心して、眠る事すら叶わない!?
あたしが何をした、何故ここまでいたぶられる必要がある!!?
くそったれぇぇぇええええええええええええええええええええええ」
ちょっとしたことで、発狂を繰り返すこの女性へ最初は恐怖や憐みといった感情も芽生えていたが、執拗に自分を殺すと宣言するその様からいい加減不愉快の感情が沸き立つ。
「もうそれでいいよ。
僕がこのデュエルに勝てば、そのやかましい発狂も見なくて済むだろうからね」
「それが、本音か。あああやっぱり、あたしの事を殺す気だったんだね。
正体表しやがった!同情も慈悲も憐みも期待するな。
覚悟しろよ、してなくてもしろよ。
結局お前は死ぬことになるんだからなぁぁぁあああ」
「やれるもんならやってみろ!
《光来する奇跡》の効果でシンクロモンスターが特殊召喚されたことで、1枚ドロー!」
手札:1枚→2枚
「このターン、相手がモンスター効果を発動していた場合に発動可能。
《三戦の号》発動!デッキから魔法・罠カード1枚をセット、相手にモンスターがいる場合は代わりに手札に加える事が出来る」
手札:5枚→4枚
「魔法・罠のなんでもサーチ!?
《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》の効果発動!
自身をエンドまで除外し、《三戦の号》の発動を無効にして破壊する」
コズミック・ブレイザーが凄まじい速度で上空へと飛び立つと、その風圧で発動された《三戦の号》は星屑となって消えた。
「本当にここでよかった?その妨害効果!」
「ここしかないよ。墓地の《アサルト・シンクロン》を除外して効果発動。
ドラゴン族シンクロがリリースまたは除外された場合、そのモンスターを特殊召喚できる。
帰還せよ、《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》!」[攻4000]
空間に亀裂が生じ、虚空をガラスの様に砕きながらコズミック・ブレイザーがフィールドへと舞い戻って来る。
「ちっ…《儀式の下準備》発動。
デッキより儀式魔法1枚を選び、それに記された儀式モンスターと共に手札に加える。
あたしは儀式魔法《霊魂の降神》とそれに記された《霊魂鳥神-彦孔雀》の2枚を手札へと加える」
手札:4枚→5枚
「1枚で儀式セットを持ってこれるカードか…」
「発動《霊魂の降神》!レベル8の《虚竜魔王アモルファクターP》を生贄に降臨しろ。
儀式召喚。
来な、《霊魂鳥神-彦孔雀》!」[攻3000]
手札:5枚→3枚
金色に染まったドラゴンがフィールドから姿を消すと、空から青い羽が降り注ぐ。
空中で巨大な鳥が羽ばたいたかと思えば、そこにはクジャクの羽が織り込まれた着物を羽織った彦星が颯爽と降り立ち、手に持つ刀を振るう。
「彦孔雀儀式成功時、相手モンスター3体までを選んで手札へと戻す」
「バウンス効果か…使わざるを得ない…。
《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》の効果、自身をエンドまで除外し、今度は《霊魂鳥神-彦孔雀》の効果の発動を無効にして破壊する」
目の前の虚空へ白銀の鉤爪を振るい、空間を破壊したコズミック・ブレイザーは割れた向こう側の異次元へと向かって行った。
空間へ与えられたヒビは、彦星の存在する位置にまで達し、彦星は空間ごとガラスの様に割れて砕け散ってしまう。
「もう戻ってこれないんじゃない?
《魔神儀-ペンシルベル》の効果、手札の儀式モンスター《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》を見せる事で、このカードとデッキの《魔神儀-タリスマンドラ》を特殊召喚する」[守0][守0]
手札:3枚→2枚
「(儀式の素材が一気にフィールドに…)」
「デッキから特殊召喚したタリスマンドラの効果、デッキから儀式モンスター《魔神儀-カリスライム》を手札に加える。
手札:2枚→3枚
そして、カリスライムを見せて効果発動。手札1枚、自身を捨てて魔神儀をデッキから特殊召喚する。
あたしは《魔神儀-ブックストーン》を特殊召喚」[守0]
手札:3枚→2枚
手足の生えた一冊の本が落ちてくる。
「ブックストーンがデッキからの特殊召喚に成功した時に発動。墓地の儀式魔法《魔神儀の祝誕》を手札に加える」
手札:2枚→3枚
本がぱらぱらと開かれると、水色の石がネックレスの様にかけられたページで止まり、石が柔らかに微笑む。
そして、しおりの様に本の間に挟まれていたカードが女性へ投げ渡される。
「《魔神儀の祝誕》発動。レベル3の《魔神儀-ペンシルベル》レベル5の《魔神儀-ブックストーン》を生贄に降臨しろ。
儀式召喚。
来な、《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》!」[攻4000]
手札:3枚→1枚
浮かび上がった円陣より、紫の稲光と共に青白く輝く巨大なドラゴンが勇ましく顕現した。
「攻撃力4000…!」
「さらに、カオス・MAXは相手の効果対象にならず、効果で破壊されない耐性を持つ」
「な…」
「ようやっと終わる。あたしに安堵の時間がやって来る。
お前をここで殺せるから!!!」
「何を…」
「魔法カード《強制転移》発動。互いに自分モンスター1体を選び、選ばれたモンスター同士のコントロールを入れ替える!」
手札:1枚→0枚
「《強制転移》だと!?」
「そっちには、《スターダスト・ウォリアー》1体のみ。選択の余地はない。
あたしのフィールドの《魔神儀-タリスマンドラ》君をプレゼントしよう」
力強い星屑の戦士と、お守りの奇声に耳を塞ぐマンドラゴラの居場所が入れ替わる。
「けど、攻撃しても僕が喰らうのは最大で4000ライフ。まだライフは残るはずだ」
「あたしが殺すと宣言した以上お前は死ぬんだ。
無残に残虐に、生き残る可能性なんか残しはしない。
完璧なる死をお前に与えてやる。
そうする事でやっとあたしは、安らぎの時間を過ごせる。
あぁ!
驚異のない時間!
そんな空間!!
誰からも見られず認知されない世界!!!
仮初の時だとしても…あたしにはそれが必要なんだ…」
女性は先程までの狂乱でぼさぼさとなった髪を揺らし、顔色の悪いその顔で恍惚な表情を浮かべる。
「あなたの言う事はどれだけ聞いても理解しかねるよ…」
「理解しなくともいいだろ、お前は死ぬんだ!
《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》が守備表示モンスターを攻撃した時、2倍の貫通ダメージを与える!」
「な!?2倍の貫通ダメージ!?」
「あたしがお前に送った愛のプレゼントの守備力は0。
確実にお前のライフを8000削り取る」
「ぐっ…」
青白い巨大なドラゴンが威嚇するかのように咆哮をあげる。
その迫力に圧され、自然と足が震える。
頭の片隅に残る不穏な違和感。
それをどうしても確かめたく、口が開く。
「さっきから殺すって…どういうことなんですか…。
僕はデュエルに負けるだけなんでしょ?」
「新しい命乞いか?そんなもの通じない。
あたしの安心にお前の死は絶対条件だ。
さっきお前が後頭部に喰らった一撃で察しろ。
ここはダメージが現実に反映される殺し合いの世界なんだよ」
「は…?」
ダメージが現実に反映…。全く持って理解に苦しむ話だ。
だが、確かに自分が後頭部に受けた鈍い痛み。
《アサルト・シンクロン》についていた血痕。
そして、《アサルト・シンクロン》の特殊召喚方法。
ーーー
《アサルト・シンクロン》
闇 ☆2 チューナー 攻700 守0
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分メインフェイズに発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、自分は700ダメージを受ける。
この効果で特殊召喚したこのカードがモンスターゾーンに表側表示で存在する限り、自分はSモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。
②:自分フィールドの表側表示のドラゴン族Sモンスターが、リリースされた場合または除外された場合、墓地のこのカードを除外し、そのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
ーーー
「特殊召喚して…700ダメージを…受ける…」
非現実が現実に起こり得ていた事を脳が段々と知覚し始める。
理解が追い付く前に、目の前の巨竜は攻撃態勢へと移行した。
「さぁ死 ね!あたしに安堵をもたらせ!
《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》で、守備表示の《魔神儀-タリスマンドラ》を攻撃だぁ!!!」[攻4000]
カオス・MAXは自身の体と巨大な両翼を青白く発光させる。
「じ、冗談だろ!?僕が何したんだよ!?
僕はただデュエルしろって言われただけで…。
あなたに何もしていないじゃないか!!?」
混乱と動揺、焦りが凝縮された工藤から、この理不尽な女性へ言の葉として投げかけられる。
当然、女性がまともな返事を返す事はなかった。
「あたしを見つけた、あたしの事を見た、あたしと喋った。
それだけでお前が死ぬ理由には十分だろうがっ」
雄叫びをあげ発光したカオス・MAXから、たくさんの青白いレーザーが放たれる。
レーザーは縦横無尽にフロア内を焼き尽くし、工藤のフィールドへと送り付けられたタリスマンドラも、お守りの絶叫を最後に焼き尽くされた。
そして、多様な方向に向けられていたそのレーザーが最後には一か所に向けられる。
レーザーが工藤へと集約される瞬間、彼の体には皮膚が焼かれる感触が一瞬感じられた。
その刹那の青白い世界を最期に…
工藤 流星は光を失った。
工藤LP7200→0
「先行は有栖川様、後攻は工藤様になります。」
[ターン1]
「あたしのターン」
ピー
「カスタム《初期手札増強》により有栖川様の初期手札は6枚となります」
手札:6枚
「な、なんだそれ!?」
「ここはあたしのフロアだ。あたしが何しようが自由なんだよ。
手札の《魔神儀-ペンシルベル》効果発動。手札の儀式モンスター《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》を相手に見せる事で、手札の自身とデッキから魔神儀1体を特殊召喚できる。
あたしは《魔神儀-ペンシルベル》とデッキの《魔神儀-タリスマンドラ》を特殊召喚」[守0][守0]
手札:6枚→5枚
羽とペン先部分に顔のついた羽ペンのモンスターと、首からお守りを提げるマンドラゴラのモンスターがフィールドへと降り立つ。
「な、モンスターが…」
工藤がリアルソリッドビジョンの演出に驚くが、女性は構わずディスクの画面からカードを選択する。
「タリスマンドラがデッキからの特殊召喚成功時、デッキから儀式モンスター1体を手札に加える。
あたしは《虚竜魔王アモルファクターP》を手札に加える」
手札:5枚→6枚
マンドラゴラの提げるお守りが突然奇声を発し始める。あまりにうるさいのか、マンドラゴラの方が耳を塞ぎだしている。
「う、うるさい…」
「永続魔法《昇華する魂》を発動して、儀式魔法《魔神儀の祝誕》発動。
レベルが儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように手札、フィールドから魔神儀を生贄に捧げる…レベル3の《魔神儀-ペンシルベル》レベル6の《魔神儀-タリスマンドラ》を生贄に降臨しろ。
儀式召喚。
来な、全てを無と化す魔王《虚竜魔王アモルファクターP》」[攻2950]
手札:6枚→5枚→3枚
円陣が浮かび上がり、そこへリリースされたモンスターのレベル分の炎が浮かび上がり、光と共に灰色のドラゴンがフィールドへと降り立った。
そのドラゴンの足元は溶け出しており、髪を逆巻かせた人型が手を広げて背中から生えているという何とも不気味な姿のモンスターだ。
「アモルファクターPが儀式召喚成功時、次の相手メインフェイズ1をスキップさせてもらう。この効果はチェーンブロックを作らない。無効は無駄だよ」
「な、メイン1をスキップ!?」
「後攻のお前に攻撃させる暇なんか与えない。
永続魔法《昇華する魂》の効果で儀式召喚成功時にその儀式に使用したモンスター1体を手札に加える事が出来る。
あたしは《魔神儀-ペンシルベル》を手札に回収する」
手札:3枚→4枚
灰色のドラゴンから白いもやもやがふわふわと漂い、そのもやもやを女性が掴み取ると1枚のカードとなって手札へと加えられた。
「あたしはこれでターンエンドだ」
有栖川-LP:8000
手札:4枚
[ターン2]
「手札増やしても儀式モンスター1体か…。
攻撃できないなら盤面を固めさせてもらうぞ!
僕のターン、ドロー」
手札:5枚→6枚
「さっき言った通り、アモルファクターPの効果でお前のメインフェイズ1はスキップされる」
灰色のドラゴンが咆哮をあげる。
「なら、バトルに入ってそのままメインフェイズ2だ。
手札の《ジャンク・コンバーター》は手札から自身とチューナーモンスターを捨てる事でデッキからジャンクモンスターをサーチできる。
《スターダスト・シンクロン》と共に捨てる事で、デッキから《ジャンク・シンクロン》を手札に加える。
手札:6枚→5枚
そして、手札に加えた《ジャンク・シンクロン》をそのまま召喚!」[攻1300]
手札:5枚→4枚
フィールドへオレンジ色を基調とした機械チックなモンスターが首に巻いたマフラーを靡かせながらフィールドへと現れる。
「召喚時に墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる。
僕は墓地からレベル2の《ジャンク・コンバーター》を特殊召喚!」[守200]
両腕両足にコンポジット端子を備えた人型のコンバーターのモンスターがフィールドへ降り立つ。
「レベル2の《ジャンク・コンバーター》にレベル3チューナー《ジャンク・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚!
レベル5、《ジャンク・スピーダー》!」[守1000]
《ジャンク・シンクロン》が自らの体に取り付けられたリコイルスターターで勢いよくエンジンをかける。緑の円となり、コンバーターを取り囲み閃光がほとばしる。
すると、フィールドへと銀色の装甲に身を包みこんだ戦士が超スピードで滑り込んでくる。
「《ジャンク・スピーダー》はシンクロ召喚成功時に、デッキからシンクロンを可能な限り特殊召喚できる!」
「ふざけた効果を…だが無意味だな。
《虚竜魔王アモルファクターP》がいる限り、フィールドの表側の融合、シンクロ、エクシーズモンスターの効果は無力化されるんだよ」
「なに!?」
「これで《ジャンク・スピーダー》の展開効果は使えない。
シンクロデッキでシンクロの効果を使えないお前に勝ち目はないんだ」
「なら、《ジャンク・コンバーター》の効果だ!
シンクロ素材に使われたことで、墓地の《スターダスト・シンクロン》を効果を無効にして特殊召喚する!」[守1000]
白と水色を基調とした小さなドラゴンがフィールドへぴょんと跳ねて現れた。
「墓地からモンスターが特殊召喚された時、手札の《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚できる!」
手札:4枚→3枚」
黒装束のモンスターが銃を構える。
「レベル2《ドッペル・ウォリアー》にレベル4チューナー《スターダスト・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚!
レベル6、《瑚之龍》!」[攻2400]
オレンジの体表にサンゴ礁を生成した尾がどこまでも伸びるドラゴンが、地面から水しぶきと共に出現した。
「アモルファクターPの効果でシンクロの効果は無効化されているのに、これ以上何をするつもりなんだ?」
「シンクロの効果は無効にされても、素材に使ったモンスターの効果は使える。
シンクロ素材として墓地へ送られた《ドッペル・ウォリアー》の効果発動!
自分フィールドに《ドッペル・トークン》2体を攻撃表示で特殊召喚」[攻400][攻400]
先程の黒装束のモンスターの幻影が二つに分裂し、小さな銃を持って不敵な笑みを浮かべるトークンとなった。
「《瑚之龍》をリリースし、墓地から《スターダスト・シンクロン》を特殊召喚!」[守1000]
「またそいつ?」
「こいつは自分モンスターをリリースして特殊召喚できる。
スターダストが召喚、特殊召喚成功時に《スターダスト・ドラゴン》の名が記された魔法か罠カードを手札に加える事が出来る。さらに、墓地へと送られた《瑚之龍》の効果で1枚ドローするよ。
アモルファクターPが無効にできるのはフィールドのシンクロモンスターの効果だけ。墓地へ行った《瑚之龍》の効果までは止められない」
手札:3枚→5枚
「ちっ…」
デュエルディスクからカードを引いてる間に、小さなドラゴンがくるりと工藤の上空を一回りすると降り注ぐ星屑が固まり1枚のカードとなって手札へと加えられた。
「(すげぇ…)僕は手札に加えた《光来する奇跡》を発動!
発動時の効果でデッキから《スターダスト・ヴルム》をデッキトップへ持って来る!
手札:5枚→4枚
レベル1《ドッペル・トークン》にレベル4チューナー《スターダスト・シンクロン》を再びチューニング!
シンクロ召喚!
レベル5、《TGハイパー・ライブラリアン》!」[攻2300]
眼鏡を装着した司書のような人型が、内側が赤い白マントをはためかせながらフィールドへと降り立つ。
「この瞬間、《光来する奇跡》の効果が発動!
シンクロモンスターが特殊召喚された時に手札からチューナーモンスターを特殊召喚する。手札からレベル1《ジェット・シンクロン》を特殊召喚だ」[守0]
小さな見た目からは想像できない威力のジェットを噴射し、超スピードで《ジェット・シンクロン》がフィールドへと現れる。
「レベル1《ドッペル・トークン》にレベル1チューナー《ジェット・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚!
シンクロチューナー、《フォーミュラ・シンクロン》!」[守1500]
F1のレーシングカーのようなモンスターがすさまじい速度でフロア内を走り抜ける。
「シンクロチューナー?」
「そう!シンクロチューナーにより、シンクロモンスター同士のシンクロ召喚が可能になる!そして、《光来する奇跡》の更なる効果でシンクロが特殊召喚された時に1枚ドロー」
手札:3枚→4枚
「どれだけ強力なモンスターが出てきたとしても、その力が失われればただの案山子に過ぎないんだよ」
「失われない力が、あったとしたら…?」
工藤がにやりと笑う。
それを見た女性は顔を引きつらせながら、ガリガリと体を掻きむしり始める。
「きめぇ…きもいきもいきもいきもいきもい…。
何楽しそうにデュエルをしてるんだお前!?
そんなにもあたしをいたぶるのが、痛めつけるのが、殺すのが楽しいのかあぁ!?」
「さっきから言ってるけど…僕はあなたを殺す気なんかない。
そもそもデュエルでどうやって殺すんですか?
漫画やアニメじゃあるまいし…」
「だまれ、お前の言う殺す気がないの証明は、お前があたしに殺される以外では成り立たないんだよ。
殺す気がないならさっさと無抵抗に殺されろ!」
「殺しも殺されもする気ないけど…それ以上にデュエルで負ける気はない!
行きますよ!
レベル5《ジャンク・スピーダー》と
レベル5《TGハイパー・ライブラリアン》に
シンクロチューナー、レベル2《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!
リミットオーバー・アクセルシンクロ!
二つの未来を紡げ、《コズミック・クェーサー・ドラゴン》![攻4000]
フロアの不気味な青い照明がかすむほどに神々しい黄金の光がフィールドを包み込む…。
二人が目を開くと、フロアの半分を埋め尽くすほどに巨大な白銀のドラゴンが光を発しながら、工藤の上空に鎮座していた。
「っ…(かっけぇ………)」
キラキラとした瞳で、フィールドへとシンクロ召喚されたコズミック・クェーサーを見遣る工藤。
そんな工藤とは対照的に、神々しい光を避けるように顔を両手で塞ぐ女性は、実に不愉快そうに苦言を呈す。
「あーまぶしい…まぶしいまぶしいまぶしい…そうやって自分が光側に表舞台に居る陽キャなアピールして見せつけてんのか!?
満たされた存在だって、あたしが満たされてない憐れなゴミだって?
何から何まで全部全部そうやってあたしを見下しやがって…」
「どうしてそんなに捻くれてるんだい…。こんなにかっこいいドラゴンが演出だとしてもこれだけ迫力あるんだよ。僕は今すごい満足してるよ。
あなたの事は余計怒らせちゃいそうだけどね…」
工藤は隠しきれない喜びを何とか表情まで及ばないように踏ん張りながら、女性へ思いを伝える。
「くそくそくそくそくそ、自分の世界に浸ってんじゃねぇよ。
それに付き合わされるこっちの身にもなれ、自惚れクソ野郎。
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ぐちぐちと呟いていただけだった女性は、喉が裂けんとばかりに叫び散らし、髪の毛を千切り抜き、頭を振り回しながら発狂している。
「…(この人とはどうしても相容れないんだろうな…。
せっかく、こんな舞台でデュエル出来るなら一緒に楽しめる人とが良かったな…)」
少しだけため息を漏らし、コズミック・クェーサーの効果発動を宣言する。
「《コズミック・クェーサー・ドラゴン》の効果発動。
1ターンに1度、シンクロ素材に使ったモンスター数+1まで表側カードを対象にしてその効果を無効化する。
僕は、あなたの《昇華する魂》と《虚竜魔王アモルファクターP》を対象にしますよ」
「ああああああああああああああああぁぁぁ!?
何度同じことを説明したらいいんだ…。あれか?あたしをバカにしてるってことか?
虚竜魔王アモルファ…
「アモルファクターPの効果でシンクロモンスターの効果は無効化される。
それは聞いたよ」
「なら、何故効果の発動を…」
「言ったはずだよ。失われない力があったとしたらって。
《コズミック・クェーサー・ドラゴン》のこの効果の発動と効果は無効化されないんだ!」
「無効化…されない…!?」
「つまり、アモルファクターPが存在する状況でもこの効果は有効。
2枚のカードを無効にする!」
コズミック・クェーサーが白銀の翼を大きく広げ羽ばたくと、煌めく星屑が灰色のドラゴンへ纏いつき、灰色のドラゴンは黄金に輝き始める。
「これで、シンクロの効果が無効化される効果は失われた。まだまだ行くよ!
魔法カード《調律》発動。デッキトップを墓地へ送り、デッキからシンクロンモンスター1体を手札に加える。
僕は《アサルト・シンクロン》を手札に加える」
手札:4枚→4枚
デッキトップからハリネズミのモンスターが墓地へと送られ、デュエルディスクの画面で選択したモンスターがデッキから1枚飛び出てくる。
「さらに、《スターダスト・イルミネイト》を発動。
デッキから《スターダスト・トレイル》を墓地へ送り、《アサルト・シンクロン》の効果も発動だ。
このカードを手札から特殊召喚しその後、僕は700ダメージを受ける」[守0]
手札:3枚→2枚
デュエルディスクへ《アサルト・シンクロン》を置いた瞬間…
後頭部へ殴られたような鈍い痛みが走り、前方へと倒れ込む。
「いっ!?てぇええええええ!?」
工藤LP8000→7200
咄嗟に痛みが走った部分を手で押さえると、激しい痛みと生暖かい感触があった。
「は、あ、え?なんだよ…いきなり…」
後頭部を触った手のひらを目の前へ持って来ると、コズミック・クェーサーの神々しい光の影響で、それが赤い血液だという事が問題なく理解できた。
「なん…で、血が…?」
「だまれだまれだまれ、自分も苦しんだ振りして、最終的にはあたしの事しか苦しめないんだろ。お前みたいなやつの臭い演出も演技も全部嘘っぱち、人をたぶらかす様にしか脳みそが出来ないんだろ!?
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「いっ…頭に響く…マジで何があって…」
目線を上にあげると、自分が召喚した真っ黒な機体のモンスターが宙に浮かんでいた。そして、よく見るとその機体の先端部分には赤い血痕が付いているのが見えた。
「なに…?え、《アサルト・シンクロン》が頭にぶつかって来た?
いや、演出でなんでぶつかって…??」
鈍い痛みが続く頭で今何が起こっているのかを理解しようとするが、狂乱している女性の絶叫と、痛みで何も思考が回らない。
「ころすころすころすころすころすころす。
こわいこわいこわいこわいこわい…。
大丈夫、しっかりカスタムで殺せるように設定してる。
《加虐ダメージ増量》で、お前への現実ダメージだけ30%上昇させてある。
殺せる殺せるころせる。大丈夫だいじょうぶだいじょうぶううぅぅぅああああああああああああああああああ」
唇を震わせ歯をカチカチ音がするほど、嚙み合わせながらうわ言と奇声、絶叫を織り交ぜながら、殺しの準備が整っている事を確認している。
後頭部に残り続ける鈍い痛みは、女性の言う世迷い事が少しだけ現実味を帯びてくる。
「訳分からない事を言わないでくれ…。
僕はデュエルしろって言われただけなんだ…」
痛みはあるが、出血が続いている訳でもないようだ。
デュエルが続行できない訳ではない。
立ち上がり、手についた血液をポケットのハンカチで拭う。
「自分フィールドにチューナーモンスターがいる事で…墓地の《ボルト・ヘッジホッグ》は特殊召喚できる…」[守800]
フィールドへ、ボルトが背中へ無数に刺さったオレンジ色のハリネズミが飛び出してきた。
「《死者蘇生》を発動だ。
墓地の《スターダスト・トレイル》を蘇生させる」[守2000]
手札:2枚→1枚
光が照らされた場所へ星屑と共に、赤髪で赤い尻尾を生やした天使が舞い降りた。
「レベル4の《スターダスト・トレイル》、レベル2の《ボルト・ヘッジホッグ》にレベル2チューナー《アサルト・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚…。
飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」[攻2500]
白銀の竜が星屑を辺りに散らしながら現れ、甲高い咆哮をあげる。
「シンクロ素材に使用した《スターダスト・トレイル》の効果で、スターダストモンスターのシンクロ素材に使われたことで《スターダスト・トークン》を特殊召喚できる」[守0]
星屑が集まり金平糖の様な小さなモンスターがポンッと生まれた。
「手札1枚をコストに…墓地の《ジェット・シンクロン》は特殊召喚できる。[守0]
レベル1の《スターダスト・トークン》に、レベル1チューナー《ジェット・シンクロン》をチューニング。
シンクロ召喚。
シンクロチューナー《フォーミュラ・シンクロン》」[守1500]
手札:1枚→0枚
先程と同様《フォーミュラ・シンクロン》がフロア内を走りまわる。
「シンクロ召喚成功時に1枚ドローさせてもらう」
手札:0枚→1枚
《フォーミュラ・シンクロン》がアクセルを吹かし、目の前を猛スピードで通り過ぎた。その際に巻き起こった突風でデッキトップが1枚吹き飛び、工藤の手元へと落ちてくる。
「仕上げだね…。
レベル8《スターダスト・ドラゴン》に
シンクロチューナー、レベル2《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!
アクセルシンクロォ!
現れろ《スターダスト・ウォリアー》!」[攻3000]
白銀の竜を思わせる装飾が施された巨大な戦士は、煌めく星屑を辺りに降らせながら、拳を握り込んだ。
「僕はこれでターンエンドするよ…」
工藤-LP:7200
手札:1枚
[ターン3]
「あーーーあーーー高い攻撃力、痛いのは嫌だなぁ。
その攻撃力は殺意の表れ、ほら、やっぱりお前も殺しに来てたんだろ?
今更何も知らないとか言うなよ。知らない訳がない。ここにデュエルをしにきといて知らない訳がない。そんなことある訳ない。あたしは知らない」
焦点の定まらない目であちこちの虚空を見つめながら、女性はうわ言を繰り返す。
「あたしのターンドロー」
手札:4枚→5枚
「何されるか分からないから、早めに使うよ。
ドローフェイズに《コズミック・クェーサー・ドラゴン》の効果を発動!
自分か相手のターンに、シンクロ召喚したこのカードを除外する事で、
別のドラゴン族シンクロモンスターをシンクロ召喚扱いで呼び出す事が出来る」
コズミック・クェーサーが黄金の光に包まれ姿を変え始める。
「これがもう一つの未来、来い《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》!」[攻4000]
黄金の光がキラキラと霧散していくと、そこには先ほどの白銀のドラゴンと似ているが確かに違うドラゴンが存在していた。
白銀の翼や鉤爪は同じく備えているが、そのドラゴンの周囲は鋭い風が吹き荒んでいる。
「コズミック・ブレイザーは自身をエンドフェイズまで除外する事で、
相手のカード効果の発動、
相手モンスターの召喚行為、
相手モンスターの攻撃、
それぞれを無効化する事が出来る」
「なんでも1度だけ無効にって事ね。そうやって、あたしに何もさせずに完膚なきまで屈服させてからいたぶると、そういう訳ね。あぁぁぁぁ許せない。しっかりきっかりちゃんと完璧に殺し切らないと安心して、眠る事すら叶わない!?
あたしが何をした、何故ここまでいたぶられる必要がある!!?
くそったれぇぇぇええええええええええええええええええええええ」
ちょっとしたことで、発狂を繰り返すこの女性へ最初は恐怖や憐みといった感情も芽生えていたが、執拗に自分を殺すと宣言するその様からいい加減不愉快の感情が沸き立つ。
「もうそれでいいよ。
僕がこのデュエルに勝てば、そのやかましい発狂も見なくて済むだろうからね」
「それが、本音か。あああやっぱり、あたしの事を殺す気だったんだね。
正体表しやがった!同情も慈悲も憐みも期待するな。
覚悟しろよ、してなくてもしろよ。
結局お前は死ぬことになるんだからなぁぁぁあああ」
「やれるもんならやってみろ!
《光来する奇跡》の効果でシンクロモンスターが特殊召喚されたことで、1枚ドロー!」
手札:1枚→2枚
「このターン、相手がモンスター効果を発動していた場合に発動可能。
《三戦の号》発動!デッキから魔法・罠カード1枚をセット、相手にモンスターがいる場合は代わりに手札に加える事が出来る」
手札:5枚→4枚
「魔法・罠のなんでもサーチ!?
《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》の効果発動!
自身をエンドまで除外し、《三戦の号》の発動を無効にして破壊する」
コズミック・ブレイザーが凄まじい速度で上空へと飛び立つと、その風圧で発動された《三戦の号》は星屑となって消えた。
「本当にここでよかった?その妨害効果!」
「ここしかないよ。墓地の《アサルト・シンクロン》を除外して効果発動。
ドラゴン族シンクロがリリースまたは除外された場合、そのモンスターを特殊召喚できる。
帰還せよ、《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》!」[攻4000]
空間に亀裂が生じ、虚空をガラスの様に砕きながらコズミック・ブレイザーがフィールドへと舞い戻って来る。
「ちっ…《儀式の下準備》発動。
デッキより儀式魔法1枚を選び、それに記された儀式モンスターと共に手札に加える。
あたしは儀式魔法《霊魂の降神》とそれに記された《霊魂鳥神-彦孔雀》の2枚を手札へと加える」
手札:4枚→5枚
「1枚で儀式セットを持ってこれるカードか…」
「発動《霊魂の降神》!レベル8の《虚竜魔王アモルファクターP》を生贄に降臨しろ。
儀式召喚。
来な、《霊魂鳥神-彦孔雀》!」[攻3000]
手札:5枚→3枚
金色に染まったドラゴンがフィールドから姿を消すと、空から青い羽が降り注ぐ。
空中で巨大な鳥が羽ばたいたかと思えば、そこにはクジャクの羽が織り込まれた着物を羽織った彦星が颯爽と降り立ち、手に持つ刀を振るう。
「彦孔雀儀式成功時、相手モンスター3体までを選んで手札へと戻す」
「バウンス効果か…使わざるを得ない…。
《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》の効果、自身をエンドまで除外し、今度は《霊魂鳥神-彦孔雀》の効果の発動を無効にして破壊する」
目の前の虚空へ白銀の鉤爪を振るい、空間を破壊したコズミック・ブレイザーは割れた向こう側の異次元へと向かって行った。
空間へ与えられたヒビは、彦星の存在する位置にまで達し、彦星は空間ごとガラスの様に割れて砕け散ってしまう。
「もう戻ってこれないんじゃない?
《魔神儀-ペンシルベル》の効果、手札の儀式モンスター《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》を見せる事で、このカードとデッキの《魔神儀-タリスマンドラ》を特殊召喚する」[守0][守0]
手札:3枚→2枚
「(儀式の素材が一気にフィールドに…)」
「デッキから特殊召喚したタリスマンドラの効果、デッキから儀式モンスター《魔神儀-カリスライム》を手札に加える。
手札:2枚→3枚
そして、カリスライムを見せて効果発動。手札1枚、自身を捨てて魔神儀をデッキから特殊召喚する。
あたしは《魔神儀-ブックストーン》を特殊召喚」[守0]
手札:3枚→2枚
手足の生えた一冊の本が落ちてくる。
「ブックストーンがデッキからの特殊召喚に成功した時に発動。墓地の儀式魔法《魔神儀の祝誕》を手札に加える」
手札:2枚→3枚
本がぱらぱらと開かれると、水色の石がネックレスの様にかけられたページで止まり、石が柔らかに微笑む。
そして、しおりの様に本の間に挟まれていたカードが女性へ投げ渡される。
「《魔神儀の祝誕》発動。レベル3の《魔神儀-ペンシルベル》レベル5の《魔神儀-ブックストーン》を生贄に降臨しろ。
儀式召喚。
来な、《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》!」[攻4000]
手札:3枚→1枚
浮かび上がった円陣より、紫の稲光と共に青白く輝く巨大なドラゴンが勇ましく顕現した。
「攻撃力4000…!」
「さらに、カオス・MAXは相手の効果対象にならず、効果で破壊されない耐性を持つ」
「な…」
「ようやっと終わる。あたしに安堵の時間がやって来る。
お前をここで殺せるから!!!」
「何を…」
「魔法カード《強制転移》発動。互いに自分モンスター1体を選び、選ばれたモンスター同士のコントロールを入れ替える!」
手札:1枚→0枚
「《強制転移》だと!?」
「そっちには、《スターダスト・ウォリアー》1体のみ。選択の余地はない。
あたしのフィールドの《魔神儀-タリスマンドラ》君をプレゼントしよう」
力強い星屑の戦士と、お守りの奇声に耳を塞ぐマンドラゴラの居場所が入れ替わる。
「けど、攻撃しても僕が喰らうのは最大で4000ライフ。まだライフは残るはずだ」
「あたしが殺すと宣言した以上お前は死ぬんだ。
無残に残虐に、生き残る可能性なんか残しはしない。
完璧なる死をお前に与えてやる。
そうする事でやっとあたしは、安らぎの時間を過ごせる。
あぁ!
驚異のない時間!
そんな空間!!
誰からも見られず認知されない世界!!!
仮初の時だとしても…あたしにはそれが必要なんだ…」
女性は先程までの狂乱でぼさぼさとなった髪を揺らし、顔色の悪いその顔で恍惚な表情を浮かべる。
「あなたの言う事はどれだけ聞いても理解しかねるよ…」
「理解しなくともいいだろ、お前は死ぬんだ!
《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》が守備表示モンスターを攻撃した時、2倍の貫通ダメージを与える!」
「な!?2倍の貫通ダメージ!?」
「あたしがお前に送った愛のプレゼントの守備力は0。
確実にお前のライフを8000削り取る」
「ぐっ…」
青白い巨大なドラゴンが威嚇するかのように咆哮をあげる。
その迫力に圧され、自然と足が震える。
頭の片隅に残る不穏な違和感。
それをどうしても確かめたく、口が開く。
「さっきから殺すって…どういうことなんですか…。
僕はデュエルに負けるだけなんでしょ?」
「新しい命乞いか?そんなもの通じない。
あたしの安心にお前の死は絶対条件だ。
さっきお前が後頭部に喰らった一撃で察しろ。
ここはダメージが現実に反映される殺し合いの世界なんだよ」
「は…?」
ダメージが現実に反映…。全く持って理解に苦しむ話だ。
だが、確かに自分が後頭部に受けた鈍い痛み。
《アサルト・シンクロン》についていた血痕。
そして、《アサルト・シンクロン》の特殊召喚方法。
ーーー
《アサルト・シンクロン》
闇 ☆2 チューナー 攻700 守0
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分メインフェイズに発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、自分は700ダメージを受ける。
この効果で特殊召喚したこのカードがモンスターゾーンに表側表示で存在する限り、自分はSモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。
②:自分フィールドの表側表示のドラゴン族Sモンスターが、リリースされた場合または除外された場合、墓地のこのカードを除外し、そのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
ーーー
「特殊召喚して…700ダメージを…受ける…」
非現実が現実に起こり得ていた事を脳が段々と知覚し始める。
理解が追い付く前に、目の前の巨竜は攻撃態勢へと移行した。
「さぁ死 ね!あたしに安堵をもたらせ!
《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》で、守備表示の《魔神儀-タリスマンドラ》を攻撃だぁ!!!」[攻4000]
カオス・MAXは自身の体と巨大な両翼を青白く発光させる。
「じ、冗談だろ!?僕が何したんだよ!?
僕はただデュエルしろって言われただけで…。
あなたに何もしていないじゃないか!!?」
混乱と動揺、焦りが凝縮された工藤から、この理不尽な女性へ言の葉として投げかけられる。
当然、女性がまともな返事を返す事はなかった。
「あたしを見つけた、あたしの事を見た、あたしと喋った。
それだけでお前が死ぬ理由には十分だろうがっ」
雄叫びをあげ発光したカオス・MAXから、たくさんの青白いレーザーが放たれる。
レーザーは縦横無尽にフロア内を焼き尽くし、工藤のフィールドへと送り付けられたタリスマンドラも、お守りの絶叫を最後に焼き尽くされた。
そして、多様な方向に向けられていたそのレーザーが最後には一か所に向けられる。
レーザーが工藤へと集約される瞬間、彼の体には皮膚が焼かれる感触が一瞬感じられた。
その刹那の青白い世界を最期に…
工藤 流星は光を失った。
工藤LP7200→0
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