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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#40「囚われし者」

Report#40「囚われし者」 作:ランペル

ピー
「先行は本導様、後攻はワルトナー様になります。」


 [ターン1]


「ほのかが最初だね…。
ドロー!…は最初しないんだっけ?」

「最初のターンはドローはないから、メインフェイズに入るよ!」

穂香ちゃんにとっての初めてのデュエル。短い時間に教えられるだけの事は教えたつもりだ。後は、彼女を信じてデュエルを見守ることに徹する。

「《マジシャンズ・ソウルズ》の効果を発動するよ。デッキから…レベル6以上!の魔法使い族を墓地に送って特殊召喚!」

《マジシャンズ・ソウルズ》の効果の発動を宣言すると、デュエルディスクに墓地へと送るカードのリストが表示される。

「えっと…レベル6の《魔導鬼士 ディアール》を墓地に送って…。
《マジシャンズ・ソウルズ》を特殊召喚するよ!」[攻0]
手札:5枚→4枚

慣れない手つきでデッキから飛び出したカードを墓地へと送り、手札のモンスターをデュエルディスク上へと召喚する。
浮かび上がる魔法陣の中央へ、二つの青い魂が二人組の魔法使いの姿を形どる。

「よし、今度は《魔導書士 バテル》を召喚だよ!」[攻500]
手札:4枚→3枚

青い魔法着に身を包んだ少年がフィールドへと降り立った。

「えっと、このカードが召喚・リバースした場合に発動する。デッキから魔導書魔法カード1枚を手札に加える…から!魔導書魔法カードを手札に加えるよ」

デュエルディスク上に置かれたカードの効果テキストを読み上げながら、効果の発動を宣言する穂香ちゃん。

「ほのかが手札に加えるのはこれ!《グリモの魔導書》!」
手札:3枚→4枚

デュエルディスクの画面に表示されたサーチ先の中からサーチ対象が選択されると、フィールドのバテルが右手の人差し指を頭に当てて、瞑想を始める。しばらくすると、その左手に薄紫色に発光する魔導書が顕在化した。

「《グリモの魔導書》を発動…する前に、これを使っといた方がいいって言ってた気がする!
《魔導書の神判》を発動するよ」
手札:4枚→3枚

手札に加えたカードをそのまま発動しようとしていたが、思い出したかのように別の手札の魔導書を発動した。

「このカードを発動したターンのエンドフェイズに、このカードの発動後に自分または相手が発動した魔法カードの数まで、デッキから魔導書の神判以外の魔導書魔法カードを手札に加える。
その後、この効果で手札に加えたカードの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスター1体をデッキから特殊召喚できる…みたいだよ!」

あまり効果を厳密に把握しきれていないのか、テキストを声に出して読みながら一瞬首を傾げた穂香ちゃんは、先程サーチした《グリモの魔導書》を発動した。

「とにかく魔法をいっぱい使うといいんだよね!
《グリモの魔導書》発動。デッキから《グリモの魔導書》以外の魔導書カードを手札に加えるよ。ほのかは、《セフェルの魔導書》を手札に持って来る!」
手札:3枚→3枚

バテルの持つ魔導書のページがぱらぱらとめくられていくと、デッキから1枚のカードが飛び出した。

「これを手札に持ってきて…そのまま発動するよ。
自分フィールドに魔法使い族が居て…このカード以外の魔導書カードを相手に見せる?
はい!じゃらじゃらちゃん見て!見た?」
手札:3枚→2枚

「(じゃらじゃらちゃん…?)」

穂香ちゃんは自身の手札の《ルドラの魔導書》を対戦相手の少女へと見せつける。デュエルディスクと左手首の鉄枷を鎖でつなぐ対戦相手の少女は、無機質に返答を返す。

「見た…」

「ありがとう!それで…墓地の魔導書通常魔法を対象に…発動時と同じ効果になる………?」

テキストを読みながら、再び首を傾げる穂香ちゃんへたまらず《セフェルの魔導書》の特徴を伝える。

「ほら穂香ちゃん、まねっこのやつだよ」

「あ!まねっこ!
ほのかは墓地の《グリモの魔導書》をまねっこして、デッキから魔導書カードを手札に加える!」

こちらの意図をすっと飲み込んでくれたのか、デュエルディスク上に表示されたサーチ先のカードを選択して新たな魔導書をデッキから手札にへと持ち込んだ。

「今度は《ゲーテの魔導書》を手札に加えるよ」
手札:2枚→3枚

手札に魔導書を増やした穂香ちゃんはフィールドを見遣り、召喚された2体のモンスターを手に取った。

「モンスターが並んだらとりあえず出しとく!
《マジシャンズ・ソウルズ》と《魔導書士 バテル》を使って
リンク召喚!

《魔導原典 クロウリー》!」[攻1000]

2体の魔法使いがリンクマーカーへと吸い込まれ、リンク召喚のゲートが出現する。そこから巨大なガラス管がフィールドへと飛び出し、その中には頭から角を生やした人が繋がれていた。

「リンク召喚に成功した時に、魔導書カード3枚選んで…じゃらじゃらちゃんにランダムに選んでもらったのを手札に加える事ができるよ!
ほのかは、《魔導書庫クレッセン》、《魔導書廊エトワール》、《魔導書院ラメイソン》の3枚を選ぶよ!さぁ、どーれだ!」

デュエルディスク上で表示されたであろう3枚のカードからランダムに1枚を対面の少女は選択した。

「これ…」

「うん!じゃらじゃらちゃんに選ばれたのはぁ…《魔導書庫クレッセン》でした!」
手札:3枚→4枚

穂香ちゃんのするデュエルはたどたどしくも、堅実に自分が教えたある程度の展開ルートに沿ってデュエルを進めている。それに加えてどこか楽しそうにデュエルをしている彼女の姿を見ていると、このデュエルが命のかかったものとは思えない。
緊張や恐怖から、デュエルがぐちゃぐちゃになってしまう事を懸念していたがその心配はなさそうで、少しだけ安心できた。

「ほのかちゃんすごいよ!その調子で頑張って!」

「へへー、お姉ちゃんに教えてもらったからね!
ほのか負けないよー。《ルドラの魔導書》を発動だよ。
《ルドラの魔導書》以外の自分の手札かフィールドの魔導書カード1枚または自分フィールドの魔法使い族モンスター1体を墓地へ送り、自分はデッキから2枚ドローする…。
《魔導書庫クレッセン》も魔導書だよね。クレッセンを墓地に送ってほのかは2枚ドロー!」
手札:4枚→4枚

手札交換をした穂香が大きな目を見開き、嬉しそうに梨沙の方を向き引いた2枚のカードを振り回す。

「お姉ちゃん!強いって言ってた人引けたよ!」

「ほんと?それなら、どんどん使っちゃおう!」

「うん!えっと…リリースって墓地に送る事だよね…?
《魔導原典 クロウリー》をリリースして、《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》を召喚!」[攻1000]
手札:4枚→3枚

巨大なガラス管がキラキラと光の粒子となって消え去ると、青と白を基調とした服に身を包んだ銀髪の魔法使いがフィールドへとゆっくり降り立った。

「この人は1ターンに1度、相手の魔法カードの発動を無効にできるよ。そして、攻撃力はほのかの手札×500アップだから、3枚で1500アップ!」[攻2500]

「魔法…無効…」

サイレント・マジシャンの効果を聞き、対面の少女は自身の手札に視線を落とした。

「これは…どこに置くんだろ…。
あ、ここか。フィールド魔法《魔導書院ラメイソン》を発動!
自分フィールドまたは自分の墓地に魔法使い族モンスターが存在する場合、自分スタンバイフェイズに発動できる。自分の墓地から《魔導書院ラメイソン》以外の魔導書魔法カード1枚を選んでデッキの一番下に戻し、自分はデッキから1枚ドローする…って言う効果だよ!」
手札:3枚→2枚

他のゾーンとは位置の違うフィールドゾーンへとカードを発動し、テキストの確認と効果の説明を同時にこなした穂香ちゃんは残った手札全てをデュエルディスクへとセットする。

「これでいいよね?カードを2枚セットして、ほのかはターンエンドだよ!」
手札:2枚→0枚

満足そうにターンエンドを宣言した少女のデュエルディスク上には、まだ表示が残されていた。

「穂香ちゃん!まだ残ってるよ!」

「あれ?なんだっけ…。
手札に加えるカードを選んでください…。あ、あったら最初に使えって言われてた魔導書の効果だよね!」

「そう!使った後に使われた魔法カードの数だけ魔導書魔法カードを持ってきて、持って来た数、以下のレベルの魔法使い族を特殊召喚できる《魔導書の神判》の効果!」

「ほのかは4枚、魔法カードを使ったみたいだから…。
《アルマの魔導書》、《グリモの魔導書》、《ルドラの魔導書》、《魔導書廊エトワール》の4枚を手札に持って来るよ!
そして、特殊召喚するモンスターはレベル3の《昇霊術師 ジョウゲン》だったよね!」[守1300]
手札:0枚→4枚

デッキから合計で5枚のカードが飛び出す。その内の4枚を手札にへと加えた穂香ちゃんは、残った1枚をデュエルディスク上へと召喚する。
召喚されると共に、杖の先端を眩く輝かせながら、僧侶が静かに佇んだ。

「このカードが居る限り、ほのかとじゃらじゃらちゃんはどっちもモンスターを特殊召喚できなくなったよ!」

「特殊召喚…できない…?」

「そう!たぶん、いっぱいモンスターが呼べないよって事だよね。
ほのかの手札が4枚に増えたから、《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の攻撃力も上がるよ」[攻3000]

デッキの動き方を教えられた時間はそう多くはなかった。しかし、穂香ちゃんは自分が予想していた以上に魔導書デッキを使いこなし、自分の物としている。

「(ジョウゲンの効果で特殊召喚は封じてる…。
魔法カードならサイレント・マジシャンで一度は無効に出来るし、サーチしていた《ゲーテの魔導書》もセット出来てる…。
私が相手でも、かなり嫌な盤面だ!)」

「ほのかは、今度こそターンエンドだよ!」



本導-LP:8000
手札:4枚


 [ターン2]


ターンが対戦相手の少女へと移った。
穂香ちゃんは出来る限りの事を精一杯やってくれた。後は、相手の出方次第となる。

「(一体どんなデッキを…?)」

「ワタシの…ターン」
手札:5枚→6枚

言葉の間に一拍置きながら話す少女は、自身のデッキからカードを引いた。

「フィールド魔法…《地縛牢》」
手札:6枚→5枚

カードが発動されると、《昇霊術師 ジョウゲン》の上空から手の形をした牢が降ってきてジョウゲンを捕えてしまう。

「なに?これ…」

「発動時…相手モンスター…対象。
このカード…ある限り、対象…モンスター…効果無効…」

「無効…使えないってことだよね!
この人の効果が無効になったら…特殊召喚できない効果が無効化されて…。
たぶんあぶない!サイレント・マジシャンは1ターンに1度、魔法の発動を無効に出来るから、効果を使うよ!」

サイレント・マジシャンが杖を掲げると、そこから《地縛牢》へと魔法が放たれる。白い魔法弾が牢へと触れると、ジョウゲンを封じた手そのものが静かに消滅していった。

「フィールド魔法は、発動が無効にされると墓地に送られる…。
これで、ジョウゲンの効果は無効化されない!」

「使って正解だよね!」

「なら…チューナー…《地縛囚人 ライン・ウォーカー》…召喚」[攻800]
手札:5枚→4枚

黒い体にオレンジ色の文様を走らせたモンスターが、地面を突き破り鉄枷のついた巨大な両手を振るった。

「召喚時…墓地…《地縛牢》…手札に加える…」
手札:4枚→5枚

「また使われちゃうってこと!?
もう一回《魔導書の神判》発動しとくよ!効果はさっきと一緒!」

「《地縛牢》…発動。
対象…《昇霊術師 ジョウゲン》」
手札:5枚→4枚

再びジョウゲンの周りへ巨大な手が現れて封じ込める。

「《ゲーテの魔導書》発動だよ!墓地から魔導書を3枚除外して、じゃらじゃらちゃんのカード1枚を除外できる!
この手のやつを除外するからね!」

穂香ちゃんがジョウゲンを囲む《地縛牢》を指差すと、それは異次元へと吸い込まれてフィールドから姿を消した。

「なくなったから無効にされてないよね!」

「すごい…(しっかりカードを使ってジョウゲンを守りきった…。)」

梨沙の目の前に居るのは、既に初心者ではない。立派なデュエリストの一人となった穂香を前に勝利の兆しが見えてきた。

「ほら、お姉ちゃんに教えてもらったから!ほのかビギーナズラックになれたでしょ?」

「うん、すごいよ穂香ちゃん!(なる物ではないけど…。)
でも、大抵のデッキは特殊召喚が出来ないと展開を進められない…。
あの子が2度に渡って、ジョウゲンを無効化しようとして来たのが何よりの証拠!」

静かに佇む少女は、左手に持つ4枚の手札から1枚を抜き取り、先程と同様フィールドゾーンへと発動した。

「フィールド魔法…《地縛牢》…発動」
手札:4枚→3枚

「な、2枚目…!?」

「それまだ持ってたの!?」

三度発動された2枚目の《地縛牢》は、今度こそ《昇霊術師 ジョウゲン》を捕え切る。

「ほのか…使えるカードもうないよ…?」

「(まずい…穂香ちゃんは伏せカードも全部使い切ってしまった…。
この状況で相手に展開を許したら…)」

穂香ちゃんが好調だっただけに反動が大きい。
階段を登る様に段々と安心していった心が見事なまでに崩れ去ってしまう。
まだ分からないが、穂香ちゃんが傷を負ってしまう可能性が大幅に上がったのだ。
もし、サイレント・マジシャンを突破されるようなことになれば、命すらも危うくなる。
デュエルの開始までに、覚悟はしてきたつもりだった。しかし、穂香ちゃんの見せた予想以上の展開にどこか安堵してしまった自分が居た…。
いよいよ、相手が穂香ちゃんのライフを削りきらない事を祈るだけになってしまった。

「(でも…フロアに入った人は一度も外に出ていない…)」

嫌な想像ばかりが頭を巡る。今、自分がすべきことは、穂香ちゃんを応援する事。
例え、他に使えるカードがなかったとしても…自分が諦めてしまえば、それは穂香ちゃんにそのまま伝わってしまう。

「穂香ちゃん…気をつけて。
…来るよ」

「フィールド魔法…ある時…《地縛囚人 ストーン・スィーパー》…特殊召喚」[守1600]
手札:3枚→2枚

うねるように黒い体表に水色の文様が走る魚らしきモンスターが、尾の近くに枷を付けてフィールドに現れた。

「《異界共鳴-シンクロ・フュージョン》…発動…」
手札:2枚→1枚

「シンクロ…フュージョン…?」

シンクロと融合の名を含んだカード。梨沙の背筋に寒気が走る。

「レベル3…ライン・ウォーカー…レベル5…ストーン・スィーパー…素材に。
シンクロモンスター…融合モンスター…同時に…呼び出す…!」

「一組の素材でシンクロと融合を…!?」

「す、すごいの…?」

状況を飲みこめていない穂香ちゃんは、自分の焦りをそのまま受け取った様に困惑と焦燥を顔ににじませた。

「2体で…シンクロ。

現れろ…レベル8…《地縛戒隷 ジオグリフォン》」[攻2500]

地面が隆起したかと思うと、そこから体に黄色い文様を走らせた巨獣が現れる。黒い翼を広げそれは空中へと飛び立った。

「続いて…融合。

現れろ…レベル6…《地縛戒隷 ジオグレムリーナ》」[攻2000]

両腕を木枷で拘束され、体中を黄色い文様が走り鎖で縛られた一角の魔獣が現れた。

「グレムリーナ…特殊召喚時…デッキから…《地縛囚人 グランド・キーパー》…手札に…」
手札:1枚→2枚

グレムリーナが身動きの取れない体をよじらせうめき声をあげると、デッキから1枚のカードが飛び出る。

「《地縛牢》…効果…。
地縛モンスター…追加で…召喚…出来る。
チューナー…《地縛囚人 グランド・キーパー》…召喚」[攻300]
手札:2枚→1枚

下半身を石柱に囚われ、両腕らしき部位がその石柱と鎖で繋がり、紫色の文様を走らせたモンスターが出現する。

「グランド・キーパー…召喚時…レベル5以下…墓地の…ストーン・スィーパー…特殊召喚」[守1600]

地面から這い出して来るように、ストーン・スィーパーがうねうねと泳ぎながらフィールドへと現れる。そして、2体の囚人が地面より飛び出した鎖に体を縛られ地面の中へと引きずり込まれていく。

「レベル1…グランド・キーパー…レベル5…ストーン・スィーパー…チューニング。
シンクロ召喚。

現れろ…レベル6…《地縛戒隷 ジオグレムリン》」[攻2000]

引きずりこまれた先の地面が盛り上がり亀裂が走ると、そこから両腕と両足それぞれが鎖で繋がれ、水色の文様が体を走る二つの角を生やした魔獣がうめき声をあげながら現れた。

「ジオグレムリン…サイレント・マジシャン…対象に…効果発動…。
アナタ…選べる…。サイレント・マジシャン…破壊するか…その攻撃力分、ワタシのライフ…回復させるか…」

少女は右手の指を一本ずつ立てていき、二つの選択肢を提示した。

「サイレント・マジシャンを破壊するか…じゃらじゃらちゃんのライフを3000回復させるかって事?」

「そう…」

相手へと選択を迫る効果。この状況でサイレント・マジシャンを破壊されてしまうのは攻撃を守るモンスターを失い、死に直結する。

「ほのかが選べるんだよね…。
強い人やられたくないから、回復する方を選ぶよ」

「なら…ワタシ…3000…回復…」

ワルトナーLP:8000→11000


「(追加で呼び出したシンクロモンスターも攻撃力はサイレント・マジシャンを上回ってはない…。破壊効果も穂香ちゃんに選択させて結局破壊が出来ていない…。
何が目的なの…?)」

展開を続ける少女だが、一向にサイレント・マジシャンの打点を超えるモンスターを呼びださないのだ。除去効果も、不確定なもので表情や言動からも意図が読み取れない。

「(それともまだ何か呼び出すつもりなの…?)」

募る不安の感情と、手出しのできない状況にもどかしさを感じる。

「次は…何するの?」

穂香ちゃんが少女へ次の手を問うと、口枷を付けたグリフォンが籠ったうめき声をあげた。

「ジオグリフォン…自分、相手ターン…墓地…地縛モンスター…特殊召喚…できる」
《地縛囚人 グランド・キーパー》…特殊召喚」[守300]

地面へと縛られたグランド・キーパーが頭部のみをフィールドへ覗かせた。

「そして…レベル1…グランド・キーパー…レベル6…ジオグレムリーナ…チューニング。
シンクロ召喚。

現れろ…レベル7…《ダーク・ダイブ・ボンバー》」[攻2600]

少女の背後から爆発音と共に、茶色の装甲に覆われ、まるで爆撃機かのように武装したロボットが飛び出してきた。

「(融合モンスターを素材にシンクロモンスター…?)」

「バトル…フェイズ…」

そう宣言されると少女のフィールドのモンスターが臨戦態勢へと移行する。

「でも、じゃらじゃらちゃんのモンスター達より、ほのかのサイレント・マジシャンの方が攻撃力は上だよ!
攻撃されても大丈夫!」

自信ありげにそう言う穂香ちゃんは胸を張る。

「(いや…フロア主がこのまま何もしないなんてことはないはず…。
きっと呼びだしたモンスター達に使われていない効果が…)」

考えた予感は的中し、二角の魔獣が苦しそうな唸り声をあげる。

「自分…相手…バトルフェイズ…《地縛戒隷 ジオグレムリン》…効果。
フィールドの…ジオグレムリン…墓地の…ジオグレムリーナ…2体除外…融合…。
融合召喚。

現れろ…レベル10…《地縛戒隷 ジオグラシャ=ラボラス》」[攻3000]」

水色と黄色の文様が体を走る雌雄の魔獣が渦に飲み込まれると、フィールドを黒い大気が包み込む。
それを振り払うかのように少女の頭上へと唸り声と共に、体にオレンジの文様が刻まれた巨獣が姿を見せた。巨大な翼を広げた犬の様な頭部を持つそれは、鋭い爪を振るいフィールドへと呼び寄せられる。

「攻撃力3000…!?」

「ジオグラシャ=ラボラス…《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》…攻撃」

「でも、攻撃力が同じの時は相打ちでどっちも破壊されるんだよね…!」

「ダメージステップ…開始時…効果発動」

ジオグラシャ=ラボラスが巨大な翼を羽ばたかせると、黒い瘴気が穂香ちゃんのフィールドのサイレント・マジシャンを襲った。

「な、なに!?」

「戦闘する…相手…攻撃力が…0になる…」

瘴気にあてられたサイレント・マジシャンの攻撃力が一気に0まで減少すると、巨獣が枷で封じられた口元から紫色に鈍く輝き、不吉に揺れ動く光線を放った。

「まずい…!穂香ちゃん…!!」

放たれた穢れはサイレント・マジシャンを貫通し、穂香ちゃんの元へと到達する。一気に3000ものダメージが幼き体にへと刻み込まれてしまう。

「お、お姉ちゃん…」

こちらへと顔を向けた少女の表情が苦悶のものへと変わっていく。声にならない悲鳴を上げた少女は攻撃が終わると、延々と咳きむせ続け胃の内容物を地面にへと吐き出してしまう。

「ごほっ…げほっ…おぇぇ……ごほっ……」

穂香LP:8000→5000


「穂香ちゃん…!?大丈夫…!?」

その光景は黙ってみて居られるようなものではない。即座に彼女の元まで駆け寄り、背中をさすり容体を伺う。

「お…ごほっ…お姉ちゃん…だい…げほっげほっ…大丈夫だから…」

「今は無理に喋らないで…」

目に涙を浮かべる少女は咳き込みながら、己の無事を伝えてくれる。
そんなこちらを意に介さないように対戦相手の少女は効果処理へと移った。

「相手…モンスター…破壊された場合…ジオグラシャ=ラボラス…の効果で、相手フィールド…カード…全て破壊…」

鋭い鉤爪の巨腕を振るうと、そこから放たれた瘴気がフィールドの《昇霊術師 ジョウゲン》と《魔導書院ラメイソン》を飲み込み、破壊する。

「ごほっ…げほっ…《魔導書院ラメイソン》が破壊された時…ごほっ墓地の魔導書魔法の数以下のげほっ…レベルの魔法使い族を特殊召喚できるよ…。
ほのかは、デッキからピエロさんをげほっ…特殊召喚…!」[守0]

穂香ちゃんがむせ込みながらも、破壊されたカードの効果を処理する。フィールドへは小さなボールの上に乗り、紫の服に身を包んだピエロ、レベル1の《ジェスター・コンフィ》が特殊召喚された。

「穂香ちゃん…」

こんなにまでなっても、彼女はデュエルへの意欲を失っていない。苦しそうに咳き込む彼女はとても痛々しい。
しかし、彼女がここまでしてデュエルを続ける意思を自分が折る訳にはいかなかった。それに、彼女が倒れたとして…対戦相手の少女が攻撃をやめる事はきっとあり得ないのだから。

「ほのか…まだげほっ…負けないから…!
お姉ちゃん…離れててね…」

「…分かった。穂香ちゃんが勝つのを信じてるよ。
応援してるから…!」

「…うん!」

口惜しくも彼女の元からゆっくりと離れる。

「倒せない…か…。
《地縛戒隷 ジオグリフォン》…《ジェスター・コンフィ》…攻撃」[攻2500]

2体目の攻撃が宣言されると、ジオグリフォンが飛び立ち《ジェスター・コンフィ》を一瞬で刈り取り破壊してしまった。

「(まだ…あと1体残ってる…)」

少女のフィールドには《ダーク・ダイブ・ボンバー》が残されている。穂香ちゃんのライフはまだ残るが、このモンスターの攻撃力も2600とかなり大きい…。
少しでも彼女への衝撃が少ない事を祈るしかない。

「《ダーク・ダイブ・ボンバー》…ダイレクト…アタック」

爆撃機が起動し、体の至るところからミサイルが穂香ちゃんの元へと向かっていく。
咳き込む少女は、爆発にへと飲み込まれた。

穂香LP:5600→2400


爆風によりドレスの少女が吹き飛ばされる。

「穂香ちゃん…!」

咄嗟に飛ばされてきた彼女を受け止める。弾き飛ばされた小さな体を傷だらけの体では抑えきる事が出来ず、共に後ろへと倒れ込んでしまう。

「ぐぁっ…穂香ちゃん…。
穂香ちゃん!大丈夫…!?」

自身の手の中で目を閉じる少女。爆発によりその体は熱を持っており、散った煤で顔が黒く汚れ、ツインテールの髪留めは焼き切れたのか無くなっている。
ゆっくりと揺すりながら声をかけると穂香ちゃんは目を開いてこちらを見つめる。

「お姉ちゃん…?」

「穂香ちゃん!大丈夫?」

「ちょっと痛くて…熱かったけど、大丈夫…。
お姉ちゃんありがとう…」

そう言って穂香ちゃんはゆっくりと立ち上がると、咳き込む。
少しふらつきながらも、しっかりと地へ足をつけ再び少女の前へと向き直った。

「ワタシ…これで…ターンエンド」

少女がターンの終わりを宣言すると同時に、デュエルディスク上に何かが表示され、それを見た穂香ちゃんが頬を緩ませる。

「使ったの…忘れてた。
《魔導書の神判》の効果で…使われた魔法カードが4枚らしいから…。
《セフェルの魔導書》、《ヒュグロの魔導書》、《ネクロの魔導書》、《ゲーテの魔導書》の4枚を手札に持って来るよ。
手札:4枚→8枚

そして、持って来たカードの数以下の魔法使い族が特殊召喚できるから…げほっ…。
レベル3の《魔導召喚士 テンペル》を特殊召喚するよ…!」[守1000]

茶色のローブに身を包み、両手には鎖で繋がれた聖杯を持った召喚士がフィールドへと出現した。

「エンドフェイズ…終わりなら…アナタの…ターン」



ワルトナー-LP:11000
手札:1枚


 [ターン3]


ターンが移り変わると、穂香ちゃんはこちらへ顔をチラリと向けると

「見ててね…。げほっ、ここから…ほのか、勝つから…!」

苦しそうに咳き込みながら、確固たる意志を持って逆転する事を宣言する。
今出来る事は、健気に戦う彼女を信じ、応援する事のみだ。

「うん…!お姉ちゃん待ってるからね」


「ほのかの…ターン!」

弱っているはずの少女が小さな手で引き込むカードには、確かに力が込められていた。
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15 Report#37「分断」 196 2 2023-11-15 -
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17 Report#39「幼き力」 191 2 2023-11-25 -
10 Report#40「囚われし者」 150 0 2023-11-30 -
16 Report#41「傍に居てくれるから」 214 2 2023-12-05 -
21 Report#42「どうして?」 227 1 2023-12-10 -
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19 Report#44「不信」 182 2 2023-12-25 -
13 Report#45「夜更かし」 155 2 2024-01-05 -
10 Report#46「緊急回避」 147 0 2024-01-10 -
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23 Report#50「諦め切れない」 162 2 2024-02-20 -
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