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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#54「抜け道」

Report#54「抜け道」 作:ランペル

グリーンフロアのフロア主より仕向けられたアリスと穂香のデュエル…。
穂香にダメージを与えれば即座に穂香が殺されてしまう条件により、戦闘・効果ダメージを与える事無く勝利する必要があるアリス。
そして、負ければアリスが自分の身代わりになってしまう穂香もまた、何としてでも勝利しなければならなかった。



アリス-LP:8000
手札   :4枚
モンスター:《宣告者の神巫》[攻]、《神光の宣告者》[守]
魔法&罠 :なし

ーVSー [ターン1]

本導-LP:8000
手札   :5枚
モンスター:なし
魔法&罠 :なし



「《宣告者の神巫》を召喚!
召喚時効果でデッキかEXデッキから天使族モンスターを墓地へ送って、自身のレベルを墓地へ送ったモンスターのレベル分だけアップさせる。
私はEXデッキから《虹光の宣告者》を墓地に送り、レベルを4つアップよ!」
《宣告者の神巫》:☆2→☆6

緑に淀んだフロア内へと一筋の光が差し込み、白いフードを被る少女が降り立つ。
効果の発動と共に、少女は祈りを捧げ、虹色に輝く翼を広げていく。

「この瞬間、墓地へと送られた《虹光の宣告者》の効果が発動。
墓地へと送られた時デッキから儀式モンスターか儀式魔法1枚を手札に加える事が出来るわ。私はデッキから《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》を手札に!」
手札:4枚→5枚

デッキより飛び出したカードを引き抜くアリスの頭にもう一人の自分が話しかけてくる。

「(お前、いつの間にあたしのカードを)」
「ちょっと貸してもらってる。私のデッキのカードだけじゃ、穂香ちゃんにダメージを与えずに勝つことなんかできない…。
一種の賭けだけどね…」

そう言ったアリスは、手札に加えたカードとは別のカードを手に取り、デュエルディスクにへと発動する。

「儀式魔法《機械天使の儀式》発動!
機械天使儀式のレベル以上になるように手札、フィールドからモンスターを生贄に捧げる…フィールドのレベル6になった《宣告者の神巫》と、手札のレベル6の《サイバー・エンジェル-弁天-》を生贄にして降臨せよ!
儀式召喚!

レベル10!世界を守護せし女神《サイバー・エンジェル-美朱濡-》!」[守3000]
手札:5枚→2枚

浮かび上がる円陣に、2体の天使が炎となり捧げられる。
眩い光がフロア内に迸り、4つの腕を持つ天使が、光り輝く6つに分かれた羽衣を靡かせる。

「ぴかぴか…」

「ふふ、暗い所に居ると気分まで暗くなっちゃうからね。
少しでも明るく行くわよ…!
リリースされた神巫と弁天の効果を発動。
弁天の効果で、2体目の《宣告者の神巫》を手札に加え、神巫の効果でレベル2以下の天使族…《サイバー・エッグ・エンジェル》をデッキから守備表示で特殊召喚よ」[守300]
手札:2枚→3枚

ピンク色のボールのようなものがフィールドへ転がって来る。
そのボールに天使の輪が浮かび上がったかと思うと、手と足が生え小さな可愛らしい天使が青い翼で頑張って羽ばたき始めた。

「(かわいい…)」

《サイバー・エッグ・エンジェル》の姿を見た穂香の、表情がほんの少しだけ和らいだようにも見えた。
しかし、ほんわかした空気ははっとした穂香が首を横に振りすぐに収まってしまう。

「《サイバー・エッグ・エンジェル》が召喚か特殊召喚に成功した時に、デッキから《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を手札に加える事ができるわ!」
手札:3枚→4枚

儀式召喚による損失を即座にリカバリーするアリスは、再び手札に加えたカードとは別のカードを発動する。

「《儀式の準備》発動。レベル7以下の儀式モンスターをデッキから、儀式魔法を墓地からそれぞれ手札に加えられるカードよ。
デッキから《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》、墓地から《機械天使の儀式》を手札に!」
手札:4枚→5枚

「お姉ちゃんの手札…減らない…」

「減るばっかりだと、すぐになくなっちゃうデッキだからね」

勝つ見込みの薄さを悟っているのか、単純な好奇心からか穂香はアリスの減っても即座に増える手札を不思議そうに見てくる。
優しく穂香へと笑いかけ、大事な1ターン目は大詰めに向かう。

「今度はこれよ。
フィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》発動。
その効果も同時に使うわ。手札の儀式魔法《機械天使の儀式》をコストに、デッキから儀式魔法《オッドアイズ・アドベント》を手札に加える」
手札:5枚→4枚

カラフルな紙吹雪が舞い散り、アリスへとスポットライトが向けられた。

「これで最後だよ。
儀式魔法《オッドアイズ・アドベント》を発動!
ドラゴン儀式のレベル以上になるように手札、フィールドからPモンスターを生贄に捧げる…手札のレベル7の《オッドアイズ・ペンデュラムグラフ・ドラゴン》を生贄にして降臨せよ!
儀式召喚!

レベル7!その力で万物を地に伏せよ《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》!」[守2800]
手札:4枚→1枚

円陣より出現したのは二色の眼。まるで鎧かのように藍色の鱗でその身を包み込んだ龍が、地響きのような咆哮をあげた。

「グラビティ・ドラゴンは特殊召喚時に相手フィールドの魔法と罠カードの全てを持ち主の手札に戻す効果を持ってるわ。
穂香ちゃんのフィールドに魔法と罠カードはないから、不発になったけどね」

アリスのフィールドに立ち並ぶ3体の儀式モンスター。
重圧感を示すドラゴンに、異形の天使。そして、神々しい羽衣を靡かせる天使の3体が穂香を見つめる。

「つよ…そう…」

その威圧感に気圧される穂香がぽうりと零す。
そんな穂香へアリスが、立ちふさがる3体の儀式モンスターを紹介する。

「そうよー!みんな強いんだから!
《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》は攻撃力2800!
そして、それと同じ守備力の《神光の宣告者》!さらに、デクレアラーは相手の効果の発動に対して手札の天使族モンスターを墓地へ送る事で、その発動を無効にして破壊する効果も持ってるわ」

そうやって残り1枚となった手札をゆらゆらと揺らしながら穂香へと見せつける。

「最後に、《サイバー・エンジェル-美朱濡-》はさっきの2体を上回る攻撃力3000…。そして、フィールドのカードを破壊する効果を墓地の儀式モンスターをデッキに戻す事で、こっちも発動を無効にして破壊する事が出来るわ。
当然、墓地には儀式モンスターが2体送られているわ。
穂香ちゃんが全体除去のカードを使ったとしても、私は倒せないわよ。
後はおまけの《サイバー・エッグ・エンジェル》ね」

くるんと回転した《サイバー・エッグ・エンジェル》は穂香の視界に入ることはなく、妨害効果を持つ2体の儀式モンスターを前に穂香は青ざめる。

「……お姉ちゃんが…死んじゃうのは嫌だよ…」

苦しそうにそう呟く穂香に、一拍置いてアリスが優しく声を掛ける。

「穂香ちゃん、大丈夫。
私が穂香ちゃんに勝ったとしても、私は死なないよ。
そして、穂香ちゃんが私に勝てたなら穂香ちゃんはクラスⅢ以上のデュエリストって事になるわ!
気に入らないけど、フロア主の男が言っていた事もある。穂香ちゃんは自分のしたい事を決めて、頑張る。それがとっても大切な事よ。
だから、私の事なんか気にしないであなたのできる最高のデュエルを見せてちょうだい」

そう言いきったアリスは、すぐに小さく笑う。

「ふふ、まぁそんなこと言われても状況が状況よね…。
穂香ちゃんの気持ちはとっても嬉しい。でも、穂香ちゃんが私を助けようとしてくれてるのとと同じぐらい、私は穂香ちゃんを助けたいと思ってるよ…。
えーーっと…と、とにかく!少しでもデュエルを楽しんで行こう!って感じかな!?
ほら、どっちが勝っても最悪な展開にはならないはずだから!気分だけでも楽しく!こう…ほら…ね…?」

段々と伝えたい気持ちが言葉としての体裁を保たなくなっていき、アリスはあたふたし始める。
そんな姿をぽかんと見ていた穂香は、先程まで強張っていた表情を少しだけ崩し、口を開いた。

「お祈りのお姉ちゃん…変なの…」

「あ、あはは。
えっと、要するに病は気からみたいな感じ!
楽しい気分でデュエルすれば、きっといろいろな事がいい方向に向くはずだよ!」

「ほのか…助けて欲しい…けど…。
お姉ちゃんが代わりになるのは…いや…」

少しでも明るく振舞うアリスに、穂香は声を振り絞ってアリスへ想いを伝える。
アリスは、静かに穂香を見つめ、ゆっくりと言葉を交わす。

「ええ…それでいいのよ。
穂香ちゃんが、頑張る事にきっと意味があるはずだから」

「だったら…ほのか。
頑張ってお姉ちゃんに勝つ…。
出来るだけ…痛くないように…」

真剣な目でそう訴えてくる穂香。
それに少し驚いたアリスは、ふっと笑って笑顔で返した。

「うん!
前向きにデュエルする穂香ちゃんだったら、経験の差なんかひっくり返して勝てるかもしれない。もし、穂香ちゃんが勝ったら私は穂香ちゃんの意思を尊重するよ。
だから、お互い負けないようにがんばろ!」

穂香は目元に涙を溜め込み、生気の溢れた声で返事した。

「うん…!」


アリス-LP:8000
手札:1枚


 [ターン2]


「ほのかのターン…ドロー!」
手札:5枚→6枚

腕輪と鎖で繋がった黒いデュエルディスク。
そこからカードを引いた穂香の表情は、先程までの陰鬱としたものとは違った。
大切な人を守りたいという気持ち。それに突き動かされた少女の強さにアリスは内心で感嘆し、もう一人の大切な人を思い浮かべる。

「(まだ9歳…そんな風には見えないわよ梨沙ちゃん)」
「(気ぃ抜くな。この最初が肝心なんだろ?
どう誘導するか。それにこのデュエルの全てが懸かっていると言ってもいい)」
「(分かってるわよ。私の考えた唯一の勝ち筋…。
それを穂香ちゃんに悟られてはいけないわ)」

頭に響くもう一人の自分の声に耳を傾けながら、穂香の一挙一動に注目するアリス。
そして、穂香は手札から1枚のカードを発動した。

「ほのかは…

その瞬間に彼女へと襲い掛かる重圧。
体が急激に重く感じられる一瞬の違和感。

「な、なに…?」

「穂香ちゃん?どうしたの。
ほら、お姉ちゃんに穂香ちゃんのデュエルを見せて!」

励ますように柔らかく声を掛けてくるアリスに勇気を貰った穂香は、改めて手札から効果を使う。

「う、うん!
デッキからレベル6の《魔導鬼士 ディアール》を墓地に送って、手札から《マジシャンズ・ソウルズ》を特殊召喚するよ」[攻0]
手札:6枚→5枚

今度は体に異変なくカードの処理が行われる。
フィールドへと男女ペアの魔法使いの魂が青白く浮かび上がった。

「今度は…

しかし、再びカードを発動しようとすると穂香を襲う重圧。
気を抜いてしまえば、それに負けて地面に倒れてしまうのではないかと言う程の負荷は少しすれば収まりはする。

「なに…これ…?
倒れそう…」

明らかに体に与えられる違和感。
デュエルを頑張ると言ったのに、これでは集中できない。

頭を悩ませる穂香の耳へ、アリスの声が届く。

「穂香ちゃん!負けないで!」

顔を上げるとアリスが真っすぐ穂香の目を見て、何かを訴えている。

「お姉ちゃん…?」

「何があるか分からないけど…頑張るんだよね!
その何かに負けちゃだめだよ!フィールドだけをよく見て、デュエルに集中!
デュエルの楽しさに気づければ、そんなのへっちゃらのはずだから!ね!」

まるで楽しい世界に自分を誘うかのように、アリスは優しい笑顔で穂香を励ます。

「うん…。
ほのか、負けないよ。
頑張って…お姉ちゃんにデュエルで勝つから…!」

「その意気だよ!」

発動をためらったカードを手札からデュエルディスクに差し込み発動する。

「《グリモの魔導書》を使うよ。デッキから魔導書カードの《魔導書士 バテル》を手札に!」
手札:5枚→5枚

手札に加えたカードを即座に召喚するべく、手に取る。
しかし、その瞬間何度でもやって来る体への重圧。

「(負けないよ…)
《魔導書士 バテル》召喚!召喚出来た時に、魔導書魔法カードを手札に加えられる。
ほのかは……《セフェルの魔導書》を手札に持って来る」
手札:5枚→5枚

カードを使おうとする度に訪れる重力の負荷。
しかし、それも耐えられれば一瞬の出来事だ。

「(お姉ちゃんを守らなきゃ…)
《セフェルの魔導書》を使うよ。
自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、このカード以外の手札の魔導書カード1枚を相手に見せて…《セフェルの魔導書》以外の自分の墓地の魔導書通常魔法カード1枚を対象として発動できる。
このカードの効果は、その通常魔法カード発動時の効果と同じになる……。
から!手札の《ルドラの魔導書》をお姉ちゃんに見せるよ。
見た?」
手札:5枚→4枚

カードテキストを読み上げつつ、効果を処理していく穂香。
それにアリスは変わらず優しく返す。

「ええ、《ルドラの魔導書》ね。
確認したわよ」

「ありがとう。
それで、墓地の《グリモの魔導書》をまねっこして、今度は《魔導書の神判》を手札に加えるね」
手札:4枚→5枚

《グリモの魔導書》の効果をコピーした《セフェルの魔導書》の効果により魔導書のサーチが行われた。
デュエルディスクの画面で対応するカードをタッチし、デッキから飛び出したカードを手札に加え、即座に発動する。

「…《魔導書の神判》使うよ。
えっと、このカードを発動したターンのエンドフェイズに、このカードの発動後に自分または相手が発動した魔法カードの数まで、デッキから《魔導書の神判》以外の魔導書魔法カードを手札に加える。
そのあと、この効果で手札に加えたカードの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスター1体をデッキから特殊召喚…。
って言う効果だから使っとくね」
手札:5枚→4枚

穂香がゆっくりとテキストを読み上げるのと同時に、アリスは自身のデュエルディスクに映した《魔導書の神判》のテキストに目を通す。

「(使った数だけサーチ…使い切ったとしても次のターンの準備がばっちりって事ね。
しかも、モンスターのリクルートまで…というかこれ魔法使い族ならなんでもいいの…?)」

その性能の高さに驚いている間に、穂香は次の手に移る。

「《マジシャンズ・ソウルズ》と《魔導書士 バテル》を使って
リンク召喚!

《魔導原典 クロウリー》!」[攻1000]

リンク召喚が行われ、頭から角を生やした人が入ったガラス管がフィールドにへと出現する。

「呼んだら、デッキから魔導書カード3種類選んで、お祈りのお姉ちゃんに裏側で1枚選んでもらうの。それで、選んでもらったカードを手札に加えられるって」

「なるほど…ランダムのサーチ効果ね」

「ほのかは、《アルマの魔導》、《ネクロの魔導書》、《ヒュグロの魔導書》の3枚を選ぶよ。お姉ちゃん1枚選んでね」

「じゃぁ、これにするわ」

デュエルディスクの画面に表示された裏側のカード3枚の中から1枚をタップすると、穂香のデッキから1枚のカードが飛び出した。

「ありがとう。
手札に加えて……。よし、手札の《ルドラの魔導書》、《ヒュグロの魔導書》、《ゲーテの魔導書》をお姉ちゃんに見せるよ。見えた?」
手札:4枚→5枚

「何かのコストかしら?
ええ、見えたわよ」

「うん!
見せたから手札からしょーかん《魔導法士 ジュノン》」[攻2500]
手札:5枚→4枚

デュエルディスクへと召喚されると、白い魔法着を着た桃色髪の女性が手元の淡い緑色に輝く魔導書を広げ、フィールドにへと現れた。

「これは…穂香ちゃんのエースモンスターかな?」

「うん、少しお姉ちゃん痛いかもだけど…。
ごめんなさい…」

申し訳なさそうに声がだんだんと小さくなる穂香。

「気にしなくていいわよ。
穂香ちゃんが少しでも楽しくデュエル出来てるのが一番だもの」

声色仕草共に明るく振舞うアリスは、穂香の展開を待ち望むかのように目を光らせる。

「う、うん…!
《ゲーテの魔導書》を使う。
墓地からアルマとセフェルと神判の魔導書カード3枚を除外して発動するよ!」
手札:4枚→3枚

発動された魔導書がアリスのデュエルディスクにへと表示された。
その効果を確認したアリスは慌ててその発動を妨害しようとする。

「(墓地コスト3枚…。
対象を取らない除外効果!?)
さすがにそれは通せないわね!
《神光の宣告者》の効果を発動よ!
手札の天使族《宣告者の神巫》を墓地へ送って、《ゲーテの魔導書》の発動を無効にして破壊する!」
手札:1枚→0枚

異形の天使が、発動された魔導書に向けて光線を放つ。
それにより、《ゲーテの魔導書》は効果を適用することなくぼろぼろと朽ちていく。

「これでうにさんはもう効果が使えないよね。
《ヒュグロの魔導書》をジュノンを対象に使うよ。攻撃力が1000アップ!」[攻3500]
手札:3枚→2枚

「(うにさん…?)
これで攻撃力が私のモンスター達を上回った訳ね…。
でも、ジュノンの破壊効果を使っても美朱濡の効果で無効に出来るわ!」

「だったら先に倒さないと…。
《ルドラの魔導書》使って、魔法使い族の《魔導原典 クロウリー》を墓地に送ってほのかは2枚ドローできるよ。
ドロー」
手札:2枚→3枚

フィールドへと浮かび上がった赤く朱色に発光する魔導書の力により、ガラス管の中のモンスターが魔力を吸い取られ魔導書と共に姿を消す。
ドローした2枚のカードを確認した穂香はバトルフェイズに移行した。

「バトルフェイズだよ。
少し痛いかもだけど…ごめんなさい。
《魔導法士 ジュノン》で、そっちのきらきらしてる天使さんを攻撃だよ!」[攻3500]

「攻撃を止める術はないわね…そのまま通すわよ」

ジュノンが手元の淡く緑に発光する魔導書を開き呪文を唱える。
それにより、輝く光弾が《サイバー・エンジェル-美朱濡-》に向けて放たれる。
6つに分かれた羽衣で光弾を防ごうとするも、衣に触れた瞬間に眩く発光した光弾は弾け飛ぶ。
それにより、美朱濡が破壊され抑えきれなかったダメージがアリスを襲った。

「まぶし…!?
うわっ!」


アリスLP8000→7500

咄嗟に強い光に対し、目を閉じるアリス。
瞼の裏に先ほどの発せられた光の残像が、緑を基調に映りこむ。
ゆっくりと目を開けると、変わらず薄暗い緑色の照明に照らされたグリーンフロアと、穂香の姿が映った。

「お姉ちゃん…!
大丈夫…?」

穂香はとても心配そうに、自身の攻撃宣言によるアリスへのダメージを気にしている。

「大丈夫よ穂香ちゃん。やるじゃない。
まさか美朱濡がやられるなんてね」

「まだだよ…。なんか使えるからジュノンの効果を使うよ!
相手モンスターを戦闘破壊したから、《ゲーテの魔導書》を手札に加えるよ」
手札:3枚→4枚

「(《ヒュグロの魔導書》の効果で付与された効果か…。
ゲーテは確か対象を取らない除外カード…厄介ね…)」

デュエルディスクの表示に従うまま、付与効果をあまり理解せずに使った穂香は手札の1枚をアリスにへと公開し始めた。

「バトルフェイズ終わって、ジュノンの効果だよ。
手札か墓地から魔導書1冊除外して、カードを破壊できるの。
ほのかは手札から《トーラの魔導書》を除外して、お姉ちゃんのうにさんを対象に破壊するよ」
手札:4枚→3枚

「惜しいね穂香ちゃん。
光属性が戦闘か効果で破壊される場合、代わりに墓地から《機械天使の儀式》を除外できるのよ」

ジュノンが呪文を唱えると、《神光の宣告者》が白い光に包み込まれる。
しかし、光が散って行った後も《神光の宣告者》はその場に顕在したままだ。

「邪魔して来るうにさん…どかせられなかった…。
じゃぁ、ほのかはカードを1枚セットだよ」
手札:3枚→2枚

カードを伏せ、ターンエンドを宣言しようとする穂香のデュエルディスクに新たな画面が表示される。

「あ、忘れてた。
《魔導書の神判》の効果で、使った魔法カードが…3枚みたい!
ほのかは《アルマの魔導書》と《グリモの魔導書》と《セフェルの魔導書》の3枚を手札に持って来るよ」
手札:2枚→5枚

「すごい、一気に3枚も手札が増えるのね!」

「それだけじゃないよ。
手札に持って来たカードは3枚だから…レベル3の《昇霊術師 ジョウゲン》を特殊召喚する」[守1300]

法衣に身を包んだ僧が、手に持つ杖を振るいフィールドへと鎮座する。

「ジョウゲン……!?
特殊召喚できないですって!?」

デュエルディスク上に表示されるジョウゲンのテキストを確認したアリスが声をあげる。

「うん、ほのかとお姉ちゃんのどっちもが特殊召喚出来なくなるんだって。
とにかく、この人を呼んでおくといいってお化けのお姉ちゃんに教えてもらったの」

「確かにこのモンスターを呼ばれるのはかなり嫌ね…」

梨沙の教えをしっかりモノにしている穂香への喜びと共に、凶悪な特殊召喚封じのジョウゲンを前にどうしたものかとアリスは頭を悩ませる。

「(でも…賭けには勝てた…)」

「これで穂香はターンエンドだよ。

………え?」


本導-LP:2000
手札:5枚


 [ターン3]


「な、なんでほのかのライフが2000に…?」

「ごめんね穂香ちゃん」
手札:0枚→1枚

「お祈りのお姉ちゃん…?」

デッキからカードを引いたアリスが、穂香へとこの状況を説明する。

「効果を言ってなかったんだけど、《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》にはもう1つの効果があるの」

「もう1つ…?」

「そう、このカードがモンスターゾーンに居る限り穂香ちゃんは500ライフを払わないと効果が使えないって効果よ」

驚いた穂香がグラビティ・ドラゴンを見遣る。
二色の眼で見つめ返してくるドラゴンは、その硬質化した尾をゆっくりと揺らしている。

「私はこのデュエル、穂香ちゃんにダメージを与える事は出来ないわ。
だから、穂香ちゃんに自らライフを払ってもらう事にしたの。さっきのターン穂香ちゃんが使った効果の数は12回。
だから、穂香ちゃんのライフは合計で6000支払われたことになったの」

提示された戦闘と効果によるダメージを与えない制約をすり抜け、ライフを減らす抜け道。
《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》の効果を知られても、除去されても瓦解するその策は、まだ続いている。
一気に敗北が濃厚になってしまった穂香は表情を強張らせる。

「そんな…ほのかが負けたらお姉ちゃんが…」

「穂香ちゃんが全力な様に、私も穂香ちゃんを助けるのに全力よ。
絶対に勝って助けるから!バトルフェイズ!」

「…!」

バトルフェイズを宣言したアリスは《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》への攻撃を命じる。

「条件は穂香ちゃんにダメージを与えない事、だから守備モンスターへ攻撃は出来る。
本当はしたくないけど…ジョウゲンをそのままには出来ない!
《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》で《昇霊術師 ジョウゲン》を攻撃!」[攻2800]

グラビティ・ドラゴンが足から発する重力場によりその巨体を浮かせる。

「ダメ…!
ドラゴンさんが居なくなったらほのか負けない…!
セットしてた《ゲーテの魔導書》を使う…よ…」

体が慣れ、あまりに気にしなくなっていた効果を使う度に体へ与えられていた重力。
この異変の原因は、攻撃宣言をしているドラゴン…。
その効果により穂香のライフがダメージを介さずに削られていく。


本導LP2000→1500

「う…墓地から《ルドラの魔導書》と《ゲーテの魔導書》と《ヒュグロの魔導書》を除外して…ドラゴンさんを除外!」

フィールドへ金色に光る魔導書が現れぱらぱらとページが捲れていく。
しかし、その魔導書は一筋の光線に撃ち抜かれぼろぼろと崩れ去って行く…。

「な、なんで…!?」

「これも引き次第では止められなかった…。
《神光の宣告者》の効果で、手札の《センジュ・ゴッド》を墓地に送って《ゲーテの魔導書》の発動を無効にして破壊するよ!」
手札:1枚→0枚

魔導書の発動が無力化されたことにより、浮かび上がった巨竜がジョウゲンへと上空から襲い掛かる。
着地と同時に土煙が巻き起こり、フィールドが見えなくなる。

「うわ…!」

次第に煙が晴れると、そこにジョウゲンの姿はなく《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》が、唸り声をあげた。

「これで特殊召喚が出来るようになったわ。
メインフェイズ2に、フィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果を発動。墓地の魔法カード《儀式の準備》と《儀式の下準備》の2枚をデッキに戻す事で、戻した数のレベルの天使族を蘇生させることが出来る。
私は、墓地からレベル2の《宣告者の神巫》を特殊召喚…!」[守300]

フィールドを紙吹雪が舞い散り、スポットライトが向けられたモンスターゾーンへと《宣告者の神巫》が静かに降り立った。

「特殊召喚時も、デッキかEXデッキから天使族モンスターを墓地に送って墓地へ送ったモンスターのレベルだけこのカードのレベルを上げられる。
効果を発動!」

「あ…使える…?
使う!《エフェクト・ヴェーラー》の効果を使うよ!」
手札:5枚→4枚
穂香LP:1500→1000

デュエルディスク上に表示された何かを見た穂香が、体に与えられる重力の負荷を無視して手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を使用する。

「《エフェクト・ヴェーラー》!?」

「墓地に送って、モンスターを対象に効果を無効にできる。
から!その天使さんの効果を無効にする!」

神巫が祈りを捧げようとすると、彼女の周囲を泡が包み込む。
それにより彼女の祈りを中断され、効果は無効化された。

《エフェクト・ヴェーラー》の発動に、アリスは一筋の汗を流した。

「(危なかった…。
メイン1で《神光の宣告者》に撃たれてたら、《ゲーテの魔導書》を無効に出来ずにグラビティ・ドラゴンが除外されてしまう所だった…。
でも…これは穂香ちゃんにデュエルで勝てって事よね)」

アリスはフィールドのモンスター2体を手に取り、穂香へとかざす。

「レベル2《サイバー・エッグ・エンジェル》に、レベル2の《宣告者の神巫》をチューニングよ!
シンクロ召喚!

レベル4!虹光魅せる宣告者《虹光の宣告者》」[守1000]

神巫が飛び上がり、まるで天使の輪の様な巨大な円陣にへと姿を変える。
その円陣へとピンク色で丸々とした天使が飛び込み、1つとなる。

虹色の光を発する《神光の宣告者》ともまた姿の異なる異形の天使が、輝きながらフィールドにへと顕現される。

「《虹光の宣告者》が居る限り、お互いの手札とデッキから墓地に送られるモンスターは除外される。そして、穂香ちゃんが何か効果を使った時にこのカードをリリースする事で…。
その発動を無効にし破壊できるわ」

《神光の宣告者》と似た姿をした新たな宣告者。
その効果は、自身をリリースしての1度きりの万能妨害効果。

穂香に残されたライフは1000。
《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》の効果により、発動できる効果は実質残り1回。その1回は、《虹光の宣告者》のシンクロ召喚により実質無効化されたも同義となった。

「これで私はターンエンドよ」


アリス-LP:7500
手札:0枚


 [ターン4]


「やっぱり…お姉ちゃんには勝てない…」

穂香がデュエルに勝つことによるアリスが守る選択はこの時点で潰えたに等しい。
デュエルに向き合っていた意識が段々と現実へと舞い戻って来る。
このまま負ければ、自分が解放される代わりにアリスがフロア主に従属を強いられる。

平気で人を殺すこのフロア主に……。

「う…うぅ……」

「穂香ちゃん…」

静かに涙を流し始める穂香。
それに声を掛ける事が出来ずにアリスは静かに見守るしかなかった。

「ほのかの…たーん……」
手札:4枚→5枚

泣きながらゆっくりデッキからカードを引く。
引いたカードもこの現状を巻き返す事の出来るカードではなかった。

「(どうしよう…どうしよう…)」

罪悪感で頭がいっぱいになって行く穂香。
そんな彼女へ、アリスが静かで優しい声色で声を掛けた。

「穂香ちゃん」

「お祈りのお姉…ちゃん…?」

「ごめんね?
こんな穂香ちゃんが苦しくなる方法しか取れなくて。
でも、私の事を信じて欲しいの。
難しいかもしれないけど…梨沙ちゃんと同じように信じて見て欲しいの」

「信じる…?」

ぽつりとつぶやく穂香に明るい声で話す。

「そう!
私はこれでもクラスⅢ。さっきの男の人とレベルは同じぐらいと認められてるからこの位置に居たわ。そんなお姉ちゃんが、同じクラスⅢの人に命を握られたからって大人しくしてる訳ないのよ?
絶対に、生きて穂香ちゃんと梨沙ちゃんにまた会いに行くから」

「でも…でも…。
怖いんだよ…?
言う事守ってても…いらなく…なったら……なったら……」



穂香の脳裏に過る頭がはじけ飛んだ少年の最期の姿。

(「なにして!?ほ、ほんきか!?
ふざけるな!やめろって!?」)

困惑と焦燥の表情、そして膨らんで行った顔…。
発声が出来なくなった刹那。
頭がはじける瞬間。
目が合ったあった目玉。
目と耳に焼き付く壮絶な死に様が、穂香の脳裏を支配する。



「(やだ…やだ…やだやだやだやだやだ…。
お姉ちゃん達があんな風になるのなんて…絶対に…)」

体を震わせる穂香が、その場にしゃがんで塞ぎ込む。

「穂香ちゃん…怖かったわよね。
穂香ちゃんは梨沙ちゃんと同じで優しいから、私の事を守ってくれようとしてるのよね。一度だけでいいわ。たった一度だけでいいの。

私は穂香ちゃんの考えるような死に方をしない。
だから、一度だけ任せてみない?」

優しく伝わる声。
脳を蝕む恐怖の感情が浄化され、穂香は顔を上げアリスの方を向く。

綺麗な髪を揺らす優しい女性の笑顔。
まるで母親の様なその柔らかな笑みに、とてつもない安心感が得られた。
怖い。怖いけれど、彼女になら託してみてもいいかもしれない。
きっと、怖い事をやっつけてまた自分とお姉ちゃんの所に来てくれる。

そんな気がした。

「分かっ…た…」

「…穂香ちゃん!」

顔を上げ立ち上がった穂香の目元は赤くはれている。
しかし、その表情には希望が残されている。

「お祈りのお姉ちゃんのこと…信じてるよ…」

震える声。
しかし、気力のこもった言葉をアリスが受け取る。

「任せてよ!」

アリスからの元気ある声を聞いた穂香が手札からカードを発動する。

「《ルドラの魔導書》を使うよ」
手札:5枚→4枚
穂香LP:1000→500

「《虹光の宣告者》の効果を使うわ。
自身をリリースして、《ルドラの魔導書》の発動を無効に!」

《虹光の宣告者》が《ルドラの魔導書》に向けて虹色の光を放つ。
そして、虹光へとその身を溶かし込みフィールドから消えると、《ルドラの魔導書》も虹色に染められその効力を失う。

「一応墓地へ送られた《虹光の宣告者》の効果で《機械天使の儀式》を手札に加えておくわ。
穂香ちゃん、もう1つ何か効果を使えばライフが0になるわ。
さっきまでの様子を見るに、体への痛みも最小限になるはずよ」
手札:0枚→1枚

変わらず優し気な笑顔を見せるアリスを前に穂香の心が安らぐ。

「(みんなが言ってたお母さんって…こんな感じなのかな?)
うん、わかった」

優しく自分を導くアリスに母親の母性の様なものを感じ取り、促されるままに手札の1枚の魔導書を手に取る。


…その瞬間に穂香の背筋に悪寒が走る。
まるで心臓を握りつぶされるかのような圧迫感を憶えた穂香は、息をするのも忘れ、恐怖で体を硬直させる。
その硬直は指先にまで及び、カードを手に取ったまま固まってしまった。


「穂香」


穂香の背後から男の声が聞こえる。
それを聞いた瞬間、少し落ち着いていたはずの彼女の体は再び小刻みに震え出す。

「随分と簡単に諦めるんだね?」

「お…とう…さん…」

「…あいつ!?」

背後より義足の音を響かせながら現れたのはフロア主の男。

「この人を助けたいと言っていた穂香の覚悟は、そのぐらいで揺らぐものだったのかい?結局の所どっちなのかな?
穂香は、自分が助かって大切なお姉さんを犠牲にするのか、それとも自分を犠牲に大切なお姉さんを助けるのか。
私にどっちなのかをもう一度、教えてくれるかな?」

「ほの…かは…」

「あなた!なんのつもり。
今更、約束を反故にしようなんて言わないでよ!」

アリスの声に男は抑揚のない声で即座に返事をする。

「そんなことはしませんよ。
私はただ、穂香がどうしたいのかを聞いているだけですから…」

それだけ言い放った男の瞳はとても冷たいものだ。
そして、全く興味がないとでも言うように穂香の方へ向き直った男が話を続ける。

「簡単な質問だよ。
穂香は自分とお姉さんのどっちが大事なのか。
別に質問によって、お姉さんと約束したルールを捻じ曲げようとしているんじゃない。
だから、正直な気持ちを言ってみなさい」

静かに淡々と会話を試みる男。
その声は、取りようによっては怒っているようにも、不快さを感じているようにも聞こえてしまう。
しかし、感情の乗っていないその声と、無表情で喋る男の心中を計るなど無理な話だ。

穂香は声を震わせながらゆっくりと男の質問に答える。

「ほのか…お祈りのお姉ちゃんには…死んで欲しくない…。
でも、ほのか勝てない…。だから、お姉ちゃんを信じて…」

心から溢れる感情をどうにか言葉として繋ぎ止め、ぽつりぽつりと続ける。
その言葉をゆっくりと男は聞いている。

「お姉ちゃんなら、死なないって…信じて。
だから………だか…ら………」

そして、穂香が言葉を詰まらせたタイミングで男が代わりに口を開いた。

「つまり、勝てないから諦めるってことなのかな?」

そう言った男はゆっくりと立ち上がる。
咄嗟に穂香は、それを否定するべく言葉を漏らす。

「ちが…」

「何が違うんだい?
さっき穂香が自分で言っただろう。大切なのはお姉ちゃんだ。でも、勝てない。
だから、お姉ちゃんの言う事を信じて任せてみようと。
そう言う事なんだろう?」

状況を的確に言語化され、穂香も言葉を続けられないでいる。
男の意図が読めずアリスも口を挟む。

「何のつもりか分からないけど…。
ここからの逆転は不可能よ」

「それはどうだろうか」

男はそう言ってアリスの方に数歩歩み寄る。
得体の知れない男にアリスが身構えると、男は再び口を開き穂香の逆転の可能性を示す。

「アリスさん。あなたは穂香にダメージを与えられない。
つまり、あなたからデュエルを終わらせることは出来ない。
あくまでこのデュエルは、効果を発動できなくなったに過ぎない」

「それが何?
効果を発動できないこの状況で、どうやってグラビティ・ドラゴンをフィールドから除去するのよ」

「つまりは発動しなければいい。
穂香のデッキには《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》というカードがある。
このカードは魔法使い族1体をリリースして特殊召喚ができ、その攻撃力は1000。そして、手札1枚に付き攻撃力が500アップする永続効果を持っている」

「…!」

男が解説する穂香の勝ち筋。
確かに、その特殊召喚が効果を介さない特殊召喚なのであれば、穂香の手札の枚数次第で《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》の攻撃力を上回る事は出来るだろう。

「けど…このターンに呼べないならそれは意味がないわ。
私のデッキには発動制限なく儀式モンスターへの攻撃を無効にできる《サイバー・エンジェル-那沙帝弥-》が居るわ。次のターンにはそれを呼ぶ準備が整う。
つまり、そのモンスターを呼べたとしてももう手遅れなのよ」

そうアリスが言い切ると、男はほんの少しだけ驚いたような表情を見せると、再び穂香の方にへと向き直った。

「だそうだ、穂香。
父さんが考えた戦略も、彼女には通じないみたいだよ」

「え…?
う、うん」

「デッキ総数も穂香の方が少ない。《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》でアリスさんはデッキを回復させることも出来るから、持久戦に持ち込んでも勝ち目はない…。
これじゃぁ、穂香が勝つのはもう無理だろうね。
残念だよ」

静かにそう穂香にへと伝える男。
穂香もアリスも男が何をしたいのかが、全く分からない。
すると、男は穂香にある提案をした。

「穂香。
例えば、今ここで負けたとしてもアリスさんが私の所に来る必要がない選択肢があったとしたら、それを選ぶかい?」

「え…?」

「なに…?」

男が穂香に提案するのは、男のメリットを全て無に帰す提案だ。
本来アリスが勝っても、人質交換的な状況にしかならないという約束の元デュエルを行ってきたはずだ。
しかし、男はアリスが勝ってもアリスが男に身柄を縛られないという選択肢を穂香に伝えている。

「ど、どう言う事…ですか…?」

「その選択肢はあるんだ。
ただ、穂香。お前の命は危険に晒されることにはなってしまう。
だが、この方法を取れば、大切なお姉さんは危ない目に遭う必要がなくなる」

「な、なんで…?」

「お父さんが、お姉さんに言う事を聞かせようとしてもそれが出来なくなるからだよ。
お父さんがどれだけ頑張ってもお姉さんは、お父さんの言う事を聞く理由がなくなってしまうからね」

男が語るそれは、遠目から聞いているアリスからしても理想的な選択肢ではある。
出来る事なら、自らも危険に晒すことなく穂香を助けられればそれが理想だ。
約束が生きている限り、アリスが勝てば穂香の身柄は解放されるはずだからだ。

「ちょっと!本当に約束破る気はないんでしょうね?
破る気がないなら…なんでそんな提案を…」

男はアリスの方を向くこともなく、冷たい声で答える。

「先ほども伝えたように、約束を反故にするつもりはありませんよ。

あなたが穂香に戦闘か効果でダメージを与えると穂香が死ぬ。
あなたがデュエルで勝てば、あなたの身柄と交換で穂香を解放。
あなたがデュエルで負ければ、あなたがここから出ていくことに私は関知しない。

この条件通りです。
その条件の中で、あなたが勝ってもあなたが私に従う必要がない方法があるのですよ」

アリスは意味が分からなくなる。
男が言う条件でどの項目を取れば、自分が男に命を握られなくなることになるのかさっぱり分からない。
しかし、確かに感じるのは男から発せられる悪意…。

その悪意の正体が掴めないもやもやだけが、アリスの頭を巡る、
そこで、穂香は表情を少し和らげフロア主の男に話しかける。

「本当…ですか?
穂香が負けても、お姉ちゃんはお父さんの所に行かなくても…いいん…ですか?」

「あぁ。
その選択肢を取れば、お姉ちゃんは私の所に来ない。
私が例え約束を破って来いと言ったとしても彼女はこちらに来てくれない。
さっきも言ったように、彼女がこちらへ来る理由がなくなるから」

選択肢…。
穂香が負けても、アリスは男の元に行かなくていい…
男がアリスを従属させることが出来なくなる…。

提示されたルールは破られずに、これらの条件が達成される…?

「(なんだ…?この男は一体何を考えて…)」

アリスが頭をフル回転させ、考え続けるがその答えは出ない。
しかし、もう一人の自分がため息を吐いたのが分かった。

「(な、なに?何かわかったの!?)」
「(あの野郎…最初からこれを狙ってたんだろうよ。
あいつはこっちが出した攻撃しないって条件にケチをつけてきた。
そして、あいつがケチを付けてきたのはここだけだった…)」

「ちょっと…何?どういうことか説明してよ?」

焦ってアリスの声が外に漏れる。
アリスがもう一人の自分へ聞く前に、穂香は決断を下した。

「お父さん…ありがとう…。
その方法を教えてください。
ほのか、お姉ちゃんがひどい目に遭って欲しくない」

「そうか。
穂香は自分より大切な人を守ろうとするんだね。
分かった、なら…

男はゆっくりとその選択肢の方法を告げた。

アリスは男の喋る言葉が、スローモーションのようにゆっくりと聞こえた。
そして、その言葉を頭の中で理解するのに少し時間が必要だった。

ゆっくりと言葉の意味を咀嚼していく。
しかし、それらを困惑の感情が阻害しなかなか理解まで辿り着かない。

「なんで……。
穂香ちゃんが…誰か…人が必要だったんじゃ…ないの……?」

男は言葉を穂香に伝えると、ゆっくりとその場を離れる。
そして、アリスの方を向いて、先程伝えた言葉をもう一度穂香にへと復唱した。



「穂香、モンスターを召喚して自爆特攻しなさい。
そうすれば、お前は戦闘ダメージを受けて死ぬルールだ。
お前が死 ねば、交換する身柄が無くてお姉さんは私の所に来る必要がなくなるからね」



男が提案したそれは…。

穂香自らの死をもって、アリスを助けられるという究極の選択肢であった…。
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コングの施し
やっぱり穂香ちゃんの自己犠牲を突いてきましたか…。

儀式メインのアリスさんのデッキで、LPにダメージを与えずにどうやって勝利まで近づくかと思っていましたが、そっか、《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》がいましたね!!私用で最近効果を確認していたにも関わらずすっかり忘れていました…。
あくまでグラビティの効果によるLPの減衰は効果発動のためのコスト、故に穂香ちゃんにそれを悟られてはいけないし、降臨直後のターンが正念場になるのも納得ですね!

ダメージを与えることができず、かつこのデュエルに勝利しなければならない。しかし対戦相手である穂香ちゃんはそれを良しとはせず、あくまでアリスさんを守る選択を取るだろうと言う予測から自爆特攻の選択肢の提示ですか…。ダメージが実体化するデュエルという血生臭い戦いの中でお互いに対戦相手の身を案じているからこそ、この選択は非常に危険かつ、効果的に見えてしまいます。本当に魅せ方がお上手です。同じ書き手として見習わなければ。

2人の想いと考えの末にたどり着くであろうこのデュエルの結末、非常に楽しみにしております!!! (2024-03-17 18:14)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます!

人質を取られてる以上、何かしら相手側にメリットが生まれるであろう提案をしなければ、相手に問答無用で穂香を殺されてしまう可能性がある…。ということで、アリス側にハンデを設けましたが、どうやってそのハンデを超えた勝ち筋を狙えるのかは結構考えました…。
穂香が初心者であるという部分に大きく依存した賭けになる今回のデュエル。効果の説明で、グラビティがただの打点要員であるように装ったり、他の2体の儀式の妨害性能をアピールして意識をそちらに向けたつもりでございます!

そんなルールに則ったアリスの戦術なので、父親側としてもルールに則った上で穂香に選択を迫っていますねぇ。仰るように互いに知っている人。こんなすぐにでも人が死んでしまう様な場所で協力的関係であった人だからこそ、この選択は双方に辛い選択を迫るものとなっています。
褒めて頂き嬉しい限りでございます!彼女たちの苦悩と、それを突く父親のやばさを伝えられて良かったと思います。

次回遂に決着!デュエル的に後は「カードを発動する」か、「召喚して殴る」かの2択。
穂香の選択は?デュエルの結末は?引き続きお楽しみにでございます! (2024-03-23 23:11)

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