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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#26「再編成」

Report#26「再編成」 作:ランペル

代わり映えのしない廊下を二人の少女が無我夢中で走り続ける。
黄緑髪の少女は、梨沙に手を引かれ何とか懸命についてくるが、限界が来たようで声を絞り出し静止を求める。

「お姉ちゃん…待って…ほのかくるしい…」

穂香の訴えに気づいた梨沙は走る速度を緩め、肩で息をしながら足を止める。

「はぁ…はぁ…穂香ちゃん、大丈夫…?」

あまり体力がないのだろう。穂香はその場にしゃがみ込み荒々しく呼吸をしている。
梨沙は先程まで走って来た廊下を目視するが、特に誰かが来ているような気配もなく殺風景な白い廊下が映し出されているだけだ。

「とりあえず、大丈夫みたい…。
ほのかちゃんしんどかったよね…」

「うん…」

「少し休もっか…危ない人たぶん近くにいないと思うから」

ショルダーバッグの中を漁り、中から袋詰めされたサンドイッチを取り出す。

「(水新しいの買っとけばよかったな…)
穂香ちゃんサンドイッチでも食べる?」

「いいの?」

「うん!食べれそうだったら食べて」

ハムと卵が挟まれたサンドイッチを受け取ると、穂香は小さな口を目一杯開きサンドイッチを頬張る。

「…美味しい」

「そっか!よかった」

一息ついたところで状況を確認する。
まず渚さんは無事なのか。そして渚さんへ連絡は取れるのか。

「とりあえず、見て見よう…」

デュエルディスクの画面を確認すると、先程のデュエルで獲得したボーナス画面が表示されていた。

   *****
デュエル勝利おめでとうございます。
以下獲得ボーナスになります。

勝利ボーナス      :10000DP
エンカウントボーナス  : 3000DP
           計:13000DP
   *****

表示されているデュエルボーナスの画面を適当にタップして物販の画面へと移行する。しかし、物販の画面は大きく赤いバツ印が表示され、下の方に小さい文字で

   *****
※フロア外での購入は出来ません。
   *****

と書かれている。

「フロアに戻らないと、渚さんへの連絡手段は得られないと…」

となると一度フロアへ戻るべきだろう。
穂香ちゃんも一緒に居る事を考えると、ある程度安全なフロアで必要な物を揃え、再度探索に出るのが良さそうだ。

その後、穂香の様子を伺いながら梨沙達はゆっくりフロアへと戻った。
黒い扉の前へと来ると扉が開かれ、薄暗いフロアの中が映し出される。

「くら…お化けのお姉ちゃんこんな暗い所に居たの?」

「うん…前まで何も見えなかったからこれでもマシなんだよ?」

「暗いのあんまり好きじゃない…」

「私も…まぁ渚さんの話によると他の所よりは安全らしいから、ね!」

この暗がりの安全性を説明し、穂香とフロアの中へと入る。

「まずは、渚さんの言ってた連絡手段…」

デュエルディスクを操作し、それらしいものがないか探す。

「あ、これかな…?」

   *****
《通話機能》10000DP
デュエルディスクを通じて他の被験者と通話をすることが可能になります。
画面右上に通話マークが表示されるようになり、対象被験者の被験者番号を入力する事で、その相手と通話を行えます。
   *****

購入すると、右上のアカウントなどがある場所に受話器のマークが追加された。押すと、3桁と4桁の数字を入力できる箇所がありその間がハイフンで仕切られている。
渚さんから貰ったメモを見ながら、番号を入力する。

「269…0141…」

番号を入力すると、よく聞く電話のコール音が鳴り始めた。

「鳥のお姉ちゃんに繋がる?」

「そのはずだけど…」

静かなフロア内にコール音が鳴り響く。しかし、どれだけ待っても渚さんが出る様子はない。

「何か間違ってたかな…それとも渚さんに何かあって…?」

しばらく待つとコール音が止み、画面に

   *****
通話が正常に行われませんでした。
   *****

と表示された。

「出ないね…」

「渚さん…」

どうしても悪い方向にばかり想像が膨らむ。
しかし、今ここで分からないことで気を病んでも仕方がないのだ。何とか逃げおおせている最中で、通話に出れる状態にないのだろう。
そう信じ込み今後の事を考えることにした。

「穂香ちゃん水飲む?あと何か食べたいものとかあったら、頼めるよ」

「いいの?お金かかるんでしょ?」

「全然いいよ。いっぱい走って疲れただろうし」

「じゃぁ、ほのかリンゴジュースが飲みたい」

「おっけー。それだけで大丈夫?」

「うん、さっきサンドイッチ貰ったから」

「分かった」

デュエルディスクを操作し、リンゴジュースと自分も食べれるサンドイッチを追加で購入した。壁から出てきたジュースを穂香ちゃんに渡すと、受け取ったジュースを実に美味しそうに飲み始める。可愛らしいその様をサンドイッチを口に運びながら眺める。

「(そうだ。今の内にいろいろ見ておこう…)」

デュエルディスクを操作し、いろいろな画面を見る。

決闘の画面を押すと、実験開始やルールの確認、フロアカスタムの確認が出来る様だった。
そして、画面の上部には何かしらのカウントダウンが示されていた。

「20:43:58……57……56…。
なんのカウントダウンだろう…?」

見る限り時:分:秒でカウントが刻まれているようだった。
少なくともカウントが0になるまでにはまだ時間があるようだったので、また渚さんに連絡が取れてから聞いてみることにする。

「(物販…カード?遊戯王のカードも売ってるのかな…」

物販のカードという項目をタッチすると、予想通りたくさんのカードが表示され上部には恐らくカード名で検索が出来る枠が備えられていた。

「(デュエルはどうしてもする必要がある…デッキの調整も兼ねていろいろ見て見よう…)」

なんの気もなく《ゴーストリック》で検索する。すると、見慣れたカード達が表示された。
しかし、その中には見覚えのないカードが何種類かある。

「見たことない子だ…《ゴーストリックの妖精》…《ゴーストリック・セイレーン》…。
《ゴーストリック・フェスティバル》?」

中でも目を引いたのが、カードの枠が藍色の《ゴーストリック・フェスティバル》だ。
見覚えはないはずだが、どこか既視感を感じられるそのイラスト。

「あれ、これなんか夢で…」

確証はないが、このイラストのような雰囲気の夢を見た気がした。

「(正夢みたいな?とにかく、私の知らない新しいカードがある…。
これは確認しておかないと…LINKって書いてるこのフェスティバル…渚さんが使ってたカードと同じ種類かな…)」

新しいカードの存在にワクワクと、ここでのデュエルへの新たな可能性を感じ新カードのテキストを確認していく。

「(これなら…出来るかもしれない…!)」

早速それらの新しいカードを購入する事を決める。レアリティによって、価格が分かれているようだが、残金から購入する分には問題なかった。

「(よし…後は他にも必要なカードを買ってと…。
残りは55400…まだ余裕はありそうだね)」

カードを購入すると、いつも通り壁が開きそこには、購入したカードが置かれていた。

「カード買ったの?お化けのお姉ちゃん」

「うん、少し試してみたいことがあるんだ…」

「試したい事?」

「確証はないんだけど…人を傷つけずにデュエルに勝てる方法があるかもしれない」

確証は得られずとも、根拠は今までのデュエルで手にしている。
実際に傷や痛みとなって表れていたのは全てダメージだった。しかし、ライフが減ることが現実へのダメージに反映されていたわけではないのだ。
ライフコストを支払った場合には、ダメージには変換されていない。なら、ダメージさえ与えなければ…?

「(例外と言えば例外だから…本当に確証は持てない…。
でも…もし私の想像が正しければ、試してみる価値はある!)」

EXデッキから《ゴーストリックの駄天使》を手に取り、そのカードを見つめる。

「力を…貸してね」

新たなカードと共にデッキへと収め、デッキの調整を始める。

「何してるの?」

「試したい事がしやすいようにデッキを調整してるの。
改造?って言うと分かりやすいかな?」

「ふ~ん、ほのかもそれする」

「そう言えば、穂香ちゃんはどんなデッキなんだろう」

「分かんない。お化けのお姉ちゃんなら分かる?」

穂香は左腕のデュエルディスクから、カードの束を取り出すと、カードの内容が分かるように広げた。

「魔法カードが多いかな…?
《魔導書》…」

「本がいっぱいだね」

「魔導書って魔法カードが多いデッキだね…。
(私も詳しくは分からないな…)」

「これどうやって戦えばいい?」

「そう言えばやったことないなら、ルールもあんまり分からないよね。
お姉ちゃんが教えるから一緒に勉強しよう」

「難しい?」

「う~ん………上達するのはかなり難しいと思うけど、とりあえず基本とこのデッキの使い方だけに絞れば難しすぎるってことはないと思う!」

「てことは、難しいんだね…」

梨沙の懸命な遊戯王へのフォローも、穂香にはその難解さを見抜かれてしまう。

「ちょ、ちょっと複雑な部分がどうしてもあるからね…。
でも!お姉ちゃんがしっかり教えるから!」

「うん、分かった」

穂香は頷き、広げたカードの中から1枚のモンスターを手に取る。

「まどうほうしジュノン?この人綺麗だね」

「確かに、綺麗なモンスターだね。
ステータスは2500と2100…このデッキのエースモンスターなのかもしれないね」

「エース?」

「うん!デッキの主役ともいえるカードの事だよ。
私のデッキで言うと…この子《ゴーストリックの駄天使》!」

「あ、さっきいっぱい見たよ。ほのかに手も振ってくれたの」

段々と声の抑揚が高くなっていく穂香ちゃんは、楽しそうに目を輝かせていた。

「とってもかわいいんだ。それにすごく優しいの」

「そんな気がするよ」

「ふふ、それじゃぁまずはルールから!」

「おー」

どこか楽しい…そんな二人のやり取りは暗がりでひっそりと行われた。


 ---


「こんな所かな?」

「難しい…」

「とにかく手札に魔導書を集めて、ジュノンを呼び出す!
最初の内はそれが出来れば上出来だよ!」

「うん、ジュノン呼ぶ」

「その意気だ!
(デッキの調整もひとまず出来た…)」

幸いなことに穂香ちゃんへのルール説明と、自身のデッキ調整を行っている間にフロアへデュエリストがやってくることはなかった。

準備が出来た事で、梨沙は渚から聞いた情報を元に、再びアリスを探しに行こうとする。

「穂香ちゃん…私は今からもう一回外に出て、ブルーフロアを探して来ようと思うの。
お姉ちゃんが探してる人がそこに居るかもしれないから」

「アリスって人?」

「そう、もしかしたら危ないかもしれない…。
でも、穂香ちゃんを一人で置いていく訳にはいかないの。
絶対に守って見せるから、一緒についてきてくれる?」

「ほのか一緒じゃなきゃやだよ?お留守番は怖い」

表情には現れないが、内へと秘めた感情は惜しげもなく外に出してくれる。

「それに、お化けのお姉ちゃんが教えてくれたから、ほのかももうデュエル出来るし」

変化に乏しい表情とは違い、両手を高く伸ばす穂香はやる気に満ち溢れている。

「あはは、頼もしいね。
でも、危ないから一緒に居る間はお姉ちゃんがデュエルするからね」

「ほのか始めたばっかだもん。お化けのお姉ちゃんのデュエル見て勉強する」

「うん、何か役立ちそうな事があったら自分の時にも使ってみてね」

「おー」

追加で購入した水とリンゴジュースを鞄に詰め込み、黒い扉の前へ二人で向かう。

「青い所どうやって探すの?」

「今度はまっすぐ行ってみようと思ってる。
右側は途中までしか行ってないけど、まだ行ったことない方が何かある気がしてね」

「まっすぐだね。分かった」

二人の少女は手を繋ぎ、無機質な廊下を正面に歩いていく。
壁際とは違い、前後左右至る所に曲がり道のある正面のルートは、きちんとメモをしていかないとすぐに自分がどこに居るのかが分からなくなってしまいそうだった。

「ずっと真っ白」

「うん…こんな何も目印がない所をどうやって移動してるんだろう…」

他の人がどうやってこの無機質で代わり映えのしない空間を移動してるのかが自然と気になる。

「(何か知ってる人にだけ分かる目印とかがあるのかも…。渚さんやアリスさんと会えたらまた聞いてみよう)」

敵対する誰かがいないか、左右の曲がり道の度に警戒しながら、当て所なく白い廊下を歩き続ける。
何度か曲がりつつも、ブラックフロアの正面に位置する道を進んでいくと、穂香が何かに気づき梨沙へ声を掛ける。

「お化けのお姉ちゃん。他と違う所あるよ」

「え?」

穂香は繋いでいた手を離すと、少し先の廊下へ走って行ってしまう。

「ほ、穂香ちゃん!危ないよ」

「こっちこっち」

何かがあるであろう場所から、手招きをする少女の元へと駆け寄り、共に該当の場所を覗くと確かに、他の場所とは違う壁を見つける。

「オレンジ色の扉…」

「なんだろうね」

少し離れた位置からその扉を凝視する。

「(オレンジ色…オレンジフロアの扉って事かな…?
でも、グリーンフロアに行く途中のような、エリアの境界線の様なものはなかった。こんなすぐ近くに別のフロアが用意されているの?)」

答えのない疑問が頭の中を巡る。穂香が梨沙のシャツの袖を引く。

「もっと近くで見て見る?」

「そうだね…分からないことはしっかり調べないと…」

扉のある廊下の左右に誰もいないことを確認してから穂香ちゃんの手を引き、ゆっくりとオレンジの扉へと近づいていく。扉は自分がいたブラックフロアの扉と構造が酷似しており、そっくりそのまま色を塗り替えただけの様な形状をしている。

「扉の感じはやっぱりフロアの入り口っぽいよね…」

しかし、どうしてもグリーンフロアのあるエリアへ踏み込んだ時に境目があったのが気になる。他のフロア間も同様に境界線が敷かれているのだとしたら、このオレンジの扉がある位置は異質に思える。

「覗くだけ覗いてみよう。
案外フロアとは関係ない所だったりするかもしれないし…!」

なんとか思考をポジティブな方向へと持っていき、オレンジの扉の先を確認する事にしてみる。

「じゃぁほのかが開けるよ~」

穂香は梨沙の、何とか導いた結論を即座に実行すべく扉へと近づく。

「あ、いや危ないから私が…

梨沙の静止も空しく穂香を前にしてオレンジ色の扉が開かれる。
開かれた扉の先はあまり広くないオレンジに塗りたくられた空間だった。自分と穂香ちゃん、後一人か二人入ればいっぱいになってしまう程度の広さ。自分がいたフロアの広さを考えると別のフロアとは考えづらかった。

「エレベーターみたいだね」

穂香は、中に誰もいないのを見て中へと乗り込む。

「確かに…エレベーターはしっくりくるかも」

穂香に釣られるように扉の中へと片足を踏み入れる。

その空間の正面の壁には、ディスプレイが貼り付けられており何かしらの記号の集まりが表示されている。中央にオレンジ色の丸が描かれそこから線が6色の四角形にそれぞれ伸びている。
また、各色の四角形からも、左右の四角形へ線が伸びている。

    *****
   紫 ―― 白
  / \ / \
  青―― ◯ ―― 黒
  \ / \ /
   赤 ―― 緑
    *****

「これは…ここの地図かな?」

「お店とかで見るのに似てる」

そして、画面上の黒色の四角形の部分で赤色の点が点滅しているのも分かる。

「この赤い点滅が現在位置ってことか…」

「お姉ちゃんこっちの壁になんか書いてるよ」

穂香が右側の壁に文字と、下矢印のボタン、両方に矢印が向いた2つのボタンがあるのを見つけた。

「シェルターへ向かう場合は〈↓〉を…。
対角のフロアへと向かう場合は〈⇔〉を押してください…か…」

「鳥のお姉ちゃんの言ってたシェルターに行ける所なの?」

「みたいだね。それと、反対のフロアにも行けるみたい。
ここから行くとなると青色の所に行けるのかな」

再び正面のディスプレイに表示されたマップを確認する。
確証はないが、この表示のされ方はこの実験場の地図と思ってまず間違いないだろう。ブラックフロアから出て左方向に行ったらグリーンエリアだった。地図上でも、黒の左側に緑がある。脳内のここの地形とも相違はない。

「(青色の四角形…ここがブルーフロアだとしたら…)」

「お姉ちゃん反対側行くの?」

「え?」

「さっき言ってた探してる人、青い所に居るんでしょ?
なら反対行ったらすぐだよ」

「私もそう思う…。危ないかも知れないけど行ってみようか…」

「その為に外に出たんだから」

「うん、穂香ちゃんが危ない目に合うようなことにはさせないから!
そこは安心していいよ」

「お姉ちゃん優しいから、一緒なら大丈夫だと思う」

小さな手で自分の手を握って来る。一度はこの小さな手に助けられたのだ。
その手を優しく握り返し、必ずここから出る事を改めて心にへと誓う。

「うん!一緒にお家に帰ろう!」

「うん…!」

一瞬、少女の顔に曇りが見えた気がしたが、声の抑揚は高かった。
あまり表情の変わらない子だ。きっと気のせいだったと、脳がそう処理した。

廊下へ残していたもう片方の足をオレンジの個室へと導き、両方向に矢印の向いたボタンを押す。
ボタンを押すと共に、扉が閉じられ二人を乗せた箱が前方向へゆっくりと動き出すのが感じられた。

「前に動くエレベーター…変な感じ…」

余り経験のない感覚を体感しながら、揺られている。
しばらくすると、箱はゆっくりと速度を落とし、静止した。

「もうついたの?」

「みたいだね」


ピー


自分が居たフロアでも聞いたことのあるブザーが鳴り、目の前の扉が開かれた。

開かれた扉の先は、先程まで見ていた光景とほぼ変わりがなかった。
無機質で静寂で真っ白な廊下が左右と前に伸びているだけだ。

「本当に景色が変わらないね…」

オレンジの扉から顔だけ覗かし左右の廊下に人影がないかを確認する。

「よし、人影はなし…。穂香ちゃん、降りよう」

「どっちに行くの?」

「また真っすぐ行こう。
(ブラックフロアから直線上にこのエレベーターがあった…。地図を見た限り対角線にあるブルーフロアも、同じような地形になってる可能性は高い気がする)」

「真っすぐだね。分かった」

二人はゆっくりとブルーフロアを目指し歩みを進める。
しばらく歩いていると穂香が梨沙へアリスの事を訪ねてきた。

「お化けのお姉ちゃんの探してる人ってどんな人なの?」

「んとね、優しい人だよ。私の事を助けてくれたんだ」

「どんなふうに?」

「う~ん、説明が難しいんだけど…。穂香ちゃんが私を助けてくれたみたいな感じだよ。
ここのいろいろな事が怖くて怖くて、怯え切ってた私に優しく声を掛けてくれて、ケガの治療もしてくれたの。私がこうやって生きてるのも外に探索に出る勇気を持ててるのもその人のお陰。
あの人が居なかったら私…」

暗闇の中で、いつまでも恐怖におびえ続ける自分の姿を想像してしまう。

「ま、まぁ!とにかく私の命の恩人と言っても過言ではない人!」

「そうなんだ」

足の疲れを紛らわすべく、雑談も織り交ぜつつ目的の場所を目指す。
歩いている内に梨沙は、異変に気付く。

「………?」

突如、その歩みを止めた梨沙に釣られて穂香も足を止める。

「ん、どうしたのお姉ちゃん」

「多い……」

「なんの話?」

事態を飲みこめていない穂香は困惑するばかりだ。
しかし、異変に気付いてしまった梨沙は内から湧き上がる動揺を何とか抑えようと必死だ。


「(足音が一人分多い…)」


即座に後ろを振り返るが、そこには何もない。自分達が歩いてきた廊下があるだけだ。

「なに?誰かいるの?」

「う、ううん。居たらいけないと思って振り返っただけだよ…。
行こうか…」

再び歩き出す。すると、手を繋いだ少女の足音と、自分の足音が静寂に響き始める。
しばらくすると、その足音に混ざって、もう一人分の足音が聞こえ始めた。

「…!(勘違いじゃない…やっぱり誰かにつけられてる…!?)」

もう一度、歩きながら後ろを振り返る。

「なんで…」

振り返った先には誰もいない。
しかし、足音は続いているのだ。

異様な事態に足が自然と歩みを止めてしまう。
歩みを止めると、当然何事かと穂香も歩みを止める。そして、それに合わせてもう一つの足音も止まる。

梨沙の背筋に寒気が走る。この環境において目に見える誰かでさえ怖いというのに、目に見えない何かに後ろをつけまわされている。
何が起こっているのか分からない。しかし、このままでは厄介なことに巻き込まれるのは目に見えている。
心配そうにこちらを見つめる穂香の前へ屈み、彼女へ耳打ちする。

「ちょっと、いやな予感がするの…。穂香ちゃん走れそう…?」

「走る…?さっきからどうしたのお姉ちゃん?」

「驚かずに聞いて欲しいんだけど、さっきから私達以外の足音が聞こえるの…」

「足音…でも後ろには誰もいないよ…?」

「そう…だから私も訳が分からなくて…

梨沙が感じた違和感、異変を穂香へとゆっくり伝える。


突如、梨沙の耳元で男の人の声がした。


「あれ?バレてしまいましたか?」


「え…!!?」

あり得ない場所からの人の声。即座にのけ反り、声のした方を見るがそこには誰の姿も見えない。
この場に居るのは、梨沙と穂香の二人だけなのだ。

「お、お姉ちゃん…さっきの声…だれ…?」

梨沙の近くに居た穂香にも先程の声は聞こえていたようで、顔にはあまり出さないが明らかに声が震えている。
すると今度は、梨沙のデュエルディスクが特有の機械音を発しながら何故か起動し始める。

「こ、今度は何…!どうなってるの!?」

理解の及ばない事態に二人で混乱しているのを他所に、無情にもアナウンスが流れ始める。


ザザッピー
「ただいまよりフリーエリアにてデュエルを開始します。
ルール:マスタールール
LP:4000
モード:エンカウント
リアルソリッドビジョン起動…。」


「え、なんでデュエルが…?」

アナウンスが流れた数秒後に梨沙の前方と背後の道がシャッターによって塞がれてしまう。

「ようこそ、わたくしのショーへ」

再び声がした。その声は明らかに何もない虚空から聞こえてくる。

「だれ、誰ですか!?」

「驚かせてしまい申し訳ありません。
しかし、お客 様があまりにもいい反応をしてくださったものでして」

声のする虚空がぐにゃりと歪む。まるで目に見えない何かが動いたかのように。そのぼやけた空中から突然淡い光と共に水色を基調としたシルクハットが出現する。そのままシルクハットから何かが出てくるように、淡い光がそこに居たであろう人物の姿を露わにしていく。
水色のシルクハットを被り、そこから緑の髪を覗かせる人。その顔にはペストマスクが装着されており、表情をうかがう事は出来ない。
黒い手袋をした右手に持った1枚のカードを、左腕につけたデュエルディスクのデッキに入れるとデッキがシャッフルを始める。

「初めまして。
わたくし《刹那の奇術師》、無限に広がるエンターテイナー!
インフィニティ萩峯(はぎみね)と申します。
以後お見知りおきを」

左腕を後ろへと回し、右手を体に添えて右足を引いたその人は礼儀正しくお辞儀をした。

「え…えっと…」

急にデュエルを挑まれたかと思えば、礼儀正しく挨拶をされる。
押し寄せる情報量も合わさり、どう反応すればいいのか分からず応答に詰まる。

「せっかく来ていただいたのです。
是非わたくしのエンターテインメントショーを楽しんで行ってくださいませ」

顔の見えないマスクの男はそう言いながら両手を掲げる。

「ショー?」

穂香は梨沙の後ろからひょこっと顔を覗かせて疑問を浮かべる。

「突然デュエルを挑んできて…どういうつもりですか…。
それに突然どこから…」

「さぁさぁ、楽しんで参りましょう。
わたくしのデュエルは刹那のデュエル。気を逸らせば、それにて最期。
一瞬の輝きを以てして、あなた様方にエンタメをご覧にいれましょう」

今までの経験からこの人も会話が成り立たないタイプだと察せられた。

「ここの人はなんでこうも人の質問に答えないんですかね…」

呆れと苛立ち。そんな感情を吐き出すようにため息を吐く。
そして、ゆっくりと深呼吸をしてデュエルディスクを構える。

「でも、せっかくデュエルするんです。
私もちょうど試したいことがありました。そのエンターテインメント…見せてもらいますよ!」

「お姉ちゃん…」

「穂香ちゃん大丈夫!
私は負けないよ。少し離れててね」

頷いた穂香は梨沙から少し離れた後方で二人のデュエルを見守る。


「見事!奇術が成功した暁にはぜひ拍手喝采を!」

「私が負けない限りでよければ!」


 「デュエル!」 LP:4000
 「デュエル!」 LP:4000


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コングの施し
今回も楽しく読ませていただきました。
人の背後をつけたと思えば、リアルダメージありのデュエルでエンタメの看板を掲げるとは…この男何奴でしょう。
そして新しく手に入れたゴーストリックのカードに、ほのかちゃんの魔導書デッキなどの情報が解禁!ただし渚さんの行方もかなり心配です…。
これからも更新楽しみにしています!執筆頑張ってください! (2023-09-19 14:29)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます!

リアルダメージが例えなくとも、透明ストーカー+有無を言わさずデュエルとデュエル脳界隈でもなかなかにやばそうなムーブをかましております。ましてや、リアルダメージあり…彼とのデュエルはどうなってしまうのか。
デッキ調整とレクチャーを終えた梨沙と穂香に対して、行方の知れない渚。様々な情報と共に渚の行方もいずれ判明するかと思います!
閲覧だけでなくいつもコメントまでしていただいて、とても励みになっております。今後も楽しんでいただければ幸いでございますXD (2023-09-22 01:52)

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