Report＃３３「身勝手」　作：ランペル

白の狩衣を着た赤茶の髪を伸ばした男がグリーンエリアとレッドエリアの境の廊下を通過しレッドエリアへと踏み込む。

「あぁ…神よ…未熟な俺をお許しください…。
憐れな咎人をまだ断罪する事が叶っておりません…必ずや神の与えし試練に打ち勝って見せます…！」

境界線である赤い床を超えた途端にその場へ膝をつき、虚空へ祈りを捧げ始める。

「情報通りだな」

「おや？」

膝をつく男の前へ、筋肉質な上半身をタンクトップのみで覆った大柄な男が姿を現わす。
男を見つけた途端に狩衣を着た男は目を輝かせ立ち上がる。

「あぁ！神よ！俺に再び断罪のチャンスをくださるのですね！
必ずやその期待に応え、善行を積ませていだきます！」

「ぐはは！クラスⅢってのは噂に違わず変な奴だな！」

男たちは双方腕に装着したデュエルディスクを構えると、それぞれ特有の機械音を発しながら起動を始める。


ｻﾞｻﾞｯﾋﾟｰ
「ただいまよりフリーエリアにてデュエルを開始します。
ルール：マスタールール
ＬＰ：４０００
モード：エンカウント
リアルソリッドビジョン起動…。」


「ほぉ、何とも殊勝な咎人です。咎人よ、その名は？」

「俺の名前か？
俺は山辺 俊勝（やまべ としかつ）！またの名を《ヴィクトリー》！
デュエルする為に生まれて来た男だ！デュエルマーッスルゥ！！！」

山辺はその肉体美を誇張するべく、両腕を持ち上げポーズを決める。

「山辺 俊勝…そう！いい名です。己を追い込み鍛え抜かれたその肉体…罪と向き合い自ら裁かれるべく挑んでくるその精神…実に素晴らしい！
山辺 俊勝…安心していい。その意図をくみ取り、この地獄で重ねてしまった罪を今清算し、必ずや楽園へと導いて差し上げます。
この藤永 伊織（ふじなが いおり）の名にかけて！地獄から救って差し上げましょうとも！」

藤永は饒舌に語りながら、長く結われた髪を揺らし両腕を広げる。

「地獄だぁ？ここ程の天国はねぇだろうが！
己の存在の有無全てがデュエルで決する、アニメや漫画で見た闇のゲームがここでは現実になるんだ！」

二人の背後の通路へシャッターが降りる。
起動した藤永のデュエルディスクに描かれた文様が怪しく光り出す。

「熱いデュエルを繰り広げようぜ！！！」

「今その苦しみから解き放って差し上げましょうとも！」


　「デュエル！！」　ＬＰ：４０００
　「デュエル！」　　ＬＰ：４０００



　－－－－－



渚と近久のデュエルは３ターン目へと突入していた。
圧倒的な盤面の差で…。



渚－ＬＰ：４０００
手札　　　：１枚
モンスター：《ふわんだりぃず×えんぺん》[攻]《烈風の覇者シムルグ》[攻]《ふわんだりぃず×いぐるん》[攻]
魔法＆罠　：《ふわんだりぃずと未知の風》《マクロコスモス》

ーＶＳー　[ターン３]

近久－ＬＰ：４０００
手札　　　：３枚
モンスター：《堕天使マスティマ》[守]
魔法＆罠　：なし
除外　　　：６枚


「なんだよ…除外って…なんで墓地にカードがないんだ…」

近久は足を震わせながら、理解の及ばない状況を嘆く。

「可哀そうに。ルールも知らずにこんな所に来てるなんて。
ボクのターンだ。前のターン発動した《時を裂く魔瞳》の効果でドローフェイズに２枚ドローさせてもらうよ～」
手札：１枚→３枚

デッキトップが淡い紫色のオーラに覆われ、そこから２枚のカードを引く。

「《ふわんだりぃず×ろびーな》を召喚。先ほどと同様《ふわんだりぃず×いぐるん》を手札にへと加えるよ」
手札：３枚→３枚

顔の半分から胸元までが淡いオレンジ色をした小さな鳥が、帽子をかぶった青い鳥と共にフィールドへと降り立つ。渦巻きが描かれた翼を広げ可愛らしい小さな声で鳴き声をあげると、背後から鷲が飛び立つ。

「そして、ろびーなの効果で《ふわんだりぃず×いぐるん》を召喚」
手札：３枚→２枚

頭に紫色の毛を生やし、目元を隠した青い鳥と共に先程現れた鷲がフィールドへと降り立つ。そして、ろびーなの時と同様に鳴き声を上げるとデッキから１枚のカードが飛び出す。

「召喚時にレベル７以上の鳥獣族、《ふわんだりぃず×すのーる》を手札へ加える。そのまま、ろびーなと《ふわんだりぃずと未知の風》の効果で君の《堕天使マスティマ》の２体をリリースして、
アドバンス召喚！

来たれ、《ふわんだりぃず×すのーる》！」[攻2900]
手札：２枚→２枚

ゴーグルをかけた鳥が他の青い鳥と合流すると、その３羽の中央へと白いフクロウが姿を現わす。

「除外されたろびーなは鳥獣族の召喚時に手札へと戻る」
手札：２枚→３枚

ろびーながぱたぱたと羽ばたかせながら、渚の指先へとまると１枚のカードとなって手札へ加えられた。

「さぁ、バトルに入ろうかな」

「ま、待ってくれ…悪かった…だから…」

近久が命乞いを始める。
その命乞いに渚は顔色一つ変えずに淡々と言い放つ。

「悪かったって分かってるなら、後はどうなるか分かってるだろう？
《ふわんだりぃず×えんぺん》でダイレクトアタック」[攻2700]

渚が右足を上げ、それを地面につけると同時にデュエルフィールドの地面が一気に凍り付く。
攻撃宣言を受け、フィールドに居た翼に渦巻きが描かれたペンギンが近久に向けて地面を滑り突進を始める。凍り付いた地面はえんぺんの滑る速度を加速させる。

「な、足が…！？」

近久が避けようと足を動かそうとするが、足は地面が凍った時に一緒に凍って動かせなかった。
えんぺんが足にへと直撃し、痛みと共に近久は宙に浮く。

「ぐぁ…！？」

そのまま冷たい地面へと叩きつけられる。

近久ＬＰ４０００→１３００


「いっ…てぇ…うっ！？」

地面へと倒れ込んだ近久は体を起こす事が出来なかった。
凍った地面と露出していた皮膚が凍りくっついてしまう。

「もう動けないね。《烈風の覇者シムルグ》でダイレクトアタックだ」[攻2900]

金色の円を背後に浮かべた巨大な神鳥が、巨大な翼を大きく広げ羽ばたく。すると、突如吹き荒れた烈風が真っすぐ近久の元へと向かっていく。

「うっ…ぐぁ！？うぁぁあああ！！！」

近久ＬＰ１３００→０


「悪く思わないでくれよ。仕掛けてきたのは君の方だ」

地面へ貼り付けにされていた男の体は吹き荒ぶ烈風により無理やり地面から引きはがされる。凍り貼り付いていた皮膚が剥がされ、その鋭い烈風は近久の体を刻みながら背後のシャッターまで吹き飛ばし、風で押し潰す。

ﾋﾟｰｰｰ


「近久様のライフが０になりました。勝者は福原様です。」

デュエル終了のアナウンスが流れると二人を閉じ込めていたシャッターが開かれる。
シャッターにもたれかかっていた近久はシャッターが上がると共に倒れ込む。その体は風で切り刻まれ、全身から血が流れだし床の血だまりが広がっていく。

「福原様、近久様へデュエルボーナスが送られます。ご確認ください。」

「まだ死んではないか。もし死ぬなら１時間以内にお願いするよ。
まぁその出血量ならもう時間の問題かな…」

床に倒れ込む男からの返事はない。
渚はデュエルディスクの画面を見ながら、血を流す男の横を素通りして歩いていく。

　　　*****
デュエル勝利おめでとうございます。
以下獲得ボーナスになります。

勝利ボーナス　　　　　　：１００００ＤＰ
速攻勝利　　　　　　　　：　５０００ＤＰ
ノーダメージ　　　　　　：１００００ＤＰ
　　　　　　　　　　　計：２５０００ＤＰ
　　　*****

「二日と晩酌代って感じだね。
彼が死 ねばこれに加えて１０万入る…」


　－－－


渚はそのまま無機質なフリーエリアを警戒しながら歩き回り、オレンジ色の扉のある所までやって来た。
扉の前へと立つと扉が開かれ、中のエレベーターの中へと乗り込む。

「シェルターっと…」

壁にある下向きの矢印のボタンを押す。
すると、それに反応して自身のデュエルディスクの画面が切り替わる。
そこには、

　　　*****
・シェルター新規使用申請
・使用中のシェルターへの移動
　　　*****

の二つの項目が表示される。

「シェルターへの移動で…番号が２６…」

表示された入力欄にシェルターの番号を入力すると、エレベーターが下方向へと移動を始め、到着すると扉が開かれる。
開かれた先には、オレンジ色の開き戸が目に入る。

「はぁー疲れた…」

戸を開けるとそこは、約４畳程の広さの天井から床までオレンジ色で塗りたくられた個室。
個室内には小さなベットが置かれ、それ以外にはテーブルとイスに小さな冷蔵庫が置かれるのみ。奥の壁にはトイレの扉とのどかな風景を映し出す窓がある。
渚は冷蔵庫から缶ビールを取り出すとイスに座り、手にする缶の蓋を開ける。

「とと…」

一口酒を口へ運ぶと、窓から見える外の景色に視線を移す。

「は～ほんと精巧なんだよね。本物みたいだ。
外の事意識させてさ～実に悪趣味…」

窓の奥に映る草むらと青い空。それは本当の景色だと錯覚する程に精巧な絵画なのだ。

「外……か…」

風景を見ながら思いにふけ込む渚は再び缶を口に運ぶ。
すると、右腕のデュエルディスクに振動と共に誰かからの通話が知らされる。

「ん…。
さっきの番号だな」

通話を許可すると、通話相手の声が聞こえてくる。

「あ！繋がりましたか？
もしもし、渚さん？」

「あぁ繋がってるよ。やっぱり梨沙君だったか。
無事で何よりだよ」

「渚さんこそ無事でよかったです！」

小さな個室の中で、生存報告と情報交換の連絡が行われる。