Report＃１７「幻聴」　作：ランペル

ﾋﾟｰｰｰ


「佐藤様のライフが０になりました。勝者は裏野様です。」

「あはは！私の勝ちですよ！おじいさん！
ほら！そんな所で寝てないで、起きてくださいよ！！！」

どれだけ声を掛けても倒れ込んだおじいさんはぴくりとも動かない。

「裏野様へデュエルボーナスが送られます。ご確認ください。」

「あはは！勝ちましたからね！私が！
楽しい楽しいデュエルに！デュエルに！おじいさんにはあげないんですかー！？」

　　　*****

デュエル勝利おめでとうございます。
以下獲得ボーナスになります。

勝利ボーナス：　１００００ＤＰ
未カスタム　：　　１０００ＤＰ
逆転勝利　　：　　５０００ＤＰ
規制行使　　：　　３０００ＤＰ
キルボーナス：１０００００ＤＰ
　　　　　計：１１９０００ＤＰ

　　　*****

デュエルディスクに映し出されたボーナスを目にして梨沙は驚く。

「わっ！？１０万ですか！すごいすごい！
キルボーナス？これが１０万の出どころですね！
ほら、おじいさん！見てください！１０万近くも貰えました！すごいですよね！」

はしゃぎながらディスクの画面をおじいさんの方へと向ける。

「………」

「おじいさ～ん？？？いつまで寝てるんですか～？
そろそろ起きてデュエルの余韻を語りましょうよ！！！」

「………」

「もう仕方ないですね！今起こしてあげます…よ？」

おじいさんの元へと走って駆け寄ろうとしたが、足から力が抜け地面へ倒れこんでしまう。

「いったぁああ！！なになに！足に力が入らないですね！
あはははは！なんか足に感覚がないですね～！
あはははは！」

このまま楽しい気持ちに取り込まれていたい。

「あれれ？なんで涙が～？
あはははは！へんなのー！」

無邪気に楽しそうに笑う梨沙の目からは涙が流れていた。

「なんか～体にも力入らないですね～。
あはははは！へんなの！私の体なんかおかしいよー！
あはははははははははは！！！」

体が動かず、床に倒れたまま笑う。
高らかな笑い声が静かな空間の中で反響する。

「あはは、はは、ははは……はは…？」

壊れる。

「楽しい、楽しいはずなのに…」

耐えられるわけがない。

「あは、あははははは…」

理解したら。

「あ、は、あ、あぁ………」

口角の上がった唇の震えが止まらない。

もう一度、おじいさんの方へと目を向ける。
倒れたまま微動だにしていない。

「キルボーナス…」

ダメだ。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



殺した？殺してしまった。私が。デュエルで。ゴーストリック達で。
人を。おじいさんを。罪のない。何も知らない。
なんで、どうして、なにがあって。
笑いながら。楽しそうに。何も感じず。勝ちを喜び。

おじいさんを殺してしまった…。

ころした、ころしたころしたころしたころしたころしたころしたころした。

「あ、わ、え、わらい、わらいながら！？たの、たのしそうに…？
こ、ころし、て………」

自分が何をしていたのか意味が分からない。
妙に楽しく、嬉しく、心地よく。
デュエルを楽しみ尽くしながら、何の悪気もなく悪意もなくおじいさんのライフを０にして…。
駄天使の攻撃で既に動かなかったおじいさんへ２体で追撃をした。
何のためらいもなく。笑いながら。

「ちがう。ちがうちがうちがうちがう。
あんなの、私じゃ…ない…私じゃないよ…そんなわけない。
あり得ない。私じゃ…私じゃ………」

体中を指先まで震わせながら否定を繰り返す。
自分がこんなことをするはずがない。笑いながら人を殺すような事をする人間ではない。
心からそれを願って自分を否定する。
あれは自分ではない…と。

「ちがう。ちがうちがうちがう………」

あはは！ダメージを与えた事で、駄天使は裏側守備表示になります！続いていきますよ！
２体目の駄天使でダイレクトアタック！

「ちが…う。私は、攻撃してない…」

ダメージを与えた事で、２体目の駄天使も裏側になります！これで、最後です！
《ゴーストリックの魔女》でダイレクトアタック！！！

「うるさい。ちがう…ちがうよ………」

頭に響き渡って来るのは私の声。
確かに私の口から発されたそれが何度も頭に響き続ける。

あはははははははは！！！
勝ちました！私の勝ちですよ！
勝てた！勝てたぁ！勝っちゃいましたぁ！

「おねがい…嘘って…違うって言って？
だれか…」

あはは！何を言ってるの？楽しい楽しいデュエルは終わったのよ？
あなたが終わらせたのよ？

「私じゃない…！！わた、し…じゃ………」

嘘吐きだね！

「うそ……」

だってそうでしょ～？全部覚えてるんだ！身に覚えがあるから、そんなに必死に言い聞かせてるんだよ。

「私は…あんなに笑いながら…人を傷つけるようなこと…しない…」

そんなの分からないでしょ～？誰だって隠された一面があるんだよ。
私にもそんな一面があってもおかしくないじゃない？

「いやだ…ちがう……」

ここに来た理由は記憶にないけど、さっきのデュエルは覚えてる。そうでしょ？
だから、そんなにも取り乱している。状況をすぐに理解して、撤回を始める。

「い、いや…やめて………」

他の人の言うように、私が望んでここに来たんじゃないの？

「そんな訳…！！！」

分からないじゃん？現にさっきまであんなに楽しそうにデュエルで人を傷つけてたじゃない。

「………」

どうして記憶にないのに、自分が望んでこんな所に来てないなんて確信が持てるの？

「………」

自分がしたことだって、こうやって嘘だやってないって責任転嫁。
よくもまぁ、記憶がないだけで自分が真っ当な人間だってアピールが出来るよね？

「やめて………」

声が止まない。いつまでも声が聞こえてくる。

仕方ない仕方ない。仕方ないから、相手は殺す。
自分の心も守りたいから、楽しい気持ちに任せて勢いで殺してしまおう。

「そんなことして……ない……私の意思じゃ…ない…」

ここに居るのは私だけ。私の意思じゃなかったら一体誰の仕業なのかな？

「うるさい！！！！！！」

大声を張り上げると、静寂が訪れた。

「……なんで…私…あんな、こと……」

どれだけ思い返しても理解が出来ない。
注射を刺されてから、妙に気分が高揚して身体的しんどさもほとんど吹っ飛んでいった。

注射を刺されてから…？

「（あぁ…それでさっきからおじいさんが立ってるんですね）」

目の前には倒れこんで微動だにしないおじいさんと、その隣に無表情のおじいさんが立ち尽くしている。

「（納得しました。私…変な薬…さっきから体に力が入らなくて、動けないのも関係あるんですかね…）」

倒れて少しの間は体を少し動かせていたが、今は指先一つも動かせない程に体に力が入っていない。
倒れ込んだまま身動き一つ取れないでいる。

「（おかしくなってて…ごめん、なさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい）」

だいじょうぶ、すぐにあなたも。


ﾋﾟｰｶﾞﾁｬ


「う、あ………」


扉を見た。
扉は開いていない。
フロアが普段より明るくなることもない。

「（気のせい…か…）」

気が付けば、口もうまく動かせない。言葉を喋るのも難しくなってしまっている。


「（喋れてたと思ってたけど、喋れてなかった…？
私、どうなるんだろ…。このまま動けなくなって、死んじゃうのかな？
おじいさんを殺してしまった罰なのかな………）」

瞼が重たい。


「（お父さん…ごめんなさい…。
私、ちょっと疲れちゃったから…少しだけ…）」

少女の意識は深い闇の奥底へと消えていった…