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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#55「死の栄誉」

Report#55「死の栄誉」 作:ランペル

「穂香、モンスターを召喚して自爆特攻しなさい。
そうすれば、お前は戦闘ダメージを受けて死ぬルールだ。
お前が死 ねば、交換する身柄が無くてお姉さんは私の所に来る必要がなくなるからね」

「あなた…何を言ってるのよ…!?」

戦闘と効果によるダメージを与えないというハンデの元執り行われていたアリスと穂香のデュエル。
《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》の効果をうまく隠し切り、穂香にライフを支払わせることによりハンデを突破したアリスだった。
しかし、フロア主の男は穂香に自爆特攻を示唆し、自らの死と引き換えにアリスを助けられる選択肢を告げる…。



アリス-LP:7500
手札   :1枚
モンスター:《神光の宣告者》[守]、《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》[攻]
魔法&罠 :なし

ーVSー [ターン4]

本導-LP:500
手札   :4枚
モンスター:《魔導法士 ジュノン》[攻]
魔法&罠 :なし



「私は穂香に選択肢を提示しただけです。
穂香が死 ねば、あなたがここへ来た目的は潰える。
そして、穂香は大切な人を私から守れるとそう言う事ですね」

「戦闘と効果でダメージを与えなければ殺さないってそう言ったじゃない!!
なんでそうなるのよ!?」

穂香の死が示されたことで、焦ったアリスは男へと条件について苦言を呈する。
それに男が、まるでお面でも被っているかのように表情を変えず、抑揚のない声で返答する。

「おや…?
私はデュエルのルールに則った提案をしたに過ぎませんが、何か問題があるのですか。
自爆特攻でも、モンスターの相手によって破壊された効果の発動条件は満たされる。つまり、こちらから仕掛けた攻撃でも相手による破壊として扱われる。
これはダメージでも同様です。私は一度もあなたの攻撃や効果の発動によるダメージの発生が、穂香が死ぬ条件とは言っていません。
あくまで、戦闘か効果ダメージが穂香に発生する事が条件だったはずですからね」

「でも…そんなの…」

確かにルール上であれば男の言う事はその通りだろう。
しかし、どうしても納得できないアリスが反論を思案している間に、それは男によってねじ伏せられてしまう。

「その点に文句があると言うなら、穂香のライフが減る事が死ぬ条件だったとでも仰るのですか?
そうなると、穂香はあなたの《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》の効果によってライフを減らされていた。あなたの行動で穂香のライフが既に減っていることになる。
ならば、穂香は現段階で死んでもらうべきでしょうか?
私がそうしないのは、あなたがデュエルのルールの枠による戦闘と効果ダメージをハンデとして背負ったからです。

デュエルのルールという枠をあなたも利用したのなら、こちらがそれを利用する事も問題はないはずですよね…?」

「それは…」

アリスは戦闘・効果でダメージを与えれば穂香が死ぬという条件を、《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》のLPを支払わせるという効果で潜り抜けた。
しかし、これは同じライフが減るという現象が、デュエルのルールによってダメージとライフの支払いとして明確に区切られている…言うならルールの穴を突いた抜け道。
そのルールの根幹が揺らいでしまえば、相手の受け取り方次第で穂香は殺されてしまう。

ルールにより条件を潜り抜けたアリスが、今度はルールによって窮地に追いやられてしまっている。

「お姉ちゃん…」

「穂香ちゃん…!」

穂香は声を震わせながらアリスを見つめる。
その表情から容易に苦悩の感情が読み取れる。穂香からすれば、自分の身代わりでアリスが男の元に来ることは避けたいのだ。
そして、自分が死 ねば確実にアリスが自分の身代わりになることはない…。

「穂香ちゃん!惑わされちゃだめだよ!
穂香ちゃんが死ぬ必要なんかないの!穂香ちゃんが私を助けたいと思う気持ち…そしてこの男のやばさは私も段々分かって来てる…。
でも、だとしても穂香ちゃんが死んで私が助かるなんてことを私は望んでいないわ!
お願い…私の事を信じて……」

アリスは必死に穂香へと訴えかける。
どうにか彼女を説得するべく、頭に思い浮かぶ言葉を、彼女に届きそうな言葉をかけ続ける。
もし説得できなければ、穂香の生死が決まってしまうのだから…。

「しん…じる…」

確実にアリスを助けられる方法は、代わりに自分が死んでしまう。
アリスを身代わりにしてしまう事に抵抗があった穂香だが、自らの死が目の前にまで迫ってしまうと当然躊躇する。
死にたい訳がない。
梨沙やアリス…。自分の事を見てくれる彼女たちの存在は、穂香の生きる気力そのものとなっている。

母親のように優しく自分の事を見てくれるアリスになら甘えてもいいかもしれない。
彼女の言うように、自分にはない経験値が彼女にはあるはずだから。
きっと、この絶望的な状況も何とかしてしまうのではないか。
危険と言われてる場所に、アリスは一人で助けに来てくれたのだから。
任せてもいいはずだ。きっと、何とかしてうまくいくはず。

穂香は悩みながらも、死の恐怖とアリスへの信頼の気持ちから彼女へと委ねる選択を取ろうとする。

「ほのか…お姉ちゃんの事信じたい…。
お姉ちゃんなら…お父さんに殺されたりしない…。
だから…お祈りのお姉ちゃん…甘えても…いいですか…?」

希望に縋りつくように、幼子が母親に救いを乞うように。
穂香は声を振り絞ってアリスへと助けを求めた。

「穂香ちゃん!
えぇ!お姉ちゃんに任せて!
さ、カードを発動して!」

残りライフ500の穂香は、カード効果を何か発動するだけで《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》の効果によりライフが0となる。
穂香がこくりと頷き、手札からカードを発動しようとした。

しかし、紛い物の父親が再び邪魔をする。

「信じるですか…」

男がぼそりと呟いた言葉に穂香は体を震わせ、手の動きが止まってしまう。

「(こいつ…今度は何を言うつもり…!?)」

幾度も穂香を助けられる一歩手前で、口を挟んで来るフロア主の男へと更なる苛立ちが募るアリス。
振り返った男は穂香の顔を無機質な目で見つめる。
なんの感情も読み取れないその顔はひどく不気味で、穂香の背筋を恐怖が駆け上がって行く。

「信じるというのは危険な行為なんだよ…穂香」

「きけん…?」

「そうです。とても危険なんですよ。
信頼、信用、信じるなんてのは他者に頼る行為。
そんなことをして、もし裏切られたら?その信頼が深ければ深い程…裏切られた時のショックは大きくなる。
だから、人なんてものに信用を置いてはならない。
信じてはならない。他者を信用しない事こそが、ここで生き抜く秘訣です」

信用を真っ向から否定する男の言葉。
これ以上喋らせていては、穂香の決意が揺らぐことを危惧したアリスが口を挟む。

「穂香ちゃんの好きにすればいいって言う割に、随分と穂香ちゃんに口を出すのね。
結局、穂香ちゃんをあなたの思うように操りたいだけなんじゃないの?
父親面するのもいい加減にしなさい…」

沸きあがる怒りを静かに男にへとぶつける。
男は、ほんの小さなため息を吐き、相も変わらず無機質な声色で自身の胸中を言葉にする。

「…私はあくまで提案しているに過ぎませんよ。
そして、私の経験を話しているに過ぎないのです。
穂香が選ぶことをやってみるといい。
アリスさんを信じ、彼女へと託すのもいい。
ですが…」

口を噤み右手を握り込んだ男は、それが穂香に見えるように突き出す。

「あまり私の事を信用してもいけませんよ。
信用するアリスさんが勝てば、アリスさんの身柄は信用ならない私の元に預けられることになる」

そう言いながら、男は握り込んだ手を勢いよくぱっと開いた。
まるで、何かがはじけるように…。

瞬間、穂香の脳裏に目の前で弾け飛んだ少年の顔が過る…。

「あ…ぁ…」

「穂香ちゃん…?」

突然、挙動がおかしくなった穂香に気づいたアリスはゆっくりと声を掛ける。

しかし、今その声は穂香に届かない…。
トラウマが呼び起こされた穂香は、歯をカチカチと鳴らし頭を抱えしゃがみ込む。

「ふむ…あなたの言うようにあまり過干渉でも、父親としてどうかと思われますかね?
では、穂香が選んで結果を受け入れなさい。失敗も必要かもしれませんからね。
これ以上は私も口を出しません。よく考えて穂香が好きな方を選びなさい」

アリスを一瞥し、そう締めくくった男は背を向けフロアの緑の暗がりにへと姿を隠す。

託したい、委ねたい、甘えたい。
自分に優しく、母親のように接してくれるアリス。
信頼できる人だ。信頼できないはずがない。
彼女への信頼は既に上限を迎えている。

でも
だからこそ

信頼できる大切なアリスを、信頼などない男の元へ向かわせたくない。

「お祈りのお姉ちゃんは…ほのかの大事な人だよ…」

「ありがとう…」

「ほのか…ひどい目に遭って欲しくない人が出来たの…初めてなの」

「……うん」

失いたくない恐怖。
外の世界では感じた事のない愛情の数々。

(「他人の事なんか知ったことじゃないよ。
あんたも所詮は他人だからね」)

(「穂香ぁ!?
何がおもしろいんだよ!?あいつと一緒に俺の事笑ってるんだろ!?」)

自分に無関心な両親が、自分に声を掛けてくるのはいつもストレスが溜まっている時だけだ。
ストレス発散の捌け口にしか思われていない。
だから、自分が何か話してもそれが気に入らないのか怒りだす。
楽しい事を報告すれば、怒られ。
辛そうにしていても、怒られる。

学校の友達が楽しそうに、家族の事を話している意味がいつも分からなかった。
みんなが口にしていた優しい言葉だとか楽しい雰囲気、愛されてる家庭なんてものを感じたことはなかった。
自分の現実にそんなものは存在しない。
だから、学校のみんなも苦しさから逃れる為に夢のような話をしているだけだと思っていた。

「お父さんは…パパとママと一緒…。
よく分からないけど…ほのかの事を何かに使ってるの」

優しさって言うのは、いい人に見られようとしてる建前なんだ。
両親ともに、他の人の前ではまるで別人のように優しい親を演じている。
ここの人もそうだと思ってた。

「でも、お化けのお姉ちゃんも…お祈りのお姉ちゃんも…鳥のお姉ちゃんも…。
ほのかに優しくしてくれる。ほのかが危ないってなったら助けに来てくれた。
なんでそんなことしてくれるのかはまだ…分かんないけど…。
ほのかに優しくしてくれてるのは、いっぱい分かったよ」

「そんなの…穂香ちゃんが大事だからに決まってるじゃない。
穂香ちゃんと同じぐらいの年の子で、他の人の事をそんなに大切に思ってくれる子を私は知らないわ…」

きっと、褒めてくれている気がする。
どんな反応をするのが正解なのだろうか?
分からない。

でも、心が弾んでいる。
たぶん、嬉しいんだ。

「ありがとう。
お祈りのお姉ちゃんはね。ほのかの大事な人だよ。
大事な人がひどい目に遭ったら、ほのかとっても悲しい」

「穂香…ちゃん…?」

「ごめんなさい。
ほのか、お祈りのお姉ちゃんが…死んじゃうのは……。
嫌…」

そう口にした穂香は、手に持っていたカードとは別のカードを手に取りデュエルディスクに置く。
カードを発動するのであれば、先に《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》の効果により500のライフコストが発生するはずだ。
残りライフ500の穂香のライフが尽きる…。

しかし、まだデュエルは続いたままだ。

「ほのかは…《魔導召喚士 テンペル》を召喚するね」[攻1000]
手札:5枚→4枚

「っ…!?
穂香ちゃん!」

穂香のフィールドにへと、茶色のローブを纏った人が出現する。
両手には杯を持ち、その顔はフードで隠れよく見えない。

カードの発動ではなくモンスターの召喚。
これは、穂香が男に示された自爆特攻の択を取ろうとしている事になる。

アリスは焦って、穂香にへと再び説得を試みる。

「穂香ちゃん!
お願い…!私の事を信じて!頼りないかもしれないけど…絶対にあなたが考えているようなひどい結果にしないって誓うわ!
だから…お願い…。
まだ間に合うから、カードの効果を…。
使ってちょうだい……」

それはもはや懇願に近しい。
自分の中で示せるだけの事は示したはずだ。それでもまだ足りないというのであれば、後は彼女に頼むほかにない。
ぎゅっと目を瞑り、穂香に頭を下げる。

「穂香ちゃん…お願い…一回でいいのよ…。
私のこと…信じて………」

「うん、お祈りのお姉ちゃんの事たくさん信じてるよ」

静かに穂香が言葉を返した。
目を開き、穂香の方へと目を向ける。
緑色の照明で照らされたフロア内で、少女がぎこちない笑顔を見せていた。

「ほのかのこと助けに来てくれたんだもん。
ほのか、とっても嬉しかった。
お祈りのお姉ちゃん、最初はお化けのお姉ちゃんと喧嘩してて怖かったけど、今はそんなことないよ。
優しくて…みんなが言ってたお母さんみたいだった…。
お姉ちゃんに信じないでって言われても、ほのかはお姉ちゃんの事信じちゃうよ」

「穂香ちゃん…」

自分の言葉に耳を貸してくれた。
穂香の口にする嬉しい言葉達。
彼女の言うように、今出来る事なら母親のように彼女を抱きしめてあげたい。

「…お祈りのお姉ちゃんにね。
お願いがあるの。ほのかの一生に一度のお願い」

両手の平を合わせてお願いするポーズを取る穂香。
アリスは恐る恐る穂香のお願いを聞き取る。

「お願い…?」

「うん、ほのかのわがままを許して欲しいの。
お姉ちゃん達優しいから…きっと許してくれるかなって…」

少しもじもじとしながら話す穂香。
普段の彼女とは少し様子が違っていたが、外の世界で見た子供達と何ら変わりのないその仕草に、アリスは安堵の感情が芽生えた。
梨沙から聞いた話と、短い時間関わっただけだったが、人に何か要望を出すような子ではなかったはずだ。

その子が自分の事を信じていると口にし、わがままがあるとそう言っている。
心を開き、自分の望みを伝えようとしているのだ。

「わがままぐらい…いくらでも言っていいんだから!
思ったことを伝えられるってのは大切な事よ。
これからも困った事があったら、梨沙ちゃんや私にお願いもいっぱいしてくれていいからね!」

穂香はもう自分の事を信じてくれている。
きっと、自分の言う事を聞き入れてくれるはずだと。
良い方向に成長してくれたような…そんな仄かに沸きあがる喜び。

そう思ってしまったからこそ、口を滑らせた。

「ありがとう。
大事な大事なお祈りのお姉ちゃんはね?
お父さんの所に行っちゃダメなの。

絶対に……いなくならないで欲しい」

アリスの聞き入れてもらえたという儚い思い込みが、デュエルディスクに穂香の指が触れた瞬間に散って行く。
先程召喚された、茶ローブのモンスターが穂香のフィールドからアリスのフィールドにへと飛び立ち、向かって行く。

「なっ穂香ちゃん!?
そんな…!?」

《魔導召喚士 テンペル》の攻撃宣言に狼狽えるアリス。
その攻撃対象として選択された、二色の眼の龍が重力を操りその体を浮かせ始めた。

「ま、待ちなさいグラビティ・ドラゴン!
やめて、ダメよ。
お願いだからやめて…!!!」

迎え撃とうとする《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》を引き留めようとするが、当然ドラゴンは戦闘を拒否する効果の指示を受けていない。

「お願い…お願い…!!」

アリスはデュエルディスクに召喚されているドラゴンを引き剝がそうとする。
しかし、デュエルディスクにへと召喚されたモンスターは、デュエルの処理以外によってデュエルディスクから離れるのを許さない。

「お祈りのお姉ちゃん」

守るべきはずの少女の声が聞こえる。
救えたはずの命が自分の手の中から零れ落ちてしまう…。

「いや、いやよ…。
こんなの………」

滲み出る涙をそのままに、声のする方へ顔を向ける。
暗緑色の照明に照らされるままに映された少女は、少し困ったような顔を一瞬見せた。
しかし、すぐに頬を緩めた少女が健気で柔らかな笑みをアリスに捧げた。


「大好きだよ」


重厚な鱗の龍が、重力を操りその場から飛び上がる。
その巨体は向かって来る茶ローブのモンスターの上へと飛び降り、その自重でモンスターを押しつぶし破壊する。
そして、その衝撃波…モンスターが受け止め切れなかった反射ダメージが少女の元にへと向かう。



本導LP500→0



少女の顔が足元の地面にへと、叩きつけられ倒れた。

パンという音と共に起きた一瞬の出来事。
《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》の放った重力波が、少女の体を瞬間的に地面にへと伏せたのだ。

「そんな………」

アリスの足から力が抜けていく…。
そのままへたり込もうとした瞬間に、体の制御が切り替わる。

「腰抜かしてる場合か!!」

もう一人のアリスはデュエルが終わった瞬間に、駆け出し倒れた少女の元にへと真っすぐ向かった。



ピーーー



「本導様のライフが0になりました。勝者はアリス様です。」


走り出すアリスの頭上からデュエルの勝者を告げるアナウンスが流れる。

「デュエルがどうなろうとあいつは縛られてない!
このまま連れて行きゃ、あの男も手出しできねぇだろ!?」

すぐに穂香の元にまで辿り着いたもう一人のアリスは、彼女を脇に抱え上げた。
そして、即座に踵を返しフロアの出入り口へと走り始める。

「《ジャイアント・メサイア》を召喚」

駆け抜けるもう一人のアリスの足元が突如流砂と変わり、足を滑らせる。

「くそっ…!?」

そのまま足を取られたアリスは、穂香を守る様に背中から倒れる。
まるでアリジゴクのように流れ落ちる砂は広がり続け、アリスの体が足先からどんどんと砂に沈んでいく。

「足が抜けねぇ…」
「(ど、どうしたらいいの…このままだと穂香ちゃんが…)」

下半身までが砂の中に沈んだところで、体が埋もれていくのが止まる。
穂香は体を支えていた事もあり、膝上までが砂に沈む程度で済んだ。

しかし、穂香を連れフロアの外まで抜け出す事はもう叶わない。

「穂香を連れてどこへ行くつもりだったんですか、アリスさん?」

背後からフロア主の男の声がする。

「おいおい、この様見ても分かんねぇのか?」

諦めた様に、もう一人のアリスが左手でお手上げの状態を示す。
右腕には、意識を失い鼻血を流す穂香を抱えたまま。

「負けた穂香が死なないように逃げ出そうとしたのですかね。
まぁ、どこに行こうとも穂香は殺せますから。捕まえずともよかったんですがね」

砂に埋まるアリスを見下ろす男が、そう口にする。
それに睨みながらもう一人のアリスが、男の真意を聞き出す。

「それで…わざわざあたしとこいつを捕まえたのはなんだ?
本気でこいつを殺す気か?」

「正直、穂香は最後にはあなたに全てを投げ出すと思っていたんですよ。
死にたくない、あなたに任せたいという気持ちが、あなたの安全を守る事を上回ると思っていたのですが…。
子供心と言うのはやはり難しいですね。
よっぽどあなたの事が大事だったようだ」

驚いたような口調と変化のない表情の男を視界の端に留め、目線だけを右手の中で眠る少女に向ける。
重力により地面に叩きつけられてしまった少女の顔は、腫れており、鼻から痛々しく血が流れ落ちていた。

「(穂香ちゃん………)」

自分を助ける為に、自らの命を顧みずに自爆特攻の選択をした穂香。
このままでは、このか弱い少女が無慈悲にも殺されてしまう。
どうにしかしたい、どうにかしなければならない。

しかし、アリスがどれだけ考えても考えても考えても…解決策を見出せない。
焦りと共に頭が混乱してくる。
肉体の内で焦燥に煽られるアリスに、もう一人のアリスが彼女にだけ届くように声を掛ける。

「(保証は出来ないが、あたしが説得してみるから大人しくしてな。
あんたが焦ってるとこっちもそれに引っ張られるから落ち着け)」
「(………ごめ…ん)」

今の自分では何も考えつかない。
もう一人の自分を信じて、託すしかない。

「(私には…出来ない…。
どうしても思いつかないから…あなたに…お願いするわ…。
お願い…穂香ちゃんを……助けて…)」
「(………保証は出来ん)」

アリスが願う想いを受け取ったもう一人の彼女がゆっくりと口を開く。

「あんたにとっても予想外な結果だった訳だ。
だが、わざわざあんたが自爆特攻の選択肢を示したからこいつは実行しちまったんだろ。
なんであんな提案をした。教育だとかほざいてただろ…。
こいつを殺す気はなかったんじゃないのか?」

「選択肢を提示した上で、あなたに穂香が全てを託す。
そして、あなたの身柄と引き換えに穂香が解放される。
その瞬間に、あなたが死ぬ」

「……てめぇ」

無機質な顔で淡々と口にする邪悪な男の計画。
男は穂香とアリスの身柄が交換された瞬間に、アリスを穂香の目の前で殺そうとしていたとそう言うのだ。

「そうなるとどうでしょう。
穂香は己の選択を悔やむはずです。悔やんで悔やんで、後悔してもし切れない。
自分が全てをあなたに委ねてしまったから。助けたかったはずのあなたに任せたから、あなたが死んだ。
そうなれば、穂香は他者を信じる事が出来なくなるでしょう。
大事で信頼のおける人を信じ、任せた事で死なせてしまったという事実。
その選択を自らが取った確かな現実。

それが、穂香の生き方に大きな影響を与える事でしょう。他者を守るには、己が強くなければいけない。
弱い者は自分はおろか、大事な者も守ることなど出来はしませんからね」

「はっ!いい趣味してるわお前。
ガキにそんな事を味合わせて…お前に何の得があるんだ」

「…?
先程説明した通りですよ。穂香が他者に頼らなくなる。
自分の力で全てをこなそうとしだす。
他者に依存する生き方は、ここでは通用しないという事を穂香に教える事が出来ます」

至極当たり前である様に、男は言葉を繋げる。
それを聞いたもう一人のアリスの口角が自然と吊り上がる。

「あーーホンモノだな…。
聞いてるだけで吐き気がする。そんなことをしたら怨まれるのはお前だ。
こいつがここで生きる力を付けたとして、お前はいずれ殺されるだけだよ」

「そうでなければ困るでしょう」

「はっ、狂人からはそんな返しが出てくんのか?
常人様には理解が及ばねぇなぁ?」

煽るように言葉を男にぶつけながら、もう一人のアリスは周囲の状況を確認する。

「(何かないか…この状況を脱する何か…)」

「教育というのは、教育を受けた者が教育者を超えていくことに意味があります。
親の能力を、子供が超えていく。
そうでなければ、ここから出ることなど叶わない。
その為に必要な事を私はしているに過ぎません」

「(下半身が埋まってて身動きは取れない…。
この動きを制限された中で、あいつの《盤外召喚》を阻害しないといけない…何か見つけるまで時間を稼ぐしかないな。)
…そりゃ、熱心な教育方針って奴だな。
だが、それをこいつが望んでるとでも思うのか?」

そう口にした時、男がアリスの目の前へしゃがむと暗がりの中に溶け込んだ目を大きく見開いた。

「私は頼まれた事を穂香が達成できるように支援をしたのです。
しかし、穂香はそんなことよりも大事な人を守るという選択をしました。
ならば、この子の願いを無下にするのは親のエゴというものでしょう。

ですから…残念ですが穂香の願いを叶えるべきだと思うのです」

男はそう言って立ち上がるとポケットから1枚のカードを取り出した。
その瞬間に、もう一人のアリスは男がデュエルの結果を実行しようとしている事を悟った。

「ちぃっ!?
待て!頼まれたんだろう!
誰に頼まれたのか知らねぇが勝手にそんなことしていいのか!?」

「穂香の選択に驚いて、喋りすぎましたね。
今なら穂香も意識を失っている。楽に逝けるでしょう」

「待てって!手駒が必要なんじゃないのか?
せっかく従順に従う駒が出来たのに、それを自ら捨てるのか?
もっと有効活用していけばいいだろ。何を焦ってるんだよ、なぁ。
お前もここでの生活が長いはずだ。
急いで物事を決めると碌な事にならないぞ」

男は必死に食いつこうとしてくる言葉を無視し、ポケットから取り出したカードを持ちながらデュエルディスクの裏側のカード1枚分のケースの蓋を開ける。

「焦っているのはあなたですよ。
それとも、ここで穂香が死ぬというルールを破るべきでしょうか?
であれば、このフロアにルールは存在しなくなる。私は穂香の命を懸けたお願いを聞く必要がなくなってしまいますね。
そんな悲しい事があっては、穂香も浮かばれないでしょう?」

「くそ!!」

声を荒げると同時に、もう一人のアリスが右腕のデュエルディスクの装着部のロックを外す。
そして、右腕から外れたデュエルディスクを男のカードを持つ手元目掛けて投げつける。

「おっと…」

しかし、下半身が砂に飲み込まれている彼女が込められる力には限界がある。
投げつけたデュエルディスクは容易く避けられてしまい、地面にガチャと落ちる音がフロア内に残響を残す。
投げられ地面に落ちたデュエルディスクに視線を向けた男は、無機質な声で話しながら再びアリスの方へ向き直る。

「デュエルディスクを手放すとは…。
二つ身に着けているあなただからこそ出来た芸当ですね。
残ったもう一つも私に投げつけますか?
その瞬間、あなたはその砂の中に飲み込まれ二度と這い上がってくることは出来なくなりますけどね」

もう一人のアリスは砂の中に飲まれた足に、何かが当たる確かな感触を感じ取る。
この砂の中に存在するモンスターは、アリスがデュエルディスクを身に着けているから襲ってこないだけで、確実にそこへ潜んでいるのだ…。

「ちっ……」

「アリスさん。あなたも共に穂香の栄誉を称えましょう。
自分の命を捨ててまで、他者を助ける。
死んでしまっては全くの無意味ですが、人として素晴らしいと称えられる行動である事は認めざるを得ないでしょう。
きっとその方が穂香も嬉しいでしょうから」

「満足か…?
自分の思う通りに物事が進んで……」

もう一人のアリスは左手で砂を強く握り込み、男を鋭く睨みつける。
その無力さを男は鼻で笑い、手に持った罠カードをディスクの裏側のケースにへとセットした。

「私は予想外と言いましたよ。
さようなら穂香。

《肥大化》発動」


発動が宣言された。
右手の中で眠る少女を殺す何かが発動されてしまった。


アリスは耐えられず、体の主導権を奪い取り、穂香を強く抱きしめる。

「穂香ちゃん……!!!」



ぎゅっと目を瞑り、引き起こされる惨劇に体を震わせる…。





「《トラップ・スタン》発動だ」



突如、フロア内にへと放たれた少年の声。

ゆっくりと目を開けると、腕の中でまだ穂香は静かに佇んでいる。
頬を優しく撫でる。再びゆっくりと少女の体を抱きしめる。
それと同時に伝わって来る穂香の心臓の鼓動。そして、静かな呼吸音。


死んでいない。


事態を把握すべく、少年の声が聞こえたフロアの入口へ視線を向ける。

「アリスさん…!
遅くなりました…!」

「他のものへ影響を及ぼせる《盤外発動》は、基本的に罠カードだけだ。
たぶん…使って正解だったかな」

そこには、3つの影が外の光に照らされ浮かび上がる。
ふわふわと浮かぶお化けのモンスター《ゴーストリック・スペクター》。
そして、黒いドレスに身を包みスペクターに乗った梨沙と、
自身の右腕のデュエルディスク上で《トラップ・スタン》を発動している銀髪の少年がそこに居た。

「梨沙…ちゃん……」

「アリスさん、穂香ちゃんを助けに来てくれてたんですね。
もう大丈夫ですよ!」

スペクターから降りた梨沙が、アリジゴクに飲まれたアリスと穂香の元に向かう。
そして、その奥で《肥大化》を発動したフロア主の男は眉間にしわを寄せ、近づいてくる梨沙を睨む。

「梨沙……」

男がそう口にすると、梨沙は足を止め男の顔を正面から見遣り、啖呵を切る。

「お父さん。
お父さんが相手でも、これ以上酷い事はさせないから…!」

濁った緑色に染められたフロア内へ、光が舞い込んだ。
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コングの施し
間に合ったーーー!!!!

やっぱり穂香ちゃん、その過去も相まって自分へのダメージ、すなわち死と引き換えにアリスさんを守る選択をしましたか…。彼女の過去、そして大切なものを手に入れたからこそ、それを信用などできるはずもない狂人に委ねることはできない。彼女の優しさゆえの選択でしょうね。提示された条件もあくまでデュエルが前提になっているもの。最後の執行は盤外によるものだとは思っていましたが、ここで白神さんと梨沙さんが到着!!

よかった〜〜〜!!穂香とアリスさんに迫る窮地を脱せる2人組、ここで合流は激アツ展開ですね。そしてこれは、父上殿と本物の娘である梨沙さんの2度目の再会を意味しています。彼らの行く末は…非常に気になるところです!! (2024-03-28 17:22)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます!

外の世界で得られなかった穂香が意識せず本当に望んでいるものが、ここで得られてしまったという皮肉。約束を守るとは口にすれど、目の前で勿体ないからという理由で殺された少年の前例がある以上穂香が梨沙の父を信じることなどできるはずもなくですねぇ…。
危うく盤外のカード発動によって死にかけましたが、梨沙と白神が間に合いました!
一度は梨沙をフロアから遠ざけた父親との再会…。グリーンフロアに大集合したこの状況どうなってしまうのか! (2024-03-30 03:33)

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