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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#71「決意の隼」

Report#71「決意の隼」 作:ランペル

ピー
「先行は福原様、後攻は裏野様になります。」


 [ターン1]


梨沙と渚のデュエルが始まった。
その先行は渚が手にし、手札からモンスターを呼び出す。
 
「明るい未来なんてものは残されていないんだよ……梨沙君。
ボクは手札から《絶神鳥シムルグ》を召喚」[攻1800]
手札:5枚→4枚

黒い翼を広げた神鳥がフィールドへと降り立つと鳴き声をあげる。

「絶神鳥の召喚時効果を発動。
デッキよりシムルグモンスターである《護神鳥シムルグ》を墓地へ送り、魔法カード《神鳥の来寇》を手札へ加えさせてもらう。
さらに、相手の魔法&罠ゾーンにカードがない事で、墓地へ送った《護神鳥シムルグ》を特殊召喚できる!」[守1000]
手札:4枚→5枚

風と共に新たな神鳥がフィールドへと舞い込むと、自らを守るかのように翼を閉じフィールドへと鎮座する。ディスク上で呼び出したシムルグをすぐさまもう1体のシムルグへと重ね合わせると、渚のEXデッキから1枚のカードが飛び出した。

「ボクはレベル4の《絶神鳥シムルグ》と《護神鳥シムルグ》の2体でオーバーレイネットワークを構築。
エクシーズ召喚!

来たれ、ランク4《RR-フォース・ストリクス》!」[守2000]

飛来したのは機械質な見た目のフクロウ。
勇ましくその翼を広げると、自身を巡遊する2つのオーバーレイユニットが輝いた。 

「レイド・ラプターズ……」

渚の扱う新たなRRを前に梨沙は、その効果へと警戒を強める。
すぐさま呼び出された猛禽の効果が使われた。

「フォース・ストリクスのオーバーレイユニットを1つ使って、効果発動。デッキから鳥獣族、闇属性のレベル4モンスター1体を手札に加えることが出来る。
ボクはデッキから《レイダーズ・ウィング》を手札へ」
手札:5枚→6枚

フォース・ストリクスのオーバーレイユニットが消費されると共にデッキより1枚のカードが飛び出す。それを引き込んだ渚は、即座に墓地へと送り始める。

「サーチした《レイダーズ・ウィング》をコストに《神鳥の来寇》を発動。
デッキから属性の異なるシムルグモンスター2体を手札へ加える。ボクが手札に加えるのは闇属性《絶神鳥シムルグ》と風属性の《雛神鳥シムルグ》だ」
手札:6枚→4枚→6枚

2枚のカードがサーチされると、再びフォース・ストリクスのオーバーレイユニットが消え去る。
それと共に、青い炎を巻き上げながら新たなる機械鳥が飛来した。

「墓地の《レイダーズ・ウィング》は《RR-フォース・ストリクス》のオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、墓地から特殊召喚が出来る。
さらに、手札の《絶神鳥シムルグ》の効果も発動。鳥獣族が特殊召喚された時に、自身を見せることでシムルグモンスター1体の召喚が行える。ボクは、《雛神鳥シムルグ》を召喚だ」[守2000][攻0]
手札:6枚→5枚

フィールドへぱたぱだと駆け込んで来た幼い神鳥が甲高い鳴き声を上げた。それに呼び寄せられるように、再びフィールドへ黒い翼を広げた絶神鳥が舞い降りる。

「《雛神鳥シムルグ》の召喚時効果も発動だ。通常召喚に加えてシムルグモンスター1体の召喚が出来る。
2体目の《絶神鳥シムルグ》を召喚させてもらうよ」[攻1800]
手札:5枚→4枚

召喚すると共に、デュエルディスクから2体のモンスターを墓地へと送り込んだ渚の背後より、リンク召喚のゲートが顕現する。

「《絶神鳥シムルグ》と《RR-フォース・ストリクス》の2体でリンクマーカーをセット。
リンク召喚!

来たれ、LINK2《RR-ワイズ・ストリクス》」[攻1400]

ゲートより硬質化した翼を広げたフクロウ型の鳥獣がフィールドへと飛来する。

「ワイズ・ストリクスはリンク召喚時にデッキから鳥獣族、闇属性のレベル4モンスター1体を効果を無効にした状態で特殊召喚できる。デッキから《RR-ミミクリー・レイニアス》を特殊召喚させてもらう」[守1900]

同胞を呼び寄せるべくほっほーと低い鳴き声を響かすワイズ・ストリクスの元へ、全く同じ鳴き声を上げながら黄色の装甲が目立つ鳥獣がフィールドへと飛来した。

「レベル4の《レイダーズ・ウィング》に、呼び出した《RR-ミミクリー・レイニアス》の2体でオーバーレイネットワークを構築。
エクシーズ召喚!

来たれ、2体目の《RR-フォース・ストリクス》」[守2000]

2体の鳥獣が交錯しながら上空へと飛翔すると、青い炎を纏ったフォース・ストリクスがフィールドへと羽ばたく。

「2体目……ということは、サーチ効果に発動制限がないんですね」

「そういうことだね。ターンに1度の制限はあれど、同名の制限は存在しない……。オーバーレイユニットを1つ使い、効果を発動。
今度は《RR-ストラングル・レイニアス》を手札へと加えさせてもらうよ」
手札:4枚→5枚

フォース・ストリクスの鳴き声に反応したワイズ・ストリクスの左目へ装着されたモノクルを模した緑色の機械から、電子情報が前面に照射され始めた。

「これは……」

「《RR-ワイズ・ストリクス》の効果が連動して発動される。RRエクシーズモンスターが効果を使った時、デッキからRUM魔法カード1枚をボクのフィールドへセットできる。速攻魔法を伏せた場合でも、そのターンに発動が出来る状態でね」

「ランクアップマジックのセット……!?」

映し出された電子情報の中に1枚のカードが表示される。渚はその照射された電子の板へと手を入れると、表示されていたカードを手にし、取り出した。

「デッキより《RUM-ファントム・フォース》をフィールドへセットだ。
これを使う前に……LINK2の《RR-ワイズ・ストリクス》と《雛神鳥シムルグ》の2体でリンクマーカーをセット。
リンク召喚!

来たれ、LINK3《王神鳥シムルグ》」[攻2700]

金色の装飾に身を包んだ巨大な神鳥が神々しくフィールドへと降臨すると、自身の周囲へつむじ風が吹き始めた。

「王神鳥……厄介ですね……」

梨沙は王神鳥の出現に表情を曇らせる。前回の渚とのデュエルでも、その強力な対象耐性を付与する効果には苦しめられたからだ。

「まだまだこれからだよ梨沙君……。
このターンに墓地へ送られた《RR-ミミクリー・レイニアス》を除外して効果発動。デッキからRRカードである永続魔法《RR-ルースト》を手札へと加え、即座に発動」
手札:5枚→6枚→5枚

手札へと加えた永続魔法をデュエルディスクへと発動した渚。そして、その発動と共に先ほど伏せられていた飛躍の1枚が表へと返された。

「《RUM-ファントム・フォース》を《RR-フォース・ストリクス》を対象に発動!
墓地より3体の闇属性モンスターを除外し、ランクが3つ上のRRエクシーズモンスターをエクシーズ召喚させてもらう!」

「一気に3つも……!?」

渚の墓地より取り除かれた2体の絶神鳥とフォース・ストリクスが黒い幻影となって、フィールドのフォース・ストリクスと共に交錯しながら上空へと昇っていく。

「ランクアップ、エクシーズチェンジ!

来たれ、ランク7《RR-アーセナル・ファルコン》」[守2000]
 
爆発と共に巨大な黒鉄の隼が、青い炎を纏いながらフィールドへと飛来した。

「永続魔法《RR-ルースト》の効果発動。ボクがEXデッキからRRモンスターを呼び出したことで、デッキからRR魔法か罠1枚を手札に加えることが出来る。ボクは、カウンター罠《RR-ファントム・クロー》を加えさせてもらう。 
さらに、アーセナル・ファルコンのオーバーレイユニットを1つ取り除き効果発動!
1ターンに1度、デッキから鳥獣族のレベル4モンスター1体を特殊召喚できる」
手札:5枚→6枚 

アーセナル・ファルコンが甲高い鳴き声を上げると共に、纏っていた青い炎が消え去る。そして、脚部の一部が煙を噴出しながら開かれると、そこから新たな機械鳥が解き放たれた。

「(展開効果……?)」

RUMで呼び出されたモンスターが発動したのは更なる展開効果。エース級のモンスターが登場すると身構えていた梨沙はその効果を前に違和感がよぎる。

「デッキから《RR-ネクロ・ヴァルチャー》を特殊召喚。
さらに、フィールドに闇属性が居ることで、手札の《RR-ストラングル・レイニアス》は手札から特殊召喚できる」[守1600][守1100]
手札:6枚→5枚 

禍々しいオーラを放つ機械鳥と、細い体の機械鳥の2体がフィールドへと現れる。フィールドへ現れると共に青い炎を放出し、ストラングル・レイニアスが鳴き声を上げ始めた。

「ストラングル・レイニアスは、闇属性エクシーズを素材として持っているエクシーズモンスター……《RR-アーセナル・ファルコン》が存在することにより、墓地のRR1体を効果を無効にして蘇生させることが出来る。墓地より蘇れ《レイダーズ・ウィング》!」[守2000]

青い炎の放出に同調する様に、青い炎を巻き上げながら《レイダーズ・ウィング》がフィールドへ並び立つ。

「レイド・ラプターズとして扱う効果を持っているんですね……」

「そう、さらに《レイダーズ・ウィング》を素材として持った闇属性エクシーズモンスターも相手の効果の対象にならなくなる。
ボクは、レベル4の《RR-ストラングル・レイニアス》と《レイダーズ・ウィング》2体でオーバーレイネットワークを構築。
エクシーズ召喚!

三度飛来せよ、ランク4《RR-フォース・ストリクス》」[守2000]

3度目となるフォース・ストリクスのエクシーズ召喚。ガチャという音と共に翼を広げた猛禽の体は青い炎に包み込まれている。

「もう説明はいらないよね?
効果を使用し、デッキから《RR-ブースター・ストリクス》を手札へと加える」

巡遊するオーバーレイユニット1つの消失と共に、渚のデッキより1枚のカードが飛び出した。

「《RR-ネクロ・ヴァルチャー》の効果発動。RRモンスター1体をリリースして、墓地のRUM1枚を手札に回収することが出来る」

「RUMの回収効果……なるほど、私のターンでアーセナル・ファルコンをさらにランクアップさせるつもりですね」

「ボクがリリースするのは《RR-アーセナル・ファルコン》」

「な……!?」

違和感が解消されたと思ったのも束の間、梨沙の予測に反してリリースのコストして使われたのは、ランク7のアーセナル・ファルコンであった。RUMを発動してまで呼び出したこのモンスターは、フィールドに現れてから展開効果を使用しただけだったこともあり、梨沙は動揺と共にそのテキストへと目を落とす。

「…っ!?
この効果の為に、アーセナル・ファルコンをコストに……」

「気づいたみたいだね。
ネクロ・ヴァルチャーの効果で墓地の《RUM-ファントム・フォース》を手札へ回収。
そして、RRをエクシーズ素材として持っていた《RR-アーセナル・ファルコン》の効果を発動!自身が墓地へと送られた時、EXデッキからRRエクシーズモンスター1体を特殊召喚し、自身をそのエクシーズ素材とすることが出来る」

ガチャンという音を響かせ開かれたEXデッキ。そこから1枚のカードを引き抜くと、渚はデュエルディスクへと勢いよく叩きつける。

「数多なる骸の遺志を糧に、勝利の天空へと飛び立て!
来たれ、ランク10《RR-アルティメット・ファルコン》!」[攻3500]

フロアの赤い光を掻き消すように、黄金に輝く翼を広げた隼。その赤く光る眼力が梨沙の顔を射止める。

「アルティメット・ファルコンは自身以外のあらゆる効果を受け付けない」
 
「効果を……受けない……」

その赤い眼力と壮絶な威圧感、そして強固な完全耐性を前にたじろぐ梨沙。しかし、そんな事で渚は手を緩めるはずもなく、フィールドのカード効果を発動した。

「まだだ……ボクの決意はこんなものじゃない……!
《RR-ルースト》の効果で、除外されている《RR-フォース・ストリクス》と《RR-ミミクリー・レイニアス》、墓地から《RR-ワイズ・ストリクス》の合計3体をデッキへと戻し1枚ドローする」
手札:5枚→6枚

デッキトップから引き込んだカードを確認した渚は目を細めると、墓地から1枚のカードを取り出し始める。

「相手の魔法&罠ゾーンにカードがない事で、墓地から《雛神鳥シムルグ》を特殊召喚できる。さらに、フィールドにエクシーズモンスターが居る時、手札の《RR-シンキング・レイニアス》は特殊召喚出来る」[守1600][守100]
手札:6枚→5枚

「追加の展開……ネクロ・ヴァルチャーでエクシーズは出来ないから……リンク召喚?」

「外れだね、答えはこうだよ。
フィールド魔法《シムルグの霊峰エルブルズ》発動!その効果により鳥獣族、風属性の攻守が300アップする」
手札:5枚→4枚

発動されると共に、緩やかな風が渚と梨沙の元を通り抜ける。

「エルブルズ効果発動。
鳥獣族、風属性の《雛神鳥シムルグ》が存在することにより、ボクは鳥獣族1体を召喚できる」

「召喚って……」

渚のフィールドは、既に《王神鳥シムルグ》を含め6体のモンスターで埋め尽くされていた。この状況で新たにモンスターを召喚する為には…………

「《RR-ネクロ・ヴァルチャー》と《RR-シンギング・レイニアス》の2体をリリースして、《ダークネス・シムルグ》をアドバンス召喚だ」[攻3200]
手札:4枚→3枚

舞い込む黒い風と共に、巨大な神鳥がフィールドへ降り立ち、装飾の紫の結晶が怪しく揺らめいた。

「《ダークネス・シムルグ》……!」

魔法・罠の発動を無力化する《ダークネス・シムルグ》の登場。もちろん、それのコストとなる《雛神鳥シムルグ》もフィールドに健在であった。

「ボクはカードを2枚伏せて、エンドフェイズ。
《RR-アルティメット・ファルコン》の効果を発動だ。相手モンスターの攻撃力を全て1000ダウンさせる。ただし、相手にモンスターが居ない時は、代わりに梨沙君へ1000のダメージを与えることが出来る」

アルティメット・ファルコンが甲高い声で鳴き声を上げると共に、鈍く光る小さな光弾が梨沙に向けて放たれる。

「バーン効果も持ってるんですね……」

梨沙LP8000→7000

デュエルディスクで咄嗟に防いだ瞬間、それは小さな爆発を起こし、梨沙のライフを削り取った。
煙の中から小さく咳き込みながら、梨沙が出てくると渚の目を見遣る。

「……後は、《王神鳥シムルグ》の展開効果が残ってますよね?」

渚は攻撃を受けても冷静な様子の梨沙を見て、驚きと共に目つきが鋭くなる。

「ああ、覚えていたみたいだね。
《王神鳥シムルグ》は、エンドフェイズに互いの魔法、罠ゾーンの空いている箇所の数以下のレベルを持つ鳥獣族を手札かデッキから特殊召喚できる。
その様子なら、ボクが何を呼び出すかも分かってるよね?」

「空きは7つ……《ダーク・シムルグ》」

梨沙がそのモンスターの名を口にしたと同時に、渚のデッキより1枚のカードが飛び出した。
 
「ご明察だ。前回は突破されてしまったが、果たして今回もうまくいくかな?
7箇所の空きが存在することで、デッキからレベル7の《ダーク・シムルグ》を特殊召喚!」[攻3000]

鎧のように重厚な黒い翼で身を包みフィールドへと降り立った《ダーク・シムルグ》が、勢いよく翼を広げ鳴き声を上げる。それと同時に、3体の神鳥を包み込むように王神鳥と同様のつむじ風が吹き始めた。

「《王神鳥シムルグ》の効果により、自身とリンク先の《ダークネス・シムルグ》、《ダーク・シムルグ》、《雛神鳥シムルグ》の3体は相手の効果の対象にならない。さらに、《ダーク・シムルグ》が居る限り、君はカードのセットが行えない。
ボクはこれでターンエンドする。大人しく死んでくれれば、ボクも心を痛める時間が短くて済むから助かるよ……」

失笑交じりにそう告げた渚が自身のターンの終了を宣言した。


渚ーLP:8000
手札:1枚


 [ターン2]


「私がここで大人しく死ぬようだったら、そもそもこのデュエルを始めてないですよ?」

ターンが移り変わった梨沙は、渚の言葉にそう返しながらデッキトップへと指をかけた。
渚は何度目かとなるため息を吐くと冷たい目で、梨沙と己が盤面を見遣る。
 
「この盤面を突破できる未来を見ているのか……何かしらの策は考えていそうだね?
ならば今一度……気を引き締め直し、君を殺す事とするよ」

「厳しい状況なのは否定しません……。カードを伏せられない事、さらにはその効果を持ったモンスターを対象に取れない。おまけで、妨害まで構えられてるんです。
でも、だからこそ逆転出来た時は気分がいいはずです!
私のターン、ドロー!!」
手札:5枚→6枚

勢いよくデッキからカードを引き込む梨沙。渚は先ほどの梨沙の言葉へ呆気に取られてしまう。

「気分が……いいはず……ね。最初に会った時から変わらないな君は……」

「ほら渚さん!デュエルに集中しなくていいんですか!
速攻魔法《凍てつく呪いの神碑》発動!EXデッキから神碑モンスターをEXモンスターゾーンへ特殊召喚する効果を選択です!」

渚の動揺をそのままに梨沙は逆転への1手を打ち始める。梨沙の発動したカードは、渚が前回対戦した時には見た事のないカードであった。

「神碑……だと!?」

「新しいカードを使うのは渚さんだけじゃないですよ!
さ、《ダークネス・シムルグ》で効果を止めますか?」

「ぐ……」

梨沙の妨害の有無の問いかけ……それに対し渚は一瞬の内に思考を巡らせていく。

「発動は……しない。効果を通すといい」

「では、遠慮なく!
来て、レベル2《神碑の翼フギン》!」[守0]

梨沙のフィールドへ光が差し込むと、ぱたぱたと黒い翼を羽ばたかせながら掌サイズの小さな少女がフィールドへと現れた。

「フギンが特殊召喚に成功したことで効果発動です!手札の《命削りの宝札》を捨てて、デッキから神碑フィールド魔法を手札に加えますよ。
こっちにも、効果を使いませんか?」
手札:5枚→4枚

手札コストを支払いながら、妨害の有無を聞き取る梨沙。執拗な確認行程に渚の中で疑惑が高まっていく。

「(2度に渡る妨害の発動確認……ボクが焦って妨害を吐くの待っているかのような誘導……。それとも、あえて確認を挟み、妨害を戸惑わせようとしているのか……?
落ち着け、今発動されたのは発動制限のないフィールド魔法サーチ効果。フィールド魔法に問題があるなら、後からそれを止めても問題ないはず。《命削りの宝札》を使う気がなかったことからも、手札に発動可能な魔法ばかりという訳でもないだろう……)」

再び思考を巡らせた渚は、ゆっくりと口を開く。

「何もない。サーチして構わないよ」

「よし!フィールド魔法《神碑の泉》を手札へ加えますよ!」
手札:4枚→5枚

フギンの手元が光始め、1枚のカードが生み出されるとそれを梨沙の元までぱたぱたと飛んでいき手渡す。それと同時に、渚はサーチ先のカードの詳細の確認を始める。
 
「フギン、ありがとうね!」

「どうやら……それが神碑におけるキーカードの様だね。貫名君とデュエルさせたのには、君のデッキの変化を探る目論見もあったんだが……彼がこの場へ現れなかったのは正直誤算だったよ」

梨沙が新たに扱っているテーマを前に渚が残念そうにそう呟く。
 
「せっかくなら渚さんにも新鮮な気持ちでデュエルして欲しいですから、ネタバレされなくて良かったですよ!」

「生死の懸けたデュエルで新鮮さは脅威でしかないんだが……(まぁ……どんな経過であれ、彼が認めた相手の情報をべらべら話す様にも思えないし、考えるだけ無駄か……)」

《神碑の泉》を手札へと加えた、梨沙の右手は他の手札に行くことなく、EXデッキを収めた場所へと伸びていく。

「私は《神碑の翼フギン》1体を素材にオーバーレイネットワークを再構築します!」

「なっ!?モンスター1体でエクシーズするつもりか……!?」
 
宣言通り、梨沙のEXデッキは解放されそこから飛び出した1枚を手に取った梨沙は、ディスク上のフギンの上へと重ね合わせた。
すると、梨沙の背後よりうねうねと蠢く蛇のような物体が現われ始めた。

「エクシーズ・チェンジ!
降りそそぐ厄災、ランク12《厄災の星ティ・フォン》!」[守2900]

蛇のような物体の集合体が突如飛び上がったかと思えば、フィールドへと降って来たのは機械的な体を持つ人型の物体。肩の装飾の赤がまるで目の様に蠢くと、渚のフィールドのモンスター達を一瞥した。

「ティ・フォンは、渚さんがEXデッキから2体以上モンスターを呼んだターンか、その次のターンに自分のフィールドで一番攻撃力の高いモンスターの上へ重ねてエクシーズ召喚が出来ます!」

「……なるほどね。
いきなりモンスター1体でエクシーズ召喚したのには、驚いたが状況は好転させられるのかな。既に《凍てつく呪いの神碑》を使った君は、バトルフェイズも行えな……い……?」

梨沙へと向けられていた渚の視線が自分のモンスター達へと向かった。そこには、先ほど梨沙のフィールドでティ・フォンの背中から生えた無数の蛇のような物体が、自分のモンスター達にまとわりついて縛り上げている様だった。
異変を察知した渚は即座に、デュエルディスクで呼び出された厄災のテキストへ目を通し始める。

「ふふ、ティ・フォンが居る限りお互いに攻撃力3000以上のモンスター効果は発動できなくなりました。これで、《ダークネス・シムルグ》の妨害効果は使えません。
フィールド魔法《神碑の泉》発動です!」
手札:5枚→4枚

発動されると共に、梨沙の背後に不気味な石像を中央に備えた泉が浮かび上がる。

「(エルブルズの強化が仇になったか……)対象を取らないバウンス効果も持っているようだが、そのモンスターを呼んだターン君はこれ以上モンスターを呼び出せない。こういうのは無駄なあがきって言うんだよ梨沙君!」

己が心の焦りを落ち着けるべく、梨沙へとその行為の無意味さを説く。しかし、梨沙は渚の期待する反応を返してはくれない。

「効果を使っても先ほどサーチされたカウンター罠で無力化されてしまいますからね。だから、ここが一番重要なんです!
この2択が、デュエルの勝敗、私の生死に直結するんですから!」

どこか笑みを浮かべながら、手札の1枚を握り込んだ梨沙はそれを発動した。

「《破壊の神碑》発動!渚さんの魔法、罠カード1枚を対象に破壊して、相手のデッキの上から4枚を除外します!」
手札:4枚→3枚

「それで、カウンター罠を撃ち抜こうという訳か……。君の言う事を信じるなら、この2択を外せば君は敗北し、ボクに殺されると言っていた風に聞こえた……。
ボクにはどうしても理解できないよ。そんな生き死にのかかった勝負で……なんで君はそんな笑顔を見せられるんだ?」

梨沙はほんの少し驚いた表情を見せるも、すぐに柔らかな笑みを滲ませ渚へと答えた。

「デュエルって……そもそも人を殺すための手段なんかじゃないんです。例え、そこに自分の命や未来が懸かっていたとしても、デュエルを楽しむ事は忘れちゃダメだって、ここで過ごせば過ごす程にその気持ちが強くなって来ているんです。
ここに来てから教えてもらった……この実験の絶望に耐える私なりの方法でもあります!それに、きっとその方がデッキも応えてくれるし、もし負けたとしても……気持ちよく負けられるかなって!」

少し照れを見せながら、はにかむ梨沙。相反する険しい顔つきの渚は、目を閉じ梨沙へその答えを問う。

「ボクには……到底理解できない考え方だよ、それは。
さぁ、選びなよ……君の未来を懸けた2択を」

「私が対象に取るのは…………私から見て左の伏せカードです!」

そう告げた梨沙が対象の伏せカードに向けて右手を翳すと、Hに似たルーン文字が梨沙の右手へと浮かび上がり、そこから黄色い衝撃波が放たれた。

「残念、2択を当てたからって君が勝てる未来は存在し得ない!速攻魔法《RUM-ファントム・フォース》を《RR-フォース・ストリクス》を対象に発動!」

「ここでランクアップ……!?」

対象とした伏せカードとは別の伏せカードが渚の手により発動され、フォース・ストリクスの周りを鳥獣の幻影が飛び立つ。

「墓地より《RR-ストラングル・レイニアス》と《RR-シンギング・レイニアス》の2体の闇属性を除外し、フォース・ストリクスよりランクが2つ上のエクシーズモンスターにランクアップさせてもらう。
ランクアップ、エクシーズチェンジ!

来たれ、ランク6《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》!」[守3000]

上空へ青い炎を纏いながら、新たな隼が飛翔する。上空を滑空しながら、渚の伏せられていたカウンター罠《RR-ファントム・クロー》の破壊とデッキトップ4枚が砕け散る様を、鋭い眼光で上空から静観していた。

「君のティ・フォンが発動を封じられるのは、攻撃力3000以上だ。攻撃力2000のエアレイドの効果は止められないよ!
エクシーズ召喚に成功した《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》の効果を発動だ。《厄災の星ティ・フォン》を対象に破壊し、その攻撃力分のダメージを梨沙君へと与える!」
渚デッキ:22枚

「破壊にバーン効果まで……!」

「ティ・フォンさえ排除すれば、君のフィールドにモンスターは残らない!
殲滅しろ!レヴォリューショナル・エアレイド!」

指令を受けたレヴォリューション・ファルコンの両翼の内側が開かれた。梨沙のフィールドの上空を通過する際に、そこから無数の爆弾が梨沙のフィールド目掛けて投下される。

「破壊させませんよ!チェーンして、《まどろみの神碑》を《厄災の星ティ・フォン》を対象に発動!対象モンスターは、このターン1度だけ戦闘か効果で破壊されなくなり、相手のデッキを上から3枚除外します!」
手札:3枚→2枚

「これを……防ぐか……」

梨沙のディスクへチェーン3の表記が成され、梨沙の右手へBに似たルーン文字が浮かび上がる。その手をかざすと、ティ・フォンと梨沙を守るように防御壁が球体状に展開され、レヴォリューション・ファルコンの空爆から身を守る事が出来た。

「うわ……振動すごい……」

フィールドへと投下された無数の爆弾が爆発し、防御壁越しにその衝撃が振動となって梨沙へと伝えられる。爆撃が終わり、煙が晴れると共に自身のデッキから飛び出したカードを渚が手札へと加えていた。

「……エアレイドを特殊召喚した事で、永続魔法《RR-ルースト》の効果を発動し、デッキから罠カード《RR-グロリアス・ブライト》を手札に加えさせてもらった」
手札:1枚→2枚
渚デッキ:22枚→19枚→18枚

「ならこっちも……フィールド魔法《神碑の泉》の効果発動です!神碑速攻魔法を発動した場合に、墓地の神碑速攻魔法3枚までを対象にデッキの下へ戻し、その枚数分デッキからカードをドローできます!
私が戻すのは、《凍てつく呪いの神碑》、《破壊の神碑》、《まどろみの神碑》の3枚!デッキへ戻して……3枚をドロー!」
手札:2枚→5枚

勢いよく3枚ものカードをドローする梨沙。そして、それらを確認し、その中から1枚を新たに発動した。

「いい引きです!《神碑の穂先》発動、デッキから神碑カードである《破壊の神碑》を手札に加えて、相手のデッキの一番上のカードを除外します!」
手札:5枚→5枚
渚デッキ:18枚→17枚

tを意味する上向き矢印のようなルーン文字が梨沙の右手の甲へ浮かび上がり、右手をデッキへ翳すと1枚のカードが飛び出した。3枚のドローで一気にアドを稼ぎ展開を続ける光景を前に、渚が失敗したと言わんばかりに右手で自らの眼帯を抑えた。

「結果論だが……最初の発動から止めておくべきだったかもしれないね……」

「渚さんの盤面が強力ですから、何とか突き崩そうと頑張りましたよ!
《厄災の星ティ・フォン》のオーバーレイユニットを1つ使って効果を発動。渚さんの《ダーク・シムルグ》を手札へ戻します。これで、セット封じの制約が消えました!」

ティ・フォンが右腕を、《ダーク・シムルグ》へと向けると肩に備えられていた禍々しい装甲との連結が解除され、解除されたパーツがまるで蛇のようにウネり《ダーク・シムルグ》を締め上げフィールドから消し去った。

「だが、君はこれ以上モンスターの展開が出来ない。セットが出来たとて、所詮はボクの攻撃を防ぐための準備に過ぎない。《ダーク・シムルグ》も手札に戻しただけで、次のターンには展開できる。
ボクが優勢な状況に変わりはないはずだよ……」
渚手札:2枚→3枚
 
「ふふ、デュエルは何が起きるか分からないんです。
だから、楽しいんですよ?」

そう口元を緩ませた梨沙が手札のカード4枚を一気にデュエルディスクへと伏せる。

「私はモンスターを含めてカードを4枚セットです。ティ・フォンの制約はあくまで召喚と特殊召喚ですから、モンスターのセットは縛られていません。
バトルフェイズに入りますが、神碑の制約でバトルフェイズがスキップされます。
私はこれで、ターンエンドです!」
手札:5枚→1枚

ターンの終わりを告げた梨沙に反応し、渚が自分フィールドの《RR-ルースト》と、梨沙のフィールドの3枚の伏せカードを視認する。

「魔法、罠ゾーンの空きは6箇所……《王神鳥シムルグ》の効果を警戒してかい?」

「せっかく戻したのに、《ダーク・シムルグ》にすぐ帰って来られても嫌ですからね!」 

渚は、手札へと戻されたレベル7の《ダーク・シムルグ》に目を移した。
 
「(デッキから展開してもいいが……《ダーク・シムルグ》をすぐ呼べなくなるのも嫌だな)。
エンドフェイズに《王神鳥シムルグ》の効果は発動しない。このままボクのターンに入る」


梨沙ーLP:7000
手札:1枚


 [ターン3]


渚はデッキトップへと指をかけると少しの間、静止していた。

「(伏せカードは懸念材料だ……だが、例え盤面を返されても致命的ではない。なら……まだ温存しておくべきだろう……)。
ボクのターン……ドロー」
手札:3枚→4枚

デッキからカードを引き、それを確認した渚の目が大きく見開かれる。

「ボクもいいカードを引かせてもらったよ。
《ハーピィの羽箒》を発動!君の魔法、罠カード全てを破壊だ」
手札:4枚→3枚

「チェーンして伏せていた《解呪の神碑》と、手札から《破壊の神碑》を発動です!
《破壊の神碑》の効果で、渚さんの《RR-ルースト》を対象に破壊し、デッキトップ4枚を除外。《解呪の神碑》の効果で、EXデッキから《神碑の翼フギン》をEXモンスターゾーンへ特殊召喚します!」
手札:1枚→0枚

梨沙の右手に浮かぶルーン文字の力により、渚の永続魔法とデッキトップ4枚が吹き飛ぶ。

「だが、残りの伏せカードは破壊させてもらう!」
渚デッキ:16枚→12枚

梨沙のフィールドへと突風が吹き荒れ始めたが、そこに飛び込んできたフギンが風で飛ばされただけで、梨沙のフィールドにある2枚の伏せカードと《神碑の泉》はそのまま残されてしまう。

「なに……?」

「《神碑の翼フギン》の効果に、自分のカードが破壊される場合に代わりとして自身を除外する効果があります。これで、羽箒の効果でカードは破壊されません!
さらに、神碑速攻魔法が発動したことで、《神碑の泉》の効果が発動です!《神碑の穂先》、《解呪の神碑》、《破壊の神碑》の3枚をデッキの一番下へと戻し、3枚をドロー!」
手札:0枚→3枚

即座に失った手札以上のリソースを回復し、3枚のカードを引き込んだ梨沙。渚は眉間にしわを寄せながらも、墓地から取り出した2枚のカードを頭上へと放り投げた。

「面倒な事を……墓地から闇属性《RR-ネクロ・ヴァルチャー》と風属性《護神鳥シムルグ》の2体を除外し、《ダーク・シムルグ》を手札から特殊召喚だ」[攻3000]
手札:3枚→2枚

放られた2枚のカードをくちばしで切り裂き、黒い翼を広げた《ダーク・シムルグ》が風と共に舞い込み、フィールドへ降り立った。

しかし、その瞬間《ダーク・シムルグ》の元へと稲妻が落ちる。

「な…!?」

「1500LPを払ってカウンター罠《神の通告》発動です。
《ダーク・シムルグ》の特殊召喚を無効にし、破壊させてもらいます!」
梨沙LP7000→5500

稲妻に撃たれた《ダーク・シムルグ》がその場へと倒れ破壊される。だが、渚が構わずデュエルディスクを操作すると、上空の巡回していた《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》が青い炎を巻き上げながら、甲高い鳴き声を上げる。

「自らライフを減らすとはね。《RR-レヴォリューション・ファルコン-エアレイド》を攻撃表示に変更!
バトルフェイズ、《RR-アルティメット・ファルコン》で《厄災の星ティ・フォン》を攻撃する!」[攻3500]

金色の翼を広げたアルティメット・ファルコンの胸元に黒い光が集約していく。
攻撃が放たれる瞬間に、その目の前へ巨大な赤いダルマのような物体が出現する。
 
「……!?」

「罠発動《魔砲戦機ダルマ・カルマ》!
フィールドのモンスターを全て裏側守備表示に変更!そして、この効果で裏側にならなかったモンスターはそれぞれのコントローラーが墓地へ送る必要があります!」

「コントローラーが墓地にだって……?」

巨大なダルマが体を揺らすと、どこに収納されていたのか無数の兵器が出現する。そして、横向きに1回転しながら互いのフィールドを見渡した。その直前に、渚のアルティメット・ファルコンと《王神鳥シムルグ》を除くすべてのモンスターが裏側となり、観察を終えたダルマ・カルマの狙いが、依然としてフィールドに残っている2体へと向けられていく。

「守備表示になれないリンクモンスターである《王神鳥シムルグ》と、他の効果を受けない《RR-アルティメット・ファルコン》の2体が墓地に送られちゃいます!」

ダルマ・カルマの放った光線が残っている2体へと照射されると共に、その2体は1枚のカードへ変化させられ、燃え尽きる。

「……まさか、罠1枚でアルティメット・ファルコンと王神鳥が除去されるなんてね……」

「このカード以外にアルティメット・ファルコンを効果で突破できるカードはなかったので、引きに助けられましたよ」

一安心したように語る梨沙を尻目に渚は、自らのデッキに残されたカードの枚数を確認する。

「(12枚……最悪次のターンで削りきられかねないな……)。
攻撃を気にする必要はなさそうだね。メイン2に入り、《ダークネス・シムルグ》を反転召喚」[攻3200]

裏側となっていた《ダークネス・シムルグ》が巨大な黒い翼を広げながら再びフィールドへと降り立った。

「《RR-ブースター・ストリクス》を召喚し、《ダークネス・シムルグ》と2体でリンクマーカーをセット。
リンク召喚。

来たれ、LINK2《RR-ワイズ・ストリクス》」
手札:2枚→1枚

ジェット噴射しながらフィールドへと飛び込んできたブースター・ストリクスが、《ダークネス・シムルグ》と共にリンク召喚のゲートへと吸い込まれていく。それによって、再びフィールドへワイズ・ストリクスが翼を広げ、羽ばたく。

「《RR-ワイズ・ストリクス》がリンク召喚成功時、デッキから《RR-ブルーム・ヴァルチャー》を特殊召喚させてもらう」[守1900]

オレンジ色の火花を散らし、まるで花でも咲いているかのようにフィールドへ飛来した機械鳥が、身を守るべく翼を閉じた。

「カードを1枚伏せて……ターンエンドだ」
手札:1枚→0枚


渚ーLP:8000
手札:0枚


 [ターン4]


「私のターン、ドロー!」
手札:3枚→4枚

衰えぬ勢いのままにデッキからカードを引いた梨沙が、それを手札に加え、別のカードを手に取り即座に発動していく。

「メインフェイズ1開始時に《大熱波》を発動です!
次の私のドローフェイズが終わるまで、お互いに効果モンスターの召喚と特殊召喚が出来なくなりました」
手札:4枚→3枚

「ここで遅延カードか……!?」

梨沙と渚のフィールドを覆い囲うように赤く揺らめく熱気が満ちていく。

「くそ……なんてカードを使うんだい梨沙君……」

渚は再び自分自身の薄くなったデッキに視線を向け、歯を噛みしめる。

「渚さんのデッキは残り11枚。
このまま時間を稼げば、すぐにデッキはなくなります!永続魔法《亜空間物質回送装置》発動!」
手札:3枚→2枚

渚の焦りを誘うように、高らかな声色のままに発動された永続魔法。梨沙のフィールドへ三脚状の機械が出現し、赤いレンズが渚を覗き込むように向けられた。

「(《亜空間物質回送装置》……?)」

「セットしていた《厄災の星ティ・フォン》と《ゴーストリック・セイレーン》を反転召喚!そして、リバース時の効果でデッキトップから2枚を墓地に送り、その中にゴーストリックカードがあれば、デッキからゴーストリック魔法か罠を手札に加えることが出来ます!」[攻2900][攻800]

渚がテキストの確認へ入る前に、梨沙は伏せられていた2体のモンスターを表返す。黒鉄のティ・フォンとハープを奏でる人魚のモンスターがフィールドへと現れた。

「セイレーンの効果でデッキトップ2枚を墓地へ送りますよ」

「させない……罠発動《RR-グロリアス・ブライト》!
ボクのフィールドにRRが居る時、《ゴーストリック・セイレーン》の効果をターン終了時まで無効にさせて貰う」

発動された罠より放たれる黒い光弾がセイレーンの元へと届くと、セイレーンが持っていたハープから音が奏でられることはなくなった。

「この瞬間、永続魔法《亜空間物質回送装置》の効果を発動です!効果が無効になった《ゴーストリック・セイレーン》を一時的に除外して、すぐフィールドへと戻しますよ」

機械のレンズから赤い光がセイレーンへと照射されると、セイレーンの姿が一瞬揺らめいた。

「一時的に除外……効果を復活させたという事か。だが、リバース効果を持つモンスターの効果が復活したって何の問題もないよ」

「それはどうでしょう?
《ゴーストリック・セイレーン》の効果発動!1ターンに1度、自身を裏側守備表示へ変更します。そして、すぐに反転召喚《ゴーストリック・セイレーン》!」[攻800]

立てた人差し指を口元へと寄せながらそう言った梨沙が、セイレーンを裏側にしたかと思えばすぐ様反転召喚を実行する。
手を振りながら、潜るように姿を消したセイレーンは、再びハープを奏でながらフィールドへ現れる。

「な……反転召喚は既にしたはず……」

「一時的に除外されフィールドを離れた事で、セイレーンがこのターン表示形式を変更したという情報もリセットされました。そして、この子のリバース効果に発動制限はありません。
リバース効果発動!今度こそデッキから2枚を落としますよ」

ハープを指先で奏でたセイレーンの足元から水音と共に1枚のカードが飛び出した。

「墓地に落ちたのは、《輝く炎の神碑》と《ゴーストリック・リフォーム》でした。ゴーストリックカードがあったので、デッキから《ゴーストリック・ショット》を手札へ!」
手札:2枚→3枚

セイレーンが掴んだそのカードは、そのまま梨沙へと渡される。その瞬間、背後で怪しく鎮座していた《亜空間物質回送装置》のレンズが再び光始める。

「《亜空間物質回送装置》の効果発動です。1ターンに1度、自分モンスター1体を対象に一時的に除外します。《ゴーストリック・セイレーン》を対象に除外です!」

照射されると共に、再び姿が揺らめくセイレーンはにこやかにほほ笑んでいる。

「これで……また同じ事が出来る訳か……」

「正解です!
さっきと同じようにセイレーンの効果を発動し、自身を裏側にして、即座に反転召喚!
リバース効果でデッキトップ2枚が墓地へ。墓地に落ちたのは、《ゴーストリックの人形》と《ゴーストリック・ランタン》だったので、今度は《ゴーストリック・ナイト》を手札へ加えますよ!」[攻800]
手札:3枚→4枚

つい先ほど行われた1連の流れが全く同じように再生されていく。

「完全に罠を無駄撃ちさせられてしまったね……いくらボクが《情報屋》とは言え、初見のカードにまで対応は出来ないよ」

「ふふ、特に《亜空間物質回送装置》なんてカードは使ってないと細かいルールまで分かりませんから。でも、このカードなら渚さんにも意図が伝わると思いますよ!
速攻魔法《黄金の雫の神碑》発動。渚さんはデッキから1枚ドローして、渚さんのデッキの上から4枚を除外させてもらいます!」
手札:4枚→3枚

「く……1枚で5枚のデッキ破壊ってことだろう……!」
渚手札:0枚→1枚
渚デッキ:11枚→6枚

梨沙の右手の甲へXに似た神碑文字が浮かび上がると、渚のデッキトップが黄金に輝き飛び出す。渚がゆっくりとそれを引き込むと同時に、デッキトップの4枚が勢いよくはじけ飛んだ。

「そして、神碑速攻魔法が発動したので、《神碑の泉》の効果も発動します!
墓地の《輝く炎の神碑》と《黄金の雫の神碑》2枚を対象にデッキの下へ戻し、2枚をドロー!」

梨沙が対象となった2枚の神碑カードを墓地から取り出すべく、掲げた手元で桜の花びらが舞い散り、墓地からカードが出てこなくなった。

「こ、これは……」

「好き放題されるのも気に入らないからね。
《灰流うらら》を捨てて、《神碑の泉》のドロー効果を無効にさせて貰った。君が引かせてくれたカードに助けられるとは思っていなかったけどね」
渚手札:1枚→0枚

「う、ぐぐ……」

流れに乗っていた梨沙の展開が止められたことで、梨沙は自身の手札へと目を移す。そこに渚が、梨沙の現在の状況を推理するべく口を開いた。

「この2枚のドローで神碑速攻魔法を引ければ、ボクのデッキを0に出来ていたかもしれない。だが、運悪くそれは封じられた。
そして、少なくとも君の手札には、今発動が可能な神碑速攻魔法はない。もし、あるのならそれを発動して3枚ドローできる状況にしてから《神碑の泉》の効果を使ったはずだからね」

「例え……そうだとしても、渚さんは次のターン効果モンスターを召喚できません。私に次のターンが回ってくるのもほぼ確定しているんです!
カードを1枚伏せて、バトルフェイズに入ります。神碑のデメリットで、バトルフェイズがスキップされるので、そのままターンエンドです!」
手札:3枚→2枚


梨沙ーLP:5500
手札:2枚


 [ターン5]


「それは否定しようがないね。ボクはこのままターンエンドするしかない……。
そして、このドローを含めればボクの残りのデッキは5枚になる。次のターンのドローで、君に神碑速攻魔法を引かれ発動されれば、デッキ切れでボクは負けるだろう」

渚は静かにそう語ると、ゆっくりと深呼吸をし始めた。

「そうです……。でも、デッキ切れでは現実にダメージが発生しません。
デッキ切れでデュエルに勝てば渚さんが死ぬことはあり得ないんです!」

落ち着いた様子の渚を前に、梨沙が自分の勝利によって渚が死ぬことはないという事を強調して話す。しかし、渚は左目で梨沙をまっすぐに見つめると、改めて口を開いた。

「もう、勝ったつもりでいるのかな?
君が言ったんだよ。デュエルでは何が起こるか分からない……。そして、君がそうして見せたように、ボクもか細い隙間を縫い、君から勝利を全力で奪い取る。
勝利を引き寄せる為に……使わせてもらうよ!」

勢いよくそう言い放った渚は左手の指先でデュエルディスクを操作した。
それと共に流れたアナウンスが、渚の次の引くカードを告げる。

ピー
「カスタム《確定ドロー》により、福原様のデッキトップへ指定のカードが送られます。」
 
「《確定ドロー》……!?」

アナウンスが告げたのは、渚のデッキトップを操作したという内容。渚がシャッフルされ終わったデッキトップへと指をかけ、固定されたカードを引き抜く。それを人差し指と中指で挟み、裏側のまま突きつけ梨沙を見遣った。

「卑怯とは言わないでくれよ。
これがこの実験でのデュエル……クラスⅢとなったボクが使える当然の権利なんだ。それは、クラスⅢである君もよく分かってくれているはずだよね」

渚が逆転を賭け、デッキより引き込んだ1枚。
すり減った5枚のデッキを残し、動揺する梨沙を前に渚が不敵な笑みを零した……。
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