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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#63「窒息」

Report#63「窒息」 作:ランペル


「すべては無と還るのです!
ネフェルアビスの効果により《溟界神-オグドアビス》の蘇生が行える!」

光の波紋が地面に広がる。
そこより黒い濁流が湧き出し、それらが形を象っていく。
エジプトを思わせる装飾があしらわれた巨大な蛇神が姿を見せ、金色の鎧を身に纏った神は、濁流を翼に変えそれを雄々しく広げた。

「なんかでかいのが…2体も!?」



近久-LP:8000
手札   :5枚
モンスター:なし
魔法&罠 :なし

ーVSー [ターン1]

霊園-LP:8000
手札   :3枚
モンスター:《キングレムリン》[攻]、《蕾禍ノ鎖蛇巳》[攻]、《溟界神-ネフェルアビス》[守]、《溟界神-オグドアビス》[攻]
魔法&罠 :なし



先行に選ばれた霊園のフィールドには、4体ものモンスターが立ち並ぶ。
中でも巨大な2体の蛇神は艶めかしく濁流の体をうねらせ、近久を見据えている。

「冥界より賜ったこの力。
さぁ!近久様!
神の姿を前にして、一体どのような振る舞いを見せてくださるのですか!?」

狂気に魅入られたその瞳をらんらんと輝かせる霊園の姿は、赤い光に照らされることで更なる不気味さを放っていた。
怒りのままにデュエルを開始した近久だったが、その奇怪な言動を前に困惑の感情が先行し始める。

「あなた…神様がどうとかって、いったい何言ってるの?」

「そう…分かるはずありません。
神より神託を賜っていたのは藤永様だけ。
私は、彼が愚かな人々へ神託を授ける瞬間に立ち会ったのです。

何者をも寄せ付けない力を持ち合わせ、人間など相手ではないかのようなその言葉の数々…。死を恐れるでもなく、自ら地獄の民を救うべく奔走するその姿は…まさに神の遣いに相応しかったのです…」

霊園は恍惚の表情を浮かべながら虚空に向かって語り始めた。
しかし、それを聞けば聞くほどに近久の困惑は増すばかりだ。

「神託を授ける…?」

「今、私が近久様に施そうとしている事です。
藤永様は、この地獄をさ迷う民を神の代理として裁きながらも救っておられた…。
私はその姿に感銘を受け!彼の様に人々を救いたいとそう強く願うようになったのです!!」

「救う救うって……それが人を殺すことな訳…?」

近久が抱える困惑と不安。
それが起因する怒りの感情が、目の前の狂人の言葉の影響で再発してくる。

「そうです!ここに生けるのは地獄の住民!
藤永様が神の遣いであるならば、私は地獄の獄卒!
藤永様亡き今…その役目を引き継ぐのはこの私でなくてはならないのです!
あぁ…何とも愚かな迷い人…今、私がその命を奪い、安らかなる裁きを下して差し上げます……」

自分を嫌らしく見つめてくるその目は、人を見る目ではない。
情けをかけるかのような、弱い生き物を見るかのような、その歪んだ瞳と満面の笑み。
その姿を前に近久は、嫌悪感を露わにしながら自らのターンを宣言する。


霊園-LP:8000
手札:3枚


 [ターン2]


「ああー!!訳分かんない!!!
みんなみんな意味分かんない事ばっか喋んなよ!
ウチのターン、ドロー!」
手札:5枚→6枚

デッキからカードを引いた近久は、自らの手札と相手のモンスター達とを見比べる。

「とにかく…全部ぶっ倒せばいいんでしょ!」

近久は手札の1枚をデュエルディスクへと発動する。

「《花あわせ》を使う!
デッキから攻撃力100の花札衛…カス札4枚を持ってこれる!」
手札:6枚→5枚

デュエルディスクを操作すると一気に飛び出す4枚のカード。
それを掴むと近久は、デュエルディスク上へ同時に召喚した。

「《花札衛-桜-》、《花札衛-芒-》、《花札衛-桐-》、《花札衛-柳-》の4枚を持って来る!」[攻100][攻100][攻100][攻100]

様々な絵柄を持つ板状のモンスターが4体現れ、それらが横に連結する。

「1枚で4体の特殊召喚!
どうやら大人しく神の生贄となってはくださらないご様子!」

口角を吊り上げて笑う霊園の顔を見て、引き気味な近久が叫ぶ。

「大人しく生贄になる訳ないでしょ…。
レベル11の《花札衛-柳-》を取って、《花札衛-柳に小野道風-》を特殊召喚!」[攻2000]
手札:5枚→4枚

柳の札が消え、そこへ新たな札が現れ残った3体と連結する。

「柳に小野道風の効果。
特殊召喚されたら…1枚ドローしてそれが花札衛なら特殊召喚してもいい!」

「どうやら…近久様のデッキはどんどんカードを引いて、モンスターを呼ぶものと思われますわね」

「…?
たぶんそんな感じだと思うけど…」

突然、デッキの動きへ言及されたことでぎこちなくも答える近久。
それを嘲笑うように不敵に笑った霊園が、モンスターの発動に反応して効果発動を宣言した。

「神が!藤永様が!
私を褒めてくださっている!なんと喜ばしいことなのでしょう!
これこそが、その証明!相手がモンスターの効果を発動した時、《蕾禍ノ鎖蛇巳》の効果を発動!
このターン中、私と近久様は互いに手札のモンスター効果を発動が出来なくなりました!」

「モンスター効果が使えない…?」

赤い文様の描かれた衣装に身を包む人型のモンスターが、鎖鎌を振るう。
すると、背後で蠢く流動体の黒い蛇が咆哮をあげた。
その発動によって、自らの効果が行えなくなっていないかを確認するべく、近久が自身のデュエルディスクの画面を凝視する。

「…小野道風のドローは……問題なく使えるね。
ドロー!引き込んだカードは《花札衛-萩に猪-》だったから、そのまま特殊召喚するよ!」[守1000]
手札:4枚→5枚→4枚

新たな花札モンスターが連結して、場に現れる。

「萩に猪も特殊召喚された時に効果が使える!
ドローして、それが花札衛なら相手モンスターを破壊だ」

「では、ここで使いましょう!
冥界より賜ったこの力を!!

《溟界神-オグドアビス》の効果!このカードが表側で居る限り1度、フィールドの墓地から特殊召喚されていないモンスター全てを墓地へと送ります!」

金色の鎧を身に纏った巨大な蛇神が唸り声をあげる。

「墓地から特殊召喚されてないモンスター……。
それって!?」

「それは私のフィールドのオグドアビスと、ネフェルアビス以外のモンスターを指します。
そう!近久様の抵抗は全て無と帰すのです!!!」

オグドアビスが濁流で象られた黒い尾を振るう。
すると、近久の花札衛の全て。さらには、霊園のフィールドの《キングレムリン》と《蕾禍ノ鎖蛇巳》さえも、漆黒の濁流に飲み込まれてしまった。

「モンスターが全滅…。
でも、萩に猪のドローは生きてる…。
ドロー!引いたのは《花札衛-松-》!
あなたのさっき効果を使った方とは別の神様を破壊!」
手札:4枚→5枚

引いたカードを相手へと見せつける近久。
その瞬間、ネフェルアビスの体が爆発し周囲へ黒い液体を飛び散らしながら消滅する。

「さぁ!これで近久様の場はがら空き!
そして、手札のモンスター効果もこのターンは使えません!
どうやって次のターン、私の攻撃を耐えるおつもりですか?」

両腕を広げる事で霊園の赤い狩り衣の袖が揺れる。
近久は、自らの手札に残るカードを凝視しており、霊園の言葉など耳に入っていない。

「(手札から効果を使えないって事は……このカードはもう使えないか。)
だったら、《花札衛-松-》を召喚」[攻100]
手札:5枚→4枚

花札の松が描かれた板状のモンスターが新たにフィールドへと現れた。

「召喚時に1枚ドローして、それが花札衛でなければ墓地へ送る。
ドロー、ドローしたのは《花札衛-牡丹に蝶-》!」
手札:4枚→5枚

「残された召喚権も使われましたね。
近久様の生きた証を!罪の残滓を!
私が見極めて差し上げますよ!」

「ほんっとにイライラするぐらい意味分かんないけどさ…ウチの勝負強さってのなら見せてあげる!
《超こいこい》発動!デッキから3枚めくってその中の花札衛を全部持ってこれる。
ただし、外したら1枚につきライフが1000失われる!」
手札:5枚→4枚

デッキトップへと指をかける近久。
そして、それを一気に引き抜き霊園へとそのカードを見せつけた。

「行くよ…1枚目…!
《花札衛-萩に猪-》!」

そのまま2枚目、3枚目とデッキトップのカードを引き確認していく。

「2枚目…《花札衛-芒-》!!
3枚目…《花札衛-紅葉に鹿-》!!!」

近久が捲ったカードは全て花札衛。
つまり、一気に3体のモンスターがフィールドへと並ぶこととなる。

「1枚も外さないのですか…。
近久様も神より愛されているのかもしれませんね?
ですが!藤永様の次に最大の寵愛を賜ったのはこの私です!
近久様が何をしようとも、神の定めを覆すことなど出来はしません!」

霊園は歪んだ笑みと共に高らかな笑い声をあげ始める。

「そういうことはウチに勝った時に好き勝手言えばいい!
芒を取って、《花札衛-牡丹に蝶-》を特殊召喚!
さらに、特殊召喚した牡丹に蝶の効果も発動。1枚ドロー!」[守1000]
手札:4枚→3枚

フィールドへと新たな花札板が現れる。
鮮やかな牡丹の花に、炎の翅を揺らす蝶々が描かれた絵だ。

「ドローしたのは《花札衛-柳-》!
それにより追加効果で、あなたのデッキの上から3枚を見て好きな順番でデッキの上か下に戻す事が出来るよ」
手札:3枚→4枚

近久のデュエルディスクの画面に、3枚のカードが表示される。

「これがデッキの上のカード…」

画面を順番にタッチし、順番が決定される。

「うん、この順番でデッキの上に戻すよ」

「では…私が次に引くことが出来るのは近久様によって選ばれたカードということですね…。
運命をも捻じ曲げるその効果…あぁ!!
近久様は神より示されし定めをも否定なさるおつもりなのですか!!?
そんなことはあってはなりません!ですが、私共が自由に出来ることなどはたかが知れています。
最後に神の寵愛を賜るのはこの私である事を示して見せましょう!!」

表情を歪め、かと思えば即座に目を見開き笑顔を貼り付ける霊園。
近久はその異質さを崩さない姿に、嫌気が差しながらフィールドに揃った3枚の札を取る。

「出来るもんならやって見せてよ!
《花札衛-萩に猪-》《花札衛-紅葉に鹿-》《花札衛-牡丹に蝶-》が揃った!
この3枚を取って……ここね!
シンクロ…?召喚!

いざ勝負!《花札衛-猪鹿蝶-》!」[守2000]

不慣れな手つきでデュエルディスクを操作する近久。
EXデッキが収納されている部分が開かれ、飛び出して来た1枚のモンスターを掴み、場へと呼び寄せる。
フィールドへと、猪の顔を模した鎧に身を纏った武将の様なモンスターが上空より飛び降り着地した。

「猪鹿蝶の効果を発動。
墓地から《花札衛-芒-》を除外することで、あなたのターンが終わるまであなたは墓地の効果を使えず、墓地からモンスターを特殊召喚する事も出来ない!」

「…な!?」

鹿の角が組み込まれた槍を回転させ、その場で存在感を発する。
回転によって巻き起こった風が霊園の元を駆け抜けた。

「これで、ターンエンド」

ターンを終了した近久。
そして、赤い髪を揺らす霊園は奥歯を噛み締め、輝いていた瞳は恨めしそうな睨みへと変容させた。

「まさか…冥界より賜りしこの力を無力化するとでも…?
私の信仰を妨げると?否定すると…そういうつもりなんですか!!?」

「は…はぁ?
だから、何言ってるのか意味わかんないって!!」


近久-LP:8000
手札:3枚


 [ターン3]


「とぼけようとも無駄です!
その悪辣な背信行為は許されるものではありません!
この私が必ずやその罪を裁いて見せましょう!ドロー!」
手札:3枚→4枚

勢いよくデッキからカードを引き抜く霊園。

「墓地より爬虫類族である《溟界の漠-フロギ》を除外する事により、手札から《蕾禍ノ鎧石竜》を特殊召喚!」[守2300]
手札:4枚→3枚

フィールドへ固い鱗に覆われ、さらには鎧も身に付けたトカゲが現れた。

「《蕾禍ノ鎧石竜》の効果を発動です!
手札より《溟界妃-アミュネシア》を捨てる事により、近久様の《花札衛-猪鹿蝶-》を手札へと戻させていただきます!」
手札:3枚→2枚

「手札に戻す…?」

鎧石竜の尻尾に備えられた砲撃より、黒い液体の塊が放たれる。
《花札衛-猪鹿蝶-》が、左腕に備わった蝶々を模した盾で防ごうとするとも、体を丸ごと黒い液体に包み込まれ猪鹿蝶はフィールドから姿を消す。

「え!?これこっちに戻っちゃうの!?」

「これにて近久様を守護するモンスターは消え去りました。
《溟界の蛇睡蓮》を発動!デッキより爬虫類族《溟界の昏闇-アレート》を墓地へと送ります」
手札:2枚→1枚

「てことはダメージを受ける……」

現実に反映されるダメージ。
近久の眼前にそびえるモンスターは、巨大な蛇神。
負ける気などなくとも、目の前に存在するリアルな怪物を前にして段々と恐怖がにじり寄って来る。

「神より下される神判!
近久様の行った罪を罰してくださるのです!
とくとその身でご体験ください?

《溟界神-オグドアビス》で攻撃!!!」[攻3100]

攻撃が宣言されたことで、動き出すオグドアビス。
巨大な翼を広げた蛇神が、獰猛な口にエネルギーを集約していく。

「く、来るならこい!!
絶対に負けないんだから!!!」

身構えながらも声高に叫んだ近久へと、オグドアビスの攻撃が放たれた。
勢いよく放たれた黒い濁流が近久の体を丸ごと包み込んでいく。

「う…ぐぁぉ!!?」

近久が最初に感じ取った感覚は異物感。
彼女の顔へと貼り付いてくるのは、まるでヘドロの様に不快な感触と異質な臭い。
それが、そのまま目や鼻、口、耳へと侵入してくる。

「(息…できな……)」

呼吸が確保できなくなった脳内が一気に覚醒する。
そして、同時に眼球へ与えられた異物感が近久へと痛みをもたらす。

「………!!!?」

近久LP:8000→4900


身をよじり手を振り回すことで、何とか彼女を包み込んでいた黒き深淵が掻き消えていく。

「……げほっ!?
ごほっ、ぺっ…おえ…げほっ……」

気道が確保され、咳き込む近久。
その足元には黒い泥水のようなものが吐き出されていく。

「感じなさい、感じ取りなさい!
これこそが!神より授けられた神罰!
あなたは今!罰を受けているのですから!!!」

恍惚とした表情で、苦しむ近久を見つめる霊園。
近久は、痛みがまだ残り真っ赤になったその目でキッと霊園を睨みつける。

「あぁ…実に苦しんでおられる…。
そうです、罰は苦しまなければ意味を成しませんからね。
近久様が苦しまれているようで安心しました!
そうでなくては、藤永様へと捧げる贄として不完全でしょう!!!」

「いた…いたい……はぁ…げほっ…。
ふざけないで……」

アジサイが彩られた浴衣を汚しながら、近久は尚も霊園を睨みつける。

「そんな訳の分からないことで…。
こんなひどいことされて…。
許せないから…!!」

「近久様は、許す許さないを決める立場にはありませんよ?
それを下せるのは神のみなのですから。
《溟界神-オグドアビス》《蕾禍ノ鎧石竜》の2体でリンクマーカーをセット。
リンク召喚!

LINK2《レプティレス・エキドゥーナ》!」[攻200]

フィールドの2体のモンスターが、地面に発生した黒い波紋へと飲み込まれる。
すると、女性の姿が浮かび上がってきた。しかし、その下半身は毒々しい蛇であり、赤い瞳の怪物が近久を見据えた。

「イライラする……おぇ…。
もう、マジもマジ…。
あなたが何言ってももう聞かないから!!」

「私の言葉に耳を貸さないという事は、それ即ち神の言葉に耳を貸さない事と同義!
その意味が分かっておられるのですか?」

「知るか!!
クソ気持ち悪い!!やることやったならターン終わって!
目とかめちゃくちゃ痛いし、他のとこも全部気持ち悪い!
なんでウチがこんな目に合わなきゃいけないんだよ!!!」

霊園の言葉に限界が来た近久が、胸中を曝け出す。
その言葉を聞いた霊園はにやりと笑い、手中に残された最後の1枚をデュエルディスクへとセットした。

「そうです近久様。
これが……罰なのです。
カードを1枚セットして、私はターンエンドです」


霊園-LP:8000
手札:0枚


 [ターン4]


「ウチが何したんだ…。
なんでこんなことされないといけない…。
気持ち悪い…気持ち悪い…。
キモイんだよぉぉおお!!!」
手札:3枚→4枚

体に残る不快感を言葉に乗せ怒鳴り上げる近久が、デッキトップからカードを引き込む。

「《花札衛-桜に幕-》を見せて効果!
デッキからドローしてそれが、花札衛なら特殊召喚だ。
ドロー、ドローしたのは《花札衛-紅葉に鹿-》!
よって、特殊召喚」[攻2000]
手札:4枚→5枚→4枚

カードが手札、デッキ、フィールドを入れ替わる様に動いていく。
そして、フィールドへと置かれた花札が即座に墓地へと送り込まれる。

「《花札衛-桜に幕-》を取って、《花札衛-紅葉に鹿-》を特殊召喚!
その効果で1枚ドローできる」[守1000]
手札:4枚→3枚

「もっと苦しむのです!それが、近久様の罪を償う事になり、生贄としての価値を高める事にも繋がるのですから!
罠発動《溟界の呼び蛟》!私のフィールドへ《溟界トークン》2体を呼び出す事が出来るのです。
ですが……墓地に8種以上の溟界モンスターが存在している場合に限り!
トークンの代わりに墓地から溟界モンスター2体を呼び戻す事が出来るのです!」

「くそ、それじゃまた…!!」

「再び舞い戻り、全てを無と帰せ!
墓地より《溟界神-オグドアビス》、《溟界王-アロン》降臨!」[攻3100][攻2500]

地面に生まれた黒い波紋。
そこからオグドアビスと、黒い濁流で生成された巨大な4つ足を地面に下ろしたアロンが蘇った。

「また…全部墓地に送られるって事…」

オグドアビスの再臨により、大量にモンスターを呼んだとしても全てを無意味にされてしまう不安が近久の脳内を過る。
デッキトップに指をかけ、それをゆっくりと引き抜く。

「(とにかく…)紅葉に鹿の効果でドロー…。
ドローしたのは、萩に猪。その発動した罠カードを破壊しておく」
手札:3枚→4枚

「では、この瞬間《溟界王-アロン》の効果を発動!
近久様がドローフェイズ以外でカードを手札に加えた事で、手札の中から1枚をランダムに墓地へと送らせていただきます!」

「手札を墓地に…!?」
手札:4枚→3枚

コブラを模した長い錫杖がアロンの手により振るわれると、近久の手札の内1枚が地面から飛び出した黒い蛇に噛みつかれ持って行かれてしまう。

「《花札衛-桜-》が…。
でもそんなんじゃまだウチのターンは終わらない…はず!
《花札衛-紅葉に鹿-》を取って、《花札衛-萩に猪-》を特殊召喚!」[守1000]
手札:3枚→2枚

飛び込んできた花札板が、鹿の描かれた板を弾き飛ばし入れ替わる。

「特殊召喚した萩に猪の効果!」

「抗う姿勢を崩しませんか…。
ならば!《溟界神-オグドアビス》の効果を発動です!
近久様の《花札衛-萩に猪-》を墓地へと送らせていただきます!」

再び、濁流の尾を振るったオグドアビス。
フィールドに1枚のみ存在する花札の板は呆気なく砕けちる。

「でも…ドローが無効になった訳じゃない!
ドロー、引いたのは《花札衛-桜に幕-》!
萩に猪の追加効果で、《溟界王-アロン》を破壊だ!」
手札:2枚→3枚

砕けちった花札の板。
しかし、散って行った破片が集まり描かれていた猪へと早変わりすると、錫杖持つ溟界の王の元へと向かっていき、その身ごと王を打ち倒してしまう。

「やはり、引いてきますか!?
こうなれば、あとは互いの神より賜った寵愛の量で勝負は決します!
溟界の神が引き込むのは……。
藤永様の導きの先にあるのは……!!
あぁああああ!!!!!」

甲高い狂喜の悲鳴が近久の脳に響く。
攻撃を受けた事での身体の不調と合わさり、近久の怒りのボルテージがさらに加速して行った。

「うっっるさいんだよ!!!!!
だまれ!!!」

 ---

「………」

「随分早く片付いたね久能木君」

怒りと共にデッキを回す近久と、狂った笑みでそれを見つめる霊園のデュエル。
それを背後で観察するのは、渚とデュエルを終えた久能木だ。

   *****
   状況は?
   *****

久能木より手渡されたメモを見た渚は、ほんのり頬を緩め久能木の顔を見て喋った。

「予想以上だね。
あれでクラスⅠ。ましてや、デッキを渡されて2回目のデュエルだって言うんだから驚きだよ。
いくら花札がテーマだからって、デュエルとは勝手が違うだろうにね~」

   *****
  やれるのか?
   *****

少し険しい表情になった久能木が再びメモを手渡す。

「ふふ、殺ってもらわないと困るよ」

渚の笑みを見た久能木は、静かに懐から取り出した煙草に火を点け、目の前のデュエルの行く末を見届ける。

 ---

「《超勝負!》を使う!
この白い《花札衛-月花見-》を元の場所に戻すことで、墓地から4枚の花札衛を持ってこれる。
《花札衛-柳に小野道風-》、《花札衛-芒に月-》、《花札衛-桜に幕-》、《花札衛-萩に猪-》を場へ!」[攻2000][攻2000][攻2000][守1000]
手札:2枚→1枚

新たにフィールドへと呼び出されていた、芸者を思わせるモンスターが手元の扇子を広げる。
それと同時に、その手元から4枚の花札が飛び出し、花札衛となりフィールドへ並び立ち、月花見が姿を消す。

「そして、1枚ドローする。
これが花札衛なら特殊召喚。
違えば、ウチのフィールドのモンスターは全部破壊されて、ウチのライフも半分になる」

「ふふふ、あたかも次のドローが命運の一枚とでも言いたげな表情…。
自らが積み上げた不正!それにすら自信を持って乗りかかれないとは、あまりにも無力ではありませんか!」

不敵な笑みを絶やさない霊園が、覗き込んでくるように近久を見つめ質問する。
デッキトップへと指を掛けた近久が、息を大きく吸い込んだ。

「イカサマとかしたことないから、緊張もするよ。
本来はダメでも…このルールでなら許されるウチのイカサマ勝負!
ドロー!!」

手中へ引き込んだカードを、霊園にへと見せつける。

「ドローしたのは《花札衛-桐に鳳凰-》!
特殊召喚だ!」[攻2000]
手札:1枚→2枚→1枚

勇ましい鳳凰が描かれた花札板が、新たにフィールドへと降りてくる。
こうして、フィールドへ一気に5枚もの花札衛が並び立つ。
さらに、それらの効果も起動する。

「5枚の花札衛が出てきた時の効果で、合計で5枚のカードを引く!
ドロー!」
手札:1枚→6枚

引いたカードを1枚1枚デュエルディスクの上へと広げ、公開していく。

「引いたのは、《花札衛-松-》。
《花札衛-牡丹に蝶-》。
《発禁令》。
《花札衛-柳-》。
《花札衛-桐-》の5枚。

花札衛ではない、《発禁令》だけは墓地に行く。
そして、萩に猪で引いたのが《花札衛-桐-》だったから、効果によりあなたの《溟界神-オグドアビス》を破壊だよ!」
手札:6枚→5枚

花札から飛び出す光の粒子がオグドアビスを包み込むと、濁流の体が分解され光の粒子となって霧散した。

「あぁ…あぁ!あぁぁぁ!!!
これが…定めだったのですね?まさかこんな結末が、私の運命だったと…!
藤永様ぁぁ!このような罪人に負けてしまう、不届きな私めをどうか、どうか、どうかお許しください!!!」

フィールドに残されたモンスターの全てを破壊された霊園は膝をつき、天を仰ぎだす。
目からは涙を零すものの、その口角は吊り上がったままだ。

「2000が4体…。これで8000のライフを削りきれる…」

近久のフィールドには、5枚の花札衛が並び立つ。
そして、その内の4枚は攻撃力が2000ある20点札のモンスターだ。

「もううんざり。これで終わり」

バトルフェイズへ移行しようとする近久。


そんな彼女の肩を誰かが掴んだ。


「ダメだよ近久君」


それは先程まで背後で静観していた福原 渚だった。

「な、なに!?
なぎさ…?ダメって、何が?
8000に足りてるじゃん。もう疲れたんだよ…」

近久が伝えられた真実。怒りを爆発させたとしてもその悩みが尽きることはない。
それに加えて、慣れないデュエル。命の懸かった戦いと対戦相手の狂気。
疲れ果てた近久は、それから逃げたい一心で渚の静止にさえイライラが募って行く。

「確かに、ライフを0にするだけならもう目的は達しているね」

「だったら…!!!」

「でも、殺し切れるかは分からないだろう?」

「………は?」

彼女は、表情を変えずにすらりと言いのけた。
まるでその行為に何の抵抗も感じていないかのように。

「これが2回目のデュエルとは思えない程にこのデッキを使いこなしていたね。
《札再生》の効果でデッキトップを弄って、《超勝負!》を使ったのもすごかったよ。
だからこそ、彼女には確実に死んでもらう必要がある。
殺し損ねる事があっては大変だからね」

「何言ってんの…ライフを0にすればそれでいいはずでしょ!!!
それで殺せるんでしょ!!?」

「死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。
明確に死に至らしめられるラインは…。
3000ダメージ以上でライフを0にすることなんだ」

「3000…ダメージ…?」

咄嗟に自身のデュエルディスク上に並ぶモンスターに目を移した近久。
そこに並ぶのは攻撃力2000のモンスター4体。

「君は、ボクが止めるのを無視してこのデュエルを始めた。
近久君のイライラの発散に使われるのは何も問題ないよ。
でも、このデュエルの本来の目的を忘れられると困るんだよね」

近久の顔を見る事無く、淡々と喋る渚。
その言葉を聞けば聞くほどに、怒りと嫌悪で満たされていた近久の脳内が冷却されていく。

「もちろん。
キミが、ぎりぎりの状態で何とかデュエルには勝てるかもって状況だったら、ボクも声を掛けなかったよ?
でも、残された手札とフィールドならば、確実に彼女を殺す事が出来る。
だから、まだ展開は続けてもらわないといけない」

「し、知らない…。
あの人が死ぬか死なないなんてどうでもいいのよ…。
もう攻撃して…楽にさせてよ…」

「ダメだ。
キミが彼女を殺すんだ。
運悪く死んでしまったんでも、結果として死んでしまったんでもない。

キミの手で殺せ。確実にね」

彼女は、近久が感情のままにデュエルすることを許さない。
殺してしまったいい訳さえも許してはくれない。

こちらに視線を向ける事ない渚が真っすぐに見つめているのは、駆除するべき獣だ。

「ぃ…いやだ!」

嫌悪が限界に達した近久は、肩に手を置く渚の手を払いのける。

「近久君~?」

振り返ったことで、映った渚の顔。
そこには、特別な感情は何も乗っていない。
あるのは、自分が払いのけられた事への純粋な疑問だけだろう。

「な、なんでそんな…なんでそんなに平然とそんなことを言えるのなぎさ!?」

「近久君には、人を殺せるように。
そうなってもらわないと今後困るからね」

「あの人が死んでもウチのせいじゃない!
ウチが殺すんじゃない!勝手に死ぬだけ!!」

必死に拒絶する近久を前に、渚はジェスチャーを交えながら飄々と言葉を続ける。

「そりゃまた何とも身勝手な。
イライラしてデュエルして相手が死んじゃいました~。
でも、私は悪くありませんって?」

「ちがっ……そもそも、全部ここがおかしいのが悪いんじゃんか!?
こんな訳の分からない事を強いてくるし、外にも出られない!!
なのに、なんで、なんでそれをウチのせいにしようとするの!?」

行き場のない怒りを爆発させてデュエルを始めてしまった近久。
それによって人が死ぬという事実が、ゆっくりと脳内を侵食し始める。
何とかそれらの正当性を説くべく、この空間の不条理さを唄う近久。

「人を殺す事の覚悟を持ってもらわないと困るからね。
ボクらが例え人間じゃなかったとしても、なかなか頭でそれをすんなり受け入れる事は難しい。見た目は人間そのものだ。
さ、早く彼女を確実に殺せる攻撃力のモンスターを呼ぶんだ」

嫌な事から逃れべく、身勝手に渚へ喚き散らした近久。
だが、そのすべてに渚は淡々と冷静に回答し、近久が霊園を殺す事を促し続ける。

「デュエルした…!しかも勝てた…!
それで十分でしょ!!
ウチは、このどうしようもない気持ちをどこかにぶつけたかっただけで、殺したいなんて思ってない…!!!」

「それは通らないなぁ。
説明をしたはずだよ。ここでのデュエルは命が掛かっていると。
今更、そんな訳の分からない言い訳を並べるのかな?
彼女が結果的に死んでも、なんなら自分が死んでもどうだっていいって言っていた気がするんだけれども。
あれも、イライラしてて口が滑ったって?口を滑らせて命をかけたのかな?
それはまた…随分と近久君の中で命というものの価値が低いんだなぁ」

「き、聞きたくない…!
聞きたくない…!!!」

耳を塞いで、しゃがみ込んでしまった近久。
混乱と怒り、そして対戦相手の狂気とこの空間の異質さ。
そのすべてに飲まれてしまっていた近久が、渚の声掛けで受け入れがたい現実へと引き戻されていく。

「いいよ。そんなに嫌ならデュエルしなくても」

「え…?」

少し柔らかな声色になった渚の声に反応した近久が顔をあげる。

「そんなに嫌なら死んじゃえばいいんじゃないかな?」

「え、あ………なぎさ?」

近久は、渚が自分を見る目の色が変わったのに気付いた。
敵を見る目。河原が、渚に楯突いた時の目と同じ目をしている。

「自分の行動に責任も持てない。感情の制御もまともに出来ない。
挙句に、いざとなったら何も出来ない。そんな人と一緒に居ても、ここを変える事は出来ないだろうからさ」

「なぎ…さ…」

「ほら、死にたくはないんだろう?さっさと攻撃すればいい。
そうしたら、彼女が死のうが死ぬまいがここからは出て行ってもらうよ。
殺す意思を持てない人は邪魔になるからね」

その言葉を最後に渚の視線が、近久から外れる。

「殺し損ねたら、今度はボクが殺されるかもしれないな。
全く、人の邪魔をしておいて悲劇のヒロインぶれるんだからいいご身分だよ」

「そんな…つもりじゃ…」

「同じなんだよね。
放っておくと誰かを必ず襲う害獣を前にして、殺したくないから猟銃を捨てるって言ってるんだからさ。そのせいで、自分が死ぬだけならいいけど、他の人も殺されるかもしれないってのも分かっていないみたいだ」

声色も変わった。
威圧的で、見下した声が突き刺さる。

「ちが…う……」

乾いた笑いと共に、渚が近久を蔑む。

「ちがう?何が違うの?
しっかりボクにも分かる様に教えてくれるかな。ほら、何が違うんだ。
キミが彼女を殺さないから、ボクが危険を冒してデュエルする可能性が出てくるんだよ。
分かってる?そもそもキミは、ボクが彼女とデュエルしようとしていた所に割り込んできたんだよ?
イライラしてるんだーってね!

アハハ、バカにしてるのかな?
ここでのデュエルがどういうものか分かってないみたいだったから懇切丁寧に説明しても、嫌だー聞きたくなーいってさ。
じゃぁ、もう死 ねば?こう言う事を土壇場でされてみなよ。命がいくつあっても足りやしない。
あ、そもそもボクらの命なんかどうでもいいって事だったのかな?もうここでの命に価値が見いだせないんだもんね」

「やめて…!!!!!」

近久が何とか声を張りあげ、叫んだ。

「キミがやめようとしてるから、じゃぁさっさとやめれば?って言ってるだけなんだけど」

「ウチがあの人を殺せばいい!
絶対に死ぬ攻撃力のモンスターを呼んで殺せばいい!
そうすればいいんでしょ!!?」

涙声で叫び、捲し立てられる勢いのままにデュエルディスクから5体のモンスターを掴み取った近久が、それらを墓地へと送り込む。

「《花札衛-柳に小野道風-》を使う時、全部のモンスターのレベルを2として扱う!
《花札衛-芒に月-》、《花札衛-桜に幕-》、《花札衛-萩に猪-》、《花札衛-桐に鳳凰-》の4枚と《花札衛-柳に小野道風-》の合計5枚を取って
シンクロ召喚…!

《花札衛-五光-》…!!!」[攻5000]

近久のフィールドへ無数の花札の絵柄が現れる。
その中央を突き抜けて、日本刀を振るう武士が姿を見せた。

「……!
そうだね、そうしてくれると非常に助かるよ近久君」

少し驚いたような顔をした渚がゆっくりと近久へとそう告げた。

「《花札衛-松-》召喚。
効果でドロー。ドローしたのは《花積み》…。
花札衛じゃないから墓地へ送る」[攻100]
手札:5枚→4枚

五光の背後に新たな花札衛が並び始める。

「松を取って、《花札衛-牡丹に蝶-》を呼ぶ!
その効果でドロー。ドローしたのは《花札衛-松-》。
追加効果で、ウチのデッキの上から3枚を確認して好きな順番に並び替える」[攻1000]
手札:4枚→3枚→4枚

画面に表示されたカードを順番に選択していく近久。
その耳にようやっと対戦相手の霊園の言葉が聞こえてきた。

「近久様。よろしいのですか?」

しかし、その声に近久が耳を貸すことはない。

「知らない、知らない知らない知らない…。
知らない…!!!
《超こいこい》発動。
3枚引いて、花札衛を場に出す。

1枚目《花札衛-桐-》。
2枚目《花札衛-桜-》。
3枚目《花札衛-紅葉に鹿-》。
全部場に出して、牡丹に蝶と合わせて取るよ」[守100][守100][守1000]
手札:4枚→3枚

デッキトップから捲られた3枚の花札衛と、牡丹に蝶の合わせて4枚のモンスターがフィールドから墓地へと送り込まれる。

「シンクロ召喚…。

《花札衛-雨四光-》…!」[攻3000]

五光の背後より電撃を帯びた傘を回転させながら、小野道風が現れる。

「これで攻撃力の合計も8000になったね。
さ、これで終わりにしよう近久君」

渚が最初の時と同じような声色で、デュエルの終了を促す。

それは、近久が霊園を殺す事を意味している。

「…バトル……フェイズ…」

「近久様。実に滑稽ですね?
神程の大いなる存在ならばともかく……これではまるでただの操り人形。
あなた様は、自らが重ねる罪さえも他者によって言われるがまま!
人が人に操られること程愚かなものもないですね!!!
ふ、ふふふ、あははははは!!!」

大きな笑い声、それでようやく霊園を視界に捉えた近久。
彼女はこれから殺されてしまうというのに笑っている。
渚に言われるがままに罪を重ねる自分の姿が面白いと…そう言いながら…。

「っ…!?
《花札衛-雨四光-》で攻撃…!」[攻3000]

雨四光が、広げた傘を回転させる。
それにより、傘の縁に溜まった電撃が一直線に霊園の元へと放たれた。

「はは、っぎぁぁああ!!?
ぐ…あが……はは、は……はは…」

霊園LP:8000→5000


高らかな笑い声をあげていた霊園は攻撃が当たった瞬間に、声を震わせながら膝をつく。しかし、ぎこちなくも彼女は依然として笑い続けている。

「《花札衛-五光-》…で……」

攻撃を宣言する。
そうすれば、目の前の狂人は死ぬ。
死んでしまう。でも、仕方がない。
仕方ないはずだ。自分は悪くないはずだ。
自分はカードゲームをしただけ。そんなことで人が死ぬことの方がおかしいのだ。
だから、自分は悪くない。


……違う。
自分が…殺すんだ。


唇が震え、言葉が続かない。
”攻撃”とそう呟くだけでいいのに。

「(殺すって…こんなに……)」

押し寄せる重圧は、近久に呼吸する事さえ忘れさせる。
だが、その時は呆気なく訪れる。

「近久君…?」

「………!!」

背後より聞こえた渚の声。
その声で首を絞められたかのような感覚に陥った近久は、その苦しみから逃げるように攻撃を宣言してしまった。

「こ、攻撃……!」

宣言と同時に、五光が地面を蹴り霊園の元まで猛スピードで向かっていく。

「(殺されるとこなんか見たくない…!!
そんな所を見たら…一生頭から消えない……)」

懸命に目を逸らそうと頭が働きかけるが、自分の後ろにいる人間がそれを許さない事を本能的に悟ってしまう近久は、まっすぐ《花札衛-五光-》のダイレクトアタックを見届けるしかなかった。

「あは、は、なんとも…醜く罪深い方で、すね…。
ちか、ひさ様は…!
かならず、や地獄で、再会することに…なるでしょう…!」

感電し、自由に動かせないであろう舌と口を動かし、そして蔑んだ笑みを絶やすことなく霊園は近久の目を見て嘲笑う。
そのすぐ後、彼女の右肩から左腰のあたりにかけて…刀が素早く振り下ろされた。


霊園LP:5000→0


素早く、美しい太刀筋は、一瞬斬られた霊園がそのことを知覚できない程であった。

「ふ、じ…なが…さま…じご、くへ……い…ま……」

涙と笑みを浮かべた狂気の残党は、そのまま斜めに崩れ落ちていった……。

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コングの施し
読ませていただきました!!

藤永の信者がいたことも驚きだったのですが、渚さんは何を知ってしまったんだ…。なんだか、この狂気みたいなものがどんどんと伝染している感じ、不気味ですね。そして渚さんが藤永を破り、そして彼女に付く者たちが藤永を慕う者たちを破っていく。これがただのデュエルならいいものの、ここはダメージがリアルに変換される決闘実験。だけじゃなくて、しっかり殺害まで支持してるんですよね…。もとより損得感情やある程度の打算をもって行動していた渚さんですけど、本当に何を知ってしまったのか。

本当に物語が大きく動いている模様。仲間たちが集結している梨沙さんのパートも気になるところです。次回も楽しみにしています!更新頑張ってください!
(2024-06-16 00:40)

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