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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#22「新たな被験者」

Report#22「新たな被験者」 作:ランペル

なにしてるの?一緒に遊ぼうよ!

そう聞こえた気がした。
声の聞こえた方を向けば、桃色の髪をふわふわと揺らしながら、ぐるぐるキャンデーをくわえたゴーストリックの駄天使がにっこりと笑っているのが見えた。

駄天使の差し伸べる手を取り、立ち上がる。
視線の先にはたくさんのゴーストリックがお屋敷でお祭り騒ぎだった。

「お祭り?」

そう!楽しいよね!

駄天使がそう言ったような気がして、駄天使を見るとふわふわとみんなの所へと飛んで行ってしまった。
楽しそうな雰囲気に飲まれ、良く分からないが気分が浮かれてくる。
いろいろな所へ目を向けると、たくさんのゴーストリック達が楽しそうにしているのが見える。
雪女がシュタインをお祭りに連れて行くように手を引いている。
サキュバスと猫娘が寝てたりカボチャのボールで遊んでいたりする。
マリーとフロストなんか、風船で空高くに飛んで行ってしまっている。

中には見覚えのない子がいることに気が付いた。
スペクターとマミーが街灯に設置しているフックに、キャンディケインでぶら下がっている子や、耳心地の良い歌を奏でている子も見られる。

「まぁいいや」

お祭りは大好きだ。それも、私の好きなゴーストリックのみんなと遊べるなら大歓迎。
可愛らしいみんなの所へ混ぜてもらいに走り出す。


戻った方がいい…

「え?」

どこからか視線を感じる。
その視線はお屋敷の屋根の上からだった。

そこにはアルカードがマントで体を覆った状態で、こちらをじっと見ていた。

寝るのが好きなのは知っているが、そろそろ起きた方がいい…

確実に聞こえない距離感だが、アルカードが口を動かして喋ったであろう言葉が何故か頭に響く。

アルカードは指をパチンと鳴らす。
その直後世界は暗転する…。

 ---

「んん…」

意識がぼやけている。

「お祭り…?」

微睡から目を覚ますと、もはや見慣れてしまった薄暗い空間。

「また夢…見てた…?」

段々と意識がはっきりしてくる。

「なんか楽しいような…夢見てた気がするけど…」

つい先ほどまで夢を見ていた事は覚えているが、どんな夢を見ていたのかまでは覚えていられなかった。

「…そうだ!アリスさんを探しに行かないと」

寝袋から抜け出し、立ち上がる。
意識ははっきりしており、傷口にはまだ違和感があるが、熱も下がったのか今の所問題ないようだ。

「よし…動ける…」

外へ出る準備をしようとしたところで、自分の制服が妙に粘着質にべたついているの気づいた。

「あ…そういえば服が血だらけだ…。
(外でアリスさんを探すためにも誰かから話は聞かないといけない…。
血だらけの格好だと警戒されちゃうよね…。というか、べたつく!)」

今まで体調不良でそれどころではなかった、血塗られた服を脱ぎ棄て、外していたデュエルディスクの画面を操作する。

「服とか売ってたりしないのかな?」

物販のその他の画面から服を検索する。
すると、何種類かの服が一覧に出てくる。

「一番安いのはこれかな…(お洒落とか言ってる状況でもないし…)」

購入すると、特に変わり映えのしない白いシャツと黒のスカートが壁の扉から出てくる。
着替えを済ませ、デュエルディスクを腕に装着する。

「ちょっと大きいなこれ…腕まくっとこ…」

デュエルディスクの物販からショルダーバッグと軽食、メモとペンを注 文する。

「(何も持ち歩けないのも不便だからね。てか、血がついても目立たないシャツにすればよかったかも…)」

ほんの少しこの環境に毒された失敗を感じながら、注 文した鞄を手に取る。
手にした鞄にその他の物と床に残っていた水のペットボトルを入れて黒い出入口へと向かう。

ピーガチャ

扉の前まで来ると、開閉音と共に扉が開かれ、明るく白い廊下が見える。
扉から顔だけ覗かせ、左右に伸びる廊下の先を見遣る。
どちらにも人影は見えず、人の気配も感じられない。

「(この前こっちに行ったし、反対の方も見て見ようかな)」

梨沙は左側の廊下を警戒しながら進む。右側に歩いていた時と同様に、定期的に曲がり道が見えてくるが景色に変化は起こらない。

「とにかく、誰かまともに話せそうな人を見つけられるといいんだけど…」

この環境においてのまともの見分け方…そもそもまともの定義も分からないが、そこを何とか見つけるしかない。

曲がり角を3つスルーした先には、廊下が突き当りになっており、右側に再び長い道が伸びているのが分かった。

「………。
(どうしようホントに当てがないし、とんでもなく広そう…)」

最低限、帰ってこれるように自分がどこを曲がったのかだけメモしながら果てしない白い道を歩き続ける。
 
 ---

数分歩き続けた所で気づいたことがある。

「(さっきから曲がり道が右側にしかない…)」

フロアから出た時も、フロア側の壁側に曲がる道は一つもなかった。
フロアを出て、左を進んでいる場合は必ず右側に、右を進んだ場合は必ず左側にしか曲がり道がないのだ。

「(私が居た所が壁際だったってことなのかな?)」

思考を巡らせていると、その思考から導き出される違和感を感じた。

「左に曲がり道が…」

少し遠くの廊下を見渡しても、左側に曲がり道があるのはここだけのようだ。

「(行ってみよう…)」

警戒しながら、向かって左の曲がり道へ顔を覗かせる。
すると、曲がり道の少し向こう側も壁になっていて、左右に道が伸びているようだった。
そして、この道の中央部分にはこちら側に黒色、向こう側に緑色の2本の線が引かれるように、天井、壁、床が塗られていて区切りが作られていた。

「何これ…?何かの仕切り?」

目を凝らしてよく見ても、色が塗られている事以外は特にこれといった違いはない様に思えた。

「でも、他の所とは明らかに違う場所だ…」

何かしら危険があるかもしれないと思うと足がすくむ。
だが、ここで引き返しても何も得られるものはない。また、誰かが自分を殺しに来るのを待つだけの時間を過ごす羽目になる。

梨沙は恐る恐る黒く塗られた床の上へ右足を置く。

「………」

特に変化が見られなかった為、今度は黒い床と隣接している緑色の床へ足を乗せる。

「………何も、起こらない…?」

緑の床に足を踏み入れても何も起こらなかったことで、少しだけ胸を撫でおろす。

「よし(ここだけ色が塗られてるってことは、何かあるはず…。
行ってみよう)」

緑の床から再び無機質な白い床へと足を踏み出し、歩き始める。

「今回はずっと左に行ってみよう」

目の前の突き当りから、左側の道へ歩みを進める。
そこから再び、代わり映えのしない廊下を歩いていると、人の気配がしてくるのが分かった。

「…!
(あそこの曲がり道の奥からだ…)」

そっと顔を覗かせ、曲がり道の先を確認する。
しかし、そこには誰もいない。
曲がり道の先にもまた曲がる場所がある様で、そこから人の話し声が聞こえる。

「危なくない人だといいけど…」

勇気を振り絞り、少しずつ話し声のする曲がり角へ近づく。


「小さい子がこんな所うろついてると~危ないぞ~?
ボクみたいな飲んだくれがやってきて何してくるか分かったもんじゃないからね~」

「お姉さんだれ?ほのかは緑のドア探してるだけだよ」

どうやら曲がり角の向こうでは、どこかおっとりとした女性と、小さい女の子が話をしているみたいだった。

「お姉さんは危ない人だぞ~?君に何するか分かんないんだから~」

「危ない人はそんな事言う前に変なことしてくるよ」

「おっと、割と危ない事は経験済み?
真面目に言うと君の探す緑の扉が結構危ない所だから、行かない方がいいと思うよ」

「でも、ほのかはそこに行かないとダメって言われてるの」

緑の扉を目指す少女と、その場所が危ない事を知って引き留める女性の会話。
会話の断片を聞く限り、突然デュエルで人を殺すようなタイプではないように感じる。
そろりと壁際から片目だけで、どんな人たちか確認する。

そこにはおでこが見えるように前髪を留めた、黄緑色のツインテールの少女が水色のドレスを着て、茶色のコートを着た女性と話をしているのが見える。
少女は、この環境に身を置くものの定めか左腕にデュエルディスクをはめていた。
コートを着た黒髪の女性はこちらに背を向けており、顔は見えないが、どうやらデュエルディスクを付けていないように見える。


「ほらほら、こうやって話してるだけでまた危ないかも知れない人が来たぞ~?」


コートを着た女性はそう言い、梨沙のいる方へと振り返る。
巻かれた黒髪を肩まで伸ばし、右目に黒い眼帯をした女性のその顔は少し赤くなっているようにも見える。

「あ…別に危ない人ではないです…!」

のぞき見しているのがバレ、焦って賢明に自分が危険ではない人間であることをアピールするべく両手をあげて二人の前へ姿を見せる。

「ここに居る人間の言う事は信じられないからな~」

とろんと目尻の緩んだその目で女性は梨沙を見遣る。
女性の腰ぐらいの位置から、女性で隠れていたドレスの少女がひょこっと顔を覗かせる。

「少なくとも、人さらいの人ではなさそう」

左目の下に赤い星のシールを貼ったドレスの少女は、大きな瞳をぱちぱちさせながらあまり感情を表に出さずそう呟く。

「まぁ、ここでの危ない人は速攻でデュエル挑んでくる人の事を指すからね。
とすると、君も危険度はそんなに高くないと見た」

「私も危なくなさそうな人を探してて…」

「ふーん、それじゃボクとこの子は危なくなさそう認定がされたということか」

「そうですね。話してるの勝手に聞いちゃったんですけど、急に襲って来るタイプではないなと思いまして」

「ほのか、人の事叩かないよ」

「ほのか君はいい子さんなんだね~。
それじゃぁ、自己紹介でもしとくかい?」

少女の頭を撫で、女性は自己紹介を始めた。

「ボクは福原 渚(ふくはら なぎさ)。
ただの酔っぱらいだぞ~」

「裏野 梨沙です」

「ほのかは本導 穂香(ほんどう ほのか)っていうの。9歳」

見た目からして大よそ察しはついていたが、自分よりも幼いこの少女がこんな危険な場所に居る事に困惑の感情だけが沸きあがる。
まずは二人がここへ来た目的を確認してみる。

「えっと…福原さんと本導ちゃんはどうしてこんな所に…?」

「渚でいいよ~。ボクはまぁ、いろいろかな」

その頬をほんのりと赤らめた彼女は返答を曖昧に流した。

「ほのかもほのかでいいよ。ここには連れてこられた、それだけ」

素っ気なくそう言い放った少女はそっぽを向く。

「そっか…」

「9歳ねぇ…。理由はどうあれ無茶苦茶だね。
それで、梨沙君は一体どうしてここへ?」

自分がした質問が自分にへと返って来る。

「私は…憶えてないんです…」

「憶えてない?」

渚の首は自然と傾く。

「はい…気づいたらここに居て…突然デュエルしろって言われて…。
挙句には、ここに来たのは私の意思だったって言われたりもして…」

「記憶喪失ねぇ…。
それは自分の意思にしろ、他の理由にしろ苦しいだろうね」

「苦しい…」

そう…苦しい。自分は間違いなくこんな実験に参加する意思表示をする訳がない。するはずがない。
その自負はある。だが、記憶がない以上どういう過程でここに来たのかは分からないままだ。この分からないというのが、何よりも負担になっている。
いっそのこと、自分がお金が欲しくてここに来た、もしくは誰かに無理やり連れて来られたと答えが欲しい。そう考えてしまう。


でも、私はもう被害者面ではいられないんだ…。


「そうですね。苦しいですけど…帰らないといけませんから」

「帰る?どこへ?」

「え?家に、ですけど…」

きょとんとした顔をした渚は、少しして笑い出す。

「あーははは、そうか、そうだね。
家に帰れるといいね」

「な、何かおかしいこと言いましたか?」

どこか寂し気な表情になった渚は、梨沙の目を見ながら呟く。

「ボクはもう諦めちゃったからね…」

「あきらめ…そんな…」

帰る事を、脱出する事を諦める。そんな思考に陥ってしまうのか。
こんな理不尽なおかしな環境を受け入れるとでも彼女は言うのだろうか。

「最初はボクもね。帰る術を探したさ。
ここの提示する帰る方法はボクには到底なしえないものだったから、他の方法を探し続けた。
でも見つからなかった。探せる場所は全部探したつもりだ。
だけど、この場所は完全に外界と隔絶されている。
きっと、クラスⅢにならないとここから出るなんてことは叶わないだろう…」

「そんな…」

恐らく自分よりも長くここに居るであろう人物からの、外に出る他の術がなかったという事実。もしあるとしても、少なくとも彼女が長い時間をかけても見つからない程のものなのだ。
昨日ここへ来たばかりの自分に、本当に外に出る方法を探せるのか…?

探せるかじゃない。なんとしても、外に出る方法を見つけて。
家へ帰る。

「ま、頑張るなら応援はするさ」

「はい、私なりにでも探してみたいと思います。
それで人を探してるんです。両手に包帯を巻いてる綺麗な長い黒髪の女の人なんですけど、どこにいるか知ってたりしませんか?」

「どこと言われても、大抵はシェルターにいるだろうからその辺を探すのが現実的じゃないかな?」

「シェルターですか?」

「さすがにシェルターは知ってるよね…?」

「いえ、分かりません…すいません」

「あぁ、いやいや仕方ない。
でも、説明があるはずなんだけどな…」

渚は梨沙がシェルターの事を知らないことが不思議なようで、頭をぽりぽりとかいている。

「ほのかも、そのシェルターっていうのは知らないよ」

「あれ?ほのか君のクラスは?」

「クラス?」

「ちょっと、確認してもいいかな」

「別にいいよ」

穂香が左腕に着けている少し小さめのデュエルディスクのタッチパネルの部分を、福原が操作する。

「クラスⅠか…。クラスⅠには説明がされないのかな?
それじゃぁ、梨沙君もクラスⅠってことなのかな」

「あ、いえ私はクラスⅢみたいで…


梨沙がクラスⅢの名を口にした瞬間、渚はぎょっとして穂香を背にして梨沙から突然距離を置く。
そして、コートを右側に払いのけ腰につけられた三脚の様なものを取り出し地面へと広げて置く。
三脚の上部には黒い四角形の物がついており、特有の機械音と共にその黒い箱が広がり、収納されていたであろうデュエルディスクが展開されはじめる。

それに反応して、梨沙のデュエルディスクも起動を始める。


ザザッピー
「ただいまよりフリーエリアにてデュエルを開始します。
ルール:マスタールール
LP:4000
モード:エンカウント
リアルソリッドビジョン起動…。」


「え…?」

「君か…昨日新しくブラックフロアに入ったって言うクラスⅢは…」

「渚さん…どうしてデュエルを…」

「記憶なくしてる所悪いね。クラスⅢは碌な奴がいないのはここでの共通認識なんだ。
そして、クラスⅢがここで生きて行く上で一番生活に不自由が少ない。
記憶がないならなおさら、危険の排除と生活水準をあげる絶好のチャンスなんだよね」

左目を瞑り、梨沙へ己のデュエルの意義を語る。

「危ないことするの?」

無表情な穂香は、黄緑の髪を指でくるくると弄りながら渚に問いかける。

「そう、ここでデュエルを仕掛けるってことはナイフを首元に突き立てることに等しい…。
穂香君が行こうとしている緑色の扉の所にも、ボクみたいに突然デュエルを仕掛ける人がいるからね。だから、行くのはおすすめしてないよ…」

穂香ちゃんへ声をかける、福原さんの声色は最初に聞いた優し気なおっとりとした声色だった。
梨沙のいるT字の突き当りの左右の廊下がシャッターで閉じられ、渚と穂香の後ろの道もシャッターで塞がれる。

「なんか閉じ込められちゃったし、何かするなら穂香は二人の見てるよ」

「子供の教育上よろしくないんだけどね…」

穂香ちゃんをかばうように、福原さんは少女を後ろにし梨沙の前へ立ちふさがる。

「…渚さん」

「何?」

「私は、家へ帰ることは諦めません。
でも、誰かと殺し合う事はしたくありません」

「そう…でも、ボクは本気だよ」

「分かってます。だから、可能な限り渚さんがダメージを負いすぎないようにして、私がデュエルに勝ちます」

渚は口をつぐみ、悲し気な目で梨沙と見つめ合う。

「ボクを気遣いながらデュエルするとでも…?」

「はい!死ぬのは嫌ですけど、殺すのも嫌です。
渚さんのここでの常識すら私は分かりません。
穂香ちゃんと話してる渚さんはとっても優しそうでしたから、もっと話せば私が危なくないってことを分かってもらえると思うんです。
その為には、このデュエルで勝たないとですよね?」

「………梨沙君が頭のおかしい人の方が、ボクも気が楽だったんだけどね」

「私が勝ったら、渚さんの知ってること教えてくださいね」

「デュエルする以上…ボクが生きてる保証なんかないよ」

「大丈夫です。私が保証します!」

梨沙は渚へと微笑みかける。
その内に秘めた屈託、苦悩を表に見せるようなことはせずに。

「…!
(デュエル仕掛けるのは…もう少し待つべきだったかな…)」

目を逸らし、後悔の念に駆られる。

「行きますよ」

「ああ」

梨沙の声に渚は応えると、二人は共に向き合いデュエルが始まる。


 「デュエル!」 LP:4000
 「デュエル!」 LP:4000

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コングの施し
梨沙さん、やっぱりめちゃくちゃやさしい…。そして言動や思考の所々に自分の罪をしっかりと引きずっている節があって、ちょっと切なくなってしまいますね;;
駄天使のEXWIN効果あっての発言かと思いますが、ボクっ娘お姉さんの渚さんとのデュエル、一体どういう方向に進むのか…!楽しみです!! (2023-08-28 18:48)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます!

佐藤のおじいちゃんの死が彼女へ与えた影響は多大ですねぇ。彼女の不殺のデュエルがここでどれだけ通用するのかといった所。
やはりEXEIN効果をせっかく持っているテーマなので、その辺りも今後生かしていきたい所です!渚とのデュエルの行方は…!?
今後の展開もぜひお楽しみにです! (2023-08-28 19:54)

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