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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#44「不信」

Report#44「不信」 作:ランペル




梨沙-LP:7800
手札   :3枚
モンスター:《ゴーストリックの駄天使》[守]
魔法&罠 :《ゴーストリック・ハウス》 伏せ×4

ーVSー [ターン2]

晃啓-LP:8000
手札   :2枚
モンスター:《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》[守]《大騎甲虫インヴィンシブル・アトラス》[攻]《騎甲虫スカウト・バギー》×2[守]
魔法&罠 :なし



一瞬すべてがどうでもよくなりかけた。


信頼していた父親。彼の目に映っているのは目の前の娘ではなく、外で平和に過ごしているはずの…居るはずのない娘の事だけ。
だが父親を責める事はできない。人を殺めたことだって、自分が人の事を責める立場にはない。それに、こんな環境で正気を保つことの方が難しいだろうから。

ただ…。
ただただ…悲しかった。

体が思うように動かない。全く動かせない訳ではないが所々痺れる体の動きは自然とゆっくりになる。背後に横たわる少女に視線を向ける。
黄緑の髪を地面にへとつけ、静かに寝息を立てている少女。

「あの子には…今…私しか…いない…」

改めて自分が全てを投げ出してはいけない理由を再認識する。
気道が段々と塞がっていくような感覚。呼吸がし辛い。

「私は梨沙に会う。その為なら、子供だろうと容赦はしない…。
しない…あなたが梨沙を騙っていたとて…絶対に……絶対にです…」

父親は自分に言い聞かせるように言葉を反復させる。

「私に…何をしたんですか…。
この体の不調…さっきのモンスターのダメージ…ですよね…?」

深く息を吸い込み、呼吸を確保しながら父親へ自分が陥っている原因を問いかける。
父親は虚ろな視線だけをこちらにへと向け、口を開いた。

「薄々分かっているのでは…?
毒です。《B・F-必中のピン》の効果ダメージであなたに毒を与えた。
だからもう手遅れなんです。ダメージが小さく症状が出るまでに時間はかかりますが…蜂の毒は確実にあなたの体を蝕んでいく…」

「毒……そんなことを…。
(道理でこんなに調子が悪い訳だ…。
このままデュエルが長引けばもっと苦しくなってくる…)」

改めて自分のフィールドと手札を確認する。
既にカードの効果は使い尽くし、《ゴーストリックの駄天使》の特殊勝利、デッキ破壊はおろか相手の発動した《一時休戦》と《威嚇する咆哮》の効果によりダメージを与える事すら叶わない…。

「(次のターンを…耐えるしかない…)」

手札にへと回収した《ゴーストリック・マリー》と4枚の伏せカード。
これらで次の自分のターンまで耐えきる必要がある。

「私は…これでターンエンドです」



梨沙-LP:7800
手札:3枚


 [ターン3]


「私のターン…ドロー。
スタンバイフェイズを通し、メインフェイズに移ります」
手札:2枚→3枚

メインフェイズへの移行を宣言した父親が手札から1体のモンスターを召喚する。

「《B・F-早撃ちのアルバレスト》を召喚。
その召喚時効果により、墓地からレベル3以下の昆虫族を特殊召喚できます」[攻1800]
手札:3枚→2枚

激しい羽音と共に蜂型のモンスターがフィールドを飛び交う。その特殊に発達した脚部と尾の部位が、まるでクロスボウかの様にこちらを狙い定める。

「罠発動《ゴーストリック・オア・トリート》…!
ゴーストリックフィールド魔法がある時に発動。アルバレストを対象に、効果を無効にして攻撃を封じる。さらに、エンドフェイズに裏側守備表示に変更。
ただし、お父さんが2000ライフを払えば、無効化できずにこのカードを再セットさせることが出来るよ…」

「オア・トリート…?
そんなもの、考えるまでもありません。2000ライフを払ってそのカードを再セットさせます。これで、アルバレストの効果は有効ですね?
私は墓地から《パラサイト・フュージョナー》を特殊召喚します」[守0]

晃啓LP:8000→6000


父親のライフが減少すると共に、空から袋とじされたキャンディやチョコレートが降り注ぐ。
そんなお菓子の雨に紛れて穂香ちゃんに襲い掛かったものと、ほぼ同じ大きさの昆虫が降って来て蠢き始める。その赤茶色の皮膚には目と思わしき6つの点があり、それが淡い桜色に怪しく発光している。

「特殊召喚時効果を発動です。
自身を含むフィールドのモンスターを素材に融合召喚を行います。
《パラサイト・フュージョナー》と《B・F-早撃ちのアルバレスト》に
2体の《騎甲虫スカウト・バギー》を融合」

「エクシーズとリンクだけでなく融合モンスターまで…!?」

床に散らばったお菓子を一つ口に運んだ《パラサイト・フュージョナー》が、他の3体の昆虫に自身の脚部を伸ばし突き刺すと混ざり合う。

「融合召喚。

群がれ、レベル11《超騎甲虫アブソリュート・ヘラクレス》」[攻4000]

フロア内へと響いたのは轟音。凄まじい羽音と共に突き出された巨大な二本の角。オレンジ色のオーラを纏った胸角と頭角が特徴の巨大なヘラクレスオオカブトはその背に主砲と要塞を背負っている。

「さっきから…大きさおかしいでしょ…」

隣にそびえるもう一つの要塞《大騎甲虫インヴィンシブル・アトラス》と合わせて、その巨大さは圧倒的なものだ。
彼らがデュエルという枠に縛られていなければ、人間など一瞬で潰されて終わってしまう…そんな事を考えてしまう程にそれらは巨大で威圧感のあるものだった。

「アブソリュート・ヘラクレスは、融合召喚に成功したことで次の私のターン終了時まで、他の効果を受け付けません」

アブソリュート・ヘラクレスの全身が二本の角から発せられるオレンジ色のオーラで覆われる。

「4000で効果を受けない…!?」

その高い攻撃力に与えられた耐性は、モンスターを裏側にして戦っていくゴーストリックにとって危険な存在になる。

「さらに、1000のライフを支払い《簡易融合》を発動です。
レベル5以下の融合モンスターを融合召喚。

群がれ、レベル5《騎甲虫クルーエル・サターン》」[攻2400]
手札:2枚→1枚
晃啓LP:6000→5000


フィールドへと降って来たFUSIONと記載されたカップ麺。ぐつぐつと湯気が溢れ、蓋が開かれると共にフィールドへ紫の鎧を身に纏ったカブトムシと、それに騎乗する昆虫兵がカップの中から飛び出す。

「クルーエル・サターンの特殊召喚時、デッキからビートルーパーカード1枚を手札に加える事ができます」

「させない…罠発動《もの忘れ》。
攻撃表示のクルーエル・サターンが発動した効果を無効にして、攻撃表示から守備表示に変更する…!」
《騎甲虫クルーエル・サターン》[攻]→[守2000]

昆虫兵が手にした剣を空高くへ掲げるも、自分が何をしていたのか分からなくなったかのように手を下げ、カブトムシの上へと座り込む。

「《もの忘れ》…。
たまたまです…そうに決まっている…。
墓地から《共振虫》、《騎甲虫スカウト・バギー》、《B・F-早撃ちのアルバレスト》の3体を除外する事で、《騎甲虫アームド・ホーン》を墓地から特殊召喚できます」[攻1000]

視線を斜めに外した父親が墓地からモンスターを除外し、昆虫兵を蘇らせる。
そして、かすかに遠くから鈴虫の音色が響く。

「この瞬間、除外された《共振虫》の効果。
さらに、昆虫族が除外された時クルーエル・サターンの効果を発動です」

思い出したかのように手を叩いた昆虫兵が紫のマントを靡かせながら立ち上がり、今度こそ剣を天へ掲げサインを送る。

「除外されている《騎甲虫スカウト・バギー》を特殊召喚して、《共振虫》の効果でデッキから昆虫族《樹冠の甲帝ベアグラム》を墓地へ送ります」[守300]

受け取ったサインに反応してテントウムシがフィールドへと降り立ち、昆虫兵が槍を揺らす。

「リンク2のアームド・ホーンとスカウト・バギーをリンクマーカーにセット。
リンク召喚。

群がれ、LINK3《熾天蝶》」[攻2100]

2体のモンスターがリンクマーカーに赤い矢印となり吸い込まれ、リンクのゲートより水晶の様に透き通った青い翅を広げる蝶がフィールドへと羽ばたいた。

「リンク召喚時、自身に素材の数だけカウンターを置き、その数×200自身の攻撃力がアップです」[攻2500]

ゆっくりと翅を羽ばたかせると《熾天蝶》の頭部へ天使の輪が2つ現れた。

「ローカスト・キングを攻撃表示に変更。
クルーエル・サターンをリリースし、《大騎甲虫インヴィンシブル・アトラス》の効果を発動です」[攻1200]

クルーエル・サターンが昆虫兵の指揮の元、インヴィンシブル・アトラスの背にある要塞へと帰還していく。

「デッキからビートルーパー1体を特殊召喚できます。
私は《騎甲虫スティンギー・ランス》を特殊召喚です」[攻2400]

それと入れ替わる様に鋭い針を備えた蜂のモンスターがフィールドへと現れ、それに飛び乗る様に4つ手の昆虫兵が騎乗した。

「特殊召喚したスティンギー・ランスの効果により、カウンター罠《騎甲虫空殺舞隊》を手札に加える」
手札:1枚→2枚

「(カウンター罠…?
次のターンまで生き残っても…注意しないと…。
やばい…目がかすんで…)」

段々とかすんでいく視界。体の自由が段々と利かなくなってくる恐怖を気力で無理やり押しのける。
目をこすりほんの少し回復した視界で、相手の展開に注視する。

「墓地から《甲虫装機 ピコファレーナ》、《パラサイト・フュージョナー》、《騎甲虫クルーエル・サターン》の3体を除外。

《樹冠の甲帝ベアグラム》を特殊召喚です」[攻3400]

地面から飛び出したのは一つの刃。それが横にスライドすると地面から巨大な甲虫が少しずつ這い出して来る。発達した前脚はカマキリを彷彿とさせる鋭い鎌になっており、それが地面を切り裂き地上へと出現させたのだ。
赤茶色に染まった体表の上半身は人型となっており、その右手には包丁のような武器が握られている。

「モンスターゾーンが…埋まった…」

対面のフィールドへ合計で6体のモンスターが並び立った。
最後に現れた甲帝が武器を掲げ翅を広げると同時に、並び立つ昆虫達が臨戦態勢に移行したのが分かる。

「バトルフェイズに入ります。
《大騎甲虫インヴィンシブル・アトラス》で《ゴーストリックの駄天使》を攻撃」[攻3000]

「ゴーストリックが攻撃対象になった時…手札の《ゴーストリック・ランタン》の効果発動です…。
攻撃を無効にして、特殊召喚」[守0]
手札:3枚→2枚

3つの勇ましい角にエネルギーが溜まる。その眼前へとランタンが姿を現わす。
それによりエネルギー砲がランタンにへと発射されてしまい、着弾する瞬間にランタンが姿を消し、フロア内を閃光が迸るのみとなった。

「なら、《樹冠の甲帝ベアグラム》で駄天使を攻撃です」[攻3400]

右手に持つ武器が振るわれると、駄天使の体を真っ二つに切断し破壊する。

「駄天使…」

「アブソリュート・ヘラクレスは他の効果を受けない。
よって、あなたの《ゴーストリック・ハウス》の効果を受けません。
モンスターは残しません…《超騎甲虫アブソリュート・ヘラクレス》でセットモンスターを攻撃です」[攻4000]

背に背負う主砲へとエネルギーが蓄積されていき、それは雷のように放たれセットモンスターとその地面を焦土に変えてしまった。

「続け、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》でダイレクトアタックです」[攻1200]

「《ゴーストリック・ハウス》の効果により、お互いに受けるゴーストリック以外の戦闘と効果ダメージは半減します」

地獄の蝉が奏でる不協和音。その蝉の音は耳までダイレクトに響き渡り、頭に痛みが走った。

「うぐぅ……」

梨沙LP:7800→7200


頭に響く痛み。それと同時に視界が再び歪み始めてしまう。

「だめ…。
ダメージを受けた時…手札の《ゴーストリック・マリー》を捨てて、デッキから《ゴーストリックの妖精》を裏側で特殊召喚…!」[守1000]
手札:2枚→1枚

倒れそうになる体を何とか保たせ、デッキからモンスターを裏側で呼び寄せる。

「モンスターは残ってしまいますね…。
ですが、裏側ならばダメージまでは止められません。
《騎甲虫スティンギー・ランス》でダイレクトアタック」[攻2400]

昆虫兵が一対の両手に持つ槍にエネルギーを貯め始める。槍の先端が黄緑色に変色していきハニカムの模様が描かれ出す。
突如、蜂のモンスターが素早く動きそれに騎乗する昆虫兵が突撃してきた。

「ぐ…(物理攻撃…!?)」

体に喰らい出血することになれば、毒が体に回るのが早まる可能性がある。痺れる左腕を懸命に動かし、スティンギー・ランスの突きをデュエルディスクで受け止める。
素早い一撃の衝撃まで抑える事は出来ず、突かれた勢いのまま体が弾き飛ばされる。

「…!!」

梨沙LP:7200→6000


動かしづらい体ではまともに受け身を取る事が出来ず、吹き飛ばされた体は地面にへと叩きつけられた。

「がはっ…!?う…ぐ…」

「………」

背中に走る激痛にもがき苦しむ様を、男がゆっくりと見つめている。
ぼやけた視界ではその表情まで伺う事は出来ない。しかし、相手のフィールドにはまだ攻撃を行っていないモンスターが1体残っている。

「(大丈夫…ライフは…残る…)」

あと一撃、半減された攻撃を受け切ればターンが切り替わる。
荒れた呼吸を必死に整え、体を起こし次の攻撃に備える。

「《熾天蝶》…ダイレクト…アタック…」[攻2500]

透き通った翅を羽ばたかせると、キラキラとした光のつぶてが体を突き抜ける。

「う…」

梨沙LP:6000→4750


「はぁ…はぁ…。
何とか…耐えきった…」

地面に手と膝をつき、大きくゆっくりと呼吸をする。

「私は…カードを2枚セットしてターンエンドです」
手札:2枚→0枚



晃啓-LP:5000
手札:0枚


 [ターン4]


ターンの終了を告げられ、ターンが移行する。

しかし、体を起こす事が出来ないでいた。

「どう…して…。
(早くドローしないと…)」

額から一筋の汗が流れ、地面にへと滴った。
体を支える両腕は痺れと不意に訪れる痙攣により、今にもバランスを崩してしまいそうな状態だ。
こんな状態で、倒れ込むようなことになってしまえば、体を起こせるかどうかも分からない。四つん這いになっているこの状態でさえ、体を支え呼吸することに精一杯なのだから…。

「(動いて…急がないと…本当に動けなくなる……)」

嫌な想像が頭の容量を圧迫する。良くない考え事はすぐに思考が巡る。
不規則になる呼吸と共に、心の内に広がる恐怖心。そして、不安になればなるほどに乱れる呼吸。
互いに悪影響を及ぼし合い、状況が一向に好転しない。

「さいごに…
(一回だけ…一回だけ体を起こす。そして、ドローして、このターンで決める…。
ターンエンドまでは、体がもたない…)」

視界と共にゆっくりとぼやけ始める意識。タイムリミットが確実に迫ってきているのを感じる。
一度目を閉じ、背後で寝ている穂香ちゃんの事を再度意識する。

負けられない。負けてはいけない。
負けてしまえば、穂香ちゃんが。
私が守るって決めた。

ザザッ
「裏野 梨沙様。現在あなたのターンです。これ以上、デュエルを続行しないのであれば、強制的にエンドフェイズに移行し、裏野 晃啓様のターンへと移行します。
よろしいですか?」

動けずに居た事で、アナウンスの最終警告がフロア内に響き渡る。
ここが最後のチャンス。もう引き延ばせない。

「わたしも…頑張らないと…だよね…!」

唾を飲み込む。目を見開き、両腕と足に力を込める。
力の加減を間違えればバランスを崩してしまう。痺れる両腕がバランスを崩さないように、何とか体を起こしゆっくりと立ち上がる。

「まだ…続けるつもりですか…?」

父親から静かに声を掛けられた。

「当たり前…です。
私のターン、ドロー…!」
手札:1枚→2枚

ドローしたカードをチラリと確認する。
残された時間は短い。このターンでせめて勝たなければ、穂香ちゃんを守れない。

「お父さん…ごめんなさい」

ぼそりと呟き、セットカードを発動する。

「《ゴーストリック・オア・トリート》、ローカスト・キングを対象に発動。
2000ライフを払わないと効果を無効」

「…(モンスター効果の無効を嫌ってか。
ライフは減るが、ゴーストリックで《超騎甲虫アブソリュート・ヘラクレス》を突破する事は出来ないよ。)
私は2000ライフを払い、その罠カードを再セットさせます」

晃啓LP:5000→3000


2000のライフが支払われたことで、再びフロア内へお菓子の雨が降り注ぎ始める。

「なら、《ゴーストリック・パニック》発動。セットした妖精を表側守備にして、ローカスト・キングを裏側守備に変更」

セットされた《ゴーストリックの妖精》がくるりんと反転してフィールドに着地すると同時に、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》がひっくり返りフィールドから姿を消す。

「(…?パニックがあるなら先に使えば確実にローカスト・キングを無力化できたはず…。
先にオア・トリートを使ったのは私のライフが狙いか…)」

「《ゴーストリック・ショット》発動。墓地からアルカード蘇生」[攻1800]
手札:2枚→1枚

フィールドに影で作られたコウモリが大量に集まり、人型を形成していく。

「墓地のショットの効果…。
墓地から除外して、墓地のデュラハンをアルカードのオーバーレイユニットに追加…です」

ドラキュラ伯爵として姿を現わしたアルカードの周囲を1匹のコウモリが浮遊する。

「アルカード効果発動。オーバーレイユニットを使って、私から見て右側の伏せカードを対象に破壊」

対象となった伏せカードが黒い影に覆われ始めるとそれが発動された。

「《もの忘れ》発動。攻撃表示モンスターの発動した効果を無効にして、守備表示に変更します」
《ゴーストリック・アルカード》[攻]→[1600]

指を鳴らそうとしたアルカードだったが、一拍時間を置き、指を鳴らすことなくマントでその身を隠した。

「墓地へ行ったデュラハンの効果で、《ゴーストリックの駄天使》をEXデッキに回収。
アルカードに重ねて、《ゴーストリックの駄天使》をエクシーズ召喚」[攻2000]

アルカードがエクシーズ召喚の渦に巻き込まれ爆発が起こる。
ふわりと黒いスカートが揺れ、《ゴーストリックの駄天使》がフィールドにへと降り立った。

「駄天使効果発動。素材を使って、ゴーストリック魔法、罠を手札に加える」

「カウンター罠《騎甲虫空殺舞隊》発動です。
私のフィールドにビートルーパーが存在し、相手がモンスター効果を発動した時にその発動を無効にして破壊できます。
これで、《ゴーストリックの駄天使》は破壊です…!」

突如空中に蝶型のモンスターに乗った昆虫兵が飛来し、手に持った松明の様な武器を駄天使に向けて投げつけてきた。
それが駄天使にあたった瞬間爆発を起こし、駄天使が破壊される。

「これであなたのフィールドは妖精を残すのみです。
ゴーストリックデッキでこのターン中に私を倒す事はできません。
あなたには分からないと思いますが…私はそのデッキを最愛の人達に託していた。
もう諦めて、死を受け入れてください…」

どこか苦しそうに喋る父親は、暗に自分がデュエルに勝ったと確信した。

「墓地へ送られたアルカードの効果発動。
墓地の《ゴーストリック・スケルトン》を手札に」
手札:1枚→2枚

「まだ…!
いい加減に…(スケルトンを回収?召喚してエクシーズ…。
いや、あの妖精はレベルが2。レベルが合わない…)」

「《死者蘇生》発動。墓地から《ゴーストリックの駄天使》を特殊召喚」[攻2000]
手札:2枚→1枚

「《死者蘇生》…?駄天使を蘇生してどうするんです?
(《ゴーストリック・ハウス》が直接攻撃できるのは、相手に裏側モンスターしかいない時だけ…。裏側にならないリンクモンスターと効果を受けないアブソリュート・ヘラクレスが私のフィールドに居る限り、ゴーストリックでライフを削りきる事は出来ないはずです…)」

見知ったデッキ。そのデッキの中で動けるギミックでは自分のライフは削られない。
唯一の不安定要素の外部ギミックの活用も、残された手札で蘇生したのが《ゴーストリックの駄天使》である以上、その芽は摘まれた。
だからこそ、何をしているのかが理解できない父親は目の前の梨沙と名乗る少女が行う展開を眺めるしか出来ないでいた。

「《ゴーストリック・スケルトン》…召喚…」[攻1200]
手札:1枚→0枚

カタカタと音を鳴らしながらフィールドへスケルトンがふわふわとやって来る。

「何をしているんですか?
レベルも合わないモンスターを召喚してどうするんですか」

その瞬間、父親の頭では想定できないゴーストリックの動きを目の前の少女が実行しようとしていた。

「《ゴーストリックの妖精》…リンクマーカーにセット…。
リンク…召喚。

来…て…、《ゴーストリック・フェスティバル》」[攻0]

「な!?
ゴーストリックにリンクモンスター!?」

フロア内の空中を小さなお化け達が、ハロウィンの飾りつけを持って浮遊しフロア内をお祭り状態へと様変わりさせる。

「フェスティバル…の効果です。
フィールドゾーンにゴーストリックカードがある時、自分の…ゴーストリックは、相手にダイレクトアタックが出来るように…なります…!」

口元にまで広がった体の痺れを無視して無理やり声にする。
このターンで父親のライフを0にする一手を。

「バカ…な…。一体…いつの間に…?」

「バトル…!!
《ゴーストリックの駄天使》!
お父さんに、ダイレクトアタック…!」[攻2000]

「ぐ…!?」

駄天使が右手を上に向けてくるくると回す。すると、上空から大きな継ぎ接ぎのハートが降ってきて駄天使の手に加わる。
駄天使はそれを両手でぎゅっと握り込むと、父親の方へ向けて放った。
勢いよく飛んで行った継ぎ接ぎのハートが父親に触れた瞬間に、そこで爆発が巻き起こった。

晃啓LP:3000→1000


「がはっ…げほっ…」

菫色に染まったドクロマークの煙が舞う。煙に包み込まれた中から胸を押さえた父親が出てきた。

「《ゴーストリック・スケルトン》で…
ダイレクトアタック…!」[攻1200]

攻撃の指示を受け、スケルトンが鎌を揺らし、くるくると回転しながら父親の元へと近づいていく。

「そのダメージなら…死にはしない…。
どっちにしろもう限界でしょう。
あなたが倒れた後にもう一回デュエルすれば……」

「私…お父さんに会えてよかった」

父親は眉間にしわを寄せ、睨むようにこちらを見てくる。

「まだ言うか…。
私はあなたの父親じゃ…

しかし、その表情からすぐに力が抜けていくのが分かった。

「お父さんが私を嫌がっても、私からお父さんを突き放すなんて…できないよ」

体にはもうほとんど感覚がない。
喋るだけならもう少し…。

「みんなには居たお母さんが私にはいなかったけど…。
お父さんが居てくれたから…!頑張って私の事を育ててくれた尊敬できるお父さんだったから…!
私……とっても…幸せだったよ…?」

「なに…を…」

「最期に…一個だけ…。
私の後ろの…穂香ちゃんって言うんだけど…とってもいい子なの。
だから…お父さん……あの子に…ひどいこと、しないであげて…?
家に…帰して…あげ………」

言い終わる前に体が倒れた。
スケルトンはぐるぐると鎌と共に横向きに回転しながら父親の眼前まで迫った。

「梨沙………?」

何も理解していないような、呆けた顔になった父親の頬にスケルトンが持つ鎌の柄の先端で勢いよく殴られる。
回転の勢いのまま、殴られた父親は横向きに吹っ飛ぶ。

晃啓LP:1000→0


ピーーー


それと同時に鳴り響く、デュエル終了のブザー。
ダメージを受けた頬が青くなり傷だらけになった顔などどうでもいいようにすぐに体を起こした父親。
その目の前には、先程まで喋っていた自分の娘を名乗る少女が倒れて動かない。

信じられるはずがない。あり得ない。
自分は一度それで騙されて殺されかけている。

「(なんで、駄天使から攻撃したんだ…?)」

逆だ。
相手を殺すつもり。多くのダメージを与えようとするなら、ペナルティの発生するライフ0になる時に高いダメージを与えた方がいい。
先に高い攻撃力で攻撃して、とどめに低い攻撃力。
これではまるで

「殺すつもりが…ない…?」

信じなくていい。信じる必要がない。何か企んでいるに決まっている。

全て嘘だと決めつけ、何も信じない。
これがどれだけ楽な選択肢だったか。

「あ…あ…信じてない…。
嘘だから…嘘だ…嘘だろ…?
梨沙…?外に…いるんだろう…?
そうなんだよな…だから…この子は…偽者で…にせ、もの…?」

毒を盛られた訳でもないのに、父親は指先からだんだんと全身を震わせていった。
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コングの施し
最新話まで読ませていただきました!お父さん;;

自分がここにいるから、ここで人を殺めてしまっているから、どれだけ非道なことでも手を染めて娘に会いに行こうとするからこそ、実の娘はここにいてはいけない。いるはずがない、を通り越して、いてはいけないという心情まで描写するのが痺れましたね…!そしてデュエルに勝利しながらも、お父さんのダメージを最小に抑えた梨沙さん。彼女の文字通り命を賭した訴えがしっかりと響いてほしいですな…。というか、ちゃんと2人とも助かって、しっかりとした再会を果たしてくれ…!

極限状態のデュエルと、キレキレの心情描写にいつも感服です!これからも執筆頑張ってください! (2023-12-28 03:26)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます!

愛して想っているからこそ、その為にはなんでもして来た父親。ただひたすらに娘に会う事だけを願ってここまで生き抜いた父親が、娘を前にして下した決断は拒絶。
愛しい我が子が醜い己の正体を知ってしまうことに彼は耐えられなかったのでしょうねぇ…。
デュエルは勝利を納めた訳ですが、梨沙の意識は闇の中。果たして、梨沙の想いは父へと届くのか?この後どうなってしまうのか?

いつも嬉しいお言葉を頂いております><
今後もゆっくりと更新していけたらなと思いますので、引き続きお楽しみにでございます! (2024-01-05 18:16)

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27 Report#28「トラウマ」 292 2 2023-09-29 -
14 Report#29「背反の魔女」 306 2 2023-10-03 -
33 Report#30「潰えぬ希望」 325 2 2023-10-09 -
17 Report#31「献身」 164 0 2023-10-15 -
22 Report#32「好転」 208 2 2023-10-20 -
26 Report#33「身勝手」 189 2 2023-10-25 -
21 Report#34「ボス戦」 210 3 2023-10-30 -
14 Report#35「想起」 210 2 2023-11-05 -
23 #被験者リスト 266 0 2023-11-05 -
15 Report#36「ノルマ達成目指して」 166 2 2023-11-10 -
15 Report#37「分断」 196 2 2023-11-15 -
29 Report#38「旅立ち」 237 0 2023-11-20 -
17 Report#39「幼き力」 191 2 2023-11-25 -
10 Report#40「囚われし者」 151 0 2023-11-30 -
16 Report#41「傍に居てくれるから」 214 2 2023-12-05 -
21 Report#42「どうして?」 228 1 2023-12-10 -
13 Report#43「拒絶」 142 0 2023-12-15 -
19 Report#44「不信」 182 2 2023-12-25 -
13 Report#45「夜更かし」 156 2 2024-01-05 -
10 Report#46「緊急回避」 147 0 2024-01-10 -
22 Report#47「狂気」 175 2 2024-01-20 -
12 Report#48「判断」 94 2 2024-01-30 -
25 Report#49「白化」 145 0 2024-02-10 -
23 Report#50「諦め切れない」 163 2 2024-02-20 -
16 Report#51「錯綜」 125 2 2024-03-01 -
17 Report#52「計画」 147 2 2024-03-05 -
19 Report#53「決意」 126 2 2024-03-10 -
14 Report#54「抜け道」 123 2 2024-03-15 -
17 Report#55「死の栄誉」 157 2 2024-03-25 -
23 Report#56「灼熱の断頭」 173 2 2024-03-30 -
21 Report#57「憧れの主人公」 130 0 2024-04-05 -
18 Report#58「記憶にいない娘」 101 2 2024-04-20 -
14 Report#59「蝕みの鱗粉」 113 4 2024-04-25 -
1 Report#60「歪み」 9 0 2024-04-30 -

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