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Report#68「見せかけの希望」 作:ランペル
レッドフロアの赤い照明に照らされた渚の笑み……。
その笑みに込められた意味とは…?
「渚さん……なにを言ってるんですか…?」
「ふふ…いやいや、梨沙君の連れて来たお友達の優秀さに驚いてしまってね。
これも梨沙君の人柄が成せる業という事かな?」
先程までの申し訳そうな気配など微塵も感じさせない渚は、不敵な笑みを浮かべたままに会話を続ける。
「その笑み……渚ちゃんは私達と協力する気はない…。
そう取ってもいいのかしら……」
態度を急変させた渚に対して、アリスが警戒しながらその真意を伺う。
「いいや?
むしろ逆だよアリス君。優秀な君達とぜひとも協力したいと考えているよ」
「え…?」
豹変した渚を見た梨沙達は、誰しもが渚が自分達との協力など嘘であったと話し始めるとばかり思っていた。
だからこそ、渚が態度を変化させながらも、変わらず協力を求める様に混乱せざるを得なかった。
「あんたは貫名が梨沙さんとデュエルするのを…知っていた。
あんたが笑っているのは、それを認めたって事を意味しているんじゃないのか?」
渚の思惑を計りかねる白神が彼女へと問う。
先程までとは打って変わって飄々とした態度を見せる渚がその問いへと答えた。
「間違いではないね白神君。
確かに、貫名君を護衛役に選出したのは梨沙君とデュエルしてもらう事を期待していた…いや、むしろ貫名君が梨沙君とデュエルしたいと思える情報の伝え方をして誘導しただろう。
白神君が披露してくれた推測は、ほとんど当たっていたと言っていい」
恥ずかしげもなく渚はそう口にした。
自ら、貫名を送り込んだのは梨沙とデュエルさせる為とそう言ったのだ。
「そもそも、彼に依頼をした事もほとんどない。
せいぜい1回か2回だろう。君達も彼と会ったなら、何となく分かると思うけど、彼は金だとか食料だとか、そんなまともな報酬で納得する人間ではない。
彼が求めるのは自分自身の存在価値を高めてくれるであろう対戦相手。
他者と比較する事でしか自分自身を確立できない憐れで狂った被験者の一人にすぎないんだ」
「鳥のお姉ちゃん…」
渚が饒舌に語る言葉達。
あっけらかんと悪びれるでもなく口にする言葉を前に、梨沙達は呆気に取られてしまう。
そして、その上で渚が先程述べた協力したいという旨の発言。
それが、梨沙達を更に困惑させていく。
「ま、待ちなさい…。
つまり……そんな危険な奴だって知ってて…梨沙ちゃんとデュエルさせるつもりで、私達の所に送って来たって言ってるのよね……」
その態度と言葉の剥離に混乱しつつも、アリスが事実の確認を行う。
渚は再び表情に笑みを見せながら、アリスを見据える。
「そうだ。
貫名君が梨沙君とデュエルした事は、ボクの計画の内だったよ」
即座にアリス、白神の二人がデュエルディスクを構えた。
それに反応して、対面の久能木もデュエルディスクを構える。
「ひ、ひぃ……」
臨戦態勢へと移行した3人のデュエリストを確認した白衣の河原は、小さく怯えながら後退る。
「ま、待ってください…!」
敵意をむき出すアリスと白神の前へと、梨沙が両手を広げて立ちふさがる。
「梨沙ちゃん…彼女が言ったのよ。
あなたを殺す為に、あいつを護衛役に選んだって…」
立ちふさがる梨沙に視線を向ける事無く、その向こうに居る渚を睨みつけるアリス。
そんな彼女と静かにデュエルディスクを構えたままの白神に、梨沙は自らの考えを訴える。
「確かに、渚さんは貫名さんが私とデュエルする事を狙っていたと認めました。
でも、それを認めてからも私達と協力したいと口にした事も事実なんですよ!
争う前に、話せることは全部話し切るべきだと思うんです!
二人とも落ち着いてください!!」
「梨沙君の言うとおりだね。
別に君達と敵対したいなんて言ってない。それに、貫名君が梨沙君を殺す事を望んでいたわけでもない」
デュエルディスクを構えた久能木の前へ手を差しだし制しながら、渚はそう口にする。
「自分が言ってることがおかしいって気づかないのか…?
ここでデュエルを仕掛ける事に、殺意以外の何を読み取ればいいんだ」
「おや?
でも、君は別に人を殺したい訳ではないんだろう?」
渚のその言葉に白神が目を見開く。
「君とデュエルした被験者からは、金を出さなければ殺すと脅された。殺されかけた。
なんて声を多く聞いている。
でも、この事は逆に言えば殺さずにフリーエリアへと帰している事とも読み取れる。現に他のフロアに赴いた被験者と比較しても、傷の程度の少なさやトラウマを抱えているような被験者はほとんどいない」
「何が…言いたいんだ…」
「先程の発言へ反論する根拠さ。
君だって、ここでのデュエルへ殺意以外の意図を持って臨んでいるじゃないかと言ってるのさ」
不敵にそう語る渚へ、アリスが声高に会話を遮る。
「惑わそうったってそうはいかないわよ渚ちゃん…!
白神ちゃんのデュエルに殺意があろうがなかろうが、あなたが貫名を使って梨沙ちゃんを殺そうとした事に間違いはないじゃない!
例え、渚ちゃんに梨沙ちゃんを殺す意図がなくても、送り込んだ貫名が殺意を持ってデュエルしてたなら関係ないはずよ!」
「梨沙君が殺されてしまう可能性はあっただろうね。
だからこそ、協力を持ちかける上でボクがこの計画を隠していた事は理解してもらえるかな?」
淡々と白神とアリスへと言葉を返していく渚。
敵意を発する二人を抑えるべく、梨沙が渚の真意を問いただす。
「渚さん。
警戒される事を分かってでも、私と貫名さんをデュエルさせたのは何故ですか。
何を計画しているんですか」
渚の片目となった左目を真っすぐに見据える梨沙。
その目尻を緩めると、渚は一枚のカードをコートから取り出す。
「まずは、改めて敵意がない事を証明しておこうか」
「…!?
待て……!」
白神の静止を聞かず、渚はそのカードをデュエルディスク上へと発動した。
発動されると共に、梨沙達は周囲を警戒する。
「何か、落ちてきたよ」
異変にいち早く気付いたのは穂香。
視線を上に向けた梨沙達の頭上より紙の様な物が降り注ぐ。
「これは……?」
恐る恐るそれを手にした梨沙。
紙には赤いリボンの装飾と、3000の数字。
そして、GiftCardの文字が印字された文字通りギフトカードであった。
「《ギフトカード》さ。
相手のライフを3000回復させる罠カード」
「回復ですって……?
そんなものを使って一体何するつもりなの…?」
「わっ!」
アリスが周囲を舞い散るギフトカードを視界に捉えながら、渚の目的を探っていたそのタイミングで、背後で穂香が声をあげた。
「消えちゃった…」
「消えた…?」
振り返ると穂香が何かが消えた事に驚いていた。
それと同時に、梨沙が手にしていたギフトカードにも異変が起こる。
「え、こっちも…消えた…?」
手にしていたギフトカードの消滅。
それが何を意味しているのかは、梨沙にも計れずにいた。
「渚さん…。
これは一体なんですか?」
「ふふ…穂香君。
鼻の調子はどうかな?」
「鼻…?」
梨沙の問いに答えるでもなく、渚が問いを投げかけたのは穂香。
穂香は問われるままに、自分の鼻へそっと触れた。
「あれ?
鼻、痛くない…」
「痛くないって……」
穂香の鼻はデュエルの影響でダメージ負い、骨折していたはずだ。
それが急激に治ることなど普通ではあり得ない事のはず。
穂香の発言から少し考えた梨沙が、咄嗟に自らの左肩を握る。
貫名とのデュエルで撃ち抜かれた左肩。
痛みを感じれずとも、その体の違和感は指先で触れれば分かる。
つい先程までは、指先で撃ち抜かれた肩の穴を特定できた。
だが、今はその肩に空いているはずの穴が指先で感知できない。
「ない……。
肩に受けた傷が……」
「傷がない…!?
ど、どういうこと!!」
穂香の言葉、それに続いた梨沙の言葉でアリスはさらに動揺する。
「……ダメージは現実に反映されるが、回復カードで傷が治るなんてことは聞いたことがないぞ」
今起こっている現象を理解した白神が、渚を見遣りながら口を開いた。
それを受け発動していたカードをデュエルディスクから取り除く渚。
それと共に、周囲を舞っていた無数の《ギフトカード》が順番に消えていく。
「ちょっとした発見でね。
ボクが、回復カードを使えば身体的傷は治療が出来るようになったんだよ」
「ち、治療!?
梨沙ちゃん、穂香ちゃん、本当に痛くないの?」
「うん…!
さっきまで触ったら痛かったけど、今は全然痛くないよ」
穂香は鼻を指でふにふにと押しながらそう説明した。
梨沙は肩を掴んでいた右手を自身の腹部へと持って行く。
塞がりつつあったとはいえ、傷跡の違和感は服越しにも容易に判別がついていた…。
それすらも、今は感じられないのだ。
さらには、左腕の傷も、傷跡すら残らず消えていた。
この実験に参加してから受けたはずの傷の全てが消失している…。
「治療……どころか、文字通り回復ですよ…これ。
受けた傷が無くなってます!触った感じ、傷跡すらなくなってて……」
ゆっくりと前へ向き直りながら、梨沙が渚を再び視界に捉える。
「どうだい、アリス君、白神君。
少なくともこれで、ボクが梨沙君を殺そうとしている意図がない事は伝わってくれたんじゃないかな。
殺したい相手の傷を回復させる意味なんかないだろう?」
はっとしたアリスは渚の発言を受け、彼女を横目に捉えながら、デュエルディスクを構え直すような事はしなかった。
白神は依然として、渚を訝しみつつも構えていたデュエルディスクは降ろしている。
「何故、回復カードで傷が治った?
フロアのカスタムにそんなものはない。《盤外発動》だって、1人が扱える魔法、罠は1枚までのはず…。《ギフトカード》が回復させるカードなら、その効力を有効化させる何かがあるはずだ」
「まぁ、当然気になるよね。
でも、この回復はボクが君たちに敵意を向けていない事を証明する事以上の意味はないよ」
そう言って手に持っていた《ギフトカード》をコートのポケットへと再び納めると、渚が人差し指と中指の二本を立てて話し始める。
「順番に話して行こう。
ボクが貫名君を梨沙君の元へ送り、デュエルさせた事の目的は大きく2つ。
1つは、梨沙君のデュエリストとしての腕を改めて判断する為。
2つ目は、梨沙君がデュエルに臨む思想の確認だ」
「それが……貫名さんと私をデュエルさせた理由なんですか?」
梨沙がゆっくりと言葉を繋げる。
渚は求められた回答を淡々と答えていく。
「君達をここへ呼んだのは、この実験に対して判明したことがあったからと言ったよね。
それが分かった事で、ボクはある計画を立てた。その計画の為には、梨沙君の実力の再確認とデュエルへのスタンスを確認する必要がどうしてもあった」
「デュエリストとしての腕って…。
そんなことの為に、梨沙ちゃんは殺されかけたって言うの……!?」
不快さを滲ませるアリスを諭すように渚がアリスの方へ向き応える。
「当然、梨沙君が敗北し、挙句には殺されてしまう可能性もあっただろう。
そんな事になるのはボクとしても本意ではない。だが……どうしても確認しなければならなかった。
ボク以上の実力者、そして狂った人間を相手にもその実力はきちんと機能するのか。
加えて、ボクとのデュエルで披露した…相手を殺さないなんてデュエルをそんな狂人相手にも適用させるのかをね」
「頭のおかしい人間が相手でも、相手を殺さないデュエルをしようとするかの確認ね……。本当にそこまでして知る必要のある事だったのか?」
その行為の必要性を問う白神に、渚は真っ向から必要性を論じた。
「ああ、必要さ。
梨沙君たちと協力出来なくなるリスクを抱えたとしても、確認しなければならない。
いざという時に人間がどのような行動を取るのかなんて事を、普段の行動から計る事は出来ない。例えそれから確証が得られずとも、1つの確かな前例は必要だ」
「いざとなった時…ですか……。
じゃぁ…私がもし貫名さんをデュエルで殺してしまっていたら、渚さんはどうしていたんですか……?」
梨沙が渚の求めていた結果が何かを問う。
殺しに来た貫名を生かすのか殺すのか。
その結果で渚が持ち掛けた協力関係にどういった変化が生まれるのか。
「梨沙君が貫名君に敗れ殺された場合は、残念ながらそれまでだ。
だが、貫名君をくだしたのであれば、その生死はどちらでも構わない」
「どちらでもって……。
私が貫名さんを殺してても殺さなくても、協力は持ちかけていたってことですか…!?」
相手を殺さないデュエルをするかどうかを気にしていた渚が、対戦相手であるはずの貫名の生死は問わないとそう口にした。
渚の目的がいまいちはっきりせず、梨沙は咄嗟にその矛盾を聞き返す。
「ボクが梨沙君へ求めるのは強さだ。
デュエリストとしての腕もさることながら、自らが危機に瀕した上で相手を生かす選択を取る事が出来る心の強さ……。
貫名君が生かされたならば、デュエルの実力、心の強さが共に証明される。
貫名君が殺されたとしても、君のデュエリストとしての実力の高さは揺れ動かない。
危険な被験者でも、いざとなれば殺せる強さを備えている事になる訳だからね」
「強さ……」
梨沙の強さを計るために貫名を送り込んだと宣う渚。
その生死を問わず、ただただ梨沙のデュエリストとしての実力と心の強さを見極める為だけに、貫名を利用したと……。
視線を降ろし、静かに息を吸い込んだ梨沙が口を開く。
「ふざけないでください」
「……梨沙君?」
厳しい目つきで渚を見遣った梨沙が強い口調でいい放つ。
「私の強さを知りたいから、貫名さんとデュエルをさせたって言いましたよね。
私は人を殺したくないし、相手が誰であっても、例え殺す事が簡単だったとしてもそんな選択肢を取るつもりはありませんよ。
でも……それでも殺してしまう可能性は0ではないんです!
渚さんがやった事は、貫名さんの命を弄んでいます!!!」
アリスや白神に言われたように、貫名と言う人間は確かに危険な存在であることは間違いない。
だが、だからと言って人の命を利用した渚の発言を…梨沙は到底受け入れる事が出来なかった。
「確かに、ここには平然と人の命を奪おうとする危険な人がたくさんいます……。
そんな人が、殺されてしまうのも…ここでは仕方ないとは思ってます…。
でも、危険な人だからって…その命を軽んじる事をしていいはずがありません!
渚さんがしたことは、人の命をものさしにして結果を求める……ここの実験が私達にさせている事と何も違いがないんです!!
そんな人の命を利用するような事を……私は断じて許せません!!!」
次々と渚のした行為を非難する梨沙。
人の命が容易く失われてしまう事に苦しみ、嫌悪を感じる想いが言葉となって放たれていく。
その力強い言葉に、対面の河原が驚いたような反応を示す。
「……!!」
渚は少し放心したような表情を見せた後に、目を閉じる。
「まさか……そんな所から反感を買うとは思ってなかったなぁ……」
「渚さんもここに居た事で、おかしくなってしまう気持ちは私も分かってるつもりです…。でも、だからこそ人の命を蔑ろにするべきじゃないんです。
危険な人をそのままにしておけなんて事は、私も言えません。
放っておけば、危険な人達は私達に襲い掛かって来るんです。
殺されそうになって……安全の為に仕方なく……ここで人を殺める事の全てを咎めるつもりもありませんし、そんな資格は私も持っていません。
でも、人の命を利用するような事…これだけは許せないんです……」
梨沙が繋いだ言葉を前に渚は口を閉ざす。
息を吸い込み、心を落ち着けた梨沙が、再び口を開く。
今度は、糾弾するようなものではない。
その言葉は、ゆっくりと優しく。まるで、傍に寄り添うかのように、柔らかな笑みと共に伝えられる。
「渚さんが、穂香ちゃんを助けてくれようとしてたように……あなたも本当はこんなことしたくない人のはずなんです。ここから出た時に、ここでしてしまった事が、きっと渚さん自身を苦しめる事にもなってしまいます……。
だから、こんな実験に染まりすぎないで欲しいんです。
外に出られた時に、もう一度幸せに歩んで行けるように……!」
梨沙の視線の先で目と口を閉じたままの渚。
その閉じられた口が次に開かれた時……
梨沙の背筋に寒気が走った。
「随分と理解したような口を聞くね梨沙君。
ボクの気持ちが分かる…?幸せに歩んで行けるように…?」
彼女はそう喋りながら、梨沙を視界に捉える。
その目は、酷く冷たい……。
人が抱える心の温かさの様な物、それらの全てが捨て去られ、欠片も残っていないかのような……。
そんな人間味を感じられない目が、梨沙の事を人間でない何かを見る様に見つめ返して来ていた。
「……ま!
君もボクらと同じ境地にまで達すれば、少しは近づけるかもしれないし、今ここで言い争いをする意味はないだろうね!」
そんな言葉を口にした渚の表情は、少し前の飄々とした笑顔に戻っていた。
まるで、テレビのチャンネルが切り替わる様に表情が変わった渚を前に、梨沙は再び言い知れぬ恐怖を感じ取ってしまう。
「渚……さん……」
「さて…!
次は君たちに協力を申し出た理由を話そうか。この理由の中に、さっきの梨沙君の考え方に対するボクなりの回答も含まれてると思うよ」
両腕を広げた渚のコートが小さく揺れる。
「一番の理由は大体わかると思うけど、強い人を身内に引き込んでおきたいからって事になるね。
その為に、貫名君を使って梨沙君の実力を計ったわけだし?」
「重要なのは、あんたが計画したその内容でしょ。
梨沙さんをデュエルに巻き込み、信頼を失うリスクを負ってまで、計画した事ってなんだったんだ」
白神は渚が喋るであろう本質に言及する。
口角を緩めた渚は、遂にその計画について触れ始めた。
「ボクが計画し、目指している事は、この実験における危険な人間の掃討。
この実験内で他人に危害を加える連中を駆除しきることにある」
「く…じょ……!?」
到底、人間相手に使われるはずのない単語を耳にした梨沙は、耐えきれず声を漏らす。
それと同じように驚いたアリスが、渚へ疑問を投げかけた。
「駆除って……何を言ってるの渚ちゃん…」
その疑問に答える渚の口角は緩み、変わらず飄々としたままであったが、目だけは鋭く尖りを見せ始める。
「君達も奴らがどういう連中なのかは大よそ理解しているだろう?
自己中心的で、常識だとか倫理観だとか、そんなもののすべてが欠落している。
ただ己の欲を満たすために、他の人間を食い物にしている最低最悪の利己主義者共だ……。
こんなのはもう人間とは呼べない。
ただの害獣だよ」
「何言ってるんですか渚さん…!!?」
渚が言葉を発するほどに、梨沙の中で高まっていった感情が遂に爆発した。
流れる冷や汗と共に、彼女の歪んだ思想を咎める。
「人の事を……害獣って……どうしちゃったんですか渚さん!?」
「落ち着きなよ梨沙君。
深呼吸してもう一度よーく考えてみて欲しい。
君がここで出会ったやつの中にも居たはずだ……話が通じない人間が」
「……だから…って……」
梨沙が思い返すまでもなく、この施設で常に感じる感覚。
会話が成立しないという感覚は、梨沙がここに来て初めて味わった経験なのだ。
情緒が不安定になって支離滅裂になった訳でもなく、至って自然体の彼らはさも当然であるかのように非常識を語っていた。
「あれらはもう別の生き物なんだよ。
人を殺すべきでない、死にたくない、外に出たいなんて、こんな次元に彼らは存在していないのさ。
さっきの貫名君にしたってそう。自分の価値を高める為には他者が被害を被ろうが関係ない。挙句には、その価値が高められるなら自分の命すらにも微塵も興味を示さない始末」
「………」
渚の語る貫名という人間の価値観。
当然、梨沙がそれらを理解することなど出来るはずもなく、実際貫名にデュエルを挑まれた際も、自分自身が彼を会話が成立しない人間と評していたのだ。
争いを終結させることに繋がった彼のデュエルディスクを放棄した行動も、殺意を向けられた状況下で容易く出来る行動などではないはずである。
「……その点は同意せざるを得ないわね…。
危険な奴は…ほんとに話が通じないから……」
何かから逃げる様に視線を下に向けたアリスが、自身の左肩を強く握りながら渚の言葉へと同意を示した。
一息ついた渚が、口を閉ざしてしまった梨沙をフォローする様に再び声をかける。
「梨沙君が怒っているのも…無理のない事だとは思ってる。
ボクの言っている事こそ、倫理から外れた事だろうからね…。
だが、檻に入れておけない獣をそのままにして殺されるのは誰になる?
ボクみたいな大人が自己判断で勝手に死ぬならともかくさ……穂香君のような子供でも奴らからしてみれば関係ないんだ」
梨沙は咄嗟に振り返り穂香を見遣る。
緊張しているのか、表情が強張っている彼女も少し前には、梨沙の父親に陥れられ、命の危機に瀕していたのだ。
「そうです…ね……。
おかしくなってしまった人からしたら、相手が誰かなんて関係ないですから……」
渚の言葉に一度は同意を示した梨沙。
だが、すぐに強いまなざしで渚を見遣った梨沙が言葉を放つ。
「でも…!
そんな人達とも分かり合える可能性はあるはずなんです!!」
父親に自らの想いを訴え続け、和解まで漕ぎつけた事実。
それが、彼女が力強く言葉を発する動力源となっていた。
しかし、その甘さはすぐに咎められてしまう。
「無理だよ梨沙さん。
キミが考えてるその可能性って、きっとお父さんの事だろ?
それは、梨沙さんがあの人の娘だから何とかなっただけって分かってるでしょ。
身内でさえあれだけ拒絶してたのに、赤の他人があの人の心を開けると本気で思ってる訳じゃないよね?」
厳しい口調の白神がそう言い切る。
それを受けた梨沙は、奥歯を噛みしめながらも答えを示す。
「……確かに、お父さんの事も考えていました…。私が言っている事が甘い事も、ここでは危険な考え方だってことも分かってるつもりなんです……。
でも、危険だから殺す、話が出来ないから殺す…。
挙句には獣扱いして殺してしまおうなんて……ただの虐殺です……。
無茶苦茶ですよ……」
フロア内の空気がピリピリとひりつく。
「理解してもらえないか。
梨沙君含め、君達全員が危ない目に合ってきたはずだ」
「渚さんが言ってる危ない人を何とかしないといけないっていうのは必要だとは思います。
極論すぎますけど、殺してしまうって考え方も…全く理解できない訳でもないんです……。
でも、話し合いが出来ないとしても…危険な人を殺して回るなんて方法以外にも何かないかって………」
頭を抱えながら、ゆっくりと言葉を繋いだ梨沙。
容易に人の尊厳と命が奪われるこの環境下で、どうにか他の方法がないかと、葛藤の中で藻掻きながら、他の可能性へと言及していく。
「例えば……危険な人達を殺す必要まではないはずです。
要するに、ここでデュエルが出来なくなればその危険が無くなるんですから」
「そもそもデュエルさせなくさせる方法があるのかという話は置いておいたとしてもだ……。
頭の狂った連中が、デュエルが出来なくなっただけで諦めるとでも?
直接的な暴力行為は禁止されているが、何かしらデュエルする為に、ボクらの命を狙って来るその思想自体を変える事は出来ないだろう。結局は問題を先送りにすることにしかなっていない。
危険な奴を排除する事でしか、この実験に平穏が訪れることはない」
首を横に振りながら、梨沙の提案を跳ね除けた渚。
二人のやり取りが行き詰まっていき、その空気を換えるかのように白神が渚へ問いを投げた。
「せっかくクラスⅢになったってのに、あんたはエスケープするつもりはないのか?
そもそもこんな所から出ていけば、リスクを冒して危険な連中を殺して回るような事しなくて済むだろ。僕としては、外に出るのを後回しにしてまで、その計画を実行する意義を聞いておきたいな」
「そ、そうです。
まずは脱出の方法を考えるべきですよ…!」
唯一この実験からの脱出手段として、実験側より提示されているエスケープ。
クラスⅢを2人殺害するか4人とのデュエルに勝利する事、そして違約金である100万DPを支払う事を達成する事で、ここから外へと出られる手段であり、白神が目指している事でもあった。
希望的な話し合いの予感に気力を少し取り戻した梨沙も、白神の脱出への問いに追従を示す。
そんな梨沙を裏切るように渚は、緩やかな笑みを零しながら自らの選択を語る。
「ボクも、当初はエスケープするつもりだったさ。
梨沙君の外に出ようとする姿を見て……捨てたはずの外の世界への未練がより戻ってきてしまったんだよ」
「なら……なんであなたはさっき言った計画を実行しようと…?
その計画は、脱出することと真逆を行ってるんじゃないの?」
当初は目指していたはずの、エスケープ。
アリスが渚へその目的を遂行しない理由を問うた。
「その訳こそが、君達をここへ呼んだ最大の理由に全て詰まっている。
この実験の根幹……実験の真実についての話だ」
「実験の…真実……」
「随分と勿体ぶるじゃん……。
そんなに大きなことなのか?」
渚が口にする実験の真実。
通話では語らず、わざわざ梨沙達を呼び寄せたこと…。
つまり、それほどに重要な何かである事が秘められている事を感じ取った梨沙達に、緊張が走る。
「あぁ……。
ボクが外に出る事を諦めてここで一生を過ごす事を決意した理由だ。
そして、ボクがこれを話す事で、君達もこれに同調してくれると信じてもいる」
「な……!?」
渚は悲し気な表情と共に、明確に言い切った。
ここで一生を過ごす決意をしたと、そう口にしたのだ。
「そ、外に出ようとしてた渚さんが……外に出る事を諦めた……??
な、なんで…なんでですか!いったい何が分かったんですか!!!」
渚の言い回しに梨沙の中での不安が膨張し、動揺すると共に唇が震える。
実験の真実と聞いて一番に浮かんでいたのは、外に出る方法が見つかったとか、外に出る手掛かりが出て来たとか。そんな希望的な何かとばかり思っていたのだ。
その反動も合わさって、彼女の負の感情がゆっくりとせり上がっていく。
「では話そう……。
完全に外界から隔絶されたこの実験施設。
果たして、ここはどこなのか?そんな”場所”について分かったことがある。
端的に言えば、ここは現実世界ではない…!」
「現実世界じゃ…ない……?」
渚の話始めた真実。
それは、梨沙達の居る実験施設が現実の世界ではないと告げた。
理解の及ばぬままに、梨沙以外の人間も疑問を口にし始める。
「どういうことなの渚ちゃん。
現実じゃないって」
「電脳世界……仮想現実。
多種多様な呼び名はあれど、要するにはコンピューター上かネットワーク上に構成された…プログラムの世界とでも言えばいいのかな?
ボクらはそんな電子の海の中に存在しているんだ」
「電脳……世界……?」
「VRゲームとかをみんなは遊んだ事あるかな?ほら、専用のゴーグルをかけるあれだよ。
ここは、ゲームの中に自分の意識を送り込んでいるような、そんなものと思ってくれれば分かりやすいのかな」
ゲームのような空間。そんな非現実の空間に自分達が存在していると渚は口にした。
不意に梨沙は自分自身の右の掌を広げて見つめた。
見間違う事などない自分の右手だ。力を込めれば、自分の思い通りの指が思った通りに動く。
遠隔で機械を操作している感覚やゲームのキャラクターを動かしているようなそんなものでもない。
指紋や手相、細かなしわや皮膚の質感の全て……目に映る全ての情報が電脳世界を否定する材料しか示さない。
「よく…分かんないけど、ほのかたちゲームの人なの…?」
穂香が目をぱちぱちさせながらそう口にした。
「安心してくれていい。
ボク達が電脳世界に存在しているからと言っても、元々は外の世界で人間であったことは間違いないんだ。
ボクらは間違いなく人間だよ」
「そんなことを言われたって……すぐに信じられないわよ渚ちゃん…。
ここで受けた事のある傷やダメージだって本物なのよ。今、感じ取ってる感触の全ても偽物とは思えない……。
もし、渚ちゃんの言っている事が本当の事だとして、あなたはどうやってそんな事に気が付くことが出来たの……?」
アリスも梨沙と同じように自らの手や腕を見ながら、渚へと問いかける。
「この事を知るに至ったのは彼のお陰だね」
そう言いながら渚は振り返り、彼女の背後にいる白衣の男の方へと手を差し示す。
「確か…河原さんって言われてましたよね…?」
「そう。
話を聞くに、どうやら彼はこの実験の観測者側の一人だったらしくてね。
ここがどんな場所かを教えてもらったのさ」
「観測者だと……!?」
睨むような目つきと共に声をあげた白神。
それに続くようにアリスや梨沙も、それが意味する事を理解していく。
「観測者側って……私たちがこうやって傷つけあうのを見てた連中ってこと…?」
「じゃぁ…あなたがこんな実験を……!?」
梨沙達が河原へと向ける視線は、とても敵対的だ。
この実験の狂気に触れて来たからこそ、その実験を運営していたであろう人間には敵意がむき出しになってしまった。
敵意を含んだ視線を受けた河原は、慌てて弁明を始める。
「ち、違う!
確かに、分野は違えど観測している者達とは同業ではあった……だが、私はこんな実験を実際に観測できる立場にはなかったんだ!
む、むしろ、こんな人道に反する実験が行われていると知って止めるべく行動していたつもりで……」
河原の弁明によって、虚を突かれた梨沙は戸惑いながらも彼の話の続きを促す。
「止めようと、してくれてたんですか……?」
「だとしたら話がおかしくなるわよ!
止める為に動いていたあなたが、なんでここに居るのよ…?」
この実験を止めるべく、外で行動していたと口にした河原だが、実際には被験者であるはずの梨沙達の目の前に同じように存在している。
「つまり、実験を中止させるのは失敗に終わって彼もこの実験送りにされたってことだね」
ははと乾いた笑いと共にそう言いのけた渚。
言及された河原はバツが悪そうに縮こまっている。
「失敗……。
でも、この実験については私達よりも詳しいはずですよね…!?」
「おじいちゃん…ここの人と知り合いだったの?
何か外に出る方法ないの?」
梨沙と穂香が縮こまっている河原へと、何か知らないかと問いかける。
一度歯を噛みしめた河原は、少しずつ彼女の質問に答え始めた。
「……基本的にこの実験は、特別なネットワークを介していて、外部のネットワークとは完全に隔離された仮想空間だ……。
仮想空間内への出入りは、すべて外部からの操作でしか行えない。
一応……内部よりパスワードを入力する事で外へ出るという方法もなくはないが……」
電脳世界である情報をもたらした河原へと、そこから脱出する術を探る梨沙。
「ほ、ほんとですか!?
どうやったらいいんですか!!」
「その方法も、あくまでも観測者が不測の事態に対する緊急の手段だ。
内部からパスワードを入力できれば、ログアウトという形で外の世界には戻れる…。
しかし、そのパスワードを入力する場所は巧妙に隠されていて、私にも分からないんだ……」
希望を見出すべく、梨沙やアリスが河原へと次々と質問を投げかける。
「こっちから外に出る為には、パスワードと、それを入力する場所を見つける必要がある……ってことよね?」
「一応、パスワードを記憶してはいるが……」
「え?
パスワードは分かってるんですか?」
必要なはずの2つの重要事項。河原はその内の1つを手にしていると口にし始めた。不意を突かれると共に、何とかなるのではないかと新たな希望も見出す。
しかし、それに対して前向きな明るい答えが返ってくることはない。
「当然…私がパスワードを知っていることも観測者達は知っている。
それでも、観測者達が私をここへ送り込んだのは…8日毎のパスワードの自動更新と、その入力場所が絶対に素人では見つけられないからだ……」
「これだけでもさ。
なかなかに絶望的に解決策が見えない事態だよね~」
やれやれと言わんばかりに、首を振りながらお手上げのポーズを示す渚。
しかし、渚とは反対に梨沙はしばしの間思考を巡らせる。その果てに、かすかな希望を見出していく。
「8日毎のパスワードの更新ってことは……。
もしかしてこの実験をしている人達も、すぐにはパスワードを変更できないってことなんじゃないですか…?」
「そう…だが……。
プログラムの基礎部分は、あらゆる介入が出来ない完全なセキュリティを構築している…。
だから、観測者側から即座にパスワードを変えることは出来ないはずだ」
「…8日毎って言ってたけど、あと何日残ってるかは分からないの?」
「残り5日だよ……」
意気消沈しながら、残された日数を告げた河原。
その数字が口にされた事で、梨沙の表情に活気が滲み出てくる。
「まだ5日残ってるんですね。
だったら、河原さんのパスワードを入力できる場所を5日以内に見つけることが出来れば、ここから出られるって事ですよね!!!」
それは、いったいどれ程に小さな可能性だろうか。
梨沙はそういった分野の知識がある訳でもない…。
何かものを探すのが得意な訳でもない…。
だが、時間制限こそあれど、今までは何も手立てがない中で、明確な脱出の手段が提示された……。
既に深い絶望に一度染まった事のある梨沙は、もう前に進むことを決めている。
正気を保つ事よりもはるかに楽に堕ちることのできる深淵……。
自分はその闇から手を差し伸ばされながらも、それを掴み自力で這い上がったのだ。
ならば……見つけた希望を諦めるなんて事は絶対にしない。
「探しましょう……。
その場所を!」
力強く言い切る梨沙。
その力強さと可能性の小ささに河原は驚きながらも、その意思を確かめるべく梨沙へと問うた。
「だ、だが…厳重にロックされた入力機能がそう簡単に見つかるとは思えん…。
たとえ、場所を突き止めてもその画面を開く操作方法も何も分からないんだぞ…。
そ、そんなものに希望を見出すと……君はそう言うのか…?」
「もちろんですよ!
今までは可能性が見えなかったんです。見えてる可能性を追わなくてどうするんですか!
渚さんも!可能性が低いからって諦めないでください!
せめて、この5日間の間にパスワードを入力できる場所…探してみましょうよ!」
「梨沙ちゃん…」
「お化けのお姉ちゃん…」
前向きさを突き詰める梨沙。
この実験の事情を把握している人間さえも諦めたその可能性を…梨沙は希望と認識しているのだ…。
「そうね…そうよね梨沙ちゃん!
諦めちゃダメよね!」
「穂香もそれ探すの手伝うよ。
そしたら、みんな痛い思いしなくていいもんね」
アリスと穂香の表情にも、活気が戻ってくる。
だが、渚を含めた対面の4人はその希望に追従しない。
「まぁ確かに、0ではないだろうね。
その限りなく0に近い可能性……。
それを見つけ出し、パスワードを5日以内に入力できれば…この世界から外に出られるだろう……。
この男は……!」
渚は白衣の襟元を掴み取り、河原を自分の元へと引き寄せ顔を梨沙達へと突きつけた。
冷や汗を流す河原の顔に宿るのは、後悔や罪悪感の感情。
今すぐにでもその場を逃げ出したいような……そんな逃避の心が容易に想像ができるものである。
「河原さんは……って…?」
渚の発言へ質問で返す梨沙のすぐ後に、一早く意図を理解した白神が早口でその真実を確かめ始める。
「どういうことだ?
その男は外に出られるけど、僕らは外に出られないとでも言うつもりか?」
「簡単に言うとそうなるね」
外へ出る方法について話していたはずの河原。
しかし、その手段で梨沙達は外に出られないと口にする渚。
「なん、なんでよ渚ちゃん。
さっきの話なら、ここにいる人達みんながゲームの中に居るみたいなことなんでしょ?だったら、その人が出れるなら私達も出れるはずじゃない。
パスワードを知ってる人だけ外に出れるとかそういう事なの…?」
「いや、河原さんの話を聞くに、入力画面にパスワードさえ入力すれば誰でもログアウト出来るらしいよ。
自分で入力しないといけないから、いっぺんにみんなが外に出るとかはできないみたいだけどね」
「じゃぁ、何が原因で河原さんしか外に出れないってことになるんですか…!?」
ログアウトの手段…それが河原にしか適用されない方法だと口にする渚は、掴み取っていた河原から手を離すと右手の人差し指を突き立てた。
「ボクが河原さんから聞いて、知り得た真実はもう1つあるんだ」
「もう…1つ……?」
1つ目は、この実験がどういう”場所”だったのか。
では、もう1つは……?
「2つ目に分かったことは、ボク達はいったいどういう”存在”なのかという事」
「存在……?
どういうこと?何が言いたいのよ」
”存在”についての詳細を欲するアリスへ、渚はこの世界へ人間が来る方法をまず話し始めた。
「意識をデータ化し、この電脳世界へと送り込む。それが、この世界に人間が来る方法。
そんな状態にある河原さんは、外の世界では昏睡状態みたいなんだ。
もし、河原さんがこちらの世界で死 ねば、肉体へと戻る意識のデータが存在しなくなる……つまり、肉体は抜け殻となり、脳死判定をくらうんだってさ」
「さっきから話を逸らすような真似ばかり…。
結局何が言いたいんだよ。
その話なら、僕らの肉体も外の……世界……に…………?」
そう口にしていた白神が、だんだんと唇を震わせ始める。
その読みを察した渚が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そう、ここには無数に人間が送り込まれてきている。
その人間達のすべてが、意識を失った抜け殻だけになっているとしよう……。
そうすると、それらの肉体は外の世界で保護、保管する必要が出てくるとは思わない?
エスケープなんて方法が用意してあるなら、なおさらさ。
条件を満たした人間。つまり意識は外の世界の自分の肉体に戻す必要があるんだからね」
白神と渚の中で、共通した話題。
だが、梨沙達3人はその真実にまだ辿り着けてはいない。
「えっと、ここがデジタルの世界…電脳世界でしたっけ?
電脳世界だから、ここに居る私達は意識だけの状態……。
ということは、ここから外に出たら私達は外で寝てる自分の体で、目が覚めるんじゃないんですか?」
梨沙が状況をまとめたのと共に、白神が表情を強張らせながら渚へと問いを投げた…。
「はいか…いいえで答えてくれ福原さん……。
外の、外の…世界に……ボク達の肉体は残っているのか……?」
その質問を聞いた瞬間、梨沙の背筋へ寒気が走る。
外に、自分たちの肉体が残っているのか……。
白神や渚のように察しが良くなくても、ここでま言われれば梨沙とて理解する。
ここにいる自分達が意識だけの存在であるならば、外の世界には帰るべき肉体が存在していなければいけない。
その所在を白神は渚へと問いただしているのだ…。
そんな事あってはならない。
一瞬で噴き出した焦燥の汗を流し、救いを求める様に梨沙が渚達の方へ視線を向ける。
衰弱したように目線を自分達から外す河原。
感情をあまり感じさせない久能木と近久。
そして、目じりを下げた渚は口角を緩め……
それを口にした。
「答えるなら……はいってことになるね」
ヒリついた空気が弛緩していき、一瞬の静寂がフロア内を満たす。
「はい……?
はいって……あるんだな?
なら……外に僕らの肉体は残ってるって事でいいんだよね?」
予想外な返答を受けた白神が、入念な確認を渚へ行う。
「ああ。
外の世界でボクらは別に死んでいるわけではないよ。
しっかり生きてる」
その言葉を聞いた白神がほっとしたように息を吐く。
それは梨沙も同じだ。
「な…なぁんだ………。
もう、渚さん!そうやってどっちか分からない言い方ばっかして!
いじわるばっかり……!」
ほっとして、胸を撫でおろした。
希望は潰えていなかったことを知り得たのだ。
外に出れば、元の日常に戻れる。
可能性は依然として低くとも、0ではなかったのだ。
この自分の気持ちに、みんなにも共感してほしくて、軽い口調で渚をからかうように話しかけた梨沙。
悪かったねと、悪い冗談であったと改めて前向きな希望的な話を始めたかったのだ。
ほんのりと笑顔を見せた梨沙の目には、全く表情の変わらない…悲し気な笑みを浮かべたままの渚の顔が映されたままだ。
「そう外でボクらは確かに生きているよ……。
でも、ボクらはね……。
外に帰れないんだ。帰る場所がないんだ」
「ど、どういうことですか……。
なんで…なんで渚さん、そんな事言うんですか……」
何故、渚は諦めるのか。
いくら可能性が低いからといえ、示された希望に挑戦することを何故諦めるのだ。
この実験に多少なりとも精通した人間との邂逅。
これこそが、自分達が手にした最大のチャンスではないのか?
何故…諦めてしまうのか……。
そんなものは簡単だ。
そんな希望は全部見せかけでしかない……。
渚は諦めたのではなく、諦めるしかなかった……。
ただ、それだけの事であったのだと……梨沙は理解した。
「ここに居るボクらは、
元の自分の記憶と人格をコピーして生み出された”複製品”。
外の世界では、”オリジナルのボク達が今も変わらない日常を生きている”んだよ」
その笑みに込められた意味とは…?
「渚さん……なにを言ってるんですか…?」
「ふふ…いやいや、梨沙君の連れて来たお友達の優秀さに驚いてしまってね。
これも梨沙君の人柄が成せる業という事かな?」
先程までの申し訳そうな気配など微塵も感じさせない渚は、不敵な笑みを浮かべたままに会話を続ける。
「その笑み……渚ちゃんは私達と協力する気はない…。
そう取ってもいいのかしら……」
態度を急変させた渚に対して、アリスが警戒しながらその真意を伺う。
「いいや?
むしろ逆だよアリス君。優秀な君達とぜひとも協力したいと考えているよ」
「え…?」
豹変した渚を見た梨沙達は、誰しもが渚が自分達との協力など嘘であったと話し始めるとばかり思っていた。
だからこそ、渚が態度を変化させながらも、変わらず協力を求める様に混乱せざるを得なかった。
「あんたは貫名が梨沙さんとデュエルするのを…知っていた。
あんたが笑っているのは、それを認めたって事を意味しているんじゃないのか?」
渚の思惑を計りかねる白神が彼女へと問う。
先程までとは打って変わって飄々とした態度を見せる渚がその問いへと答えた。
「間違いではないね白神君。
確かに、貫名君を護衛役に選出したのは梨沙君とデュエルしてもらう事を期待していた…いや、むしろ貫名君が梨沙君とデュエルしたいと思える情報の伝え方をして誘導しただろう。
白神君が披露してくれた推測は、ほとんど当たっていたと言っていい」
恥ずかしげもなく渚はそう口にした。
自ら、貫名を送り込んだのは梨沙とデュエルさせる為とそう言ったのだ。
「そもそも、彼に依頼をした事もほとんどない。
せいぜい1回か2回だろう。君達も彼と会ったなら、何となく分かると思うけど、彼は金だとか食料だとか、そんなまともな報酬で納得する人間ではない。
彼が求めるのは自分自身の存在価値を高めてくれるであろう対戦相手。
他者と比較する事でしか自分自身を確立できない憐れで狂った被験者の一人にすぎないんだ」
「鳥のお姉ちゃん…」
渚が饒舌に語る言葉達。
あっけらかんと悪びれるでもなく口にする言葉を前に、梨沙達は呆気に取られてしまう。
そして、その上で渚が先程述べた協力したいという旨の発言。
それが、梨沙達を更に困惑させていく。
「ま、待ちなさい…。
つまり……そんな危険な奴だって知ってて…梨沙ちゃんとデュエルさせるつもりで、私達の所に送って来たって言ってるのよね……」
その態度と言葉の剥離に混乱しつつも、アリスが事実の確認を行う。
渚は再び表情に笑みを見せながら、アリスを見据える。
「そうだ。
貫名君が梨沙君とデュエルした事は、ボクの計画の内だったよ」
即座にアリス、白神の二人がデュエルディスクを構えた。
それに反応して、対面の久能木もデュエルディスクを構える。
「ひ、ひぃ……」
臨戦態勢へと移行した3人のデュエリストを確認した白衣の河原は、小さく怯えながら後退る。
「ま、待ってください…!」
敵意をむき出すアリスと白神の前へと、梨沙が両手を広げて立ちふさがる。
「梨沙ちゃん…彼女が言ったのよ。
あなたを殺す為に、あいつを護衛役に選んだって…」
立ちふさがる梨沙に視線を向ける事無く、その向こうに居る渚を睨みつけるアリス。
そんな彼女と静かにデュエルディスクを構えたままの白神に、梨沙は自らの考えを訴える。
「確かに、渚さんは貫名さんが私とデュエルする事を狙っていたと認めました。
でも、それを認めてからも私達と協力したいと口にした事も事実なんですよ!
争う前に、話せることは全部話し切るべきだと思うんです!
二人とも落ち着いてください!!」
「梨沙君の言うとおりだね。
別に君達と敵対したいなんて言ってない。それに、貫名君が梨沙君を殺す事を望んでいたわけでもない」
デュエルディスクを構えた久能木の前へ手を差しだし制しながら、渚はそう口にする。
「自分が言ってることがおかしいって気づかないのか…?
ここでデュエルを仕掛ける事に、殺意以外の何を読み取ればいいんだ」
「おや?
でも、君は別に人を殺したい訳ではないんだろう?」
渚のその言葉に白神が目を見開く。
「君とデュエルした被験者からは、金を出さなければ殺すと脅された。殺されかけた。
なんて声を多く聞いている。
でも、この事は逆に言えば殺さずにフリーエリアへと帰している事とも読み取れる。現に他のフロアに赴いた被験者と比較しても、傷の程度の少なさやトラウマを抱えているような被験者はほとんどいない」
「何が…言いたいんだ…」
「先程の発言へ反論する根拠さ。
君だって、ここでのデュエルへ殺意以外の意図を持って臨んでいるじゃないかと言ってるのさ」
不敵にそう語る渚へ、アリスが声高に会話を遮る。
「惑わそうったってそうはいかないわよ渚ちゃん…!
白神ちゃんのデュエルに殺意があろうがなかろうが、あなたが貫名を使って梨沙ちゃんを殺そうとした事に間違いはないじゃない!
例え、渚ちゃんに梨沙ちゃんを殺す意図がなくても、送り込んだ貫名が殺意を持ってデュエルしてたなら関係ないはずよ!」
「梨沙君が殺されてしまう可能性はあっただろうね。
だからこそ、協力を持ちかける上でボクがこの計画を隠していた事は理解してもらえるかな?」
淡々と白神とアリスへと言葉を返していく渚。
敵意を発する二人を抑えるべく、梨沙が渚の真意を問いただす。
「渚さん。
警戒される事を分かってでも、私と貫名さんをデュエルさせたのは何故ですか。
何を計画しているんですか」
渚の片目となった左目を真っすぐに見据える梨沙。
その目尻を緩めると、渚は一枚のカードをコートから取り出す。
「まずは、改めて敵意がない事を証明しておこうか」
「…!?
待て……!」
白神の静止を聞かず、渚はそのカードをデュエルディスク上へと発動した。
発動されると共に、梨沙達は周囲を警戒する。
「何か、落ちてきたよ」
異変にいち早く気付いたのは穂香。
視線を上に向けた梨沙達の頭上より紙の様な物が降り注ぐ。
「これは……?」
恐る恐るそれを手にした梨沙。
紙には赤いリボンの装飾と、3000の数字。
そして、GiftCardの文字が印字された文字通りギフトカードであった。
「《ギフトカード》さ。
相手のライフを3000回復させる罠カード」
「回復ですって……?
そんなものを使って一体何するつもりなの…?」
「わっ!」
アリスが周囲を舞い散るギフトカードを視界に捉えながら、渚の目的を探っていたそのタイミングで、背後で穂香が声をあげた。
「消えちゃった…」
「消えた…?」
振り返ると穂香が何かが消えた事に驚いていた。
それと同時に、梨沙が手にしていたギフトカードにも異変が起こる。
「え、こっちも…消えた…?」
手にしていたギフトカードの消滅。
それが何を意味しているのかは、梨沙にも計れずにいた。
「渚さん…。
これは一体なんですか?」
「ふふ…穂香君。
鼻の調子はどうかな?」
「鼻…?」
梨沙の問いに答えるでもなく、渚が問いを投げかけたのは穂香。
穂香は問われるままに、自分の鼻へそっと触れた。
「あれ?
鼻、痛くない…」
「痛くないって……」
穂香の鼻はデュエルの影響でダメージ負い、骨折していたはずだ。
それが急激に治ることなど普通ではあり得ない事のはず。
穂香の発言から少し考えた梨沙が、咄嗟に自らの左肩を握る。
貫名とのデュエルで撃ち抜かれた左肩。
痛みを感じれずとも、その体の違和感は指先で触れれば分かる。
つい先程までは、指先で撃ち抜かれた肩の穴を特定できた。
だが、今はその肩に空いているはずの穴が指先で感知できない。
「ない……。
肩に受けた傷が……」
「傷がない…!?
ど、どういうこと!!」
穂香の言葉、それに続いた梨沙の言葉でアリスはさらに動揺する。
「……ダメージは現実に反映されるが、回復カードで傷が治るなんてことは聞いたことがないぞ」
今起こっている現象を理解した白神が、渚を見遣りながら口を開いた。
それを受け発動していたカードをデュエルディスクから取り除く渚。
それと共に、周囲を舞っていた無数の《ギフトカード》が順番に消えていく。
「ちょっとした発見でね。
ボクが、回復カードを使えば身体的傷は治療が出来るようになったんだよ」
「ち、治療!?
梨沙ちゃん、穂香ちゃん、本当に痛くないの?」
「うん…!
さっきまで触ったら痛かったけど、今は全然痛くないよ」
穂香は鼻を指でふにふにと押しながらそう説明した。
梨沙は肩を掴んでいた右手を自身の腹部へと持って行く。
塞がりつつあったとはいえ、傷跡の違和感は服越しにも容易に判別がついていた…。
それすらも、今は感じられないのだ。
さらには、左腕の傷も、傷跡すら残らず消えていた。
この実験に参加してから受けたはずの傷の全てが消失している…。
「治療……どころか、文字通り回復ですよ…これ。
受けた傷が無くなってます!触った感じ、傷跡すらなくなってて……」
ゆっくりと前へ向き直りながら、梨沙が渚を再び視界に捉える。
「どうだい、アリス君、白神君。
少なくともこれで、ボクが梨沙君を殺そうとしている意図がない事は伝わってくれたんじゃないかな。
殺したい相手の傷を回復させる意味なんかないだろう?」
はっとしたアリスは渚の発言を受け、彼女を横目に捉えながら、デュエルディスクを構え直すような事はしなかった。
白神は依然として、渚を訝しみつつも構えていたデュエルディスクは降ろしている。
「何故、回復カードで傷が治った?
フロアのカスタムにそんなものはない。《盤外発動》だって、1人が扱える魔法、罠は1枚までのはず…。《ギフトカード》が回復させるカードなら、その効力を有効化させる何かがあるはずだ」
「まぁ、当然気になるよね。
でも、この回復はボクが君たちに敵意を向けていない事を証明する事以上の意味はないよ」
そう言って手に持っていた《ギフトカード》をコートのポケットへと再び納めると、渚が人差し指と中指の二本を立てて話し始める。
「順番に話して行こう。
ボクが貫名君を梨沙君の元へ送り、デュエルさせた事の目的は大きく2つ。
1つは、梨沙君のデュエリストとしての腕を改めて判断する為。
2つ目は、梨沙君がデュエルに臨む思想の確認だ」
「それが……貫名さんと私をデュエルさせた理由なんですか?」
梨沙がゆっくりと言葉を繋げる。
渚は求められた回答を淡々と答えていく。
「君達をここへ呼んだのは、この実験に対して判明したことがあったからと言ったよね。
それが分かった事で、ボクはある計画を立てた。その計画の為には、梨沙君の実力の再確認とデュエルへのスタンスを確認する必要がどうしてもあった」
「デュエリストとしての腕って…。
そんなことの為に、梨沙ちゃんは殺されかけたって言うの……!?」
不快さを滲ませるアリスを諭すように渚がアリスの方へ向き応える。
「当然、梨沙君が敗北し、挙句には殺されてしまう可能性もあっただろう。
そんな事になるのはボクとしても本意ではない。だが……どうしても確認しなければならなかった。
ボク以上の実力者、そして狂った人間を相手にもその実力はきちんと機能するのか。
加えて、ボクとのデュエルで披露した…相手を殺さないなんてデュエルをそんな狂人相手にも適用させるのかをね」
「頭のおかしい人間が相手でも、相手を殺さないデュエルをしようとするかの確認ね……。本当にそこまでして知る必要のある事だったのか?」
その行為の必要性を問う白神に、渚は真っ向から必要性を論じた。
「ああ、必要さ。
梨沙君たちと協力出来なくなるリスクを抱えたとしても、確認しなければならない。
いざという時に人間がどのような行動を取るのかなんて事を、普段の行動から計る事は出来ない。例えそれから確証が得られずとも、1つの確かな前例は必要だ」
「いざとなった時…ですか……。
じゃぁ…私がもし貫名さんをデュエルで殺してしまっていたら、渚さんはどうしていたんですか……?」
梨沙が渚の求めていた結果が何かを問う。
殺しに来た貫名を生かすのか殺すのか。
その結果で渚が持ち掛けた協力関係にどういった変化が生まれるのか。
「梨沙君が貫名君に敗れ殺された場合は、残念ながらそれまでだ。
だが、貫名君をくだしたのであれば、その生死はどちらでも構わない」
「どちらでもって……。
私が貫名さんを殺してても殺さなくても、協力は持ちかけていたってことですか…!?」
相手を殺さないデュエルをするかどうかを気にしていた渚が、対戦相手であるはずの貫名の生死は問わないとそう口にした。
渚の目的がいまいちはっきりせず、梨沙は咄嗟にその矛盾を聞き返す。
「ボクが梨沙君へ求めるのは強さだ。
デュエリストとしての腕もさることながら、自らが危機に瀕した上で相手を生かす選択を取る事が出来る心の強さ……。
貫名君が生かされたならば、デュエルの実力、心の強さが共に証明される。
貫名君が殺されたとしても、君のデュエリストとしての実力の高さは揺れ動かない。
危険な被験者でも、いざとなれば殺せる強さを備えている事になる訳だからね」
「強さ……」
梨沙の強さを計るために貫名を送り込んだと宣う渚。
その生死を問わず、ただただ梨沙のデュエリストとしての実力と心の強さを見極める為だけに、貫名を利用したと……。
視線を降ろし、静かに息を吸い込んだ梨沙が口を開く。
「ふざけないでください」
「……梨沙君?」
厳しい目つきで渚を見遣った梨沙が強い口調でいい放つ。
「私の強さを知りたいから、貫名さんとデュエルをさせたって言いましたよね。
私は人を殺したくないし、相手が誰であっても、例え殺す事が簡単だったとしてもそんな選択肢を取るつもりはありませんよ。
でも……それでも殺してしまう可能性は0ではないんです!
渚さんがやった事は、貫名さんの命を弄んでいます!!!」
アリスや白神に言われたように、貫名と言う人間は確かに危険な存在であることは間違いない。
だが、だからと言って人の命を利用した渚の発言を…梨沙は到底受け入れる事が出来なかった。
「確かに、ここには平然と人の命を奪おうとする危険な人がたくさんいます……。
そんな人が、殺されてしまうのも…ここでは仕方ないとは思ってます…。
でも、危険な人だからって…その命を軽んじる事をしていいはずがありません!
渚さんがしたことは、人の命をものさしにして結果を求める……ここの実験が私達にさせている事と何も違いがないんです!!
そんな人の命を利用するような事を……私は断じて許せません!!!」
次々と渚のした行為を非難する梨沙。
人の命が容易く失われてしまう事に苦しみ、嫌悪を感じる想いが言葉となって放たれていく。
その力強い言葉に、対面の河原が驚いたような反応を示す。
「……!!」
渚は少し放心したような表情を見せた後に、目を閉じる。
「まさか……そんな所から反感を買うとは思ってなかったなぁ……」
「渚さんもここに居た事で、おかしくなってしまう気持ちは私も分かってるつもりです…。でも、だからこそ人の命を蔑ろにするべきじゃないんです。
危険な人をそのままにしておけなんて事は、私も言えません。
放っておけば、危険な人達は私達に襲い掛かって来るんです。
殺されそうになって……安全の為に仕方なく……ここで人を殺める事の全てを咎めるつもりもありませんし、そんな資格は私も持っていません。
でも、人の命を利用するような事…これだけは許せないんです……」
梨沙が繋いだ言葉を前に渚は口を閉ざす。
息を吸い込み、心を落ち着けた梨沙が、再び口を開く。
今度は、糾弾するようなものではない。
その言葉は、ゆっくりと優しく。まるで、傍に寄り添うかのように、柔らかな笑みと共に伝えられる。
「渚さんが、穂香ちゃんを助けてくれようとしてたように……あなたも本当はこんなことしたくない人のはずなんです。ここから出た時に、ここでしてしまった事が、きっと渚さん自身を苦しめる事にもなってしまいます……。
だから、こんな実験に染まりすぎないで欲しいんです。
外に出られた時に、もう一度幸せに歩んで行けるように……!」
梨沙の視線の先で目と口を閉じたままの渚。
その閉じられた口が次に開かれた時……
梨沙の背筋に寒気が走った。
「随分と理解したような口を聞くね梨沙君。
ボクの気持ちが分かる…?幸せに歩んで行けるように…?」
彼女はそう喋りながら、梨沙を視界に捉える。
その目は、酷く冷たい……。
人が抱える心の温かさの様な物、それらの全てが捨て去られ、欠片も残っていないかのような……。
そんな人間味を感じられない目が、梨沙の事を人間でない何かを見る様に見つめ返して来ていた。
「……ま!
君もボクらと同じ境地にまで達すれば、少しは近づけるかもしれないし、今ここで言い争いをする意味はないだろうね!」
そんな言葉を口にした渚の表情は、少し前の飄々とした笑顔に戻っていた。
まるで、テレビのチャンネルが切り替わる様に表情が変わった渚を前に、梨沙は再び言い知れぬ恐怖を感じ取ってしまう。
「渚……さん……」
「さて…!
次は君たちに協力を申し出た理由を話そうか。この理由の中に、さっきの梨沙君の考え方に対するボクなりの回答も含まれてると思うよ」
両腕を広げた渚のコートが小さく揺れる。
「一番の理由は大体わかると思うけど、強い人を身内に引き込んでおきたいからって事になるね。
その為に、貫名君を使って梨沙君の実力を計ったわけだし?」
「重要なのは、あんたが計画したその内容でしょ。
梨沙さんをデュエルに巻き込み、信頼を失うリスクを負ってまで、計画した事ってなんだったんだ」
白神は渚が喋るであろう本質に言及する。
口角を緩めた渚は、遂にその計画について触れ始めた。
「ボクが計画し、目指している事は、この実験における危険な人間の掃討。
この実験内で他人に危害を加える連中を駆除しきることにある」
「く…じょ……!?」
到底、人間相手に使われるはずのない単語を耳にした梨沙は、耐えきれず声を漏らす。
それと同じように驚いたアリスが、渚へ疑問を投げかけた。
「駆除って……何を言ってるの渚ちゃん…」
その疑問に答える渚の口角は緩み、変わらず飄々としたままであったが、目だけは鋭く尖りを見せ始める。
「君達も奴らがどういう連中なのかは大よそ理解しているだろう?
自己中心的で、常識だとか倫理観だとか、そんなもののすべてが欠落している。
ただ己の欲を満たすために、他の人間を食い物にしている最低最悪の利己主義者共だ……。
こんなのはもう人間とは呼べない。
ただの害獣だよ」
「何言ってるんですか渚さん…!!?」
渚が言葉を発するほどに、梨沙の中で高まっていった感情が遂に爆発した。
流れる冷や汗と共に、彼女の歪んだ思想を咎める。
「人の事を……害獣って……どうしちゃったんですか渚さん!?」
「落ち着きなよ梨沙君。
深呼吸してもう一度よーく考えてみて欲しい。
君がここで出会ったやつの中にも居たはずだ……話が通じない人間が」
「……だから…って……」
梨沙が思い返すまでもなく、この施設で常に感じる感覚。
会話が成立しないという感覚は、梨沙がここに来て初めて味わった経験なのだ。
情緒が不安定になって支離滅裂になった訳でもなく、至って自然体の彼らはさも当然であるかのように非常識を語っていた。
「あれらはもう別の生き物なんだよ。
人を殺すべきでない、死にたくない、外に出たいなんて、こんな次元に彼らは存在していないのさ。
さっきの貫名君にしたってそう。自分の価値を高める為には他者が被害を被ろうが関係ない。挙句には、その価値が高められるなら自分の命すらにも微塵も興味を示さない始末」
「………」
渚の語る貫名という人間の価値観。
当然、梨沙がそれらを理解することなど出来るはずもなく、実際貫名にデュエルを挑まれた際も、自分自身が彼を会話が成立しない人間と評していたのだ。
争いを終結させることに繋がった彼のデュエルディスクを放棄した行動も、殺意を向けられた状況下で容易く出来る行動などではないはずである。
「……その点は同意せざるを得ないわね…。
危険な奴は…ほんとに話が通じないから……」
何かから逃げる様に視線を下に向けたアリスが、自身の左肩を強く握りながら渚の言葉へと同意を示した。
一息ついた渚が、口を閉ざしてしまった梨沙をフォローする様に再び声をかける。
「梨沙君が怒っているのも…無理のない事だとは思ってる。
ボクの言っている事こそ、倫理から外れた事だろうからね…。
だが、檻に入れておけない獣をそのままにして殺されるのは誰になる?
ボクみたいな大人が自己判断で勝手に死ぬならともかくさ……穂香君のような子供でも奴らからしてみれば関係ないんだ」
梨沙は咄嗟に振り返り穂香を見遣る。
緊張しているのか、表情が強張っている彼女も少し前には、梨沙の父親に陥れられ、命の危機に瀕していたのだ。
「そうです…ね……。
おかしくなってしまった人からしたら、相手が誰かなんて関係ないですから……」
渚の言葉に一度は同意を示した梨沙。
だが、すぐに強いまなざしで渚を見遣った梨沙が言葉を放つ。
「でも…!
そんな人達とも分かり合える可能性はあるはずなんです!!」
父親に自らの想いを訴え続け、和解まで漕ぎつけた事実。
それが、彼女が力強く言葉を発する動力源となっていた。
しかし、その甘さはすぐに咎められてしまう。
「無理だよ梨沙さん。
キミが考えてるその可能性って、きっとお父さんの事だろ?
それは、梨沙さんがあの人の娘だから何とかなっただけって分かってるでしょ。
身内でさえあれだけ拒絶してたのに、赤の他人があの人の心を開けると本気で思ってる訳じゃないよね?」
厳しい口調の白神がそう言い切る。
それを受けた梨沙は、奥歯を噛みしめながらも答えを示す。
「……確かに、お父さんの事も考えていました…。私が言っている事が甘い事も、ここでは危険な考え方だってことも分かってるつもりなんです……。
でも、危険だから殺す、話が出来ないから殺す…。
挙句には獣扱いして殺してしまおうなんて……ただの虐殺です……。
無茶苦茶ですよ……」
フロア内の空気がピリピリとひりつく。
「理解してもらえないか。
梨沙君含め、君達全員が危ない目に合ってきたはずだ」
「渚さんが言ってる危ない人を何とかしないといけないっていうのは必要だとは思います。
極論すぎますけど、殺してしまうって考え方も…全く理解できない訳でもないんです……。
でも、話し合いが出来ないとしても…危険な人を殺して回るなんて方法以外にも何かないかって………」
頭を抱えながら、ゆっくりと言葉を繋いだ梨沙。
容易に人の尊厳と命が奪われるこの環境下で、どうにか他の方法がないかと、葛藤の中で藻掻きながら、他の可能性へと言及していく。
「例えば……危険な人達を殺す必要まではないはずです。
要するに、ここでデュエルが出来なくなればその危険が無くなるんですから」
「そもそもデュエルさせなくさせる方法があるのかという話は置いておいたとしてもだ……。
頭の狂った連中が、デュエルが出来なくなっただけで諦めるとでも?
直接的な暴力行為は禁止されているが、何かしらデュエルする為に、ボクらの命を狙って来るその思想自体を変える事は出来ないだろう。結局は問題を先送りにすることにしかなっていない。
危険な奴を排除する事でしか、この実験に平穏が訪れることはない」
首を横に振りながら、梨沙の提案を跳ね除けた渚。
二人のやり取りが行き詰まっていき、その空気を換えるかのように白神が渚へ問いを投げた。
「せっかくクラスⅢになったってのに、あんたはエスケープするつもりはないのか?
そもそもこんな所から出ていけば、リスクを冒して危険な連中を殺して回るような事しなくて済むだろ。僕としては、外に出るのを後回しにしてまで、その計画を実行する意義を聞いておきたいな」
「そ、そうです。
まずは脱出の方法を考えるべきですよ…!」
唯一この実験からの脱出手段として、実験側より提示されているエスケープ。
クラスⅢを2人殺害するか4人とのデュエルに勝利する事、そして違約金である100万DPを支払う事を達成する事で、ここから外へと出られる手段であり、白神が目指している事でもあった。
希望的な話し合いの予感に気力を少し取り戻した梨沙も、白神の脱出への問いに追従を示す。
そんな梨沙を裏切るように渚は、緩やかな笑みを零しながら自らの選択を語る。
「ボクも、当初はエスケープするつもりだったさ。
梨沙君の外に出ようとする姿を見て……捨てたはずの外の世界への未練がより戻ってきてしまったんだよ」
「なら……なんであなたはさっき言った計画を実行しようと…?
その計画は、脱出することと真逆を行ってるんじゃないの?」
当初は目指していたはずの、エスケープ。
アリスが渚へその目的を遂行しない理由を問うた。
「その訳こそが、君達をここへ呼んだ最大の理由に全て詰まっている。
この実験の根幹……実験の真実についての話だ」
「実験の…真実……」
「随分と勿体ぶるじゃん……。
そんなに大きなことなのか?」
渚が口にする実験の真実。
通話では語らず、わざわざ梨沙達を呼び寄せたこと…。
つまり、それほどに重要な何かである事が秘められている事を感じ取った梨沙達に、緊張が走る。
「あぁ……。
ボクが外に出る事を諦めてここで一生を過ごす事を決意した理由だ。
そして、ボクがこれを話す事で、君達もこれに同調してくれると信じてもいる」
「な……!?」
渚は悲し気な表情と共に、明確に言い切った。
ここで一生を過ごす決意をしたと、そう口にしたのだ。
「そ、外に出ようとしてた渚さんが……外に出る事を諦めた……??
な、なんで…なんでですか!いったい何が分かったんですか!!!」
渚の言い回しに梨沙の中での不安が膨張し、動揺すると共に唇が震える。
実験の真実と聞いて一番に浮かんでいたのは、外に出る方法が見つかったとか、外に出る手掛かりが出て来たとか。そんな希望的な何かとばかり思っていたのだ。
その反動も合わさって、彼女の負の感情がゆっくりとせり上がっていく。
「では話そう……。
完全に外界から隔絶されたこの実験施設。
果たして、ここはどこなのか?そんな”場所”について分かったことがある。
端的に言えば、ここは現実世界ではない…!」
「現実世界じゃ…ない……?」
渚の話始めた真実。
それは、梨沙達の居る実験施設が現実の世界ではないと告げた。
理解の及ばぬままに、梨沙以外の人間も疑問を口にし始める。
「どういうことなの渚ちゃん。
現実じゃないって」
「電脳世界……仮想現実。
多種多様な呼び名はあれど、要するにはコンピューター上かネットワーク上に構成された…プログラムの世界とでも言えばいいのかな?
ボクらはそんな電子の海の中に存在しているんだ」
「電脳……世界……?」
「VRゲームとかをみんなは遊んだ事あるかな?ほら、専用のゴーグルをかけるあれだよ。
ここは、ゲームの中に自分の意識を送り込んでいるような、そんなものと思ってくれれば分かりやすいのかな」
ゲームのような空間。そんな非現実の空間に自分達が存在していると渚は口にした。
不意に梨沙は自分自身の右の掌を広げて見つめた。
見間違う事などない自分の右手だ。力を込めれば、自分の思い通りの指が思った通りに動く。
遠隔で機械を操作している感覚やゲームのキャラクターを動かしているようなそんなものでもない。
指紋や手相、細かなしわや皮膚の質感の全て……目に映る全ての情報が電脳世界を否定する材料しか示さない。
「よく…分かんないけど、ほのかたちゲームの人なの…?」
穂香が目をぱちぱちさせながらそう口にした。
「安心してくれていい。
ボク達が電脳世界に存在しているからと言っても、元々は外の世界で人間であったことは間違いないんだ。
ボクらは間違いなく人間だよ」
「そんなことを言われたって……すぐに信じられないわよ渚ちゃん…。
ここで受けた事のある傷やダメージだって本物なのよ。今、感じ取ってる感触の全ても偽物とは思えない……。
もし、渚ちゃんの言っている事が本当の事だとして、あなたはどうやってそんな事に気が付くことが出来たの……?」
アリスも梨沙と同じように自らの手や腕を見ながら、渚へと問いかける。
「この事を知るに至ったのは彼のお陰だね」
そう言いながら渚は振り返り、彼女の背後にいる白衣の男の方へと手を差し示す。
「確か…河原さんって言われてましたよね…?」
「そう。
話を聞くに、どうやら彼はこの実験の観測者側の一人だったらしくてね。
ここがどんな場所かを教えてもらったのさ」
「観測者だと……!?」
睨むような目つきと共に声をあげた白神。
それに続くようにアリスや梨沙も、それが意味する事を理解していく。
「観測者側って……私たちがこうやって傷つけあうのを見てた連中ってこと…?」
「じゃぁ…あなたがこんな実験を……!?」
梨沙達が河原へと向ける視線は、とても敵対的だ。
この実験の狂気に触れて来たからこそ、その実験を運営していたであろう人間には敵意がむき出しになってしまった。
敵意を含んだ視線を受けた河原は、慌てて弁明を始める。
「ち、違う!
確かに、分野は違えど観測している者達とは同業ではあった……だが、私はこんな実験を実際に観測できる立場にはなかったんだ!
む、むしろ、こんな人道に反する実験が行われていると知って止めるべく行動していたつもりで……」
河原の弁明によって、虚を突かれた梨沙は戸惑いながらも彼の話の続きを促す。
「止めようと、してくれてたんですか……?」
「だとしたら話がおかしくなるわよ!
止める為に動いていたあなたが、なんでここに居るのよ…?」
この実験を止めるべく、外で行動していたと口にした河原だが、実際には被験者であるはずの梨沙達の目の前に同じように存在している。
「つまり、実験を中止させるのは失敗に終わって彼もこの実験送りにされたってことだね」
ははと乾いた笑いと共にそう言いのけた渚。
言及された河原はバツが悪そうに縮こまっている。
「失敗……。
でも、この実験については私達よりも詳しいはずですよね…!?」
「おじいちゃん…ここの人と知り合いだったの?
何か外に出る方法ないの?」
梨沙と穂香が縮こまっている河原へと、何か知らないかと問いかける。
一度歯を噛みしめた河原は、少しずつ彼女の質問に答え始めた。
「……基本的にこの実験は、特別なネットワークを介していて、外部のネットワークとは完全に隔離された仮想空間だ……。
仮想空間内への出入りは、すべて外部からの操作でしか行えない。
一応……内部よりパスワードを入力する事で外へ出るという方法もなくはないが……」
電脳世界である情報をもたらした河原へと、そこから脱出する術を探る梨沙。
「ほ、ほんとですか!?
どうやったらいいんですか!!」
「その方法も、あくまでも観測者が不測の事態に対する緊急の手段だ。
内部からパスワードを入力できれば、ログアウトという形で外の世界には戻れる…。
しかし、そのパスワードを入力する場所は巧妙に隠されていて、私にも分からないんだ……」
希望を見出すべく、梨沙やアリスが河原へと次々と質問を投げかける。
「こっちから外に出る為には、パスワードと、それを入力する場所を見つける必要がある……ってことよね?」
「一応、パスワードを記憶してはいるが……」
「え?
パスワードは分かってるんですか?」
必要なはずの2つの重要事項。河原はその内の1つを手にしていると口にし始めた。不意を突かれると共に、何とかなるのではないかと新たな希望も見出す。
しかし、それに対して前向きな明るい答えが返ってくることはない。
「当然…私がパスワードを知っていることも観測者達は知っている。
それでも、観測者達が私をここへ送り込んだのは…8日毎のパスワードの自動更新と、その入力場所が絶対に素人では見つけられないからだ……」
「これだけでもさ。
なかなかに絶望的に解決策が見えない事態だよね~」
やれやれと言わんばかりに、首を振りながらお手上げのポーズを示す渚。
しかし、渚とは反対に梨沙はしばしの間思考を巡らせる。その果てに、かすかな希望を見出していく。
「8日毎のパスワードの更新ってことは……。
もしかしてこの実験をしている人達も、すぐにはパスワードを変更できないってことなんじゃないですか…?」
「そう…だが……。
プログラムの基礎部分は、あらゆる介入が出来ない完全なセキュリティを構築している…。
だから、観測者側から即座にパスワードを変えることは出来ないはずだ」
「…8日毎って言ってたけど、あと何日残ってるかは分からないの?」
「残り5日だよ……」
意気消沈しながら、残された日数を告げた河原。
その数字が口にされた事で、梨沙の表情に活気が滲み出てくる。
「まだ5日残ってるんですね。
だったら、河原さんのパスワードを入力できる場所を5日以内に見つけることが出来れば、ここから出られるって事ですよね!!!」
それは、いったいどれ程に小さな可能性だろうか。
梨沙はそういった分野の知識がある訳でもない…。
何かものを探すのが得意な訳でもない…。
だが、時間制限こそあれど、今までは何も手立てがない中で、明確な脱出の手段が提示された……。
既に深い絶望に一度染まった事のある梨沙は、もう前に進むことを決めている。
正気を保つ事よりもはるかに楽に堕ちることのできる深淵……。
自分はその闇から手を差し伸ばされながらも、それを掴み自力で這い上がったのだ。
ならば……見つけた希望を諦めるなんて事は絶対にしない。
「探しましょう……。
その場所を!」
力強く言い切る梨沙。
その力強さと可能性の小ささに河原は驚きながらも、その意思を確かめるべく梨沙へと問うた。
「だ、だが…厳重にロックされた入力機能がそう簡単に見つかるとは思えん…。
たとえ、場所を突き止めてもその画面を開く操作方法も何も分からないんだぞ…。
そ、そんなものに希望を見出すと……君はそう言うのか…?」
「もちろんですよ!
今までは可能性が見えなかったんです。見えてる可能性を追わなくてどうするんですか!
渚さんも!可能性が低いからって諦めないでください!
せめて、この5日間の間にパスワードを入力できる場所…探してみましょうよ!」
「梨沙ちゃん…」
「お化けのお姉ちゃん…」
前向きさを突き詰める梨沙。
この実験の事情を把握している人間さえも諦めたその可能性を…梨沙は希望と認識しているのだ…。
「そうね…そうよね梨沙ちゃん!
諦めちゃダメよね!」
「穂香もそれ探すの手伝うよ。
そしたら、みんな痛い思いしなくていいもんね」
アリスと穂香の表情にも、活気が戻ってくる。
だが、渚を含めた対面の4人はその希望に追従しない。
「まぁ確かに、0ではないだろうね。
その限りなく0に近い可能性……。
それを見つけ出し、パスワードを5日以内に入力できれば…この世界から外に出られるだろう……。
この男は……!」
渚は白衣の襟元を掴み取り、河原を自分の元へと引き寄せ顔を梨沙達へと突きつけた。
冷や汗を流す河原の顔に宿るのは、後悔や罪悪感の感情。
今すぐにでもその場を逃げ出したいような……そんな逃避の心が容易に想像ができるものである。
「河原さんは……って…?」
渚の発言へ質問で返す梨沙のすぐ後に、一早く意図を理解した白神が早口でその真実を確かめ始める。
「どういうことだ?
その男は外に出られるけど、僕らは外に出られないとでも言うつもりか?」
「簡単に言うとそうなるね」
外へ出る方法について話していたはずの河原。
しかし、その手段で梨沙達は外に出られないと口にする渚。
「なん、なんでよ渚ちゃん。
さっきの話なら、ここにいる人達みんながゲームの中に居るみたいなことなんでしょ?だったら、その人が出れるなら私達も出れるはずじゃない。
パスワードを知ってる人だけ外に出れるとかそういう事なの…?」
「いや、河原さんの話を聞くに、入力画面にパスワードさえ入力すれば誰でもログアウト出来るらしいよ。
自分で入力しないといけないから、いっぺんにみんなが外に出るとかはできないみたいだけどね」
「じゃぁ、何が原因で河原さんしか外に出れないってことになるんですか…!?」
ログアウトの手段…それが河原にしか適用されない方法だと口にする渚は、掴み取っていた河原から手を離すと右手の人差し指を突き立てた。
「ボクが河原さんから聞いて、知り得た真実はもう1つあるんだ」
「もう…1つ……?」
1つ目は、この実験がどういう”場所”だったのか。
では、もう1つは……?
「2つ目に分かったことは、ボク達はいったいどういう”存在”なのかという事」
「存在……?
どういうこと?何が言いたいのよ」
”存在”についての詳細を欲するアリスへ、渚はこの世界へ人間が来る方法をまず話し始めた。
「意識をデータ化し、この電脳世界へと送り込む。それが、この世界に人間が来る方法。
そんな状態にある河原さんは、外の世界では昏睡状態みたいなんだ。
もし、河原さんがこちらの世界で死 ねば、肉体へと戻る意識のデータが存在しなくなる……つまり、肉体は抜け殻となり、脳死判定をくらうんだってさ」
「さっきから話を逸らすような真似ばかり…。
結局何が言いたいんだよ。
その話なら、僕らの肉体も外の……世界……に…………?」
そう口にしていた白神が、だんだんと唇を震わせ始める。
その読みを察した渚が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そう、ここには無数に人間が送り込まれてきている。
その人間達のすべてが、意識を失った抜け殻だけになっているとしよう……。
そうすると、それらの肉体は外の世界で保護、保管する必要が出てくるとは思わない?
エスケープなんて方法が用意してあるなら、なおさらさ。
条件を満たした人間。つまり意識は外の世界の自分の肉体に戻す必要があるんだからね」
白神と渚の中で、共通した話題。
だが、梨沙達3人はその真実にまだ辿り着けてはいない。
「えっと、ここがデジタルの世界…電脳世界でしたっけ?
電脳世界だから、ここに居る私達は意識だけの状態……。
ということは、ここから外に出たら私達は外で寝てる自分の体で、目が覚めるんじゃないんですか?」
梨沙が状況をまとめたのと共に、白神が表情を強張らせながら渚へと問いを投げた…。
「はいか…いいえで答えてくれ福原さん……。
外の、外の…世界に……ボク達の肉体は残っているのか……?」
その質問を聞いた瞬間、梨沙の背筋へ寒気が走る。
外に、自分たちの肉体が残っているのか……。
白神や渚のように察しが良くなくても、ここでま言われれば梨沙とて理解する。
ここにいる自分達が意識だけの存在であるならば、外の世界には帰るべき肉体が存在していなければいけない。
その所在を白神は渚へと問いただしているのだ…。
そんな事あってはならない。
一瞬で噴き出した焦燥の汗を流し、救いを求める様に梨沙が渚達の方へ視線を向ける。
衰弱したように目線を自分達から外す河原。
感情をあまり感じさせない久能木と近久。
そして、目じりを下げた渚は口角を緩め……
それを口にした。
「答えるなら……はいってことになるね」
ヒリついた空気が弛緩していき、一瞬の静寂がフロア内を満たす。
「はい……?
はいって……あるんだな?
なら……外に僕らの肉体は残ってるって事でいいんだよね?」
予想外な返答を受けた白神が、入念な確認を渚へ行う。
「ああ。
外の世界でボクらは別に死んでいるわけではないよ。
しっかり生きてる」
その言葉を聞いた白神がほっとしたように息を吐く。
それは梨沙も同じだ。
「な…なぁんだ………。
もう、渚さん!そうやってどっちか分からない言い方ばっかして!
いじわるばっかり……!」
ほっとして、胸を撫でおろした。
希望は潰えていなかったことを知り得たのだ。
外に出れば、元の日常に戻れる。
可能性は依然として低くとも、0ではなかったのだ。
この自分の気持ちに、みんなにも共感してほしくて、軽い口調で渚をからかうように話しかけた梨沙。
悪かったねと、悪い冗談であったと改めて前向きな希望的な話を始めたかったのだ。
ほんのりと笑顔を見せた梨沙の目には、全く表情の変わらない…悲し気な笑みを浮かべたままの渚の顔が映されたままだ。
「そう外でボクらは確かに生きているよ……。
でも、ボクらはね……。
外に帰れないんだ。帰る場所がないんだ」
「ど、どういうことですか……。
なんで…なんで渚さん、そんな事言うんですか……」
何故、渚は諦めるのか。
いくら可能性が低いからといえ、示された希望に挑戦することを何故諦めるのだ。
この実験に多少なりとも精通した人間との邂逅。
これこそが、自分達が手にした最大のチャンスではないのか?
何故…諦めてしまうのか……。
そんなものは簡単だ。
そんな希望は全部見せかけでしかない……。
渚は諦めたのではなく、諦めるしかなかった……。
ただ、それだけの事であったのだと……梨沙は理解した。
「ここに居るボクらは、
元の自分の記憶と人格をコピーして生み出された”複製品”。
外の世界では、”オリジナルのボク達が今も変わらない日常を生きている”んだよ」
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24 | Report#61「新たなステージ」 | 190 | 2 | 2024-05-10 | - | |
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27 | Report#62「狂気の残党」 | 196 | 2 | 2024-05-20 | - | |
33 | Report#63「窒息」 | 222 | 2 | 2024-06-15 | - | |
29 | Report#64「護衛」 | 219 | 2 | 2024-07-10 | - | |
38 | Report#65「格付け」 | 192 | 2 | 2024-07-20 | - | |
40 | Report#66「赤い世界」 | 276 | 2 | 2024-08-05 | - | |
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それが本当かはさておき、その説で考えるとお父さんとの話の齟齬にも辻褄は合いますね。
そして相変わらず投降が早い。 (2024-08-27 19:03)
仮想世界、というのはまあわかりますけど、まさかエスケープ先である現実世界に居場所がなくなるとは…!!意識のコピー、複製品ということは文字通り意識ここにある彼女達の意識そのものがなくなってしまうのか、はたまた。どちらにせよ、自分たちの存在に疑念を抱く渚さんの考えも理解できてしまう状況になっちゃいましたね。だからこそ、ここに独立した意識を持つ複製品達が生きて行けるように、危険因子を排除する……倫理には反していますが、これが理に叶ってしまってるんですよね。反倫理の末に作られた世界の中での、同じく倫理に反しながらも最低限の秩序を保つ方法。しかしこれを簡単に飲み込みたくないであろう梨沙さん。というかそれ以前にオリジナルの意識の複製であることを受け入れることができるのか……。
毎度執筆お疲れ様です!次回以降も楽しみにしております! (2024-08-28 10:58)
68話とぼちぼちな量のSSを読んでいただけてうれしい限りです!
これは逆襲せざるを得ない。
コピーとかクローンって、どうあがいても元の存在と比較対象にされるとかいう十字架を無理やり背負わされる戒めの産物すぎるんですよねぇ…。コピーやし好きにしてええやろという人間の醜さが煮詰まった概念に思います。
某映画、古の記憶で見たことはあるんですが改めて見たくなりましたわw
当人はそんな気は全くありませんでしたが、元レッドフロア主の藤永が殺しまわって救ってやるというスタンスも、自分がコピーである事を知らずにこの世界から離脱できたことで幸せだった…なんて可能性も出てくるという異常事態。
コピーの真偽は別にしても、父親と梨沙との会話の祖語はある程度埋まるであろう状況。梨沙はなおさら、否定することが難しくなっていきそうです。
デュエルシーンになると、構成と執筆の2段階にどうしても別れちゃうので、そろそろペースが落ちる頃合い…(予言。 (2024-08-30 21:09)
遂に触れられた根幹。
割と引っ張る形になってはしまいましたが、仮想世界であることに加えての梨沙達の存在がコピーであるという事実を伝えることが出来ました。
外に帰るべき肉体が存在しない以上、コピーされたであろう彼女達が外の世界に出ていく事はかなり絶望的な状態。これを真実と受け取った渚は完全に外への希望を捨てきって倫理に反した計画を立てていますね。それか、無理やり切り捨てようとしているのか…。
倫理に反しているからこそ、当然起こり得る反発ですが、その計画に至るのも分からなくはないという状況を描写出来て、喜ばしい感じになっております。元々が無法地帯な実験なので、よく分からずここへ送り込まれ、他者に危害を加えない人達からすれば、長期的に殺し合いから救い出してくれるような計画であるは間違いないこともポイント。
梨沙としても危険の排除という観点に必要性は感じながらも、いかんせん手法が蛮族的で、まだここで過ごした時間が短いのも合わさり、かなり抵抗感が出ていますね。そして、仰るようにそもそもそんな事よりコピーってなに!?って状況ですので、それを受け入れられるかの話から始めなければなりません…。
いつも大変励みになっております!引き続き、根幹に触れた彼女たちの動向を観察していただければなと思いまするする。 (2024-08-30 21:09)