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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#36「ノルマ達成目指して」

Report#36「ノルマ達成目指して」 作:ランペル

穂香のデュエルディスクへと表示された警告文。
それには、グリーンフロアでのデュエルのノルマと残り時間が表示されていた。


「実験ノルマって…それに後3時間しか…」

「さっき梨沙ちゃんから聞いた時にまさかとは思ってたけど…」

アリスさんは何かを知っているようで、表情を暗くし押し黙る。

「なんだい?何かあったのかい?」

通話越しに、渚さんがこちらの異変を察知したようで聞いてくる。

「鳥のお姉ちゃんは知ってる?ほのかの画面が変わらなくなってるの」

「変わらない?」

「警告文が出てるんです。実験ノルマが達成されてなくて、グリーンフロアでデュエルしろと…」

「実験ノルマ?字面から多少想像は出来るけど…」

余り聞き覚えがなさそうで、渚さんが疑問を混ぜ込みながらこちらへと聞き返してくる。
それに対して、アリスさんがゆっくりと口を開いた。

「実験ノルマ…主にクラスⅠの人に課せられる目的…というよりは命令ね…」

「命令…ですか?」

「あーそういうことか…。定期的にクラスⅢのフロアへ送られるクラスⅠ被験者にはそう言った通達がされるんだね。
ノルマとして、クラスⅢとデュエルするように言われてる訳だ」

「そ、それじゃぁ…穂香ちゃんはグリーンフロアに行かないといけないんですか…!?そんなの危険すぎます!」

つい先ほど、グリーンフロアが《禁足地》と呼ばれフロアへ足を踏み入れた人が外に出てきたことがないという話を聞いたばかりだ。
そんな場所と分かって、穂香ちゃんを向かわせることなど出来るはずがない。

「…アリス君は何か知っていそうだね…。
クラスⅡでいろいろ知っていることはあるが、実験ノルマという単語は初めて聞いた」

「私もクラスⅠの人に出されているの見たことがあるだけよ。何人か、ここに来たクラスⅠの人と話せた時があったから」

「ふむ…梨沙君の言うようにノルマを達成しようとすれば穂香君をグリーンフロアへ送る以外なくなってしまう。
何か対策はないものか…」

穂香ちゃんが不安そうに私とアリスさんの表情を伺っている。

「ほのか…やっぱり緑の所行かないとダメ…?」

「っ…この実験ノルマって。無視するとどうなるんですか?」

可能ならば無視してしまいたいノルマの内容。
無視する事で生じるデメリットによっては、無視する事も選択できるはず。

「言うなら、実験を運営している奴らからの命令だ。背くと何かしらペナルティは発生しそうだよね」

「ええ…。共通かは分からないけど、実験ノルマが達成されないとデュエリストの権限が剥奪されちゃうと思うわ…」

「権限の…剥奪…?」

通話越しに渚さんが狼狽える。

「待て待て…それは永久という意味かい?
だとしたら無視する選択肢はなくなる…」

「ど、どういうことですか?デュエルが出来なくなるってことですか?」

デュエルする権限がなくなるという意味だろうか。
穂香ちゃんがもしデュエルが出来なくなるだけなら、自分が穂香ちゃんを守る事で何とかならないかと…その意味を聞き出す。

「簡単に言うとそう言う事になるわね」

「だったら、私が穂香ちゃんを守れば…」

「だが話はそう単純ではないんだ」

「よく…分かりません。デュエルが出来なくなったらどうなるんですか…?」

通話越しに渚さんが一呼吸置き、説明を始めてくれた。

「まず、前提としてこの実験においてデュエルを介さない直接の暴力行為は禁止されている。あくまで相手を傷つけるのはデュエルの結果によるものでなくてはならない。
例え《盤外召喚》でデュエル外でモンスターを呼びだした場合も同様だ。モンスターへ他の人を襲うように命令を出しても、その命令は通らない。
だけど…この条件が適用されるのはデュエリストに限定されている」

「デュエリストに限定…?」

「要するにね。
デュエルが出来ない人に対しては暴力なり、デュエル以外でモンスターを使って攻撃をすることが許されているの」

「な…!?」

あえてデュエルと言う媒介を実験に用いているぐらいだ。デュエル以外での攻撃禁止のルールは始めて聞いたが納得できる。
しかし、デュエルが出来ない場合は何をしても良いという事になる。モンスターに他の人を襲わせることさえ…。

「ここでさっきの実験ノルマのペナルティだ。アリス君の話によると実験ノルマを無視すると、デュエリストの権限の剥奪。
つまり、このノルマを無視すると穂香君はデュエルが出来なくなる。それは誰からも物理的に攻撃していい対象になってしまうということだ」

「そんな…でもデュエルしないとボーナスはもらえないはずですよね?
デュエル出来ない人を襲って何になるんですか!?」

人を攻撃する事を目的にしている人は別にしても、直接人を襲い殺す事に何のメリットがあるのか。デュエルをしないことでボーナスが得られないなら、お金を得る事も出来ないのに。

「デュエルボーナスの1つに、《盤外キル》というものがある。本来デュエルの途中でモンスターの攻撃等に肉体が耐えられず、ライフが0になる前に死んでしまった場合に得られるボーナスなんだが…」

挙げられたボーナスの内容。否定したい気持ちで溢れるが、嫌な予感というのは往々にして当たってしまうものだ。

「まさか…それが貰えるってことですか…?」

「あぁ。貰えるのは2万DP。
デュエルを介さないから傷を負うリスクなく、クラスⅡ以下であれば2日間はシェルターに引きこもれる額だ」

「2万……」

「ここでのデュエルはナイフと同じだ。人を危険に晒すが、全員に配布されているとなると持っていない奴は当然狙われる」

人を襲う手段であると同時に自分を守るための手段。

「命を…デュエルを…なんだと思って…」

悔しさから奥歯を噛み締める。人の命を蔑ろにするこの実験、そして大好きなデュエルを殺しの手段としてしか見ていないことに対する嫌悪が募るばかりだ。
実験から暗に示された穂香ちゃんの死。タイムリミットが提示され、考える猶予はあまり残されていない…。

「まさかクラスⅠにそんなノルマが課せられてるとはね…。他の違反行為をしてもせいぜい数時間の権限停止だ。
それでさえ命取りになるんだ。ここでデュエルが出来ないのは、死に等しい…」

ノルマ未達成のペナルティは絶望的な回答だ。このままでは穂香ちゃんをグリーンフロアへと向かわせる以外の選択肢がなくなる。
何とか他の方法がないか思いあぐねる。

「でも…なんとか…デュエル出来なくても私がずっと傍に居れば…」

「神出鬼没のモンスターからどうやって穂香君を守るんだい?どれだけ低ステータスのモンスターだとしても、ボクら人間からしたら文字通りモンスターでしかない。
ただでさえ、穂香君は小さい。モンスターを使わずの実力行使でさえ危ういんだ。それに加えてどこにでも出現させられるモンスター。魔法、罠の補助なども合わせたら無謀と言わざるを得ない」

ないものを求める…希望的観測に過ぎない私の言葉に、渚さんが少し言葉を強くして言い放った。

「………」

「……私の、知ってる子はね。ここが嫌になってデュエルディスクを壊してフロアの外に行っちゃったの。
追いかけたんだけど、見つけた時には…頭を食べられた後だったわ…」

重苦しい空気が流れる。
穂香ちゃんを守ると決めた以上、この子を危険な目に合わせる訳にはいかない。しかし、グリーンフロアへと向かわない限り一層危険にさらしてしまうことになる。
震える右手で頭を抱える。

「(どうしたら…どうすれば穂香ちゃんを守れる……?
一体どうやったら………)」

重苦しい空気に耐えられなくなったのか、穂香ちゃんが口を開いた。

「じゃぁ、ほのか緑の所行くよ」

「ダメだよ…!?
そんなことしたら……!」

彼女を危険から遠ざける方法ばかり考えていて、反射的に否定を口にしてしまう。

「でも、お姉ちゃんたち困ってるよ?
ほのかが行った方がいいんじゃない?」

「違うの…何か他の方法がないかなって……」

表情の晴れない二人の顔を見て、それに反するように穂香ちゃんは得意げな顔で強く言葉を口にする。

「ほのかがデュエルで負けなければお姉ちゃん達心配しなくて済むんだよね。
ほのかね。お化けのお姉ちゃんにデュエルのやり方教えてもらったから大丈夫だよ!」

「そっか、梨沙ちゃんに教えてもらったのね」

健気な少女のやる気に満ちた顔に誘発されたアリスさんが、優し気な表情で穂香ちゃんを見つめる。

「うん、ほのかの持ってるデッキの使い方教えてもらったもん」

デュエルディスクのデッキを持って、自分の方へと掲げてくれる穂香ちゃん。
それは魔導書のデッキ。いろいろなカードを見て、ある程度の動き方はレクチャーしたつもりだ。だけど、あくまで遊戯王に触れていた自分が知らないテーマについて憶測を交えながら伝えたに過ぎない。
彼女の命を危険に晒していい程信頼の足るものではない。

「でも…私も詳しく知らないから…教えたやり方で合ってるか分からないんだよ…?」

「お姉ちゃんデュエル上手じゃん。そのお姉ちゃんが教えてくれたんだから大丈夫だよ。
ほのかに任せて」

自分達を困らせまいと懸命に考えた彼女の選択。その選択を尊重し、応援してあげたい気持ちが沸きあがる。
だが、ここはデュエルで死ぬかもしれない場所だ。まして初心者。しかも相手は未知の強敵。
どれだけ考えても穂香ちゃんが無事に生き残れる可能性の方が低い。

「………」

「…どちらにしろ、穂香君がグリーンフロアへと行かない限りペナルティが課せられる。
他に術がない以上。彼女のビギナーズラックに期待する他ないんじゃないかな」

通話越しに渚さんが静かに言い切る。

「びぎなーずらっく?」

「初心者さんが、運よくすごい結果を残す事よ」

「ほのかビギナーズラック頑張るよ!」

ピンチに陥っているというのに、穂香ちゃんはどこか楽しそうにしている風にも見える。
危機をあまり認識していないのか。それとも自分の行動で私達を安心させられるからか。
はたまた初めて遊ぶゲームに心を躍らせているのか?

思惑は定かではない。けど、この子がそれを望み。
それ以外に選択肢が見つからないなら…。

それを応援する以外に手は残されていなかった。

「分かった…穂香ちゃん。一緒にグリーンフロアにデュエルしに行こう」

「え…お姉ちゃんは今休まないとだよ」

「ついていきたい気持ちは分かるけど…梨沙ちゃんの火傷もかなりのものよ…。
休まないと治りが遅れちゃうわ…」

自分の体が思うように動かせないことは十分承知だ。
だけど、だからといって、ここで寝ていていい理由になるはずがない。

「いいえ、一緒に行きます。
言うなら私は穂香ちゃんのデュエルの師匠ですからね。
穂香ちゃんが頑張ってくれるのに…私だけ休んでるなんて考えられません…!」

「お姉ちゃん…」

ベッドから体を降ろそうと足を動かす。

「ぐっ……」

皮膚が包帯越しに擦れるだけで激痛が走る。
薬が効いているからか、動かさなければ痛みはそれほどでもないが、やはり体を動かすとなるとかなりの痛みを伴ってしまう。

「その体じゃ無理よ…。歩くのだってまともに出来るか分からないのよ…?
私が一緒に行くから…梨沙ちゃんは…

「這ってでも…行きます…。
ここで一緒に行かないで…穂香ちゃんに何かあったら…私は一生後悔する事が増えてしまうから……」

「梨沙ちゃん……」

「うっ…!?…ぐぅ」

何とか体を身動きさせる。しかし、少し動かすだけで火傷跡がひどく痛む…。
通話越しに黙っていた渚さんが自分のうめき声に反応する。

「聞くに…無傷と言う訳ではなかったみたいだね…」

「……火傷が、ひどいのよ…。動かすだけで痛いはずなのに…」

痛みと戦い何とか足をベットから降ろし、端へと座る事が出来た。

「お姉ちゃん…痛いのに無理しないで…」

「大丈夫…穂香ちゃんが頑張るんだから…私も…」

「…時に梨沙君。《盤外召喚》という機能を購入していたりするかな?」

立ち上がろうと足に力を入れたタイミングで渚さんから質問が飛んできた。

「《盤外召喚》ですか…?確かモンスターをデュエルの時以外にも召喚できるやつですよね。
一応、持ってますけど」

「なら、モンスターに連れて行ってもらうのはどうかな?」

「モンスターに…?」

「どういうこと渚ちゃん?」

いまいち頭にすっと入ってこず、意味を聞き返す。

「ここのモンスターはリアルソリッドビジョンによって実体化している。質量を持ったソリッドビジョンになら実際に触れる事が出来る。
だから、モンスターに乗せてもらうなりして移動が出来るんだ」

「モンスターに乗って…」

「移動…」

渚さんの話を聞いた3人の頭にいろいろなモンスターが自分を乗せて運んでいる楽し気な光景が浮かび上がる。

「楽しそう!」

穂香ちゃんがばっと両手を上に掲げる。

「ちょ、ちょっと気になりますね…」

好きなモンスターに乗って、移動が出来る…。
それはどうにも羨ましいことで興味が惹かれた。

「今の梨沙君の状態を考えると、浮遊してるモンスターに運んでもらえれば振動も少なくて傷に障らないだろう。
君のデッキなら特に問題なく条件を満たすモンスターがいるんじゃないかな?」

つられるようにデュエルディスクのデッキにへと目が向く。

「浮かんでるモンスター…スペクター…とかかな」

ゆっくりとデッキへと手を伸ばし、《ゴーストリック・スペクター》を探し出しデュエルディスクの上へと置く。
ディスクの上へと召喚すると、白い布を被ったお化けが舌をぺろりと覗かせながらふわりと目の前へと現れた。

「お化けさん」

「デュエルでも使ってたカードよね。大きさ的に…乗れなくはなさそうだけど…」

「お願いしてみます。
スペクター。今から行きたい所があるんだけど、そこまで私を乗せていってくれる?」

お願いをすると布に隠れた右手を上へとあげてくれ、地面へとぺたりと着地した。

「乗っても大丈夫ってことみたいね」

「いいの?スペクターありがとう!
これなら、穂香ちゃんと一緒にグリーンフロアまで行けそうです。
渚さんありがとうございます!」

「礼には及ばない。ボクは一緒に行けるわけではないからね」

「では、今からグリーンフロアに行ってこようと思います…」

「あぁ、みんな気をつけて。
無事帰って来れたらどんなだったかを、また教えてくれると嬉しいよ」

「渚ちゃんありがとう!」

「鳥のお姉ちゃんありがとー」

「検討を祈っている。
じゃぁ…」

デュエルディスクの通話が切れたのを確認する。
今からグリーンフロアへと向かわなければならない。不安な事ばかりだが、一度穂香ちゃんを信じると言ったのだ。
自分が出来る事は、彼女を信じグリーンフロアまで無事に送り届けないといけない。
決意を新たにしていると、アリスさんから視線を感じる。

「どうしました?」

「梨沙ちゃん、行く前に服だけ着替えていきましょ?」

「え、服ですか?」

自分の服へと目を向けると、ブラックフロアで買ったシャツとスカートのあちこちが焼け焦げているのが分かる。

「あー…ちょっと焦げちゃってますけど、大丈夫ですよ?」

「ううん、梨沙ちゃんに似合いそうなのがあるからそれに着替えてから行きましょう。
それに、傷跡は出来るだけ隠しておいた方が弱ってる風に見られないと思うわ」

露出していた両腕両足の部分が今包帯まみれな現状、傷だらけなのが丸分かりだ。
アリスさんの言うように、ここでは弱っていると見られない方がいいだろう。

「そう…ですね。大事かもしれません」

「今はあんまりデュエル仕掛けられたくないからね…。
まぁ、気休めだけど私も長袖着とこうと思うわ。じゃぁちょっと待っててね!」

そう言ってアリスさんは奥の方へと服を取りに行った。
足元に座ってるスペクターの周りを穂香ちゃんがぐるぐる回りながら観察している。

「穂香ちゃん乗せてもらう?」

「…!
いいの?」

声の抑揚とはっとしたような表情から明らかにうれしそうな反応だ。

「スペクターが良ければいいよ。私が乗せてもらうのは、着替えてからになると思うから」

「お化けさん乗ってもいい?」

穂香ちゃんが聞くと、スペクターを手を挙げて返事をしてくれる。

「ありがとう!」

スペクターの背中に乗ると、ゆっくりと地面から浮かび上がる。

「わわ、ほんとに浮いてる…」

スペクターはそのまま浮かび、周囲をゆっくりとくるくる巡遊し始める。

「すごーい!」

とても楽し気に過ごしている穂香ちゃんの表情を見るとどこか和まされる。

「落ちないようにね~。
(グリーンフロアでのデュエルは穂香ちゃんがしないといけない。
それまでは、もし誰かにデュエルを挑まれても私が相手をするようにしよう。でもこの傷だと…)」

浮遊感を楽しむ少女を前に、これからの行動について考える。
二人に危険が差し迫った時には率先して守れるように動かないといけない。しかし、この傷で咄嗟に動くことは難しそうなのは否めない。

「(その時はスペクターに助けてもらわないとだね…)」

「梨沙ちゃんおまたせ」

戻って来たアリスさんは水色のニットのジャケットを羽織っており、両腕の包帯が隠れている。

「わぁ…可愛いじゃないですか」

「褒めても何も出ないわよ~?
ほら、梨沙ちゃんにはこれ」

そう言って彼女が持ってきたのは、黒色のワンピースだった。

「ワンピースですか?」

「そうそう。雰囲気的にドレスって言う方がしっくりくるかもだけど。
結構丈が長めだからうまく着れば足の包帯もだいぶ見にくいんじゃないかしら」

「こんな感じの服はあんまり着た事ないですね…」

「あら、そうなの?
じゃぁ新たなコーデにチャレンジよ!」

手に持つワンピースを揺らしながら、ガッツポーズをとっている。

「なんか…楽しそうですね」

「女の子なんだからかわいい服着なきゃ!
楽しそうな事は少しでも楽しまなきゃ。お姉さんがここで培ったメンタル保護法だよ~」

沈んだ気持ちばかりで居ると、確かに考え方も一緒に沈んで行くばかりだろう。
それにしても、アリスさんの切り替えの早さがすごいと感じられる。表だけでも明るく振舞って自分達の不安を和らげようとしてくれているのかもしれない。

「(しっかりしないと…)なかなかそこまで切り替え早く出来ないですけど…大切かもしれませんね。
まぁ、私も興味がない訳ではないですけどね」

「なら早速着てみましょ!」

「はい!…うっ」

返事をしたのはいいが、体は痛みで思うように動かせないでいる。

「痛いわよね…。大丈夫、手伝うから」

「い、いえそこまでしてもらわなくても…」

「遠慮しないの。女の子同士なんだから。
出来るだけ火傷に障らないように注意するわね」

「ありがとうございます」

アリスさんのサポートを受けながらなんとか服を着替える事が出来た。
スカートに花柄の装飾があしらわれた黒いドレスの着心地は良く、体を縛られている感覚はない。

「似合ってるじゃない!」

「そう、ですかね?」

「うんうん。たまたまだけど梨沙ちゃんのゴーストリックの雰囲気にも合ってて、なお良しね。
足もいい感じに隠れてるし!」

「そうですね。丈がちょうどいい感じだったので」

「これで準備は良さそうね。
それじゃぁ…行きましょうか…」

「アリスさん、危ない所だと思いますし無理に一緒に来てくれなくても大丈夫ですよ…?
穂香ちゃんには私がついていきますから」

大切な友達のアリスさんを危険から遠ざける為に何気なく呟いた一言。
彼女の顔を見ると、実に不満げたっぷりな表情をしていた。

「梨沙ちゃん!あなたが私を心配してくれてるのと同じように、私も梨沙ちゃん達が心配なのよ!?
あなたが命を懸けて私を助けてくれたの。ここまで来たら一蓮托生ってやつよ!あなたを大切に思ってくれる人がここに居るわ。きっと穂香ちゃんもそう。
梨沙ちゃんが優しいのは分かってるけど、あなたのその優しさに助けられてあなたの力になりたいと思ってる人がいる事は忘れないでよね!」

ハッとさせられた。傷ついて欲しくない気持ちばかりが頭にあって、アリスさんと穂香ちゃんの気持ちにまで考えが及んでいなかった。
穂香ちゃんを信じると言ったのも、それ以外に選択肢がなかったからだ。仕方がないと…。代われるのなら全部自分が引き受けてしまいたいと内心ではそう思っているのだ。

「(こんなんじゃ…ダメだよね。
二人に失礼だ…!)」

二人が傷つくことは見たくない。二人だけではない。他の人を傷つけるのだって見たくはない。
でも、それで自分が傷ついてしまえば、自分を大切に思ってくれている二人を結局傷つけてしまうことになる。

「ごめんなさい。そうですよね、私から友達って言ったのに。
もう、大丈夫です!助けてもらいながら、二人の事を助けていこうと思います!」

「うん!お互いに助け合っていきましょ!
誰かだけ負担が重いのはダメよ?」

にっこりと笑顔になったアリスさんは人差し指を立てて協力し合う事を強調する。

「はい!
穂香ちゃんのノルマを終わらせるために頑張りましょう……!」

改めて気を引き締めないといけない。情報のない未知の強敵…そしてそこにたどり着くまでに遭遇するかもしれないデュエリスト…。
可能な限り穂香ちゃんを危険に晒さないようにグリーンフロアまで行く必要がある。

「穂香ちゃん、行くわよ~
あら…」

アリスさんが穂香ちゃんの方を向いて微笑む。
微笑みの理由は穂香ちゃんの方を向いてすぐ分かった。

「あっちむいてー…ほい!」

そこにはスペクターとあっち向いてほいをして遊んでいる穂香ちゃんの姿があった。
ちょうどこちらの方へと指が向けられ、まんまとスペクターがこちらを向いている。

「あ、お姉ちゃん達着替え終わったの?」

「ええ。お待たせ~」

「ほのかはいつでも行けるよ」

「うん、穂香ちゃん疑ってごめんね?
もう穂香ちゃんも自分の事も疑わないから、デュエル頑張ろうね…!」

穂香ちゃんは少しきょとんとした顔をしたが、すぐにやる気に満ちた表情を見せた。

「うん!」

「よし、行きましょう。
グリーンフロアへ…!」


青い照明の照らされたフロアから3人の被験者が外へと赴く。
目指すはグリーンフロア…穂香に課せられたデュエルノルマを達成するべく。

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コングの施し
お着替えはほのぼのしてていいなあ…と思う反面、これから巻き起こるであろう嵐に身震いしております。
《盤外キル》にボーナスがついているとは、なにかこう、この施設と実験自体が、技術的なものの実験と人の心理に訴えかけるものなのではと勘ぐってしまいますね。彼女たちの無事を祈りたいです...。
本当はほのかちゃんみたいに無垢な女の子は殺伐としたデュエルはしてほしくないのですが、課せられるペナルティの重さがそうはさせてくれない状況ですよね。

これからの彼女たちの健闘を祈ります...! (2023-11-14 19:46)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます!

ほのぼのも挟みつつも危険へと着実に前進しております…。グリーンフロアに加えてその道中も可能な限り、
デュエルをしない者に生きる資格はないとでも言いたげなこの実験のペナルティ。そもそもプレイしたことがない穂香がデュエルで相手を傷つけてしまうことにどのような反応を見せるのか…そしてどんなデュエル運びをするのか。
なんてことを運営は見たがっているのかもしれませんねぇ…。

3人の行く末は果たして!?次回以降もお楽しみにでございます。 (2023-11-15 22:46)

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