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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#56「灼熱の断頭」

Report#56「灼熱の断頭」 作:ランペル

ピー
「先行は藤永様、後攻は福原様になります。」


 [ターン1]


「神より承りし試練の幕開けだ。
あぁぁ…俺に咎人へ試練を与える使命を授けてくださるのですね…!
かの者が裁き人として正しいのか、福原 渚が神の信託を賜りし者なのか、それを俺に見極めろとそう仰られるのですね神よ!
お任せください。俺も裁きを下す者の端くれ…必ずや神の期待に沿い、神罰の在り方を示して見せましょう!
さぁ、神事は済ませたか?神への祈りは捧げたか?
あぁ!神よ!期待にはやるこの俺の愚行をどうかお許しください!
必ずやこのデュエルで御身の意思を現世に映し、神のご意志こそが絶対なのだと知らしめますとも!ご安心ください!そう、安心していい!
ああああああああああああああああ!!!」

デュエル開始のアナウンスと共にデッキからカードを引くでもなく延々と訳の分からない言葉を口にし続け、最終的には歓喜の絶叫を上げ始める狩衣の狂人、藤永。
その様を忌々しく睨みつける渚は、男の先行を急かす。

「そうやってずっと祈ってればいいよ。
ほら、神様にお祈りする時間だろ?
ボクにターンを回してくれればすぐに神様の所に送ってあげるからさ」

長く結われた赤茶髪を振り回していた男が、鎌首をもたげ渚の言葉に反応を示す。

「あぁ、失礼。
この内から湧き上がり、鳴りやまぬ歓喜の震え…。
ぜひともそうしてくれ!それをすべての人々が願っているのだから!
当然、それは福原 渚!お前こそ例外ではない!

ありとあらゆる人間がここにおいては平等!
神より与えられし秩序の元、迷える咎人をこの地獄から救い上げる事。
誰もが叶えられ、誰もが望むそんな救済!
皆皆理解していない!理解を拒む!何故だ!?
だから俺が迎えに行くのだ!誰もしてやくれない!
そんな悲しい、悲運と絶望に塗れた世界であってはならない!
神はそんなことお望みではない!
さぁ行くぞ。来るぞ!
神より授けられた神罰の時だ!」

無限に口を動かし続けた藤永が遂に、文様の刻まれたデュエルディスクから初期手札の5枚を引き、空中に配置する。
まるでそこに見えない壁でもあるように、空中に貼り付いた5枚の手札は微動だにしない。そして、その周りを淡い紫色のオーラがうっすらと包み込んでいるのが分かるだろう。

「俺が福原 渚を救ってやるよ!
さぁ、罪を吐き出せ!溜め込んで煮詰めたぐっちゃぐちゃの重く苦しい罪の断片どもをな!
手札の《インフェルノイド・アシュメダイ》をお前に晒し、
通常魔法《熾動する煉獄》!」
手札:5枚→4枚

宙に浮かぶ手札の1枚を藤永が上向きにスライドすると、それが発動される。

「インフェルノイドの手札交換カードか…。
発動にチェーンだ。墓地にカードがない時、手札から《ディメンション・アトラクター》を墓地へ送って効果を発動。次のターンが終わるまで、互いの墓地へ送られるカードは全て除外される!」
手札:5枚→4枚

墓地を肥やし大量展開を可能とするインフェルノイドの根幹を揺るがす手札誘発を渚は発動した。

「そうか、そうかそうか!
神罰の代行者であるこの俺の術を断つ戦略!」

「可能な限りの対処を尽くしてきた。
言ったはずだよ。ここにボクの得た物の全てをつぎ込むと」

「福原 渚の想いの強さが染みわたってくる!
ならば!この俺もそれに対して向き合う事こそが最善の贖罪となるのです!

速攻魔法《墓穴の指名者》!対象は《ディメンション・アトラクター》!」
手札:4枚→3枚

「ちっ…」

藤永が空中に配置されたカードをスライドし、魔法カードの発動を行う。
その効果により、地面から緑色の腕が這い出て渚を指差す演出が為される。

「これにより、《ディメンション・アトラクター》が除外され、その効果は次の福原 渚のターンまで無効となった。
これにより《熾動する煉獄》の効果は問題なく適用される。
手札を全て捨て、捨てた枚数のカードをドローさせてもらう!」
手札:3枚→3枚

藤永がデッキトップに指を掛けると同時に、空中に残された3枚のカードが青い炎によって焼き消える。そして、デッキより引いた3枚のカードが再び空中にへ再設置された。

「でもこれで終わりじゃない!
その効果処理後、手札の《アーティファクト-ロンギヌス》をリリースする事で、このターン中のカードの除外を封じる!」
手札:4枚→3枚

「なんと!
まだ隠し持っていたというのですか!?」

しかし、渚も負けじと更なる効果を手札から発動した。
淡い緑色に光る精神体の人型が、巨大な槍を持ち現れる。構えた槍を突如投げたかと思うと、巨大な槍が地面にへと突き刺さる。

「これで君お得意の墓地からの大量展開は封じた。
場にモンスターを呼べずにどうやって次のターンを凌ぐ?」

「神の与えた試練はとても尊く、貴重な機会です。
俺にお前が試練を与えるなら、俺もまたお前に試練を与えよう!
確実なものなど存在はしない!
神より賜ったこの引きは、かの者へ試練を与えよという神のご意志そのものなのだ!

永続魔法《煉獄の消華》!」
手札:3枚→2枚

除外によるモンスターの展開が出来ないという窮地においても、藤永は変わらず多弁に喋り展開を推し進める。

「手札を1枚捨てる事により、その効果を発動!
デッキより同名以外の煉獄魔法か罠カード1枚を手札に加える事が可能となる!
これにより、俺は《煉獄の狂宴》を手札に加える」
手札:2枚→2枚

触れた手札が炎に包まれ塵となる。
それと共にサーチしたカードがデッキより飛び出す。

「くそ…」

「俺はカードを1枚伏せ、このターンを終了する」
手札:2枚→1枚


藤永-LP:4000
手札:1枚


 [ターン2]


「ボクのターン、ドロー」
手札:3枚→4枚

渚にターンが移ったことでデッキからカードを1枚引いた。
その直後、藤永は高らかな笑い声と共に伏せたカードを発動した。

「さぁ、福原 渚!この俺に!神の試練に打ち勝つべく向かって来い!
フィールドの《煉獄の消華》を墓地にへと送り、通常罠《煉獄の狂宴》!」

藤永がデュエルディスクの画面を操作すると、上空から3つの真空管が降って来る。
コーンと響き渡る高音と共に地面に落下したそれらから、もやもやと煙の様なものが噴き出す。
次第に真空管が宙に浮かび上がり、噴き出した煙が真空管を軸に据え、悪魔の姿を形どり始めた…。

「合計レベルが8となるように、デッキよりインフェルノイドモンスター3体までの召喚条件無視による特殊召喚が執り行われる!
デッキより、レベル6《インフェルノイド・ベルフェゴル》!
そして、レベル1の《インフェルノイド・デカトロン》2体を特殊召喚!」[守0][守200][守200]

1つの悪魔は黄色の真空管が6つに分裂し各部に散り、その姿を現す。
そして、残る二つの真空管は悪魔の頭部と思わしきものに姿を変えた。

「そして、特殊召喚された2体の《インフェルノイド・デカトロン》の効果を発動!
それぞれデッキからインフェルノイドを墓地へ送り、そのレベルを吸収し、その名と効果を得るものとする!
俺は《インフェルノイド・ネヘモス》と《インフェルノイド・リリス》を墓地へ送りそれらの力をデカトロンに与える!」
《インフェルノイド・ネヘモス》:☆1→☆11
《インフェルノイド・リリス》:☆1→10

頭部だけだった2体のモンスターは再び煙となり、姿を変える。
虹色に揺らめく10の真空管を宿す巨大な翼を広げる蛇の様な悪魔。
9つの紫の真空管を宿す翼持つ大蛇を彷彿とさせる巨大な2体の悪魔と成り果てた。

「この地獄の悪魔が神に代わり、俺達を救済する!
ネヘモスは、自分モンスターをリリースすることにより魔法か罠を。
リリスは、同様の条件にてモンスター効果の発動を無効にし除外する事が出来る!」

「それはおっかないね。
さっさと君ごと消えてもらう事にするよ…。
メインフェイズに移行し、ボクは《招神鳥シムルグ》を通常召喚だ」[攻1000]
手札:4枚→3枚

フィールドへオレンジの翼を広げた幼鳥が、小さく羽ばたきながら降り立った。

「召喚時の効果を発動。
デッキから自身と同名以外の、シムルグカードをサーチする」

神鳥が小さな鳴き声をあげるとほぼ同時に、それを遮るかのような悪魔の遠吠えが響き渡る。

「何とも神々しき鳥だが、神の意向は試練あるのみ。
《インフェルノイド・ベルフェゴル》リリースし、リリスの効果を発動!
そのモンスター効果の発動を無効にし除外する!」

遠吠えにより、6つの真空管が同時に破裂し、《インフェルノイド・ベルフェゴル》の体が崩壊を始めた。
それと同時に、《招神鳥シムルグ》の羽根が急速に抜け落ちていく。

「手札の《絶神鳥シムルグ》は鳥獣族の展開時に自身を見せる事で、鳥獣族の召喚を行える効果がある。
見せた《絶神鳥シムルグ》をそのまま召喚させてもらう」[攻1800]
手札:3枚→2枚

渚の背後より黒い翼を羽ばたかせた神鳥が勇ましくフィールドにへと舞い降りた。

「招神鳥は無効にされたが、今度は絶神鳥の召喚時効果を発動する。
デッキからシムルグモンスターを墓地に送り、シムルグ魔法、罠カードをサーチできる。
ボクは《雛神鳥シムルグ》を墓地へ送り、フィールド魔法《神鳥の霊峰エルブルズ》を手札に加える」
手札:2枚→3枚

デッキから飛び出した2枚の内1枚を墓地へ送り、もう1枚を手札に加えた渚はそれらの効果を使うことなく、フェイズの移行を宣言する。

「バトルフェイズだ。
《絶神鳥シムルグ》で《インフェルノイド・ネヘモス》を攻撃するよ」[攻1800]

「守備力は元のデカトロンのままの200だが…。
それが神へ示す福原 渚の覚悟なのか?」

黒い翼を広げた神鳥が巨大な悪魔の元に飛び立つ。
しかし、その悪魔の姿は作り出された虚構に過ぎない。神鳥は悪魔の内部に潜む本体《インフェルノイド・デカトロン》を見つけると、そこに向かって勇ましく鉤爪を振るった。
砕かれたモンスターと共に虚構の悪魔が霧散した。

「ボクが重要視しているのは確実性さ。
着実に外堀を埋めて…そして必ず君を殺すという覚悟ならあるよ。
メインフェイズ2、相手の魔法、罠ゾーンにカードがない時に墓地から《雛神鳥シムルグ》の効果を発動。自身を守備表示で特殊召喚」[守1600]

ひょこっと渚の後ろから姿を現した小さな緑色の幼鳥が、ぱたぱたと羽根を揺らしながらフィールドへ駆け込んで来る。

「元のカード名の異なる鳥獣族が2体以上いる時、600のライフをコストに《翼の恩返し》を発動だよ。
デッキから2枚ドローする」
手札:3枚→4枚
渚LP4000→3400

頭上から舞い落ちる白い羽。
その中から2つを手に取ると、白い羽が一瞬でカードに姿を変える。

「フィールド魔法《神鳥の霊峰エルブルズ》発動。
効果で鳥獣族・風属性の攻撃力と守備力が300アップする」
手札:4枚→3枚

閉め切られた空間内に緩やかな風が吹き始め、渚のコートが靡く。

「エルブルズの効果を発動。鳥獣族・風属性が居る時に鳥獣族の召喚が行える。
手札から《死神鳥シムルグ》を召喚だ」[攻1800]
手札:3枚→2枚

深緑色の翼を広げた神鳥が静かにフィールドにへと降り立つ。

「死神鳥の召喚時効果も発動。
デッキからシムルグカード1枚を墓地に送れる。ボクは《護神鳥シムルグ》を墓地へ送っておくよ」

「さて、これでフィールドにモンスターが複数並びました。
神事の用意が整ったのですか?」

嫌らしい眼差しを渚に向ける藤永。
何かを期待するその目にうんざりな渚が、返事することなくフィールドの3体の神鳥を手に取る。

「ボクは《絶神鳥シムルグ》、《雛神鳥シムルグ》、《死神鳥シムルグ》の3体でリンクマーカーをセット。
悪しき狂人を暴風で押し潰せ!
リンク召喚!

来たれ、LINK3《王神鳥シムルグ》」[攻2700]

リンク召喚のゲートより吹き込む黄金の風。
颯爽と飛び出したそれは黄金の装飾を身に着けた巨大な神鳥。
巨大な翼で羽ばたくと、自身の周囲を金のつむじ風が身を守る様に吹き始めた。

「相手の魔法、罠ゾーンにカードがない事で、墓地から《死神鳥シムルグ》を守備表示で特殊召喚する」[守500]

王神鳥の背後より《死神鳥シムルグ》が飛び立ち、藤永のフィールドを低空飛行した後渚のフィールドへと降り立つ。
そして、その周囲を王神鳥を取り巻くものと同じ金色のつむじ風が吹き始めた。

「《王神鳥シムルグ》の効果により、自身とリンク先の鳥獣族モンスターは相手の効果の対象にならなくなった。
ボクはカードを1枚セットしてエンドフェイズに移行する」
手札:2枚→1枚

エンドフェイズへ移行すると王神鳥が再び巨大な翼を広げる。
それと共に二人の元へ新たな黒い風が吹き始め、それを浴びた藤永が口を再び開き始めた。

「確かエンドフェイズにも何かしらの効果を持ち合わせていたはずですね。
さぁ、示せる試練はその程度ですか!俺に試練を与えるんだろう!
己の積み重ねてきた全てを曝け出すとそう口にしたはずです!
この程度でお前が俺よりも神の寵愛を賜っているなど言えるものか!
神の導きをこの俺に示してみせろ!!!」

何ら変化のないたわ言が渚の耳を震わせる。
不愉快そうに眉間にしわを寄せる渚がデュエルディスクを操作するとデッキから1枚のカードが飛び出した。

「耳障りだね本当に…。
使用されていない互いの魔法、罠ゾーンの数以下のレベルの鳥獣族を手札かデッキから特殊召喚できる。
デッキより来たれ、《ダークネス・シムルグ》!」[攻3100]

黒い風に乗って巨大な翼を広げた闇の神鳥が、王神鳥の背後に降り立つ。
そして、《ダークネス・シムルグ》の元にも金色のつむじ風が巻き起こる。

「これでボクはターンエンド」


渚-LP:3400
手札:1枚


 [ターン3]


「神は一体俺に何をお教えくださるのか…。
見届けさせていただきますよ。
俺のターン、ドロー」
手札:1枚→2枚

藤永がデッキから引き終わったスタンバイフェイズ。
渚が伏せられたカードを即座に発動する。

「スタンバイフェイズに罠発動《ハーピィの羽根吹雪》!
鳥獣族、風属性モンスターが居る時に発動が可能。このターン中の君の発動されたモンスター効果は全て無効化される」

王神鳥が巨大な翼を広げ羽ばたく。どこからともなく現れた大量の緑色をした鳥の羽が藤永の周囲を飛び交う。
その光景を恍惚の表情で見渡す藤永は、先程デッキから引いてきたカードをデュエルディスクにへと置く。

「これは厳しいではありませんか!
神は本気でこの俺に大いなる試練を与えようとしているという事でしょうか!
ですが、俺も所詮は咎人の一人。足掻き藻掻きその上で裁きを下す者の地位を得ただけ!絶対的な信託者はただ一人!!
あぁ神よ!俺はこの試練に必ずや打ち勝って見せます!
フィールドの《インフェルノイド・リリス》を墓地へ送り発動する。
速攻魔法《禁じられた一滴》!」
手札:2枚→1枚

「一滴を引いたのか…!?」

「この発動にコストとした《インフェルノイド・デカトロン》と同じ種類、つまりモンスター効果はチェーン出来ない。
俺は福原 渚のフィールドの《ダークネス・シムルグ》を選び、その攻撃力を半分にし、効果を無効にさせてもらおう!」[攻1550]

《ダークネス・シムルグ》が黒い翼を広げる。
しかし、その頭部へ聖杯から零れ落ちた一滴が滴った。
その瞬間に、黒い神鳥は翼を閉じ俯いたかと思うと、先程まで周囲に吹いていた黒い風が止む。

「魔法と罠は止めれなくなったけど、羽根吹雪の効果が有効ならこのターン君のモンスター効果は無意味になった。
インフェルノイドの制限で、大型は出せても1体程度のはずだ。
君の神様とやらは、君の勝利を望んでいないんじゃないかい?
足掻くと言うならもちろん相手になろう。その為にここにボクが居る。
神だなんだと妄言を触れ回り、無情に他者を殺して回るお前は神の遣いでもなんでもない。ただの人殺しだ。
今日で終わらせるんだ。絶対に…!」

リソースを墓地から捻出するインフェルノイドは、手札が1枚の状況でも油断が出来る相手ではない。
そんな相手に構えていた妨害が1つ破られてしまった。その焦りから、自分が優勢であると自他に言い聞かせる渚。
藤永は赤と紫の目で渚を見遣り、饒舌さなどない静かな口調で言葉を贈る。

「ただの人殺し…口で言うのは容易い。
ここまで生きたお前の事だ。その意味はよく分かっているでしょう?」

「………」

「神はどうやら…まだ福原 渚。
お前に試練を与えたい様だ。足りないみたいだ。
でなければ、先程のドローで俺は《禁じられた一滴》を引けていなかっただろうからな…。
永続魔法《煉獄の虚無》!」
手札:1枚→0枚

「な…!?」

藤永が最後に持っていた1枚。
それは、渚が恐れていたカードの内の1枚であった。

「俺のフィールドの元のレベルが2以上のインフェルノイドのレベルは1となり、このカードがある限り、福原 渚の受ける戦闘ダメージが半分となる!
墓地のインフェルノイドであるデカトロン、アシュメダイ、ベルフェゴルの3体を除外。
煉獄より生まれし物質主義貫きし悪魔よ!かの者に試練を与えたまえ!

裁け、レベル10《インフェルノイド・ネヘモス》!」[攻3000]

真空管の破裂する3回の音がした後、巨大な翼を広げた悪魔が神鳥と対峙する。
背面に背負う円盤には虹色に輝く10の真空管を備えており、怪しく蠢くその威圧感はまさしく悪魔のそれに等しい。

「《煉獄の虚無》の効果によりネヘモスのレベルは1として扱われる。
これほど大いなる存在でさえも虚無の世界の中では1つの個としてしか扱われない。
俺達人間も、神からすれば1つの個体でしかないのだ。

だが、俺たちは重ねてきた罪がある!
その罪を清算しようとする者に神は個に過ぎない俺達を生命として丁重に導いてくださる!
それは掛け替えのない慈しみ、自愛の最たるものだ!
心持つ人間にのみ許された崇めること!救いを求めるものに神は確かな救いの道を示してくださるのだ!」
《インフェルノイド・ネヘモス》:☆10→☆1

「救うとか何度も言ってくれるが…でも神様はこの施設の外に出る事はお許しにならないんだろう?
君の言う様な罪を被った人しかここにはいないとでも言いたい訳かい?」

多弁に喋る藤永に痺れを切らした渚は、狂った宗教観に口を挟んだ。
それを待っていたとでも言わんばかりに、藤永は無限に己が思想をぶちまける。

「至極当然当たり前だ。ここは地獄以外に他ならない。
ここに送られてきた者は皆全て罪を背負っている。もし背負っていないと自他ともに認める者が居たとて、その者もいずれは罪を犯す事になる。
だから、ここに居るのだ。

だが、罪にも当然、程度はある!
皆一様に地獄で同等の苦しみを与えられていいはずもない!
罪の軽いもの、己が罪を認め贖罪を望む者を神は愛して下さる!
それだけがここで唯一許された救いの道だ。救済なのだ!

神に許しを乞うた訳ではないと見えるな福原 渚。
あぁ…俺はまだ判断が付かない。
神が俺に裁かせようとここへ向かわせたのか、俺を裁かせようと遣わせたのか。
どちらにせよ俺がすることは変わらないがな?
俺がするのは、デュエルでお前を倒す為に最善を尽くす事だ!
さすれば神が示したかったものが、このデュエルで啓示されることだろうからな!

墓地より《インフェルノイド・デカトロン》、《インフェルノイド・リリス》の2体を除外。

裁け、貪欲貪りし悪魔。
レベル8《インフェルノイド・アドラメレク》!」[攻2800]
《インフェルノイド・アドラメレク》:☆8→☆1

2つの真空管が弾けた音が響く。
そして、上空より機械質な体の巨体の悪魔が降って来た。
まるで、危険を知らせる警報ランプの様に橙色が輝く8つの真空管をその身に宿した悪魔は、渚を威嚇する。

「大型が2体…。
いや、虚無の効果でもう1体か…」

「福原 渚!
神より賜った試練はそんなものではない!まだ足りない!
墓地の《熾動する煉獄》を除外し効果を発動。
除外されているインフェルノイド11種まで墓地に戻す事が出来る!」

「な…墓地に戻すだと…!?」

潰えたはずの藤永の墓地リソース。
しかし、それを回復する手段が残されていた。

「俺は除外されている《インフェルノイド・デカトロン》、《インフェルノイド・アシュメダイ》、《インフェルノイド・ベルフェゴル》、《インフェルノイド・リリス》の4体を対象。
それらを墓地へと戻し、即座にデカトロン、アシュメダイ、ベルフェゴルを除外する!」

背後で燃え盛る青い炎より放られた4色の真空管。
その中で、紫色に光る真空管だけを藤永は手に取った。
他の3つの真空管は地面に落下すると共に破裂してしまう。
そして、手にした紫の真空管が1枚のカードにへと成り代わる。

「煉獄より生まれし不安定なる悪魔よ!かの者に救済の道を!

裁け、レベル9《インフェルノイド・リリス》!」[攻2900]
《インフェルノイド・リリス》:☆9→☆1

鳴り響く雷鳴と共に9つの紫の真空管が輝く巨大な悪魔が翼を広げ顕現する。
ネヘモスと並ぶ巨悪が、渚を邪悪に見据えた。

「先程の幻とは違う!その身に宿すのは確固たる力!
人の体など容易に引き裂き、押しつぶしてしまうかのような力の根幹!
さて、これが俺の用意できる最後の試練だ。

永続魔法《煉獄の虚無》を墓地にへと送り効果を発動。
インフェルノイドモンスターの融合を執り行う。その際、お前のフィールドにEXデッキから呼び出されたモンスターが居る場合、デッキから6体までモンスターを素材にすることが可能となる。

俺はデッキから、
《インフェルノイド・ネヘモス》、
《インフェルノイド・リリス》、
《インフェルノイド・シャイターン》、
《インフェルノイド・ベルゼブル》、
《インフェルノイド・ルキフグス》、
《インフェルノイド・ヴァエル》の6体を墓地へと送り融合…!

煉獄の悪魔を束ね、今ここに死の神を呼び起こさん!
裁け、レベル11《インフェルノイド・ティエラ》!」[攻3400]

リリスとネヘモスの間をかき分けるように広がる白と黒の巨大な翼。
まるで蛇のようにうねる下半身を持った悪魔が両手に光と闇の力を蓄える。
見目は悪魔そのものながら、どこか神々しさも感じられるその存在の出現と共に、エリア内に熱気が渦巻く。

「熱気と共に…凄まじい威圧感だ…」

その圧倒的な熱量と存在感に渚の頬を一筋の汗が流れ落ちる。

「邪悪なる神の力をここに示さん。
福原 渚!お前が裁きを下す者なのであれば、この程度の試練に打ち勝てるはずだろう!?
行くぞ、これが俺がお前に与える試練!
バトルフェイズ。

《インフェルノイド・ティエラ》よ、《ダークネス・シムルグ》を攻撃せよ」[攻3400]

悪魔の神より神罰が執行される。
両手に宿った白と紫のエネルギーを集約させ、《ダークネス・シムルグ》に向けて放つ。
それが黒い神鳥へと命中した瞬間に漆黒の炎が神鳥を襲う。激しく燃え上がる炎は、神鳥の身を焦がし、周囲の温度を急速に上昇させていく。
炎はまるで生きているかのように蠢き、神鳥の耐え切れないダメージを与えるべく熱気が溢れ出し渚の皮膚を焼き焦がす。

「ぐぁぁああ…!?
あつっ……!!」

渚LP3400→1850


深呼吸しようものなら喉を焼き焦がされてしまいそうな程の熱気を前に何とか耐える。そんな壮絶な熱気により渚の羽織っていたコートが発火する。
咄嗟に、コートを脱ぎ棄て熱気でひりひりする左腕をかばう余裕もなく次の攻撃が向かって来た。

「《インフェルノイド・ネヘモス》で《王神鳥シムルグ》を攻撃!」[攻3000]

翼を広げたネヘモスの背後の円盤にエネルギーが溜まって行く。
そして、そこから放たれた光線が王神鳥の体を貫く。しかし、貫く瞬間に深緑色の翼を広げた死神鳥が王神鳥を庇うように光線の餌食となった。
だが、光線は死神鳥を貫通し、その先に居た渚の右腕をも掠め皮膚が発火する。

「あぁ!!
くそっ!?」

渚LP1850→1550


即座に発火した皮膚を左手で撫で払うと、火は収まった。
だが、まだ攻撃は終わっていない。生き残る為に火傷した腕を構うよりやる事がある。

「はぁ…はぁ…《王神鳥シムルグ》が戦闘破壊される場合、代わりに他のシムルグカードを1枚を破壊できる…。
《死神鳥シムルグ》を破壊だ…!」

「身代わり効果…ではまだ試練は続きそうだ。
俺か福原 渚のものかは、まだ分かりませんけれど。
《インフェルノイド・リリス》で《王神鳥シムルグ》を攻撃!」[攻2900]

紫に迸る稲妻と共に、蛇のように蠢くリリスが咆哮をあげる。
巨大な翼を広げ、口を広げたリリスは巨大な煉獄の炎を王神鳥に向けて放った。
この攻撃もまた、どこからともなく吹く強風によって軌道をズラされ、王神鳥にあたることなく渚の目の前の地面にへと着弾し爆発した。

「戦闘破壊される代わりに…《神鳥の霊峰エルブルズ》を破壊する…。
く……」

渚LP1550→1350


爆発の衝撃と熱風が渚を襲う。
そして、飛び散った火花が渚の髪に燃え移ってしまい発火する。

「な!?
この!っ…!!」

髪の先端部だけとは言え、少し大きな火となってしまい手や腕が火傷することなど構うことなく必死に叩きなんとか消化する。

「これで他に王神鳥を守るカードはなくなりました。
そして、攻撃力も元の数値の2400に戻ります。
試練を乗り越える事は出来ますか?
《インフェルノイド・アドラメレク》で《王神鳥シムルグ》を攻撃!」[攻2800]

アドラメレクが足元から青い炎を巻き起こしながら、その巨体で王神鳥の前まで飛び込んで来る。
巨大な翼を広げ、威嚇しながら炎纏った鋭い爪で王神鳥を引き裂く。
引き裂かれた王神鳥は耐えきれずに破壊され、受け止め切れなかった衝撃波がダメージとなって渚の元へ向かう。

「ぐぁっ!!?」

渚LP1350→950


衝撃としてはそこまで大きなものではない。
しかし、所々火傷した掌に腕。凄まじい熱気で弱っている皮膚には、実際に与えられた衝撃をはるかに上回る痛みが体中を駆け巡った。
耐え切れず、荒い呼吸をしながら膝をついてしまう。

「はぁ…がは……はぁ…はぁ…」

ライフは残った。
そして、体の方もデュエルが続行できない程のダメージは受けていない。
まだ戦える。

「何とか耐える事は出来たようですね福原 渚。
しかし、手札は1枚。ドローしたとしても2枚です。
ネヘモスとリリスを前にどうやってこの窮地を脱する!?
神はこの試練を突破する事を望んでいます!
さぁ、立ち上がりデッキからカードを引くのです!
そして、今一度見つめ直すのです。己自身を!
己が重ねた罪の重さを!そして、引くのです!
己の命を懸けたドロー!己の全てを神に委ねる最後のドローを!!」


藤永-LP:4000
手札:0枚


 [ターン4]


「最後の…チャンスか…。
この…ドローが…」

皮膚がひりひりと痛む感覚。
今は止んでいる風が吹き始めるだけで、この痛みは増す事だろう。

このターンを逃せばまず間違いなく殺されてしまう。
今あるこの手札だけでは何も出来ない。次の引きにすべてが掛かっている。
ネヘモスの魔法・罠の無効、リリスのモンスター効果の無効…そしてアドラメレクの墓地除外さえも掻い潜り4000ある藤永のライフをこのターンで0にする。

「(準備しても…これほどに追い詰めれられるか……)」

藤永の強敵さ、そして陥ってしまった窮地…。
火傷の痛みから逃げるように意識が遠のこうとしてしまう。

「(ボクが重ねた罪……ね…)」

それを防ぐべく頭を働かせる。
今まで避けてきた藤永の妄言について考えが巡り始めた。

一体何人を利用し殺しただろうか。
一体何人を見殺しにしただろうか。
一体何人をこの手で殺したのだろうか。

罪と言われ思いつくのはそんなものだ。
生きる為。やらなければ自分がやられるだけだ。
そんな正当化の理屈の元に何人もの人を殺して来た。
情報を集める過程で、情報を活用する過程で、自分が生きる為に情報を利用する過程で。

「(この計画の為にも何人もの人を騙し動かした。
隅野君、米花君、近久君。
それに山辺君……いや、あのデュエル脳はノリノリだったか…)」

頭の中に筋肉とデュエルしか詰まってなさそうな脳筋の顔が浮かぶ。
そして、その奥から蔑んだ目でこちらを睨んで来る中年女性の顔も浮かんできた。

「(あの人には…嫌われてるからなぁ。
山辺君がやられる様な事になったら…もう対話は望めないだろうね…)」

眼前の巨大な悪魔の群れの向こうで、死神が不敵な笑みを浮かべている。
まるで、自分を死の世界に招こうとするかのように。
こちらの動きを観察し、次の一手に期待するそんな顔だ。

余りの嫌悪感に笑い声が零れてしまった。

「ははっ…不愉快極まりない。
今更許しを乞うだって…?ばかばかしい!
ボクは生きる為にこうして来た。他人を使って情報を集めて、情報を操作し、生き残る事だけ考えてきた。中にはボクの身勝手な行動で死ぬ羽目になった人もいるだろうさ。
そんな人らは、ボクが謝ったら許してくれるのかい?そんな頭の緩い奴ばっかりか?
ボクが殺した人達は、自分を殺した奴を簡単に許してくれてしまう程に愚かな奴なのか…!?」

内より溢れた嫌悪のままに言葉を投げつける。
しかし、藤永はそれを受けさらに口角をあげ、また世迷い事を口にし始める。

「福原 渚…ようやっと己の罪と向き合う事を決めたのですね。
大切なのは己の過ちに向き合う事。許されるべきでない事は確かにあるでしょう。
しかし、それと同時に無限に許されないというのもおかしな話でしょうね。
罪は償う事が出来る。人の身では限界があるかもしれませんが、いつしかその罪も神より見咎められ、許しを言い渡されます。

人々は、己の過ちを清算し自由を手にしたいのですよ。
そして、目的を持ちその為に尽力する。
何とも人間らしく素晴らしい生き方ではありませんか」

「黙れ!そんな身勝手な話があるか!
君はそうやって責任を他人に押し付けて、自分が満足したいだけだろう。
罪だとか過ちだとか贖罪だとか。全部君が抱えていることなだけだ。
何を許されようとしている!?許される訳がないだろ!?
言っている事が無茶苦茶な事にも気づいていないじゃないか!

耳障りのいい事ばかり喋って、それらしいことをしているだけだ。
本気で神の遣いにでもなってるつもりか!?
お前の言葉に中身はない。何も考えていないのと同じだよ。
そんなくだらない自己保身の世迷い事で、どれだけの人を道連れにしたんだ!?
お前の自己満足の為にどれだけの人が巻き込まれた…!!!」

気付けば声を荒げ、この不快なものにぶつけ続けていた。
頭では分かっている。これに何を言ってもまともな返答が返って来ることがない事は、よく分かっている。

「苦しいですよね。辛いですよね。
自分が間違ってしまった事。それが許されるはずのないものである事。
自分を責め、追い詰め。でも、救われたい、許されたいとも思ってしまっている。
そんな自分も気持ちが悪い。こんな自分が許せない。

これは何かの罰なのか?
一体どうしたらよかったのか?
生きる事は悪い事だったのか?
どれだけ考えても答えが見つけられない。これだけ心を悩ませ、既に苦しんでいるのに。
ここではそれ以上の苦痛が待ち受けている」

まるでカウンセラーかのようにこちらに寄り添った言葉を擦り付けてくる。

人の心に土足で踏み込み、まるで心を見透かしたかのように共感をしている風を装う。だが、その顔は不敵にバカにしているかの様に狂気の笑みが貼り付いている。
こいつを避けるようになったのは、右目を焼かれた事よりもこれにあった事を思い出せた。

心を掬われる。
これはもう人間ではない。死神なんだ。
自分が人間であると妄信した…ただの死神…。

「腹をくくれ…。
準備はした…それでもデュエルである以上、確実なものなんてあるはずがなかったんだ…。
後は自分を信じること…。
そして…こいつを殺す決意を新たにすることだけだ…」

変わらず狂気の笑みのまま穏やかにこちらへと語り掛けてくる藤永。

「福原 渚…あなたは誰かに助けて欲しいのです。
この地獄から、救ってくれる誰かを待っている」

緊張と不安…そして部屋の熱気にあてられ、たくさんの汗が額から流れ落ちていく。
ゆっくりと深呼吸をする。
閉鎖空間に満ちた熱気を吸い込み、喉が焼かれる様な感覚に襲われた。

でも、こんなものは右目を焼かれた時の痛みと比べたらどうってことないじゃないか。

「だとしてもね…。
ボクを助けてくれるのが、お前なんかじゃないって事だけは確かだっ!!

ボクのターン!ドロー!!」
手札:1枚→2枚

「福原 渚。
お前も望んでいるはずだ!救われることを!赦されることを!
それとも、それを乗り越え裁く者として覚醒するのか!?
俺に見せてくれよ!!」

「EXデッキからカードを6枚裏側で除外して、《金満で謙虚な壺》を発動!」
手札:2枚→1枚

「さぁどっちだ!?
《インフェルノイド・ネヘモス》自身をリリースし、効果を発動!
《金満で謙虚な壺》の発動を無効に除外!」

ネヘモスが咆哮をあげる。
その身に宿った10の真空管が破裂し、その体が崩壊していく。
虹色に光った魔法カードが朽ち果て消えていった。

「………」

「どうしました?
残った手札ではもう何も出来ないのですか?
罪を自覚した咎人なのか?それとも…」

「ボクはお前を救わない。
お前を地獄に還すだけだ。
相手がメインフェイズにモンスター効果を使った事で、《三戦の才》が発動可能になった!」
手札:1枚→0枚

「…!!
そのカードは…!」


(「ここから俺の勝利への道が開かれんだよ!
メインフェイズ中に相手モンスターの効果が発動されたことで、このカードを発動できる!《三戦の才》!」)


「《三戦の才》…山辺 俊勝…。
あぁ…あぁ!ここからの敗北!?
あぁぁぁ!望んでしまう!?期待してしまう!?
本当か!?いいのか!?どうなんだよ!!!
福原 渚ぁああああああああああああああ!!!」

歓喜の絶叫を上げる藤永を尻目に、渚は殺意の赴くまま効果の処理を的確に行う。

「デッキから2枚ドローする効果を選択。
ドロー!」
手札:0枚→2枚

デッキからカードを引き込んだ渚はその内の1枚に目を奪われる。

「まだいけるって事ね…。
デッキトップからカードを10枚裏側で除外し、《強欲で貪欲な壺》を発動!
デッキからカードをさらに2枚ドローする」
手札:2枚→3枚

デッキトップから引き抜かれた10枚ものカードが渚の手によって周囲へ放り投げらた。それらのカードは鳥の羽へ姿を変え、地面に触れると朽ちて消えていく。
そして、一気に薄くなったデッキからさらに2枚のカードを引き込む。

「(除外されたカードは……よし、これなら問題ない。)
手札の鳥獣族《超重禽属コカトリウム》をコストに《神鳥の来冠》を発動!
デッキからシムルグモンスター2体、《招神鳥シムルグ》と《絶神鳥シムルグ》を手札に加える」
手札:3枚→3枚

「《招神鳥シムルグ》を召喚。
そして、召喚時の効果も発動。デッキからシムルグカードを手札に加える。
さらに、鳥獣族が召喚された事で手札の《絶神鳥シムルグ》の効果も発動だ」[攻1000]
手札:3枚→2枚

「《絶神鳥シムルグ》の効果にチェーンし《インフェルノイド・リリス》自身をリリースして効果発動!
その発動を無効にし除外だ」

リリスが悍ましいうめき声をあげる。それと共に、その身の真空管が破裂し姿が消えていく。
渚の手に持たれた《絶神鳥シムルグ》のカードが紫色に発光すると塵となって消える。

「でも、《招神鳥シムルグ》の効果は有効だ…。
デッキから《神鳥の霊峰エルブルズ》を手札へ加えて、即座に発動する!」
手札:2枚→1枚

先程と同様渚の背後から緩やかな風が吹き始める。
それは密閉空間内の熱気を乗せ、それと共に渚の弱った皮膚を撫でる。

「……エルブルズの効果だ。
手札のレベル5以上の《烈風の覇者シムルグ》を見せる事で、アドバンス召喚に必要なリリースがこのターン1体少なくなる。
さらに、風属性の鳥獣族が居る時に、エルブルズの効果で鳥獣族モンスター1体を召喚できる。
ボクは《招神鳥シムルグ》をリリース。
アドバンス召喚!

来たれ、《烈風の覇者シムルグ》!」[攻3200]
手札:1枚→0枚

緩やかな風の勢いが増していく。渚と藤永の髪が強い強風で揺れ出す。
その風がピタリと止んだ時…背後に黄金の円盤を備えた神々しい神鳥が、姿を降ろした。

「それが福原 渚の切り札か…?」

「まだだ!
ボクが闇属性か風属性のアドバンス召喚に成功したことで、墓地の《ダークネス・シムルグ》の効果を発動する!このカードを墓地から特殊召喚だ」

「であれば、それを失えば試練が突破できないと!?
慈悲を期待してはならない!それは神のみに与える事が許された代物。
俺は咎人を裁くために存在しているに過ぎないのだから!!
《インフェルノイド・アドラメレク》自身をリリースして効果を発動!
相手の墓地の《ダークネス・シムルグ》を対象に除外させていただく!」

アドラメレクの体の真空管が破裂していき、咆哮があがる。
その身の崩壊と共に、渚のデュエルディスクの墓地から橙色の光が発された。

「どうやら贖罪は済んだようだ。
福原 渚、攻撃力が足りていない。
お前の覚悟は後200程、この俺の神託者としての使命を覆す事に及ばなかったみたいだ…。
とても残念です…」

ここに来てようやく表情から笑みを失った藤永が、ターンの終了を悟りデッキからカードを引こうとする。

「ボクは満足だよ。

やっと、切り札を呼ぶ手筈が整ったんだから…」

その言葉に反応して、藤永が目を大きく見開き渚を見遣る。
渚はにやりと笑って、墓地から2枚のカードを取り出した。

「相手の魔法、罠ゾーンにカードがない時、
墓地から《招神鳥シムルグ》と《護神鳥シムルグ》の2体を特殊召喚できる!」[守1300][守1300]

オレンジの翼と薄紫の翼持つ2羽の神鳥が藤永のフィールドを交差するように滑空し、フィールドに降り立つ。

「墓地の《超重禽属コカトリウム》は、自分フィールドの獣、獣戦士、鳥獣のいずれか1体をリリースする事で、墓地から特殊召喚できる。
ボクは、《招神鳥シムルグ》をリリースして、《超重禽属コカトリウム》を蘇生!」[守1200]

幼きオレンジの神鳥が飛び立つと、上空からガシャンという金属音と共に、黒鉄の翼に身を包んだ鳥獣が代わりに地面へ降り立つ。

「墓地からの…大量展開……」

渚が展開を進める様を、藤永は二色の眼で見つめ続ける。
その目はまるで、泥の中へ真珠でも落としたかのように一点の輝きを放っている…。

「《超重禽属コカトリウム》の特殊召喚時、デッキからレベル4以下の獣、獣戦士、鳥獣のいずれかを除外し発動。そのカード名と種族、属性、レベルをコピーする。
デッキから《鉄獣鳥 メルクーリエ》を除外し、それをコピーだ!」

コカトリウムの眼前を金色の装甲に身を包み、背中にアンテナを生やした鳥が横切る。
その瞬間、コカトリウムは機械音と共にその姿が変形していく。
どこに収納されたのか分からない金属の翼と体は、先程横切った小型の鳥類の姿と同じものを形成した。

「除外された《鉄獣鳥 メルクーリエ》の効果発動。
除外時、《アルバスの落胤》が記されたカードである…《烙印の光》を手札へ加える事が出来る!」
手札:0枚→1枚

デッキから飛び出す1枚のカード。
渚はそれをゆっくりと引き抜き、左手の親指を立てるとそれが下向きになる様に藤永へ見せつけた。

「お望みの切り札ってやつを見せてあげるよ。
そして、それがお前を地獄へ導く…。
ボクは、レベル4の《鉄獣鳥 メルクーリエ》と《護神鳥シムルグ》の2体でオーバーレイネットワークを構築…!」

黒鉄の翼の機械鳥と、薄紫の翼の神鳥が羽を飛ばしながら飛び立つ。
それは交差しながら、エクシーズ召喚の渦にへと吸い込まれ、大きな爆発を呼び起こす。
開かれたEXデッキより飛び出した1枚のカードを、まるで刃の様に藤永に向け突き立てる。


「エクシーズ召喚!
全てを焼き切る断頭の刃…!

来たれ、ランク4《RR-ブレード・バーナー・ファルコン》!!」[攻1000]

巻き起こった爆発より飛び上がったのは機械質な体を持った隼。
その翼はまるで刃の様に鋭く、腹部から尾羽に向かって備えられた鋭い刃が鈍く光った。

「攻撃力1000…。
それが福原 渚…お前の切り札か?
俺を導いてくれると言うのか?」

「言ってるだろ狂人。
ボクはお前を地獄に送るだけだ。
《RR-ブレード・バーナー・ファルコン》がエクシーズ召喚成功時に、ボクのライフが相手より3000以上少ない時、このカードの攻撃力が3000アップする!」[攻4000]

鳴き声をあげたブレード・バーナー・ファルコンの刃が着火された。
勢いよく燃え上り始めた翼と腹部の刃が、相手を圧倒する。

「4000…!!
あぁ…あぁぁ…本当に…これで……」

膝をついた藤永は口角を吊り上げながら、涙を流し始める。

「バトルフェイズ。
その開始時に速攻魔法《烙印の光》発動。
フィールド・墓地の融合モンスター1体を対象にデッキへと戻す。
お前の《インフェルノイド・ティエラ》をデッキへ戻してもらう」
手札:1枚→0枚

天から降り注ぐ光の粒子。それがまるで何かを拾い上げるように《インフェルノイド・ティエラ》を包み込むと、ティエラと共に姿を消失させた。

「神よぉぉおお!!!
福原 渚は試練に打ち勝たれましたよ!!!
もう、もぉお俺は必要ないのですね!役目を終えたのですね!
ようやく!よう”やっど!!
あぁはははは、あぁあああはははあああぁぁぁ!!!」

藤永はティエラが光に攫われた事で、号泣し始める。
肩の荷が下りた様に晴れやかな笑顔を見せ、その目はらんらんと輝き熱気で地面に滴り落ちる事無く蒸発する涙を流している。
その晴れやかな姿が、渚の神経を逆なでる。

「もう十分だ…。
これすらも喜んでしまいそうだが、ボクの気が晴れないからな。
《烈風の覇者シムルグ》でダイレクトアタック…!」[攻3200]

神鳥が巨大な緑の翼を広げ、勢いよく羽ばたく。
それにより鋭く凄まじい勢いの烈風が一点に凝縮され藤永へ放たれた。

「ぁああ神よぉぉお…!
がぁばはぁっ……!!?」

藤永LP4000→800


圧縮された風の刃が、藤永の胸部を貫く。
それと同時に、口から大量の血を吐き出し、胸部からもどくどくと絶え間なく血が漏れ出し、一瞬で藤永の足元が血の海と化す。
一通りの逆流してきた血を吐き終えた藤永は意識を失う事なく、倒れる事もなく、膝をついたまま渚を真っすぐに見つめる。

「お前には確実に地獄に行ってもらう。
山辺君の時とは違う、数値上の4000ダメージだ。
その傷でこれを耐えられるはずがない…!

とどめだ…《RR-ブレード・バーナー・ファルコン》!
《妄信な死神》…藤永 伊織にダイレクトアタック!!」[攻4000]

攻撃宣言を受け、機械鳥が飛び上がる。
渚の後ろに旋回しながら後退した隼が、刃に灯された炎を燃え上がらせながら勢いよく攻撃対象に向けて飛び立つ。

向かって来るそれを見つめ、狂人は最期の言葉を残した。


「…姉さん、やっと会えるな」


熱された隼の刃が、意図も容易く狂人の首と胴体を切り離した。


藤永LP800→0



ピーーー

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コングの施し
読ませていただきました!

お父様のところに集結した!と思いきや場面は移り変わり渚さんと藤永のデュエル!

前の藤永の新規インフェルノイドもそうですが、この狂信者、やっぱりめちゃくちゃやってくれますね。そんな人の皮を被った死神に対抗すべく手札誘発も駆使して善戦しますが、その出力と毎ターン繰り出される妨害に大ピンチ…って時に強いんですよね。《三戦の才》は!!

その1枚で一気に流れを変え、あとは押し込む展開!でもシムルグの3大エースは出切ってるしな…。そんな状況でエースになり得たのはまさかの《ブレードバーナーファルコン》!!タイトルから予想つきませんでした…。
そして断頭というワードと、残りLP800を切り裂く攻撃力4000。この辺はダメージがリアルに反映されるからこそできることですよね。LPを超過していても、そのダメージ量で相手に加わる損害も変わる…殺意の塊ですね。

お父様のもとに集結した梨沙さんたちも気になる展開!次回も楽しみにしております! (2024-03-31 20:52)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます!

メタ誘発を組み込んで抑え込もうとしても、すんでの所で妨害を立て可能な限りの物量で攻め立てる藤永は、やはりめちゃくちゃな分類でしょう。
仰るように妨害が強い程に、輝くのが《三戦の才》!ピンチの時から2枚ドローで巻き返していくのはとっても便利です(いろんな意味で。

藤永を葬るべく備えていた渚の最後の切り札はブレード・バーナー・ファルコンとなりました!RRを切り札にする想定でしたが、とどめの瞬間はモンスター次第だったので、採用されたブレードバーナーらしい最期のとどめ技となりましたね。

ダメージだけで行けば4000のライフに4000のブレードバーナーでジャストキルの方が綺麗ではありますが、渚の殺意の現れが残り800のライフへの4000の断頭の刃となりました。
物理的にも精神的にも危険な存在として認知していた渚故の殺意の波動でございます。

梨沙達の所に場面が戻るのは次々回の予定!
いつも読んでいただきありがたい限りでございます! (2024-04-05 22:29)

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