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Report#42「どうして?」 作:ランペル
ピーーー
「ワルトナー様のライフが0になりました。勝者は本導様です。」
グリーンフロア内へと響き渡るアナウンス。それは穂香ちゃんの勝利を告知する。
「じゃらじゃらちゃん……」
穂香ちゃんは気を落とし、目の前の誰もいない虚空を見つめている。
対戦した少女が最後に受けたダメージは2500。
致死ラインの3000には少し足りないが、ワルトナーと呼ばれる少女が受けたダメージはかなりのものだろう。
「いなくなってる…(さっきの音…ジュノンの攻撃で吹き飛ばされただけ…?)」
傷を負わせる事と、死なせてしまう事ではこちら側の心理的なダメージも大きく変わって来る。
ましてや穂香ちゃんがどれだけ傷を負ってしまうか分からない…。
ボーナスのアナウンスが流れ、そこで名前を呼ばれさえすれば死んでいないことは確定する。
「お姉ちゃん…」
「少し…待ってね…」
今にも泣きだしてしまいそうな穂香ちゃんがこちらを向く。
その頭を優しくさすっていると…。
「本導様、ワルトナー様へデュエルボーナスが送られます。ご確認ください。」
アナウンスで二人の名前が呼ばれたことで、ほっと胸をなでおろす。
「穂香ちゃん大丈夫だったよ。さっきの子は死んではいないみたい」
「ほんと…?」
「うん、さっき放送で穂香ちゃんと合わせて二人分の名前が呼ばれてた。
この放送は死んじゃった人の名前は呼ばれないからね」
デュエルした相手が死んでいなかった事を確かめた穂香ちゃんは、ゆっくりと口から息を吐きだす。
「よかった…お姉ちゃん…ありが…と…」
突然ふらついた穂香ちゃんが地面に倒れそうになる。
「穂香ちゃん…!?」
咄嗟に体を支える。穂香ちゃんの残ったライフは600と、彼女が受けたダメージも相当なもののはずだ。
万が一にでも死んでしまっていないか、一番に呼吸を確認する。
「うん…大丈夫…息はしてる……」
小さく呼吸する穂香ちゃんは、目を閉じ静かに寝息を立てていた。
「初めてのデュエルで疲れたよね…。
よく頑張ったね…穂香ちゃん。
初めてのデュエルなのに…フロア主…倒しちゃうなんて…」
一番理想的な結果だ。デュエル前に自分が望んでいた以上の結果を穂香ちゃんが残してくれたのだ。
グリーンフロアでのデュエルを終え、無傷とは行かずとも生き残る…それを実現して見せた穂香ちゃんのデュエルには感嘆しかなかった。
「魔導書…結構動き方が難しいと思うのに…ほんとによく頑張ってくれた…!」
内から湧き上がる喜びと達成感、そして安堵。眠る少女の頭を優しく撫でながら、何度でも彼女の頑張りを賞賛し続ける。
「目が醒めたら、しっかりとお祝いしないと…」
再びフロアの奥にへと目を向ける。先ほどまで少女が立っていた場所には何者もおらず、深い緑色に染められたさらに奥は見えない。
「(ノルマは達成できた…。アリスさんと合流しないと…)」
カードケースから《ゴーストリック・シュタイン》を取り出し、デュエルディスク上に召喚する。
目の前へ召喚された赤いスーツに身を包み、青い肌のモンスター。そのこめかにへネジが埋め込まれたフランケン・シュタインがその大きな手で頭を掻く。
「シュタイン、お願いがあるの。
この子を私の代わりに背負って欲しいの」
万全の状態ならともかくとして、自分も今は傷だらけの身であり、とてもじゃないが穂香ちゃんを抱えて移動は出来そうにない。
シュタインは大きな手を眠る穂香ちゃんの元まで伸ばすと、両手で穂香ちゃんを抱え上げる。
「ありがとう。シュタインは手が大きいからそのままでも大丈夫そうだね。
穂香ちゃんと一緒に私について来てくれるかな」
自分よりも一回りか二回り大きいシュタインはゆっくりと首を縦に下ろしてくれた。
「よし…先にアリスさんに連絡とってみようかな…」
デュエルを挑まれたアリスさんの安否の確認と、合流先の連絡を取ろうとデュエルディスクの画面の受話器のマークを押す。
「(アリスさんの番号入れて…。あれ?)」
番号を入力し終わるといつもならコール音が鳴り始めるのだが、画面にエラーが表示される。
「電話でエラー…?
まだデュエル中…?何かあったのかな…」
考えれば考える程に嫌な事ばかりがどうしても頭に浮かんでしまう。
「ううん、そんなはずはない…。
(ひとまず、アリスさんと別れた場所まで戻ってみよう)」
アリスさんと分かれたブラックフロアのエレベーター前。そこを目指してフロアの出入り口へと向かう。
すると…目の前に何かが降って来た。
「え…?」
降って来たものを確認するべく視線を地面にへと落とす。
そこには、サッカーボール程ある巨大な緑色の虫が居た。
「虫…!?何この大きさ…」
突如降って来た巨大な昆虫を前に体が固まってしまう。
それはまるで自分の居所を探るかの様に脚部で地面をカタカタと叩く。
昆虫の腹部分はオレンジ色に変色した触手のような部位が奇妙に蠢いている。
「(気持ち悪い…下手に刺激してもまずいかな…)」
その巨大さに無視する訳にも行かず、思いあぐねているとその昆虫の頭部がシュタインの抱える穂香ちゃんの方にへと向いた。
「穂香ちゃんを見てる…?」
昆虫の視線が向けられた穂香ちゃんの方へと釣られるように自分も視線を向けた。
その昆虫から目を離した瞬間それは跳躍し穂香ちゃんの所へと飛びついた。
「は…!?ちょっと!!」
巨大な昆虫が眠っている少女に飛びつくだけでも緊急事態だ。
あろうことか、その昆虫は飛びついてすぐに穂香ちゃんの頭に向けてその口を突き刺し始める。なんの違和感も変化もなく、昆虫の頭部が穂香ちゃんの頭の中にへと入り込んでしまった。
咄嗟に穂香ちゃんを守るべく、デュエルディスクでその昆虫を弾き飛ばす。
「穂香ちゃん…!?大丈夫!?
…傷が…ない…?」
即座に昆虫が突き刺したおでこの部分を確認するが、そこには傷どころか何の形跡も残されていなかった。そして、穂香ちゃんも何もなかったかのように静かに寝息を立てたままだ。
「なんなの…この虫…。
とりあえず、シュタイン。穂香ちゃんがあの虫に襲われそうになったら引き離してね…」
《ゴーストリック・シュタイン》が申し訳なさそうに昆虫の視界から外れるように穂香ちゃんを自身の体で隠してくれる。
弾き飛ばした昆虫はひっくり返って地面でもがいている。
「やはり、二人だとうまくいきませんか」
突然背後からカチカチとした足音と共に男の人の声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、ぼさぼさに伸びきった黒髪の男の人が立っていた。ぼろぼろの服を着ており、右足の膝から下に鉄の棒の義足を付けている。
フロア内を照らす緑の照明で表情があまりよく見えないその男の人は、手元のカードケースから1枚のカードを取り出す。
すると、先程まで蠢いていた巨大な昆虫が姿を消した。
「(あれも…やっぱりモンスター…。
そして、穂香ちゃんを襲わせたのはこの人…!)。
あなたは…誰なんですか…?」
突如グリーンフロア内に現れた先程の少女とは別の人間。
一体何者なのか、そして突然穂香ちゃんを襲ってきた理由を聞くべくその人物へと問いかける。
「名乗る必要はないでしょう。この実験場で相手の素性などどうでもいいはずです。
しかし、ミアが敗れた。あの子も頑張り屋さんですがそれを倒したという事は、デュエルしていた本導と言う子も手練れなのでしょう。
クラスは分かりませんが、ぜひ私の手駒に欲しい…。
ですが、二人組でフロアにやってくるというのは誤算です」
またこの感じだ。会話をする気が感じられない。
だが、この人の喋る内容からいくばくか推察する事は出来る。
「その少女を手にするには、あなたは邪魔です。
ミアが死んではないにしても使い物にならない以上…私がやらないとですね」
自分の左腕のデュエルディスクが特有の機械音と共に起動を始めた。
「ぐ…。
あなたが…ここの本当のフロア主ってことですか…。
さっきの女の子は…おとりってことですか…!?」
「見るからに、少女の精神的支柱はあなたのようですね。
それさえ失えば懐柔は容易いでしょう。知識があればあるほど余計な事を考える。
あなたでは使い物になりませんから、そこの少女の教育費になってもらいます」
こちらの話を全く聞こうともしない男は、自分がぶつけた質問に返答することなく、自分勝手な都合でシュタインの抱える少女を指差し話を進める。
「なんですか…それ…。穂香ちゃんを手駒にするってことですか…?
そんなの…許せるわけないじゃないですか…!!」
ザザッピー
「ただいまよりグリーンフロアにてデュエルを開始します。
ルール:マスタールール
LP:8000
モード:グリーンフロアカスタム
リアルソリッドビジョン起動…。」
身勝手な理由で眼前の男が穂香ちゃんを奪い去ろうとしてくる。そんなことを許す事は出来ない。
左腕を構えると、デュエル開始のアナウンスが流れる。
「シュタイン…穂香ちゃんを少し離れた所に寝かせてあげてくれる…?」
シュタインへお願いすると、ゆっくりと穂香ちゃんを離れた床に寝かせてくれた。
それを確認して、デュエルディスクからシュタインを取り除く。
「ありがとう。
…ここでは全部デュエルで決まるはずです。
私がデュエルで負けない限り、穂香ちゃんにも手を出さないでくださいよ…!」
右手を背後の少女をかばうように突き出しながら、穂香ちゃんに手を出さないよう確約を取る。
男は面倒くさそうにため息をしながら、ようやくまともな返答をした。
「言われずとも…。
あなたに余計な事をされて少女を逃がしてもいけませんからね」
男はそう言いながら左腕の起動したデュエルディスクを構えながらこちらへと歩いてくる。
淀んだ瞳に、黒縁の眼鏡、目の下にはひどいくまが出来ていた。不満げに曲がった口元と顎は髭が剃られておらず、全体的に不健康な印象を受ける。
その顔を見た瞬間に思考が停止した。
梨沙の頭の中を巡るのは、困惑。
なぜ
なんで
どうして
どうやって
どういうこと
この状況に、理解が追い付かない。
「なん…で…なんで…?」
「ミアを倒した少女の付き添いですから、侮れはしませんね。
まぁ…すぐ決着はつきます」
男が自分を暗い目で見てくる。冷めた、煩わしいような、面倒くさいような…。
そんな目で自分を見た事なんて一度もなかったはずなのに…。
「ねぇ…なんで…?
どういうことなの…?
答えてよ………。
お父さん……!!!」
振り絞った声で問うた。理解などできるはずないこの状況を説明してくれるのは、目の前にいる男だけなのだから。
声が届いた男は一瞬はっとしたような顔をしたかと思うと、自分の顔を見つめ…。
「あぁ…?」
その目に殺意が宿ってしまったのが分かった…。
「ワルトナー様のライフが0になりました。勝者は本導様です。」
グリーンフロア内へと響き渡るアナウンス。それは穂香ちゃんの勝利を告知する。
「じゃらじゃらちゃん……」
穂香ちゃんは気を落とし、目の前の誰もいない虚空を見つめている。
対戦した少女が最後に受けたダメージは2500。
致死ラインの3000には少し足りないが、ワルトナーと呼ばれる少女が受けたダメージはかなりのものだろう。
「いなくなってる…(さっきの音…ジュノンの攻撃で吹き飛ばされただけ…?)」
傷を負わせる事と、死なせてしまう事ではこちら側の心理的なダメージも大きく変わって来る。
ましてや穂香ちゃんがどれだけ傷を負ってしまうか分からない…。
ボーナスのアナウンスが流れ、そこで名前を呼ばれさえすれば死んでいないことは確定する。
「お姉ちゃん…」
「少し…待ってね…」
今にも泣きだしてしまいそうな穂香ちゃんがこちらを向く。
その頭を優しくさすっていると…。
「本導様、ワルトナー様へデュエルボーナスが送られます。ご確認ください。」
アナウンスで二人の名前が呼ばれたことで、ほっと胸をなでおろす。
「穂香ちゃん大丈夫だったよ。さっきの子は死んではいないみたい」
「ほんと…?」
「うん、さっき放送で穂香ちゃんと合わせて二人分の名前が呼ばれてた。
この放送は死んじゃった人の名前は呼ばれないからね」
デュエルした相手が死んでいなかった事を確かめた穂香ちゃんは、ゆっくりと口から息を吐きだす。
「よかった…お姉ちゃん…ありが…と…」
突然ふらついた穂香ちゃんが地面に倒れそうになる。
「穂香ちゃん…!?」
咄嗟に体を支える。穂香ちゃんの残ったライフは600と、彼女が受けたダメージも相当なもののはずだ。
万が一にでも死んでしまっていないか、一番に呼吸を確認する。
「うん…大丈夫…息はしてる……」
小さく呼吸する穂香ちゃんは、目を閉じ静かに寝息を立てていた。
「初めてのデュエルで疲れたよね…。
よく頑張ったね…穂香ちゃん。
初めてのデュエルなのに…フロア主…倒しちゃうなんて…」
一番理想的な結果だ。デュエル前に自分が望んでいた以上の結果を穂香ちゃんが残してくれたのだ。
グリーンフロアでのデュエルを終え、無傷とは行かずとも生き残る…それを実現して見せた穂香ちゃんのデュエルには感嘆しかなかった。
「魔導書…結構動き方が難しいと思うのに…ほんとによく頑張ってくれた…!」
内から湧き上がる喜びと達成感、そして安堵。眠る少女の頭を優しく撫でながら、何度でも彼女の頑張りを賞賛し続ける。
「目が醒めたら、しっかりとお祝いしないと…」
再びフロアの奥にへと目を向ける。先ほどまで少女が立っていた場所には何者もおらず、深い緑色に染められたさらに奥は見えない。
「(ノルマは達成できた…。アリスさんと合流しないと…)」
カードケースから《ゴーストリック・シュタイン》を取り出し、デュエルディスク上に召喚する。
目の前へ召喚された赤いスーツに身を包み、青い肌のモンスター。そのこめかにへネジが埋め込まれたフランケン・シュタインがその大きな手で頭を掻く。
「シュタイン、お願いがあるの。
この子を私の代わりに背負って欲しいの」
万全の状態ならともかくとして、自分も今は傷だらけの身であり、とてもじゃないが穂香ちゃんを抱えて移動は出来そうにない。
シュタインは大きな手を眠る穂香ちゃんの元まで伸ばすと、両手で穂香ちゃんを抱え上げる。
「ありがとう。シュタインは手が大きいからそのままでも大丈夫そうだね。
穂香ちゃんと一緒に私について来てくれるかな」
自分よりも一回りか二回り大きいシュタインはゆっくりと首を縦に下ろしてくれた。
「よし…先にアリスさんに連絡とってみようかな…」
デュエルを挑まれたアリスさんの安否の確認と、合流先の連絡を取ろうとデュエルディスクの画面の受話器のマークを押す。
「(アリスさんの番号入れて…。あれ?)」
番号を入力し終わるといつもならコール音が鳴り始めるのだが、画面にエラーが表示される。
「電話でエラー…?
まだデュエル中…?何かあったのかな…」
考えれば考える程に嫌な事ばかりがどうしても頭に浮かんでしまう。
「ううん、そんなはずはない…。
(ひとまず、アリスさんと別れた場所まで戻ってみよう)」
アリスさんと分かれたブラックフロアのエレベーター前。そこを目指してフロアの出入り口へと向かう。
すると…目の前に何かが降って来た。
「え…?」
降って来たものを確認するべく視線を地面にへと落とす。
そこには、サッカーボール程ある巨大な緑色の虫が居た。
「虫…!?何この大きさ…」
突如降って来た巨大な昆虫を前に体が固まってしまう。
それはまるで自分の居所を探るかの様に脚部で地面をカタカタと叩く。
昆虫の腹部分はオレンジ色に変色した触手のような部位が奇妙に蠢いている。
「(気持ち悪い…下手に刺激してもまずいかな…)」
その巨大さに無視する訳にも行かず、思いあぐねているとその昆虫の頭部がシュタインの抱える穂香ちゃんの方にへと向いた。
「穂香ちゃんを見てる…?」
昆虫の視線が向けられた穂香ちゃんの方へと釣られるように自分も視線を向けた。
その昆虫から目を離した瞬間それは跳躍し穂香ちゃんの所へと飛びついた。
「は…!?ちょっと!!」
巨大な昆虫が眠っている少女に飛びつくだけでも緊急事態だ。
あろうことか、その昆虫は飛びついてすぐに穂香ちゃんの頭に向けてその口を突き刺し始める。なんの違和感も変化もなく、昆虫の頭部が穂香ちゃんの頭の中にへと入り込んでしまった。
咄嗟に穂香ちゃんを守るべく、デュエルディスクでその昆虫を弾き飛ばす。
「穂香ちゃん…!?大丈夫!?
…傷が…ない…?」
即座に昆虫が突き刺したおでこの部分を確認するが、そこには傷どころか何の形跡も残されていなかった。そして、穂香ちゃんも何もなかったかのように静かに寝息を立てたままだ。
「なんなの…この虫…。
とりあえず、シュタイン。穂香ちゃんがあの虫に襲われそうになったら引き離してね…」
《ゴーストリック・シュタイン》が申し訳なさそうに昆虫の視界から外れるように穂香ちゃんを自身の体で隠してくれる。
弾き飛ばした昆虫はひっくり返って地面でもがいている。
「やはり、二人だとうまくいきませんか」
突然背後からカチカチとした足音と共に男の人の声が聞こえてきた。
振り返るとそこには、ぼさぼさに伸びきった黒髪の男の人が立っていた。ぼろぼろの服を着ており、右足の膝から下に鉄の棒の義足を付けている。
フロア内を照らす緑の照明で表情があまりよく見えないその男の人は、手元のカードケースから1枚のカードを取り出す。
すると、先程まで蠢いていた巨大な昆虫が姿を消した。
「(あれも…やっぱりモンスター…。
そして、穂香ちゃんを襲わせたのはこの人…!)。
あなたは…誰なんですか…?」
突如グリーンフロア内に現れた先程の少女とは別の人間。
一体何者なのか、そして突然穂香ちゃんを襲ってきた理由を聞くべくその人物へと問いかける。
「名乗る必要はないでしょう。この実験場で相手の素性などどうでもいいはずです。
しかし、ミアが敗れた。あの子も頑張り屋さんですがそれを倒したという事は、デュエルしていた本導と言う子も手練れなのでしょう。
クラスは分かりませんが、ぜひ私の手駒に欲しい…。
ですが、二人組でフロアにやってくるというのは誤算です」
またこの感じだ。会話をする気が感じられない。
だが、この人の喋る内容からいくばくか推察する事は出来る。
「その少女を手にするには、あなたは邪魔です。
ミアが死んではないにしても使い物にならない以上…私がやらないとですね」
自分の左腕のデュエルディスクが特有の機械音と共に起動を始めた。
「ぐ…。
あなたが…ここの本当のフロア主ってことですか…。
さっきの女の子は…おとりってことですか…!?」
「見るからに、少女の精神的支柱はあなたのようですね。
それさえ失えば懐柔は容易いでしょう。知識があればあるほど余計な事を考える。
あなたでは使い物になりませんから、そこの少女の教育費になってもらいます」
こちらの話を全く聞こうともしない男は、自分がぶつけた質問に返答することなく、自分勝手な都合でシュタインの抱える少女を指差し話を進める。
「なんですか…それ…。穂香ちゃんを手駒にするってことですか…?
そんなの…許せるわけないじゃないですか…!!」
ザザッピー
「ただいまよりグリーンフロアにてデュエルを開始します。
ルール:マスタールール
LP:8000
モード:グリーンフロアカスタム
リアルソリッドビジョン起動…。」
身勝手な理由で眼前の男が穂香ちゃんを奪い去ろうとしてくる。そんなことを許す事は出来ない。
左腕を構えると、デュエル開始のアナウンスが流れる。
「シュタイン…穂香ちゃんを少し離れた所に寝かせてあげてくれる…?」
シュタインへお願いすると、ゆっくりと穂香ちゃんを離れた床に寝かせてくれた。
それを確認して、デュエルディスクからシュタインを取り除く。
「ありがとう。
…ここでは全部デュエルで決まるはずです。
私がデュエルで負けない限り、穂香ちゃんにも手を出さないでくださいよ…!」
右手を背後の少女をかばうように突き出しながら、穂香ちゃんに手を出さないよう確約を取る。
男は面倒くさそうにため息をしながら、ようやくまともな返答をした。
「言われずとも…。
あなたに余計な事をされて少女を逃がしてもいけませんからね」
男はそう言いながら左腕の起動したデュエルディスクを構えながらこちらへと歩いてくる。
淀んだ瞳に、黒縁の眼鏡、目の下にはひどいくまが出来ていた。不満げに曲がった口元と顎は髭が剃られておらず、全体的に不健康な印象を受ける。
その顔を見た瞬間に思考が停止した。
梨沙の頭の中を巡るのは、困惑。
なぜ
なんで
どうして
どうやって
どういうこと
この状況に、理解が追い付かない。
「なん…で…なんで…?」
「ミアを倒した少女の付き添いですから、侮れはしませんね。
まぁ…すぐ決着はつきます」
男が自分を暗い目で見てくる。冷めた、煩わしいような、面倒くさいような…。
そんな目で自分を見た事なんて一度もなかったはずなのに…。
「ねぇ…なんで…?
どういうことなの…?
答えてよ………。
お父さん……!!!」
振り絞った声で問うた。理解などできるはずないこの状況を説明してくれるのは、目の前にいる男だけなのだから。
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30 | Report#53「決意」 | 255 | 2 | 2024-03-10 | - | |
21 | Report#54「抜け道」 | 173 | 2 | 2024-03-15 | - | |
29 | Report#55「死の栄誉」 | 258 | 2 | 2024-03-25 | - | |
30 | Report#56「灼熱の断頭」 | 259 | 2 | 2024-03-30 | - | |
35 | Report#57「憧れの主人公」 | 229 | 0 | 2024-04-05 | - | |
30 | Report#58「記憶にいない娘」 | 187 | 2 | 2024-04-20 | - | |
22 | Report#59「蝕みの鱗粉」 | 203 | 4 | 2024-04-25 | - | |
32 | Report#60「歪み」 | 239 | 4 | 2024-04-30 | - | |
21 | Report#61「新たなステージ」 | 171 | 2 | 2024-05-10 | - | |
32 | #被験者リストB | 183 | 0 | 2024-05-10 | - | |
24 | Report#62「狂気の残党」 | 171 | 2 | 2024-05-20 | - | |
29 | Report#63「窒息」 | 175 | 2 | 2024-06-15 | - | |
23 | Report#64「護衛」 | 163 | 2 | 2024-07-10 | - | |
21 | Report#65「格付け」 | 121 | 2 | 2024-07-20 | - | |
20 | Report#66「赤い世界」 | 138 | 2 | 2024-08-05 | - | |
21 | Report#67「悪夢の始まり」 | 180 | 6 | 2024-08-15 | - | |
18 | Report#68「見せかけの希望」 | 131 | 4 | 2024-08-25 | - | |
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- 09/09 16:25 評価 1点 《魔轟神獣ペガラサス》「どうやって救えばいいんですかね… 強制…
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#41の一部、#42にて、対戦していた少女の名前が「フローレンス」と表記されていた箇所がありましたが、正しくは「ワルトナー」となります。
現在は修正してますので、閲覧して下さった方で混乱されてしまった方は申し訳ないです>< (2023-12-13 14:52)