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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#3「決死」

Report#3「決死」 作:ランペル



梨沙-LP:3100
手札   :3枚
モンスター:なし
魔法&罠 :伏せ2

ーVSー [ターン4]

朱猟-LP:8000
手札   :0枚
モンスター:《捕食植物ドラゴスタペリア》《捕食植物スピノ・ディオネア》
魔法&罠 :《種砲連射》



「おら、やる気がねぇならさっさとエンドして死 ねや」

「………」

「だんまりかよ…おい!これはデュエル続行できんのか!?」

男が苛立ちながら梨沙にではなく少し上を向いて声を荒げる。

「こんな腑抜けをフロア主にしやがって…これじゃぁいつもと変わんねぇだろうが!あ!?
続行できねぇならさっさとあいつのターンを終わらせろ…俺がぶっ殺してやる…」

男が殺意を荒立てながら静かに自身のデッキトップへと指をかける。
すると、アナウンスの声が響き始めた。


ザザッ
「裏野様。現在あなたのターンです。これ以上、デュエルを続行しないのであれば、強制的にエンドフェイズに移行し、朱猟様のターンへと移行します。よろしいですか?」

アナウンスから強制的にターンが変わることを告げられる。
このままでは、自分のターンが終了して相手のターンになってしまう。そうなってしまえば、いよいよ殺されてしまうだろう…。
自分の右腕へと視線を落とすと、暗がりの中で深く肉が抉られた腕から血が制服と地面へと滴り落ちていた。

「………」

「ほれ、無反応。死にてぇみたいだからさっさと俺にターンを回せや」

「………ない…

「あぁ?」

「死にたくなんか…ない…」

無意識に口から言葉が出ていた…。

「……そういう意思が残ってんなら、俺とデュエルを続けろ。このままそこで倒れ込んでても死ぬことに変わりはねぇだろ。
だったら、あがいてあがいてあがき抜いて…そうすりゃぁ、もしかしたら生き残れるかもしれねぇだろ?」

男はデッキトップから指を離し梨沙へと語り掛ける。

「………」

怖いことは嫌だ、痛いのも嫌だ…でも、死ぬのはもっと嫌…。
ここは私を助けてなんてくれない…。
死なない為には…とにかくこの人にデュエルで勝つしかない。
痛いのも、少しでも受けるダメージを減らすことが出来れば痛みの度合いも小さい…。
今やらないといけないのは、デュエルと向き合う事。そうしなければ、恐怖からデュエルでミスをしてしまう。
ミスしてしまえば、それは私から更なる恐怖を引き出し、最終的には死に直結する…。

気持ちを切り替えないといけない。デュエルだけに全力で集中する…。


 [ターン4]


「私…の…ターン」

気力だけでなんとか立ち上がり、自分のターンを宣言する。

「おぉ?」

「ぅ…ドロー」
手札:3枚→4枚


カードを引く右腕がまだズキズキと痛むが、カードを引くことは出来る。痛みにさえ目を瞑れば、デュエルが続行できない程ではない。

「ク…クハハ。あきらめない奴は好きだぜぇ?ほら、あがいてあがいて俺を楽しませてくれよ。またラリんのは勘弁だからよぉ」

男が再びヘラヘラ笑いながら梨沙の方へ嫌らしい視線を向ける。

「(今は怖いのも痛いのも分かんないこと全部忘れないといけない…そうしてデュエルに集中しないと、今度はその怖さや痛みさえ感じられなくなってしまう…)」

痛みに耐えながらドローしたカードを確認する。

「私は…

「おっと、やる気があるならお前のスタンバイフェイズにカードを使わせてもらう。前のターン墓地へ送られた《捕食植物キメラ・フレシア》の効果で融合またはフュージョン魔法カードのサーチができる。俺は《瞬間融合》を手札に加えさせてもらうぜ。さぁ!来いよ」
手札:0枚→1枚


「…何もせず、ターンエンド…です…」



梨沙-LP:3100
手札:4枚


 [ターン5]


「…ハァ…せいぜい、全力であがいてくれることを期待しておくよ…俺のターン、ドロー」
手札:1枚→2枚


ため息を吐きながら男はデッキトップからカードを引く。

「………」

「……バトルに入る。《捕食植物スピノ・ディオネア》でダイレクトアタックだ」[攻1800]

「相手モンスターの攻撃宣言時、手札の《ゴーストリック・フロスト》の効果を…使います。攻撃モンスターを裏側守備表示にして、自身を裏側守備表示で…特殊召喚…!」[守100]
手札:4枚→3枚


「ほぉ。なら、《捕食植物ドラゴスタペリア》でそのフロストを攻撃だ」[攻2700]

竜のような植物のようなそのモンスターはセットされたフロストめがけて、口から毒の息のようなものを吐き出した。
セットされたカードに触れたそれは爆発し、周囲に毒の霧を振りまいた。

「…!」

「ほら、どうしたぁ?攻撃を防いでいるだけじゃぁ俺は倒せないぜ?」

「そうですね…攻めないと…勝てませんから…」

「んん?」

毒の霧が晴れると、セットカードの一枚が露わになり発動される。

「罠カード。《ゴーストリック・ブレイク》を発動します。この効果により、墓地から2体のゴーストリックを裏側守備表示で蘇生させることが出来る…!」

「ほほぉ」

「私は墓地の《ゴーストリック・アルカード》と《ゴーストリック・キョンシー》の2体を裏側で蘇生します。戻ってきて…!」

私が発動すると、私のディスクからキョンシーがぴょんと、アルカードが黒いマントをなびかせながら私の前に来てくれた…。
それを見て男は震えながら、狂った笑顔を向けてくる…。

「ハ!いいじゃねぇかぁ。反撃、反抗、抵抗は大歓迎だぜ!それをねじ伏せ、いたぶるのが楽しいからな。
さっきのいら立ちをすっ飛ばしてくれるようなデュエルを期待してるぜ。さぁ、何を見せてくれる!?ターンエンドだ」



朱猟-LP:8000
手札:2枚


 [ターン6]


「私のターン、ドロー」
手札:3枚→4枚


「私は《ゴーストリック・アルカード》を反転召喚!」[攻1800]

反転召喚するとアルカードが私の前にコウモリを従え、立ってくれた。まるで、私を守ってくれているようにも感じた…。
デュエルに集中して、少しだけ場が良く見えるようになった…。

「………私のゴーストリック達の強さ!教えてあげます!」

「おぉおぉ、そんな可愛らしいモンスター達で何が出来るのかなぁ?」

「アルカードを素材にオーバーレイネットワークを再構築!」

「何?」

「このカードはゴーストリックエクシーズモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚ができる…。
エクシーズ・チェンジ!

来て、ランク4!《ゴーストリックの駄天使》!」[攻2000]

召喚時の爆発と共に私の前へと来てくれた駄天使は、いつもと変わらない笑顔を私に向けてくれた…。

「(そうだよね。みんなの為にも負けちゃだめだよね。)
駄天使の効果を発動。オーバーレイ・ユニットを1つ使って、デッキからゴーストリック魔法・罠カード1枚を手札に加えます。私はフィールド魔法《ゴーストリック・ハウス》を手札に」
手札:4枚→5枚


「フィールド魔法ぅ?」

「そして、墓地へ送られたアルカードの効果で墓地の《ゴーストリック・マミー》を手札に加えます。
手札:5枚→6枚


行きます。ここからがゴーストリックの本領発揮です!フィールド魔法!《ゴーストリック・ハウス》を発動!」
手札:6枚→5枚


発動するとこの薄暗く殺風景な部屋がゴーストリックのお家へと変化していく。

「(すごい…本当に変わるんだ…。)」

「それで?フィールド魔法を張って何が変わるってんだ?」

「ここはゴーストリック達のお家…ゴーストリック以外は勝手なことはできなくなりました。このカードがある限り、ゴーストリック以外のモンスターの戦闘ダメージ及びすべての効果ダメージは半減します」

「ほぉ」

「そして、相手フィールドに裏側守備表示しかモンスターが存在しない場合、互いのプレイヤーの攻撃は相手への直接攻撃になります」

「ヘンテコな効果してんなぁ…ハハ!面白れぇ!」

「まだ終わりません。私は《ゴーストリック・マミー》を召喚です」[攻1500]
手札:5枚→4枚


のそりとマミーがフィールドに登場した。ホントにミイラみたいな動きをしている。

「続いて、反転召喚!《ゴーストリック・キョンシー》。そして、リバースしたことでフィールドのゴーストリックの数以下のレベルのゴーストリックのサーチが行えます。私のフィールドにゴーストリックは今…3体!よって、レベル3以下のゴーストリックを手札に加えることが出来ます」[攻400]

「なら、その効果にチェーンして《捕食植物ドラゴスタペリア》の効果を発動だ」

「え、何を…」

「ハハ、ドラゴスタペリアは1ターンに1度相手モンスター1体を対象に捕食カウンターを置くことが出来る…」

「捕食カウンター…?」

「獲物へとつける印さぁ…ターゲットになった獲物はいつ狩られるかと怯え、縮こまる…クク」

「印…」

「そうさ、そうして印をつけられたモンスターのレベルは1となる」

「レベル変更効果…エクシーズ召喚の妨害ということですか…」

「それだけじゃねぇさ。ドラゴスタペリアが存在する限り、捕食カウンターの置かれたモンスターの効果は無効化される…これでお前はサーチ効果を使えないってことだ!」

「…!」

「まぁ、ちょっとしたい・た・ず・ら・さ。
次はどうするぅ?まさか終わりじゃねぇよなぁ」

「まだまだですよ。ちょうどレベルを1にしていただいたので、別の方法で行きます!
私はマミーの効果でゴーストリックの召喚権が増えています。手札から《ゴーストリック・マリー》を召喚!」[攻100]
手札:4枚→3枚


「レベル1…ハハ!やってくれるなぁ」

「キョンシーは今、捕食カウンターの影響でレベル1になっているんでしたね。レベル1のゴーストリック2体でオーバーレイネットワークを構築!
エクシーズ召喚!

来て、ランク1《ゴーストリック・デュラハン》!」[攻1000]

X召喚するとデュラハンが馬に乗りフィールドへと走りこんでくる。デュラハンの鎧はがっしりとしていて、とても頼りになる存在に感じられた。

「捕食カウンターを利用してくるとは…クハハ!面白れぇ!」

「デュラハンの攻撃力はフィールドの表側のゴーストリックカードの数×200アップします。よって、攻撃力は自身含め1800に。[攻1800]
そして、バトルフェイズに入ります。《ゴーストリック・デュラハン》で《捕食植物ドラゴスタペリア》を攻撃です」

「攻撃力が劣ったデュラハンで攻撃だぁ…?何をするつもりだ」

「デュラハンの効果を発動!オーバーレイ・ユニットを1つ使って、フィールドのモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで半分にします!」

「何!?」

「当然私が対象に取るのは《捕食植物ドラゴスタペリア》!」[攻1350]

「なんだよ!お前、結構やるじゃねぇか!ハハハ!」

馬が突撃し、デュラハンが剣でドラゴスタペリアを突きさす。その瞬間ドラゴスタペリアが爆発した。

「クハハ…!」

朱猟-LP:8000→7550


「まだ行きます!《ゴーストリック・マミー》と《ゴーストリックの駄天使》でダイレクトアタック!」

「ハハハ!」

朱猟-LP:7550→4050


「(…あれだけのダメージを受けたのにあんまり痛くなさそう…?)」

「ハハハハハ!あぁ、楽しい!楽しいぞ!こんなのは久々だ!まさかダメージまでもらえるとは…クク、クハハ、ハハハハハ!」

ダメージを受けたにも関わらず、男は今まで以上に大声で笑いだす。

「(笑ってる…。)私はカードを2枚セット、《ゴーストリック・マミー》の効果で自身を裏側守備表示にして、ターンエンドです」
手札:3枚→1枚



梨沙-LP:3100
手札:1枚


 [ターン7]


「あぁ、久々だよ…こんなに痛いのはなぁ…クハハ。さすがに、フロア主だけあって腕は確かだ。まだあがいてくれよ?俺の為にな!
俺のターン…ドロー!」
手札:2枚→3枚


「スタンバイフェイズだ!墓地の《捕食植物コーディセップス》の効果ぁ!」

「(あのカードは…確か最初のターンに永続魔法の効果で墓地へ送っていたカード…。)」

「自身を墓地から除外し、レベル4以下の捕食植物2体を墓地から特殊召喚する!蘇れ《捕食植物サンデウ・キンジー》、《捕食植物ダーリング・コブラ》!」[守200][守1500]

「一気に2体の蘇生…」

「ただし、俺はこのターン通常召喚が行えず、融合モンスターしか特殊召喚できない…クク。そして、ダーリング・コブラの効果!
デュエル中に1度、捕食植物の効果で特殊召喚に成功した時デッキから融合またはフュージョン魔法カードを手札に加えることが出来る。俺はデッキから《再融合》を手札に加えさせてもらう」
手札:3枚→4枚


「なら、私も永続罠カード《ゴーストリック・ナイト》を発動しておきます。これの効果によってあなたはこちらにゴーストリックモンスターが居る限り、反転召喚が出来なくなりました」

「そうだそうだ。そうやってどんどんあがいてくれよ?
俺は800のライフを払い装備魔法《再融合》を発動。墓地から融合モンスターの《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》を特殊召喚し、このカードを装備する」[攻2800]
LP:4050→3250
手札:4枚→3枚

毒々しい体のあのドラゴンが戻ってきた…。依然として飢えに満ちたように私の方を見てきている…。

「そして、サンデウ・キンジーの効果で融合魔法なしで融合を行う。自身とダーリング・コブラで融合だ…
融合召喚!

再び現れろ、飢えた牙持つ毒竜よ、レベル8《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」[攻2800]

「な、2体目!?」

1体だけでもおぞましいスターヴ・ヴェノムが2体…。リアルソリッドビジョンで映し出されたそのドラゴンの迫力はすさまじく、忘れようとしていた恐怖がより戻ってくる…。

「だ、ダメ…こわ…がっちゃ…」

「ハハハハハハハハ!!」

突然、その男は大声で笑い始めた。スターヴ・ヴェノムに怯えていた私は急な笑い声に驚き、恐怖への抑えが効かなくなってきた。

「な、なに…」

「さぁ、そろそろ殺してやるよ!それとも、まだまだあがいて俺を楽しませてくれるのかぁ!?」

「(ダメ…ダメだ、恐怖にのまれちゃ…冷静さを失ってしまう…)」


心の中で抑えようとしても、足はどうしても震えてしまう…。


「融合召喚したスターヴ・ヴェノムの効果発動!フィールドのモンスターのみで融合したこのカードの攻撃力は相手フィールドの特殊召喚したモンスターの攻撃力の合計分アップする!!」

「な!特殊召喚されたモンスターの合計分!?」

「お前のフィールドの特殊召喚されたモンスターは駄天使とデュラハン…その合計攻撃力は3800!よって、スターヴ・ヴェノムの攻撃力は3800アップし、6600となる!」[攻6600]


 =====
《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》
融合 闇 ☆8 攻2800 守2000
闇属性モンスター×2
①:このカードがフィールドのモンスターのみを素材として融合召喚に成功した場合に発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターの攻撃力の合計分アップする。
②:1ターンに1度、相手フィールドのレベル5以上のモンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時まで、その相手モンスターの効果は無効化され、このカードはその対象の相手モンスターの効果を得る。
③:このカードが破壊された場合に発動できる。相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、その攻撃力の合計分のダメージを相手に与える。
 =====


「攻撃力6600…!」

攻撃力を吸収したスターヴ・ヴェノムは、紫のオーラを纏い、私の恐怖心をより煽ってくる…。

「さぁ、止めれるもんなら止めてみろ!バトルだ。
攻撃力6600となった《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》で《ゴーストリックの駄天使》を攻撃だぁ!」

スターヴ・ヴェノムは攻撃が指示されると背中にエネルギーを溜め、赤紫色のオーラを羽のようにを大きく広げる…。

「永続罠!《ゴーストリック・ロールシフト》!その効果により、バトルフェイズ中に1度、自分フィールドの裏側守備モンスターを表側攻撃表示に出来ます」

「あぁん?」

「私は裏側の《ゴーストリック・マミー》を攻撃表示に。それがゴーストリックだった場合、相手モンスター1体を裏側守備表示に変更します!私は攻撃力6600のスターヴ・ヴェノムを裏側守備表示に」

今にもビームが打たれそうになったところで、スターヴ・ヴェノムは裏側守備になり、スターヴ・ヴェノムはフィールドからいなくなった。

「ハ!本当に止めるとはな。なら、もう1体のスターヴ・ヴェノムで駄天使を攻撃だ」

「ゴーストリックが攻撃対象に選択された時、手札の《ゴーストリック・ランタン》の効果を発動!その攻撃を無効にして、自身を裏側守備表示で特殊召喚します」[守0]
手札:1枚→0枚



「なんとか…耐えきった?」

「ハハハ!最高だ、最高にあがいてくれる。楽しいったらない。

速攻魔法《瞬間融合》を発動!」
手札:3枚→2枚

「瞬間融合!?」

「フィールドのスターヴ・ヴェノム2体で融合!
融合召喚!

三度、獲物を喰らうため現れよ!《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!!」[攻2800]

「そ、そんな…3体目だなんて…」

「このスターヴ・ヴェノムもフィールドのみで融合召喚された。よって、攻撃力上昇効果を持つ。マミーが表側になったことで、デュラハンの攻撃力がアップ。よって、こちらの攻撃力も上昇値が4000までアップだ!」[攻6800]

「攻撃力…6800…」

もう攻撃を止める術はない。この攻撃力で攻撃されて、次はどれだけの痛みが来るのか?
分からない。怖い。
死ぬかもしれない。怖い。
殺されるかもしれない。怖い。
痛いのは嫌だ。怖い。
無理だ。怖い。

「ほら、さっきみたいに攻撃を止めてみろよ!スターヴ・ヴェノムで《ゴーストリックの駄天使》を攻撃!」

私は恐怖に負けていた。もうデュエルの事なんて考えられるはずがない。
次に確実に来る痛み…。
苦しみ…。
死…。
間違いなく自分が味わったことのない痛みへの恐怖で支配されていた。

死にたくないと願えば願うほど、冷静さは失われていく。

「い、嫌…死にたく……死にたくない!!」

「バーカ!お前は死ぬんだよ。俺の獲物としてな…クアハハハハハ!!」

「いやぁああああ!?!こないで!来ないでぇぇ!」

スターヴ・ヴェノムの攻撃が宣言されると同時にスターヴ・ヴェノムの後ろから触手が伸ばされ、大きな口を開けたその触手に駄天使は…
一飲みにされてしまった…。

「あ……

最後に不安そうな悲しそうな表情でこちらを振り返った駄天使の顔を見てしまった私は…不意に目から涙を流していた。


「ご、ごめ…わた、私…いや…ちが…」

駄天使を一飲みにした触手が大きく揺れ、こちらへ口を大きく開いた。
駄天使の耐えきれなかった戦闘ダメージが紫色の衝撃波となって私へと向かって来る…。

「がはっ…」

梨沙-LP3100→700


重い重い一撃が私の胸めがけて飛んできた。目が見えない。耳鳴りがする。息が出来ない。気を失いかけ、足の力が抜けた…。
力の抜けた足は私の体をその場に維持する力を残しておらず、そのまま衝撃に弾き飛ばされ、私は壁にたたきつけられた。

「ぐ…ぁ…」

背中へとほとばしる壮絶な痛み。吹き飛ばされて壁に叩きつけられるなど今まで体験したことがない。内臓全てが口から吐き出されそうになる感覚に襲われる。
胃液がこみ上げ、口の中を切ったのか血の味が口中に広がる。
壁に叩きつけられ、それから動けなかった。
そのまま、床へと倒れこみ喋ることができない。目の前がちかちかとする。噛まれた腕も痛み、自分の体を起こすことなど叶わない。
言葉にならないうめき声をあげながら、痛みにのたうっていたら、その男が何かを言っている…。

「おっと、そういえばフィールド魔法の効果でダメージが半減されるんだったな。殺り損ねたか…」

そういえば、死にそうなほどに痛いし、苦しいがまだ意識はぼんやりとだがある…。もしかして、助かったのかとほんの少しだけ安堵すると共に感覚がほぼない右腕をデュエルディスクへと近づける。

「わた、し…ぐぁ…のたぁぁん…」

私が死んでいないということは、相手が私を倒しそこなったということ。ということは次に訪れるのは私のターン…。
ターンを続けないと死ぬ…死ぬほど苦しいけれど私のターンなのだから、ドローをしないといけない…。
そして、死なない為に勝たないと…。
動かない腕を無理やりデッキの上まで持っていき、カードを引こうとする…


「おいおい、何寝ぼけたこと言ってんだ?」


一瞬、凍った…。
言葉の意味が分からなかった。
既に《瞬間融合》で出した《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》は攻撃を終えている…。
前のターンから残っていたモンスターは《ゴーストリック・ナイト》の効果で反転召喚していない…。
とにかく、怖かった…。
自分の想像を超えた現象が起こっていないことを切に願いながら、地べたから男へと顔を向けた。

男は笑っていた…。



「速攻魔法《融合解除》を発動する」
手札:2枚→1枚



男が手札から魔法を発動すると共に、フィールドのモンスターがぼやけ始める。
「俺のフィールドの融合モンスターをEXデッキへと戻し、その融合素材一組を墓地から特殊召喚する」

「……ぁ…」

頭に死が突き付けられた。私は負ける…そして訳も分からず殺されてしまう…。

「スターヴ・ヴェノムをEXデッキへと戻し、その素材にした2体のスターヴ・ヴェノムは蘇る…」

死が来た。相手のフィールドに2体の毒竜が姿を見せた。
私は…こいつらに殺されてしまう…。

「実に楽しいあがきっぷりだった。途中の戦意喪失も今に思えばいい余興だった。これで楽にしてやるよ!」

痛みでまともに呂律が回らない。壁に叩きつけられたショックで声も思うように出ない。

「…ゆる…ぁ…ご、ごめ…なさ…ころ、さな……いで!…ころさ……ないで!おね…が


《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》で《ゴーストリック・マミー》を攻撃する。


命乞いは聞き届けてもらえなかった。
というより、このかすれた声で聴いてもらえていたのだろうか?
たとえ、一言一句聞き逃さず、意味をすべて理解してくれていたとしてもこの男は私を見逃してはくれないだろう…。
だって、私は…


獲物…なのだから…。




《ゴーストリック・デュラハン》の効果を発動!オーバーレイ・ユニットを使って、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》の攻撃力を半分にする。




気づいたら、私は声を振り絞って宣言していた。デュラハンの効果の発動を。

「おん?」

効果が適用されスターヴ・ヴェノムの攻撃力が半分の1400に。攻撃力1500のマミーでスターヴ・ヴェノムを倒せたのだ。

朱猟-LP3250→3150



「お前は…最高だな。素晴らしい。お前に会えて、デュエルが出来て本当に良かった」

何を勘違いしたのか助かったと錯覚した。


そんなこと、あるはずがないのに…。


男は満面の狂った笑顔で嗤いながら言い放った。

「最後の最後の命が燃え尽きるその時まで、俺の為にあがき尽くして、俺を楽しませてくれるなんて、なんて最高なんだお前は!!
お礼だ、もう終わりにしてやるよ」

分かっていた。勝てないことは…この男に慈悲がないことも…
ただ…

悔しかった…。


「《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》が破壊された時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターをすべて破壊し、その攻撃力の合計分のダメージを…お前に与える!!」



梨沙-LP700→0


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コングの施し
はじめまして!1話から読ませて頂きました!状況描写、デュエル展開、セリフもすごい魅力的でほんとに一瞬で3話まで読んでしまいました!緊迫感があって展開も読めず、本当に作品に引き込まれますね!このまま最新話まで読んでしまおう!という感じです!素晴らしい作品をありがとうございます;; (2023-07-20 17:26)
ランペル
コングの施しさん閲覧及びコメントありがとうございます。
お褒め頂きありがたい限りでございます!描写はリアルソリッドビジョンを題材にしているのもあって、結構力を入れている部分はありますね。

つたない部分もあるかと思いますが、楽しんでいただければ幸いです!
とてもうれしいコメント本当にありがとうございます(>∀<)ノ (2023-07-21 00:02)

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