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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#57「憧れの主人公」

Report#57「憧れの主人公」 作:ランペル


ピー
「先行は朱猟様、後攻は山辺様になります。」


 [ターン1]


互いにデッキから5枚のカードを引ききる。
山辺は右手だけとなったその手に5枚の手札を握り込み、力強く拳を朱猟へと向ける。

「さぁ~て、お手並み拝見と行こうか?
俺のターン、手札から《捕食活動》を発動。
手札から捕食植物を特殊召喚し、デッキからプレデターカードのサーチだ」
手札:5枚→4枚

「展開とサーチの両立ねぇ。
早速止めておくぜ!
《灰流うらら》を手札から捨てて効果発動!
相手のデッキに触れる効果を無効にする」
手札:5枚→4枚

朱猟の目の前を桜の花びらが舞い散り、発動した魔法カードの効力が失われる。

「は!脳筋の癖にこざかしい事すんじゃねぇよ!
《捕食植物サンデウ・キンジー》通常召喚だ」[攻600]
手札:4枚→3枚

モウセンゴケの特徴を持ったエリマキトカゲのモンスターが、フィールドへぺちゃりと現れた。

「サンデウ・キンジーの効果を発動。
融合魔法なしに闇属性の融合召喚を行う。
俺は《捕食植物サンデウ・キンジー》と手札の《捕食植物テッポウリザード》で融合…。
融合召喚…!

レベル5…《捕食植物アンブロメリドゥス》!」[守2500]
手札:3枚→2枚

背中からワックスの様に煌めく葉を生やし、体中を緑色の葉で覆われたワニの様なモンスターが唸り声をあげる。

「アンブロメリドゥスが融合召喚時、デッキか墓地、EXデッキの表側のPモンスターの中から捕食植物モンスターか、プレデターカードを手札に加える事が出来る。
俺は《捕食植物セラセニアント》を手札へ加える」
手札:2枚→3枚

アンブロメリドゥスが己の体を震わせると背中の葉と花が揺らめく。
そして、デッキより飛び出した1枚が朱猟の手札へ加えられた。

「墓地の《捕食植物テッポウリザード》は、俺が捕食植物融合モンスターを特殊召喚したターンに特殊召喚できる!さらに、墓地からの特殊召喚時には1枚ドローのおまけつきだ」
手札:3枚→4枚


 =====
《捕食植物テッポウリザード》
闇 ☆3 植物族 攻1200 守1200 
このカード名の①の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
①:自分が「捕食植物」融合モンスターを特殊召喚したターンの自分メインフェイズに発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。
②:このカードが墓地から特殊召喚した場合に発動できる。デッキから1枚ドローする。
 =====


たくさんの紫の果実を生やす蔦を、尻尾のように伸ばすトカゲ型のモンスターが地面より生えてくる。細かな毛に覆われた紫の果実の一つが膨らむと破裂し、中から1枚のカードが勢いよく朱猟の手札へ加わった。

「自己蘇生にドロー効果持ちとは随分と優秀なモンスターじゃねぇか!
いいぜ、もっとだ…もっとお前のデュエルを見せろ!」

「クハハ、何を楽しそうに笑ってやがんだ。
お前はこれから俺に嬲り殺されるってのによぉ!
《捕食植物アンブロメリドゥス》の第二の効果。
テッポウリザードをリリースし、デッキから捕食植物1体を特殊召喚する。
俺はデッキから《捕食植物ダーリング・コブラ》を特殊召喚だ!」[守1500]

アンブロメリドゥスの背中の葉より1本の蔦が飛び出す。
飛び出した蔦がテッポウリザードを絡めとると、そのまま己の背の葉の中へと取り込んでしまう。
その後、地面より蛇を模した双頭の植物が生えてくる。

「《捕食植物ダーリング・コブラ》が捕食植物の効果による特殊召喚された時、デッキより融合、フュージョン魔法である《超越融合》を手札に加える」
手札:4枚→5枚

双頭の蛇の頭部が花開き、悍ましい口を見せ威嚇する。
その開花と共にデッキより飛び出す1枚のカード。

「《超越融合》…確か融合素材を蘇生する効果持ちだったか」

「お前が知ってるカードと同じかは分からねぇがな?
1000のライフを支払い《超越融合》発動!
他のカードのチェーンを許さず、フィールドの融合モンスター《捕食植物アンブロメリドゥス》と《捕食植物テッポウリザード》の2体を素材に融合…。
融合召喚!

レベル8…《捕食植物ドラゴスタペリア》!」[攻2700]
手札:5枚→4枚
朱猟LP4000→3000

空間内に漂い始めた強烈な腐敗臭。
それはフィールドにへと咲き誇った禍々しい華竜が原因だ。

「ぐはは!こりゃひでぇ臭いだ。
いいじゃねぇか…。その禍々しさはボス戦にぴったりってもんだろうが!」

立ちふさがる強敵の貫禄に、心を躍らせる山辺。
その笑顔の前に強敵が更なる手に出る。

「残念だが、まだ効果処理は終わっていない。
融合召喚の後、素材となった2体を攻撃力を0にして蘇生し、それらのレベルを4に変更する」[攻0][攻0]
《捕食植物アンブロメリドゥス》:☆5→☆4
《捕食植物ダーリング・コブラ》:☆3→☆4

「レベルの変更だと…!?」

華竜が威嚇するべく瘴気の花粉を散らしながら咆哮をあげた。
それらが地面に落ち切った時、融合素材となった2体のモンスターが地面より再度咲き始める。

「《超越融合》は蘇生効果はあれど、レベルの変更効果なんてものはなかったはずだ…!?」

記憶の中のカード効果と異なるカードに困惑しながら、デュエルディスクにてその詳細を確認する。


 =====
《超越融合》通常魔法
このカードの発動に対して魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。
①:1000LPを払い、自分フィールドの融合素材モンスター2体を対象として発動できる。対象のモンスターを融合素材とし、融合モンスター1体を融合召喚する。その後、対象のモンスターを墓地から攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力は0になる。さらにその後、以下の効果から1つを選択して適用する。
●対象のモンスターのレベルはターン終了時まで4になる。
●対象のモンスターの内1体をターン終了時までチューナーとして扱う。
②:このカードを発動したターンのエンドフェイズに、このターンにこのカードの①の効果を適用したモンスターを素材としてS・X召喚を行わなかった場合に発動する。自分フィールドのモンスターを全て破壊し、自分はこの効果で破壊したモンスターの数×1000ダメージを受ける。
 =====


「言ったよなぁ?
お前の知ってるカードと同じか分からねぇってな!」

そう言った朱猟はデュエルディスク上のモンスターを手に取り、もう1体のモンスターの上へと重ねる。

「俺はレベル4となった《捕食植物アンブロメリドゥス》と《捕食植物ダーリング・コブラ》の2体でエクシーズ…。
エクシーズ召喚!

ランク4…《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」[守2000]

降り立ったのは漆黒より生まれしドラゴン。
咆哮をあげ、己の顎より秀でた逆鱗の牙が鈍く輝く。

「は…はは…ぐはははは!!
なんだよ!あんたも知ってんのか!
アニメで見られなかったエクシーズ派生召喚じゃねぇか!!
あぁ、ワクワクが収まらねぇよ俺は!」

何かの記憶と結びついたであろう山辺は感嘆の声をあげながら、はち切れんばかりの筋肉で満たされた右腕を大きく振るう。

「あぁ…?
アニメ?訳分かんねぇ事言ってるんじゃねぇよ」

山辺の興奮の意図が分からず朱猟は困惑の表情を見せる。
それに覆いかぶせるように、山辺が片腕で大きな身振りと共に大声で語りだす。

「俺は理解したのさ!
お前がアニメや漫画の強大な敵キャラクターと同じだってことをな!
さっきまで使ってたような俺の知る現実のカードとは異なる効果を持った凶悪なカードをどんどん使って来るだろうぜ。
こういうのだよ…こういうのでいいんだ…やっぱり未知の強敵ってのはワクワクするってもんだ!
そして、それを打ち倒す主人公ムーブってやつにも憧れるよなぁ!?」

嬉しそうに語る山辺に釣られるように、朱猟も蔑みを含んだ笑い声をあげる。

「クハハ!脳みそが筋肉に侵されてる奴の言うこたぁさっぱり分からねぇよ!
だが、その喜びに満ちた顔が苦痛に歪むのを想像すると、掻き立てられるもんがあるなぁ…。
オラ!やれるもんならやってみろや主人公様!
永続魔法《捕縛蔦城》発動ぉ!!」
手札:4枚→3枚

狂気を孕んだ笑みと共に1枚のカードが発動される。
その発動に合わせ、朱猟の背後に無数の蔦が現れ、それらは絡み合いまるで城の様に高くそびえ立った。

「こいつは…?」

「《捕縛蔦城》がある限り、お前のフィールドの表側カードの効果は全て無力化され、攻撃を封じるんだよ。
デュエルってのはフィールドを介して展開を進めるだろ?そのすべてを無力化されるってこった」

強力な制圧カードの発動に山辺は胸部のデュエルディスクより照射される電子画面を見つめ、黙りこくる。

「オラァ!さっきまでの威勢はどうしたんだぁ!?
主人公なんだろ!たった1枚のカードでもうだんまりかよ!なぁ!?
クハハハハ!」

朱猟が笑い声をあげる。
そして、それに反応を示した山辺はにやりと口元を緩ませた。

「そうだな!
1枚で全てを無力化するってんなら、俺はそれを1枚のカードで突破してやろうじゃねぇか!」

「そうだそうだ、生きが良くねぇとギャップってのが生まれねぇ。
弱った生き物の断末魔ってのも良いが、反抗的な奴が屈服するってのもそそられるってもんだよ。
俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!」
手札::3枚→2枚


朱猟-LP:3000
手札:2枚


 [ターン2]


「俺のターン!ドロー!!」
手札:4枚→5枚

声の張り上げと右腕のふるいに反して、胸部に装着されたデュエルディスクからは静かにカードが自動的に1枚排出される。

「うぅん…ハイテクで魅力的だが勢いよくデッキからカードを引くってので映えないのはほんのちょっと残念かもな?
冷静なクールキャラには似合いそうだから、キャラ変でもしてみるか?
いや、これに慣れればきっと様になるドローが出来るだろ!ぐはは!」

「んなこと気にしてる場合か?
スタンバイフェイズに《捕縛蔦城》の強制効果が発動。
相手フィールドのモンスターの数×800のダメージをお前に与えるって効果だ」

強制的に発動された永続魔法の効果。
待っていたと言わんばかりに、山辺は巧みに右手の手札から1枚だけを墓地へと送り込む。

「さっき確認したからな!知っているぞ!
そして…その強制効果が弱点だ!手札から《幽鬼うさぎ》の効果を発動だ!
既に発動されている魔法か罠カードが効果を発動した時、このカードを手札から捨てそのカードを破壊する!」
手札:5枚→4枚

「ほぉ…?」

朱猟の後ろにそびえる蔦の城。
その周囲を透き通った兎の霊体が巡遊すると、瞬く間に《捕縛蔦城》が瓦解し始めた。

「口だけ達者な脳筋ではねぇみてぇだな?」

「ぐはは!当たり前だ。
俺はまたの名を《ヴィクトリー》!デュエルで勝利を掴み取る男なんだからな!
メインフェイズに入り、《輝光竜セイファート》通常召喚!」[攻1800]
手札:4枚→3枚

胸部に銀河を思わせる淡い赤い色の球体を宿すドラゴンが、フィールドへと現れた。

「セイファートの効果を発動!手札の《ヴィクトリー・ドラゴン》を墓地へと送り、属性の異なる同レベルのドラゴン族…レベル8の《深淵の獣ルベリオン》をサーチだ!」
手札:3枚→3枚

山辺が右手に握る4枚の手札の中から1枚だけを、器用にセイファートへと放る。
胸部の球体へとそれが吸い込まれ、デッキより自動的に1枚のカードが排出された。
掴み取ったそのカードを即座に墓地へと送り、新たな効果の発動が宣言される。

「サーチしたルベリオンの効果を即座に発動だ。
手札から墓地へ送り、ピーステッドのサーチを行う。俺はデッキより《深淵の獣マグナムート》をサーチだ!
さらに、手札に加わったマグナムートの効果発動。お前の墓地の闇属性《捕食植物サンデウ・キンジー》を対象に除外する事で、手札から特殊召喚だ!」[攻2500]
手札:3枚→2枚

両腕を石柱にて封じられた禍々しい赤いドラゴンが、石柱を地面に叩きつけながらフィールドにへと降り立った。叩きつけた事によりヒビの入った地面より、サンデウ・キンジーが芽吹くも、即座にマグナムートの振るった腕により摘み取られ消失する。

「特殊召喚したマグナムートの効果を発動!
エンドフェイズにデッキからドラゴン族を手札にサーチだ。
更に!マグナムートをリリースする事で、墓地の《深淵の獣ルベリオン》は特殊召喚が出来る。蘇れ!」[攻2500]

地面が割れ、その地割れにマグナムートが引きずり込まれる。
そして、そこから白銀の鱗に身を包み、まるで人間の様な立ち振る舞いをする竜が姿を現す。赤い目を光らせながら、竜が咆哮をあげた。

「《深淵の獣ルベリオン》の効果を発動!
デッキより烙印永続魔法か永続罠カード1枚を俺のフィールドに表側で置くことが出来る」

「なら、俺も小賢しい事をして邪魔してやるよ。
《捕食植物ドラゴスタペリア》の効果を発動。1ターンに1時、相手モンスターを対象に捕食カウンターを置く。捕食カウンターの置かれたモンスターのレベルは1となり、
ドラゴスタペリアが居る限り、捕食カウンターが置かれたモンスターが発動した効果は無効化される!」
《深淵の獣ルベリオン》:☆8→☆1

咆哮に反応した華竜が、毒素の塊をルベリオンに向けて放つ。
それを喰らったルベリオンの首元に、小さなトゲが刺さったように緑の小型の植物が噛みついている。

「つまり、ルベリオンの効果が無効化された訳だな。
だが、俺はその程度で止まりはしない!
自分メイン中に、相手がモンスター効果を発動したことで《三戦の才》を発動!
デッキから2枚ドローする!」
手札:2枚→3枚

「ちっ…面倒なカード持ってやがんな…」

デュエルディスクより機械的に2枚のカードが排出される。
右手のみで巧みにカードを操る山辺は、デュエルディスクをまるで手足の様に操作すると共に手札のモンスターを展開した。

「俺の墓地から闇属性《深淵の獣マグナムート》を除外し、手札から《深淵の獣ドルイドヴルム》を特殊召喚する!」[守2000]
手札:3枚→2枚

広げた翼とその体を鎖で拘束された翼竜が、うめき声をあげながら地面にへと降り立った。

「さらに、光と闇属性のドラゴン族が2体以上いる時、手札から《螺旋竜バルジ》が特殊召喚できる!
来い!」[守2500]
手札:2枚→1枚

まるで銀河を思わせるように螺旋状に体を巻いた竜が、超質量の口を開き、音にならない咆哮をあげる。

「バルジの更なる効果を発動!ターン終了時まで俺のフィールドのモンスター全てのレベルを8へと変更する!」
《深淵の獣ドルイドヴルム》:☆6→☆8
《輝光竜セイファート》:☆4→☆8

「レベルの変更だ?」

「レベル8となった《輝光竜セイファート》に、レベル8の《螺旋竜バルジ》でオーバーレイネットワークを構築ぅ!

希望隔てし闇の大河を貫き、勝利の糧とせよ!
エクシーズ召喚ん!

導けぇ!《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》!!」[攻3000]

爆発と共に飛来したのは、白金の装甲に覆われた銀河竜。
光子で稲光の様に輝くその青い翼と体を振るい、それは顕現した。

「ははぁ、でかぶつの登場ってことだ」

「ぐはは!まだまだこれからだぜ!
レベル1となった《深淵の獣ルベリオン》でリンクマーカーをセットぉ!
リンク召喚!

導け、LINK1《ストライカー・ドラゴン》![攻1000]

ゲートより爆撃と共にフィールドへと青い装甲に覆われたドラゴンが撃ち込まれる。

「リンク召喚した《ストライカー・ドラゴン》の効果によりデッキから《リボルブート・セクター》をサーチ!
そのまま《ストライカー・ドラゴン》と《深淵の獣ドルイドヴルム》でリンクマーカーをセットぉ!
リンク召喚!

導け、LINK2《ドラグニティナイト-ロムルス》!」[攻1200]
手札:1枚→2枚

連続リンク召喚が決まり、緩やかな風と共に白銀の鱗に身を包んだドラゴンがフィールドへと降り立つ。

「この瞬間にリンク召喚した《ドラグニティナイト-ロムルス》の効果と、墓地へ送られた《深淵の獣ドルイドヴルム》の効果を発動だ。
ドルイドヴルムの効果により、お前の《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を対象に墓地へ送り、ロムルスの効果で《竜の渓谷》をサーチだ!」
手札:2枚→3枚

逆鱗震わす黒い竜の足元より大量の鎖が飛び出し、竜を縛り上げる。
縛り上げられうめき声を漏らす竜を構うことなく、その鎖は黒竜を地面の中にへと引きずり込んでしまった。

「ちっ…」

「まだ終わりやしない!
フィールド魔法《竜の渓谷》を発動し、その効果も発動!
手札1枚をコストにデッキからドラゴン族1体を墓地へ送る効果を使うぜ。
手札の《アブソルーター・ドラゴン》をコストにデッキから《輪廻竜サンサーラ》を墓地へと送る!」
手札:3枚→1枚

デッキより飛び出したカードを墓地へと送った山辺がデュエルディスクを操作すれば、デッキより新たな1枚が飛び出す。

「墓地へ送られた《アブソルーター・ドラゴン》の効果発動。
デッキからヴァレットモンスターである《ヴァレット・トレーサー》を手札へと加え、フィールド魔法を貼り替え発動《リボルブート・セクター》!
手札:1枚→1枚

その効果も続けざまに使うぜ。ヴァレットの攻守は300上昇し、手札からヴァレットモンスター2体までを守備表示で特殊召喚できる!
俺は手札から《ヴァレット・トレーサー》を特殊召喚だ!」[守1300]
手札:1枚→0枚

赤い装甲に身を包む弾丸を模した頭部を持ったドラゴンが、フィールドへと撃ち込まれた。

「おいおい、一体いつまで悠長に展開を続けるつもりだ~?」

呆れたような身振りをする朱猟。
それへ右上腕の筋肉を誇示しながら、山辺が言葉を投げ返す。

「この勝利へと導くための過程が大事なんだぜ!
強大な敵を打ち倒す俺の勇姿をお前の目に焼き付けてやる準備期間って事だ!
《ヴァレット・トレーサー》効果発動!
自分フィールドのカードを破壊し、デッキよりヴァレットモンスターを特殊召喚する。
俺は《リボルブート・セクター》を対象に破壊し、デッキより《ヴァレット・リチャージャー》を特殊召喚だぁ!」[守2100]

自らが弾丸となり、発砲されたトレーサーが残した軌跡をたどる様に緑の翼を広げた新たな弾丸竜が、フィールドへと導かれる。

「ま…積み上げたもんが一瞬で崩される虚無感ってのが、お前の表情を歪めてくれるってんなら確かに重要かもなぁ?」

そう言って不敵な笑みを見せる朱猟に、山辺は己の闘志あふれるデュエルを続けていく。

「ぐはは!そうなるか、ならないかは俺の腕の見せ所って事だな!
行くぜ…連続リンク召喚だ!

《ヴァレット・トレーサー》、《ヴァレット・リチャージャー》のそれぞれでリンクマーカーをセットぉ!
連続リンク召喚!

導け、ロムルスの右下へLINK1《ストライカー・ドラゴン》!
左下へLINK1《守護竜ピスティ》!」[攻1000][攻1000]

連なる藍色の2つの正方形。
それより2体のドラゴンが飛び出る。

「ピスティの効果を発動!
2体以上のリンクモンスターのリンク先となっているモンスターゾーンへ除外されているドラゴン族を特殊召喚できる。
《守護竜ピスティ》と《ストライカー・ドラゴン》のリンク先は空いている。
除外されている《深淵の獣マグナムート》を特殊召喚だ!」[守2000]

ピスティが鳴き声をあげると共に、胸部が赤く輝き始める。
それと共に、自身の隣へ位置するゾーンへ縛られた赤き獣が地響きと共に降り立った。

胸部より展開されているデュエルディスクに、召喚されたモンスター達。
山辺はそれらを再度手に取ると、止まる事のない展開を続けていく。

「《守護竜ピスティ》にさっき特殊召喚した《深淵の獣マグナムート》でリンクマーカーをセット!
リンク召喚!

導け、LINK2《デリンジャラス・ドラゴン》!」[攻1600]

胸部に回転弾倉を備えたドラゴンが、両手の銃砲を構えながら現れた。

「《ストライカー・ドラゴン》の効果を発動!
フィールドの《デリンジャラス・ドラゴン》と墓地の《ヴァレット・リチャージャー》を対象!対象のフィールドのモンスターを破壊し、墓地のモンスターを手札にへと加えさせてもらう!」
手札:0枚→1枚

《ストライカー・ドラゴン》がカチカチと己の牙をかみ合わせ音を鳴らす。
それが勢いよく嚙み合わさりガチッと音がした時、まるで引き金が引かれたように《デリンジャラス・ドラゴン》の体がはじけ飛ぶ。
そして、その爆発の中から1枚のカードが山辺の手元に飛び込んできた。

「わざわざ呼び出したモンスターを破壊してまで、モンスターの回収だぁ?
何を狙ってやがる」

「こう言う事だ!
EXから呼び出された俺の闇属性モンスターが破壊された時、先程回収した《ヴァレット・リチャージャー》を墓地へと送り効果を発動!
破壊されたモンスターとは名の異なる闇属性を墓地から特殊召喚できる!
蘇れ《ヴァレット・トレーサー》![守1000]
手札:1枚→0枚

まるで弾丸を再装填するかのように、墓地へ送り込んだカードの代わりのカードが墓地より即座に飛び出す。

「さらに、《ヴァレット・トレーサー》が特殊召喚されたことで、ヴァレットモンスターの展開に反応して蘇生できる《デリンジャラス・ドラゴン》を墓地から特殊召喚だ!」[攻1600]

先程爆発し破片が飛びったものが集約していき、再び《デリンジャラス・ドラゴン》となって咆哮をあげた。

「結果としてモンスターの数が増えた訳だ」

「ぐははは!そう言う事だ。
さて…待たせたな?
ここから締めに入ってくぜ!
リンク1の《ストライカー・ドラゴン》にリンク2の《デリンジャラス・ドラゴン》と《ドラグニティナイト-ロムルス》の3体でリンクマーカーをセットぉ!!」

3体のドラゴンが山辺の上空に浮かび上がったゲートにへと飛び込んでいき、各々が矢印を赤く灯していく。

「閉ざされし世界を葬る勝利への豪風!
リンクしょうかぁぁん!!!

導けぇ!LINK5《ヴァレルエンド・ドラゴン》!」[攻3500]

右手を朱猟に向け力強く広げた。
それと同時に、上空のゲートより重厚なドラゴンが爆音と共に飛び出した。
三つ首のそれぞれが咆哮をあげ、それが奏でる重低音が空気を震わせる。

「へぇ…?
中々の威圧感じゃねぇか」

「ぐははは!そうだろう!
これこそが俺の到達点にして勝利の鍵!
仕上げだ、《ヴァレルエンド・ドラゴン》の効果を発動!
お前の《捕食植物ドラゴスタペリア》と俺の墓地の《ヴァレット・リチャージャー》を対象に効果を発動。ドラゴスタペリアの効果を無効にし、墓地のリチャージャーを特殊召喚するぜ!」[守2100]

ヴァレルエンドが口から静かに弾丸を放つ。
それが命中したドラゴスタペリアは、周囲に振り撒いていた瘴気の花粉が収まってしまう。
そして、トレーサーの隣へ並ぶようにリチャージャーがフィールドに再装填された。

「俺はレベル4の《ヴァレット・リチャージャー》にレベル4のチューナー《ヴァレット・トレーサー》をチューニング。
雄々しき竜よ。その獰猛なる牙を今、銃弾に変え撃ち抜き勝利をこの手に!
シンクロ召喚ん!

導けぇ!レベル8《ヴァレルロード・S・ドラゴン》!」[攻3000]

トレーサーが描いた緑の円陣へリチャージャーが飛び込む。
迸る閃光の中より白き装甲に身を包んだドラゴンが出でだし、緑に発光する翼を広げた。

「シンクロ召喚時に、サベージ・ドラゴンの効果発動!墓地のリンクモンスターである《ドラグニティナイト-ロムルス》を自身へ装備。
そして、そのリンクマーカーの数だけ自身にヴァレルカウンターを乗せ、攻撃力が装備したモンスターの攻撃力の半分…つまり600アップする![攻3600]

サベージ・ドラゴンが咆哮をあげると、2つの光弾が胸部の回転弾倉にへと装填されていく。

「さぁ~て!
完成だ!
これがお前を倒す為に俺が用意できる最高の盤面!!
俺の力の全て!!!」

山辺の眼前に並ぶのは3体の雄々しきドラゴン。
それらのドラゴン3体、5つの首が獰猛な咆哮を朱猟に向けて放つ。

その咆哮は空気を揺らし、地面さえも震わせた。
しかし、朱猟は何のそのと言った顔つきで変わらず不敵な笑みを見せているだけだ。

「クハハ、いいじゃねぇか?
その自信満々の顔。並び立ったそのドラゴン共。
それが全部全部朽ち果てていく様を想像するだけで、俺はとってもご機嫌ってもんだ!」

吠える男に、はち切れんばかりの力を誇示する男もまた笑顔で返す。

「ぐはは!
そうだ!そうだよ!
悪役はそうでなくちゃいけねぇ!相手がどれだけ完璧な盤面を用意してきたとしても不敵な姿勢を崩さぬ絶対的な悪!
そんな相手に打ち勝ち、勝利を掴み取ってこそ主人公!
あぁ…血がたぎる…。この内より溢れ出るデュエルへの熱…!
んんんんんんブァートルフェーイズぅ!!!」

吸い込んだ息と共に溜めながら吐き出されたバトルフェイズ。
力を込めた右腕で目標となる相手を指差す。

「《ヴァレルエンド・ドラゴン》で《捕食植物ドラゴスタペリア》を攻撃ぃ!」[攻3500]

三つ首のドラゴンの内の1つの口の中へとエネルギーが集中していく。

「クハハ!
いいだろ、せっかくだから貰っておいてやるよ。
てめぇの作った作品をなぁ!?」

ドラゴンは口に溜め込んだそれを弾丸として発砲した。
弾丸は華竜の体を貫きぐちゃぐちゃにし、貫通した弾丸が朱猟の元へと向かう。
口を不愉快に歪ませた男は左腕に装着しているデュエルディスクでその銃弾を弾き飛ばすと、即座に爆発が巻き起こった。

「クハハハ!!
おいお~い、痺れるじゃねぇかよ」

朱猟LP3000→2200


弾いた直後に掲げた左腕を震わせながらも、笑みを崩さない朱猟。
それを感心しつつも、山辺は更なる追撃を敢行する。

「まさかあれを弾ききるとはな!!
ならこのダイレクトアタックも耐えきるつもりか!?
《ヴァレルロード・S・ドラゴン》でダイレクトアタックだぁ!!」[攻3600]

白き獰猛なドラゴンが口を開くと砲身が姿を現す。
次第にエネルギーの溜まって行くそれから放たれる威力は、想像に難くないだろう。

朱猟は攻撃に合わせて、手札より1枚のカードを手に取った。

「忘れてる訳じゃぁねぇよなぁ!?
相手の直接攻撃宣言時、手札の《捕食植物セラセニアント》を特殊召喚できる!」

デュエルディスクへ叩きつけようとしたそのカード。
それが、銃声と共に朱猟の手から弾き飛ばされるのを朱猟は目で追った。

「《ヴァレルロード・S。ドラゴン》は1ターンに1度、ヴァレルカウンターを1つ取り除くことで、相手の効果発動を無効にすることが出来る!」

朱猟はデュエルディスクへと伸ばしたその手を止める事無く、デュエルディスクの画面にへと触れた。

「なら、こっちだなぁ?
罠発動《捕食発芽》!
俺のフィールドに《捕食植物トークン》3体を特殊召喚!」[守0][守0][守0]

地面より口開く小さな植物。
小さなそれは地面から飛び出すと甲高い声をあげる。


 =====
《捕食発芽》(プレデター・ガーミネーション)通常罠
①:以下の効果から1つ、または両方を選択してこのカードを発動できる。
●自分の闇属性モンスターが相手モンスターの攻撃対象に選択された場合に発動できる。その自分のモンスターはその戦闘では破壊されず、相手の攻撃モンスターを破壊する。
●自分フィールドに「捕食植物トークン」(植物族・闇・星1・攻/守0)3体を特殊召喚する。
 =====


「ここで壁モンスターか、サベージ・ドラゴンで《捕食植物トークン》の1体を攻撃だ!」[攻3600]

朱猟へと向けられていた銃口が地面に向けられる。
放たれた音速を超えた弾丸が、小さな植物を木っ端みじんに粉砕した。

「だが《ヴァレルエンド・ドラゴン》は相手モンスター全てに攻撃する効果を持っている。
ヴァレルエンド!残ったモンスター全てを焼き払え!」[攻3500]

指令の下った三つ首のドラゴンが、芽吹いたばかりの新芽に銃弾の雨を浴びせる。
瞬く間に新芽は焼き切れ後も残さず消え去った。

「こりゃひでぇな!
一瞬で壁モンスターがなくなっちまったよ。
んで?残ったそいつでとどめのダイレクトアタック決める訳だ」

撃ち抜かれ、弾き飛ばされたカードを拾い上げた朱猟の見遣る先に鎮座する銀河竜。
その視線に釣られるように山辺もタイタニック・ギャラクシーを見た後、笑い声を漏らす。

「ぐはは!仕留めそこなったさ!
セラセニアントの展開効果に発動制限はないからな。
(ヴァレルエンドの耐性を駆使すれば、セラセニアントを無傷で排除は出来る。だが、広範囲のプレデターカードのサーチはデッキが未知数なこいつに許すのはあまりにリスクが高い…。
なら、手札に防御札を温存して置いてもらった方がいいな!)」

デュエルディスクを山辺が操作すると、デッキより1枚のカードが飛び出した。

「ターンを返す以上対策も徹底しないとな!
エンドフェイズに《深淵の獣マグナムート》の効果により、デッキから《深淵の獣バルドレイク》をサーチし、俺はターンエンドだ!!」
手札:0枚→1枚


山辺-LP:4000
手札:1枚


 [ターン3]


「さ~てさてさて、なかなかに厄介な盤面だ。
どうやってお前の表情を歪めてやろうか?
俺のターン、ドロー」
手札:2枚→3枚

朱猟は不敵な笑みを浮かべながらデッキよりカードを引く。
その引いたカードを見た男の顔から、不意に笑顔が消えた。

「ん?なんだ?
まさか巻き返す手がないってんじゃないだろうな!
せっかく熱いデュエルに仕上がって来たんだぜ!?」

「………俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ…」
手札:3枚→2枚

挑発に朱猟は何も返すことなく呆気なく明け渡されたターン。
明らかに様子のおかしい男を訝しみながらも、山辺はやるべきことを遂行する。

「期待は捨てないぜ?
きっとその伏せカードにはとんでもない逆転の一手があるはずだ。
俺の盤面をねじ伏せ、切り札を呼び出し、熱いモンスター同士のバトルが繰り広げられはずだからな!!!
エンドフェイズに、お前の墓地から闇属性《捕食植物ドラゴスタペリア》を除外し、《深淵の獣バルドレイク》を特殊召喚させてもらう!」[守2000]
手札:1枚→0枚

悪魔の様な姿をした黒いドラゴン。
トゲのついた鎖で羽を突きさされ封じ込まれたそれが、静かにフィールドへと降り立つとおどろおどろしいうめき声を放った。


朱猟-LP:2200
手札:2枚


 [ターン4]


「俺のタァァァン!ドロー!」
手札:0枚→1枚

掛け声に反して静かにデッキより排出されたカードを掴むと、勢いよく引き抜く。

「随分とまぁ…デュエルに思い入れがあるみたいじゃねぇか…?」

高慢な口ぶりが薄れ、ぽつぽつと話しかけてくる朱猟。
デュエルへの想い入れを聞かれ、返答せずにいられない山辺は右腕を掲げ声高に叫ぶ。

「ぐはははは!もちろんだ!
俺にとってはデュエルが全て!デュエルする為に生まれてきたのがこの俺だ!
思い入れなどと言うには生ぬるい程に!
この俺の存在、生き方、人生のそのすべてがデュエルの為に在る!

だからこそ!お前が強敵であることを望み、その高い壁を打ち倒す事を俺は望む!
たとえ、お前が逆転の手立てがなくなっていたとしても、俺のデュエルへの想いは変わらない。手加減を加えてもらう事だけは期待しない事だな!!
お前の墓地の《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を除外し、手札から《深淵の獣サロニール》を特殊召喚だ!」[攻2500]
手札:1枚→0枚

悪魔の様な角を生やし翼を広げた獣が、闇より出でだした。
その出現に反応した朱猟が、口元を緩めデュエルディスクを操作する。

「俺様が望んでいるのは、お前の顔が苦痛に歪み、痛みによる絶叫を上げる瞬間だけだ!
手札1枚をコストに速攻魔法発動だ!
《超融合》!!」
手札:2枚→1枚

「《超融合》…!?」

「その反応は効果知ってるって事でいいよな~?
まぁ、一応説明しといてやるよ。俺って優しいな?
クハハ!互いのフィールドから素材を調達し、融合召喚を行う。
そしてぇ?この効果の発動に対してあらゆる効果はチェーンが行えない!!」

朱猟が効果を説明し終えると、山辺のフィールドの2体のヴァレルモンスターが地面にへと溶け出す。

「やはり狙いはこの2体か…」

「お前のフィールドの闇属性《ヴァレルエンド・ドラゴン》と《ヴァレルロード・S・ドラゴン》を素材に融合…。
融合召喚!

レベル8…奴の全てを奪い去れ《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!」[攻2800]

溶けだした2体のドラゴン…多様な色が混ざり合ったそれから何かが這い出てくる。
毒々しく体を光らせた紫色の竜。口から涎を滴らせるそのドラゴンの眼は渇欲に満ち溢れている。

「はは…ぐははは!
やっぱり大バトルってのがないと盛り上がらねぇぜ!」

「お前の期待に応えてやろうってこった!
その上でお前の自信もろとも叩き潰してやるさ?
フィールドのモンスターのみを素材に融合召喚に成功した《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》の効果を発動!
相手フィールドの特殊召喚されたモンスター全ての攻撃力の合計がターン終了時まで自身に加算される!攻撃力の合計は8000!
つまり、攻撃力が8000アップする!!!」

飢えに満ちた毒竜が咆哮を飛ばす。
エネルギーにより作り出された紫の巨大な翼が広げられ、山辺のモンスターのドラゴンの攻撃力を喰らい己の力としていく。

「だが、何故わざわざ俺のターンに呼んだ?
さっきのターンに呼び出せば、その攻撃力アップ効果でそのまま攻撃に転じる事が出来たはずだぞ!」

当然沸きあがる相手のターンに融合した理由。
朱猟は嫌らしい目つきと、不愉快な笑みの元にこう口にした。

「舐めプした方がお前の感じる屈辱が大きくなると思ってなぁ?」

きょとんとした表情を見せた山辺は即座に噴き出し大笑いする。

「ぐはははは!!!
俺が悔しがるだろうからって、わざわざ俺のターンに融合したって?
すげーよ!相手の神経を逆なでる為だけに己の命を懸けるってんだからな!
いいぜ…そういう狂った奴は大好きだ!

だけどな!!
その舐めプで倒されるってのはかませでしかねぇよ!!」

山辺は清々しい笑顔のまま、先程呼び出したサロニールを手に取る。

「《深淵の獣バルドレイク》の効果を発動!
相手が儀式、融合、シンクロ、エクシーズ、リンクモンスターを特殊召喚した場合!
自身以外の光か闇属性…闇属性の《深淵の獣サロニール》をリリースする事で、呼び出されたモンスターを除外する!

破壊ではない…除外だぁぁ!」

バルドレイクが黄色い目を光らせながら奇声を発しながら勢いよく黒い翼を広げる。
体を縛り付けていた鎖とトゲの一部が外れ、サロニールを突き刺し木っ端みじんに砕いたかと思えば、その鎖が毒竜に向けて放たれる。

「あーーー!!!!!!!!!!
あーあーあー!!!!!
やっちまったよ!やっちまったな!
クヒャ…クヒャハハハハハハハ!!!
本気かよ!?マジかよお前!?」

錯乱したように大声をあげ、狂った笑い声をあげながら、朱猟が暴れまわる。

「悪役が舐めプの末に死ぬ…。
何ともそれらしい末路ってやつじゃないか?
なぁ!《スクリームハンター》!!!」

山辺が沸きあがる闘志の向かうまま、右手の人差し指を朱猟に向けて突き付ける。

スターヴ・ヴェノムへとバルドレイクの放った鎖が向かっていく。

そして、飢えた毒竜が木っ端みじんに砕け散った。

「クヒヒ…クヒャハハハハハハハハハハ!!!」

正気を失ったように朱猟はけたたましく笑い声をあげるばかりだ。

「さて…俺の勝利を…!
《ヴィクトリー》を刻もうじゃねぇか!」

右手を強く握り込んだ山辺は目を瞑り、上を見上げた。
そして、右腕を高く掲げ、勝利を手にするべく敵を見据える。


そこには、朱猟以外の何かが居た。


「なんだ…?」

紫色に揺らめく靄の様な何か。
目を凝らしよくよくそれを見つめていくと、それは次第に何かの形を象って行く。

それは、先程除外したはずの毒竜…《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》と瓜二つの姿となった。

「スターヴ…ヴェノムだと……?
あいつはバルドレイクで除外したはず…破壊時の効果が使えるはずもない…。
何故だ…?」

紛れもない毒竜の存在は、山辺の確固たる勝利への道が歪む何かが起こっていた事を意味していた。

「残念な事に、除外される前に破壊されてたんだよなぁ~」

嘲笑うようにそう言いのけた朱猟。
その目は狂気の笑みで輝いていた。

「どういうことだ?
先に破壊されていただと!
一体どうやって!!!」

「俺は《深淵の獣バルドレイク》の効果発動にチェーンして、墓地から《捕食計画》の効果を発動させてもらった」

真っすぐに帰って来た疑問への回答。
しかし、相手の墓地は既に全て確認していたはずなのになぜ…。

「…!!!
そうか…《超融合》の手札コストか…!?」

「お、良く気付いたな?
ま~少し気づくのが遅かったがな~?
融合モンスターが融合召喚時、墓地からこのカードを除外し、フィールドのカード1枚を対象に破壊する効果だ。この効果でバルドレイクの除外の前にスターヴ・ヴェノムを破壊させてもらったっつーことだよ!」

ほんの少しの油断。
その油断を突いた朱猟の墓地効果を前に、自分が敗北を期すこととなってしまう。

「普通のスターヴ・ヴェノムなら、お前のモンスターが全滅するだけで済むんだが…。
生憎、俺のスターヴ・ヴェノムは特別性でな?

《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》が破壊された事で効果を発動!
相手フィールドの特殊召喚されたモンスターをすべて破壊し、破壊されたモンスターの攻撃力の合計分のダメージをてめぇに与える!!!
つまり、タイタニック・ギャラクシーとバルドレイクの合計攻撃力…5500の大ダメージって訳だぁ!!!」

紫の揺らめくスターヴ・ヴェノムの幻影が怪しく光る眼で山辺を見遣る。

「ぐ……」

「オラァ!!
舐めプだと思ってただろ!?そうさ舐めプさ!
でも、お前の敗因は俺の舐めプが原因じゃねぇ!

お・ま・え・が!
ちゃんと手札コストで墓地へ送られたカードをチェックしなかったこと!
目の前の悪役の俺を倒す事に気を取られて、その確認を怠ったこと!!
お前は強敵で悪役な俺に負けるんじゃぁねぇ…自分に負けたんだ。
勝利を追及してるとかほざいてたお前がとんだ凡ミスで!
そのすべてを失うってことだよ!!

かっこよく戦って散りたかったよなぁ~?
強大なモンスターとの戦いで、負けたかったよなぁ~?
でも、ざ~んね~ん!!!
負けた原因は~?お前のプレイングミスでしたとさ!!!チャンチャン!
ク…クク…クヒャーァハハハハハハハハハハハ!!!!!」

思い通りに事が進んだ達成感、徹底的に侮辱する言葉、相手の価値観にまで踏み込んだ思想の凌辱…。
男は高らかに、高慢に、尊大に…山辺をバカにし止まぬ笑い声をあげ続けた。

「ほらぁ!主人公様!
感想を聞かせてくれよ!!
自分のミスで負けちまった気分を!!!
自分がこの物語の主人公じゃなかったって、思い知らされた今の想いをよ!!!!!」

不愉快な男の眼は、敗北者の恥じと屈辱に塗れた顔を覗き込むべく、輝きを増す。



「ぐははははは!!!」



「あ?」

しかし、男が望んだ顔を目の前の男はしていなかった。
晴れやかで清々しく…屈辱を与えられた人間の顔とはお世辞にも言えるものではない。

「なんだぁ…何がおかしい…?
お前はこんな負け方するんだぜ。
笑ってる場合か?
ほら、聴かせてくれよ、魅せてくれよ。お前の悲鳴、苦悶の顔をよぉぉ!!?」

「確かに悔しいな!まさか、ここまで来て自分のプレミで負けるってんだからな!
ぐはは!だが、そこまで導いたお前の手腕は見事だったと言わざるを得ねえ!」

「は……あぁ…???」

朱猟は嬉々として悦に浸った表情から一変し、開いた口をふさぐことが出来ない困惑の表情にへと成り果てる。
口角をあげにやりと微笑む山辺は、己の内に宿る熱い想いを思うままに表現した。

「これだよ!!!
ただのカードゲームじゃねぇ!盤外をも活用した心理戦とデュエルとが融合したこの高度な読み合い!
デュエルにデュエル以外の思想が練り込まれ、外の世界では実現しようのない、アニメや漫画の世界を超えた新たなデュエルの形!!!
命がかかってるからこそ、生まれる熱い魂のぶつかり合い!!!
デュエル以外に価値を見出すからこそ生まれる人間ドラマ!!!
せっかくならもっともっと楽しみたかったが!
叶わないと思ってたデュエルで散れるなら本望ってものさ!」

先程とは立場が逆転し、敗北を自覚したはずの山辺はキラキラとした目で満足げに語り尽くす。
山辺が口を開き、言葉を発すれば発する程に、朱猟の眉間にしわが寄って行き段々と怒りの感情が表出する。

「てめぇ…ふざけてんのか?
あぁ?何訳分からねぇこと言ってやがる。
お前は俺様を楽します為の玩具に過ぎねんだ。
泣けよ、喚けよ、悲鳴は?怒号は?
どこだよ?足りねぇだろ?おいゴラ。
クソ野郎がぁぁぁ!!!」

狂気の笑みを漏らしていた男から怒りが飛び出すほどに、山辺は気分が高まるのを感じる。

「どうやら…俺は無様に負けるだけって事でもないみたいだな?」

「あぁ…?」

「そうだろ!?
俺はこのデュエルに満足している!
だが、お前はデュエルに満足していないようだ!
勝ったのに!目的を達したのに!リスクを負ってでも、成し得たかった俺のプレミによる敗北を叩きつけたってのに、お前は全然喜んでいない。

これじゃぁデュエルには負けたが、実質俺の勝ちってことかもしれねぇなぁ!!!
ぐはははは!!!」

豪快な笑い声が閉鎖された通路の中へ響き渡る。
それが朱猟に届いた瞬間、男の顔から喜びも怒りも、全ての感情が消え去った。
その目に宿るのは純然たる殺意のみ。
平和に暮らす人間には、到底出来ない人殺しの眼が山辺を捉えた。

「お!
それだぜ、その人間じゃない目!
日常とはかけ離れた…。
デュエルで死ぬ相手に相応しい目だ!

おら、来いよ?」

残された右腕。
はち切れんばかりの筋肉を誇示する男のまっすぐに突き立てられた中指が、人殺しに指し示された。

「真っ当に物事を考える脳みそも持ち合わせてねぇのか猿が。
クソ面白くねぇ…。
お前の思い描いてた理想のデュエル人生はこれで終わり。
後は真っ暗な闇の中を一生さ迷ってろよ筋肉ダルマ」

紫毒の竜の幻影がその尾を大きく振るった。
それは山辺のフィールドのモンスターを軒並み弾き飛ばすと、腐食を伴った衝撃波が山辺に向け勢いよく放たれた。

「…ぐぁあ!!!」

山辺LP4000→0


筋骨隆々の体が意図も容易く吹き飛ばされる。
彼の背後に位置していたシャッターにへと叩きつけられると、内蔵が勢いよく外界へと解き放たれた。


「(あぁ…これが死ぬ…って感じか…。
さすがに…いてぇ…な……)」


体は指先1つまで全く動かせない。
目に映るのは、血の海へとたくさん広がる己の臓物。
そして、溶け落ちていく自分の体だったもの。
段々と遠のいていく意識。

目の光が失われる直前、近づいてきた黒服の男より上げられた足。
靴の裏が自分の顔に向かって来ている。


その光景が、彼が最期に見た景色となった…。


グシャ

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