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HOME > 遊戯王SS一覧 > Report#43「拒絶」

Report#43「拒絶」 作:ランペル


今、目の前に居る人。
その人はやつれ、右足が義足となってしまってはいるが、間違いなく自分の父親なのだ。
その父親が自分を見遣る目に宿ってしまったのは殺意…。

「お父さん…?」

「そ、そうだよ…私だよ…?
お父さん…梨沙だよ…?
病気は…どうしたの?
なんでこんな所に居るの?
その右足は…なんで?」

父親から一度も向けられ事のない冷たい視線。
困惑と恐怖心から言葉が震える。あれだけ会いたかった父親が別人のような風貌になり、優しい父親からは考えられないような理解不能の発言…。
信じられない。だが、何かがあったはずなのだ。
それを聞かなければいけない。

父親と似通った風貌の男は深くため息を吐くと嫌味ったらしく口を開いた。

「あぁ…またか…。
瑛梨(えり)の次は梨沙か?そうやってそれらしいことを吹き込んだ偽者を連れてきて私の心を乱そうと?反吐が出る…。
あろうことか私の娘を騙るなど………」

「ち、違う!
お父さん!?私だよ…分からないの?」

「うるさい…。
あなたの事なんか知らない。私の知っている梨沙はあなたのような人ではない。
それ以上口を開くのはもうやめてくれないか…。
でないと、私はあなたを必要以上に痛めつけることになってしまうからね…」

疎ましく、不愉快そうにそう言い放ちながらこちらを睨みつける父親の姿からは、自分の知っている優しい父親の姿はどこにも見られなかった。

「なん…で……?」

ひどくショックだった。父親がこの環境に身を置いて、人を傷つけていたかもしれない事実もそうだが、何よりも信頼している父親から存在を否定され拒絶されたことが心に突き刺さってしまう。
突き放されても、聞かなければならない…聞かずにはいられない。
何故病気で寝たきりのはずの父親がここに居るのか、どうして自分を見て偽物と呼ぶのか…。

「お父さん…。
私…知らない間にここに来ててね?少し記憶が曖昧で…なんでここに来たのかも分からなかったの。でも、お父さんが病気だったこと思い出して…早く帰らなきゃって………。
病気は…大丈夫なの?右足は、どうしちゃったの?
私、今混乱してて…。もしかしたら、お父さんと喧嘩しちゃったことも…覚えてないかもしれなくて…。
だから…

「だまれっ!!!!!」

フロア内に怒号が響き渡った。
父親の声で怒鳴られ体が竦む。
戸惑いながら少しずつ繋げていった言葉は彼に届くことなく、彼はデュエルディスクを構えなおした。

「これ以上、娘を騙るな。
お前の知っている父親は私ではない。
デュエルだろう?戯言に付き合うつもりはない」

「…お父…さん」

今にも目から涙が溢れてしまいそうだった。
何故父親とデュエルで殺し合いをするようなことになってしまうのか?
何故父親は自分の事を憶えていないような事を言うのか?
抜けている記憶の中で父親と何かあったのか?
何も思い出せない…。それが苦しくて仕方がない。


 「デュエル」  LP:8000
 「………」   LP:8000


ピー
「先行は裏野 晃啓(あきひろ)様、後攻は裏野 梨沙様になります。」


 [ターン1]


「…名前までご丁寧に変えて来てる訳ですか。
不愉快極まりない…」

ピー
「カスタム《手札固定》により裏野 晃啓様の初期手札に指定されたカード1枚が固定となります。」

アナウンスと共に父親の左腕に備えられたデュエルディスクのデッキがシャッフルされる。それが終わると父親が5枚のカードを手札にへと引き込んだ。

「(…今、お父さんとは話が出来ない。私の事を偽者と思い込んでる…。
このまま私がデュエルに負けちゃったら穂香ちゃんの身が危ない…。
デュエルは…しないといけない。お父さんと………)」

奥歯をぐっと噛み締め、苦しい事も奥へと押し込む。
ゆっくりとデッキから5枚のカードを引く。

「(穂香ちゃんを…守らないと…!)」

「チューナーモンスター《B・F-毒針のニードル》を召喚。
召喚時効果により、同名以外のB・F1体を手札に加える事が出来ます。
私はデッキから《B・F-必中のピン》をサーチ」[攻400]
手札:5枚→4枚→5枚

フィールドへと騒々しい羽音と共に蜂型のモンスターが現れる。その下腹部は透けており針から注入するであろう液体が揺れている。

「蜂のモンスター…。
(私の知らないモンスターだけど、やっぱりお父さんが使うのは昆虫族デッキ…)」

「自分フィールドに昆虫族が存在する場合、《B・F-必中のピン》を特殊召喚」[守300]
手札:5枚→4枚

小さな羽音と共に口元にトゲを付けたモンスターがフィールドにへと現れる。

「必中のピンの効果を発動。自分メインフェイズに必中のピンの数×200のダメージをあなたに与えます。ダメージは200」

効果が発動されると必中のピンが素早い動きで移動する。

「いたっ…」

梨沙LP:8000→7800


視界の端まで移動されると、口元のトゲを飛ばして来る。
トゲが首筋に刺さると一瞬痛みが走ったと同時に…視界が揺らいだ。

「えっ…?」

あまりの視界のぐらつきにバランスを崩し、ふらふらと地面に手をつける。

「なに…200ダメージで…」

目元を擦り再び前を向くと景色は何の変化もなくなっていた。

「大丈夫…。
(たった200ダメージでふらつくなんて…体が相当弱ってるのかな……)」

体を起こし向き直っている間に、相手のデュエルディスクから2体のモンスターが手に取られている。

「毒針のニードルと必中のピンの2体をリンクマーカーにセット。
リンク召喚。

群がれ、LINK2《騎甲虫アームド・ホーン》」[攻1000]

鎧をまとったカブトムシのモンスターが現れると、その上へ手綱を取る様に4つ手の昆虫兵が騎乗する。

「《一時休戦》発動。互いにデッキから1枚をドローして、あなたのターンが終わるまでお互いに受けるダメージが0になります」
手札:4枚→4枚

梨沙手札:5枚→6枚

「ダメージを0にして手札交換するカード…」

「アームド・ホーンの効果発動。昆虫族1体の召喚が行えます。
《電子光虫-センチビット》を召喚」[攻1500]
手札:4枚→3枚

「…電子光虫!」

フィールドへと体を青い電子部品で繋がれたムカデ型のモンスターがうねうねと姿を現わす。
そのモンスターに梨沙は見覚えがあった。

「(電子光虫…お父さんが使ってたモンスターだ…。
確か、エクシーズテーマだったはず…)」

記憶の中の父親が使用していたテーマ、電子光虫。
電子備品と昆虫が合わさったようなデザインのそのテーマは、プログラマーであり昆虫が大好きな父親そのものを現わすようなテーマだった。
使うカードからもかつての父親の片鱗を感じ取れ、目頭が熱くなる。
目の前に居るのが、父親で。その父親が今の自分を拒絶し、デュエルに勤しんでいるのが逃れられない真実だという事を突き付けられる…。

センチビットを召喚すると父親は即座に手札の1枚を取り出す。

「自分フィールドに攻撃表示の昆虫族が存在する時、手札の《夢蝉スイミンミン》を特殊召喚できます。
さらに、特殊召喚時センチビットを対象に表示形式を変更します」[守1300]
手札:3枚→2枚
《電子光虫-センチビット》[守500]

灰色の体をした大きな蝉の幼虫のモンスターがフィールドへと現れるとみんみんと鳴き声を漏らし背中がひび割れる。そこから煙がモンスターゾーンを漂う。
それに反応したセンチビットが、電子の胴をぐるぐると滑らかに巻き始めた。

「攻撃表示のセンチビットが守備表示になったことで、効果を発動。
デッキから昆虫族、レベル3モンスターを守備表示で特殊召喚できます」

丸まっていた体を突如広げたセンチビットから青い電撃が父親のデュエルディスクへと放たれた。電撃が流れたデュエルディスクは、デッキから1枚のカードを飛び出させる。

「私は、《騎甲虫スカウト・バギー》を特殊召喚」[守300]

テントウムシ型のモンスターが飛来し、それに騎乗した昆虫兵が手に持った槍を振るう。

「スカウト・バギーが召喚、特殊召喚に成功すれば同名モンスターを呼びよせることができます。
デッキから2体目のスカウト・バギーを特殊召喚」[守300]

スカウト・バギーが槍を持たない手でハンドサインを示し、テントウムシのモンスターが翅を擦らせる。すると、新たな昆虫騎兵が飛来した。

「モンスターが次々と…」

とどまる事のないモンスター達の展開。まるで昆虫がわらわらと涌き出るように様々な昆虫族がフィールドへ並び立つ。

「レベル3の《電子光虫-センチビット》と《夢蝉スイミンミン》でオーバーレイネットワークを構築。
エクシーズ召喚。

群がれ、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》」[攻1200]

真っ黒な体の大きな蝉のモンスターが、みんみんと不協和音を奏でながらフィールドにへと降り立った。

「エクシーズモンスター…」

電子光虫ではない昆虫族エクシーズモンスターがフィールドに現れた事で、父親のデッキは既に自分が知っているデッキではないことを改めて悟る。

「さらに私は、《騎甲虫スカウト・バギー》2体でリンクマーカーをセット。
リンク召喚。

群がれ、LINK2《甲虫装機 ピコファレーナ》」[攻1000]

桃色の鱗粉が舞う。鱗粉の中より桃色の綺麗な翅が広がると蛾を模した姿をした女性のモンスターがフィールドにへと降り立った。

「リンク召喚に成功したことで、手札の《パラサイト・フュージョナー》を捨てて、《騎甲虫アームド・ホーン》を対象に効果を発動します」
手札:2枚→1枚

ピコファレーナが手に持ったリボンのようなピンクの鞭を背後まで伸ばしたかと思うと、先端がアームド・ホーンにへと届くように振るった。
すると、鎧をまとったカブトムシに鈴虫の様な昆虫が張り付いておりりんりんと心地よい音色を響かせる。

「デッキより昆虫族モンスターを対象のモンスターへ、攻撃力500アップの装備カード扱いとして装備ができます。これにより、アームド・ホーンの攻撃力は500アップ」[攻1500]

「(わざわざ攻撃力を500上げる為に手札1枚を捨てた…?
でも、モンスターを装備させる効果には何か他の狙いもあるはず)」

一見割に合わないその強化効果の狙いを探っていると、ピコファレーナが更なる効果を発動する。

「ピコファレーナの第2の効果。墓地の昆虫族3体、《B・F-毒針のニードル》《B・F-必中のピン》《騎甲虫スカウト・バギー》をデッキに戻す事で、私はデッキから1枚ドローができます」
手札:1枚→2枚

ピコファレーナが床に突如現れた穴へと鞭を放つ。高らかに手を振り上げると、穴から3体の昆虫モンスターが鞭に捕らわれ掬い取られる。
3体のモンスターはデッキへと戻っていき、シャッフルされた後、父親の手札が1枚増えた。

「《騎甲虫アームド・ホーン》と《甲虫装機 ピコファレーナ》の2体をリンクマーカーにセット。
リンク召喚」

「リンクモンスター同士のリンク召喚…!?
大型モンスターが来る…!」

予感は的中し、リンク召喚が成功すると同時にフロア内へと地響きが起こる。

「群がれ、LINK4《大騎甲虫インヴィンシブル・アトラス》」[攻3000]

父親の背後の空中より現れたのは巨大な青く光る3本角。それが近づいてくる度に起こる地響きはそのモンスターの巨大さを容易に想像させた。
全容を見せたリンクモンスターは背中に要塞を背負った巨大なカブトムシ。鋼の鎧を身に纏ったそれは自分を見る事すらせずそこに鎮座した。
その存在感に圧倒され、一瞬息が出来なくなった。

「(こんな大きなモンスターの攻撃…。
考えただけで体が震えちゃう…)」

その巨大なモンスターを前にして、息がし辛くなり、一度呼吸を整えるべく深呼吸する。

「フィールドから墓地へと送られた《共振虫》の効果を発動。
デッキからレベル5以上の昆虫族、《騎甲虫スティンギー・ランス》を手札に加えます」
手札:2枚→3枚

フィールドから消えたはずの鈴虫が響かせる音色に反応するように、父親はデッキから飛び出したカードを手札に加えた。

「さっき装備させたのはサーチ効果を使うためって事だね…」

「私はカードを1枚セット。
これでターンを終了します」
手札:3枚→2枚



晃啓-LP:8000
手札:2枚


 [ターン2]


「行くよ…お父さん…。
私も、穂香ちゃんを守らなきゃいけない。
デュエルに負ける訳には行かないの!ドロー!」
手札:6枚→7枚

ドローしたカードの向こう側で父親が鋭い目つきでこちらを睨んでいるのが感じられた。

「(お父さんを傷つけたくなんてない…。
負けたら穂香ちゃんに何をされるか分からない…)」

父親を傷つけてしまうかもしれないデュエル。意識していたとしても、自然とデュエルの手が止まりかねない。
だが、自分を偽者と疑わない今の父親に負ければ穂香ちゃんの身の安全は保障されない。負ける事は許されない。

「(もしかしたら、デュエルを通じてお父さんに私が梨沙だって信じてもらえるかもしれないから…。
今やれることを精一杯やるだけ…!)」

強い意志を持って、手札からモンスターを召喚する。

「手札から《魔界発現世行きデスガイド》を召喚するよ!
その効果で、デッキからレベル3の悪魔族を特殊召喚できる。
私はデッキから…」[攻1000]
手札:7枚→6枚

「召喚時効果にチェーンです。
《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》はフィールドでモンスター効果が発動された時、オーバーレイユニットを1つ使い、効果を発動したデスガイドを対象にその効果を無効にできます」

「無効効果…!?」

黒いバスから降りてきた赤髪のデスガイドがホイッスルを吹く。その瞬間、ローカスト・キングが複数の蝉の鳴き声が混ざり合ったかのような独特の鳴き声を響かせ、ホイッスルの音をかき消す。

「その後、フィールドの昆虫族である自身の表示形式を変更します」[守2500]

「それで、低い攻撃力なのに攻撃表示で呼んでたんだね…」

「ローカスト・キングの表示形式が変わったことでさらに効果を発動。
墓地から《騎甲虫スカウト・バギー》を守備表示で特殊召喚」[守300]

鳴き声が終わるとほぼ同時にテントウムシに乗ったスカウト・バギーが飛来する。

「そのモンスターは…」

「特殊召喚時同名モンスターを呼びよせる。
墓地からスカウト・バギーを特殊召喚します」[守300]

先程と同様のサインを送ると、統率の取れた昆虫兵がフィールドにへ再び並ぶ。

「まだだよ…。
《手札抹殺》を発動!お互いに手札を全て捨てて、捨てた数だけデッキからカードをドローだよ。私は手札5枚を捨てて5枚ドロー!」
手札:6枚→5枚→5枚

「…私の手札は2枚。
2枚ドローします」
晃啓手札:2枚→2枚

「フィールド魔法《ゼアル・フィールド》発動!
エクシーズモンスターを特殊召喚した時、そのモンスターのオーバーレイユニットをEXデッキか墓地から補充できる効果だよ」

「エクシーズ…?」

怪訝な表情を見せる父親ににっこりと笑顔を見せて手札のカードを発動する。

「そうだよ!お父さんとお母さんから貰った私の大好きなデッキ!
《ゴーストリック・ショット》発動!墓地の《ゴーストリック・スケルトン》を特殊召喚!」[守1100]
手札:4枚→3枚

「ゴーストリックだと…!?」

スケルトンがフィールドに鎌を振るいながら出現する。
驚き声を上げた父親の姿を見て、自分が驚かせたと勘違いしたスケルトンがカタカタと笑う。

「バカな…デッキまで……」

「偽者じゃないってことを、お父さんにデュエルで教えてあげるから!
レベル3の《魔界発現世行きデスガイド》と《ゴーストリック・スケルトン》の2体でオーバーレイネットワークを構築!
エクシーズ召喚!

来て、ランク3《ゴーストリック・アルカード》!」[攻1800]

内側が赤い黒マントを靡かせながらフィールドにアルカードが降り立つ。

「ゴーストリック…アルカード……」

「この瞬間、《ゼアル・フィールド》の効果を発動するね。
アルカードを対象に、EXデッキから《ゴーストリック・デュラハン》をオーバーレイユニットに追加!」

フィールドに黄色い光の玉が漂いアルカードがそれをマントで隠し、マントを広げると3匹のコウモリがアルカードの周囲を飛び始める。

「アルカードの効果を発動!オーバーレイユニットを1つ使って、お父さんのセットしたカード1枚を破壊しちゃうよ!
シャドウ・プランク!」

アルカードがセットカードに指示を飛ばすと、周囲を飛んでいたコウモリがカードの元まで飛んで行く。コウモリがカードに触れるとセットカードを黒い影が覆い始める。

「…チェーンして《威嚇する咆哮》発動です。
このターン、あなたは攻撃宣言が行えなくなった…」

影が覆いきる直前にセットカードが発動され、影は零れ落ちるように地面にへと引いていく。

「どっちにしろ、《一時休戦》でお父さんはダメージを受けないからね。
効果を使った事で墓地に送られた《ゴーストリック・デュラハン》の効果を発動だよ。
墓地のゴーストリックカードである《ゴーストリック・パニック》を手札にへと加える!
トリック・リバイバル!」
手札:3枚→4枚

地面より青白い人魂が現れると自分の手札まで飛んできて1枚のカードとなった。

「《手札抹殺》の効果で捨てたカードをデュラハンとアルカードで回収していく…か……」

ぼそぼそと呟きながら考え事をしている父親の姿から、一瞬昔見慣れた父親の姿が見えた気がした。

「(お父さん…)
私はアルカードを素材にオーバーレイネットワークを再構築。
エクシーズチェンジ!

来て、ランク4《ゴーストリックの駄天使》!」[守2500]

アルカードがコウモリ達と共にエクシーズ召喚の渦にへと飲み込まれる。
爆発が巻き起こり、フィールドへ継ぎ接ぎのハートが現れたかと思うとその上へ黒いドレスに桃色の髪を靡かせた少女、《ゴーストリックの駄天使》が現れた。

「駄…天使…」

「私のデッキのエースモンスター!
お父さんと遊んだ時も、何回も呼んだよね?」

必死にデュエルをし、体からは汗が流れ落ちる。
今は自分のデュエルを、父親へと伝えなければいけない。

「………」

眉を下げた父親はすぐに視線をこちらから逸らし口を噤んだ。

「…駄天使の効果を使うよ。
オーバーレイユニットを1使って、デッキからゴーストリック魔法、罠カード。
《ゴーストリック・オア・トリート》を手札に加える!
トリック・プレゼント!」
手札:4枚→5枚

駄天使が周囲を漂う小さな継ぎ接ぎのハートを手元まで手繰り寄せ、それを指先で高速回転させる。回転していく内に継ぎ接ぎの縫い目が解かれていき、ハートの中からカードが現れた。

「ありがとう!
さらに、墓地へ送られたアルカードの効果で墓地の《ゴーストリック・マリー》を手札に持って来るよ!
2回目のトリック・リバイバル!」
手札:5枚→6枚

駄天使から投げられたカードを手札にへと加えた後、地面にへと右手を翳す。
すると、影が右手に集約していきそれは1枚のカードを形成した。

「まだまだ行くからね!
墓地の《ゴーストリック・リフォーム》を除外して効果発動。
駄天使を対象に別のゴーストリックを重ねてエクシーズ召喚が出来るよ!
私は《ゴーストリックの駄天使》を素材にオーバーレイネットワークを再構築!
ゴーストリックチェンジ!

来て、ランク1《ゴーストリック・デュラハン》!」[守0]

カボチャと布のお化け、ランタンとスペクターが兎模様の描かれた水色の布を駄天使にへとかける。
しばらくすると、布の中がもぞもぞと動き出したかと思うと、布が放り投げられ馬に乗った首なし騎士…《ゴーストリック・デュラハン》が馬の嘶きと共に姿を現わした。

「さらに!デュラハンを素材にもう一度オーバーレイネットワークを再構築だよ!
エクシーズチェンジ!

来て、2体目の《ゴーストリックの駄天使》!」[守2500]

デュラハンが手に持つ鎧の頭部を、自身の首にへとはめ込む。
そして、馬の上で立ち上がると頭の鎧を外す。するとそこにはデュラハンの鎧を着た駄天使が姿を見せた。

「駄天使の効果を発動!
さっきと同じで素材を1つ使って、今度は《ゴーストリック・アウト》を手札に加える!」
手札:6枚→7枚

駄天使はくるりと横に一回転すると、着ていた鎧がいつものドレス衣装に変身する。乗っている馬に一声かけると飛び上がり、ボンっと出現した継ぎ接ぎのハートの上に着地し、馬が嘶きながら走り去っていく。

「墓地へ送られた《ゴーストリック・デュラハン》の効果で、《ゴーストリック・ショット》を手札に戻すよ!」
手札:7枚→8枚

走り去ったはずのデュラハンの馬がデュラハンを乗せて、自分の目の前を走り抜ける。
颯爽と走る抜けたかと思うとふわりと1枚のカードを落ちてくる。それを掴み手札にへと加える。

「カードを4枚セットして…。
これで最後!フィールド魔法貼り替え《ゴーストリック・ハウス》発動!」
手札:8枚→4枚→3枚

フィールド魔法を発動すると、自分の背後にゴーストリックのお屋敷が出現する。

出現した屋敷を父親が真っすぐ見つめている。

「どうかな!みんなとってもかわいいでしょ?
ここでデュエルして、お父さんに話したいなって思えた唯一の事なの!
みんなが実際に動いてて、それで一生懸命みんなを驚かそうと、いろいろな事を見せてくれるの!」

必死に訴えかけた。いつも以上に明るく、昔父親に見せたようなデュエルをしたつもりだ。息切れし、肩で呼吸をする。
今の父親に自分が梨沙であると、本当の娘であると伝える為に、デュエルを通して訴え続ける。

「お父さんがお母さんにプレゼントして、それを私が使ってるの。
偽者が…裏野 梨沙がゴーストリックを使うきっかけになった思い出を知ってると思う…?」

「………はは」

乾いた笑いが父親から漏れた。

「あり得る訳ないんですよ。娘が…梨沙が…こんな所に居るなんて…。
あるはずがない…」

段々と声がか細くなっていく父親に励ます様に大きく明るく伝えた。

「私も信じられないよ!外に出るまで絶対会えないと思ってたお父さんに会えた!
いろいろ辛い事もあったけど…一番会いたい人に会えたんだよ。
お父さんにもいろいろあったと思うけど…協力して…一緒にこんな所から出よ?
お父さん…!」

自分では明るくにこやかに話しているつもりだった。
しかし、実際は涙の混ざった涙声で父親に訴えかけていた。
ようやく会えた。今すぐにでも抱きつきたい。
どれだけ心細かったか、辛かったか、恥も捨てて泣きながら全部ぶちまけたかった。


「あってはいけないんだ…!!!」


まだ…それは叶いそうにない。

「おとう…さん…?」

「私がどれだけの時間を過ごしたかなどもう覚えていない。
梨沙に会う事だけを考えて生き抜いてきた。その為なら何でもした。
人を殺した。男も女の人も殺した。老人から子供だって殺した。
扱いやすいからと子供を利用した。その命を脅し手駒とした。
これだけの事を積み重ねて外に出る事を願ったのに…?
なんで、外に出てないのに梨沙が会いに来てくれる…?
おかしいだろ?なんで突然会いに来るんだ?もっと早く来てくれれば、父さんはこんなに人の道を外れなくて済んでいるんだ。
あり得る訳ないんだよ。
梨沙がここに居る事なんて。あり得ちゃいけない。
信じたら裏切られるんだ。そう言う場所なんだ。
あなたが自分を梨沙と言おうと、ゴーストリックを使おうと、私との思い出を語ろうとも、それは全部刷り込まれた嘘だ。嘘でないといけない。

梨沙に父親が人殺しを超えた屑の中の屑だって知られてしまうだろう?
一目会えたらそれでよかったんだ。外に出て一目、元気な姿を見て、少しだけ話して…そうしたら後はこの命を断てばいい。
父親が実際は人殺ししてようが、梨沙の中では優しい父親のままでいて欲しい。
梨沙に会うために人を殺したなんて知られたくない。
あの子は優しい子だから、自分のせいで父親が人を殺したなんて知ったら、どれだけ傷つくか。

だから、あなたは梨沙じゃない。梨沙ではいけない。
私は梨沙に会わないといけない。
外で、外の世界で平和に暮らしている梨沙に会わないといけない」

機械の様に父親は言葉を排出し続ける。
疑惑と後悔、救いを求めるその声の全てが長い年月を経て凝縮され狂気の域に達してしまっていた。目の前に現れた娘の存在を受け入れる事が出来ないでいる。
きっと頭で理解してしまったのだろう。
娘かもしれない。
希望の光が見えてしまった。

しかし、過去に積み重ねた絶望がその光すら闇に染めてしまう。

「おとう…さん………」

目の前に居る父親が、自分を梨沙と認識した上で拒絶していることが分かってしまった。
胸が張り裂けそうだ。大好きな愛しい父親。
男手一つで自分を育ててくれた父親。
いつも優しく自分の相談を聞いてくれた父親。
危ない時にはしっかりと怒ってくれた父親。
頼れる尊敬する父親が、たくさんの人を殺め、自分の存在を否定している。

「あなたは梨沙じゃない。梨沙じゃない。梨沙じゃない。梨沙じゃない。梨沙じゃない。梨沙じゃない。梨沙じゃない。梨沙じゃない。

でないと…」

視界が歪んだ。
涙で朧げになっていた視界がそのままぐるぐると回転するように歪んでいく。

「え…あ…」

体から力が抜けていく。脱力していく体は痺れるような感覚がし、思うように動かせなくなっていくことに耐えられず膝をつく。
自分の身に何が起こったのか理解も出来ない。

「(なに…?これ…?)」

デュエル中に感じていた体の不調。
吹き出る汗、呼吸が段々とし辛くなっていく感覚。
揺らぐ視界、力が入りづらくなっていく体。
これらは、今までのデュエルで蓄積されたダメージの症状ではないと直感的に悟った。

「(あの時からだ…200ダメージを受けた…あの時から…)」

虫に刺されたようにダメージを受けた《B・F-必中のピン》の効果ダメージ。
あの後視界が歪み、そこから体に不調が徐々に現れ始めた。

「お父さん…お父さん…。
苦しいよ…助けて…お願い……!」

意図せずして口から父親に助けを求めていた。
助けを求めれば救いの手を差し出してくれた父親。
苦しい時には父親が居てくれるからと安心し、勇気を持ったことだってあった。

動かしづらい体をなんとか動かし、力を振り絞り父親の方へと顔を向けた。


「でないと、父親が娘を殺すことになってしまうだろ…?」


外に出たい。その唯一にして一番の原動力。
その根元が…ぽっきりと折れてしまった…。

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